アイドルの秘密は溺愛のあとで

アイドルの秘密は溺愛のあとで

last updateLast Updated : 2025-03-10
By:  またり鈴春Updated just now
Language: Japanese
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Synopsis

溺愛

純愛

ハッピーエンド

ツンデレ

アイドル

一途

一目惚れ

三角関係

秘密恋愛

家が焼けて住む場所がなくなった私・夢見萌々を拾ってくれた人は、顔よしスタイルよしの麗有皇羽さん。「私に手を出さない約束」のもと、皇羽さんと同居を開始する。 だけど信じられない事が判明する。なんと皇羽さんは、今をときめく人気アイドルと瓜二つだった!皇羽さんは「俺はアイドルじゃない」と言うけど、ソックリ過ぎて信じられない。 とある理由があって、私はアイドルが大嫌い。だから「アイドルかもしれない皇羽さんと一緒にいられない」と言ったけど、皇羽さんは絶対に私を離さなかった。 どうして皇羽さんが、出会ったばかりの私を深く想ってくれるのか。皇羽さんからたくさんの愛をもらった後、私は衝撃の事実を知る。

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第1話

パチパチと燃え盛る炎に包まれる、私のアパート。季節は一月。冬特有の乾いた空気と、たまに吹き抜ける突風。それにより……「格安木造のアパートが全焼とは……」火の勢いってスゴイ。何がスゴイって、炎がどんどん大きくなっていって、あっという間にアパートを飲み込んでしまう所だ。「出て行ってて良かったね、お母さん……」誤解がないように言うと「ちょっと用事で留守中」とか、「少し買い物に出ている」とかではなく。お母さんは永遠に出て行った。幼い頃に両親が離婚して以来、母に育てられた私。だけど今朝、母は書き置き一枚で、アパートから姿を消していた。『冷蔵庫におにぎりあるからね』そのおにぎりも、アパートが燃えた今は炭になってるわけだけど。「おにぎり、食べたかったなぁ……」栗色ロングの私の髪に、空中を舞う灰が絡まる。黒色の斑点が、髪に浮かび上がった。「はぁ、今日のお風呂が大変だよ。髪が長いと、ただでさえ洗うの面倒なのに」言いながら、燃え上がる自分の部屋を見つめる。そういえば、私の部屋が燃えているということは、お風呂もないってことだよね?寝るところも無いんだよね?どこかのお焚き上げみたいに眺めていたけど、燃えているのは、私の全財産だ。あの炎の中に、(微々たる額とはいえ)私の全財産があるよね?お金だけじゃなくて、学校のカバンや制服も何もかも全部だ。「や、ヤバいかも……!」今さらになって、自分の身に起きた〝最悪の出来事〟を自覚する。ヤバい、本当にヤバい。何も手元に残らない!今日は土曜日。起きた私は意味もなく、ダルダルの部屋着を着て外を散歩していた。だから今、私の手の中には、アパートの鍵が一つあるだけ。「じゃあお風呂とか言う前に、下着も燃えた……?」その時、消防士さんに「下がって!」と注意される。「わ……!!」慌てた私がコケそうになった、 その時――ガシッ「あっぶねぇな」あれ?誰かにギュッてされている感覚。いま私、誰かに包み込まれている?大きな手が、私の腰を掴んでいる。いとも簡単に引き寄せ、倒れそうだった私を真っ直ぐ立たせた。「あ、ありがとうございます……」 「ん、気をつけろよ」 「は……い!?」ペコリとお辞儀をした後。ビックリしすぎて、声が裏返っちゃった。だって!「(なんと言う顔の小ささ!ううん、服が大きいだけ? ひょっとして来年以降...

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18 Chapters
第1話
パチパチと燃え盛る炎に包まれる、私のアパート。季節は一月。冬特有の乾いた空気と、たまに吹き抜ける突風。それにより……「格安木造のアパートが全焼とは……」火の勢いってスゴイ。何がスゴイって、炎がどんどん大きくなっていって、あっという間にアパートを飲み込んでしまう所だ。「出て行ってて良かったね、お母さん……」誤解がないように言うと「ちょっと用事で留守中」とか、「少し買い物に出ている」とかではなく。お母さんは永遠に出て行った。幼い頃に両親が離婚して以来、母に育てられた私。だけど今朝、母は書き置き一枚で、アパートから姿を消していた。『冷蔵庫におにぎりあるからね』そのおにぎりも、アパートが燃えた今は炭になってるわけだけど。「おにぎり、食べたかったなぁ……」栗色ロングの私の髪に、空中を舞う灰が絡まる。黒色の斑点が、髪に浮かび上がった。「はぁ、今日のお風呂が大変だよ。髪が長いと、ただでさえ洗うの面倒なのに」言いながら、燃え上がる自分の部屋を見つめる。そういえば、私の部屋が燃えているということは、お風呂もないってことだよね?寝るところも無いんだよね?どこかのお焚き上げみたいに眺めていたけど、燃えているのは、私の全財産だ。あの炎の中に、(微々たる額とはいえ)私の全財産があるよね?お金だけじゃなくて、学校のカバンや制服も何もかも全部だ。「や、ヤバいかも……!」今さらになって、自分の身に起きた〝最悪の出来事〟を自覚する。ヤバい、本当にヤバい。何も手元に残らない!今日は土曜日。起きた私は意味もなく、ダルダルの部屋着を着て外を散歩していた。だから今、私の手の中には、アパートの鍵が一つあるだけ。「じゃあお風呂とか言う前に、下着も燃えた……?」その時、消防士さんに「下がって!」と注意される。「わ……!!」慌てた私がコケそうになった、 その時――ガシッ「あっぶねぇな」あれ?誰かにギュッてされている感覚。いま私、誰かに包み込まれている?大きな手が、私の腰を掴んでいる。いとも簡単に引き寄せ、倒れそうだった私を真っ直ぐ立たせた。「あ、ありがとうございます……」 「ん、気をつけろよ」 「は……い!?」ペコリとお辞儀をした後。ビックリしすぎて、声が裏返っちゃった。だって!「(なんと言う顔の小ささ!ううん、服が大きいだけ? ひょっとして来年以降
last updateLast Updated : 2025-02-07
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第2話
記憶を手繰り寄せている私に、イケメンが「おい」と話しかける。「もしかして、この家、お前の?」 「はい、私の住んでいた部屋があるアパートです」 「げ、マジかよ……」男の人は顔を歪めて、まるで自分に起きた事のように絶望の表情を浮かべた。もしかして、哀れんでくれているのかな?ズキンッ優しい人なんだろうけど、同情はされたくない。だって「可哀想な目」で見られると、胸がキュッと苦しくなるから苦手だ。今までもそうだった。お父さんがいないと分かったら、みんなが私を見る目が変わった。「可哀想」って言う子もいた。なんて言ったらいいか分からなくて、私はただ笑っていた。今だってそう。だから、こういう時は逃げるに限る。「さっきはありがとうございました。では、これで!」 「え……あ、おい!」向きを変えてダッシュ――しようとしたけど、今日の私はとことんツイてないようで。ドンッ誰かにぶつかって、今度こそ尻もちをついた。すると、さっきとは別の人の声で「ハイ」と、私に救いの手が伸びる。「うわ!君、めっちゃカワイイね!なに?家が燃えちゃった感じ?」 「は、はい。そんな感じです」 「マジ!?やっべー超やべーじゃん!!」すっごくチャラそうな男の人。「そっかそっか〜」って相槌の仕方までチャラい。「家が燃えちゃったかー、そりゃ大変だ。じゃあね、俺についてきて!今日タダで泊まれる所を教えてあげる!」 「ほ、本当ですか!?」昔、お母さんに「タダより怖いものは無いけど状況に寄っては乗るのもあり」と教えられた!たぶん、今がその時だよね!チャラ男が「こっちだよ〜」と路地裏を指さす。あっちに家があるのかな?大人しくついて行こうとした、その時。「はぁ。まさか、お前がこんなに悪い子だったとはな」 「へ?」 グイッさっき助けてくれたイケメンに、腕を引っ張られ、そして抱きしめられた。しかも、それだけじゃない。イケメンは私のアゴに手をやって、クイッと角度を上げる。まるでキスする直前のしぐさだ。「俺とケンカしたからって、当て付けみたいに他の男にホイホイついていくなんて……」 「へ!?」かお近!ってか顔が良すぎるよ。それにまつげ長いし、唇も薄い!だけど興奮する頭の隅で、やっぱり「どこかで見た事ある」という気持ちもあって。晴れないモヤモヤが、心の中に積もっていく。うーん、喉まできて
last updateLast Updated : 2025-02-07
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第3話
なんで?どういうこと!?だけど、こっちがパニック状態であるのをいい事に、イケメンのキスの長いこと。怒った私がイケメンの体を叩くと、まるで「仕方ねぇなぁ」と言わんばかりの顔で離れていった。もちろん私は酸欠。ハァハァって肩で息をする私を見て、イケメンがニヤリと笑う。「まだまだ。続きは帰ってから、だろ?」 「はい……」あぁ、ダメだ。酸欠で上手く頭が働かない。というか、なんなの、この人。しかも人生初のファーストキスが〝外で〟なんて!草葉の陰から見守ってくれてるお母さんに、何て報告したらいいのか。「(いや、お母さんはただ失踪しただけだ……)」あぁダメだ、パニックで頭が働かない。実の母を勝手に昇天させるなんて、相当どうかしてる。ってか、チャラ男がいつの間にかいない。あの人、逃げたな!反対に、人のファーストキスを奪ったイケメンは、未だに私を抱きしめている。どうしよう、逃げ場なしだ。「あぁ……もう好きにしてください」家が焼け、ファーストキスが奪われたパニックに加え、極限まで減ったお腹。これ以上、もう何も考えられない。だんだんと、体の力が抜けていく。腕の中でぐったりしていく私を見て、さすがのイケメンも慌てた声を上げた。「え、マジで? おい、お前!」薄れゆく意識の中、ふと聞こえてきたのは音楽。男の子たちが、元気な声で歌っている。あぁ、本当に勘弁してほしいよ。だって私は、アイドルが嫌いなんだから――その言葉を口にしたか、していないか。それはハッキリと覚えていない。だけど意識を手放す中。「好きにしてください、なんて……。冗談でも言うんじゃねぇよ」私の唇を強引に奪ったイケメンが弱々しく喋り、切ない声を出した。そして最後に、とびきり優しく私を抱きしめる。「(あったかい……)」完璧に意識を失う前の、ささいな一時。困惑しながらも私は、その温もりを確かに感じ取っていた。◇「……ん?」長い時間眠っていた気がする。 というか、ここはどこ?自分の家じゃない事は分かる。だって燃えて、消し炭になったもん。「(じゃあ、ここは……?)」綺麗な部屋。私が寝ていたベッドも、大きくてフカフカ。壁も天井も家具も、全部高級そうで、全部白い。たった一つだけ色があるのは、赤い時計。オシャレな壁掛け時計だ。それは白の部屋に、かなり目立っている。「センスが良いのか悪いのか。っ
last updateLast Updated : 2025-02-07
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第4話
「なんで、あなたが……」外で会った時は帽子があって分からなかったけど、イケメンはマッシュボブの黒髪をしていた。少し猫っ毛だ。そして透き通る黒の瞳。その“黒”がイケメンの邪悪さに拍車をかけてる。「つれないなぁ」と笑うその顔は、見事な悪人ヅラだ。「キスまでした仲だってのにな?」 「だからです!”警戒”っていう言葉を知っていますか?私は一ミリたりとも、あなたを信用していませんから」喋りながら、ドアを出たリビングにあるソファに、クッションがあるのを見つける。私は一気に扉を押し開き、むんずとクッションを掴んだ。「もし私に近づくなら、このクッションであなたをボコボコにします!」 「そのクッションで?」「はい!」 「できんの? ボコボコに」「……」無理かもしれない。だって柔らかすぎるもん、このクッション。フカフカ過ぎてダメージゼロだ。しょんぼりと落ち込む私とは反対に、勝ち誇った顔をしたイケメン。「ふっ」と口角を上げ、私の横に広がるソファを指す。「じゃ、とりあえず話をするか」 「……」こんな危険度MAXのような人と一緒に座りたくない……だけど仕方ない。話をするためだもんね。どうして私がココにいるのか、ちゃんと教えてもらわなきゃ。「……座ります」 「ん、良い子」 「っ!」良い子――思いもしなかった言葉に、不意を突かれる。ちょっとドキドキしちゃった。だけど頬を染めた私とは反対に、イケメンは涼しい顔で「こっち」と私の手を引いた。いつの間に私に近づいていたのか、全然わからなかった。早業に驚きながら、引っ張られるままに彼の横へ腰を下ろす。ギシッ「それにしても、座るって隣同士ですか」 「ソファ一個しかないんだから、横並びなのは当たり前だろ。まさか床に座りたいのか?」 「そ、そうじゃなくて……っ」思った以上の至近距離に、ビックリした。立っている時も「大きい」と思ってたけど、近くに座ると私との体格差がよくわかる。長い足、線は細いのに筋肉ありそうな体に、大きな手。おまけに、小さな顔は超がつくイケメン。まるで芸能人かモデル並に整った顔だ。そんな事を考えていると、イケメンが「何から聞きたい」と私を見る。「あ、じゃあ名前を教えてください」 「名前?もっと聞きたいことあるだろ」「名前が分からないと色々不便だなって思って。ダメですか?」 「いや、い
last updateLast Updated : 2025-02-11
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第5話
ムダにぎこちない空気だけが、私たちの間を漂う。さっきの皇羽さんに倣って、私も咳払いして自己紹介を始める。「私は夢見 萌々(ゆめみ もも)と言います」 「ゆめみ、もも……」「はい。皇羽さんと同じく高校一年生です。さっき皇羽さんが言っていた”目の前の駅”って、何ていう駅ですか?私は電車通学なのですが、駅を降りてすぐなんですよ。もしかしたらお互い、近い高校かもしれないですね!」 「……」「皇羽さん?」私が自己紹介をした後、皇羽さんは私を見たまま動かなくなってしまった。どうしたのかな、もしかして調子が悪い?「皇羽さん失礼します」と、皇羽さんのおでこに手をかざす。だけど、ギュッ「わぁ⁉」伸ばした手は皇羽さんに握られ、そのまま体ごと抱きしめられる。すると柔らかいソファの上で態勢を保っていられなくなった皇羽さんが、私を抱きしめたまま後ろへ倒れ込んだ。「こ、皇羽さん……?」 「……」皇羽さんは、いつまで経っても起き上がらない。どころか、私を離そうともしない。ギュッと力強く、抱きしめたままだ。「皇羽さん、どうしたんですか……?」訳が分からない。それなのに、だんだん上がっていく自身の体温に困惑する。まさか私、皇羽さんにドキドキしているの?いや、くっ付いているから暑いんだ。それなら、すぐに離れてもらわないと!「皇羽さん」と、とりあえず名前を呼んでみる。離して欲しいのに彼はそうはせず、なぜか私の名前を呟く。「夢見萌々……」 「はい」「そっか。そう言うんだな、お前」皇羽さんは片腕を自分の顔に置き、わざと表情を隠す。「萌々」と噛み締めるように私の名前を繰り返す皇羽さんが、どんな気持ちでいるのか気になった。彼はどんな顔をしているのだろうかと、好奇心がうずく。「皇羽さん、失礼します」彼の顔を隠す、大きな手をどかす。その時、私の目に写ったのは……「なんだよ、こっち見んな……っ」 「っ!」ドクン皇羽さんの顔を見た瞬間。私の心臓が、大きく跳ねる。皇羽さんは強気な口調ではあるものの、表情は全くの逆。深く刻まれた眉間のシワ。下がった眉。キュッと我慢するように固く結ばれた口。その表情は、まるで――「夢見萌々」 「はい」「萌々……」 「~っ」あまりに気持ちがこもった皇羽さんの呼び方に、なぜだか分からないけど涙腺が緩む。声が震えているようにも聞こえる
last updateLast Updated : 2025-02-11
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第6話
「なんか夢みてぇ」 「夢?」夢とは?首を捻ると「何でもねぇよ」と、皇羽さんは再び私を抱きしめる。ぶっきらぼうな言葉とは反対に、まるで雪に触れるような優しい手つき。過保護とも言えるその行動に、また私は戸惑う。「(皇羽さんって、一体……)」漠然と抱いた疑問を、口にしようか迷っていた時。壁にかかるテレビが急に作動した。静かだったこの場に、突如としてテレビの賑やかな声が響き始める。「すごい。初めて見ました、壁掛けテレビ!」興奮する私。だけど、反対に青い顔をしたのが皇羽さんだ。「げ、視聴予約の時間か。ヤバいな」 「何がですか?」皇羽さんは私の話を聞かず「早くどけろ」の一点張り。もう、そっちから抱きしめたくせに!当の本人、皇羽さんは「リモコンがない!」とクッションを持ち上げたり、テーブルの下を覗いたりと、何とも慌ただしい。「リモコンを探してるんですか?」 「そーだよ! 萌々も手伝ってくれ!」「いきなり呼び捨てですか!しかも乱暴な物言いで、」 「あとでいくらでも謝るから、とりあえず探してくれ!」え?「あとでいくらでも謝る」なんて、やっぱり皇羽さんは変な人だ。何をそんなに焦っているんだろう?もしかして、いやらしい系の番組が流れてくるのかな?もしそうなら、皇羽さんを茶化せるじゃん!これは面白いことになりそう!私はリモコンを探すふりをしつつ、チラチラと画面へ目をやる。いやらしい番組、まだ始まらないのかな?だけど私の期待とは裏腹に、流れ始めたのは音楽番組。どうやら旬なアーティストが順番に歌うらしい。テレビの中で、出演グループの自己紹介が始まった。なーんだ、音楽番組かぁ。まぁいいや。焦る皇羽さんが珍しいから、このままテレビを見ちゃえ。でもただの音楽番組なら、どうして焦る必要があるんだろう?そう思った私は三秒後。今までにないくらい後悔することになる。『それではまず一組目。今一番人気のアイドルグループIgn:s (イグニス)です!』「……は?」Ign:s ?今の……聞き間違い?いや、でも画面に「 Ign:s 」の文字が出てる。「ウソ、最悪だ……!」テレビを見て固まる私を見て、あれだけ忙しくなく動いていた皇羽さんが、全く動かなくなった。誰もしゃべらない部屋に、司会者二人の声だけが響く。『デビューして一年、最近は知名度がグングン上がってきましたね
last updateLast Updated : 2025-02-11
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第7話
「違うんだ、萌々。落ち着け、聞け」「いや。ちょっと、無理です……‼」私に近づいた皇羽さん。おずおずと伸ばされた手が、真っすぐ私に向かって伸びて来る。だけど私は、その手を勢いよく叩き落した。 パシッ「私、この世の中に一つだけ嫌いな物があります」「嫌いな物?」コクンと頷く私を、皇羽さんは黙って見た。テレビの中では、キラキラした笑顔を浮かべて歌って踊っているレオ……もとい皇羽さんがいる。その姿を見て、熱狂するファン――私もそうであったら、どんなに良かっただろう。「皇羽さん、ごめんなさい。私、 Ign:s が大嫌いなんです……!」「……」皇羽さんは無言だった。十秒ほど目を瞑って「考える人」のポーズをとる。だけど、遅れて私の言葉を理解したらしい。閉じていたまぶたを、ゆっくりと持ち上げた。「Ign:sが嫌い?マジで?」今までで一番、間の抜けた声。信じられない、という目で私を見る皇羽さんに、容赦なく私は頷いた。「ムリです、ごめんなさい。家を出ます!」「はぁ?ちょっと待てよ、話が!」「ありません、さようなら!」ソファを越えて、その先の玄関へダッシュする。後ろからバタバタと足音が聞こえて、おまけに「待て!!」って怒鳴り声まで聞こえる!ここはホラーハウスなの?怖すぎるよ!だけど「ここにずっといるよりはマシ!」と、玄関に並ぶ靴から私の物を探す。だけど目を皿のようにして見ても、全く見当たらない。どこに行ったの?私の靴!すると後ろから「奥の手を取っておいて良かった」と声がした。振り向くと、皇羽さんが私の靴を掴んでいた。「コソコソ逃げられないように、最初から隠しといたんだ」「ひ、卑怯ですよ!」「ふん、何とでも言え。こうでもしないとお前、絶対に逃げていくだろ」逃げていくだろ、と言った時の皇羽さんの顔。少しだけ悲しそうに見えたのは、気のせいなのかな?「それに、まだ話は終わってない。部屋に戻れ。聞きたいことがたーっぷりあるんだ。例えばIgn:s が嫌いとか」「ひ……っ」悲しそうに見えたなんて、絶対に気のせいだ!だって皇羽さん、怒りすぎて般若の顔をしているもん!笑っているのに超怖いよ!その時、キッチンの方から「チン」と音がした。同時に美味しそうな香りが漂う。すると気が緩んでしまったのか、私のお腹が元気よく鳴った。 グ~「……萌々が靴を探してる間に
last updateLast Updated : 2025-02-11
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第8話
さっきの番組が生放送?「え、あれ……?」混乱する私に、皇羽さんは伏し目がちにため息をつく。「この番組は、いつも生放送なんだよ。もしも俺がレオなら、今ここに俺はいられないだろ?」 「確かにそうですが、でも!」うり二つだよ⁉皇羽さんの髪色を変えたら、まんまレオじゃん!猫っ毛な黒髪の皇羽さんと、マッシュ型なアッシュ系金髪のレオさん。髪を除けば、ピッタリすぎるほど二人が綺麗に重なる。「まさかドッペルゲンガー?」 「……言うと思った」皇羽さんは呆れ半分で「よく間違われる」と、テレビの画面を消しながら答えた。「そっくり過ぎるから、よく道端で声を掛けられるんだよ。あまりの似具合に”人違いです”ってのも通じねぇから、外では帽子かぶってんだ」 「まるでアイドルですね……」 「うるさい」にわかには信じられないけど、だけどテレビ局を疑うことも出来ず。皇羽さんとレオは別人なのだと、考えざるを得ない。「じゃあ、皇羽さんは Ign:s じゃないんですね?」 「そう」「アイドルでも無いんですね?」 「そーそー」ホッ――と安堵の息をつく私。そして「現金な奴」と思われるのを承知で、皇羽さんに向かって頭を下げた。「正直、今の私が頼れるのは皇羽さんしかいません。私を置いてくれたら家事をするので、一緒に住まわせてください」 「……」 「お願いします……っ」ソファから降りて頭を下げると、皇羽さんもソファから降りたのか「ギシッ」と音がする。次の瞬間、何かがふわりと私を温かく包み込む。まあ何かって、分かっているんだけど。でも分かりたくなかった。だって私を包んでくれるこの温かさに、不覚にも安心してしまったから。「萌々」 「はい……」皇羽さんに抱きしめられて安心する私がいるなんて、知りたくなかった。だって皇羽さんは私のファーストキスを奪った人。口は悪いし強引なところがある、とんでもない男の人。それなのに……「今日から離さないから、覚悟しとけよ」 「ッ!」こんな事をサラリと言ってしまう皇羽さんの事を、詳しく知りたくなっている私がいる。この人はどういう人でどんな生活をしているのか、興味が湧いている。あぁもしかして私は、とんでもない場所に来てしまったかもしれない。――抱きしめられたまま、どれくらい時間が経っただろう。気づけば私は皇羽さんの背中に手を乗せ、体を抱
last updateLast Updated : 2025-03-01
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第9話
「答えろよ萌々。キス初めてだったのか?」「……言いませんっ」食べ終わったお皿を洗おうと、キッチンへ向かう。勢い余って、たくさんの食器を一気に持ってしまった。あぁ私、すごく動揺している。初めてのキスだったって絶対にバレないようにしないと――そう気を引き締めた時だった。グイッと私の肩を皇羽さんが掴む。「危ないですよ皇羽さん、食器が」落ちちゃう――と最後まで言えなかった。だって皇羽さんにまた唇を奪われてしまったから。いや正確には、奪われそうになったから。だけど皇羽さんは私の顔に限りなく近寄ったかと思いきや、キスする一歩手前で止まった。私は「ひゃ」と声を上げ、思わず目を瞑る。皇羽さんの重たいため息が、私の震えるまつ毛にぶつかった。「はぁ~萌々さ、もうちょっと警戒しろよ」「さ、最大限にしています……っ」「嘘つけ。迫られて目を閉じているようじゃ隙だらけだぞ。本当に奪われたくなかったら、俺の頬を叩いてでも阻止しろ。絶対に気を許すな」「〝本当に奪う〟?」意味が分からなくて首を傾げる。すると皇羽さんは気まずそうに私から視線を外し「未遂だ」とむくれた。「朝、チャラ男の前でしたキスは未遂だ。キスのフリをしたんだよ」「え!でも柔らかい感触がありましたよ?」「それは俺の指」「えぇ、もう〜。そうだったんですね」私が持っていた大量のお皿は、いつの間にか皇羽さんの手へ移動していた。いつの間に持ってくれたんだろう。でもこれ幸いにと、ヘナヘナとその場に座り込む。私のファーストキスが無事だと分かって気が抜けちゃった。でも良かった。本当のキスじゃなくて良かった。だってファーストキスは大切にしたいから。女の子にとってファーストキスはやっぱり特別だもん。「は〜良かったぁ……」安堵の息をつくと、上から「気に食わないな」と皇羽さん。見上げると、皇羽さんの眉根にシワが寄っている。どうやら不機嫌らしい。「そんなに俺とのキスが嫌なのか?」「そりゃそうですよ。会って間もない人とキスなんて絶対に嫌です。それに〝ファーストキスは好きな人としたい〟って女の子なら思いますもん」「つまり萌々は、俺の事が好きじゃないと」「どうしたら今日会ったばかりの皇羽さんを好きになれるんですか?」「〝今日会ったばかり〟か。フン、俺も知らないな」「はぁ?」もうヤダ。この人は一体なんだろう?何に対して
last updateLast Updated : 2025-03-01
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第10話
◇そんな絶望から一夜明けた、次の日。パチッ「ん⁉」目を開けた瞬間、私の顔が真っ青に染まる。だってイケメンが、ベッタリと私にくっついて寝ていたから。あぁ神様。私、何か悪い事をしましたか?「なんで……」男性の猫毛の髪が、顔にかかっている。だけど目を瞑っていても分かる、切れ長の瞳。見間違うはずない、昨日から一緒に住み始めた皇羽さんだ。「なんで皇羽さんが私の隣で寝ているの……!」「ヘンタイ!」という叫び声と共に、皇羽さんを覆っていた布団を跳ね上げる。「んぁ?」と情けない声を出した皇羽さんに、リビングに集合するよう声を掛けた。その五分後。眠い目をこすりながら、皇羽さんがリビングへやって来る。「萌々、起きるの早いな……おはよう……」「お、おはようございます」昨日とは違った皇羽さんの雰囲気に戸惑う。昨日はハリネズミみたいなトゲトゲしさがあったけど、今はカピバラみたいなのんびりさだ。しかも柔らかい笑みを浮かべながら「おはよう」なんて言うものだから、少しだけ胸がときめいてしまった。あぁやっぱりイケメンってズルい。だけど顔を洗って一杯の水を飲んだ皇羽さん。だんだんと脳が覚醒してきたのか、昨日のハリネズミの雰囲気を取り戻す。一緒に寝ていたことに怒る私の方が「さも悪い」と言わんばかりに、大きなため息を吐いた。「いつまで怒ってんだよ萌々。つーかお前に怒る権利なんてないからな」 「そこは権利ください。私だって人間です。というか、なんで皇羽さんが同じベッドに寝てるんですか?犯罪ですよ!」 「自分のベッドで寝て何が悪いんだよ。俺の家は何もかも一人分しか置いてないんだ。ベッドだって一つに決まっているだろ」そんなことも分からないのか――という副音声つきで私を見下ろす皇羽さん。起きたてのカピバラの雰囲気が早くも恋しい。言われていることは最もなのだけど、だからと言ってこのままというわけにはいかない。なぜなら私の身の危険がつきまとっているからだ。皇羽さんと一緒のベッドなんて、命がいくらあっても足りない。「それなら私がソファで寝ます。皇羽さんと一緒だと落ち着きませんし」 「なにが〝落ち着かない〟だ。さっきまで爆睡だった奴が言えたことかよ」 「うっ……」あぁ言えばこう言う!と静かに怒ると、おもむろに皇羽さんが自分の部屋へ入る。そして一分もしない内に着替え終わって出て
last updateLast Updated : 2025-03-02
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