2044年4月9日。 その日世界は崩壊した。 降り注ぐ隕石、崩れる高層ビル、燃え盛る住宅街、焼け爛れた道路を闊歩する異形な生物。 空が割れ、轟音が耳を劈く。 こんな世界にしたのは僕だ。 もうあの平和な日常には戻れない。 異世界と現世を繋いだために起きた悲劇。 城ヶ崎 彼方《カナタ》が繋いでしまった。 彼は何のために大きな代償を払うことになったのか。 魔法と科学が交わる先になにがあるのか。 これは世界の滅びを救うために動いた城ヶ崎 彼方《カナタ》と繋いでしまった異世界の物語である。
View More「そんなことより、その赤眼を何とかした方がいい。伯爵に眼帯でも用意させるから待ってて」「伯爵にそんなこと頼んでもいいのか?」「いいよ、あの伯爵はかなり変わってる人だから」変わってる?別に普通に気さくなおじさん、って雰囲気だったが。「ここ、城塞都市ハビリスは一番魔族領に近い。だからカナタのその赤眼についても何も言ってこなかった。色んな人が出入りする都市だから」本来なら僕の赤眼は何処に行っても奇異な目で見られるし、レーザーライフルも珍しく、目につくらしいがロアン伯爵は様々な人と触れ合う機会が多く、僕にも何も言ってこなかったそうだ。慣れてしまっているのだろう、風変わりな者たちを見るのが。 ロアン伯爵に用意してもらった黒い眼帯を着ける。鏡の前で自分を見ると、似合わなすぎて笑ってしまった。「カッコよくなった」アカリに褒められると少し照れる。今まで眼帯なんて着けたことなかったから違和感しかない。見ようによってはかの有名な武将に見えなくもない。 少しすると、ドアがノックされた。「カナタくん、いるかい?」アレンさんが来たようだ。返事をすると、部屋に入ってくる。「いいね、眼帯よく似合ってるよ」「ありがとうございます。でも距離感が掴みにくいですね」「まあ慣れるまでは仕方ない。それで、馬車の準備は出来たから明日には出発するよ。それまではゆっくりしていて」それだけ伝えるとまた部屋を出て行った。「アカリは外に出なくていいのか?」「うん。カナタと一緒にいる」久しぶりにこの世界を見て回れるというのに、部屋にいるらしい。アカリは元の世界に居たときより、よく喋るようになった。理由を聞くと恥ずかしそうに答えてくれた。どうやら自分の世界に僕がいることが、嬉しいらしい。この世界の事は私が教える、と胸を張ってドヤ顔を見せる。可愛いやつだ。年相応な振る舞いをしてくれると僕も嬉しく
僕との会話が終わるとロアン伯爵はすぐにアレンさんへと振り向き、話の続きをしはじめた。「それで……アレン様は8年前魔神討伐に出て行方不明となっていたのに、なぜ今になって戻ってこられたのですか?」「あー実はあの魔神討伐の旅で、魔神まで辿り着いたんだ。ただその時にしくじってね……」アレンさんは今までの事を話しだした。ロアン伯爵は頷きを交えつつ、時折驚きながらも聞き入っていた。「……なるほど。そんなことがあったとは……。黄金の旅団が来られたと聞いたとき、部下から人数が少ないと言われましたので何かあったのだろうとは思っていましたが……」「まあ、団員は減ってしまったね。でもボクらは常に死と隣り合わせなんだ。仲間が死んでいく事は日常だよ」「ご冥福をお祈りいたします……それで、いつまでここに滞在されますか?部屋は用意させて頂きますので」「いやここには一日だけ滞在する予定なんだ。ただ馬車を借りたい。一日でも早く帝都に行かないと行けないしね」「そういうことであれば、最高の馬車をご用意させて頂きます」ロアン伯爵の屋敷の数部屋をお借りする事となり、僕はアカリと同じ部屋を与えられた。何もかもが日本とは違い、終始落ち着かなかったがやっと落ち着ける時間となった。「カナタ、どう?この世界は」「悪くないよ。ただやっぱり日本の便利さを経験してるから、色々と不便に思うことが多いな」「カナタの世界は魔法がない代わりに科学が発展しすぎ」ファンタジーな世界に最初はワクワクしたが、実際に住むとなると不便さが気になってくる。例えば、トイレは自動洗浄なんてものはないし電車も車もない。連絡手段は伝書鳩か魔法での念話のみ。文明レベルは中世といったところか。しかし、僕のいた世界にはない、魔法が発展している。コンロとか暖房器具は火魔法を主体とした魔法具と呼ばれる道具があ
見上げるほど大きな門扉が開く。衛兵の上司だろうか?誰か奥から走って駆け寄ってくる。必死の形相をしていて少し怖いが、アレンさん達は普通の顔をしている。場慣れしているのだろうか?「まさかっっ!!アレン様!!生きておられたのですか!いえ、今まで一体何処に!?それより人数が少なく見えますが……」「あはは、やっぱりそういう反応なんだね。とにかくこの街の領主に会わせてもらえるかな?」「もちろんです!こちらへどうぞ!!」矢継ぎ早に繰り出される質問もアレンさんはその場で答えずのらりくらりと交わす。 やはり数年は経っていそうな反応だ。街に入るとあちこちから驚愕の視線が降り注ぐ。僕はフードを被り出来るだけ目立たないように隠れながら歩くことにした。「こちらで領主がお待ちになっております。どうぞお入りください」領主の館というのか、明らかにまわりの建物とは違う豪華なお屋敷に入り、領主が待つという大部屋の前に僕らは立っている。「き、緊張してきましたよアレンさん……」「ここの領主は凄く気さくな人だから心配しなくていいよ」そう言ってくれるが、領主なんて偉い人と会うなんて緊張しない訳がない。封建制度がこの世界では普通であり、僕らの世界と大きく違う。ここの領主は伯爵だそうだが、伯爵なんて上から3番目に偉い人じゃなかったか?公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵……の順番だったはず。扉が開くと、部屋の真ん中に突っ立っている男性。イケてるおじさんって風貌だが、顔はとても笑顔だ。「アレン様、ご無沙汰しておりました。またお会い出来るとは……光栄でございます」「色々あってね。それより久しぶりだねロアン伯爵」「最後にお会いしたのは8年前……ご存命だとは思っておりませんでした……」ロアン伯爵の目尻
「だいぶ歩いたから見えてきたよ。僕らの国が」アレンさんに言われ、前方をよく見ると緑の風景が見えてきた。「しかし、魔神もこの世界に逃げてきたからまた討伐隊を組み直すことになるだろうな」魔神と四天王の一人、ゾラもこっちの世界に逃げてきたはず。魔族領では会わなかったのも、恐らく軍を再編するために僕らには手を出さず準備に取り掛かっているのだろう。暫くアルカディアの話を聞いて歩いていると、次第に風景は魔界ではなくのどかで優しさのある風が吹き抜ける草原へと出た。「ここからは適当に野宿をして、明日には一番近い街につくかな」「そこで、馬車を借りて一気に帝都まで行きましょう」アレンさんとレイさんはどこで野宿をするか、馬車を借りる為のお金は、などと話し合っている。「そういえば……こっちの世界では何年経っているんでしょうか?」僕が何気なしに聞いたその言葉で全員が固まる。「た、確かに……時の流れが違うのであれば面倒だな……」「街につけば分かることです。とりあえず今は野宿の場所を決めましょう」みんな忘れていたようだが、もしも時の流れが違うとなった場合、アレンさん達は死んだことになっている可能性もある。そんな中、いきなり街に現れたら騒ぎになるのではないか。「なんとかなるわよ、多分」フェリスさんは楽観視しているが、本当に大丈夫なのだろうか。「私達がつけているこのバッチ。黄金の旅団を示す物なんだけどね、これは討伐隊が作られた時に私達が主導で動きます。って陛下や上の立場の人たちにこのバッチを見せているわ。だからこのバッチでどこの誰かは判断できると思う」「そうなんですね」金色の剣が2本、✕印のように交差し、真ん中に3枚のコインが描かれたバッチ。それを見れば黄金の旅団だと誰もが分かるほど有名だという。「あ、それとボクらの拠点は宿り木って名前だからね、わかりやすくていいだろ?」なんと、地球での拠点と同じ名前
「団長、カナタくんにもっと分かりやすく説明してあげたらどうですか?」 僕が首を傾げているとレイさんが団長に補足説明するように言ってくれた。「それもそうだね。この世界には冒険者の階級というものがあるんだ」 そこで知ったのは、冒険者にはC級、B級、A級、S級、SS級、英雄級、神話級と7つの階級がある。 A級でベテランの冒険者と言われるレベルで、英雄級までくると国に数人という程度の少なさになるらしい。 神話級は世界にただ1人。 アレンさんはもちろん世界3位の強さと呼ばれるだけあって、英雄級だ。 「英雄級までいくとね、任意のタイミングで陛下と謁見する事が許されるんだよ」だから皇帝陛下に世界樹の事を聞く、という事が簡単に言えたらしい。「ちなみに言うとね、二つ名はS級以上じゃないと付かないんだよ」 「てことは、この旅団ってかなりの上級冒険者ばっかりってことですよね」 「まあそうなるね。レイとアカリはSS級だし、他の団員も全員S級だよ」アカリの強さに驚き、そちらに顔を向けると心なしかドヤ顔を見せつけてきた。「あ、でも漣さんはどのレベルに位置するんですか?」 「カナタ、こっちの世界では元の名前を使うつもりだ。だから今後はレオンハルトと呼んでくれ」 「分かりました、レオンハルトさん」一ノ瀬漣はあくまで向こうの世界でしか使うつもりがなかったらしく、この世界では剣聖として名を馳せている以上、レオンハルトと呼ばなければならないらしい。「それで私の事だが、剣聖と呼ばれる者は階級が存在しない。別枠として扱われる」 「じゃあ強さの指標はないってことですか?」 「そうなるな。ただ前も言った通り私ではアレンに勝てない。しかし魔神には唯一勝てる存在だ。だからこそ階級がないという扱いになる」剣聖は唯一魔神を消滅させる聖剣を使うことができる。 しかし必ずしも戦闘能力が他を圧倒するかと言われればそうでもないらしい。 本人曰く、SS級よりは強いが英雄級には勝てるかどうか、といった曖昧な感じだそうだ。
ここは異世界アルカディア僕、城ヶ崎彼方はこの世界の人間ではない。一年前、異世界ゲートを創りこの世界へとやってきた。元の世界は、ゲートの事故により大量の死者を出し僕は大罪人となってしまった。友人だった春斗も世話になった五木さんも、黄金の旅団の人達も、たくさん亡くなった。僕のせいで。だから、願いが叶うと言われている世界樹を求めてこの世界へと来たんだ。ただ、闇雲に探しても見つからない。僕はアレンさんの勧めで冒険者ギルドに登録し、最低等級の冒険者としてこの世界で第一歩を踏み出した。今は、ただ強くなるために依頼をこなす毎日。この世界に来たばかりの僕では、世界樹を見つけても辿り着くことすら難しいとのことだった。自分の身は自分で守る、それがこの世界アルカディアでの常識。紅蓮さんから貰ったこのレーザーライフルと、小剣を手に生きていく。アカリは常に僕に寄り添ってくれる。今ではかけがえのない存在だ。今日もまた一日を無事に生き永らえた。この世界では死がすぐ近くに潜んでいる。依頼に失敗して死亡、魔族の侵攻、暗殺。僕は絶対に死ねない。生きて生きて生き抜いてやる。いつか必ず、元の世界に戻すために。――――――「ここが……異世界……」辺りを見渡すと、見たこともない木に紫色の花がそこら中に咲いている。空は曇天というに相応しい灰色。想像していた異世界は、もっと優雅で美しいイメージだったが、ここはもはや魔界といってもいいほどだ。ゲートから飛び出てきた勢いと風景の衝撃に尻餅をつく。アレンさんがそんな呆然とする僕に近づきにこやかな顔で手を差し出す。「ようこそ!異世界アルカディアへ!!」「あの……これが異世界……ですか?」「ああ、忘れてないかい?ゲートが繋
目を瞑り黒い深淵に飛び込んだ僕が、次に目を開けた時には見たこともない光景が広がっていた。ビル一つない風景、空に浮かぶ月は二つ。空は紫がかっており、お世辞にも綺麗な風景とは言えない。辺りを見渡しても、異様な形の木にゴツゴツした岩肌が目立つ崖。右手にはしっかりと紅蓮さんからもらったレーザーライフルが握られている。魔物がいきなり現れそうな風景に腰を抜かし、座り込んで呆然としていると、前からアレンさんが近付いて来た。アレンさんが僕の前に手を差し出し、話しかけてくる。「ようこそ!ボクらの世界、アルカディアへ!!」「ちなみにここは魔族領だからこんな風景だけど、この世界は美しい世界なのよ、誤解しないでね」レイさんから補足されたが、忘れていた。この異世界ゲートは魔族領に繋がっていたのだった。ここから新たな未来を掴む為の旅が始まる。そう意気込んで僕は呟いた。「初めまして異世界アルカディア、そして待っていろ世界樹。必ず見つけてだしてやる」――――――草原が広がる大地の上で、魔物を狩る者達がいた。「アカリ!一体そっちにいった!」「任せて!カナタも無理しないで!」息のあった動き。男は片手に銃のような物を持ち魔物を牽制する。もう片方の手には30cmほどの小剣。女は刀を片手に忙しく動き回っている。周囲には、狼を2倍ほどの大きさにしたような魔物が複数体。既に彼らの足元には、息一つしない魔物の死体が複数体転がっている。「喰らえ!!」男は銃口を魔物に向け引き金を引く。赤色の光線が射出され魔物の胴体に風穴を開ける。しかし、その隙を狙ったかのように違う魔物が駆け寄り大きな口を開け襲いかかってくる。が、アカリと呼ばれた女性が腕を振るったと同時に魔物の胴体は真っ二つに切り裂かれた。「ごめん!油断した!」「カナタ、雑魚でも群れたら危ないんだから気をつけて」黒髪で小
「行ったな……」静かになった異世界ゲートの前に佇む三人。黒川紅蓮、城ヶ崎紫音、斎藤茜はずっとゲートを見つめている。「さあ俺の最後の仕事だ」紅蓮は、爆薬をゲートに仕掛け距離を取る。「お前らも全員離れろ。巻き込まれるぞ」ゲート前で呆然と立ち尽くす茜と紫音に問いかけるが反応がない。「おい!さっさと下がれ!死にてぇのか?」怒鳴られてやっと反応した二人は顔に生気がない。無理もないだろう、茜は彼方の事を弟のように可愛がり、紫音に限っては生まれたときからずっと一緒に生きてきた。もう会えないと思うと、立ち尽くす気持ちも理解できる。「あいつの事信じてるなら、さっさと下がって来い」「……すみません」二人共ゲートから距離を取り紅蓮の元に来る。「あの……紅蓮さん……」紫音が話しかけてくる。「なんだ?」「その爆弾の起爆スイッチ……私に押させてもらえませんか?」彼方との最後の繋がりはゲートのみ。だからこそ自分で押したいのだろう。そう思った紅蓮は彼女にスイッチを手渡す。「この爆弾は時限式だ。スイッチを押して5秒後に爆破する」「分かりました」紫音の手に起爆スイッチを置くと、紅蓮は少し離れた。最後のお別れくらいは、自分のタイミングがいいだろう。そう思い、紅蓮は押すタイミングは紫音に任せた。「茜さんも紅蓮さんのとこまで離れてていいですよ」「……うん、紫音ちゃん、大丈夫?押せる?」「はい……どうしても私が押したいんです……」「わかったわ、貴方のタイミングで押したらいいからね」そう言って茜も離れていく。紫音の頭の中には、彼方と過ごした日々が走馬灯のように流れている。
カメラのフラッシュが眩しいくらいに焚かれる。雑誌の表紙でも飾るのだろう。「今回の悲劇について、皆様には伝えておかなければいけない事がたくさんありました。信じて貰えない事も沢山あります。しかし全て事実です。それを今ここで説明させて頂きます」異世界について、異形の生物について、魔法について、これからについて、一時間程かけて全てを話した。「……なので私は未来のために異世界へと渡ります。逃げるな、と言われるかもしれませんが、元の世界へと必ず戻してみせます」「そんなもの信じられるか!!ふざけるのも大概にしろ!!」「この世界を捨てるつもりか!」溜まった鬱憤を晴らすかのように飛んでくる罵詈雑言。するとアレンさんが僕の横に立った。「この世界の人達はうるさいなぁ、いっその事滅んでみるかい?」手にはドス黒い魔力の塊を生み出す。それを見た者達は一斉に静かになる。「なら聞くけど、異世界ゲートが作られるって時になぜ君達は反対しなかったんだい?文明の発展に繋がるって所だけ見てたんだろう?危険があることも説明にあっただろうに。結果、今の状態になってしまってから悪者はカナタくんだけ?ボクらにとって彼は仲間なんだ。それ以上侮辱するならボクら黄金の旅団が相手になろう」その言葉と共に旅団員は全員武器を構えだした。本気な訳ないが、彼らの威圧感は本物だ。長年潜り抜けてきた修羅場が違う。「彼は自らの過ちを悔いている。だからこそ命のやり取りが身近となる異世界へと向かいこの世界を元の平和な世界へと戻す旅に出るんだ。信じられないなら共に来るかい?何人着いてきても構わないよ、ただ自分の身は自分で守ってもらうけど」誰も口を開かない。ただ静寂が広がるのみ。僕はそんな彼らを背に研究所へと戻っていく。誰も声を掛ける者はいない。見送る人は姉と紅蓮さんと茜さんのみ。もしも世界樹が見つからなければ、もう二度と会うことはない。僕は涙を堪え、ゲートへと向かう。「さあ、もういいだろ
〜プロローグ〜2044年4月9日。平和な世界は一変した。降り注ぐ隕石、崩れる高層ビル、燃え盛る住宅街、焼け爛れた道路を闊歩する異形な生物。空が割れ轟音が耳を劈く。無事な人を探すほうが難しいくらいだ。「助けて!!足が!!!」「なんだよこの化け物は!!うわぁぁぁ!」「痛いよぉ……」あちらこちらで、声が聞こえる。僕は手を差し伸べる事もせず、そんな声を聞き流し目的地へと足を進める。横を見れば黒髪の女性が悲しそうな目で周囲を見渡す呟く。「何人死んだんだろう……」そんな呟きも聞き流し、歩き続ける。もう望みはあそこにしか残されていない。何もかもが昨日の風景とは違う。何処を見渡しても阿鼻叫喚。もう、元には戻れない。全ての元凶である僕には、ただ静観するほかなかった……―――――― 2043年9月2日。光が丘科学大学4回生、城ヶ崎 彼方《カナタ》。僕は近未来科学科に所属し、文明の発展に役立つ知識や技術を学んでいる。難しい事をしているように聞こえるが、ただ時代の最先端を知りたいから、なんて単純な動機で入っただけだ。昔は空飛ぶ車なんて物は出来たばかりで運用には至ってなかったみたいだが、今じゃ何処を見上げても車が飛んでいる。ちなみに僕は免許がないから乗ったことがない。両親は高校生の時に事故で亡くなったが姉と二人暮らしでなんとかやっていけてる。ただそんな姉もそろそろ弟離れしてほしいんだけどな……「カナター!ちょっと来てー!」ご近所さんに聞こえるほどの大声で2階の自室から僕を呼んでいるのは社会人2年目でアパレルショップで働いている城ヶ崎 紫音《シオン》。「姉さ...
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