エルザは、アルセント帝国のサファード公爵家の一人娘。この一族は時の神の 加護を受けており、時を止める能力を持っていた。そして皇太子レイヴァンの婚約者。 しかし異世界から聖女レイナが現れ自分をイジメる悪女に仕立て上げられてしまう。レイヴァンは、アカデミーでは冷たくするも、身体の関係を続けていた。 しかし、邸宅では気遣う優しさも見せるため、矛盾な態度に悩まされる。 そんな中で妊娠してしまう。だが、レイヴァンはアカデミーの卒業パーティーでレイナをパートナーにし、聖女殺人未遂の濡れ衣の罪で婚約破棄を告げられてしまい!? 窮地に追いやられるエルザ。 そんな時に彼女は不思議な夢を見る。そして、それに渦巻く真実とは?
View Moreそれだけ言い残すと、レイヴァンは寝室から出て行ってしまった。エルザは呼び止めることが出来ずに、ボー然とする。また来ると言ってはいたが。それはつまり、またお会いして下さるって解釈でいいのだろうか? 婚約破棄して、追放された身。しかし、見放されたわけではない様子だ。(何故……? 嫌われたはずの私に? それにあの手の傷。戒めって言っていたけど、何のために?) チラッとトムソンを見る。すると悲しそうな表情を見せてきた。「殿下は誰よりもエルザ様を大切にしております。何か事情があるのでしょう」「事情……何の?」「そこまでは私にも。ですが私達に仰っていました。お腹の子は、紛れもなく次期皇太子になる子だと。エルザ様も、お腹の子もそのように敬えと」「レイヴァン様が?」 辻妻が合うようで合わない彼の行動。試しているのだろうか? いや、それにしたら不自然だ。感情と嚙み合っていないというか……。 それに、お腹の子を次期皇太子と言った。(あれ? でも、どうしてレイヴァン様は『皇太子』と言ったのかしら?) まだ産まれてもいないから性別は分からないはずだ。女の子の可能性もある。なのに、何故男の子だと思ったのだろうか? 頭の中が困惑してくる。レイヴァンは産まれてくるなら、能力を受け継いでいる女の子の方がいいはずだ。なのにどうして……? その日は頭痛が酷くなり、それ以上考えられなかった。 しかし、それから1ヶ月後。違和感は、さらに膨らませるばかりだった。 あの日からレイヴァンは、まだお見えになっていないのだが贈り物が届くように。装飾品はもちろんなのだが、花束や本、有名デザイナーがデザインしたドレスまで。「エルザ様。こちら殿下からの贈り物でございます。有名デザイナーのルモンド・ドーランがデザインしたドレスでございます」「こちらは、そのドレスに合った宝石と靴でございます」「えぇっ!?」 ルモンド・ドーランって、あのなかなか予約が取れないと有名なデザイナーだ。本人も職人気質で気に入らないと断るとも言われている。皇族の依頼なら断らないだろうけど……。「とても素敵なデザインなんですよ。是非とも着替えてみて下さいませ」「えっ……えぇ、そうね」 目をキラキラさせてルル達が言ってくるので、言われるがまま着替えてみる。「まあ、素敵ですわ。華やかの上でエレガント。まさ
どうしてエルザをママって呼ぶのか分からず戸惑ってしまう。しかし何だろうか……。 エルザ驚いたが、嫌だとは思わなかった。むしろ心の中があたたかくなり幸せな気持ちにさせてくれる。「そうよ……ママよ」 エルザは、そう応えた。もしかして、この子はお腹の子ではないかと思えてならない。だってママって言ったし。 エルザはフフッと笑ってみせる。すると遠くから声が聞こえてきた。『こら戻って来い。クリスティーナ』(えっ? クリスティーナ?) するとハッと目を覚ました。あれは夢だったのだろうか? 気づくとエルザはベッドの上で眠っていた。するとルルとビビアンが慌てて、こちらに来る。「エルザ様。目を覚まされましたか!?」「良かったですわ。3日間も高熱を出して、ずっと寝込んでいたのですよ」「3日間も熱を出して?」 やっぱり夢だったのだろう。なら、婚約破棄も夢だったのだろうか? 何処までが夢だったのか記憶が曖昧だった。 「あの声は誰だったのかしら? 低く大人の男性だったけど、知らない声だったわ。それに、あの赤ん坊も……) 不思議に思いながら起き上がろうとするが高熱を出したせいか、ふらつく。「急に起き上がったりしたら危ないですわ」「ねえ、レイヴァン様は? 婚約破棄なんて、していないわよね?」「それは……」 すると廊下から、バタバタと誰かがこちらに来る足音がした。そして勢いよく、ドアが開かれる。「エルザが目を覚ましたって、本当か!?」「れ、レイヴァン様!?」 エルザは驚いて彼の名前を呼んだ。そうしたら駆け寄り、エルザをギュッと抱き締めるレイヴァン。「良かった……無事で」 何故、抱き締められているのだろうか? 急に抱き締められたのでエルザは、さらに驚いてしまった。「あ、あの……レイヴァン様?」 ドキドキしながらもレイヴァンを見ると、真っ直ぐとエルザを見てくれた。やっぱりアレは、夢だったのだろうか? どう見ても、婚約破棄した後の対応とは思えない。いや、むしろ穏やかになっているような気がする。 前は気遣ってくれたが、こうやって抱く以外は抱き締めてはくれなかった。冷たい表情でもない。「レイヴァン様……私達はどのような関係なのでしょうか? 婚約破棄なんて……していないですわよね?」 夢か現実か分からない記憶をハッキリさせるために尋ねた。聞く
まさかと思ったが十分ありえることだろう。 そこの主人だったエルザが強制的に婚約破棄されたのだ。その使用員だった、この人達も例外でない。場合によったら共犯だと疑われてもおかしくはない。 そんな……ここの人達には何も関係ないのに。 エルザが動揺していると、トムソンがニコッと微笑んできた。「ほら、君達。エルザ様はお疲れだから早く部屋に案内してあげなさい。入浴の準備も忘れないように」「あ、はい。かしこまりました。さあ、エルザ様……こちらに」「えっ? ちょっと」 ルルとビビアンに強引に案内された。部屋まで案内してもらうのだが、何だか違和感があった。「これって……」 その違和感は部屋に入ってすぐに分かった。『ホワイトキャッスル』の造りが、とにかく似ているのだ。「これは……私の部屋だわ!?」 屋敷の造りが少し違っているものの、家具の種類からインテリアまで正確に似せてある。言わないと区別が出来ないほどに。 エルザの部屋は好きな色である白をモチーフにしてある。白はこの顔に似合わないと言われていたが、せめて部屋ぐらい好きな色にしたかったからだ。「これは……どういうことなの?」 エルザは驚いていると。ルルとビビアンが得意げそうな顔をする。「安心して住んで頂けるようにと、殿下の指示でご用意致しました」「えっ……?」 レイヴァン様の……指示?「環境を急に変えると不安になるだろうから、全て『ホワイトキャッスル』と同じようにするようにと仰せつかっています」「レイヴァン様が!? どうして……」 婚約破棄したばかりの自分に、こんなことをしてくれるのだろうか? せめてのご慈悲だろうか。「殿下は、何か考えがあるのではないでしょうか?」 戸惑うエルザにビビアンは、優しい口調でそう言ってきた。「……考えって?」「はい。この部屋もそうですが、殿下はエルザ様のことを無下にしていないと思います。私達をこちらに派遣した時でも、普段と同じように接しろと仰っておりました。それは、つまりエルザ様の事を『次期皇妃』だと思って慕っている私達の配慮だと思っておりますわ」 じゃあ何故、捨てられたのだろうか?「だったら、何故私を婚約破棄したの? 婚約者では無くなった私に、皇妃になんてなれるわけがないじゃない?」「エルザ様……それは」「もうやめて……私は捨てられたのよ。これも
会場の外に出されると、そこにライリーが待ち構えていた。 彼は悲しそうな表情でエルザを見ていた。ライリーも皇族の意志には逆らえない。 もしかしたらエルザのことを疑っているかもしれないと思った。しかし強引な騎士の手からエルザを引きはがしてくれた。「エルザ様に対して無礼だぞ。この方は私が連れていく」「えっ……?」「し、しかし。この者は重罪を犯した者。速やかに牢獄に」「二度も言わん。この方は私が連れていく」 ライリーがそう言うと、エルザを連れ出してくれた。さっきの騎士達と違い、気遣ってくれる。そのまま用意された馬車に乗せられた。「あ、あの……どちらに?」 彼も一緒に乗り込んだが、黙ったままだった。答えたくないのだろうか? 何処に連れて行く気だろう。幽閉と聞いたから皇宮から離れた塔だろうか? しかし、そうなると逆方向だ。どんどん皇宮から離れていく。静まる馬車の中で、エルザはレイヴァンのことを考えていた。 どうしてこんなことに……。 初めてレイヴァンにお会いして以来、エルザは彼を忘れたことはなかった。皇妃として厳しい教育にも耐えて、相応しくなろうと心がけてきたのに。 確かに悪役令嬢とは言われていたけど……恥じる行為はしていない。なのに、何で誰もそれを信じてくれないのだろうか。(お腹の子も居るのに。私はどうすれば良かったの?)そう思うとエルザの目尻には自然と涙が溢れてきた。(ダメ……ライリーが居るのに) 涙が一滴こぼれると、目の色が七色に光り、身体もキラキラと輝きを出した。ライリーは、その姿を見ると、驚いた表情をしていた。それもそうだろう。 こんな姿はレイヴァンしか見せたことがない。「これが……サファード公爵家の能力なのか? なんと……美しい」 早く戻さないと。エルザは必死に涙を止めようする。しかし絶望した感情を止める方法を知らない。涙がさらに溢れてくる。 するとライリーはエルザを抱き締めてきた。エルザは驚いてしまう。「ら、ライリー!?」「泣かないで下さい。大丈夫です……私が居ます。それに。あなたにはまだ、たくさんの味方が居ますから」「た、たくさんの……味方?」 どういう意味だろうか? こんな状態で味方なんて居るの? すると馬車は止まった。もう……着いたのだろうか? ハッとしたのか、慌ててエルザから離れるライリー。耳まで
急に何を言い出すのかと思えば……何故そんなことに? エルザは啞然とする。そもそも聖女であるレイナを殺そうなんて思うはずがない。「まだ認めない気か? なら、証明してみせよう。刺客を連れてこい」 レイヴァンがそう言うと、騎士達が怪我をしてボロボロになった黒マントを羽織った男を連れてきた。体格のいい男だったが見たこともない男だ。「この男に身に覚えがあるだろう? この刺客が聖女であるレイナの部屋に忍び込み、襲ったそうだ。ギリギリに助けられたが、腕に傷を負った。その傷は自身の治癒能力で治せたからいいものを……これは重罪だぞ」「ち、ちょっと待って下さい。私はそんなことはしておりません。それに、その男も見たこともありません」「白々しい。この男がすべて自白したぞ。エルザの指示で、すべてやったと。その証拠に君が報酬に渡した指輪を持っていた。これは、サファード公爵家が持っている鉱山しか収穫ができない『虹色のダイヤ』だ」 エルザに見せてきたのは紛れもなく『虹色のダイヤ』の指輪だった。(あれは、私の無くした指輪だわ!?) ダイヤはサファード公爵家が持っている鉱山しか収穫ができない。 虹色に輝いて見えるのは、サファード公爵家が持っているマナが入っているからだ。 輝くばかりに美しく貴重な宝石のため、高額で買い取られる。公爵家の中でも身分や財力があるのは能力の他に、こういう理由もあった。 デザインからしてもエルザのものだと間違いないだろう。 最近、指輪がないと侍女達が探していたのに、何故あの男のもとにあるのだろうか?「証拠が出てきて言葉にならないか? では言おう。聖女に対しする数々の愚行。そして殺害未遂。どれも国を脅かす重罪だ。よって、君との婚約を破棄とする。そして国外追放とする」「えっ……?」 レイヴァンの言葉に、エルザの心は粉々に砕いていく。 婚約破棄……しかも国外追放だなんて。「あ、あんまりです。私は、そんな愚かな行為はしておりません」 エルザは必死に違うと訴えかけた。全身が恐怖とショックで震え上がる。 するとレイナはレイヴァンの腕に手を絡ませて、目をウルウルとさせる。「レイヴァン様。それはあまりにも酷いと思いますわ。きっと嫉妬で自分の心を病んでしまったのでしょう。国外追放ではなく幽閉でどうでしょうか? それなら、自分の過ちを反省ができますし、
最悪な出来事が起きてから数日が過ぎる。卒業パーティーが行われた。その前に、アカデミーの卒業式もあったのだが、それは無事に終わることができた。 エルザは、つわりが酷かったのでパーティーのみ参加することに。 本当はパーティー自体も出席したくない。パートナーが居ない状態で行ったら、周りに何を言われるか分かったものではない。きっと変な噂が立ち嘲笑われるだろう。 しかしエルザはサファード家の公爵令嬢。皇族主催の卒業パーティーなら代表として出席しないとならない。婚約者なら、なおさらだ。 気分が優れない。つわりもだが、気持ち的にも……。ルルとビビアンは支度を手伝ってくれたが、何だか落ち着かない様子でソワソワしている。この前のことがあり、心配しているのかもしれない。主として大丈夫だと言いたいところだが、エルザにはそんなことを言える余裕はなかった。 自分さえも、これからどうなるのか分からない状態だ。お腹の子のこともある。 せめて婚約者として相応しくしなければ……。 必死に自分に言い聞かせながら皇宮に向かった。ダンスホールでは、すでにたくさんの貴族や卒業生徒達で賑わっていた。 しかし、婚約者であるレイヴァンを連れていないエルザに気づくとコソコソと陰口を言ってくる。「まあ、見ました? エルザ様ったら、婚約者なのに一人で来ているわよ」「やはり、あの噂は本当だったのね。レイヴァン様はレイナ様に夢中なのでしょう?」「これだと、婚約者が代わるのも時間の問題よね」 エルザにも聞こえるような声で言ってくる。そんなことは言われなくても……。 すると、周りがざわめき出した。エルザは、その方向を見る。 注目の相手はレイヴァンとレイナだった。 レイヴァンにエスコートされて出席していたが、その姿は恋人同士みたいだ。 しかもレイナの着ているドレスは、この間、エルザがレイヴァンとお芝居の時に着ていたドレスと同じだった。 彼女が着ると、少し幼さが残るが、また違った美しさがある。 何よりも聖女とは思えない色気が漂わしていた。周りだけではなくエルザも思わず息を吞む。「まぁ、なんてお似合いなのかしら。まるで本物の恋人みたいだわ」「なんて美しいのかしら。聖女ってよりも女神様みたいだわ」 周りの令嬢達は、2人を絶賛する。しかしエルザの心は穏やかではない。(いや……それより
「どうされましたか? エルザ様」「どこかご気分でも悪いのですか? お医者様をお呼びしましょうか?」 ルルとビビアンは心配そうに声をかけてくれる。しかしエルザは溢れる涙を止めることができなかった。(私はどうしたらいいの?) エルザは、その場で泣くことしかできなかった。 しばらく塞ぎ込んでいるとレイヴァンが自らエルザのところまで足を運んでくれた。「目を覚ましたようだな? 気分はどうだ? 話なら医師から聞いている」 恐る恐るレイヴァンの顔を見ると複雑そうに眉にシワを寄せていた。 どう見ても妊娠したことに対しての喜びようではない。まるで本意ではなかったかのような表情だった。もしかして妊娠さえも望んでいない?エルザは顔がこれ以上、見ることができなくなって、すぐに下を向いてしまう。「あ、あの……私、妊娠しました。レイヴァン様の子です」「あぁ……そうだろうな。君は私以外の男に抱かれたことはないからな」「この子は男の子かもしれません。次期の皇太子候補になるでしょう」「……何が言いたい?]「えっ……?」 低く冷たい言葉に思わず顔を上げる。すると、その表情に愕然とした。 レイヴァンは酷く冷たい表情になっていた。エルザはゴクッと恐怖で唾を吞む。「で、ですから……その」 エルザの体がガタガタと震え上がる。少しでも機嫌を損ねると、突き放されると思うような重苦しい雰囲気に。「……そうだ、丁度いい。君に話しておくことがあったのだった。卒業パーティーは悪いが、君のパートナーにはなれそうにない」「えっ……な、何でですか!?」 パートナーにはなれないって……まさか!?「……先約ができてな。話は以上だ」 レイヴァンはそう言うと背中を向けて行こうとする。ま、待って。「もしかして、その先約って、レイナ様ですか!?」 言ったらいけないと思ったのに、咄嗟に口から出てしまった。 そうしたらレイヴァンは動きが止まり、こちらを振り返ってくれた。しかし、その表情は変わらず冷たい。「……だとしたら?」「そ、そんなのおかしいですわ。私は婚約者です。パーティーは……婚約者と同席するのが習わし。それなのに、婚約者でもないレイナ様と出席されるなんて。それに、私のお腹にはあなたの子が……」 本来なら絶対にあってはならないこと。周りの方々にどう説明するだろう? (それに…
あまりにも衝撃の一言にエルザが持っていたフォークを地面に落としてしまった。 どういうことだろうか? 聞き間違い? レイナは、パートナーにレイヴァンが誘ってくれたと言っていたが、婚約者はエルザだ。パートナーが婚約者以外と行くなんて。「まあ、レイヴァン様はレイナ様をパートナーに選ぶなんて素敵だわ。2人はお似合いだと、ずっと思っていましたの」「皇太子のレイヴァン様と聖女のレイナ様。まるで絵に描いたような美男美女ですわ」しかし他の令嬢達は大盛り上がり。するとレイナは少し困ったような表情をする。「でも私は迷いましたの。レイヴァン様とエルザ様とは婚約者だし、申し訳なくて」「何を言っているのですの。レイナ様は聖女様なのだから、エルザ様が譲るべきです」「そうですわ。相手は悪役令嬢と悪名高いお方。レイヴァン様がレイナ様を選ぶのも当然のことですわ」 そう言いながらエルザが居るのも関わらずクスクスと笑っていた。 すでに私は蚊帳の外にされていた。まるで最初から相手にされていなかったかのような言い分で。 エルザは頭が真っ白になる。これは、どういうことだろうか? 手がガタガタと震えてくる。胃が余計にムカムカして気持ちが悪い。「この様子だと、婚約者がレイナ様になるのも時間の問題ではないかしら?」「そうね……レイヴァン様も、そのつもりでパートナーを選んじゃなくて?」 エルザは我慢ができなくて思わず立ち上がる。 そして、その場を後にする。バタバタと走り、人気のない場所まで向かう。「ぐっ……ゴホッゴホッ」 エルザは、あまりの気持ちが悪さに、そのまま吐いてしまう。 吐いても、まだ気持ち悪さは変わらない。むしろ余計に胃がムカムカする。「エルザ様!? どうなさったのですか?」 一緒に来て待機していた護衛騎士のライリーが慌てて、こちらにきてくれた。「……大丈夫……ちょっと気持ちが……」「エルザ様!?」 必死に平気なふりをしようとするがあまりの気持ち悪さに、倒れてしまう。 次に目を覚ました時は『ホワイトキャッスル』にある自分の寝室だった。ベッドで眠っていた。(さっきのお茶会は夢?……それもそうよね。あんなの、ありえないことだわ。レイヴァン様がレイナ様にパーティーのパートナーに誘うだなんて。私という婚約者が居るのに) 起き上がろうとすると、ルルとビビアン
それから3ヶ月が経った頃。もうすぐ魔導育成アカデミーの卒業式が迫っていた。18歳になれば、成人だと認められる年。大体の生徒は卒業後に自分に向いたところに選ばれたり、就職する。今年はエルザ達の番だ。 そしてレイヴァンは、卒業後は皇太子としての教育を終わらせ、公務を中心になる。そこで未来の皇帝としての引き継ぎをして即位するのが流れだ。 そうなるとエルザも婚約者としてではなく皇妃として嫁ぐのが決まりとなっている。 しかし、そんな時にジュリアナ伯爵令嬢からお茶会の招待状が届いた。 エルザは、そのお茶会に違和感を覚えた。何故自分にも送ってきたのだろうか? ジュリアナ伯爵令嬢は、レイナに対して崇拝している1人である。つまり、エルザに対して、あまりいい印象がない。「どうしますか? お断り致しましょうか?」 侍女のルルが心配そうにエルザにそう言ってきた。何が目的か分からない。 しかし最後のところに、こんなことが書かれていた。『聖女であるレイナ様から大切な報告があるそうです。是非ともエルザ様に来て頂けると幸いです』と……。(レイナ様から大切な報告? それは何かしら?)ここまで言われると出席しない訳にはいかないだろう。それこそ何を言われるか分かったものではない。「……いいわ。出席すると伝えて」「分かりました。それより大丈夫ですか? 何だか顔色が悪いようですが?」「大丈夫よ。ちょっと胃がムカムカするだけで、すぐに良くなるわ」 最近、体調が優れない。もしかして風邪でもひいたのかもしれない。 大切な時期だから気をつけないと……。 レイヴァンにでも移してしまったら大変なことだ。「そういえば……レイヴァン様は?」「公務の方で忙しいみたいですね。最近は、こちらにもお見えになっておりませんし、多忙なのでしょう」「……そう」 ルルの言っている通り、最近はこちらに来ることはなかった。卒業に公務のこともあるから、忙しいと思っていたので気にしないようにしていたが。(何だろう……何だか嫌な予感がするわ。気のせいだといいのだけど) しかし、その嫌な予感は当たる事となった。 数日後。ジュリアナ伯爵令嬢のお茶会に出席する。ジュリアナ伯爵令嬢の屋敷に行くと庭園に華やかに飾りづけしたテーブルが設置してあった。テーブルにはたくさんのケーキやクッキーなどデザートが並べて
アルセント帝国は、魔法国の中でも大きく騎士や魔導師の育成や商人の買付けなどが盛んなところだ。自然も豊かだと言われている。 アルセント皇族は、もっとも膨大なマナを持っており、権力と実力はトップクラス。それに続くのが貴族なのだが、この国の守護神であり、我がサファード公爵家は別格だった。サファード一族は、時の神・クロノスの加護を受けている。 その力は、時を止めるほど強力。代々サファード一族の血を引く女性が受け継がれてきた。 そのため皇族としても、その力を欲しがり血を受け継いだ女性との婚姻を申し込んできた。しかしサファード一族は、その力を手にした皇族の影響力を恐れ断り続けてきた。 皇族も公爵家であり、別格の能力と権力を持っているため強引に出れない。 しかし、何年かぶりにサファード一族に女の子が産まれたことで話し合われ、両者とも納得の上で婚約が決まった。 その女の子であり、サファード公爵家の一人娘が私、エルザ・サファード。 婚約者であり、次期皇帝陛下と噂される皇太子・レイヴァン・アルセントとの出会いだった。 エルザがレイヴァンにお会いしたのは5歳の頃。父親に皇宮に連れて来られた時。初めて見るレイヴァンは、とても美しい少年だった。 皇族しか現れないという美しい白銀の髪。グレーの瞳。透き通るような白い肌。 まるで天使が舞い降りてきたのかと思うほどに輝いて見えた。 その姿を目にした時、何故か気持ちが高ぶり、どうしようもなく涙が溢れてきたのは、今でもエルザはハッキリと覚えている。 しかし、その天使みたいな美少年に出会うことで、自分の人生が大きく左右されるなんて、この時は夢にも思わなかった……。 エルザ達は、あれから数十年の月日が過ぎ『魔導育成アカデミー』の高等科に進学する。このアカデミーは魔法、剣術、教養などが学べる。 婚約者として恥じないように日々教養と技術、そして社交界としてのマナーを頑張って学んできたはずだった。しかし、ある聖女が編入してからその関係は変わってしまった。いや……レイヴァンの気持ちが分からなくなった。 皇族としてエルザとの婚約を進めてきたレイヴァンだったが、最近アカデミーで生活をする時は、聖女のレイナと一緒に居ることが増えていた。 レイナはある時、突然姿を現した転生者。人を癒したり、治癒ができる特別な能力を持っているため聖皇庁が...
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