女騎士として働いてきて、やっと幼馴染で許嫁のアドルフと結婚する事ができたエルヴィール(18) しかし半年後。魔物が大量発生し、今度はアドルフに徴集命令が下った。 「俺は魔物討伐なんか行けない…お前の方が昔から強いじゃないか。か、かわりにお前が行ってきてくれ!」 頑張って伸ばした髪を短く切られ、荷物を持たされるとそのまま有無を言わさず家から追い出された。 そして…5年の任期を終えて帰ってきたエルヴィールは…。
Lihat lebih banyak応接室の中で待っているとガチャりと扉が開く音が聞こえる。私はその音が聞こえた瞬間立ち上がった。「待たせたな。」「とんでもないことでございます。こちらこそ、お忙しい中、急遽面接を行って頂きありがとうございます。」一言挨拶をしてから頭を下げる。「いい。頭をあげてくれ。それでは面接を始めようか。」「は…い…?あれ?だ、だ、だんちょう?」頭をあげると目の前には昨日も一緒にお酒を飲んでいたはずの団長が座っていた。「魔物討伐部隊では挨拶をしたが、ここでは初めてだったな。改めてオディロン・ダックワーズだ。ダックワーズ辺境伯領にあるダックワーズ騎士団長をしている。」団長が目の前にいることにびっくりしたが、自分も改めて挨拶しなくてはならないと思い、気を持ち直して挨拶をする。「改めまして。ダックワーズ団長。この度は面接の機会を頂きありがとうございます。私、エルヴィール・アルデンテと申します。先日、名誉なことに騎士爵を賜りました。特技は戦闘全般です。よ、よろしくお願いいたします。」「こちらこそよろしく頼む。仕事内容を話したいので座ってくれ。」いつも団長は鎧を着ていることが多かったからか、スーツを着ているのが少し新鮮だ。「失礼します。」私は団長に言われた通り、ソファに座ると団長も私の前に腰を下ろした。⟡.·*.··································&m
「いたたたたた…」昨日途中までは皆で騒いでいたのを覚えているけどいつの間にか寝てしまっていたようだ。椅子で寝てしまったせいか腰と頭がすごく痛い。頭は二日酔いのせいだろう…。周りにもそのまま寝てしまったのかイカつい男たちが店の中で雑魚寝している。少し伸びをしてから立ち上がり首や肩を軽く回すと、隣で眠っていたルエルが目を覚ました。「すまん、起こしたか?」「そんなことないですよ。おはようございます。隊長。」ルエルも横で伸びをする。そろそろ仕込みが始まる時間なのか、父さんたちも起きてきたようだ。「おい、お前らそろそろ起きろ。」「あぁぃぃ。おはようございます。」少し大きい声でみなに聞こえるように声をかけるとのそのそと起き上がる。団長と副団長が居ないところを見ると昨夜のうちに帰ったようだ。「そろそろ開店準備をする時間だから帰れ。」少し眠いのか目が空いていない人や二日酔いで頭を押えているものがいる。「ルエルは大丈夫なのか?」「僕は大丈夫ですよー!隊長こそ、昨日話したこと覚えてますか?」ルエルは昔からやたらと酒が強かった。皆が酔っ払っていてもそれを見ながら笑っているくらいでケロリとしている。「あぁ、準備が出来たら地図のところに向かうよ。」「よろしくお願いしますね!門番に僕の紹介できたことを伝えてもらえれば入れますんで!それじゃあ、そろそろお暇します。」「わかった。こちらこそよろしく頼む。また後でな。」面接の時に会えるか分か
「アドルフの話はこのくらいにしておいて、そろそろ隊長の話を聞きたいです。隊長は仕事決まったんですか?」「わ、わ、私か!?仕事はな…見つかりそうではあるのだが…」4人がこちらを同時にみて「やっぱりまだ見つかっていないのか…」というような顔をしてくる。失礼な奴らだ。今まで全く求職活動をしてこなかったわけではないんだ。ただ、自分に見合う仕事がなかった…というだけのこと。「そうなんですねー。見つかりそうだったならよかったです。もし見つかっていないのであれば、以前お話していたお仕事を紹介しようかなと思っていたんですけど…」ルエルはこちらをチラチラ見ながら話してくる。この顔は本当は紹介してほしいんでしょ?という目だ。「ゴホン。ル、ルエルもしよければ参考までに、その仕事の内容だけでも教えてくれないか?」「えぇ。参考ですか?そんなの面倒くさいですよ!守秘義務というのもありますし、ここではお伝えは難しいですね。それに隊長は仕事見つかりそうなんですよね?でしたら必要ないじゃないですか。」「た、たしかにそうなんだが…な…その…すまない…仕事はまだ決まっていないんだ…」正直言ってルエルが仕事を紹介してくれるというのは渡りに船だった。半年間色々面接は受けたもののうまくいかず、最近では本当に仕事ができるのかさえ不安になってくる始末だ。「最悪、自分で傭兵団を作るのかもありかなと思っていたところだ。」傭兵団に入ることも何度か考えたが、女性が入れる傭兵団は限られておりあまりいい噂を聞かな
何を仕事にしようか考えているとあっという間に3ヶ月が過ぎていた。その間は特に仕事をしていなかったが、今まで稼いだお金があったので何とかなった。実家でこのまま暮らし続けるなら、魔物討伐出もらった銀貨があれば仕事をしなくても全然生きていけるが、それはそれでアドルフ達と同じようになってしまうのが何となく嫌だった。10年間はアドルフからお金が帰ってくる予定だけど、戻ってこない可能性も大いにあるだろう。あくまでも予定であって、生き残れなければ意味が無いからだ。傭兵団に入ることも考えたが、入ってしまえばなかなか戻って来れないだろう。で、あれば衛兵の仕事をするか…だが、衛兵は男性のみの職場だ…仕事について考えていると、マウロが部屋にきた。「エル姉。今いい?」「どうしたんだ?」「ちょっとお店に顔出して欲しいんだけど…」今考えることで忙しいのに、なんで店に顔を出さなきゃ行けないんだ。「今考え事で忙しいから無理。」「どうせ考えても答えの出ないことをぐるぐると考え続けているんだろ。ここの所ずっとそうなんだから分かるよ。とりあえず気分転換だと思って出て。待ってるからね!絶対だよ!」それだけ言うとわざと大きな足音を立てながら階段を降りていった。「仕方ない…降りていくか。」私は寝間着から着替えて、髪をポニーテールに結んでから階段をおりていくと、洋食屋にしては珍しい大きな笑い声が沢山響いていた。「今日はなんだかうるさい…え…?」
アドルフと別れてから、3ヶ月ほど経った頃ルエルから一通の手紙が届いた。その手紙にはあと3ヶ月で任期が終わるということと、アドルフが使えなさすぎて皆にいつもバカにされているということ。そして、任期を終えたらアルデンテの洋食屋に寄るということだった。「あと3ヶ月か…長いな。」この3ヶ月、仕事などを探してみたもののなかなか見つからず…。何故か分からないが、「アルデンテの娘さんなんか恐れ多く雇えません。」と断られることが多かった。そもそもなんでこんなにアルデンテ家と知ると皆断るのか私には全然分からなかった。「そろそろ父さんか、兄さん、マウロに聞いてみるしかないか。」今まで聞かないようにしていたがここまで求職を断られることを考えると、知らないままにしておく訳には行かない。「父さん。今いいか?」「ん?なんだい?」早速話を聞こうと思い、父さんのところに行くと笑顔で迎えてくれた。「アルデンテについて教えてくれ。」「あぁ、いいよ。アルデンテとはパスタを少し歯ごたえが残る状態を言うんだよ。茹ですぎずに歯ごたえが少し残ることで触感も良くなるし血糖値の急上昇を抑えてくれると言われているんだ。」「へぇー。そうなんだ。」「って、そうじゃない!私が聞きたいのはこの家の事についてだよ。」アルデンテの意味くらい知っているのに、なんでここでアルデンテの話なんてしてくるんだ。ただ家の事を聞きたいだけだと言うのに…「だからアルデンテ家は今話した通りなんだよ。」私が少し首を傾げていると、兄さんが聞いていたのか話に割って入ってくる。「アルデンテ家はな。昔からやたらと身体が強いんだ。そして、喧嘩などの戦闘能力も高い。」確かに聞いたことがある。私たちの一家は昔から男性だけでなく女性も
目が覚めると、全く記憶のないところで横になっていた辺りを見渡すとどうやらテントのようだ。外からは野太い声の笑い声が聞こえてくる。「ここは…どこた…?」やたら頬の当たりが痛い気がするが…何があったんだろうか。「あぁ、起きたんですね。」テントが開き、そちらに目を向けると女性がいたら騒ぎ出すであろう顔面の持ち主がこちらへほほ笑みかけてくる。「あ、あの。ここは一体…」「ここですか?」俺の顔を見てなんだか納得したように、「ここはとても楽しいところですよ!」とだけ言ってテントの外に出ていった。後を追って外に出た方がいいのかと迷っていると男が笑顔で戻ってきて俺の首あたりを掴む。どこにそんな力があるのか、というような力で、「さっ!いきますよ~」と言うとズルズル引きずられた。外に出るとどうやら森の中にいるようだ…自分で歩くと言えないままき引きずられているとどうやらひとつのテントの前で止まった。「団長はいりますよー。」「あぁ。」団長と呼ばれているということは…騎士団かなにかだろうか…「よく来たな。アドルフ。」「ひゃ、ひゃぃい。」団長らしき人も相当お顔が整っていらっしゃる…。思わず緊張して声が裏返ってしまった。「ここがどこか分かっているか?」ここがどこか…森の中だということはわかるがそれ以外分からない俺は首を振った。「ふ。そうか
~ルエル視点~エル隊長が居なくなって1週間くらい経ったころだろうか。この部隊も残り半年の任期で終わるという頃、急遽団長から呼び出された。「ダックワーズ団長。急に呼び出しなんて…僕何かしましたか…?」呼び出されるようなことは何もしていないはずだけど…。もしや、エル隊長が居なくなったことで魔物討伐数が落ちているからだろうか…。しかし、考えてみてほしい。そもそもあのエル隊長が1人で殴っては切り、殴っては切りを繰り返していたのだ。「魔物の討伐数が少ないとかでしたら…申し訳ないんですがエル隊長が居なくなったので…」「分かっている。呼んだのは別の内容だ。バルコ、連れてこい。」バルコ副団長が首根っこを捕まえて見たことの無い人をずるずると引き摺ってくる。「こいつが誰かわかるか。」この5年間見たことないからここにいた人では無いと思うけど、どこかで会ったことあっただろうか…。「いや、全く…誰ですかね?」「アドルフといえば分かるか?」「あぁぁぁぁぁ!!アドルフ?お前があのアドルフなのか!」アドルフと言う名前はこの魔物討伐部隊の中でかなり有名な名前だ。まさかそんなアドルフとこんな前線で会えるなんて思ってもみなかった。「ふぁ…ふぁぃ。あのアドルフが分かりませんが…アドルフです…」緊張しているのかやたら覇気のない話し方だ。「ルエル。お前の隊、最近欠員が出たばかりだろ。こいつを入れてやってくれ。」そう言って連れてくよう指示を出す団長を見て、何となく団長が考えていることの意図がわかった気がする。「わっかりましたぁ。僕は大隊長を務めてるルエルと言います。よろしくお願いします。」手を出して挨拶をすると恐る恐るその手を握り返した。アドルフを連れて隊の中に戻ると、皆がアド
兄がメージとロッテの相手をしてくれている間に、私はアドルフに書類を渡す。「お前には慈悲というものがないのか…」兄に対してはあまり反抗的な態度を取らないのにやたら私には突っかかってくる。「その言葉そのままお前に返すよ。」正直言って、アドルフだけじゃなくガーナからも返済してもらうのが1番早かったのだが、そうしなかった理由がひとつある。ガーナのことはそこまで恨んでいなかったからだ。ぶっちゃけた話、アドルフとの結婚は親同士が決めたものだったし、好きかどうか聞かれたら普通と答えるくらいのものだった。「私は無理に結婚する気はなかったんだ。騎士団に2年間行く時点でお前に好きなやつができてもおかしくは無いと思っていたからな。それにお前が私を好きじゃないことくらい分かってたし、私自身も好きか嫌いか聞かれたら普通と答えるくらいだったしな。」それでも結婚しようと思ったのは、母さんが亡くなる直前に「エルには女の子として幸せになって欲しい」と言われたからだ。騎士団に入ると言った時、父さんは「やっぱりお前もか…」と言っていた。母さんの昔話をあまり聞くことがなかったけど、父さんの話的に母さんも騎士団にいたのではないかと思う。自分都合で騎士団に行くことにしたし、もしこの2年で、アドルフに別に好きな人ができたなら、その人と幸せになって欲しいなと思っていたくらいだ。だから正直に話してくれていれば、私は潔く身を引くつもりでいたし、そのまま騎士団にいてもいいと思っていた。だが…アドルフは結婚しようと言ってきた…「お前が金に目を眩ませなきゃこんなことにはなってな
⟡.·*.··············································⟡.·*.アドルフ視点。「待ってくれ!ガーナ。」俺が呼んでもガーナが振り向くことは無かった。ガーナのことはよく公園で見かけた。いつもボロボロな服を着て、それでも笑っている姿が印象的な子だった。子供だからか家の事情なんで全然知らなかったけど、俺の家とは全然違うということはわかった。だからだろうか。すごく気になったのは…いつしか毎日公園に行って遊ぶようになっていた。エルヴィールという許嫁が出来たあとも関係を断つことが出来なかったのは好きだったからなのか同情だったのかは分からない。ただ言えることはガーナが去った今、心の中に穴がぽっかりと空いたような気分だけだ。「ガーナに捨てられたところ悪いが、私も渡したいものがある。離婚届だ。あとは先程話した請求書に名前を記入してくれ。」エルヴィールは俺の気持ちなんか関係な
「エルヴィール。結婚おめでとう。」「ありがとう。」父さんが泣きながら私のウエディングレス姿を見ている。「お前がスカートを履く日が来るとはな…」「「えっ!?泣くのそこなの!?」」そう返したのは兄のラウルと弟のマウロだ。「別にスカートを履きたくなかった訳じゃない。ただ履くタイミングが無かっただけ。」小さい頃は私も可愛い女の子に憧れていた…時期もあった。綺麗なドレスに長い髪や可愛い髪飾りや、フリフリのワンピースにお人形も、周りにいた女の子が持っているものが欲しいなと思った時がある。7歳くらいまでは…。特に貧しい家庭という訳でもかったが、母さんがいつも「着れるものは着れるまで来なさい」というので、いつの間にか兄のお下がりばかりきていたのを覚えている。周りにも男の子の幼馴染が多かったのもあるだろう。兄や弟の友達も合わさると男だらけの中に一人女みたいな感じだ。おかげで毎日喧嘩に、騎士ごっこなど擦り傷が耐えない毎日だった。母さんが豪快に笑いながら「子供は元気なのが1番!」と言っている隣でお父さんは涙をながしながら「お、女の子が怪我なんて…跡が残ったらどうするんだよ…」と言っていた記憶が懐かしい。「母さんにも見せたかったね。」「きっと今頃、天国で笑ってみてるさ。」マウロの言葉に私は空を見ながら返す。男と間違えられるから、せめて髪だけは伸ばして欲しいと父さんに言われて伸ばし続けた。「お前を貰ってくれる奴がいて良かったな。まぁ近所だしいつでも帰ってこいよ。」兄が私の方を叩きながら「今日はちゃんと女の子に見えるぞ。」なんて言うものだから少しだけ嬉しかった。⟡.·*.··············································⟡.·*.結婚式は恙無く終わり、夫の顔も小さい頃から知っているからか不思議と新鮮な気持ちは無かった。きっと初夜も普通に迎えるんだろうなと思って少しドキドキしていると夫からはまさかの言葉が帰ってきた。「ま、まだ、早いと思うんだ。俺はもう少し二人の時間を大切にしたい。2年も会えなかったんだし…」確かに、私は2年間騎士団に所属していた関係でなかなか会うことが出来なかった。洋食屋を手伝うことも考えたけど、「腕っ節が強いしお前に料理は向いてねぇ」と兄に言われて、知らない間に騎士団に入っ...
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