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ー戦場①ー

last update Last Updated: 2025-04-03 20:00:00

扉を閉められるのと同時に、「ガチャリ」と鍵をかけられる音が聞こえた。

「ち、ちょっと、開けてよ!」

扉を何度か叩いても出てくる気配はなく、周りの家の人達が「何事だ!」と私のことをジロジロと見てくる。

さすがにこのままでは埒が明かないと思った私は一旦この場を離れることにした。

「参ったな…」

髪も切られてすごく短くなってしまったし、カバンの中を見ても入っていたものはたった一つ。

「なんだこれ…さっき届いた手紙だけじゃないか。せめて金くらい入れとけよ…」

この家だって私が借りている家だ。お金もほぼ私が出している。

じゃあ、アドルフは何してるかってなるけど。この半年…仕事をしている様子はほとんど無かった。偶に夜居ないことがあったけど…

実家に帰ると言っていたから仕事をしていた訳じゃないだろう…。

1回実家に帰ることも考えたけど、結婚してまだ半年…笑顔で送り出してくれた家族を巻き込む気にはなれなかった。

「まっ、なるようにしかならないか。」取り敢えず髪を軽く整えてから戦場へ向かう。

無一文で行けるところは戦場敷かなかったからだ…。

前線までは乗合馬車や歩いて進んでいく。

おそらく馬車に乗っている人たちも同じように戦場に向かう途中なのだろう。

「今回は長引く可能性が高いらしい。」

とか、

「噂だが今回参加されている騎士団長がすごい怖い人だ」

とか、

「帰って来れない可能性も高い」

など様々だ。

そんな所へ嫁を送りこむとは本当に何考えてんだ。

「おい、おまえ。」

少しアドルフのことを考えてイライラしていると、強面でスキンヘッドの兄さんに声かけられた。

「お、俺ですか!?」

「そうだ。お前以外居ないだろ…」

一応アドルフとして参加しないといけないため、私は咄嗟にアドルフ話し方を真似る。

「な、なんでしょうか?」

「なんで女が乗っている。」

「わ、わわお、俺は女じゃない。男だ!」

間違えて私と言いそうになったのを直す。そもそもアドルフらしさを出す必要が無いか。

私呼びなんで男でもするのだ。いつと通りにしておけば、楽だったかもしれない。

「まぁ、いい。俺はヘッディーだ。よろしく。」

「俺はアドルフ。よろしくな。」

ヘッディーが手を出してきたのでその手を取って握手をした。

馬車に乗って進んでいくと、段々辺りの空気が重くなってくる。

「ヘッディー…」

「あぁ。そろそろ着きそうだな。」

道中色々話している間にヘッディーとはかなり仲良くなっていた。

見た目は似ても似つかないが性格がどことなく兄さんに似ていて話しやすかったのもあるのかもしれない。

取り敢えず私は気を引き締め直そうと深く深呼吸をした。

⟡.·*.··············································⟡.·*.

ヘッディー視点。

馬車に乗っていると線の細い奴が一人乗ってきた。

髪は短いが、話し方を見ても男にしか見えないが、なにか違和感がある。

自分から好き好んで来たと言うよりは、徴集されたのだろう。徴集命令が下りると断ることができない。その代わり任期満了までの間は実家にお金を送ってくれるそうだ。

勿論途中で命を落とした場合も、満了まではお金が貰える。

そして、その間俺たちのご飯などはどうなるのか…もちろん無料で提供される。

夜にはお酒まで出るのだから、腕っぷしに自信のある奴らは徴集関係なくても集まるのだ。

おそらくこの馬車に乗っている中の半分位は以前も来たことがある奴らだろう。

俺は隣に腰かけた少年に声をかける。

「おい、お前。」

「な、なんでしょうか?」

やたら声が高いな。本当は女なんじゃないだろうか。これから行く場所は、かなり危険な場所だ。だから出来れば帰った方がいいんじゃないかとおもうと自然と声を発していた?

「なんで、女が乗っている。」

違う。確かに聞きたかったことだが、あまりにも直球すぎる言葉が出てきて、思わず自分の言葉に突っ込んでしまった。

 

「わ、わわお、俺は女じゃない。男だ!」

すごい吃るな。やはり、女なのでは無いか。隠さないといけない何かがもしかしたらあるのかもしれないと思うと、俺はそれ以上何も聞くことが出来なかった。

お互いの自己紹介を終え、前線まで向かっている間に色々話すとどうやら俺に似ている兄貴がいるそうだ。

「まっ、見た目はヘッディーみたいに厳つい感じじゃないんだけどね。ただ見た目に反してやたら強いんだよ。兄さん。」

兄貴の話をしているところを見るとなんだか少女にしか見えない。

「へぇ。もしかしたらどこかで会ってるかもなぁ。」

そう言えば1人だけ…新兵ですごい強い奴がいたが…。

その後すぐ顔を見なくなったから、任期満了で帰ったんだろうなと思っていた。

まさかこの時話した男がこいつの兄だと知ったのは結構時間が経った後だった。

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    アドルフと別れてから、3ヶ月ほど経った頃ルエルから一通の手紙が届いた。その手紙にはあと3ヶ月で任期が終わるということと、アドルフが使えなさすぎて皆にいつもバカにされているということ。そして、任期を終えたらアルデンテの洋食屋に寄るということだった。「あと3ヶ月か…長いな。」この3ヶ月、仕事などを探してみたもののなかなか見つからず…。何故か分からないが、「アルデンテの娘さんなんか恐れ多く雇えません。」と断られることが多かった。そもそもなんでこんなにアルデンテ家と知ると皆断るのか私には全然分からなかった。「そろそろ父さんか、兄さん、マウロに聞いてみるしかないか。」今まで聞かないようにしていたがここまで求職を断られることを考えると、知らないままにしておく訳には行かない。「父さん。今いいか?」「ん?なんだい?」早速話を聞こうと思い、父さんのところに行くと笑顔で迎えてくれた。「アルデンテについて教えてくれ。」「あぁ、いいよ。アルデンテとはパスタを少し歯ごたえが残る状態を言うんだよ。茹ですぎずに歯ごたえが少し残ることで触感も良くなるし血糖値の急上昇を抑えてくれると言われているんだ。」「へぇー。そうなんだ。」「って、そうじゃない!私が聞きたいのはこの家の事についてだよ。」アルデンテの意味くらい知っているのに、なんでここでアルデンテの話なんてしてくるんだ。ただ家の事を聞きたいだけだと言うのに…「だからアルデンテ家は今話した通りなんだよ。」私が少し首を傾げていると、兄さんが聞いていたのか話に割って入ってくる。「アルデンテ家はな。昔からやたらと身体が強いんだ。そして、喧嘩などの戦闘能力も高い。」確かに聞いたことがある。私たちの一家は昔から男性だけでなく女性も

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    目が覚めると、全く記憶のないところで横になっていた辺りを見渡すとどうやらテントのようだ。外からは野太い声の笑い声が聞こえてくる。「ここは…どこた…?」やたら頬の当たりが痛い気がするが…何があったんだろうか。「あぁ、起きたんですね。」テントが開き、そちらに目を向けると女性がいたら騒ぎ出すであろう顔面の持ち主がこちらへほほ笑みかけてくる。「あ、あの。ここは一体…」「ここですか?」俺の顔を見てなんだか納得したように、「ここはとても楽しいところですよ!」とだけ言ってテントの外に出ていった。後を追って外に出た方がいいのかと迷っていると男が笑顔で戻ってきて俺の首あたりを掴む。どこにそんな力があるのか、というような力で、「さっ!いきますよ~」と言うとズルズル引きずられた。外に出るとどうやら森の中にいるようだ…自分で歩くと言えないままき引きずられているとどうやらひとつのテントの前で止まった。「団長はいりますよー。」「あぁ。」団長と呼ばれているということは…騎士団かなにかだろうか…「よく来たな。アドルフ。」「ひゃ、ひゃぃい。」団長らしき人も相当お顔が整っていらっしゃる…。思わず緊張して声が裏返ってしまった。「ここがどこか分かっているか?」ここがどこか…森の中だということはわかるがそれ以外分からない俺は首を振った。「ふ。そうか

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