Share

ー久しぶりの帰還⑥ー

last update Last Updated: 2025-04-04 19:00:00

「で、思い出したか?お前の団長の名前…」

兄さんの言葉に「あ、あぁ」とだけ返す。

昔は仲良くなくて喧嘩ばかりしてたというのに、いつの間にか手紙のやり取りをする仲になっていたとは誰が想像できようか。

「昔は団長と仲良くなかったじゃないか。」

「オディとは戦場で1回会ってな。そこからは相棒のような感じだよ。昨日の敵は今日の友って言うだろ!」

兄さんの場合、昨日の敵は今日も敵の方が正しいと思うけど…と思わず口まで出かかったが飲み込んだ。

「それでお前が死んでないということを知ったという訳だ。」

最後の方はなんか面倒くさくなってまとめました感あったけど、話に飽きてきていた私はとても助かった。

「ありがとう。で、ラウル兄。ここからはお願いなんだけど…」

頭を掻きながら深くため息をつき「なんだ?」と聞いてくる。

「1日早いんだけどこのままここにいてもあまり外に出れないからさ、明日戻ろうと思うんだ。それで…」

あいつら家族の暮らしについて少し調べておいて欲しいということをお願いした。あと出来れば寮生活していた頃のあの二人についてもだ。

「私は今回帰ったらアドルフとしてではなくエルヴィールとして残りの任期を満了できないか聞いてみようと思っている。」

出来ればアドルフの名前の時に貰った給金も全て返してもらいたいところだけど、そちらについては団長に話してからになるだろう。

「できる限りあいつには全てを返してやりたい。あとは、私の任期が満了した暁にはあいつを魔物討伐部隊に送ってやれればいいと思っている。」

性格が悪いと言われようがなんだろうが、それだけの事をあいつはしてきたのだ。

頑張って伸ばしてきた髪を切られたことも忘れない。

兄さんに頭を下げてお願いをすると、「わかった。任せとけ。」といってリビングを出ていく。

兄さんの後ろ姿に「ありがとう」というと、軽く手を挙げて、「ちゃんと戻ってこいよ。」と一言だけ。でもその言葉がすごく嬉しかった。

Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Related chapters

  • 夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す   ー再び戦場にー

    魔物討伐部隊と合流すると、久しぶりに我が家に帰ってきたような錯覚に陥る。実家にいてもゆっくりすることは出来たが、ここに来て長いこともありいつの間にか身体が慣れてしまっているのかもしれない。「おぉ!アドルフ隊長じゃねぇか!帰ってきたんだな。」「アドルフ隊長!聞いてくださいよ」「アドルフ隊長!!」私は皆に軽く挨拶をしながら団長の所に向かった。ここまで見たところ大きなけがを追ったやつは居ないようで少し安心した。「ダグワール団長。アドルフ、ただいま戻りました。休暇を頂きありがとうございました。」団長のテント前で声を張上げて伝えると、団長はテントを開けて迎えてくれる。「うるさい。そんなに声をはりあげなくても聞こえている。それに休暇は明日までだったはずだが…」「すみません。団長に話しておきたいことがありまして…」「…と、言うことなんです。」私は一時帰宅した時に起こったことを伝えた。全てを伝えると長くなりそうだったので掻い摘んで伝えただけだけど…「なるほどな…でお前はこれからどうするんだ?このまま泣き寝入り…するなんてタマじゃねぇよな?」「そうですね。まずはアドルフとして働いてきましたがここからはエルヴィールとして残りの任期をはたらかせて欲しいんですが…」あとはアドルフが貰っていた給金をあいつに返してもらうために、今までの金額を知りたいこと。アドルフが来ていなかったことが立証出来ればあいつをまた徴集することは出来るかなどを確認する。「まぁ、いいだろう。休暇明けからはエルヴィールとして働く事は出来る。お前の場合は腕っ節があるからな。女だとバレたところでなにか言ってくるやつはいないだろう。」確かに、この辺りにいるヤツらと喧嘩しても負ける気はしない。負けるとしたら団長、副団長達くらいだろう。「給金については金額を伝えることは可能だが、それ以上はこちらとして何も出来ん。」

    Last Updated : 2025-04-04
  • 夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す   ー再び戦場に②ー

    中隊長になってからはBランクの魔物を中心に戦うことが多くなっていた。最近では弱い魔物も討伐され、残るのは中級以上の魔物ばかりだ。「アド…じゃなかったエルヴィール中隊長。今日の魔物討伐はサラマンダーとの事です。」「サディ。わかった。それと言いづらいならエルでいい。」サディは中隊長になってから配属されてきた1人だ。副隊長は相変わらずルエルが行ってくれている。「は、はい!エル中隊長。失礼します!」それだけ言うと走り去っていく。向こうで「中隊長と話しちゃったぁ」「ずるーい」みたいな声が聞こえてきたけど…少し複雑な心境だ。女の子っぽい雰囲気だが、声音がすべて野太いのだ。女と明かした時は、皆に軽蔑されるかとも思ったが、そんなことは無く…「女であれだけつえーの?逆にかっこよすぎるわ!」「何となくわかってました。女だろうが男だろうが関係ねぇ。隊長は隊長っす。」野次が飛ぶことはなく、ただ尊敬の眼差しで見られた時には吃驚したものだ…。まぁ、その根本にはラウルとマウロの兄弟ということもあるらしいが。あの二人は一体何をやったのか…聞いても皆顔を逸らすので分からない…が何となく他の人ではできない何かをやったんだろうなとは思う。朝食を食べ終え準備を開始する。今回の魔物はサラマンダーという事で、初Aランクの魔物だ。「ルエル。サラマンダーは火を吹くでかいトカゲだよな。皮とかは硬いのか?」「そうですね。でかいトカゲではありますね。皮とかはそんなに固くないと思います。」皮はそんなに固くないという事であれば、火に気をつけていれば何とかなりそうな感じがするな。「固くは無いですが、火を噴くくらいですから体は高温ですよ。だから素手で行けるだろうと思っているなら考えを改めた方がいいかと…」打撃で闘う方が楽なのに残念だ。取り敢えず強さが分からないが&

    Last Updated : 2025-04-04
  • 夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す   ー再び戦場に③ー

    ルエルたちが何とかサラマンダーを一体倒した所で次の標的を探して歩き出す。森の中では馬で移動が難しいため基本徒歩だ。「それにしても思ったよりサラマンダーが少なくないか…?」同じ時期に入隊したヤーコフが話しかけてくる。確かにこれだけ探してもであったのは2体しかいないのは少ない。少ないことに越したことはないが…レッドスライムがいた形跡はあるし、サラマンダーがいた形跡もある。「ルエル。私たちがここに来る前にきた部隊はいるか?」ルエルに声をかけると、立ち止まってこちらに向かってくる。「この辺に来たのは僕たちの部隊がはじめてですね。」「そうか…。何か臭うな…」「えっ?僕臭いですか!?」この空気の中でとんでもないことを言い出すルエルの頭を思わずスパーンと叩く。「い、痛いっす…。」「お前がこの状況で冗談なんて言うからだろ?面白くない話するから、天気まで崩れてきたじゃないか…。」急に空気が重くなり今にも雨や雷が鳴りそうな雰囲気だ。「ほ、ほんとっすね…」ルエルは急に目を逸らして少し上の方を見る。「話す時は目を見て話せって言ってるだろ。」「そ、そうっすね…」少し脅えたような顔をしているがそんなに私が怖かっただろうか。「どうした?隊長でも

    Last Updated : 2025-04-05
  • 夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す   ー再び戦場に④ー

    ドラゴンに出会った時はどうなるかと思ったが、無事に帰ってくることができて、あっという間にここに来てから4年が経とうとしている。いつの間にか自分も古株だ。「隊長!ここにいたんですね。」木の上で手紙を読んでいると、ルエルが声をかけてきた。昔から隠れ鬼をして負け無しだったから、見つかった時はびっくりしたものだ。ルエル曰く、4年も一緒にいれば何処にいるのか分かるらしい。「あぁ。兄から手紙から届いたから読んでいた。」定期的に兄や弟からは連絡が来るものの夫でもあるはずのアドルフからは一切連絡が来ることは無かった。兄からの手紙にはアドルフの事が細かく書かれていた。なんだかんだ頼んだことはしっかり行ってくれるいい兄だ。「ルエルはここの任期を終えたらどうするんだ?傭兵にでもなるのか?」「いや、僕はやらないといけないことがあるので元の仕事に戻りますよ。」徴集される時は国からの支持のため仕事は休暇扱いになる。だから元の仕事に復帰することは簡単だ。「私も帰ったら仕事探さなきゃならないな。」出来れば傭兵とか出来たらいいんだが、女ということもあり難しいかもしれない。それに父さんにバレたら拳骨が落ちそうだ……。「僕いい仕事知ってるんですけど、紹介しましょうか?」そもそもルエルがなんの仕事をしてるのかも知らないが…洋食屋での仕事は人手が足りているだろうし、何故か昔から台所に立つなと言われてきたから難しいだろう。全て給金が手元に帰ってきたら田舎で、1人ゆっくり暮らすのもありかもしれない…「まぁ、仕事が見つからなかったらその時は頼むよ。」「了解です!いつでも仕事紹介するんで言ってくださいね!それにしてもあとすこしで任期満了だとおうと…なんだか寂しいですね。」「そうだな…と言ってもまだあと1年はあるんだ。他の隊では最近魔物討伐で死者が出ていると聞く。最後まで気持ちを切らさないようにしよう。」この隊ではまだ幸い大きな怪我をする人が出ていないが、他の隊では結構な死者が出ているそうだ。ルエルと話しながら隊の元に戻ると、団長が声を掛けてきた。「エル。ちょっとこっちに来い。」無愛想な物言いは変わらないが、いつも気にかけてくれているということはわかる。「団長、なんですね?」「急遽で申し訳ないんだが、お前に大隊長を務めてもらいたい。そしてこのSランクのドラゴンを討伐してきて

    Last Updated : 2025-04-06
  • 夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す   ー再び戦場に⑤ー

    「ルエル。ヘッディー。ヤーコフ集まってくれ。」「「「了解!」」」丁度3人も近くにいたのか直ぐに集まってくる。「楽しんでいたのにすまないな。明日からのことについて話しておきたい。」「大丈夫だ。それより話というのは…」こういう時ヘッディーが近くにいてくれるのはとても心強い。良き兄貴分という感じだ。「大隊長になったから明日からの任務の難易度が少し上がる。明日の討伐はグラスドラゴンだ。」「「「…え?」」」3人とも聞き返すのでもしかしたら聞こえなかったのかもしれないと同じことを伝える。「明日の討伐はグラスドラゴンだ。こいつには騎士団全体苦い思いをさせられているらしい。だから、少し気を引き締めてだな…ってお前ら話聞いているのか?」真剣な話をしているというのに、なぜか顔がニヤニヤしている。「そこじゃないです!その前の言葉をもう一度言ってください。」その前の言葉…?「だ、大隊長になったからだったか?」「「「そう、そこですよ!」」」3人が顔を前に突き出しながら話してくるので思わずびくりとしてしまう。ルエルはまだいいが、他2人は顔が思いっきり極悪人面なため、怖い…「ヤーコフ。皆を集めろ!」「アイアイサー!あとは酒ですね!!」「酒は僕が持ってきますよ!さぁ!今夜は祝杯だ!」ヘッディーを筆頭に3人が意外な団結力を発揮する。遠くではヤーコフの声が響き渡っていた…「中隊長が大隊長になったぞ!今日は祝杯だ。」それよりも明日からの話をしたかったんだが、皆がお酒を持って近付いてくるので仕方なく皆と乾杯する。「「「「おめでとうございます!エルヴィール大隊長!」」」」祝ってくれるのは素直に嬉しいが…今明日からの大事な話をしようと思っていたんだがな。ここまでい

    Last Updated : 2025-04-06
  • 夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す   ー再び戦場に⑥ー

    空気が段々と重くなってきたところを歩いていると前回と同じように全く魔物が居ないところがあった。「皆、警戒態勢をとれ!」急いで指示を出していく。勿論私もレイピアを片手にもち片手は少し厚手の手袋だ。理由は寒さ対策である。決して殴るからとかでは無い…。前にいる者達が盾をもって進んでいくと、地面が少し動いた、「皆地中だ。地中の中にいるから気をつけろ!」急に地面が揺れ始め、地響きがする。音を聞く感じ少しづつ動いているようだ。音を辿りながら動きを把握すると上の方から雪がすごい勢いで落ちて来るのが見える。「皆、急いで避難しろ!雪崩が起きるぞ!」そう伝えると急いで皆が雪山をおりていく。その姿を見て私は急いで指示を出した。「いいか!全員生きてこの場を帰還しろ!それだけを考え前に進め!決して後ろを振り返るなよ!」「たいちょう!!」「エル大隊長!」雪崩を止めるのは無理かもしれないがそれと一緒に来るドラゴンは止められる可能性がある。出来れば最後にアドルフに色々言ってどん底に落としてやりたかったが、それ以上に私はこのバカたちの方が大事らしい。「いつの間にかここが私の居場所になっていたんだな…」レイピアを手に持ち、一つ一つ雪を踏み締めながらドラゴンの方へ向かう。ドラゴンが地面を進んだところが大きな蚯蚓脹れのように盛りあがっていた。ドラゴンが出てくるであろう場所を目掛けて走り出すと少しずつドラゴンが顔を出した。そしてグラスドラゴンが胴体まで出すと同時に雪山が大きな音を立てて崩れ始めた。「私はこんなものでやられるつもりは無いぞ!」大きく上に飛び上がり、ドラゴンの角を持った。グラスドラゴンはドラゴンと言っても羽が生えているドラゴンではないようだ。どちらかというと角のある大きな蛇だろうか…「冷たっ」角は氷で覆われていて冷たいが持て

    Last Updated : 2025-04-06
  • 夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す   ー再び戦場に⑦ー

    グラスドラゴンを岩に打ち付け、氷が割れた瞬間を狙って私はレイピアで上から切りつけた。そして、切りつけると同時にグラスドラゴンは咆哮をあげて暴れ出す。「お、おい、そんな暴れるなよ。」グラスドラゴンに落ち着くように話すものの落ち着く気配は無い。このままでは振り落とされてしまうと感じた私は急いでグラスドラゴンから降りた。つもりだった…まさかの地面に着地しようとしたら勢いよく滑って気絶してしまったのである…「団長、俺が隊長持ちますよ。」「いや、いい。」「でも…」「エル触れるな。バカ。」意識が浮かび上がる途中、ヘッディーと団長が言い合っている声が聞こえる。「だ、団長…。」「え、える!しっかりしろ…える!」「お、お腹がすきました…」ここ数日何も食べていないようなそんな気がする。「全く、3日も寝ていたのに、起きて早々その言葉はなんだ。何か持ってくるから待っていろ。」少し悪態をつきながらもご飯を持ってきてくれるのは優しい。というか、ドラゴンを倒す前、死ぬかもしれないと思いながら出ていったにもかかわらず、まさか自分がここまだピンピンしているとは思わなかった。「まっ、みんな無事ならそれはそれで良かったか…」誰かがかけるというのだけは避けたかったから本当にいい結果になってよかったと思う。そして、空から数日後、私はベッドから起き上がりいつもと変わらぬ毎日を送れるまで回復していた。そしてそこからまた数日後…あっという間にここに来て5年が経っていた⟡.·*.···········&midd

    Last Updated : 2025-04-07
  • 夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す   ー全てを返してもらいます①ー

    昨夜は朝方まで皆で飲み明かした。私が大隊長を務めた部隊はほとんどが残り半年の任期ということで、残りはルエルが引き継いでくれるそうだ。グラスドラゴンが魔物大量発生の原因だったらしく、グラスドラゴンが居なくなったことで残るところBランクからDランクの魔物ばかりらしい。みなに軽く挨拶を済ませたあと、団長の所へ向かう。「ダックワーズ団長、今までお世話になりました!」「オディで構わんと言っているだろうが…。」「またお会いした時はオディと呼ばせて頂きます。」団長はこの魔物討伐が終わるまでここに残るらしい。「エル。これを渡しておく。アドルフがここには来ていなかったという書類だ。あと、お前に払った今までの給金だな。月銀貨30~100枚だ。」初めの半年は30枚で、小隊長になってからの2年は50枚。中隊長で70枚。大隊長で100枚だそうだ。「あとはお前がレッドドラゴンと、グラスドラゴンを倒したからな。特別給金を含めて銀貨5000枚だ。金貨にすると50枚だな。」「金貨ごじゅぅぅううう!?」「そうだ。アドルフにはバレないよう30枚は自宅に送っていたからな。銀貨1800枚。ここまで書いてあれば役に立ちそうか?」まさかの金額にびっくりしてしまった。大体、一家族銀貨20枚あれば暮らせるくらいの危険手当がついているにしてもかなり裕福な暮らしができる。「あ、ありがとうございます!隊長……まさかの金額にビックリしました。」「お前はそれだけの事をやったからな。まぁ、ラウルやマウロもお前より任期は3年ほど短かったが、ドラゴン倒してたからそれなりの金額をもらっているはずだ。本当にどうなってるんだ。お前ら兄弟は…」「まぁ、兄とマウロは、規格外ですからね!あの二人は怒らせるとろくな事にならないです。」あの二人がキレると本当に手が付けられない。誰に似たのかと思うけど、普段温和な父さんが怒ると似たような感じだからそっくりなんだと思う。「フ。それは知っている。どれだけケンカをしてきたと思っているんだ。」確かに私より喧嘩の相手をしていたのは団長だ。それにしても団長が笑うなんて始めてみた気がする。「そうですよね。顔合わせると毎回喧嘩してましたもんね!あと、余計なお世話かもしれないですけど、団長笑った方がいいですよ。それじゃあ、お世話になりました。」団長から書類を受け取り、乗合馬

    Last Updated : 2025-04-08

Latest chapter

  • 夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す   永久就職

    騎士団に入ってから3年が経った。この3年は他の領地にある騎士団が魔物討伐に向かっているため、比較的平和な時間を過ごしていたように思う。騎士団に入ってから知ったことだが、この国では魔物討伐を率いる騎士団は領地ごとで順番になっていたようだ。たまたま私が行った時の魔物討伐部隊を率いていたのが自領のダグワール騎士団だったらしい。「団長、エルヴィール・アルデンテです。失礼いたします。」朝一で団長から呼び出された私は、急いで団長室へ向かう。「あぁ。待っていた。そこに座ってくれ。」団長に促されてソファに腰を掛けると、団長も前のソファに座った。「それで…話とは、何でしょうか?」最近、これといって呼び出されるようなことはしていないと思うのだが…確かに以前は訓練で女だとバカにしてきたやつを片っ端から倒していたが、それもかなり前の話で今は落ち着いている。今でも喧嘩を吹っかけてくるのは新兵くらいだ。「魔物討伐遠征に行くことになりそうなんだ。」「なんだ…そんなことか…また、何かしたのかと思っていたので安心しました。それで次の遠征期間はどのくらいでしょうか。」また5年とかかるのだろうか…それなら父さんたちに伝えてから行かないとまた大変なことになりそうだ。「…次は1年の予定だ。以前のように魔物が活性化しているわけではないし、調査してもし活性化しそうであれば早めに対処しておこうということになった。」1年なら、全然問題なさそうだ。活性化していないということであればそこまで強い魔物もいないだろう。「その、お前は寂しくないのか?ほら、俺に死んでほしくないと…以前言っていたじゃないか。」「なんで寂しくなるんです?それに今回の魔物討伐で死んでしまう予定があるのでしょうか…?」この人は何を言っているんだろうか。私も行くわけだし、寂しいも何もないと思うのだけど…確かに魔物討伐に行くのだ。急に

  • 夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す   伝説の家族

    騎士団に入団してから1年が経った。入団してからすぐのころは確かに女だからとバカにされることが多かったが、いつからかバカにされることはなくなっていた。恐らく、アルデンテと家名を伝えれば初めからバカにされることはなかったのだろうと今になっては思う。「バルコ副団長。私のわがままで申し訳ございませんが、家名は伏せておきたいと思っています。」「どうして?エルの家名を伝えればほとんどの人が黙るはずだよ。」「だからですよ…やっぱりこれから長い付き合いになるわけですし、自分自身のことを見てほしいと思いまして…」アルデンテ一家の名前が偉大なのはここ数か月で何となくわかった気がするが、「アルデンテ家だから」と思われるのは少し嫌だったし、やっぱりエルヴィールとして見られたい。そう思ってこの一年はがむしゃらに頑張っていたら、いつの間にか、部隊長にまでなっていたのである…。そして、もう一つ…この一年は団長と約束していた通り、休みの日は一緒に食事をしたり、出かけたりした。この1年間で気づいた事といえば、団長は思っていた以上に抜けていることが多いということだった。仕事の時は皺やシミのない制服をきちんと着飾っているような人が、休みの日になると少しヨレっとした服を着ているという感じだろうか。きっと女性たちはこういったギャップに弱いのだろう。あとは食べ歩きをしているとトマトなどのシミがついてしまうことが多い…そんな姿もかわいいと感じる部分なのかもしれないが…普段のしっかりとした団長を知っている手前、なんだか少し恥ずかしい気持ちになってしまうことが強かった。今日もそんな団長と休みがかぶっているため、一緒に食事に行

  • 夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す   ま、まさかの!?

    「え?結婚ですか?」就職先がやっと決まり、明日から念願の騎士団で働けると喜んでいたのも束の間、団長が他にも話があると言うので待っていると、まさかの話だった…。「結婚ってあの結婚ですよね?」単刀直入過ぎて頭がショートする。離婚して半年は経ったが、まさか自分が告白されるなんて思っていなかった。いや、告白なのか?好きと言われた訳でもないが…「そうだ。その結婚だ…」もしかして早く結婚でもしろと言われているのだろうか。でも団長ならモテそうだし、女性が放っておかなさそうだが…「なぜ私なのでしょうか。団長でしたら引く手数多でしょう。」私はそのまま疑問に思ったことを直接聞く。バツイチだし、とうが立っているしどこもいい所がないと思うが…「お、お前のことが昔から好きなんだ。」好き!?私を?!昔って喧嘩しかしてなかったけど…。「はぁ。昔って喧嘩しかしていなかったと思いますが…そんな話とかしましたっけ?」「確かに、昔は喧嘩ばかりだったが、喧嘩の理由だってお前のことが多かったんだ。それにお前が楽しそうに喧嘩したり、魔物討伐している姿をみると胸が高鳴るというか…」え…?それはさすがに…「私に殴られたいってことですか?もしかしてそういう趣味をお持ちなんですか?」「ちがう!そうじゃない!ただお前の戦い方は清々しいほど真っ直ぐでかっこいいんだ。お前が戦っている姿を見てさらに惚れた。だから結婚してほしい。」何となく団長が言いたいことは、わかった。兎に角好きだから結婚したいということなのだろう。「私は、1度結婚に失敗しています。なのでもし次結婚するなら失敗はしたくないと思っています。」「あぁ…」結婚してみて思ったが、我慢する生活は良くないとつくづく思った。言いたいこと言ってお互いのことを尊重し合えるようなそんな関係がいい

  • 夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す   やっと…就職先が決まりました!

    応接室の中で待っているとガチャりと扉が開く音が聞こえる。私はその音が聞こえた瞬間立ち上がった。「待たせたな。」「とんでもないことでございます。こちらこそ、お忙しい中、急遽面接を行って頂きありがとうございます。」一言挨拶をしてから頭を下げる。「いい。頭をあげてくれ。それでは面接を始めようか。」「は…い…?あれ?だ、だ、だんちょう?」頭をあげると目の前には昨日も一緒にお酒を飲んでいたはずの団長が座っていた。「魔物討伐部隊では挨拶をしたが、ここでは初めてだったな。改めてオディロン・ダックワーズだ。ダックワーズ辺境伯領にあるダックワーズ騎士団長をしている。」団長が目の前にいることにびっくりしたが、自分も改めて挨拶しなくてはならないと思い、気を持ち直して挨拶をする。「改めまして。ダックワーズ団長。この度は面接の機会を頂きありがとうございます。私、エルヴィール・アルデンテと申します。先日、名誉なことに騎士爵を賜りました。特技は戦闘全般です。よ、よろしくお願いいたします。」「こちらこそよろしく頼む。仕事内容を話したいので座ってくれ。」いつも団長は鎧を着ていることが多かったからか、スーツを着ているのが少し新鮮だ。「失礼します。」私は団長に言われた通り、ソファに座ると団長も私の前に腰を下ろした。⟡.·*.··································&m

  • 夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す   面談先は…?

    「いたたたたた…」昨日途中までは皆で騒いでいたのを覚えているけどいつの間にか寝てしまっていたようだ。椅子で寝てしまったせいか腰と頭がすごく痛い。頭は二日酔いのせいだろう…。周りにもそのまま寝てしまったのかイカつい男たちが店の中で雑魚寝している。少し伸びをしてから立ち上がり首や肩を軽く回すと、隣で眠っていたルエルが目を覚ました。「すまん、起こしたか?」「そんなことないですよ。おはようございます。隊長。」ルエルも横で伸びをする。そろそろ仕込みが始まる時間なのか、父さんたちも起きてきたようだ。「おい、お前らそろそろ起きろ。」「あぁぃぃ。おはようございます。」少し大きい声でみなに聞こえるように声をかけるとのそのそと起き上がる。団長と副団長が居ないところを見ると昨夜のうちに帰ったようだ。「そろそろ開店準備をする時間だから帰れ。」少し眠いのか目が空いていない人や二日酔いで頭を押えているものがいる。「ルエルは大丈夫なのか?」「僕は大丈夫ですよー!隊長こそ、昨日話したこと覚えてますか?」ルエルは昔からやたらと酒が強かった。皆が酔っ払っていてもそれを見ながら笑っているくらいでケロリとしている。「あぁ、準備が出来たら地図のところに向かうよ。」「よろしくお願いしますね!門番に僕の紹介できたことを伝えてもらえれば入れますんで!それじゃあ、そろそろお暇します。」「わかった。こちらこそよろしく頼む。また後でな。」面接の時に会えるか分か

  • 夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す   仕事が決まってないのは私だけ!?

    「アドルフの話はこのくらいにしておいて、そろそろ隊長の話を聞きたいです。隊長は仕事決まったんですか?」「わ、わ、私か!?仕事はな…見つかりそうではあるのだが…」4人がこちらを同時にみて「やっぱりまだ見つかっていないのか…」というような顔をしてくる。失礼な奴らだ。今まで全く求職活動をしてこなかったわけではないんだ。ただ、自分に見合う仕事がなかった…というだけのこと。「そうなんですねー。見つかりそうだったならよかったです。もし見つかっていないのであれば、以前お話していたお仕事を紹介しようかなと思っていたんですけど…」ルエルはこちらをチラチラ見ながら話してくる。この顔は本当は紹介してほしいんでしょ?という目だ。「ゴホン。ル、ルエルもしよければ参考までに、その仕事の内容だけでも教えてくれないか?」「えぇ。参考ですか?そんなの面倒くさいですよ!守秘義務というのもありますし、ここではお伝えは難しいですね。それに隊長は仕事見つかりそうなんですよね?でしたら必要ないじゃないですか。」「た、たしかにそうなんだが…な…その…すまない…仕事はまだ決まっていないんだ…」正直言ってルエルが仕事を紹介してくれるというのは渡りに船だった。半年間色々面接は受けたもののうまくいかず、最近では本当に仕事ができるのかさえ不安になってくる始末だ。「最悪、自分で傭兵団を作るのかもありかなと思っていたところだ。」傭兵団に入ることも何度か考えたが、女性が入れる傭兵団は限られておりあまりいい噂を聞かな

  • 夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す   久しぶりの再開

    何を仕事にしようか考えているとあっという間に3ヶ月が過ぎていた。その間は特に仕事をしていなかったが、今まで稼いだお金があったので何とかなった。実家でこのまま暮らし続けるなら、魔物討伐出もらった銀貨があれば仕事をしなくても全然生きていけるが、それはそれでアドルフ達と同じようになってしまうのが何となく嫌だった。10年間はアドルフからお金が帰ってくる予定だけど、戻ってこない可能性も大いにあるだろう。あくまでも予定であって、生き残れなければ意味が無いからだ。傭兵団に入ることも考えたが、入ってしまえばなかなか戻って来れないだろう。で、あれば衛兵の仕事をするか…だが、衛兵は男性のみの職場だ…仕事について考えていると、マウロが部屋にきた。「エル姉。今いい?」「どうしたんだ?」「ちょっとお店に顔出して欲しいんだけど…」今考えることで忙しいのに、なんで店に顔を出さなきゃ行けないんだ。「今考え事で忙しいから無理。」「どうせ考えても答えの出ないことをぐるぐると考え続けているんだろ。ここの所ずっとそうなんだから分かるよ。とりあえず気分転換だと思って出て。待ってるからね!絶対だよ!」それだけ言うとわざと大きな足音を立てながら階段を降りていった。「仕方ない…降りていくか。」私は寝間着から着替えて、髪をポニーテールに結んでから階段をおりていくと、洋食屋にしては珍しい大きな笑い声が沢山響いていた。「今日はなんだかうるさい…え…?」

  • 夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す   求職活動は前途多難でした!

    アドルフと別れてから、3ヶ月ほど経った頃ルエルから一通の手紙が届いた。その手紙にはあと3ヶ月で任期が終わるということと、アドルフが使えなさすぎて皆にいつもバカにされているということ。そして、任期を終えたらアルデンテの洋食屋に寄るということだった。「あと3ヶ月か…長いな。」この3ヶ月、仕事などを探してみたもののなかなか見つからず…。何故か分からないが、「アルデンテの娘さんなんか恐れ多く雇えません。」と断られることが多かった。そもそもなんでこんなにアルデンテ家と知ると皆断るのか私には全然分からなかった。「そろそろ父さんか、兄さん、マウロに聞いてみるしかないか。」今まで聞かないようにしていたがここまで求職を断られることを考えると、知らないままにしておく訳には行かない。「父さん。今いいか?」「ん?なんだい?」早速話を聞こうと思い、父さんのところに行くと笑顔で迎えてくれた。「アルデンテについて教えてくれ。」「あぁ、いいよ。アルデンテとはパスタを少し歯ごたえが残る状態を言うんだよ。茹ですぎずに歯ごたえが少し残ることで触感も良くなるし血糖値の急上昇を抑えてくれると言われているんだ。」「へぇー。そうなんだ。」「って、そうじゃない!私が聞きたいのはこの家の事についてだよ。」アルデンテの意味くらい知っているのに、なんでここでアルデンテの話なんてしてくるんだ。ただ家の事を聞きたいだけだと言うのに…「だからアルデンテ家は今話した通りなんだよ。」私が少し首を傾げていると、兄さんが聞いていたのか話に割って入ってくる。「アルデンテ家はな。昔からやたらと身体が強いんだ。そして、喧嘩などの戦闘能力も高い。」確かに聞いたことがある。私たちの一家は昔から男性だけでなく女性も

  • 夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す   幕間 アドルフくんの半年②

    目が覚めると、全く記憶のないところで横になっていた辺りを見渡すとどうやらテントのようだ。外からは野太い声の笑い声が聞こえてくる。「ここは…どこた…?」やたら頬の当たりが痛い気がするが…何があったんだろうか。「あぁ、起きたんですね。」テントが開き、そちらに目を向けると女性がいたら騒ぎ出すであろう顔面の持ち主がこちらへほほ笑みかけてくる。「あ、あの。ここは一体…」「ここですか?」俺の顔を見てなんだか納得したように、「ここはとても楽しいところですよ!」とだけ言ってテントの外に出ていった。後を追って外に出た方がいいのかと迷っていると男が笑顔で戻ってきて俺の首あたりを掴む。どこにそんな力があるのか、というような力で、「さっ!いきますよ~」と言うとズルズル引きずられた。外に出るとどうやら森の中にいるようだ…自分で歩くと言えないままき引きずられているとどうやらひとつのテントの前で止まった。「団長はいりますよー。」「あぁ。」団長と呼ばれているということは…騎士団かなにかだろうか…「よく来たな。アドルフ。」「ひゃ、ひゃぃい。」団長らしき人も相当お顔が整っていらっしゃる…。思わず緊張して声が裏返ってしまった。「ここがどこか分かっているか?」ここがどこか…森の中だということはわかるがそれ以外分からない俺は首を振った。「ふ。そうか

Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status