Chapter: 番外編②・第三話。 美奈子は「ただ」の意味が分からなかった。好みはあるから可愛いとだけなら分かるけど。八神はフフッと笑う。「泣いている姿を見ていた時は守ってあげたいと思ったし、相手のことを悪く言わないところとか、好印象を抱いた。それを含めて可愛いなって。人って、何かのきっけで好きになったりするから。分からないものだよね。今だって、友人思いの君のことを純粋で可愛いと思っているしさ」「はっ? 意味分からない!?」 亜季のいいところは、美奈子は十分理解しているつもりだ。八神が彼女に惹かれる部分があっても仕方がないと思っている。 しかし、どうして。そこで自分が可愛いと思うのだろうか? 美奈子は顔を耳まで真っ赤にして動揺してしまう。可愛げのない発言をしてしまった。言われ慣れていないので心臓がドキドキと高鳴ってしまう。 そうしたら八神はハハッと大笑いする。「耳まで真っ赤だよ? なんてね……驚いた?」「はっ? もしかして、からかったの!? 信じられない」 せっかく少し同情したのに、台無しだ。 やっぱりチャラい。あと性格が悪い気がする。美奈子はムスッとしてしまう。 八神はハハッと笑いながら、涙を拭った。「ごめん、ごめん。からかい過ぎた。でも……君に純粋なのは本当だよ。友人のことで、そこまで怒れる人はなかなか居ないと思う。上辺ばかりの女性と違って、純粋で優しいと思うよ」「えっ……そんなことは」 やはり言われ慣れていない。だからか、余計に体が熱く火照ってしまう。 例え冗談だとしても心臓に悪い。「だからと言って、からかわないで下さい。私は恋愛でも、手を抜きたくないんです」「いやだなぁ~俺だって、手を抜くつもりはないよ。いつだって本気だし」「どうだか!」 あー言えば、こう言う。なんだかお互いに言いたいことをぶつけているような気がする。まるで喧嘩友達のように。 おかしいと美奈子は思っていた。 イケメンを見ると、キャーキャー言う方だ。どちらかと言えばミーハー。それなのに、イケメンのはずの八神には素になってしまっている。 すると、八神はハハッと笑う。「なんだか、いいね。こういうの。俺に媚びとか売ってこないし。素で話せる人って、なかなか居なかったんだよね」「……確かに、友人とか居なさそう」「うわ~酷いな」 そう言い合いながらも、いつの間にか、お酒の席が賑やかにな
Terakhir Diperbarui: 2025-04-12
Chapter: 番外編②・第二話。(落ち着け……自分。相手は軽い男よ。彼の好きなタイプは亜季みたいな子だし) 自分を落ち着かせるために、心で言い聞かす。 八神の好きなタイプは亜季みたいな素直な子みたいだ。真面目で一途な。「もしかして、俺のこと……警戒しています?」「えっ!? そ、そんなことないけど……」 そうしたら八神は美奈子にそんなことを聞いてきた。心の声が聞こえてしまったのかと思って、美奈子は焦る。警戒しない方が無理もないが。すると八神はハハッと笑ってきた。「ハハッ……警戒しているのがバレバレですよ? でも、仕方がない。俺、亜季にしつこく迫っていたから」 どうやら自覚はあるらしい。 余計なことを言うから、亜季は気にして櫻井課長を別れを切り出してしまったのだ。 結局のところは、合コンで会った、青柳って人に助言をしてもらったお陰で、上手くいっただけで。その間は落ち込み過ぎて美奈子は相当心配していた。 だから八神のしたことは、余計なおせっかいだと思っている。「……そうですよ。しかも余計なことまで言うし。そのお陰で亜季は、凄く泣いて落ち込んでいたんですよ」 美奈子は、彼の発言に少しムッとする。簡単に言っているからだ。 八神は、美奈子の発言に苦笑いをしていた。「そうだね……ごめん。でも、俺も真剣だったんだよ。別に彼女を傷つけるつもりはんかった。でも、苦しんでいる彼女を見ていたら……言うしかなかった。落ち込ませるような奴より俺にしたらいいのにって」「それが、余計なおせっかいなんです!」 美奈子は、ドンッとカウンター席のテーブルを思いっきり叩いた。周りは驚いた顔をしていたが。 彼は何も分かっていない。亜季は本当はそんなことは望んでいなかった。亜季が言っていた青柳っていう人の方が理解をしている。 そうしたら八神は、とても悲しそうな表情をする。「……そうだね。俺は……彼女を傷つけた。確かに、おせっかいだったかもしれないね」 今にも泣きそうだ。「あ、あの……ごめんなさい。言い過ぎました」 思わず言い過ぎてしまった。彼だって本気だったかもしれないのに。 自分も人のことが言えないだろう。そうしたら八神は苦笑いする。「気にしないで。俺は……昔から誤解されやすいから。女遊びが激しいとか、性格がチャラいとかさ。ただ一途なだけなのにね」 美奈子は言葉を失う。 彼は、本当に亜
Terakhir Diperbarui: 2025-04-11
Chapter: 番外編②・美奈子視点。 玉田美奈子(たまだ みなこ)は昼下がりに会社の窓から見える景色を見ながら、ため息を吐いていた。 真夏の日差しは眩しくて、とにかく暑い。(今頃、亜季は何をしているのかしら?) 同期で友人の松井亜季(まつい あき)が櫻井課長を追いかけて、海外に行ってから半年が経った。 色々あった二人だったが、結ばれて結婚した。今では彼女のお腹には子供が宿しているとか。 最初は心配していた美奈子だったが、上手くやっていると聞いてホッと胸を撫で下ろしていた。しかし同時に羨ましく思う自分も居た。 彼氏が欲しい。そう思っていても、なかなか気になる相手が現れなかった。 合コンに積極的に行ったり、友人に紹介してもらってこともあったが、どれもピンッとこない。結局、すぐに別れてしまう。 多分そこまで好きではなかったか、恋愛に向いていないのかもしれない。 明るいが気が強い。そして、はっきりとした性格。飛びぬけて美人でもない。 そのせいか、友人止まりになってしまうこともしばしば。 亜季みたいにちょっと危なっかしいが、大人しく。真面目な性格だったり、後輩の澤村梨香みたいな少しぶりっ子な可愛い女性だったら、また違ったのかもしれないが。(あ~どこかに居ないかしら? カッコ良くて、エリートの一途な男性は) 高望みだと分かっていても、フッとそんなことを考えてしまう。 美奈子も28歳になる。そろそろ結婚しろと両親がうるさい。しかし相手が居ないと始まらない。また合コンで行くしかないかと思った。 そう思いながら、パソコンのキーボードを打って仕事を再開させる。 (今日は一人で飲みに行こっと) 仕事を定時に終わらせて、最近見つけたバーに向かった。駅から少し歩いたところにある。 ビルの地下にあるバーなのだが薄暗い店内だが、ジャズの曲が流れていてお洒落だ。 物腰の柔らかい年配のバーテンダーがいろんなカクテルを作ってくれる。 美奈子は、カウンター席に座って、お任せでカクテルを頼む。少し、その年配のバーテンダーと話していると、カラッと音を立ててドアが開いた。 誰が来たのかと振り向くと、その人物に驚いた。入ってきたのは、八神冬哉(やがみ とうや)だったからだ。 彼は、我が社の海外営業部で働いているエリート社員。顔立ちもいいのでモテる。 しかし彼は、亜季の猛アプローチしていた過去を持つ。
Terakhir Diperbarui: 2025-04-11
Chapter: 番外編①・第八話。 どうやら彼女の両親は離婚していたようだ。 青柳のところは両親が忙しかったので、祖父母が代わりに面倒を見てくれることが多かった。そのせいか、考え方が少し年寄りみたいだと言われることはあったが。「俺は両親が共働きだったせいか、祖父母に育てられた。だから夫婦のことは分からない。だが……あの夫婦は、確かに暖かかった」 俺にはないものを持っている。そう青柳は感じていた。 もしかしたら、どこか羨ましかったのかもしれない。「私は、そういう夫婦になりたかったんです。だから、基紀……元カレに言われ時に、違うなと思ったのだと思います。別れが言えたのも……それが影響したのかも。自分に自信がないのもありますが」 モジモジしながらも話す彩美。それを聞いて青柳は彼女なりの信念があるのだろうと感じた。 どうしても譲れないもの。それは自分にもあるように。 店長がビールが入ったジョッキーを持ってきたので一口飲んだ。「いいのではないか? それが君の信念だ。譲りたくないものがあれが、譲らなくてもいい。俺は……いいと思うぞ」「あ。ありがとうございます」 彩美は頬を赤く染めながらもビールを飲んでいた。 そういうところが真っ直ぐなのかもしれない。青柳は彼女に好印象を持つ。 その後。食事を済ませて、お店を出る。お礼だからと、彩美が奢る形で。「ご馳走様。本当に良かったのか? 奢ってもらって」「はい、お礼のつもりで誘ったので、大丈夫です。あ、あの……それよりもメッセージアプリのⅠDを聞いてもいいですか?」「えっ?」 青柳は彩美の言葉に驚いてしまった。まさかメッセージアプリのⅠDを聞いてくるとは思わなかったからだ。「あ、あの……ダメでしょうか?」「あ、いや……別に、いいけど」「本当ですか!?」 嬉しそうな顔をする彩美。その表情を見た時、青柳は嫌な気持ちにはならなかった。 それよりもドクッと確かに心臓の鼓動が速くなったのを感じた。 その後。青柳と彩美の交流は続いていた。 もちろん教習所の生徒と教官の関係制としてもだが。それ以外でもメッセージを送り合ったり、会う回数が増えていく。「青柳さ~ん」「ああ、おはよう」 日曜日に彩美と会う約束をする。彼女が観たがっていた映画を観に行く予定だ。 隣で歩く彼女が当たり前になっていくのを感じる青柳。自然と手をつなぐことも慣れて
Terakhir Diperbarui: 2025-04-11
Chapter: 番外編①・第七話。「人の価値は相手に決めてもらうものではない。俺も無口で不愛想とか言われることもあるが、それが自分だから変える気はない。君も、そのくだらない相手の意見ばかり聞いて、どうする。教習所でミスをしても、めげずに通ってくる勇気と一生懸命な君のほうが、何よりも価値があると思うぞ」 青柳は自分は間違ったことは言っていないと思っている。言葉はキツいが、それが本心だった。 彩美は大人しい性格ではあるが、真面目で一生懸命だ。失敗しても、必ず予習をしてくるし、嫌なことは嫌だと言える勇気はある。 ちょっと危なっかしいところも、人の見方によっては守りたくなる分類だろう。 そう考えると、青柳は少しずつだが彼女の存在が大きくなっていくのが分かった。 それは……あの亜季に似ているからかもしれないが。 すると彩美は何か考え事をしていた。そして青柳を見るとモジモジとしている。「……私、変われるでしょうか? もっと価値のある人間に」「……さあな。それも俺が決めることではない。しかし、俺は……あんたみたいな性格の人間は嫌いじゃない」 これも本心だった。 彩美はそれを聞いて。モジモジとしながら、ほんのりと頬を赤く染めていた。その意味は分からなかったが。 コーヒーを飲んで、その帰り際。「それでは」と言って、帰ろうとする。すると彩美が声をかけてきた。「あ、あの……お礼をさせて下さい。い、一緒にご飯とかどうですか?」 途中で嚙んではいたが彼女の方から食事のお誘いがくる。まさか誘われるとは思わなかったので青柳は驚いてしまった。「あの……ダメですか?」「あ、いや。構わないけど……」 彼女とは教官と生徒としての関係だ。あまりプライベートでは会うべきではないのだが、どうしてか断わる理由が見つからなかった。 そうこうしているうちに一緒に食事をすることになってしまった。 向かった先は駅から少し離れた場所にある小料理屋。落ち着いた雰囲気のある、お店だ。ここに入るのは初めてだが。 中には入ると店長らしき人が出迎えてくれた。しかし青柳の顔を見ると驚いた顔をされる。どうしたのだろう? と思っていたら「あ、すまない。知り合いの顔に似ていたから」「えっ?」 知り合いの顔に似ていると聞かれたのは初めてではない。まさか?「その方って、櫻井さんですか?」「おや、知っているのかい?」 青柳が
Terakhir Diperbarui: 2025-04-10
Chapter: 番外編①・第六話。 青柳が亜季と合コンの後に再開した時に、何故か泣かしてしまった。 もちろん、そんなつもりはない。だから動揺してしまう。「す、すまない、泣かせるつもりはなかったのだが」「あ、いいえ。違うんです。安心したら涙が……すみません。すぐに涙を引っ込ませますので」「いや……別に、無理に引っ込めなくても」 青柳は慌ててカバンからハンカチを取り出して、差し出した。「これを」「あ、ありがとうございます」 彩美は申し訳なさそうにハンカチを受け取った。それでも、なかなか泣き止まないので、仕方がなく近くの喫茶店に入ることに。 ここも光景も同じ経験していた。 彼女はオレンジジュースを頼み、青柳はコーヒーを注文する。しばらくしたら彩美は落ち着いてきたようだった。「……落ち着いたか?」「はい。お見苦しいところをお見せして、すみませんでした」「……こういうところも似ているかもな」「えっ?」「いや……こちらの話だ。それよりも、あの男性は彼氏だったのか? 別れを切り出していたが」 青柳は亜季を重ねつつも、彩美にさっきのことを尋ねた。そうしたらビクッと肩を震わした。「……悪い。聞いたら、まずかったか?」「あ、いいえ。そんなことはありません。あの人は……元カレです。以前付き合っていたのですが……お恥ずかしながら浮気をされてしまって。別れても、しつこくやり直そうと言われています」 どうやら元カレで間違いなさそうだ。浮気をしておいて、関係を続けたいとは勝手な話だ。「なるほどな。で? 君は、あの男に本当に未練はないのか?」「えっ……?」 さっきの態度だと、別れたそうにしていたが。 しかし以前のことがある。ちゃんと割り切れるかが問題だろう。 そうしたら言葉に詰まらせる彩美。 青柳は店員が持ってきたコーヒーに口をつける。「実際に別れたと思っているなら、それでいい。だが、まだ未練があって、やり直したいと思っているなら話は別だ。相手に分かってほしいは、通用する相手はないと思うが?」 恋愛とはよく分からない青柳だったが、これだけは分かる。あの男は自分勝手だと。 人より観察眼はある方だ。だから余計に思ってしまう。 亜季と櫻井課長みたいに純粋に相手を想い合っているとは思えなかった。あえて聞いたのは、確かめたかった。 彩美はスカートの裾をギュッと握り締める。「…
Terakhir Diperbarui: 2025-04-10
Chapter: 第22話・隠された違和感。 それだけ言い残すと、レイヴァンは寝室から出て行ってしまった。エルザは呼び止めることが出来ずに、ボー然とする。また来ると言ってはいたが。それはつまり、またお会いして下さるって解釈でいいのだろうか? 婚約破棄して、追放された身。しかし、見放されたわけではない様子だ。(何故……? 嫌われたはずの私に? それにあの手の傷。戒めって言っていたけど、何のために?) チラッとトムソンを見る。すると悲しそうな表情を見せてきた。「殿下は誰よりもエルザ様を大切にしております。何か事情があるのでしょう」「事情……何の?」「そこまでは私にも。ですが私達に仰っていました。お腹の子は、紛れもなく次期皇太子になる子だと。エルザ様も、お腹の子もそのように敬えと」「レイヴァン様が?」 辻妻が合うようで合わない彼の行動。試しているのだろうか? いや、それにしたら不自然だ。感情と嚙み合っていないというか……。 それに、お腹の子を次期皇太子と言った。(あれ? でも、どうしてレイヴァン様は『皇太子』と言ったのかしら?) まだ産まれてもいないから性別は分からないはずだ。女の子の可能性もある。なのに、何故男の子だと思ったのだろうか? 頭の中が困惑してくる。レイヴァンは産まれてくるなら、能力を受け継いでいる女の子の方がいいはずだ。なのにどうして……? その日は頭痛が酷くなり、それ以上考えられなかった。 しかし、それから1ヶ月後。違和感は、さらに膨らませるばかりだった。 あの日からレイヴァンは、まだお見えになっていないのだが贈り物が届くように。装飾品はもちろんなのだが、花束や本、有名デザイナーがデザインしたドレスまで。「エルザ様。こちら殿下からの贈り物でございます。有名デザイナーのルモンド・ドーランがデザインしたドレスでございます」「こちらは、そのドレスに合った宝石と靴でございます」「えぇっ!?」 ルモンド・ドーランって、あのなかなか予約が取れないと有名なデザイナーだ。本人も職人気質で気に入らないと断るとも言われている。皇族の依頼なら断らないだろうけど……。「とても素敵なデザインなんですよ。是非とも着替えてみて下さいませ」「えっ……えぇ、そうね」 目をキラキラさせてルル達が言ってくるので、言われるがまま着替えてみる。「まあ、素敵ですわ。華やかの上でエレガント。まさ
Terakhir Diperbarui: 2025-04-14
Chapter: 第21話。 どうしてエルザをママって呼ぶのか分からず戸惑ってしまう。しかし何だろうか……。 エルザ驚いたが、嫌だとは思わなかった。むしろ心の中があたたかくなり幸せな気持ちにさせてくれる。「そうよ……ママよ」 エルザは、そう応えた。もしかして、この子はお腹の子ではないかと思えてならない。だってママって言ったし。 エルザはフフッと笑ってみせる。すると遠くから声が聞こえてきた。『こら戻って来い。クリスティーナ』(えっ? クリスティーナ?) するとハッと目を覚ました。あれは夢だったのだろうか? 気づくとエルザはベッドの上で眠っていた。するとルルとビビアンが慌てて、こちらに来る。「エルザ様。目を覚まされましたか!?」「良かったですわ。3日間も高熱を出して、ずっと寝込んでいたのですよ」「3日間も熱を出して?」 やっぱり夢だったのだろう。なら、婚約破棄も夢だったのだろうか? 何処までが夢だったのか記憶が曖昧だった。 「あの声は誰だったのかしら? 低く大人の男性だったけど、知らない声だったわ。それに、あの赤ん坊も……) 不思議に思いながら起き上がろうとするが高熱を出したせいか、ふらつく。「急に起き上がったりしたら危ないですわ」「ねえ、レイヴァン様は? 婚約破棄なんて、していないわよね?」「それは……」 すると廊下から、バタバタと誰かがこちらに来る足音がした。そして勢いよく、ドアが開かれる。「エルザが目を覚ましたって、本当か!?」「れ、レイヴァン様!?」 エルザは驚いて彼の名前を呼んだ。そうしたら駆け寄り、エルザをギュッと抱き締めるレイヴァン。「良かった……無事で」 何故、抱き締められているのだろうか? 急に抱き締められたのでエルザは、さらに驚いてしまった。「あ、あの……レイヴァン様?」 ドキドキしながらもレイヴァンを見ると、真っ直ぐとエルザを見てくれた。やっぱりアレは、夢だったのだろうか? どう見ても、婚約破棄した後の対応とは思えない。いや、むしろ穏やかになっているような気がする。 前は気遣ってくれたが、こうやって抱く以外は抱き締めてはくれなかった。冷たい表情でもない。「レイヴァン様……私達はどのような関係なのでしょうか? 婚約破棄なんて……していないですわよね?」 夢か現実か分からない記憶をハッキリさせるために尋ねた。聞く
Terakhir Diperbarui: 2025-04-14
Chapter: 第20話。 まさかと思ったが十分ありえることだろう。 そこの主人だったエルザが強制的に婚約破棄されたのだ。その使用員だった、この人達も例外でない。場合によったら共犯だと疑われてもおかしくはない。 そんな……ここの人達には何も関係ないのに。 エルザが動揺していると、トムソンがニコッと微笑んできた。「ほら、君達。エルザ様はお疲れだから早く部屋に案内してあげなさい。入浴の準備も忘れないように」「あ、はい。かしこまりました。さあ、エルザ様……こちらに」「えっ? ちょっと」 ルルとビビアンに強引に案内された。部屋まで案内してもらうのだが、何だか違和感があった。「これって……」 その違和感は部屋に入ってすぐに分かった。『ホワイトキャッスル』の造りが、とにかく似ているのだ。「これは……私の部屋だわ!?」 屋敷の造りが少し違っているものの、家具の種類からインテリアまで正確に似せてある。言わないと区別が出来ないほどに。 エルザの部屋は好きな色である白をモチーフにしてある。白はこの顔に似合わないと言われていたが、せめて部屋ぐらい好きな色にしたかったからだ。「これは……どういうことなの?」 エルザは驚いていると。ルルとビビアンが得意げそうな顔をする。「安心して住んで頂けるようにと、殿下の指示でご用意致しました」「えっ……?」 レイヴァン様の……指示?「環境を急に変えると不安になるだろうから、全て『ホワイトキャッスル』と同じようにするようにと仰せつかっています」「レイヴァン様が!? どうして……」 婚約破棄したばかりの自分に、こんなことをしてくれるのだろうか? せめてのご慈悲だろうか。「殿下は、何か考えがあるのではないでしょうか?」 戸惑うエルザにビビアンは、優しい口調でそう言ってきた。「……考えって?」「はい。この部屋もそうですが、殿下はエルザ様のことを無下にしていないと思います。私達をこちらに派遣した時でも、普段と同じように接しろと仰っておりました。それは、つまりエルザ様の事を『次期皇妃』だと思って慕っている私達の配慮だと思っておりますわ」 じゃあ何故、捨てられたのだろうか?「だったら、何故私を婚約破棄したの? 婚約者では無くなった私に、皇妃になんてなれるわけがないじゃない?」「エルザ様……それは」「もうやめて……私は捨てられたのよ。これも
Terakhir Diperbarui: 2025-04-12
Chapter: 第19話。 会場の外に出されると、そこにライリーが待ち構えていた。 彼は悲しそうな表情でエルザを見ていた。ライリーも皇族の意志には逆らえない。 もしかしたらエルザのことを疑っているかもしれないと思った。しかし強引な騎士の手からエルザを引きはがしてくれた。「エルザ様に対して無礼だぞ。この方は私が連れていく」「えっ……?」「し、しかし。この者は重罪を犯した者。速やかに牢獄に」「二度も言わん。この方は私が連れていく」 ライリーがそう言うと、エルザを連れ出してくれた。さっきの騎士達と違い、気遣ってくれる。そのまま用意された馬車に乗せられた。「あ、あの……どちらに?」 彼も一緒に乗り込んだが、黙ったままだった。答えたくないのだろうか? 何処に連れて行く気だろう。幽閉と聞いたから皇宮から離れた塔だろうか? しかし、そうなると逆方向だ。どんどん皇宮から離れていく。静まる馬車の中で、エルザはレイヴァンのことを考えていた。 どうしてこんなことに……。 初めてレイヴァンにお会いして以来、エルザは彼を忘れたことはなかった。皇妃として厳しい教育にも耐えて、相応しくなろうと心がけてきたのに。 確かに悪役令嬢とは言われていたけど……恥じる行為はしていない。なのに、何で誰もそれを信じてくれないのだろうか。(お腹の子も居るのに。私はどうすれば良かったの?)そう思うとエルザの目尻には自然と涙が溢れてきた。(ダメ……ライリーが居るのに) 涙が一滴こぼれると、目の色が七色に光り、身体もキラキラと輝きを出した。ライリーは、その姿を見ると、驚いた表情をしていた。それもそうだろう。 こんな姿はレイヴァンしか見せたことがない。「これが……サファード公爵家の能力なのか? なんと……美しい」 早く戻さないと。エルザは必死に涙を止めようする。しかし絶望した感情を止める方法を知らない。涙がさらに溢れてくる。 するとライリーはエルザを抱き締めてきた。エルザは驚いてしまう。「ら、ライリー!?」「泣かないで下さい。大丈夫です……私が居ます。それに。あなたにはまだ、たくさんの味方が居ますから」「た、たくさんの……味方?」 どういう意味だろうか? こんな状態で味方なんて居るの? すると馬車は止まった。もう……着いたのだろうか? ハッとしたのか、慌ててエルザから離れるライリー。耳まで
Terakhir Diperbarui: 2025-04-12
Chapter: 第18話。 急に何を言い出すのかと思えば……何故そんなことに? エルザは啞然とする。そもそも聖女であるレイナを殺そうなんて思うはずがない。「まだ認めない気か? なら、証明してみせよう。刺客を連れてこい」 レイヴァンがそう言うと、騎士達が怪我をしてボロボロになった黒マントを羽織った男を連れてきた。体格のいい男だったが見たこともない男だ。「この男に身に覚えがあるだろう? この刺客が聖女であるレイナの部屋に忍び込み、襲ったそうだ。ギリギリに助けられたが、腕に傷を負った。その傷は自身の治癒能力で治せたからいいものを……これは重罪だぞ」「ち、ちょっと待って下さい。私はそんなことはしておりません。それに、その男も見たこともありません」「白々しい。この男がすべて自白したぞ。エルザの指示で、すべてやったと。その証拠に君が報酬に渡した指輪を持っていた。これは、サファード公爵家が持っている鉱山しか収穫ができない『虹色のダイヤ』だ」 エルザに見せてきたのは紛れもなく『虹色のダイヤ』の指輪だった。(あれは、私の無くした指輪だわ!?) ダイヤはサファード公爵家が持っている鉱山しか収穫ができない。 虹色に輝いて見えるのは、サファード公爵家が持っているマナが入っているからだ。 輝くばかりに美しく貴重な宝石のため、高額で買い取られる。公爵家の中でも身分や財力があるのは能力の他に、こういう理由もあった。 デザインからしてもエルザのものだと間違いないだろう。 最近、指輪がないと侍女達が探していたのに、何故あの男のもとにあるのだろうか?「証拠が出てきて言葉にならないか? では言おう。聖女に対しする数々の愚行。そして殺害未遂。どれも国を脅かす重罪だ。よって、君との婚約を破棄とする。そして国外追放とする」「えっ……?」 レイヴァンの言葉に、エルザの心は粉々に砕いていく。 婚約破棄……しかも国外追放だなんて。「あ、あんまりです。私は、そんな愚かな行為はしておりません」 エルザは必死に違うと訴えかけた。全身が恐怖とショックで震え上がる。 するとレイナはレイヴァンの腕に手を絡ませて、目をウルウルとさせる。「レイヴァン様。それはあまりにも酷いと思いますわ。きっと嫉妬で自分の心を病んでしまったのでしょう。国外追放ではなく幽閉でどうでしょうか? それなら、自分の過ちを反省ができますし、
Terakhir Diperbarui: 2025-04-05
Chapter: 第17話。 最悪な出来事が起きてから数日が過ぎる。卒業パーティーが行われた。その前に、アカデミーの卒業式もあったのだが、それは無事に終わることができた。 エルザは、つわりが酷かったのでパーティーのみ参加することに。 本当はパーティー自体も出席したくない。パートナーが居ない状態で行ったら、周りに何を言われるか分かったものではない。きっと変な噂が立ち嘲笑われるだろう。 しかしエルザはサファード家の公爵令嬢。皇族主催の卒業パーティーなら代表として出席しないとならない。婚約者なら、なおさらだ。 気分が優れない。つわりもだが、気持ち的にも……。ルルとビビアンは支度を手伝ってくれたが、何だか落ち着かない様子でソワソワしている。この前のことがあり、心配しているのかもしれない。主として大丈夫だと言いたいところだが、エルザにはそんなことを言える余裕はなかった。 自分さえも、これからどうなるのか分からない状態だ。お腹の子のこともある。 せめて婚約者として相応しくしなければ……。 必死に自分に言い聞かせながら皇宮に向かった。ダンスホールでは、すでにたくさんの貴族や卒業生徒達で賑わっていた。 しかし、婚約者であるレイヴァンを連れていないエルザに気づくとコソコソと陰口を言ってくる。「まあ、見ました? エルザ様ったら、婚約者なのに一人で来ているわよ」「やはり、あの噂は本当だったのね。レイヴァン様はレイナ様に夢中なのでしょう?」「これだと、婚約者が代わるのも時間の問題よね」 エルザにも聞こえるような声で言ってくる。そんなことは言われなくても……。 すると、周りがざわめき出した。エルザは、その方向を見る。 注目の相手はレイヴァンとレイナだった。 レイヴァンにエスコートされて出席していたが、その姿は恋人同士みたいだ。 しかもレイナの着ているドレスは、この間、エルザがレイヴァンとお芝居の時に着ていたドレスと同じだった。 彼女が着ると、少し幼さが残るが、また違った美しさがある。 何よりも聖女とは思えない色気が漂わしていた。周りだけではなくエルザも思わず息を吞む。「まぁ、なんてお似合いなのかしら。まるで本物の恋人みたいだわ」「なんて美しいのかしら。聖女ってよりも女神様みたいだわ」 周りの令嬢達は、2人を絶賛する。しかしエルザの心は穏やかではない。(いや……それより
Terakhir Diperbarui: 2025-04-05