松井亜季(28)は、広告代理店で勤めて6年目。 いつか大きなイベントや会社の広告を自らの手で作りたくて この会社に就職した。 仕事が忙しく婚期が遅れる日々。すると、 親の勝手な都合でお見合いする事に……? しかしお見合い相手は、会社で怖いと評判で鬼課長と呼ばれている 櫻井課長(32)だった!? 最初は嫌がっていた亜季だったが、鬼課長は不器用ながらも一生懸命想う告げてくる。 その表情に、意識をしてしまった亜季は改めて食事をすることに。 そこで見せてくれた誠実で可愛らしい一面に少しずつ惹かれていく。 しかし、そんな純粋な2人に波乱が? 切なく胸キュンな 鬼課長&主人公の純愛オフィスラブ。
View More「今日のお前は、よく喋るな。まったく」 櫻井課長は、ため息を吐くと苦笑いしながら、こちらを見てきた。 亜季の心臓はドキッと高鳴ってしまう。「嫌ですか……? こんなお喋りな私は」 ジッと櫻井課長を見つめる。頬と身体は火照って熱い。 それは、酔っているせいか分からないけど。「いや……悪くない。むしろ早く声をかけるべきだったなぁと、今さらながら思う」「そうですよ! でしたら、次は櫻井課長が介抱して下さい」「松井……それ。どういう意味か分かって言っているのか?」「えっ?」 亜季は、きょとんと櫻井課長の方を見る。何をだろうか? 酔っているせいか、今日は大胆な発言が多いと自分でも思う。 しかし、その内容にイマイチ理解はできていない。「何がです?」「それは男から見たら、誘っているようにしか聞こえないぞ。もう少し警戒心を持て」「誘っている? 私が……何で?」 どうも酔っているせいか頭が回らない亜季。 よく分からないので首を傾げる。すると櫻井課長は目線を逸らすと、車から出ようとしてきた。「悪い……やっぱり頭を冷やしてくる」(何で櫻井課長が車から出ようとするの? 嫌だ。行かないほしい) 亜季は必死に腕を引っ張って止める。「ま、待って下さい! 私を置いて、外に出て行かないで下さい」「あ、こら。そんなに引っ張るな!?」 引っ張ったため衝撃で、櫻井課長の胸元に倒れ込む亜季。そのまま抱き締められた状態になってしまった。 お互い見つめ合う。 そうすると自然と唇が近くなり、重なり合ってしまう。 これが櫻井課長との初めてのキスだった。 亜季は目をつぶり、その感触を味わう。櫻井課長も、そのまま何度も角度を変えて唇を重ねてくる。 甘いキスから深いキスになっていく。 ソッと唇を離すと、櫻井課長は照れたように目線を逸らしてきた。「そろそろ帰るか。夜は冷え込む」「……はい」 亜季は小さく頷いた。 その後は自宅まで無事に送ってもらった。 頭がぼんやりとキスのことばかり考えて、あんまり覚えていない。 そして翌朝。 目を覚ました亜季は普通の日常に戻るが、徐々に記憶を取り戻していく。 酔った後のことの重大さを思い出し、亜季は慌てるはめに。「どうしよう。私……昨日、櫻井課長とキスをしちゃった!?」 これって大変なことだ。それこそ、今後の対応次第
「あぁ君が良ければ、また行こう。今度も何かいいところがないか調べておく」「は、はい。よろしくお願いします」 亜季は嬉しそうに頭を下げる。賛成してくれたのが嬉しかった。 すると丁度よく料理が運ばれた。 季節のパスタやシーフードサラダ。そしてグラタンやスープなど。お洒落で豪華な料理が並ぶ。「うわぁ~美味しそう」「これは、豪華だな。早速食べるとしよう。いただきます」 櫻井課長は手を合わせると、スプーンを手に取って、先にスープを飲んだ。 トマトとオニオンのスープだった。 亜季はシーフードサラダの方を食べてみる。新鮮で美味しい。 スープも飲んでみたけど、これも美味しかった。「うむ……美味しいな。さっぱりとしていて」「はい。ワインも飲んでみようかしら?」 亜季は一口飲んでみた。 甘味がるので女性好みの飲みやすいワインだった。美味しい。「これも美味しいですねぇ~」 ついつい調子の乗って、たくさん飲んでしまう。 ご馳走のパスタなども凄く美味しくて、あっという間に全部食べてしまった。 ちょっとほろ酔いで、気分も楽しくなる。 会計は櫻井課長が全額出してくれた。 申し訳なく思いながらも車に乗り込み、路上を走らせた。走っている最中に、外を見ると綺麗な夜景が続いていた。「フフッ、いい眺め。課長~もう少し、この景色を楽しみませんか?」「楽しむって、どうやって?」「何処か景色が一望できる場所に行くんですよ! えっと……確かチラッと見た時に雑誌に載っていたような」 櫻井課長が運転をしながら尋ねてくるので、亜季は勝手にシートベルトを外して、置いた雑誌を手に取って広げ始める。 ほろ酔いのせいか、ちょっと大胆になっていた。「こら、勝手にシートベルトを外すな!? 危ないだろ?」「あ、あった。この場所なら見れますね!」 付箋が貼ってあるレストランのページに、景色が一望できる場所として載っていた。 得意げに櫻井課長に見せる。「確かに。ここから近いな。なら、行ってみるか?」「はい。お願いします」 亜季はニコッと笑顔を見せた。 櫻井課長は、言われるがまま車を走らせて、目的の場所まで行ってくれた。 少し外れに景色が一望できる場所があった。 確かに綺麗だった。もちろんデートスポットのため、あちらこちらでカップルが乗った車が停まっている。 ベン
植物館から出ると車が停めてあった駐車場に向かう。 車の助手席に座るとドアを閉じてからシートベルトをする。 すると運転席に座った櫻井課長が、「良かったな。種が貰えて」と言ってくれた。「はい。家に帰ったら早速まかないと」「そうだ、俺の種もやる。持っていってもいいぞ」「えっ? いいんですか?」「あぁ、俺が育てたら枯らしそうだからな。松井に育ててもらった方が花も喜ぶだろう」 櫻井課長はそう言いながら持っていた鉢植えをくれた。 そしてシートベルトを付けると、鍵を回してエンジンをかけ始める。 櫻井課長の貰ってしまった。 確かに忙しいから、ちゃんと育てられるとは思えない。「じゃあ、咲いたら課長にも見せますね!」「あぁ、楽しみにしている」 櫻井課長は、そう言ってこちらを見てくれた。嬉しい。 ちゃんと咲かせるように育てなくては。 何だか責任重大である。 帰ったら、すぐにベランダに置こう。「もうすぐ着くぞ」 前を見るとイタリアンのお店が見えてきた。 雑誌で見た人気のお店だろう。白色で洋館風の建物が印象的だ。「うわぁ~素敵なお店ですね」「あぁ、パスタが特に美味しいと評判らしいぞ? ピザも窯焼きらしい。オーナーがイタリアで長年修業をしてきたとか」 車を停めながら櫻井課長がそう言ってきた。 人気で、お洒落なお店に櫻井課長と一緒に来ている。そう思っただけでも恥ずかしさと嬉しさがこみ上げてくる。 店内に入ると中もお洒落な造りになっていた。イタリアの絵画が飾られてある。 店員に案内されて、テーブル席に座るとメニュー表を見る。 どれも食べてみたい料理ばかりで迷ってしまう。(あ、このオーナーお勧め・季節のディナーセットがいいかも) 季節のパスタとグラタンなどがセットになっている。グラタンをピザに変更ができるし、デザートも付いている。 これなら、どんなパスタが出るのか楽しみだ。「決まったか?」「はい。私は、このオーナーお勧め・季節のディナーセットを」「じゃあ、俺も同じのにするかな。ワインは、どうする? 俺は運転があるから飲めないが……飲むか?」「いえ……遠慮しておきます」「どうしてだ? 別に俺に気を使わなくてもいいぞ」 少し飲みたいけど、本当に頼んでも大丈夫だろうか? 上司の櫻井課長が飲まないのに。でも薦めているのに、頼まないの
亜季たちは植物園を出ると、近くにあった広場で弁当を出した。 この日のために亜季は朝早く起きして作った。 入ってくれるだろうか?「これを君が作ったのか?」「はい。口に合うか分かりませんが良かったら、どうぞ」「ありがとう……美味しそうだ。いただきます!」 早速、櫻井課長は一口食べてくれた。 どうだろうか? 口に合わなかったらどうしよう。「あの……味は、どうでしようか? 不味かったら、すみません」「うむ、美味しい。この卵焼きも、なかなか」「そうですか……良かった」 味を噛みしめながら食べていた。 まだ心臓がドキドキするけど自信作だった卵焼きを褒めてくれた。「これもなかなか。松井は、ちゃんと料理ができるじゃないか」「あ、ありがとうございます。また、今度も作ってきますね!」 嬉しくて、つい亜季は大胆発言を言ってしまう。 ハッと気づく。恥ずかしさで頬が熱くなってしまう。 また作るだなんて……恥ずかしい。「あ、すみません。つい調子を……」「そうか? それは楽しみだな」 そう言って、櫻井課長は静かに笑ってくれた。 ドクンッと櫻井課長の言葉は、いつも高鳴って、心臓に悪い。 思わないところで、また作れるチャンスができてしまった。光栄なことだ。「はい……楽しみにしていて下さい」 亜季は照れながらも、そう伝えた。 何だかいい雰囲気になっていく。 その後。弁当を食べ終わるとパンフレットを見ていた。 次は何処に行こうかと話し合う。 ハーブ園も行きたいけど、珍しい花も見たい。すると櫻井課長が何かに気づいた。「何か花の種まきがあるらしいぞ。記念に種が貰えるらしい」「本当ですか? やってみたいです」「じゃあ、行ってみよう。えっと~場所と時間は。あ、そう離れていないな」 パンフレットを見て、場所を確認してくれた。 種まきなんて二人でやったら、いい思い出になるだろう。 しかも記念に貰えるなんて嬉しい。完成したら大切に育てたいと思った。 そして二人でイベントをやっている場所に向かう。 スタッフに小さな鉢植えと種を貰う。亜季は真剣にやっていると櫻井課長が、「松井。頬に汚れがついている」と言ってきた。「えっ? いやだ……恥ずかしい)。 亜季は慌てて頬を擦る。ちゃんと取れただろうか?「あぁ、余計に汚れる……ちょっと待っていろ」
そして待ちに待ったデート当日。 亜季は、アパートのそばで待っていた。車で迎えに来てくれるらしい。 コンパクトミラーを見ながら服装と髪型やメイクの身だしなみチェックをする。 ベージュ色の長袖ニット。グレーのロングスカート。そしてショートブーツ。 植物園に行くのでカジュアルな服装にした。 櫻井課長の隣で歩くなら、ちゃんとした大人の女性に見られたい。 そうしたら櫻井課長が乗った黒色の車が目の前で停まった。 ガチャッとドアが開き「悪い。待たせたな」と言って出てきた。「いえ……大丈夫です。おはようございます」「おはよう。では行くか」 慌てて頭を下げ挨拶をすると、櫻井課長は助手席まで回ってドアを開けてくれた。 紳士的だ。それに服装もカッコいい。 黒色のタートルネックとズボン。ネックレスも付けており、茶色のロングコート。 亜季はお礼を言うと、気恥ずかしそうに助手席に乗り込む。 櫻井課長は運転席に乗り込むと車を走らせた。 チラッと亜季が見ると、黒色のサングラスをかけていた。 サングラスの姿が少しヤクザっぽく見える。内心そう思ったら、何だか笑えてくる。「フフッ……」「うん? 何が可笑しい?」「あ、いえ……何でもありません」 さすがに言うのは、やめておこう。失礼だし。 高速道路に乗り、しばらく走ったあと、近くのサービスエリアで車を停めてトイレ休憩をした。 櫻井課長は、お手洗いと何か飲み物を買って来ると言い、車から降りた。 亜季は大人しく車の中で待っていた。 そうしたら後部座席の隅っこに雑誌が置いてあることに気づく。「何かしら? これは?」 興味本位でシートベルトを外すと手を伸ばして、その雑誌を手に取ってみる。 そしてシートベルトを付け付け直すと、表紙を見てみることに。 雑誌には『デートスポット特集号』と書いてあった。ペラッと、めくると⃝⃝植物園などに付箋が付けてある。 もしかしてこれを見て選んでくれたのだろうか? 違う付箋のを見ると、レストランにも貼ってある。 やっぱり。わざわざ雑誌を買って参考にしたのだろう。 その姿を想像したら、何だか身体の中がポカポカした。キュンとする気持ちが確かにあった。「課長……可愛い」 亜季はそう自然に想うと笑みがこぼれた。 しばらくして櫻井課長が飲み物を持って慌てて戻ってくる。「
そして待ちに待ったデート当日。 亜季は、アパートのそばで待っていた。車で迎えに来てくれるらしい。 コンパクトミラーを見ながら服装と髪型やメイクの身だしなみチェックをする。 ベージュ色の長袖ニット。グレーのロングスカート。そしてショートブーツ。 植物園に行くのでカジュアルな服装にした。 櫻井課長の隣で歩くなら、ちゃんとした大人の女性に見られたい。 そうしたら櫻井課長が乗った黒色の車が目の前で停まった。 ガチャッとドアが開き「悪い。待たせたな」と言って出てきた。「いえ……大丈夫です。おはようございます」「おはよう。では行くか」 慌てて頭を下げ挨拶をすると、櫻井課長は助手席まで回ってドアを開けてくれた。 紳士的だ。それに服装もカッコいい。 黒色のタートルネックとズボン。ネックレスも付けており、茶色のロングコート。 亜季はお礼を言うと、気恥ずかしそうに助手席に乗り込む。 櫻井課長は運転席に乗り込むと車を走らせた。 チラッと亜季が見ると、黒色のサングラスをかけていた。 サングラスの姿が少しヤクザっぽく見える。内心そう思ったら、何だか笑えてくる。「フフッ……」「うん? 何が可笑しい?」「あ、いえ……何でもありません」 さすがに言うのは、やめておこう。失礼だし。 高速道路に乗り、しばらく走ったあと、近くのサービスエリアで車を停めてトイレ休憩をした。 櫻井課長は、お手洗いと何か飲み物を買って来ると言い、車から降りた。 亜季は大人しく車の中で待っていた。 そうしたら後部座席の隅っこに雑誌が置いてあることに気づく。「何かしら? これは?」 興味本位でシートベルトを外すと手を伸ばして、その雑誌を手に取ってみる。 そしてシートベルトを付け付け直すと、表紙を見てみることに。 雑誌には『デートスポット特集号』と書いてあった。ペラッと、めくると⃝⃝植物園などに付箋が付けてある。 もしかしてこれを見て選んでくれたのだろうか? 違う付箋のを見ると、レストランにも貼ってある。 やっぱり。わざわざ雑誌を買って参考にしたのだろう。 その姿を想像したら、何だか身体の中がポカポカした。キュンとする気持ちが確かにあった。「課長……可愛い」 亜季はそう自然に想うと笑みがこぼれた。 しばらくして櫻井課長が飲み物を持って慌てて戻ってくる。「
「うん? どうした? 松井」「あ、いえ……何だか面白くて。あ、いえ……何でもありません。すみません」 いけない。つい本音が出てしまうところだった。 見ていたことを知られるのも恥ずかしい、本音を聞かれることの方が恥ずかしい。 意味が分からない様子の櫻井課長は軽く首を傾げていた。 慌てて曖昧な返事をするが、逆に不思議に思われたかもしれない。「……そうか? それよりメニュー決まったか?」(あ、そうだった!?) 亜季は慌ててメニュー表を見る。 うっかり何を注文するか考えていなかった。「えっと~私は、このカルボナーラとシーフードサラダにします」「うむ。分かった」 呼び出しボタンを押し一緒に注文をしてくれた。櫻井課長は、和風ハンバーグセットにしていた。 ハンバーグとか意外な好みで可愛らしいと思った。 注文するとお互いに沈黙が続く。そうしたら櫻井課長が、「俺と一緒で退屈にならなかったか? どうも気の利いた台詞が言えないし」と、そう聞いてくる。「そんな退屈だなんて……とても楽しかったですよ。櫻井課長と一緒に映画が観れて」 内容は観ていなくてサッパリだったけど、退屈だなんて思わなかった。 今でも。逆にドキドキしている自分がいる。「それなら、いいのだが」「今度は、もう少し遠出してみるか? 日帰りで行ける範囲で」「えっ? 日帰りで!?」 頬が熱くなってきた。まさかの日帰りのお誘いだった。「まぁ、君が嫌ではなくて、都合のいい時にでも」「いつでも大丈夫です!」 思わず亜季は即答してしまった。 あっと思ったが、凄く行きたいと思った。断る理由もない。「そうか。なら何処か、いいところがないか考えておく」「はい……分かりました」 自分も照れてしまう。何だか不思議な気分で心臓がドキドキと高鳴ってしまう。 この音をバレないようにしなくては……。「あの~それよりも、さっきのトレーニングのことを、もっと知りたいです」 思い切って聞いてみた。 課長は亜季の発言に驚いていたが、色々と話してくれた。 料理が来ても。熱い解説が続く。 夢中で話す姿は怖いってよりも、少し少年に近い。 トレーニングや道具のどれが好きなのか分かるぐらいに教えてくれた。「あ、えっと……つい熱弁をふるってしまった。すまない」「いえ、よく分かりましたし。勉強になりまし
モールの中を二人で回る。なんて不思議な感覚だ。 まるで、本物の恋人同士みたいだ。 せっかくだから何をみようかと探していると、櫻井課長が何かを見つけたようだ。 何を見ているのだろうか? 目線の先をたどってみると、スポーツ用品店だった。 なるほど。課長トレーニングが趣味だから興味があるのだろう。「せっかくだからスポーツ用品店でも見ませんか?」「えっ? いや……でも君は、つまらないだろ?」「いえ、どんな商品があるか興味がありますし、平気です」 亜季から誘ってみる。櫻井課長が、どんな商品が好みなのか気になったからだ。 櫻井課長少し遠慮気味だったが、ならと恥ずかしそうに承諾してくれた。 二人でスポーツ用品店の中を見て回ると、櫻井課長は興味津々な感じで新商品の物をチェックし始める。「これは、また新しい商品だな。こっちは、どんな機能が?」 その姿を見ていて、思わず笑みがこぼれる亜季だった。 まるで少年のようだ! 櫻井課長は店員を呼び止めて、新しい商品のことを詳しく聞き始める。 聞き終わると、ハッと気づいたのか亜季を見る櫻井課長。「あ、すまない。つい夢中で……退屈だっただろ?」「フフッ……いえ。意外な一面が見れて楽しかったです」 それは、本当のことだ。新たな櫻井課長の一面を発見する。 スポーツ商品のことになると夢中になる。 そして夢中になる姿は、少年のようで可愛らしい。「そうか? どうも、こういうところに行くと、つい夢中になって周りが見えなくなってしまう。申し訳がない」「フフッ……よく来られるのですか?」「まぁな。新商品が出ると必ずチェックしている。集めるのも好きで」 それは、また興味がある内容だ。 どんな道具があるのだろうか? もっと、もっと櫻井課長のことが知りたい。亜季はそう思った。「その話、もっと聞いてみたいです!」「そうか? あまり面白いものでもないぞ? あ、そろそろ映画が始まる時間だな。そろそろ出て行こうか?」「はい」 楽しみな映画なのに、ちょっと残念な気持ちになる。 もっと見ていたかったなぁ~と思ってしまった。 仕方がないので映画館に戻ることに。入る前にポップコーンと飲み物を買って、上映を場所に入った。 上演が始まると、観ながらチラッと隣で座っている櫻井課長を覗く亜季。 櫻井課長は真剣な表情で映画
亜季と課長は、それからメッセージアプリでやり取りをするように。 話題は、たわいのない出来事だけど。顔が見えないせいか、お互い話が進んでいく。 そこでも櫻井課長の意外な素顔や新しい発見をする。『櫻井課長。今何をしているのですか? 私は今日借りてきたⅮⅤⅮを観ています』『さっきまでジョギングをしていた。汗をかいたからシャワーを浴びていたところだ』 ジョギングとは、いつもこの時間帯で走っているのだろうか?それに何キロを? 気になりメッセージをしてみた。『いつも何キロ走っているのですか?』『大体五キロぐらいだな。多くて十キロ。ジムも行ったりするが』 多くて十キロとは驚きだ。趣味がトレーニングと言っていたけど。 なかなか走れる距離ではないだろう。亜季は思わず感心する。『凄いですね。私は運動音痴なので、そんなに走れません』『そうなのか? 鍛えると運動音痴も改善するかも知れないぞ。今度いいトレーニング道具を貸してやる』『ありがとうございます。機会がありましたらぜひ』 トレーニング道具か…どんなのだろうか? 亜季はハァッ~と深いため息を吐いた。メッセージで、こんなに話せるなら直接もっと話がしたい。 櫻井課長の前だと緊張してしまい上手く話せない。無口な人だし。 亜季は口下手な方だ。そう思いながらスマホを眺めていた。 櫻井課長は、どんな気持ちでメッセージを打っているのだろうか?同じ気持ちならいいのに。と、ⅮⅤⅮを観ずに、ずっとスマホを眺めていた。 そして待ちに待った日曜日。櫻井課長と映画を観ることになったのだが。 初デートと言ってもいいのだろう。 気合いを入れて最近購入した白色のトップスにジャケット。 藍色のコットンスカート。 会社の時と違って服やメイクに気を使った。 ちょっと、気合い入れ過ぎただろうか? そう思いながら待ち合わせ場所の駅に電車に乗って向かう。 目的地の駅に着くと、既に改札口のそばで櫻井課長が待っていた。 いつものスーツ姿と違って私服姿。グレーのシャツに黒色のジャケットとジーンズ。 意外とお洒落な感じだ。「あの……遅れて申し訳ありません」「大丈夫だ。今さっき着いた」 慌てて謝罪をしながら課長のところに行くと、櫻井課長は何故だか驚いた表情をしていた。そして何も言わずに黙り込んでしまう。(あれ……? もし
松井亜季(まつい あき)は、広告代理店で勤めて六年目。 いつか大きなイベントや会社の広告を自らの手で作りたくて、この会社に就職した。 バリバリの働くキャリアウーマンなんて言えないし、失敗も多い。それでも必死に頑張ってきた。 そんな亜季には苦手な人が居る。それは、この人だ。「おい。何でお前の書類には、いつも誤字があるんだ? これで何度目だ?」「申し訳ありません」 必死で謝る男性社員。部下に叱っているのが、櫻井(さくらい)課長。 背が高くて、細身なのに肩幅が広く、鍛え上がった体。その上に眉間にシワを寄せて、鋭くつり上がった目つき。 周りから恐れられて『鬼課長』というニックネームを付けられているほど。(うわぁ~今日も怖い) 櫻井課長の怒鳴り声で亜季は思わずビクッと肩を震わせた。 すると 同期で友人の玉田美奈子(たまだ みなこ)に話しかけてくる。「ねぇ、相変わらず怖いわよねぇ~鬼課長」「……う、うん。そうだね」 思わず亜季も頷いてしまう。真面目で異常に厳しい。 見た目もあって余計に、そう思われていた。亜季も恐れている1人だったが。 直接こっぴどく叱られたことはないが、仕事のことで何度か注意を受けたことならなる。それでも、かなり怖かったが。「聞く話だと課長って独身らしいわよ? まぁ、あれでは結婚なんて出来ないわよねぇー」 美奈子は、クスッと笑いながらそう言ってきた。(櫻井課長って、独身だったんだ? へぇ~) 失礼ながら納得してしまった。だって、あまりプライベートとか想像ができない。そもそも、どんな女性が好みなのかも知らないし、そこまで興味もない。しかし運命とは何とも皮肉なもの。 まさか、この櫻井課長とお見合いをするなんて夢にも思わなかった。 それは、数日後のことだった。 母が突然、一人暮らしをしているアパートに来たと思ったら、お見合い話を持ち出してきたのだ。「はぁっ? お見合い……私が!?」「そう。習い事で知り合った人の息子さんなんだけど、独身らしくてね。優秀で、いい方らしいから引き受けてきたの」 あっけらかんと明るく話す母に呆れてしまう。亜季は思わず。ため息を吐く。(そんな勝手に引き受けないでよ!?) いくら仕事で恋愛を疎かにしているからって、勝手に相談もなく決めないでほしい。 そうではなくても最近忙しいとい...
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