高校二年生の白川穂香は、ある日、目覚めるとなぜか現実世界がゲームになっていた。 この世界から脱出できるたった一つの方法は、学園内のイケメンから告白されること。 自称幼なじみのサポートキャラ高橋レンと、この世界から脱出するために恋人のふりをすることになったが、なぜか他のイケメン達ともどんどん仲がよくなっていき、彼らの秘密が明らかに。 化け物退治の専門家!? 異世界を救った勇者!? ホラーゲームの主人公!? 彼らの協力を得て、穂香はこの世界の謎を解き明かし脱出を試みる。
View More穂香は、朝から自室で一人、机に向かっていた。恋愛ゲームの世界から無事脱出したあと、なんとなく書き始めた日記帳に今日の日付を書き込む。【4月6日(日) 晴れ】(あれから、もう半年たったんだ……)文化祭は無事に終わった。そして、冬が来て春になり、穂香とレンは高校三年生になっていた。あのとき起こったことは、まるで夢のような不思議な体験だったが、すべては現実として今でも穂香の目の前に広がっている。部屋の扉がノックされた。すぐにレンの声が聞こえる。「穂香さん、出かける準備は終わってますか?」「うん、大丈夫。今、行くね」穂香は書き途中の日記帳を閉じた。扉の付近には、黒髪のレンが立っている。「もう皆、来ていますよ」「えっ!? 早く行かないと」穂香があわてて家から出ると、そこには見慣れた顔がそろっていた。大きなカバンを持った生徒会長が「おはよう、白川さん。高橋くん」と眩しい笑みを浮かべると、穴織が「今日は、絶好のお出かけ日和やなぁ」と明るく笑う。車のクラクションが鳴った。運転席から松凪先生が手を振っている。先生は、穂香が三年生になったタイミングで学校をやめた。今は、異世界とこの世界を繋ぐ外交官として活躍しているらしい。「おーい、出発するぞー。早く乗れ」助手席には、紫色の髪をした賢者の姿が見える。車に乗り込んだ穂香達は、清々しい天気の中、お花見に向かった。生徒会長が持っている大きなカバンには、じいやが作ってくれたお花見弁当が入っている。後部座席に座っている穴織が、レンに「じいやさんの料理おいしいねん! 本当にやばいねん!」と熱く語り、レンが迷惑そうな顔をしている。穂香は、後ろの席の生徒会長を振り返った。「大学生活は、どうですか?」「楽しいよ。白川さんもうちの大学にくる?」「うっいえ、そんな超名門大学にいけるほど、勉強ができないので……。レンならいけると思いますけど」そんな感じで車の中は、皆がそれぞれに会話をしていて騒がしい。賢者が穴織に「そういえば、穴織一族が抱えている人形化の特効薬が完成したよ」と報告すると、穴織くんが「マジですか!?」と叫んだ。「あの人形化ってさ、こっちの世界では穴織一族だけの問題だったけど、私の世界では魔法使い達が同じような症状に苦しんでいたから、こっちより研究がだいぶ進んでいたんだよね。でも、特効薬まではできな
「おはよう。来てくれたんだね。白川さんの笑顔が見れて嬉しいよ」生徒会長は、レンを見て「よかった」と胸をなでおろす。「高橋くんも無事にこの時代に残れたんだ」「ご尽力くださり、ありがとうございます」レンがお礼を言うと、生徒会長は「先に助けてもらったのは僕だから。これは、白川さんへの恩返しだよ」と笑う。「君がいなくなったら、白川さんが幸せになれないものね」その言葉に応えるように、レンが穂香の手をそっと握ったので、穂香もその手を握り返した。「君達を見ていると、僕も恋に前向きになろうと思えるよ。あっそうそう、これ……」生徒会長は穂香にプリントを手渡す。「それ、文化祭実行委員が書いて提出するものだから、文化祭が終わったら提出してね」「はい、分かりました」そのとき、生徒会室の扉がノックされた。「し、失礼します!」緊張した面持ちで入ってきた女子生徒に、穂香は見覚えがあった。(あっ、生徒会長のことが大好きで、おまじないをしていた黒髪先輩!)今でもその気持ちは変わっていないようで、生徒会長を見つめる先輩の瞳は潤んでいる。「ぶ、文化祭実行委員の件で来ました」「うん、来てくれてありがとう。このプリントを――」生徒会長が渡そうとしたプリントを、先輩は手がふるえたのか落としてしまった。「あっ、す、すみません!」先輩は、今にも泣きそうな顔をしている。(生徒会長のことが、大好きなんだね)一生賢明な先輩の姿が、レンを助けようと必死だった自分の姿と重なっていく。穂香は落ちているプリントを拾うと、先輩に手渡した。「あの、先輩」「な、何?」知らない後輩に話しかけられた先輩は驚いている。「私、2年の白川っていいます。いきなりですが、先輩、私と友達になってくれませんか?」「え?」先輩は戸惑いながらも「い、いいけど?」と言ってくれた。自分で言ったのに「いいんですか?」と、穂香は驚いてしまう。「うん。友達なら大歓迎」そう言って笑う先輩は、とてもいい人そうだ。(私の周囲の人は、少しだけ幸せになれるから。先輩の恋も、もしかしたら、叶うかもしれない)そんなことを考えていると、生徒会長に「白川さん、よかったね」と言われた。「え?」「だって、クラスに友達がいないって悩んでいたじゃない。でも、今、友達ができたでしょう? これからは、同じクラスとか気にせず
泣き止んだ穂香は、レンと並んで通学路を歩いた。「勝手に風景が変わらないし、もう飛ばされないんだね」「ゲームは終わりましたから」「あれはあれで、便利だったね」「そうでしょう?」「あっ、そういえば、今日は何日の何曜日だっけ?」ずっと目の前に文字が出ていたので、出なくなったら分からなくなってしまった。レンが「今日は、【10月16日(土)の早朝】ですよ」と教えてくれる。「え? 土曜日なのに学校があるの?」「本当に寝ぼけていますね……」レンがメガネを指で押し上げた。「今日は文化祭でしょう?」「あっ、そっか!」「穂香さんは、文化祭実行委員なので、早く行かないといけませんよ」「そうだった」学校につくと、大きなアーチがあり『文化祭』と書かれている。なぜか校門は真っ赤なバラで飾られたままだった。「あれ? 現実世界に戻ったはずなのに、まだバラが……」「そのバラ、私にも見えてますよ」「レンにも? じゃあ、ただの飾りかな?」そんな会話をしていると、怒声が聞こえてきた。「おまえの仕業だったのか⁉」そう叫んだのは、元の髪色に戻った松凪先生だ。先生の側には、紫色の長い髪を持つ賢者がいる。レンが「どうしたんですか?」と尋ねると、先生は「おう、高橋か。白川もおはよう」と言いながら賢者の頭を押さえつけた。「コイツ、自分の世界の破滅を防ぐために、無理やり学校ごと俺を異世界に召喚しようとしていたんだ!」「そ、そんなことしてないよぉ」先生は、校門のバラを指さす。「じゃあ、このバラはなんだ⁉ これ、王城で育てられていたバラだそうだな? おまえ、この学校と王城を少しずつ入れ替えるつもりだったんだろうが!」「だ、だって、何回呼んでも勇者が返事してくれないから! 城のやつらは、私に面倒ごとばかり言ってくるし! それに、なぜかこの学校だけ世界から切り離されてたから、じゃあ入れ替えてもいいかなって……」「いいわけあるか⁉」先生に怒られた賢者は、「もうしないって」と言いながら笑っている。(先生の勇者時代って、大変だったんだろうな)つい穂香はそんなことを思ってしまう。レンが「では、バラの件は解決したんですか?」と質問すると、先生は「ああ」とうなずいた。「まだバラは入れ替えられたままだが、コイツに責任を持って元に戻させる。おまえたちは、安心して文化祭を楽しん
「やり直しより大変なことって……」戸惑う穂香に、レンはスマホの画面を見せた。画面には映像が流れている。――ご覧ください! 突如、日本の上空に謎の巨大生物が現れました!(キシャァアア!!!)――あれは、まさしく、ドラゴンです! ドラゴンは、空想上の動物ではなかったのです!ああっ!? 人が、人がドラゴンの背に乗っています! こちらに、手を、手を振っています!穂香は、寝起きの目をこすった。「何これ? 映画の宣伝?」「いいえ。今朝、本当にあった話です。心当たりないのですか?」そう尋ねられた穂香は、昨日、賢者が『こっちにドラゴンでも召喚して』と言っていたことを思い出す。「あ、ああああ! 心当たり、あるある! 昨日、賢者さんがそんなこと言ってた!」「賢者?」「先生の勇者時代の仲間で……」「よく分かりませんが、先生が関わっていることは分かりました。とにかく学校に行きましょう」「う、うん」穂香がベッドから下りると、風景が変わる。【同日 朝/職員室前】(私の部屋から、学校に飛ばされてる)職員室前でバッタリと先生にあった。「おお、白川と高橋。今日は早いな」先生は、いつものようにダルそうだ。そんな先生に、レンが詰め寄った。「少しお話、いいでしょうか?」「ちょうど俺も高橋に会いたかった。とりあえず、生徒指導室に行くか」レンがうなずくと風景が変わる。【同日 朝/生徒指導室】先生が生徒指導室の扉を閉めると、レンがポケットからスマホを取り出した。「今朝のニュースを見ました。ご説明ください」「まぁ、座れ」穂香とレンが座ったのを見ると、先生は嬉しそうに笑った。「高橋がここにいるってことは、成功したってことだな」事情を知らないレンは、眉をひそめている。「そんな顔するなって。高橋、今、未来と連絡とれるか?」「いいえ。今朝、急に取れなくなりました」「上出来だな。分離もうまくいったようだ」「分離?」先生はこれからの未来が【人類が滅亡しそうでそれを回避した未来】と、【俺達がこれから作っていく、まったく別の未来】に別れたことを説明する。レンが「そんな……無茶苦茶な……」とつぶやいた。その顔は、真っ青だ。「こんなことをして人類滅亡より、もっとひどい未来を招いたら、いったいどう責任を取るつもりですか⁉」「これからは、科学と魔法が合わさってい
賢者は、「こういうときはね」と笑顔を浮かべる。「次元を部分的に塞いで、過去からの影響を未来人たちに流れないようにしたらいいんだよ。そうすると、未来人はそのまま残って周囲の環境だけが変わるから。でも、そこで未来は分離するね」説明がまったく理解できず、穂香は固まった。代わりに、生徒会長が質問してくれる。「分離というと?」「【人類が滅亡しそうでそれを回避した未来】と、【君たちがこれから作っていく、まったく別の未来】の2つに別れちゃうってこと。この2つはとても似ているようで別物だから、まぁ並行世界ってやつだね。でもさ、次元の穴を塞ぐなんて、そんなことできるの、私くらいだと思うけどなぁ? 私だけじゃ、未来人全員は救えないよ?」先生が「こっちの世界には、それができる一族がいるんだよ。な?」と、穴織を見た。「そう、ですね……。一族全員でやれば、できるかもしれません。絶対にできるとは言えませんが、白川さんへの恩返しのために、全力でやります!」「方法や具体的な指示は賢者が出す。穴織の一族には、おまえから話しをつけてくれ」「分かりました」穴織の胸ポケットから『もちろん、わしも協力するぞ』としわがれた声が聞こえてくる。とたんに賢者の瞳が輝いたので、彼にも話す武器の声が聞こえているようだ。先生は、賢者に向き直ると「何をどこまでやれば、未来を分離できる?」と尋ねた。「それだけど、こっちの世界は、科学にだけ特化して滅びそうなんだよね? でも、私がいる世界は、魔法にだけ特化してて、こっちはこっちで、もうそろそろ限界なんだよ」「そうなのか?」深刻な先生に、賢者は「だからさ、この際、滅びそうな2つの世界を混ぜちゃわない?」と満面の笑みを浮かべる。「例えば、こっちにドラゴンでも召喚して、向こうには科学で作った巨大なものを飛ばすとか、どう!?」「世界中が大混乱に陥るだろうな……。まぁ、そこまでしないと、ハッピーエンドにはたどり着けないということか」ため息を着いた先生は、生徒会長に視線を送る。「おまえのほうで、なんとかできるか?」「はい。都合が良いことに、ちょうど今、父が僕への罪悪感に苦しんでいるんです。『なんでも願いを言いなさい』と言うほどに。そこを利用して、混乱を最小限に抑えるために裏から手を回します」「頼もしいな」先生に肩を叩かれた生徒会長は、ニッコリと笑う。
3人で重箱をつついていると、みるみる中身が減っていく。中でも、穴織の食べっぷりは見ていて気持ちがいいくらいだった。「生徒会長、これマジで、めっちゃうまいです!」「喜んでもらえて僕も嬉しいよ」昨日、知り合ったばかりなのに、2人の会話は弾んでいる。「こんなうまい飯が毎日食べれるなんて、生徒会長がうらやましい!」「穴織くんは、転校して来たんだよね? もしかして、一人暮らしをしているの?」チラッと自分の胸ポケットを見た穴織は、「いや、まぁ、そんな感じです」と答えている。(話す武器のおじいさんが一緒だから、一人暮らしとは言い切れないんだね)穴織の事情を知っている穂香は心の中でそう思いながら、静かにため息をついた。(レン、大丈夫かな? ちゃんとご飯、食べてるかな……)穂香としては、レンが頑張ってくれているのに、自分だけのんびりしている状況が心苦しい。(でも、先生に放課後まで待ってくれって言われたから、待つしかないよね)しばらくすると、食事を終えた穴織が「ごちそうさまです!」と手を合わせた。生徒会長は、穂香の顔を覗き込む。「白川さんも、お腹いっぱいになった?」「あっ、はい! すごくおいしかったです。ありがとうございました」「でも、表情が暗いね」「すみません。レンのことを、考えてしまって」穂香が素直に伝えると、生徒会長の眉が下がる。「そうだよね。高橋くんのこと、心配だよね」それを聞いた穴織は、大きなため息をついた。「不謹慎やけど、正直、白川さんにこんだけ思ってもらえるレンレンがうらやましいわ」生徒会長はクスッと笑う。「分かる。僕も同じことを考えていたよ」「ですよね⁉ いくら白川さんに変わった能力があるとはいえ、自分を助けるために、こんだけ一生懸命になってくれる子がいたら嬉しいやろーなー。俺なんて、一生そういう子に会えそうもないわ」「僕もだよ」あきらめたような顔をする2人を見て、穂香は不思議な気分になった。(恋愛ゲームの恋愛相手に選ばれるくらい、2人ともハイスペックなのに?)顔よし、家柄よし、性格よしのすべてがそろっている。「あの、出会えると思いますよ」生徒会長と穴織が一斉に穂香を見た。「生徒会長も、穴織くんも、今まですごく大変な状況で、自分達が恋愛する余裕がなかっただけで……」穂香は、まっすぐ2人を見つめる。「でも
「白川、泣いている場合じゃないぞ。生徒会長からだいたいの話は聞いたが、もう一度、現状を確認しよう」そう言った先生は、穂香にこれまでのことを話すように指示する。そして、すべてを聞き終えると、大きくうなずいた。「なるほどな。研究者が人類の滅亡を防ごうとしていることから、地球の未来は科学だけに特化した世界なんだろうな」生徒会長が、「それは、どういう意味ですか?」と質問すると、先生は、急に授業中のような顔になった。「地球では科学が進んでいるが、異世界では魔法や他のものが進んでいる場合があるんだ。科学者の発明が引き金になり、人類の滅亡が始まるなら、地球は少し他のものを取り入れたほうがいいのかもな」穂香は、先生の言っている意味がよく分からなかった。「分からないって顔をしているな? ようするに、人類滅亡を阻止するのではなく、そもそも人類が滅亡するような事態にならないくらいまで未来を大幅に変えるのはどうだろうかって話だ?」「な、なるほど?」うなずく穂香の横で、生徒会長がさらに質問する。「でも、先生。未来を変えて人類滅亡を阻止したとしても、高橋くんが消えるという問題は解決できていないのではないでしょうか?」穴織も、ウンウンとうなずいている。「そうやんな。未来を大幅に変えると、レンレンどころか、今後生まれてくるすべての人達が変わってしまうんじゃないですか、先生?」「そこが問題だな。俺の知り合いにこういうことにくわしい奴がいてな。ちょっと聞いてみるから、放課後まで待ってくれ」穂香が「はい、よろしくお願いします」と頭を下げると、生徒会長が「その詳しい人って誰ですか?」と質問した。「ああ、勇者パーティーにいた賢者だ。かなりの変人だが世界の理(ことわり)を知っている」物語の中にしか出てこないような役職名を聞いた穂香は『なんだか、すごいことになりそう』と思うと風景が変わった。【同日 昼休み/教室】(あれ? 放課後まで飛ばされると思ったら、まだお昼休みだ)今日からレンは、学校に来ていない。昨日言っていた通り、やり直しを食い止めているのだろう。(レンがいないと、一緒に食べる相手すらいないよ……)いつもお弁当を作ってくれている母には「今日は忙しいから、購買でパンでも買ってね」と言われ、お金を貰っている。(購買、混んでないといいけど)穂香が立ち上がると「穴織
穂香とレンが一緒に教室を出ると風景が変わる。【10月14日(木) 朝/職員室前】(放課後の教室から飛ばされて、次の日になってる)穂香は、職員室の扉を開けると、松凪先生の姿を捜した。すぐに青い髪と赤い髪と黄色い髪が視界に入る。(あれ? 穴織くんと生徒会長も一緒だ)穂香に気がついた先生が、片手を上げた。「白川、ちょうどいいところに」「おはようございます」と頭を下げた穂香を、先生は職員室から連れ出した。そのあとを、穴織と生徒会長がつづく。【同日 朝/生徒指導室】生徒指導室に、赤・青・黄色の髪を持つ恋愛候補と、穂香がそろった。「さっそくだが、生徒会長から、だいたいの話は聞いた」と先生が腕を組む。「えっ?」と驚いた穂香に、生徒会長が事情を説明してくれた。「実は昨日、生徒会室のカギを返却しに職員室に行ったら、ちょうど先生と穴織くんに会って」穂香が「神々の試練って、そんなに早く終わるんですか⁉」と質問すると、先生が「いや、俺のときは1か月くらいかかったが、時空が捻じ曲がってるから、現実世界では数時間しか経っていないんだ」と教えてくれる。「それで、結果は?」穂香の問いに、穴織はグッと親指を立てた。「バッチリやで! 神々の祝福を受けたから、これで俺も長生きできるわ」明るい笑みを浮かべる穴織は、穂香の両手を握った。「白川さんのおかげや! ありがとう!」「ううん。先生のおかげだし、穴織くんが頑張ったからだよ」穴織は「めっちゃええ子や」と泣き真似をしながら感動している。穴織の胸ポケットからは、離す武器のおじいさんの声が聞こえてきた。『まだ一族全体の問題は解決しておらんが、涼だけでも助かる術(すべ)を得ることができて、希望の光が差し込んだ。娘よ、感謝する』生徒会長が「次は、僕が報告する番だね」と穂香の手を取った。「僕の問題は、白川さんの予想通り、先生と穴織くんのおかげで解決したよ」「えっ!? もう解決したんですか?」驚く穂香に、生徒会長は微笑みかけた。「うん。穴織くんに、調べてもらったら、僕の行く先々に化け物が呼び寄せられる呪いがかけられていたんだ」穴織が、「そうそう。ものすっごい複雑で分かりにくいヤツが。先生の協力がなかったら、俺では気がつけんかったわ」と言うと、先生は「俺だけでは無理だった。たまたま、その場に穴織がいたから見つけられ
生徒会長は、「そうだね」とため息をついた。「未来人達の目的は、あくまで人類滅亡の阻止だから、僕達の幸せはそこに含まれていないみたいだね」「そんな……。私、そんなの、嫌です」呆然とする穂香に、生徒会長は微笑みかける。「僕も未来人のやり方は気に入らないな。特に、白川さんの子孫を罪人扱いして、責任を取らせようとしているところなんて、聞いてるだけで気分が悪いよ。どうにかしたいね」生徒会長は、「そういえば……」とつぶやく。「僕の問題を解決できそうな白川さんの知り合いって、もしかして、他の恋愛候補なのかな?」「あっ、そうです。恋愛候補の残り2人は、穴織くんと松凪先生なんです」「穴織くんって、前に僕と白川さんが生徒会室に閉じ込められたときに、扉を開けてくれた生徒だよね? それに、松凪先生も?」穂香は、コクリとうなずく。「穴織くんは、化け物退治の専門家で、先生は、異世界で魔王を倒した元勇者だそうです」黄色の瞳が、驚きで大きく見開かれた。「よく分からないけど、すごそうだね。僕達、恋愛候補の3人は、お互いのためにも協力したほうがいいと思う。今から会わせてもらえるかな?」「それが……」穂香は、今は穴織が異世界で神々の試練を受けているから会えないことを説明した。「どういう状況なの?」と驚く生徒会長に、穂香は苦笑いする。「じゃあ、その試練が終わり次第合わせてもらうとして……。あとは、高橋くんは、未来から来た天才科学者で、白川さんは、パートナーになった相手を少しだけ幸せにできるって言ってたよね?」「正確には違うんですが、そんな感じです」「皆、すごいね。僕は自分で言うのもどうかと思うけど、自由に使えるお金が多い。ねぇ、僕達が協力したら、なんでもできそうじゃない?」生徒会長の顔は、どこまでも真剣だ。「それこそ、人類滅亡の阻止も、僕達、皆が幸せになれる未来作りも」穂香がうなずくと、風景が変わった。【同日 放課後/教室】(生徒会室から、教室に飛ばされてる)夕焼け色に染まる教室には、レンしかいない。穂香を見つけると、レンはため息をついた。「遅いですよ。もう、皆、帰りました。文化祭の準備は、また明日やるそうです」(あっ、そういえば私、文化祭準備の時間延長申請のために、生徒会室に行ったんだった)いろいろありすぎて、すっかり忘れてしまっていた。「ごめん
ベッドの中で心地好い眠りについていた穂香(ほのか)は、聞きなれた電子音で目が覚めた。朝6時にセットしていたスマートフォンのアラームが鳴っている。(学校に行きたくない……)そんなことを思いながら、枕元に置いていたスマホを手探りで探す。高校二年生になったばかりの穂香は、一年生のときに仲が良かった友達全員とクラスが離れてしまった。別にイジメにあっているわけではない。だけど、仲がいい友達がクラスにいないことがつらい。「はぁ……」穂香のため息は、鳴り続ける電子音にかき消された。アラームを止めたいけど、スマホが見つからない。「あれ?」スマホを探すために、穂香はベッドから起き上がった。すると、部屋の隅にメガネをかけた見知らぬ男子高校生が佇んでいることに気がつく。(あっ、これは夢だ)普通なら悲鳴を上げるところだけど、男子高校生の髪と瞳が鮮やかな緑色だったので、穂香はすぐに夢だと気がついた。穂香を見つめる男子高校生は顔がとても整っていて、まるでマンガやゲームのキャラクターのように見える。「起きましたね。アラームは消しますよ」そんなことを言いながら男子高校生は、穂香のスマホのアラームを慣れた手つきで止めた。「穂香さん、おはようございます」「え? どうして、私の名前を?」と、言いつつ『そういえば、これは夢だった』と思い出す。夢なら知らない人が穂香の名前を知っていても不思議ではない。「えっと……どちらさまですか?」おそるおそる尋ねると、男子高校生はニッコリ微笑んだ。「嫌だなぁ、寝ぼけているんですか? 私はあなたの幼なじみのレンですよ。毎朝、穂香さんを起こしに来ているでしょう?」「幼なじみ? レン?」穂香には、レンという名前の知り合いはいなかった。そもそも幼なじみと呼べるような関係の人すらいない。(なるほど、これはそういう設定の夢なのね。夢だったら、いないはずの幼なじみがいても問題ないか)穂香は、初対面の幼なじみに遠慮がちに話しかけた。「えっと……。とりあえず、あなたのことは、レンさんって呼んだらいいですか?」「レンさんだなんて! いつも私のことはレンと呼んでいるじゃないですか」「あっ、そうなんですね」「穂香さん。いつものようにもっと気軽に話してください」(そんなことを言われても……)穂香はその『いつも』を知らない。「でも、レン...
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