高校二年生の白川穂香は、ある日、目覚めるとなぜか現実世界がゲームになっていた。 この世界から脱出できるたった一つの方法は、学園内のイケメンから告白されること。 穂香は「絶対に無理」と思ったが、自称幼馴染で協力者のレンに「一生この世界に閉じ込められたままでいいんですか?」と、言われ仕方なくイケメン達と仲良くなるための努力を始める。 しかし、まったく仲良くなれる気がしなかった穂香は、「イケメンからの告白って、レンからでも良いのでは?」と気がつく。 穂香の予想外に提案に驚いたレンだが、二人はこの世界から脱出するために、恋人同士のふりをすることになったが、なぜか他のイケメン達ともどんどん仲がよくなっていき…?
view more次の日の朝、穂香が目を覚ますと目の前に文字が浮かんでいた。【10月5日(火)朝/自室】「うわっ!? 何これ?」「穂香さん、おはようございます」当たり前のように部屋にいるレンにも同じように穂香は「うわっ!?」と驚いてしまう。「どうかしましたか?」「あ、えっと、日付が目の前に浮かんでいるから、驚いちゃって……」「ああ、それですか。急に風景が変わってややこしいので、そういうのがあったほうが便利でしょう?」「そうだけど……。あの、レンはどうして私の部屋にいるの?」穂香の質問にレンは首をかしげる。「幼なじみが毎朝、起こしにくるのは、あるあるでは?」「そんなあるあるはないよ。もう起こしに来なくていいから」今さらだが、レンに寝顔やパジャマ姿を見られるのが恥ずかしくなってきた。穂香がベッドから下りるとまた風景が変わり、目の前に【同日の朝/教室】の文字が浮かぶ。穂香は、いつの間にか朝ご飯を食べて、身なりを整え、制服に着替えた状態で教室にいた。「まだ驚いちゃうけど、この瞬間移動みたいなの便利だね」「そうでしょう?」レンはなぜか自分が褒められたように嬉しそうだ。「あっ、穂香さん。恋愛相手の一人、穴織くんが登校してきましたよ! 仲良くなるチャンスです!」「え? あ、う、うん!」覚悟を決めた穂香は「穴織くん、おはよう」と挨拶をした。すぐに穴織は爽やかな笑みを浮かべる。「白川さん、おはよーって、あれ? 今日は早いな? 白川さんがおるってことは……」と言いながら、穴織はニッと笑って白い歯を見せた。「やっぱり、レンレンもおるやん! 自分ら、ほんとに仲ええなぁ」レンは「そんなことはないですよ」と口元だけで笑っている。ニコリともしていない緑色の瞳は、穂香に向けられていて『ほら、もっと話せ!』と無言で訴えていた。(レンからの圧が、圧が強い!)穂香が必死に会話を探しているうちに、穴織は他の生徒に呼ばれて行ってしまった。「穂香さん」と、背後からレンに名前を呼ばれた穂香は、思わず「ひっ」と小さく悲鳴を上げた。怒られそうとおびえながら振り返ると、レンは小さなメモ帳を手に持ちめくっている。「とりあえず穴織くんと挨拶はできましたね。彼は、毎朝これくらいの時間に登校しているので、私たちも明日からこの時間に登校しましょう」「えっと」穂香が戸惑っていると「どうかし
校内にチャイムが鳴り響くと、また風景が切り替わった。いつの間にか日が暮れて、教室がオレンジ色に染まっている。放課後の教室で、穂香はレンと二人きりになっていた。「本当に変な世界だね。朝の教室から放課後まで時間が飛んだのに、授業を受けた記憶があるし、授業内容も覚えているなんて……」ため息をつく穂香に、レンは微笑みかける。「そのうち慣れますよ。で、誰と恋愛するか決めましたか?」「いや、普通に考えて全員無理でしょ」「やる前からそんなことを言ってはいけません。決めないという選択肢はないんですからね?」口調は穏やかだが、レンから『早く決めろ』という強めの圧を感じる。「でも……」「私がサポートしますから」「いや、だって……」穂香はレンに両肩をつかまれた。レンの口元は笑っているが、瞳は少しも笑っていない。「穂香さん、これからずっとこの世界を彷徨い続けるつもりですか? 何回も何回も何回も同じ朝を繰り返し続けると?」「ご、ごめんなさい!」つい謝ってしまうくらいの迫力がレンにはあった。あまりに必死なレンを見て、穂香はふと気がつく。「あっもしかして、レンも私と一緒で、この世界に閉じ込められている、とか?」「まぁ、そのような感じです」「そうだったんだ。だから、ずっと『協力して脱出しましょう』って言ってたんだね」どうしてレンが協力してくれるのか?どうしてそんなに必死なのか?その理由が穂香は、やっと分かった。(ずっとこんなおかしな世界にいるなんて嫌だよね。自分のためにも、レンのためにも誰かと恋愛しないと……)穂香は、おそるおそる尋ねる。「念のために確認するけど、恋愛するのは一人だけでいいんだよね?」レンは「当たり前です」と眉間にシワを寄せる。「良かった……全員と恋愛しないとダメとかじゃなくて」「ご安心ください。誰か一人から告白されると、この世界から脱出できます。失敗しても一日目の朝に戻されるだけなので、告白されるまで何回でもチャレンジできますよ」「そっか、分かった。じゃあ、いきなり恋愛相手を決めるのは無理だから、皆と少しずつ仲良くなれるように努力するのはどう?」レンは「ふむ」と言いながら考えるような仕草をする。「なるほど。まずはお友達からということですね?」「そうそう、だって私、さっき紹介された3人の誰とも、お友達ですらないからね?
慌てる穂香を無視して、レンは「右手をご覧ください」と、まるでバスガイドさんのように案内を始めた。レンの言葉と同時に、通学路を歩いていたはずなのに、風景が見慣れた学校前に切り替わる。「また急に場面が!?」と驚く穂香に、レンは「そういう仕様です。慣れてください」と淡々と返した。学校は、穂香が通っている学校だった。「制服が違うから、てっきり別の学校に通うのかと思っていたけど、さすがは夢。そこらへんは適当なんだね」穂香の独り言を聞いたレンは「まぁ、そういうことにしておいてください」と笑っている。学校前は、ざわざわして大勢の人がいそうな気配がするのに、穂香の目には一人の金髪男子しか見えない。「留学生?」「いいえ、あれは生徒会長ですね」レンの言葉に、穂香は首をかしげた。「でも、この学校の生徒会長は、黒髪の日本人だよ? 何回か遠目で見たことあるから」「ああ、それについては、恋愛相手が一目で分かるように、髪の色と目の色が変わっています。ゲームのキャラクターっぽいでしょう? 生徒会長は金髪金目ですね」「それは確かにキャラクターっぽい……って、生徒会長が恋愛する相手なの!?」レンは「はい、そうです。彼、イケメンでしょう?」とニコニコしている。「確かにイケメンだけど……。生徒会長って私より先輩だし、そもそも一度も話したことないよ!?」「まぁまぁ、とりあえず近づいてみましょう、ね?」穂香は、レンに背中を押されて無理やり生徒会長の側に連れて行かれた。すると、姿はないのに複数の女子生徒の声が聞こえてくる。「生徒会長、おはようございますぅ!」「きゃー! 今日もカッコいいー!」「こっち向いてー!」穂香の目には、生徒会長が一人で困った顔をしながらフラフラしているようにしか見えない。穂香は、小声でレンに尋ねた。「生徒会長、一人で何しているの?」「どうやら女子生徒に囲まれて前に進めないようですね」「女子生徒なんてどこにもいないけど!?」レンは「ですから、モブキャラに立ち絵はないんですって」と教えてくれる。「あっそうか、私のお母さんも見えなかったもんね……変な世界」「受け入れてください」「うん、まぁもう受け入れつつあるよ。それで、こんな大人気な生徒会長に、何をどうしたら私が告白されるわけ? そんなの絶対に無理……」レンは「まぁまぁ、そう悲観せず。他
この世界から脱出できなければ、同じ日を繰り返す。(ゲームなら問題ないけど、それが現実に起こったらおかしくなってしまいそう……)この世界は夢だと分かっていても、目が覚めるまで穂香はここにいないといけない。(だったら、レンと協力したほうがいい)穂香(ほのか)は隣を歩くレンを見上げた。「これから何をすればいいの?」「この恋愛ゲームの世界から脱出する方法は、たったひとつです」レンは人差し指をたてる。「主人公である穂香さんが、イケメンから告白されること」「……えっと、ふざけてる?」戸惑う穂香に、レンは「まさか!」と大げさに驚いて見せた。「穂香さん、よく考えてみてください。この世界は恋愛ゲームなんですよ? 恋愛ゲームは何をするゲームですか?」「それは……恋愛だね」「そうです。だから、この世界はイケメンと恋愛するための場所なんですよ。イケメンと無事に恋人関係になったらゲームクリアです」「もしかして、ゲームをクリアしたら、この世界から脱出できるってこと?」「そうです!」ニコニコ笑顔のレンを見て、穂香は申し訳ない気持ちになった。「脱出方法は分かったけど、私には無理そう」「どうしてですか?」どうしてと言われても、穂香はこれまで告白したこともなければ、されたこともない。もちろん、付き合ったこともない。「だって私、美人じゃないし……」「恋愛ゲームの主人公が美人とは限りませんよ」「そうかもしれないけど……」今の穂香は恋人より、クラスに仲のいい友達がほしかった。友達がいなくて困っているのに、恋人のことなんて考えられない。穂香が黙り込んでいると、レンは穂香が不安になっていると思ったようだ。「大丈夫ですよ! あなたには、幼なじみ兼お助けキャラの私がついているのでご安心ください」レンは、自信たっぷりに右手を自分の胸に当てる。「あなたがイケメンから告白されるように、私が全力でサポートします」そういうレンの顔は、ものすごく整っている。(自分もイケメンなのに……)穂香はいいことを思いついた。「私じゃなくてレンが可愛い女の子に告白されるのを目指したほうがいいんじゃない? そのほうが早いと思う」穂香はとてもいいアイディアだと思ったのに、レンに「そういうゲームではないので」ときっぱり断られてしまう。「この世界の主人公は、穂香さん。あなたなのです
確かに穂香(ほのか)は、ベッドから下りた。それなのに、いつの間にか、通学路を歩いている。「えっ!?」それはまるで、家からここまで瞬間移動でもしたようだった。しかも、穂香はいつも着ている制服ではない別の制服を着ていた。その制服は、隣を歩くレンとよく似たデザインで、レンのズボンと穂香のスカートは同じチェック柄だ。二人で並んで歩いていると、こういう制服の高校に通っている生徒に見える。しかし、穂香が通っている学校は、こんな制服ではない。不思議なことに穂香には、朝ご飯を食べた記憶も、着替えた記憶も、ここまで歩いてきた記憶もあった。「ど、どういうこと!?」レンは「日常パートをダラダラと流したら、ゲームプレイヤーが飽きてしまうので自動でカットされる仕様になっています」とニコニコ笑顔で教えてくれる。「自動カット!?」「重要な場面では、選択肢も出てきますよ。こんな風に」レンの言葉で、穂香の目の前に透明なパネルが二枚浮かび上がった。パネルにはそれぞれ【はい】と【いいえ】が書かれている。「本当にゲームの世界みたい……」「みたいではなく、ここはゲームの世界なんですよ」穂香が「恋愛ゲーム、だったっけ?」と確認すると、レンはコクリと頷いた。「穂香さんは、恋愛ゲームはご存じですか? 乙女ゲームとも呼ばれることがありますが」「それって、いろんなイケメンと恋愛を楽しむゲームだよね? くわしくないけど、広告で見たことはある」「そうそう、それです。あなたは、そのイケメン達を攻略して恋愛を楽しむゲームの中に、閉じ込められています」レンは、不安そうな表情を浮かべながら「ここまでは、大丈夫ですか?」と穂香に尋ねた。「う、うん。ようするに、この夢では、私は恋愛ゲームの世界に紛れ込んでしまっていて、ここから脱出するためにレンと協力しないとダメってことだよね?」「夢ではないんですけど……。まぁ、もう夢でいいか」レンは、キリッとした表情をこちらに向ける。「そうなのです。この恋愛ゲームの世界から脱出するために、これから一緒に頑張りましょう!」「何を頑張ればいいのか分からないけど……もし、脱出できなかったら私はどうなるの? まさか、死んでしまう、とか?」「いいえ。脱出できるまでやり直しをさせられるだけです。ついさっき、私があなたのスマホのアラームを止めるシーンを二回繰り返し
そこには誰もいないのに、確かに母の声がする。「穂香(ほのか)。早く朝ご飯、食べちゃって」扉が閉まると、母の声は聞こえなくなった。穂香には、何が起こっているのか理解できない。「……え? 今の、何?」呆然としている穂香に、レンは「あなたのお母さんが来たんですよ」と伝える。「でも、お母さん、いなかったよ⁉ 声はしたけど、いなかった!」そんなことあるはずないのに、そうとしか言えない。レンは「ああ」と言いながら小さく頷いた。「おばさんは、メインキャラではなくモブキャラですからね。立ち絵がないんですよ」「モブキャラ!? 立ち絵? 何を言ってるの?」動揺する穂香を、レンは不思議そうに見つめている。「モブキャラは、重要じゃない登場人物のことです。ほら、マンガやゲームでは通行人に顔が描かれていないことがあるでしょう?」「それとお母さんの姿が見えないことになんの関係が……って、あっ! これは夢だった」穂香は、ホッと胸をなでおろした。レンは、そんな穂香の肩にそっと手をおく。「夢ではありませんよ。これは現実です」「は?」穂香に向けられた緑色の瞳は、どこまでも真剣でふざけているようには見えない。「初めまして。恋愛ゲームの世界に閉じ込められてしまった主人公の白川穂香さん。私はあなたの幼なじみ兼お助けキャラ役の高橋レンです。この世界から脱出するために、協力しましょう」「……」穂香には、レンが何を言っているのかさっぱり分からなかった。ニッコリと微笑むレンを無視して、穂香はこのおかしな夢から覚めるためにもう一度ベッドにもぐりこむ。すぐに眠りへと落ちていく。まどろみの中で、聞きなれた電子音が聞こえた。「……変な夢、見た……」穂香がベッドから起き上がると、ベッドの側に立っている緑髪の男子高校生が、慣れた手つきで穂香のスマホを操作してアラームを止める。そして、さっき聞いた言葉を繰り返した。「初めまして。恋愛ゲームの世界に閉じ込められてしまった主人公の白川穂香さん。私はあなたの幼なじみ兼お助けキャラ役の高橋レンです。この世界から脱出するために、協力しましょう」「いやいやいや! 私に幼なじみはいませんからっ! どうして夢から覚めないの!?」レンはあきれたようにため息をつく。「穂香さん、主人公が『起きない』という選択肢は、この世界には設定されていない
ベッドの中で心地好い眠りについていた穂香(ほのか)は、聞きなれた電子音で目が覚めた。朝6時にセットしていたスマートフォンのアラームが鳴っている。(学校に行きたくない……)そんなことを思いながら、枕元に置いていたスマホを手探りで探す。高校二年生になったばかりの穂香は、一年生のときに仲が良かった友達全員とクラスが離れてしまった。別にイジメにあっているわけではない。だけど、仲がいい友達がクラスにいないことがつらい。「はぁ……」穂香のため息は、鳴り続ける電子音にかき消された。アラームを止めたいけど、スマホが見つからない。「あれ?」スマホを探すために、穂香はベッドから起き上がった。すると、部屋の隅にメガネをかけた見知らぬ男子高校生が佇んでいることに気がつく。(あっ、これは夢だ)普通なら悲鳴を上げるところだけど、男子高校生の髪と瞳が鮮やかな緑色だったので、穂香はすぐに夢だと気がついた。穂香を見つめる男子高校生は顔がとても整っていて、まるでマンガやゲームのキャラクターのように見える。「起きましたね。アラームは消しますよ」そんなことを言いながら男子高校生は、穂香のスマホのアラームを慣れた手つきで止めた。「穂香さん、おはようございます」「え? どうして、私の名前を?」と、言いつつ『そういえば、これは夢だった』と思い出す。夢なら知らない人が穂香の名前を知っていても不思議ではない。「えっと……どちらさまですか?」おそるおそる尋ねると、男子高校生はニッコリ微笑んだ。「嫌だなぁ、寝ぼけているんですか? 私はあなたの幼なじみのレンですよ。毎朝、穂香さんを起こしに来ているでしょう?」「幼なじみ? レン?」穂香には、レンという名前の知り合いはいなかった。そもそも幼なじみと呼べるような関係の人すらいない。(なるほど、これはそういう設定の夢なのね。夢だったら、いないはずの幼なじみがいても問題ないか)穂香は、初対面の幼なじみに遠慮がちに話しかけた。「えっと……。とりあえず、あなたのことは、レンさんって呼んだらいいですか?」「レンさんだなんて! いつも私のことはレンと呼んでいるじゃないですか」「あっ、そうなんですね」「穂香さん。いつものようにもっと気軽に話してください」(そんなことを言われても……)穂香はその『いつも』を知らない。「でも、レン
ベッドの中で心地好い眠りについていた穂香(ほのか)は、聞きなれた電子音で目が覚めた。朝6時にセットしていたスマートフォンのアラームが鳴っている。(学校に行きたくない……)そんなことを思いながら、枕元に置いていたスマホを手探りで探す。高校二年生になったばかりの穂香は、一年生のときに仲が良かった友達全員とクラスが離れてしまった。別にイジメにあっているわけではない。だけど、仲がいい友達がクラスにいないことがつらい。「はぁ……」穂香のため息は、鳴り続ける電子音にかき消された。アラームを止めたいけど、スマホが見つからない。「あれ?」スマホを探すために、穂香はベッドから起き上がった。すると、部屋の隅にメガネをかけた見知らぬ男子高校生が佇んでいることに気がつく。(あっ、これは夢だ)普通なら悲鳴を上げるところだけど、男子高校生の髪と瞳が鮮やかな緑色だったので、穂香はすぐに夢だと気がついた。穂香を見つめる男子高校生は顔がとても整っていて、まるでマンガやゲームのキャラクターのように見える。「起きましたね。アラームは消しますよ」そんなことを言いながら男子高校生は、穂香のスマホのアラームを慣れた手つきで止めた。「穂香さん、おはようございます」「え? どうして、私の名前を?」と、言いつつ『そういえば、これは夢だった』と思い出す。夢なら知らない人が穂香の名前を知っていても不思議ではない。「えっと……どちらさまですか?」おそるおそる尋ねると、男子高校生はニッコリ微笑んだ。「嫌だなぁ、寝ぼけているんですか? 私はあなたの幼なじみのレンですよ。毎朝、穂香さんを起こしに来ているでしょう?」「幼なじみ? レン?」穂香には、レンという名前の知り合いはいなかった。そもそも幼なじみと呼べるような関係の人すらいない。(なるほど、これはそういう設定の夢なのね。夢だったら、いないはずの幼なじみがいても問題ないか)穂香は、初対面の幼なじみに遠慮がちに話しかけた。「えっと……。とりあえず、あなたのことは、レンさんって呼んだらいいですか?」「レンさんだなんて! いつも私のことはレンと呼んでいるじゃないですか」「あっ、そうなんですね」「穂香さん。いつものようにもっと気軽に話してください」(そんなことを言われても……)穂香はその『いつも』を知らない。「でも、レン...
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