高校二年生の白川穂香は、ある日、目覚めるとなぜか現実世界がゲームになっていた。 この世界から脱出できるたった一つの方法は、学園内のイケメンから告白されること。 自称幼なじみのサポートキャラ高橋レンと、この世界から脱出するために恋人のふりをすることになったが、なぜか他のイケメン達ともどんどん仲がよくなっていき、彼らの秘密が明らかに。 陰陽師!? 異世界を救った勇者!? ホラーゲームの主人公!? 彼らの協力を得て、穂香はこの世界の謎を解き明かし脱出を試みる。
ดูเพิ่มเติม穂香は、レンを涙目で見つめた。「あ、ありがとう! 実は、生徒会室で化け物に襲われそうになったことを思い出しちゃって」「化け物に? どうして、それを先に言わないんですか⁉」「あれ? 言ってなかったっけ?」「聞いてませんよ。先に言ってくれれば……」レンは、途中で口を閉じた。「言ってくれれば何?」穂香がレンの顔を覗き込むと、少し怒っているように見える。「えっ、もしかして、無理やり引きとめたから怒ってる?」「……違います。その、事情を知っていたら、もう少しあなたに対して優しい対応をですね……」ブツブツ言っているレンの肩を、穂香はつかんだ。「大丈夫! レンは、いつだって優しいよ!」「なっ!?」レンは右腕で顔を隠してしまった。隙間から見えている耳や頬が赤くなっている気がしなくもない。「もしかして、照れてる?」レンから返事はない。「レンが照れるなんて珍しいね。ようやく私の可愛さに気がついた? なんてね」冗談を言っていると、レンは顔を隠すのをやめた。その顔は少しも赤くなっていない。「今日の穂香さんは、だいぶ余裕があるみたいなので、研究の続きをしましょうか」「研究?」首をかしげる穂香に、レンはニッコリと作ったような顔で微笑みかける。「ほら、前に言ったでしょう? 10秒間、キスすると……約8千万の菌が互いの口内を移動するという話」ボッと音がなりそうなほど、瞬時に穂香の頬は熱くなった。動揺する穂香の手に、レンがそっとふれる。「ちょ、ちょっと待ってっ!」ゆっくりとレンの顔が近づいてきた。(ほ、本当にキスするの⁉)穂香がギュッと目をつぶると、「フッ」と笑う声が聞こえる。目を開けると、レンが困ったような顔をしていた。「そんなに嫌そうな顔しないでください。無理やりなんてしませんよ。冗談です、冗談」「じょう、だん」急に恥ずかしくなった穂香は、膝を抱えて顔をうずめた。(本当にキスするかと思って驚いたけど……)いつも側にいて、いつでも穂香の味方をしてくれる。口は悪いけど、本当は優しい。そんなレンに、キスされそうになって嫌な気分になるはずがない。(私、たぶん、レンのことが好きなんだ)チラッとレンを見ると、すぐ近くにレンの顔があった。緑色の瞳が不安そうに揺れている。「すみません。ふざけすぎました。あなたを傷つけようとしたわけではなくて―
穂香が穴織に頼んだとたん、風景が変わった。【同日 夜/自宅前】(学校から私の家まで飛ばされたんだね)日が暮れて、辺りは暗くなっている。穂香は、玄関の扉を開いた。「ただいま!」声だけ聞こえる母から「おかえりなさい」と返事がある。「お母さん、友達連れて来たから」「友達って、どうせレンくんでしょう? って、あら?」どうやら母は、穴織を見たようだ。「いらっしゃい。穂香のクラスメイトかしら?」「はい、同じクラスの穴織です。今日は文化祭のことを話し合うために集まりました。遅い時間帯にすみません」穴織は、動揺することなくスラスラと嘘の説明をしている。(穴織くん、すごい! 正体を隠して化け物退治をしているから、こういうことになれているのかも?)感心している穂香の横で、レンが「穂香さんの部屋はこっちですよ」と指をさす。穴織は、母との会話を切り上げると、レンのあとに続いた。「なんで白川さんじゃなくて、レンレンが案内してくれんの?」レンは「まぁ、ここにはよく来ますから」と淡々としている。「え? それって、部屋にくる仲ってこと? 自分ら本当に付き合ってないんやんな?」その言葉は、穂香の胸をえぐった。「そうだよ、付き合ってない……。レンが私のことを好きになって、告白してくれたらこの恋愛ゲームの世界から脱出できるのにね」レンは、穂香から視線を逸らす。「そんなことを言われても、嘘の告白では、意味がないから仕方ないでしょう」「分かってるよ。大丈夫、頑張るから」そんな会話をする二人を見た穴織は、「なんか、こっちはこっちで大変そうやなぁ」と哀れみの目を向ける。穂香は、自室の扉を開いた。「はい、ここが私の部屋だよ。あまり片付いてないけど、どうぞ」すんなりと入ったレンとは違い、穴織は入るのをためらっている。「穴織くん?」「あ、いや。女子の部屋に入るの初めてでちょっと緊張してる」「えっ? 穴織くん、彼女の部屋に入ったことないの?」「ないない。というか、今まで生きてて彼女ができたことが一度もない」「こんなに爽やかイケメンなのに!?」驚く穂香以上に、穴織が驚いた。「えっ、俺って白川さんから見たらイケメンなん!?」「私だけじゃなくて、誰から見てもイケメンだよ! 明るいし誰にでも優しいし、クラスの皆、穴織くんのことが大好きだと思うよ」「そんなん
穴織は「怪しい人?」と穂香の言葉を繰り返した。「えっと、説明が難しいんだけど、穴織くんは、私が閉じ込められている恋愛ゲームの重要人物で……」「俺が?」まさか、『あなたは私の恋愛候補なんです』とは、さすがに本人に言えない。「穴織くんは、前におまじないのことを調べていたよね?」穴織に『やってみてほしい』と言われて、穂香とレンはおまじないのことを知った。「あのおまじない、私にも関係あることみたいなの」おまじないをしたら、夢の中でレンと話せるようになった。そして、怪しい黒髪先輩もおまじないをしていた。黒髪先輩は、生徒会長のことが好きなようで、生徒会長は化け物に付きまとわれている。(これだけいろんな人が関わっているんだから、おまじないは絶対に重要イベントだよ。これをクリアしたら、私や皆の問題も少しは解決するかもしれない)話す武器が『娘は、嘘はついておらん。悪意もない』と言う。穴織は赤い髪をグシャとかき乱した。「うーん、分かった。白川さん、とりあえず手を組もう。というのも、正直、こっちは行き詰ってるねん」穂香が「穴織くんは、化け物退治の専門家なんだよね?」と確認すると、穴織はうなずく。「今さら隠しても仕方ないから言うけど、俺の家は代々化け物を退治してきた一族でな。今回も化け物退治の依頼を受けてこの学校に来たんや。でも、なかなか解決できんくて」「穴織くんでも倒せないほど、化け物が強いってこと?」「そうじゃなくて、倒しても倒してもキリがなくてな」穴織は、話す武器を穂香に見せた。「俺の一族は、名前の通り【穴を織(お)れる】ねん」「えっと?」「まぁ、分からんよな。本来なら、化け物と人間が暮らす世界は異なるんやけど、人間の悪意や憎悪、絶望などが強すぎると穴が開いて、そこから化け物がこっちに来てしまうことがあるんや」『こちら側に来た化け物を退治して、開いた穴を塞ぐのがワシらの役目じゃ』「な、なるほど?」と言ったものの、穂香はよく分からない。穴織は気にせず話し続けている。「普通は、こっちに来た化け物を退治して、穴をふさいだら終わるねんけど、次から次へと化け物が現れてな。しかも、おまじないをしたら同じ夢を見れるとか言うし、原因が分からんくて困ってんねん」「原因って、おまじないじゃないの? おまじないの力で化け物を呼びよせている、とか?」「うーん」
穴織に「お前、同業者か? それとも、俺らの敵か?」と問われたとたんに、穂香の前に透明なパネルが現れた。(選択肢だ……。ということは、これはものすごく重要な質問だということだよね)2枚の透明なパネルには、『正直に答える』と『うまく誤魔化す』と書かれている。不思議なことに、選択肢が現れている間は、周囲の時間は止まっているようだ。穴織もレンも固まったままピクリとも動かない。(たぶん、うまく誤魔化したほうがいいと思うけど、口下手な私じゃ誤魔化せる気がしない)中途半端なことをすると、余計に穴織の怒りを買ってしまいそうだ。(だったら、もう正直に話すしかないよね?)穂香は、おそるおそる『正直に答える』のパネルにふれた。そのとたんにパネルが光り消えてなくなる。時間が動き出したようで、レンが穂香をかばうように、穴織との間に割って入った。「何か誤解があるようです」「だったら、俺が分かるように説明して、その誤解とやらを解いてくれや」穂香は、ゴクリとツバを飲み込んだ。「穴織くん。今から全部話す。信じられないかもしれないけど、私の話を最後まで聞いてほしいの」腕を組んだ穴織は「分かった」とうなずく。(もし、選択肢が間違っていたら、記憶を消されてやり直し……でも、もうやるしかない!)穂香は覚悟を決めて話し始めた。「まず、私とレンは、穴織くんの同業者でも敵でもないよ。むしろ、穴織くんが言っている同業者も敵もなんのことだか分からない。でもっ」穴織は無表情のまま、耳を傾けてくれている。「穴織くんとは別件で、私自身もおかしなことに巻き込まれてしまっているの。信じてもらえないかもしれないけど……。私、恋愛ゲームの世界に閉じ込められているの」穂香が口を閉じると辺りが静まり返った。しばらくすると、穴織の胸ポケット辺りから『言霊(ことだま)の色を見る限り、この娘、嘘はついとらんぞ。しかも、殺意はもちろん、悪意すらない』と声がする。「う、嘘が分かる……?」穂香の顔から血の気が引いていく。「それって、もし私が『うまく誤魔化す』の選択肢を選んでいたら、バッドエンドになってたってこと⁉」穴織は「ジジィの声が聞こえるんか⁉」と驚きの表情を浮かべている。「うん、聞こえてる。それに、穴織くんが私の記憶を消そうとしたけど、消えてないの」「俺の術まで効かんなんて……。一体、白川さ
「生徒会長の事情は、だいたい分かりました」でも、穂香にはまだ分からないことがあった。「そういえば、どうして私と初めて会ったとき、相談にのると言ってくれたんですか?」周りの人を危ない目に遭わせないように人を避けているのに、それでは辻褄(つじつま)が合わない。「ああ、あれね」生徒会長が笑うと周囲に花が舞っているような気がする。(この人、本当にすごいイケメン……。だからといって、ときめきは少しもないんだけど)どれほどイケメンでも、ホラーゲームの主人公とだけは関わりあいたくない。「白川さんは、僕よりお弁当に釘付けだったから珍しくて。君は『友達がいない』と悩んでいたでしょう? だから、自分の置かれた状況も忘れて、君と友達になれたらいいなって思っちゃったんだ。今の状況では無理なのにね」「友達……」優しいその言葉を聞いて『関わりあいたくない』と思ったことに、穂香は罪悪感を覚えた。(生徒会長だって、好きでホラーな目に遭っているわけじゃないのに、私ったら)化け物退治はできないが、せめてもう少し何かお役に立てればいいなと思う。「そうだ! 友達になっても不思議なことが起こるか、試してみませんか?」「え?」「女生徒が生徒会長にふれたら、おかしなことが起こりますよね? じゃあ、口約束で女生徒と友達になったら、どうなるか気になりませんか?」「気になるけど……。また怖い目に遭うかもしれないのに、いいの?」「よくはないですけど、その、私も気になるので」ためらったあと、生徒会長は小さくうなずいた。「じゃあ、お願いしてもいいかな?」「はい」生徒会長は、穂香をまっすぐ見つめる。「僕とお友達になってください」「はい、よろしくお願いします」何か起こるかと緊張していたが、何も起こらない。穂香は、息を吐いた。「口約束で友達になったくらいでは、何も起こらないみたいですね」「そうだね。分かってよかった。ありがとう」微笑み合ったとき、生徒会室の扉が叩かれた。廊下側から複数の足音が聞こえる。「お待たせしました! 穂香さん、穴織くんを連れてきましたよ」穂香は扉のほうに駆け寄った。「レン、ありがとう」穴織は「皆、少し扉から離れてなー」と声をかける。「うん、分かった」あれだけビクともしなかった扉は、何事もなかったようにあっさり開いた。開いた扉の向こうには、穴
最近、不思議なことが立て続けに起こっているという生徒会長の表情は暗い。「他の生徒会メンバーも、人がいないのに視線を感じたり、誰かに追いかけられたりしたようなんだ。だから、生徒会メンバーには、生徒会に近づかないようにお願いしていて……」「なるほど。そういう事情があったから会長は、一人で生徒会の仕事をしていたんですね」「みんな、『手伝う』と言ってくれるけど、またおかしな目に遭ったら困るからね」穂香はふと、人気者の生徒会長が、なぜか体育館裏で隠れるようにお弁当を食べていたことを思い出した。「もしかして、体育館裏でお弁当を食べていたのも?」「うん。家の者がいつも多めにお弁当を作ってくれるから、それまでは、友達と一緒に食べていたんだけど、僕と一緒にいて、その子達もおかしな目に遭ったら困るから」「人を避けるしかなかったと……。ん? あれ?」穂香はふと、生徒会長が女生徒に囲まれていたことを思い出す。もし、生徒会長の側にいるだけで危ない目に遭うのなら、彼女達も危ない目に遭っていないとおかしい。「生徒会長。もう少し詳しくお話を聞いてもいいですか?」質問を続けた結果、ある法則が見えてきた。「えっと、話をまとめるとおかしな目にあった生徒会のメンバーは女子だけで、男子は被害に遭っていない。一緒にお弁当を食べていたメンバーは、男子だけで、彼らもまだ被害に遭ってないということですね?」「そうだね」「それって、被害に遭うのは女子限定なのでは?」「被害に遭う前に僕が避けただけだと思っていたけど、言われてみれば……そうかもしれない」悩む生徒会長は、それだけで絵になっている。「ということは、おかしなことが起こる条件って【女生徒から生徒会長にふれる】じゃないですか?」少なくとも穂香が巻き込まれたときは、両方ともそうだった。「そう、だね?」それまで暗かった生徒会長の表情が目に見えて明るくなる。「そうかもしれない! でも、じゃあ、どうして女生徒限定なんだろう?」「えっと、それは……」何も証拠がないので『あなたのクラスメイトの女子が怪しいです』とは言えない。「その、生徒会長は、女の幽霊に憑りつかれている、とか?」苦しい説明だったが、生徒会長は納得できたようだ。「そうか、そうかも! ありがとう白川さん」穂香に向けられた黄色の瞳がキラキラと輝いている。「い、い
穂香の目の前に文字が現れる。【同日 放課後/生徒会室?】(生徒会室のあとに「?」がついてる……。そういえば、前に穴織くんが化け物退治していたときも、場所が「???」になっていたような? もしかしたら、扉が開かないのは化け物の仕業かもしれない)そうだとしたら、どれほど力を込めてもこの扉は開かない。穂香は、廊下にいるレンに声をかけた。「レン、穴織くんをここに連れてきてほしい」「分かりました」すぐにレンの足音が遠ざかっていく。生徒会長に「あなおりくんって?」と尋ねられたので、穂香は「あ、えっと、同じクラスの男子で、すごく力が強いんです」と誤魔化す。「そう。じゃあ、その子が来るまで待ってみようか」穂香が改めて室内を見回すと、生徒会室は教室を半分に切ったような広さだった。勉強机の代わりに、折り畳み式の長机と、パイプ椅子が数脚置かれている。「あの、こんなときに、申し訳ないんですが……」穂香は手に持っていたプリントを、生徒会長に見せた。「文化祭実行委員の白川です。提出プリントを持って来ました」「ありがとう。不備がないか確認するね」王子様スマイルが眩しいくらいに輝いている。穂香にパイプ椅子に座るよう勧めてから、生徒会長は、その場でプリントに目を通した。「うん、問題ない」「ありがとうございます」それきり会話がなくなってしまう。(どうしよう。仲良くない人と何を話したらいいのか、分からない……)必死に会話を探した結果、穂香は先ほどの生徒会長の言葉を思い出した。「そういえば、さっき『君を巻き込んでしまったみたい』的なことを言ってましたよね? あれは、一体?」生徒会長の顔が、目に見えて強張る。「うん……ちょっとね」(聞いてはいけないことだったみたい)気まずい空気に耐え切れず、穂香は話題を変えた。「生徒会長以外の役員さんは、いないんですね」生徒会長の表情がサッと曇る。(はっ!? しまった、私にはモブキャラが見えないんだった! もし、この生徒会室に他の役員がいたら、私、ものすごくおかしな発言をしたことに……?)青ざめる穂香に、生徒会長は困ったような笑みを向けた。「うん、皆それぞれ忙しくてね。今日は僕一人だよ」「そ、そうなんですね!」(良かった。たまたま他の役員は、いなかったみたい)長テーブルの上には、大量のプリントが積み上げられ
レンの機嫌が直ったところで、風景が変わる。【同日 放課後/教室】(今度は、昼休みから放課後に飛ばされてる)教室には、穂香とレン、穴織だけが残っていた。穴織は、「お化け屋敷の準備って、具体的には何をしたらええんやろうな」と言いながら、器用にシャーペンを指で回す。「さぁ何するんだろうね?」穂香の答えにレンが呆れた顔をした「この時代、こういうときはスマホで調べるんじゃないですか?」「そっか。調べてみるね」調べた結果、お化けに変装するための衣装や小道具、段ボールや黒い布など、いろいろ書かれている。「赤い絵の具で壁に手形をたくさんつけても雰囲気が出るって」穂香の話を聞いている穴織は、興味深そうだ。「へー、こんなんが怖いんや。なんかよく分からんわ」(まぁ、本物の化け物と戦ってる穴織くんは、偽物のお化けなんて怖くないよね。あっ、だから、この場に私が呼ばれているのかも? 普通の人の意見が知りたい、とか?)一通りお化け屋敷の作り方を調べると、それを穴織はプリントに書き込んでいく。「穴織くん、何書いてるの?」「これな、文化祭でやることをまとめて、生徒会に提出しなアカンねん」言われてみれば、文化祭実行委員の集まりで、説明があったような気がする。穴織は、手を動かしながら「段ボールをどっかにもらいに行かなアカンな」とつぶやいた。それを聞いた穂香は、すぐにスマホで調べる。「段ボールは、スーパーやドラッグストアで貰えるみたいだよ」「せやったら、レンレン一緒に貰いに行こーや」「どうして私が」嫌そうな顔をするレンに、穴織は爽やかに微笑みかけた。「俺一人やったらそんなに持たれへんやん! 白川さんに運んでもらうのは、なんか悪いし」「二人でもそんなに変わりませんよ。明日、クラス全員に頼んだほうがいいと思います」「そっか。じゃあ、そうするわー」そんなやりとりを見た穂香は、『レンって、なんだかんだいいながら面倒見がいいよね』と微笑ましくなる。そのとき、胸ポケット辺りから、シワがれた声がした。(この声は、レンには聞こえないけど、なぜか私には聞こえる『話せる武器』のおじいさん!)本来なら聞こえないはずなので、穂香も聞こえていない振りをする。『おい、涼。さっさと呪いのことを聞かんか!』「あっ」穴織は、うっかり忘れていたというような顔をした。「そういえ
【同日 朝/教室】(あっ、教室まで飛ばされてる)穂香とレンは着席していて、教壇には、松凪先生がダルそうに立っていた。「静かにしろー。今から文化祭について話し合う。実行委員の穴織と白川、あとは任せた」(えっ? 私、これから何をするか知らないんだけど⁉)困った穂香が穴織を見ると、「俺がやるから、白川さんは横にいるだけでええで」と爽やかに笑う。(助かる……けど、情報共有はしてほしいよ、穴織くん!)複雑な思いのまま穂香は穴織のあとに続き、教室の前のほうに行く。目立つことは大嫌いだったが、この世界の仕様で穂香には、レンと、先生、穴織の姿しか見えないのであまり気にならない。(おかしな世界だけど、こういうときは便利かも)穴織は、「そういうわけで、今から文化祭のクラスの出し物を決めるでー。俺がまとめたプリントを配るから、みんな見てや」と紙を配る。プリントは穴織の手書きで書かれていて、驚くほど字が綺麗だった。名家の御曹司という隠し設定に、穂香は納得してしまう。話し合いはサクサクと進み、出し物の案が出そろった。穴織が読み上げる。「はいはい。おばけ屋敷に、メイド喫茶に、展示、劇やね。けっこういろいろ出たなぁ、こんなもんかな? じゃあ、この4つでどれにするか、全員に投票してもらうで」穴織のおかげで、少しももめることなく、クラスの出し物が『お化け屋敷』に決まった。「そんなわけで、うちのクラスは、お化け屋敷をすることになったで。詳細は、また明日決めるからよろしく」松凪先生は「お化け屋敷か。楽しそうだな」と以外に乗り気だ。席に戻る途中で、穂香は穴織に声をかけられた。「白川さん、お疲れさん。放課後、時間ある?」「うん、大丈夫」「良かった。放課後また打ち合わせしよ」「じゃあ、レンには先に帰ってもらうね」穴織は、そっと穂香に顔を近づける。「いやいや、せっかくの男手。ここは帰さず、ありがたく使わせてもらおうや」悪そうな顔をする穴織。「それって、レンにも手伝ってもらってこと?」「そうそう!」「大丈夫かな……」チラッとレンを見ると、ものすごく不機嫌そうな顔をしていた。(うわっ、機嫌わるそー)穂香が席に着くと、また風景が変わる。【同日 昼/教室】(お昼休みまで飛ばされたのはいいけど……)机を向かい合わせにしたレンは、まだ不機嫌だった。(こん
ベッドの中で心地好い眠りについていた穂香(ほのか)は、聞きなれた電子音で目が覚めた。朝6時にセットしていたスマートフォンのアラームが鳴っている。(学校に行きたくない……)そんなことを思いながら、枕元に置いていたスマホを手探りで探す。高校二年生になったばかりの穂香は、一年生のときに仲が良かった友達全員とクラスが離れてしまった。別にイジメにあっているわけではない。だけど、仲がいい友達がクラスにいないことがつらい。「はぁ……」穂香のため息は、鳴り続ける電子音にかき消された。アラームを止めたいけど、スマホが見つからない。「あれ?」スマホを探すために、穂香はベッドから起き上がった。すると、部屋の隅にメガネをかけた見知らぬ男子高校生が佇んでいることに気がつく。(あっ、これは夢だ)普通なら悲鳴を上げるところだけど、男子高校生の髪と瞳が鮮やかな緑色だったので、穂香はすぐに夢だと気がついた。穂香を見つめる男子高校生は顔がとても整っていて、まるでマンガやゲームのキャラクターのように見える。「起きましたね。アラームは消しますよ」そんなことを言いながら男子高校生は、穂香のスマホのアラームを慣れた手つきで止めた。「穂香さん、おはようございます」「え? どうして、私の名前を?」と、言いつつ『そういえば、これは夢だった』と思い出す。夢なら知らない人が穂香の名前を知っていても不思議ではない。「えっと……どちらさまですか?」おそるおそる尋ねると、男子高校生はニッコリ微笑んだ。「嫌だなぁ、寝ぼけているんですか? 私はあなたの幼なじみのレンですよ。毎朝、穂香さんを起こしに来ているでしょう?」「幼なじみ? レン?」穂香には、レンという名前の知り合いはいなかった。そもそも幼なじみと呼べるような関係の人すらいない。(なるほど、これはそういう設定の夢なのね。夢だったら、いないはずの幼なじみがいても問題ないか)穂香は、初対面の幼なじみに遠慮がちに話しかけた。「えっと……。とりあえず、あなたのことは、レンさんって呼んだらいいですか?」「レンさんだなんて! いつも私のことはレンと呼んでいるじゃないですか」「あっ、そうなんですね」「穂香さん。いつものようにもっと気軽に話してください」(そんなことを言われても……)穂香はその『いつも』を知らない。「でも、レン...
ความคิดเห็น