いつも厳しいお医者様の白川先生。 なのに突然の誘いで、彼の優しい一面を知り、今まで知らなかった男性としての魅力に気づかされた。 総合病院でただ真面目に働いていた私に、たくさんの甘いセリフが注がれるようになり、仕事もプライベートも、白川先生にしつけられているような気がした。 産婦人科医の七海先生や、同僚の歩夢君とも急接近して…… 3人の超イケメンに囲まれて、明らかに今までとは違う日常に戸惑いを隠せない。 恋愛なんて、まだまだ先の話だと思ってたのに…… 私、本当は誰が好きなの? この先……いったいどうなってしまうの? 超イケメン外科医 白川 蒼真 29歳 × 新人看護師 蓮見 藍花 24歳
ดูเพิ่มเติมルーを入れて煮込むと、とたんに良い香りが部屋に充満した。その時、蒼真さんがスっと立ち上がり、私の横に来てお鍋を覗き込んだ。「あ、あの、まだですよ」「いい匂いがしたから」蒼真さんがすぐ隣にいる。身長差、ちょうど20cm。腕が私の肩に触れて、自然に胸が高鳴る。この人は、本当にいつも病院にいる白川先生なのだろうか?と、さっきから何度も思ってしまう。病院にいる時の冷静で淡々とした先生から考えると、今は全くの別人で、醸し出す空気感がまるで違う。もちろんオフなのだから当たり前ではある、それでもやはり、この環境になかなか慣れることはできない。「そ、蒼真さん、本当に中辛で良かったんですか?辛口が好みなら少し甘く感じるかも知れませんよ」私はサッと顔を見上げた。「ああ。中辛でいいんだ」この至近距離で目が合うことの恥ずかしさは、もはや言葉では表現できない。アッシュグレーの前髪がハラっと下がり、目、鼻、口、全てのパーツが私の視界に収まった。こんなのダメだ、近過ぎる――ドキドキがマックスにまで到達し、私は危険回避のため急いで視線を外してカレーをかき混ぜた。今の私は、きっとロボットみたいにガチガチで、関節が上手く動かせず、ぎこちない動きになっているだろう。「も、もう少し煮込みますからね。向こうで待っててもらえますか?」「ここにいたらダメ?」「だ、だ、ダメです!ダメですよ!早く戻って待っててくださいね」額から汗がひとすじ流れる。私は、何事も無かったかのように、ただ鍋だけを一点に見つめ、これでもかというくらいカレーをかき混ぜ続けた。その手はかすかに震えている。「そんな真剣な顔して、鍋に穴が開きそうだな」「えっ……」今のは……冗談なのか?あたふたし過ぎて、何が起こってるのか理解できない。「……向こうで仕事してるから」「は、はい、そうしてください。すみません」蒼真さんは再び椅子に座ってパソコンを使いだした。ホッとして胸を撫で下ろす。そして……長かったカレー作りがようやく終わりの時を迎えた。いつもの100倍の気力と体力を使った気がする。
目線を外し、お互いぎこちなく体を離す。だけれど、なぜかほんの少し、心の距離は縮まった気がした。それから、私達は1杯だけお茶を飲んで、私はキッチンを借りたいと蒼真さんに言った。「お腹空いた。早く食べたい」そうねだる蒼真さんはまるで子どもみたいだった。普段とのギャップに心がくすぐられる。「キ、キッチンも綺麗ですね。こんなキッチンで料理できるなんて嬉しいです」本当に、全く使っていないのかと思うほどピカピカだ。憧れのアイランドキッチン。どこを見ても「素敵」としか言いようがなかった。「カレーで良かったんですよね」「ああ。手作りのカレーは久しぶりだから。どうしても食べたくてリクエストした」「わかりました。でも……あんまり上手じゃないですよ。期待はしないでくださいね」「食べられれば何でもいい」何でもいい……それなら私じゃなくてもいいのではないか?どうして私を呼んだのか……全てが未だ謎のまま。とにかく、いつものようにリラックスして……いや、無理やり気持ちを落ち着かせ、私はカレーを作り始めた。手伝うと言ってくれたけれど、近くにいられると心拍数が異常に上がってしまうので、蒼真さんには仕事をしてもらうことにした。テーブルの上にあったパソコンを開いて作業を始めた蒼真さんを見て少しホッとする。それにしても、ただ椅子に座っているだけなのに、どこからどう見ても絵になってしまう。蒼真さんがいる場所が、一瞬でパリのオシャレなカフェのように見えてしまうから不思議だ。カレーを作りながら、ついチラチラと盗み見をしてしまう。パソコンを打つスピードがなんとも早く、ブラインドタッチ選手権があるならば、間違いなく優勝だろう。見た目だけではないこの人の才能は、いったいどこまで広がるのだろうか?最近、蒼真さんがナースステーションの前で困っていた外国人の患者さんと、ペラペラ英語で喋っていたのを目撃し、あの時は看護師のみんながその姿に見とれてしまった。もちろん、私も……英語が話せる人が好きなだけに、思わず「カッコいい」とつぶやいてしまい、中川師長に「心の声が漏れてるよ」と突っ込まれたのを思い出す。蒼真さんが仕事をしている今の間なら、何とか緊張しないでカレーを作れそうだ。集中しよう――息を整え、野菜を刻み、炒め、煮込んだ。「その調子」、私は、自分で自分を応援した
「……おじい様とおばあ様が?」「ああ。俺が学生の頃、祖父母がここに住んでいる時にたまに遊びに来てたんだ。2人には特に可愛がってもらってたから、医者になるって決めた時も誰よりも喜んでくれた」「そうだったんですか……素敵なお話しですね」おじい様とおばあ様の話をする時の蒼真さんは、こんな穏やかな表情をするんだ……と、何だか心がポッと温かくなった。祖父母を大事にしようとする気持ちがすごく優しくて、今も、蒼真さんの中に閉まってあった大切な記憶が蘇ってきたんだろう。「外科医になってすぐに祖父が亡くなって、祖母はうちの実家に住むことになった。ここには祖父との思い出がたくさんあるし、病院からも近いから蒼真に住んでほしいって、祖母が言ってくれたんだ。だから、有難く住まわせてもらってる。本当に、2人にはずっと感謝してる」「蒼真さんは、ご家族のみんなに大事にされてるんですね。私も……自分の家族に会いたくなりました」「ご家族にはたまに会ってるのか?」「連絡はしてます。でもなかなか会うとなると……」「たまにはちゃんと顔を見せに帰った方がいい。家族は大切にするんだ」自分のことだけではなく、私の家族のことまで気にしてくれる蒼真さんは、やはりすごく優しくて良い人なのかも知れない。「はい、そうします。でも、応援して下さっていたおじい様が亡くなられたのはつらかったですね……」「ああ。1番の理解者だったからな。優しい人だった。昔は小さな僕を膝に乗せてよく絵本を読んでくれた。外科医になれた時には、もう病気で治しようもなかったけど、それでもすごく喜んでくれた。もう少し早く医師になれてたら、絶対に死なせなかったのに……それだけが悔やまれる」蒼真さんは唇を噛み締めた。「幸せだったと思います。膝に乗せてたお孫さんが、立派な外科医になって……。嬉しくてたまらなかったと思います」不思議だ……なぜだか涙が溢れてくる。「そうだといいな」蒼真さんは、私の頭に手を置いて、見つめながらそう言ってくれた。その笑みに胸を掴まれる。涙を見られ、恥ずかしさもあるけれど、蒼真さんの心が知れた気がして嬉しくなった。まさか自分が「あの白川先生」にこんな風にしてもらえるなんて想像もできなかったのに……今のこの状況は、私には奇跡にも近い出来事だった。
「どうぞ、中に入って」「はいっ、お、お邪魔します」「ああ」まだ全然落ち着かない。早くこの状況に慣れたいのに……それにしても、このワンフロア、全てが蒼真さんの部屋なのか?だとしたら相当すごい。私は、まず広いポーチで靴を脱ぎ揃え、恐る恐る中に入った。まるで未知のジャングルにでも踏み込むかのような緊張感に、帰るまで心臓がもつか心配になった。まだスタートラインに立ったばかりだというのに――用意してあったスリッパを履き、廊下の奧まで進み、ドアを開けると、目の前に広々とした明るいリビングが現れた。「素敵……」そこは、洗練された家具が置かれている、清潔感溢れるオシャレな空間になっていた。アロマディフューザーから良い香りがしている。本当にここは男性の部屋なのだろうか?疑いたくなるくらい綺麗に片付けられていて、蒼真さんの几帳面さが伺えた。「あの、この階は1部屋しかないんですか?」何を話せばいいか迷ったあげく、つい気になることをズバリ聞いてしまった。「ああ」「すごいですね……。広くてびっくりしました」「このマンションはホワイトリバーの不動産だから」「えっ、そうなんですか?こんな素敵なマンションがご実家の持ち物なんてさすがですね」「この部屋の家賃を取るとしたら結構高いだろうな。外科医の給料では全然足りない」外科医のお給料がどれくらいなのか全く想像ができないけれど、蒼真さんはまだ3年目だから……「そうなんですね。でも、お医者さんのお給料でも全然足りないなら、私なんてこんな素敵なお部屋には一生住めないですね」笑いながら言ってはみたけれど、紛れもない現実に、少し残念な気持ちになる。「そうか?そんなこと、わからないだろ」「わ、わかりますよ。普通の看護師がこんな立派なマンションに住めるわけないです。蒼真さんと私は生きる世界が違いますから」少しムキになってしまったせいか、蒼真さんは少し黙ってしまった。「……人生なんて、数秒先のことは何もわからない」ぽつりとつぶやいた言葉と、真っ直ぐに見つめるその潤んだ瞳にドキッとした。「蒼真さん……?」「ここは、元々祖父と祖母が暮らしてた場所なんだ」
ついにここまで来た。蒼真さんが一人暮らしをしているマンションに――かなり有名な建築家の設計らしく、きっと家賃も高いに違いない。こんな素敵で立派なマンションに、私なんかが足を踏み入れてもいいのだろうか。場違い感が半端ない。私は、フゥーっと大きな息を吐き、意を決して1階ロビーで蒼真さんの部屋の番号を押した。「はい」「あの……は、蓮見です」「上がって来て」「は、はい」オートロックが解除され、目の前の自動ドアが開く。そこを通り、奥のエレベーターで最上階へ。降りるとそこには部屋がひとつしかなく、蒼真さんが待っていてくれた。壁にもたれ、腕組みをしながら――「こ、こんにちは」かっこよ過ぎる……我が目をうたがいたくなる程に美しく、その立ち姿にため息が漏れる。白いシャツとブラックジーンズ。足の長さに改めて驚き、もはや人気雑誌のオシャレなモデルにしか見えない。ここは本当に「白川先生」の部屋なのか?私はどこか違う世界にでも迷い込んだのではないだろうか?「よく来たな、待ってた」体勢を変え、こちらに近寄ってくる蒼真さん。その圧倒的な存在感に思わず2、3歩後ずさる。「あっ、あの、本当に来て良かったんですか?こんな立派なマンションに私なんかが……」「もちろんだ。来てほしくなかったら絶対に呼ばない」「……あ、ありがとうございます」蒼真さんの甘いセリフに戸惑い過ぎて「ありがとうございます」なんて、意味不明なことを言ってしまった。月那にいろいろ言われ過ぎて、昨日からずっとドキドキが止まらない。会ってすぐの蒼真さんの一つ一つの言動に、すでに心が大きく揺れてしまう。きっと今の私は、かなり挙動不審に見えるだろう。「あの、言われたように買ってきました」私は、今夜の食事の材料をすぐ近くのスーパーで揃えた。高級志向のスーパーではあったけれど、蒼真さんに恥ずかしくないものをと、時間をかけて丁寧に選んだ。「悪かったな。ありがとう」蒼真さんは、そう言って大きめのマイバッグをサッと持ってくれた。こういうところがすごくジェントルマンだと思う。
見つめあう2人がとっても素敵で……ただでさえ美人の月那が、今までで1番綺麗で可愛く見えた。「笹本さん、月那のこと絶対に幸せにして下さいね。もし泣かしたらこのマッサージ店に二度と来ませんからね」「うわっ、上得意様に来てもらえなくなったら困るしな。わかりました、月那のことは絶対に泣かしません!」「って、私が太一を泣かすかもだけどね~」「そうなんだよ~。月那は怖いから、俺が泣かされるかもなぁ。でも、その時は藍花ちゃんに助けてもらお」楽しく軽快なやり取りの2人を見ていたら、こっちまで幸せな気持ちになる。本当にお似合いのカップルだ。「俺達、絶対に幸せになるからさ。だから藍花ちゃんも必ず幸せになってくれよな。月那の大切な人が不幸になるのは嫌だからさ」筋肉いっぱいの笹本さんからの優しい言葉。そのギャップがちょっと可愛く見える。「ありがとうございます」「月那からちょっと聞いてるけど、今、藍花ちゃん、めちゃくちゃモテモテらしいね」「えっ、モテモテなんて、そんなことないです」月那がどんな風に私の恋愛話をしているのかわからないけれど、この言葉はかなり恥ずかしい。「絶対に良い男を捕まえるんだよ。藍花ちゃんみたいな良い女が妥協したらもったいないし、本当にこいつ!って思えるやつが現れるまでゆっくり待った方がいいよ」笹本さんが真剣な表情で言ってくれた。「良い女じゃないです。でも……ゆっくり待ってたら、このまま一生結婚できないかも知れません」「そんなことはないよ。藍花ちゃんは本当に可愛いんだから自信持った方がいいって」「そうだよ、藍花。本当に自信持たないと損だよ。太一の言う通り、あなたはめちゃくちゃ可愛いんだから」やはりなぜか月那に容姿を褒められるととても嬉しい。「2人に言われたら嬉しいけど……でも……」「でもじゃない!俺達がついてるから大丈夫!ちゃんと良い奴と出会って恋愛して結婚してほしい。俺達はずっとここで店やってるから、何かあったらいつでも飛び込んでくればいいよ」「そうだよ、いつでも来な」この安心感に溢れた優しい2人に勇気をもらえた気がする。明後日、蒼真さんと会って、改めてちゃんと考えようと思う。答えが出せるかはわからないけれど、でも何だか今は前向きになれている。この感情は間違いなく2人のおかげだ。月那……「笹本 月那」になっても、ず
「お、俺達、結婚するんだ。藍花ちゃんは月那の親友だし、2人から直接報告したくて」期待通りの言葉に胸が一気に熱くなる。「月那、お嫁さんになるの?」私の問いかけに、月那は嬉しそうにうなづいた。「すごい!そうなんだね!すごく嬉しいよ、すごく……」その瞬間、今までのいろんな思いが溢れ出し、自然に涙がこぼれてしまった。「ちょっと、何で泣くのよ~。私までもらい泣きしちゃうじゃん」「だって、だって、こんなに嬉しい報告、感動しちゃうよ」私は、幸せな月那が愛おしく思えて抱きついた。2人で泣き笑いする。「おいおい、俺を放ったらかしにしないでくれ~」笹本さんが冗談ぽく言いながら笑った。「あっ、放ったらかしちゃいましたね。すみません」みんなの笑い声が部屋中に響いた。「あの、ところで結婚式はいつなんですか?」私は2人に訊ねた。「ああ、それが……」笹本さんは頭を掻きながら、言葉を濁している。「あっ、ごめん。式はしないつもりなの。指輪の交換をするくらいかな。新婚旅行も行かないし。私はこの人とここで毎日一緒にいられたらそれで満足だから」月那が笹本さんをフォローした。「そうなんだね。うん、2人が決めたことなら。ごめんね」「そんなの謝らなくていいよ。本当は藍花を結婚式に招待したかったけど……私達のスタイルでいかせてもらうね」「もちろんだよ」確かに2人のことだから、それでいいと思う。だけど、月那はそれで寂しくないのだろうか?前に、花嫁に憧れていて、ウエディングドレスを着てみたいと言っていたし、月那みたいな美人のドレス姿、本当は少し見てみたい気もする。それはあくまで私の願望。でも、その選択はある意味カッコいいのかも知れない。月那らしい……というか。「式も新婚旅行も要らないって月那が言うから甘えたけど、男としては宇宙旅行に行けるくらい貯金して、いつか必ず月那を月に連れてくつもりだから」「月?!すごいじゃないですか!めちゃくちゃロマンチックですね」夢を語る笹本さんの思い、本当に素敵だと思った。「でも、月那だけに『月』だなんてさ、単純だよね~。宇宙旅行なんか何十億かかると思ってるんだか。宝くじが当たっても無理だよね」そう言われて、笹本さんは照れながら笑っている。
「藍花は控えめ過ぎるんだよ。そんなに可愛くてスタイルもいいんだからさ。無自覚にも程があるよ。もうちょっと胸を強調するような洋服に挑戦するとかしてさ、白川先生をドキドキさせてやりな。あ~私も白川先生のマンションに着いていきたい。それでさ、2人のやり取りを一部始終見ていたい。考えただけでもワクワクしちゃう~」月那の暴走はどこまでも果てしなく、止まることを知らない。「あのね、私は真面目に相談してるんだからね」「めちゃくちゃ真面目だってば。もちろん、七海先生や歩夢君のこともちゃんと考えないとダメだけど、だけど私はどう考えてもやっぱり白川先生なんだよね。わかんないけど何か感じるんだよ」何か感じる……曖昧ではあるけれど、その言葉には妙に説得力があった。「七海先生はちょっと優し過ぎるっていうか何か物足りないし、歩夢君は年下で少年みたいな感じがして。ま、これはあくまで私の主観だけどね。後はさ、藍花。白川先生の部屋に行ってからだよ。考えてもわからない自分の本当の気持ちがさ、案外そこでスっと出てきたりするかもよ」「そうなのかな……。本当に答えなんて出せるのかな」「七海先生と歩夢君は藍花が好き。これは決定!あとは白川先生の本心を知って、そしたら誰が1番なのかわかるかも知れないでしょ」「歩夢君には直接告白されたわけじゃないから……。でも……うん。とりあえず、月那のアドバイス通りに頑張ってみるよ」「そうだよ、頑張れ!応援してるから。ファイト!」「ありがとう。マッサージも気持ち良かったよ」「どういたしまして。今日は興奮していつもより力が入っちゃったかもね」「確かにね」私はマッサージを終えて、着替えを済ませ部屋を出た。待合室には店長であり、月那の恋人の笹本さんがいた。「藍花ちゃん、お疲れ様」「あっ、今日はありがとうございました。月那のマッサージ、とっても気持ち良かったです。本当に代金はいいんですか?」「もちろんだよ。今日は俺達の招待だから。あのさ、ちょっと藍花ちゃんに報告があってね」笹本さんは、妙に改まって少し顔が強ばっている。緊張しているのが伝わり、私までドキドキしてきた。まだ心の準備は万端ではないけれど、私は次の言葉に期待した。「藍花ちゃん!!」「は、はい!」その勢いにつられてしまい、思わず元気よく返事してしまった。
本当にめんどくさい性格で嫌になる。「月那はいつも白川先生のことを推すけど……そんなに好き?」「うん、白川先生はかなりいい男じゃん。あの端正な顔立ちで、たまに見せる色気のある表情がたまんないでしょ。たくさんの女性を虜にして、全く罪な男だよね。デート中もあんなイケメンが隣にいたらずっとドキドキしちゃうし、それにさ、やっぱり夜が上手そうだよね」「ま、また言ってる。夜って……そんなことで選べないよ」「そうは言うけど、そこってかなり大事だからね。夜の相性が良い方が長続きするのは間違いないよ。私達みたいにね」「えっ、あっ、う、うん」親しいだけに、月那のプライベートを聞くのはちょっと照れる。「後、白川先生の良いところは……スタイル抜群、頭が良い、めちゃくちゃお金持ち、医師として最高の腕を持っている……みたいなことかな。性格はちょっと厳しいけど、2人でいる時は案外優しいんでしょ?」「うん……まあ、厳しかったり優しかったり……」「何かいいじゃん。もしあんな素敵な人が自分の彼氏だったらって想像するだけで最高だよ」月那にそう言われて、私の頭の中に蒼真さんが浮かんだ。2人でデートしているところを無理やり頭に描く。手を繋いだり、笑いあったり、キスしたり……ダメだ、恥ずかし過ぎて耐えられない。私は、無謀にも勝手に想像してしまった映像を急いで消し去った。まだ告白もされていないのに、調子に乗り過ぎたことを反省した。「私は別に白川先生に告白されたわけじゃないし、部屋に呼ばれたのもただ料理を作りにいくだけだから」本当にそうだ。ただそれだけのことで、決してデートするわけじゃない。「あのさ、藍花。大の大人がご飯作って食べて、はいサヨナラなんてあるわけないじゃん。美味しいご飯、美味しいお酒、ベランダから星を見たりなんかしてさ……。もうその後は『私、どうなってもいい!』ってなるんだよ、絶対に」月那の妄想はなかなか激しい。そんなことになるわけないのに。「冗談は止めて。私と白川先生はね、そういうんじゃないんだよ」
「おはようございます、前田さん。どうですか?傷口痛みますか?」「あっ、蓮見さん、おはようございます。ええまあ、傷はずいぶん良くなったと思います」病室の窓から穏やかな秋の朝日が優しく差し込む。今日も、看護師としての1日が始まる――私の名前は、蓮見 藍花(はすみ あいか)、24歳。160cm、自分では普通の体型だと思っているけれど、たまにスタイルいいねって……恥ずかしいけど褒めてもらえる時がある。看護師である以上、常に笑顔は心がけていて、化粧もあまり派手にならないようナチュラルにしている。茶色でボブスタイルの髪型は、昔からあまり変わっていない。「おはようございます。前田さん、傷口、どうですか?」「ああ!白川先生。おはようございます」病室に後から入ってきたのは、我が「松下総合病院」の外科医、白川 蒼真(しらかわ そうま)先生。白川先生は、前田さんの主治医だ。まだ若手の先生だけど、周りからの信頼はとても厚く、医師としての腕はかなり評判がいい。いづれはこの病院のエースになる人だ。老若男女を問わず、患者さんにダントツ1番人気の理由は、腕が良いだけでなく、超イケメンな美しい顔と、このモデルのようなスタイルも関係しているだろう。180cmで細身、髪型はアッシュグレーのナチュラルショート。前髪は少し長めのセンターパートで、前髪からサイドに流れをつけている。整えられた眉に二重で切れ長の目。艶のある大人っぽい薄めの唇、高い鼻。その端正な顔立ちに、初めて見た人はみんな驚く。あからさまに赤面する人や、急にお喋りになる人、逆に恥ずかしくて緊張してしまう人……女性なら興味をひかれるのは仕方がないだろう。私だって、最初は「こんな素敵な男性が世の中にいるんだ」と、とても驚いたから。学生時代にオシャレ雑誌のモデルも経験済みらしいけれど、そんな華やかな世界には進まずに、医師になるなんて、少しもったいない気がした。...
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