解けない恋の魔法

解けない恋の魔法

last updateLast Updated : 2025-04-03
By:  夏目若葉Updated just now
Language: Japanese
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ブライダル会社に勤める緋雪(ひゆき)は、新企画のためのブライダルドレスのデザインを、新進気鋭のデザイナー・最上梨子(もがみりこ)に依頼しに行く。 しかし、オファーを請ける代わりに、ある秘密を守ってほしいとマネージャーである宮田(みやた)に頼まれてしまう。宮田は見た目とは違って中身は変わり者で、緋雪は振り回されるが、冗談めかしながらも好きだと言われるうちに意識し始める。 だが、宮田を好きなモデルのハンナに嫉妬された緋雪はあからさまに意地悪をされて……

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第一章 秘密 第一話

「へぇー、思ってたより大きく載ってるじゃない!」「麗子(れいこ)さん、恥ずかしいですってば」「どうして? 緋雪(ひゆき)、写真うつりいいわよ?」「あんまり見ないでくださいよー」 お昼の休憩時間、人気の女性雑誌をパラパラとめくりながら、会社の先輩社員である麗子さんがニヤニヤとした笑みで私を冷やかす。 【 ウエディングプランナー・朝日奈(あさひな)緋雪さん 26歳 】 ブライダル会社で働いている一般人の私にとって、自分の顔が大きく載っている雑誌を目の前にすると、恥ずかしくて顔から火が吹きそうになる。 私は一年ほど前まで、式や披露宴、結婚指輪や引き出物など、お客様をサポートする実務に就いていた。  だけど今は企画部に移り、新しいプランの作成と、市場調査をおこなうのが私の仕事になっている。  そんな私に、雑誌の取材オファーが来たのは一ヶ月ほど前だった。  記者がどこで私のことを知ったのかはわからない。  だけど、なぜか私を取材したいと名指しで指名してきたようだ。『いいじゃないか、朝日奈。会社にとっても良い宣伝になるし』 私の上司である袴田(はかまだ)部長は、その話を聞いた途端、笑顔で大賛成した。『いや……でも、部長……』『働く女性特集の記事だってさ。朝日奈が優秀だからオファーが来たんだよ。大丈夫だって! それにもう取材OKの返事をしちゃったからなぁ』『え、えぇ?!』 否応なく、とは……まさにこのことだ。  私が断ろうと思ったときには、すでに部長が先方へ返事をしてしまったあとだった。  しかも、優秀だから、などと取って付けたようなお世辞まで言われて。  にこっとした笑みを向ける上司を目の前にして、力なくガクリとうな垂れたのを覚えている。  袴田部長は、四十歳で独身の男性。  元々、インテリアデザイナーを目指していたらしい。  十年ほど前、違う会社から引き抜きで我が社へやってきた人材だということは、他の人に聞いて知った。 たしかに部長は、何を選ぶにしてもセンスがいいし、アイデアも素晴らしい。  だから部長職に抜擢されたのだと思う。 そんな部長のもとで一緒に仕事がしたくて、私は企画部への異動を希望して現在に至っている。 部長が面白いと感じたもの、いけると思ったプランは実際に評判を得ることが多い。 だから私は純粋に部長を...

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第一章 秘密 第一話
「へぇー、思ってたより大きく載ってるじゃない!」「麗子(れいこ)さん、恥ずかしいですってば」「どうして? 緋雪(ひゆき)、写真うつりいいわよ?」「あんまり見ないでくださいよー」 お昼の休憩時間、人気の女性雑誌をパラパラとめくりながら、会社の先輩社員である麗子さんがニヤニヤとした笑みで私を冷やかす。 【 ウエディングプランナー・朝日奈(あさひな)緋雪さん 26歳 】 ブライダル会社で働いている一般人の私にとって、自分の顔が大きく載っている雑誌を目の前にすると、恥ずかしくて顔から火が吹きそうになる。 私は一年ほど前まで、式や披露宴、結婚指輪や引き出物など、お客様をサポートする実務に就いていた。  だけど今は企画部に移り、新しいプランの作成と、市場調査をおこなうのが私の仕事になっている。  そんな私に、雑誌の取材オファーが来たのは一ヶ月ほど前だった。  記者がどこで私のことを知ったのかはわからない。  だけど、なぜか私を取材したいと名指しで指名してきたようだ。『いいじゃないか、朝日奈。会社にとっても良い宣伝になるし』 私の上司である袴田(はかまだ)部長は、その話を聞いた途端、笑顔で大賛成した。『いや……でも、部長……』『働く女性特集の記事だってさ。朝日奈が優秀だからオファーが来たんだよ。大丈夫だって! それにもう取材OKの返事をしちゃったからなぁ』『え、えぇ?!』 否応なく、とは……まさにこのことだ。  私が断ろうと思ったときには、すでに部長が先方へ返事をしてしまったあとだった。  しかも、優秀だから、などと取って付けたようなお世辞まで言われて。  にこっとした笑みを向ける上司を目の前にして、力なくガクリとうな垂れたのを覚えている。  袴田部長は、四十歳で独身の男性。  元々、インテリアデザイナーを目指していたらしい。  十年ほど前、違う会社から引き抜きで我が社へやってきた人材だということは、他の人に聞いて知った。 たしかに部長は、何を選ぶにしてもセンスがいいし、アイデアも素晴らしい。  だから部長職に抜擢されたのだと思う。 そんな部長のもとで一緒に仕事がしたくて、私は企画部への異動を希望して現在に至っている。 部長が面白いと感じたもの、いけると思ったプランは実際に評判を得ることが多い。 だから私は純粋に部長を
last updateLast Updated : 2025-03-28
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第一章 秘密 第二話
『 この仕事に就こうと思ったきっかけは何ですか? 』 『 新郎新婦のお二人にとって、人生で最高に幸せで大切な思い出を、私も一緒に造ることができたらと思ったからです 』 いろいろと他にも質問は受けたのに。  この質問と回答だけが、記事の中で大きく太い文字で目立つようにしてあった。 ――― なんとも無難な回答。 決して嘘はついていない。そう思っているのも本当だけれど、それは自分の中の優等生的な回答だ。  実は他にも動機はある。だけどそれは堂々とは言えない、本当はもっと不純な動機だから。「朝日奈ー、ちょっと」 お昼休憩が終わり、午後の業務が始まってすぐ、袴田部長が私をデスクへと呼び寄せる。「これ、見たよ。なかなかいい記事じゃないか。というか、デキる女って感じだな!」 私がデスクまで行くと、わざわざ自分の顔の前に雑誌の当該ページを開いて袴田部長が私に見せつけてくる。  ……まったく。そのニヤけた顔を見るとふざけているとしか思えない。  袴田部長は楽しいことが大好きな性格だから、こうして冗談を言われることもしばしばだ。「お客様からも雑誌見ましたよって担当者とそういう話になるらしいよ。いや~、やっぱり朝日奈にしといて良かった」 「え?!」 「…は?」 ……ちょっと待って。今なんて言った?「私にしといて良かったって、どういうことですか? 先方から取材対象は私でと、名指しで指名が来たんじゃなかったんですか?!」 「いや、だから、それはその……」 「部長! まさか部長の差し金で私になったんですか?」 なにもかも部長の策略だった。確信犯だ。目の前のあわてた様子がその証拠。  そう考えた途端、私の眉間にはシワが寄り、眉がつりあがる。「悪かったよ。でも、評判いいよ? この記事」 苦笑いで首の後ろに手をやる部長を前に、あきれてなにも言えなくなってしまった。  もう過ぎてしまったことなのだから、今更怒っても仕方ないのだけれど。  騙されたことへの憤りからか、盛大な溜め息が自然とこぼれ落ちた。「用件がそれだけでしたら、仕事に戻らせてください」 口を尖らせ、部長にからかわれている暇などない、と言いたげに踵を返す。「あ! 待てって! ちゃんと仕事の話もあるから」 あわてて呼び止める声に、再び小さく溜め息を漏らしつつ気を取り直して振り向いた。
last updateLast Updated : 2025-03-31
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第一章 秘密 第三話
「だけど……海や森も、他社がもう手がけているよな。披露宴会場でのそういう演出は、すごく真新しい!とは言いづらい。ま、演出しだいだけど」 資料から一瞬顔を上げて私に視線を移し、部長はまた手元の資料に視線を落とした。「演出は例えばですが、お料理や食器なんかも全部一風変わったものにして……。でも、私が一番こだわってみたいのは新郎新婦の衣装です」 私がそう言うと部長は笑って顔を輝かせた。「衣装ね。なるほど。特にお色直し後の新婦のカラードレスが斬新なら、みんな印象に残りやすいな」「はい。動画や写真にもバッチリ残りますし」「海や森をイメージしたドレスかぁ」 少しは私の思い描いたものを面白いと思ってもらえたようで、私も自然と笑みがこぼれる。 やはり結婚式や披露宴の主役は女性である新婦だ。招待客も自然と新婦のドレスに目がいくと思う。 ならばそれを、いっそのこと大胆な演出のものにしてしまったらどうかと私は考えた。「とりあえず新作ドレスの製作だけは先に上の許可を取ろう。企画をまとめるのは、その目処がついてからだ」「はい」 部長の言う『上の許可』というのは稟議書のことだ。 もちろん私や部長の一存で、勝手に会社のお金で高額なドレスを作ることはできないから、それ相応の手続きがいる。 最近は新作ドレスを作ろうとする動きはなかったし、衣装部と相談してドレスの入れ替えのためだと強く言えば、おそらく稟議は通るんじゃないかと思っているけれど。「だけどデザイナーに依頼すると言ってもなぁ。うちがいつも頼んでるデザイナーに、そんな斬新なデザインを描ける人間がいるかどうか」 指をトントントンとデスクの上で鳴らしながら、書類を見て考えこむ部長を前に、私はひとりほくそ笑んだ。「そこで部長、相談なんですが」「ん?……もしかしてなにかアテがあるのか?」「アテはありませんが、依頼してみたいデザイナーはいます」「ほう」 それは最初に新作のドレスのことを考え出したときから、思いついたこと。 斬新かつ美しいドレスのデザインならば、私の中で是非依頼してみたいデザイナーがいるのだ。「最上梨子(もがみ りこ)っていう新進気鋭のデザイナーなんですが」「あぁ、知ってる!」「そうですか!」「この前俺が見に行ったショーにも参加してたよ。曲線美っていうか面白い発想のデザインだよな、彼女は
last updateLast Updated : 2025-03-31
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第一章 秘密 第四話
「ま、当たって砕けろってやつだ。取材はNGでも、デザインのオファーなら受けてくれるかもしれんしな」 「……はぁ」 「でもお前、真面目だからなぁ。あんまり頑張りすぎるなよ?」 最後はふざけた調子で、部長は私の頭をちょこんと小突いた。  仕事する上で、真面目のなにがいけないのか教えていただきたいものだけれど。 しかし、最上梨子……小難しい人だったらどうしよう。  私が意気揚々と張り切ろうとしていたところで、出ばなをくじかれた形だ。  何事もそんなに全てトントン拍子にうまく進むわけがないのだから、部長の言うとおりダメ元で当たってみるしかない。  とにかくアポイントを取ってみなくては話にならない。  悩むのは、実際に断れてからだ。  私は大きく息を吸い込んで深呼吸し、最上梨子デザイン事務所へと電話をかけた。 ―――― これが気苦労の始まりだと、知りもせずに。 最初の電話だけでオファーを断られるかもしれない。  話だって、何も聞いてもらえないかもしれない。  そういう予感もあったのだけれど、驚くほどすんなりとアポイントが取れて、一週間後に最上梨子デザイン事務所へ赴くことになった。「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」 「ありがとうございます」 事務所を訪れると、思っていたよりも小さい規模の建物だった。  私を出迎えてくれたのは、センスのいいジャケットを着た黒髪の男性だ。  年齢は私より少し上くらいだろうか。  考えてみたら最上梨子事務所のスタッフなのだから、服のセンスは良くて当然。 そしてすぐに事務所内のミーティングルームのような小部屋へ通された。  失礼ながらも部屋を見回すと、いたって普通のものしか置いていなかった。  しかも必要最小限だから、ガランとしていてとても無機質な感じがする。「どうぞ、お掛けください」 ぼうっと立ち尽くしていたところに、先ほどの男性がコーヒーを持って再び現れた。「すみません。改めまして、リーベ・ブライダルの朝日奈と申します」 私が自分の名刺を差し出すと、その男性は笑顔で受け取ってくれた。  そして男性も胸ポケットの名刺入れから名刺を取り出して、私に差し向ける。「最上梨子のマネージャーをしております、宮田(みやた)と申します」 名刺には『 宮田昴樹(こうき)』と、名前が記されていた。
last updateLast Updated : 2025-04-01
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第一章 秘密 第五話
「あ……お恥ずかしい限りです」 穴があったら入りたい気分だった。  いきなり会話の冒頭でその話題になるとは思ってもみなくて。  本当に恥ずかしくてたまらない。  どんどんと顔が赤らんでいくのが、自分でも手に取るようにわかるくらい。「どうしてですか。あの記事の方だから、お会いしてみようかと思ったのですよ?」 部長の策略に引っかかったことが、意外にもこんなところで役に立っている。  仕事に繋がったのなら、生き恥をさらした甲斐があったかもしれない。「お願いですので……あれは忘れてください」 「忘れませんよ。そんなのもったいないです」 私が恐縮しているのが可笑しいのか、笑いながら朗らかな空気を作り出してくれる宮田さんは、大人で紳士で素敵だ。「では、本題に入りましょうか」 「はい、実は最上さんにデザインをお願いしたいものがありまして」 私はバッグから書類を取り出してテーブルに置き、宮田さんの目の前に並べた。  そして私が思い描いているドレスのイメージとコンセプト、ゆくゆく企画にしたいと思っている全体プランを、できるだけわかってもらえるように懇切丁寧に説明を繰り返す。  宮田さんはその書類を無言で見つめ、しばらくしてから口を開いた。「朝日奈さんの企画の趣旨はわかりました。だけど、最上はブライダルドレスのデザインの仕事はしたことがありません。本当に最上でよろしいのですか?」 その質問に、私はパッと顔を上げる。そして大きく息を吸い込んで意気込んだ。「デザインをお願いするなら最上さん以外考えられません。どんなドレスをデザインされるのか、考えるだけで舞い上がりそうになります。私は最上梨子というデザイナーに惚れこみました。あの方の才能溢れるセンスなら、どんなものでもデザインできると、勝手ですがそう信じています」 「……」 「できるだけのことはこちらもしますので、是非一緒に仕事をさせていただきたいのですが」 自分の思いのすべてとはいかなかったが、三分の一くらいは言えただろうか。  少なくとも、私の情熱だけは伝わったかな。  ふと目線をあげると、机に頬杖をついた宮田さんとバチっと目が合った。  さっきは頬杖なんてしていなかったのに……。なんだか今までと雰囲気が違う。「できるだけのこと、してくれるんですか?」 「えぇ……私にできることでした
last updateLast Updated : 2025-04-01
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第一章 秘密 第六話
「こちらの要求は、たったひとつ。“ 秘密を守ること ” その一点のみです」 「秘密?」 「むずかしく言いましたが、あなたが誰にも他言しなければいいだけのことなのですよ」 「はぁ……」 「会社にも友人にも家族にも、です。できますか?」 秘密にしたい内容はさっぱり見当もつかないけれど。  とにかく、誰にも言ってほしくないことがあるらしい。「あなたが秘密を守れるというならオファーをお受けしましょう。守れないというなら、この話はなかったことに」 「え?! 守ります! 絶対秘密にします!」 「あなたが約束を破って他言した場合、こちらも一方的に仕事の契約は反故にします」 私を見つめる真剣な漆黒の瞳。油断したら吸い込まれてしまいそうだ。「わかりました。私を信じてください」 どんな秘密か知らないけれど、私が一切他言しなければいいのだ。  ただそれだけでオファーを受けてもらえるのなら、こんなに容易いことはない。  というか、そこまで厳重に守らなければいけない秘密って……。「では、ついて来てください」 言うが早いか宮田さんがおもむろに席を立つ。一体どこへ行くのだろう?「え? どちらに?」 「最上に会わせます」 「本当ですか?!」 最上梨子……本人に会える!  どうやら私は第一関門を突破できたみたいだ。  宮田さんは、私を最上さんに会わせてもいいと思ってくれたのだから。  認められたと思うと嬉しすぎて、宮田さんが後ろを向いている隙に小さくガッツポーズをした。 実際に会う彼女はどんな感じの女性なのだろう?  綺麗な人かな? とてもキュートで可愛い人?  つかのまの移動の間にあれやこれやと想像が膨らむ。 宮田さんの後をついて行くと、彼は事務所の最奥にある正面の部屋をノックもせずにガチャリと開けた。  広い部屋。それが第一印象だった。  入ったところの正面に、大きなガラスのテーブルと高級そうな黒いソファーがどーんと置いてある。  どちらもセンスがいい。  というか、この部屋の空間全部のセンスがいい。 ――― さすがは最上梨子。 ここは彼女が実際に使っている部屋なのだろうか。  仕事用のデスクも奥にある。入った瞬間、雰囲気的にアトリエのような感じがした。 部屋に入るなり、宮田さんなに
last updateLast Updated : 2025-04-01
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第一章 秘密 第七話
 今の会話は……成立していただろうか。  まったく噛み合っていない気がする。  しかもかわいらしく「ごめんなさい」って言われても困る。  にこにこと砕けた笑顔になっていく宮田さんを呆気に取られながらじっと見つめると、ソファーに座るように促された。「ごめんなさいって……騙したって、どういうことですか?」 気がつけば私の顔からは愛想笑いの笑みがすっかり剥がれ落ちていて。  自然と何かを疑うような顔つきになっている自覚はある。  それも仕方ない。初対面なのに騙したなどと言われたら、身構えてそうなってしまうと思う。「すみません、単刀直入に言ってもらえませんか?」 はっきりとした口調でそう言うと、正面に座った宮田さんが私の顔を覗き込んだ。  こうなったら、腹を割って話して欲しい。「僕が、最上梨子です」 数秒間、ふたりの間に沈黙が流れる。  意味がわからないどころか、自分の耳を疑った。「あの……それってどういう……?」 「そのままの意味ですよ。さっきは僕と最上が別人みたいな言い方をしてごめんなさい」 「う、うそですよ!」 えっと……宮田さんは実は最上梨子で、ふたりいると思っていた人物が、実は同一人物だった?  いや、いやいやいやいやいや。そんなことはありえない。「だって、最上梨子は女性ですよ?!」 「僕は女性だと公表した覚えはないんだけどな。名前が女性っぽいからみんな勝手にそう思ってるだけで」 「そ、それに宮田さんは、自分はマネージャーだって……」 「あー、それは騙しました。隠れ蓑になってちょうどいいからそう言うようにしていて。幸いみんな最上梨子は女性だと思ってるから、まさか僕が最上本人だとは予想もしてない」 それはそうでしょう。  私だって、悪いけどこんなキリッとした男性が最上梨子だとは、まったく想像だにしなかった。「ショックだった? ごめんね」 呆然として放心状態の私をよそに、宮田さんが可笑しそうにクツクツと笑いを漏らす。  からかわれているだけ……ではないようだ。「これが守ってもらいたい秘密。僕イコール最上梨子だと誰にも言わないこと」 目の前で起こっていることが、とても現実だとは思えない。  夢でも見ているんじゃないだろうか。仕事だということも、一瞬忘れてしまいそうだ。「秘密は
last updateLast Updated : 2025-04-02
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第二章 共有 第一話
 最上梨子の“秘密を守る”という条件付だったけれど、仕事のオファーは無事に請けてもらえることになった。  会社に戻って部長に報告するとよろこんでくれて、すぐに稟議書を書き上げて、会社に提出するまで事を進める。「きっと稟議は通るよ」 部長が言ってくれた通り、しばらく日が経ってから新作ドレスの稟議が降りたと上から知らせが来た。  もちろん、これからまだまだ道のりは長いのだけれど。「朝日奈、やったな! 会社のOKも出たし。いいドレスができるのを期待してるよ」 「はい!」 私も満面の笑みだったけれど、部長も興奮していていつもより声が上ずっている。そしてなにより明るい。「だけどまずはデザインだな。最上梨子がどんなデザイン案を提示してくるのかわからんが、実際にそれがなきゃ話にならん」 「ですね」 最上梨子のドレスが、うちの衣装部のマネキンに飾られる日がくるんだと思うだけで頬が緩んだ。 最悪、私の企画が最終的に通らなかったとしても、新作のドレスは衣装部に入荷することになる。  もしそうなったとしても、私が携わったドレスなのだからそれだけでも個人的にはすごくうれしい。「実際に衣装が出来上がったら、モデルを使って新しいパンフレットを作ろう。撮影の予算は俺が会社に掛け合ってやるから」 「ありがとうございます」 「とにかくお前は最上さんのとこに行って打ち合わせしてこい」 「はい」 「女性なんだから甘いものとか好きそうだよな。どこかでスイーツの手土産でも買って、彼女の機嫌を取っておけよ?」 「……そう、ですね」 最後の最後に、顔が引きつってしまった。  この企画に意気込みすぎて、今は忘れてた。……最上梨子の秘密のことを。 誰にも言わないと約束したのだから、もちろんそれは直属の上司である袴田部長にも絶対に言えない。  最上梨子が実は男だったからと言って、会社に損失を与えるわけでもないし。  別に黙っていても、どうってことはない。  だけど今の引きつった顔……部長にバレていないだろうか。◇◇◇「お電話でもお話しましたが、今日は依頼したデザインの件で伺いました」 最上梨子デザイン事務所に赴くと、マネージャーの顔をした宮田さんが現れ、今度はすぐさま例のアトリエ部屋へと通された。「最上先生がデザインするドレスがどんなものになるのか、今から楽し
last updateLast Updated : 2025-04-03
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第二章 共有 第二話
「では、最上さん、とお呼びすればいいでしょうか」 「昴樹さん、で」 ん? 本名のほうがいいということ?「では、今後は普通に宮田さんとお呼びしますね」 「ああ……まぁいいか」 なぜ不服そうなのだろう。  仕事をする相手なのだから、名字にさん付けというのは普通だ。  いちいちこういう反応をされると、なんだかやりにくい。「あ、それと。僕、最初と印象が違うと思うけど、本当はこういう人懐っこい性格なんでよろしくね」 「……はい」 最初と印象が違うのは、もうとっくに気づいている。  おそらく、あれは演じていたのだ。  大人でクールで卒のない、最上梨子のマネージャーという役柄を。  そして現在目の前にいる彼が、きっと本当の性格の宮田さんなのだろう。  それよりも、人懐っこいくせにどうしてメディア嫌いなのか、意味不明だ。  この人のことが全然理解できない。「すみません、お口に合うかどうかわかりませんが、これ……」 気を取り直して、持って来ていた手土産の袋をさりげなく宮田さんに手渡した。「これはなに?」 「マドレーヌです。上司に持って行けと言われましたので。あ! 大丈夫です。秘密のことはもちろん上司にも言ってませんから」 手土産を考えた結果、男性でも好みそうな無難なマドレーヌにしておいた。「あはは。秘密は守ってくれてるって信じてるよ。それに、上司の指示だって僕に言っちゃうあたりが朝日奈さんは正直だよね」 そう指摘されて、カッと顔が一瞬で熱くなる。  本当だ。今のはそこまで言う必要はない。ひとこと多かったと自分でも思う。「す、すみません」 「朝日奈さんは真面目なんだね。見てるとなんだか妹を思い出すよ」 「妹さんですか?」 「ああ。しばらく会っていないけど。妹は朝日奈さんよりもっと真面目で現実的なタイプでね。型破りな僕とは正反対」 話しぶりからすると、妹さんは芸術肌とは程遠いタイプのようだ。  兄妹で、全然違う性格なのだろうか。「じゃ、このマドレーヌで一緒にお茶しようか。朝日奈さん、悪いけどコーヒーを淹れてくれる? そこにコーヒーメーカーがあるでしょ?」 「え?! あの、仕事の話を先に……」 「えぇ~、マドレーヌが先だよ~。仕事の話は、それを食べてから聞くから」 「せめて、食べながら、でお願いします」 立ち上がり、軽く
last updateLast Updated : 2025-04-03
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第二章 共有 第三話
「朝日奈さんも食べなよ。これ、美味しいよ」 「それはよかったです。で、デザインの件ですが……」 マドレーヌの話をバッサリとぶった切り、仕事の話へと無理やりシフトした。「僕、最初に言ったと思うけど、ブライダルドレスはデザインしたことがないんだよ」 「はい」 「正直、まったくイメージがわかない」 「えぇ?!」 まったく? 少しも? 全然?  そんなことを今更言われても困る。まさか、できない、というのだろうか。  それなら何故引き受けたのかと言い返したくなる。「いい加減な仕事はしたくないんだよね。だからさ、イメージが湧くように朝日奈さんが努力してくれなきゃ」 「わ、私が?」 「だってそうでしょ。だいたいね、朝日奈さんの頭の中に描いてるイメージ、持ってきた書類だけで僕に全部伝わってると思う?」 「それは……」 「頭の中のイメージだよ? それを形にして表現するのが僕の仕事かもしれないけど、他人の頭の中のイメージを100%理解するのは無理」 私は今回の企画のためのいろんな資料を、次々に慌ててバッグから取り出した。  言われていることはわかる。  だとしたら、1%でも多くわかってもらえるまで伝えていくしかない。「その書類は、この前見たよ」 目の前に書類を出した途端、先にそう言われて突っぱねられた。「でも、もう一度……。不明な点があれば何でも聞いてくだされば」 「そうじゃなくて」 視線を上げて宮田さんを見ると、にっこりと笑ってコーヒーカップに口をつけていた。「僕はね、一緒に作りたいんだ。朝日奈さんと」 「……え?」 「朝日奈さんの頭の中のものを僕が形にしてアウトプットする。ということは、僕の頭の中にも、100%とはいかなくても似通ったイメージがないと、アウトプットできないわけでしょ」 「はい」 「だから、もっと僕たちはわかり合う必要があるってことだよね」 じゃあ……私は一体どうしたらいいのか。 漆黒の髪と漆黒の瞳。  キリッとした容姿のくせに、子どもっぽい口調と人懐っこい笑顔。  仕事を引き受けておきながら、イメージがまったくわかないと堂々と言う目の前の男性に、心の中は違和感と不安でいっぱいだ。  どう言葉を続けたらいいのかわからなくて、まごまごとする私を見て宮田さんが小さくクスリと笑うのが聞こえた。「とにかく、明
last updateLast Updated : 2025-04-03
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