幼馴染みでもあり、従兄妹という繋がりもある 大好きな人との結婚を夢見ていた花。 その願いが一人の悪女によって 打ち砕かれてゆき、 花の心に大きな傷跡を残す。もがきながらも新しい 人生に船出をし、さまざまな人たちの狭間で揺れながら 幸せへの道に辿り着く、そんなstoryになっています。 登場人物 ◉掛居 花 27才 主人公 向阪 匠吾 27才 花の婚約者 島本玲子 29才 悪女 島本蘭子 32才 玲子の姉 金城信也 32才 蘭子の恋人 井出耕造 41才 宅麻士稀 29才 若き医師 内野歌子 25才 看護師 相馬綺世 30才 現場監督 相原清 史郎 32才 槇村笙子 29才 ◉魚谷理生 31才 遠野理子 24才 小暮ゆき 26才 雨宮洋平 33才 星野倫子 29才 宮内隆 33才 柳井寛 33才
Lihat lebih banyak60 ― 時は少し遡り ――総帥からの圧力もある中、向阪匠吾が祖父茂に対して、ひいては花に 対しての謝罪の意味を込め、けじめをつけようと玲子との結婚話を 進めていた頃……失意の内に前職を辞めた花は祖父の働きかけで 心の平安を取り戻し、グループ企業のひとつである三居建設株式会社へと 入社した。 配属は作業所事務部門。 花の次の勤め先は募集などかけていない中での中途での入社だったため、 最初のうちは皆の仕事の補佐をすることで時間を紡いでいた。 そのため自分の決められた仕事がなく、どうしても仕事の途切れる時間が できてしまう。 それが時々ならよいのだが、一日に何度もでき、ただデスクに座っている だけというのはとても苦痛である。 考えてみるに自分の課では担当者がそれほどハードな仕事では ないのだろう。 しかし、他部門ならどうだろう。 猫の手も借りたいほど忙しい部署があるかもしれない。 花はそういった忙しい部署の仕事をやらせてもらえるよう上司に 掛け合った。 しかし、花の提案はあっさりと却下され、また翌日も暇でしょうがない 一日を……何もないデスクを見るだけの一日を……過ごすことになった。 なるべくなら『伝家の宝刀』を抜きたくはなかったがしかし、 これは我が一門の行く末にも係わる由々しき問題。 性格の良くない上司のようで助け合いの精神は持たないらしい。 他部門のためにどうして自分のところの人間を貸し出さなければならないのか、というような思考の持ち主のようだった。 実は上司にこの話を持っていく前に花はリサーチしていた。 それによると、現場を抱えている部署では顧客対応や現場での対応に かなり時間を取られるので現場監督はデスクワークになかなか時間を 割けず超勤が続いているようだと聞いていた。
59 「あれほど偶然とは思えない不運が次々と自分の身に起こり反省するのかと思いきや、よほどオツムが緩いようで同じことを繰り返すからですよ。 島本さん、私は花の祖父の向阪茂という者だ。 あなた、いや、お前のせいで孫がふたり不幸になった。 まだ覚えてるかな。 いろいろ調べているうちにすごいことが分かった。 お前は実の姉の恋人も10年ほど前に寝取ってるじゃないか。 次が花と匠吾の仲を引き裂き、島へは渡って3ヶ月しか経っていないというのに、看護師から恋人を奪っただろ。 人の大切なモノを奪っても法に触れなければいいのか? 法がお前を許しても私がお前を許しはしないよ。 本州から島へ逃亡した時、お前には真面目に暮らしていればこの先の制裁は許そうと思ってたがそうもいかなくなった。 そうそう、島の家では何気に井出にまですり寄ってたの聞いたよ」「プライバシーの侵害よ」「よく聞きなさい。ふたつにひとつだ。 山奥の温泉街でその自慢の身体を使って働くか、山奥の寺に入って剃髪して仏門に帰依するか、選びなさい」「どちらもお断り」 玲子は急いで入り口に向かって逃げようとした。 だがすぐ入り口の近くにいた井出ともう一人の男に捕まり椅子へと戻された。「じゃあ神戸湾の奥深く沈んでみるかい。 これ以上お前のせいで不幸な人間が出ないようにしないといかん」 玲子はこれ以上逆らうと本当に海に沈められるかと恐怖に震えるのだった。 ◇ ◇ ◇ ◇ その日を境に数年後、山奥できれいなお坊さんを見たという人あり、また山奥にある温泉街に行くとめっぽうきれいで男好きする女がいると聞いたりするそうな。 その後両親の暮らす家には玲子直筆の手紙が届いた。 そこには『離島で暮らすことにしたので探さないでください。 警察にも届けを出さないように』と書かれてあったそうな。
58「ほう、あなたが島本玲子さんか、ようこそ、このオフィスへ。 ここへ来なくて済めばよかったのだが……まぁ、しようがないね」 何を言われているのか全く分からない私は、反射的に入り口付近に 立っているはずの井出さんの姿を探した。 私が振り向いても一度も見てくれず、今まであんなに親切にしてくれて 一緒に暮らしていた人なのに、何がどうなっているのか? 自分の見知っていた面影を彼のどこにも見つけられず、 私はますます混乱した。 心細くなって彼の名前を呼んだ。「井出さん、井出さん、どうしてこんなところに私を連れて来たの」 井出さんは前を見たまま私の方を見ることはなかった。 彼の代わりに目の前の初老の男性が口を開いた。 「彼は私のボディガードでね、今は勤務中だからあなたとの私語は 許されてないんですよ、島本さん」 「でも離島まで連れて行ってくれて一緒に暮らしてたんですよ、私たち」 「それも私が頼んだ仕事だからですよ。 だからここへもあなたを連れて来た。 井出はやさしい奴ですよ。 筋書きにはなかったのに3年大人しく島で暮らしていれば、どうにかなる……というようにあなたにそれとなくアドバイスしてましたからね」「どうしてそれを」「知ってるかって? あの家は盗聴されてたからね」「あなたの指示で?」「そうですよ」「じゃあ井出さんは……」 「知ってたか、知らなかったか、私には分かりません。 ただ私からは盗聴器をしかけるとは一言も話してませんがね」 「私を逃がしてくれたのにどうしてまた私はここに 連れて来られたのでしょう?」
57「それと走行中、業務関係の人と遣り取りするかもしれないけど気にしないで寝てていいよ」 そう言う井出さんは見るとハンズフリーのイヤホンを耳に装着していた。 なんかめちゃくちゃデキるボディガードみたい。 そんなことを考えながらスムーズな走行に私はうつらうつらしていた。 井出さんが誰かと遣り取りしているみたいで会話している彼の声が子守歌のように心地良かった。「玲子ちゃん……玲子ちゃん、着いたよ」「あぁ、ごめんなさい。つい寝てしまってたみたい」 私たちがいるのは広いけれど周囲は壁で囲まれていて地下の駐車場のようだった。 エレベーターに乗ると階数のボタンがたくさんあって、かなりの高層ビルだということが分かった。 どんな素敵なレストランなのだろうと私は井出さんが20階のボタンを押すのをドキドキしながら見ていた。 エレベーターを降りて左方へ歩いて行くと一面シースルーで外から中が見通せる会議室のような部屋が現れてびっくりした。私は先を歩く井出さんに声を掛けた。「あの、ここってどういう……」「今説明しなくても直ぐにここへ来た理由が分かるので取り敢えず部屋に入ったら私が案内する席に座って下さい。 そのあと会長から説明があると思うので」「会長って誰? どこの?」 もう説明はしてくれなさそうな井出さんの背中に向けて呟いた。 部屋の入口をくぐる前に、長楕円形の卓の向かって左右壁に沿って男の人が1人ずつ立っている中の様子が見えた。 そして入り口をくぐる時に、右手1mくらいのところに男性が1人立っているのに気がついた。 井出さんは私が座るべき席を案内してくれるとそのまま、入り口から左手1mくらいのところに立った。 他の人に気を取られて気付かなかったけれど座った私の正面向こう側には初老の男性が座っていた。 そしてその人が口を開いた。
56 調査報告書が届いた日の夕食時に俺は玲子をドライブに誘った。「仕事も3ヶ月過ぎて4ヶ月目に入るけど、どう? 慣れてきた? 続けられそう?」「はい、お陰様で。 これも井出さんのお蔭です。ありがとうございます」「夢の方はどう? あれから」「神仏に手を合わせるようになってからは見なくなりました。 良くないんでしょうけど、手を合わせるのを忘れることもあるくらいなんです」「へぇ~そりゃぁ良かった。 じゃあ体調も気分も良さそうなところで本州までドライブしますか、次の土曜日あたりにでも」「土曜はちょっと、約束があって……」「じゃあ日曜にしようか」「はい、喜んで。楽しみです。 あちらでないと買えない物もあるし、あちらで買い物してもいいでしょうか?」「いいよ、勿論」『そんな時間があれば、だがな』 玲子は余りに順調な日々に浮かれていた。 自分の魅力に嵌り恋人になりそうな相手は年下のイケメン医師。 宅麻には看護師のガールフレンドがいるようだが、見たところ若いだけが取り柄の色気も何もない平凡な子だった。 そして自分の色気に唯一靡《なび》かなかった井出までもがドライブを誘ってきた。 またまたのモテ期を喜ぶ玲子だった。 土曜は宅麻医師とのデート、そして日曜は48才と若干おじさんではあるが、そこそこ色気もあって理知的で物腰の柔らかな井出にも一緒に暮らし始めてから好意を抱いていた玲子は一緒に長時間密室で過ごせるドライブを楽しみにしていた。 ◇ ◇ ◇ ◇「玲子ちゃん、今日は走行中後部座席でゆっくり休めばいいよ。 そうしたら体力温存できて現地着いてから楽だよ」「ありがとうございます。 じゃあお言葉に甘えてそうさせていただきます」 少し前、多少の身の危険を感じて本州から島へ渡った時は井出さんの隣助手席に座りフェリーで海を渡った。 まだ3ヶ月ほど前のことなのに何だか随分昔のことのように思える。 それにしても……今日の井出さんはいつもと空気感が違うなって思ってたら、ヘアースタイルも何気にモデルのようにバッチリ整えられてるし、スーツにネクタイ、腕時計と、どれも一流品に見える。 ただのドライブなのに。 ドライブがてら仕事も挟んでたりするのだろうか。 それともどこかに花束なんか隠してて高級レス
55「そうですよね。 私、そうします。 あんな薄情な人とはお付き合い止めます。 私、今日、井出さんに会いに来て良かったです。 きっとこんなふうに背中を押してくれる人を探していたんだと思います。 ありがとうございました」「前向きに考えられるようになってほんとに良かった。 玲子さんにはお灸をすえておきますからね」 若くて可愛らしい内野さんは少しの笑顔を取り戻して帰って行った。『島本玲子……やっぱりやりやがった』 これでお前の地獄行きが決定だ。 井出耕造48才、島暮らし。 ただし、ほんの1年前からの。 作られた島での俺の設定。 総帥からの依頼だった。 玲子がこの島で改心して暮らせば放流してやろうとのお考えだった。 反省もなく、異性トラブルを犯せば今度こそ直接総帥から厳しいお沙汰がくだされるだろう。 馬鹿な女だ。 あれほど真面目に暮らすよう忠告してやったというのに。 三つ子の魂百までとは昔の人はよく言ったものだな。 見た目と中身の釣り合いが取れていない残念な女だ。 どんな男をも虜にできるほど美しいのだから何もわざわざ人のモノに手を出さずとも言い寄って来る男はたくさんいるだろうに。 つくづく厄介な性《さが》を持って生まれ落ちたものだ。 一応この話が本当か井出は証拠取りをすることにした。 内野さんが有給を取って俺のところに来た日、その日の内に人を使っての裏取調査を依頼した。 内野さん自身がすでに恋人である宅麻から言質《げんち》を取っているようだし十中八九虚言ではないと思うが、間違いを犯さないための裏取は必須だ。 2日後、内野さんの話に虚偽はなかったことを立証する報告書が届いた。 これでこの先俺がどう動けばいいのかが決まった。 彼女《玲子》は最後のチャンスを失った。
54「持って回った言い方で丁寧に言葉を選んでいるとなかなか言いたい本音に辿り着かないので失礼を承知ではっきりと申し上げたいと思います」と始まり、動揺を隠して何とか平静を保ち話をしてくれた内容は次のようなことだった。 特別養護老人ホーム(鶴林園)という同じ職場で働く医師の宅麻士稀《たくましき》は婚約こそしていないが結婚の約束もしていた自分の恋人である。 その彼が自分に内緒で島本玲子と2度ほど飲みに行っていた。 彼は自分には内緒にしてるから、おそらく『恋人には秘密でね』と暗黙の了解の元、玲子と会っていたのではないかと推測される。 だが職場の手洗い場で一緒になった折に、玲子から宅麻と飲みデートに行ったと仄めかされ、内野はその事実を知ることになったという。 玲子と恋人の宅麻がいつの間にそんな仲になっていたのか、それだけでも驚きなのに玲子はその後追い打ちをかけるような発言をしたのだという。 内野さんから宅麻氏を奪ってみせると自信満々に告げたらしい。 そのようなことを聞かされた内野さんは、ものすごく不安で胸が押し潰されそうだと私に吐露した。「こんなに不安になるのは、私、たぶん島本さんに勝てる自信がないからなんだと思います。 恋愛は自由ですし宅麻くんが私より島本さんの方がいいと言うのなら諦めないといけないことも分かってるんですけど、誰かに話を聞いてほしくて……。 その一心で島本さんの身上書を見てこちらに伺いました」「辛かったですね。 私はお話を伺うことだけしかできませんが、その恋人宅麻さんでしたっけ? 彼とは話し合いましたか?」「はい。 飲みのデートに行ったことは認めましたし、誘われればまた次も行くかもしれないと言われてしまいました」「今は年上のきれいな女性に言い寄られて舞い上がっているのでしょう。 内野さん、あなたはまだ若い。 看護師さんなら働ける職場はたくさんあるでしょ。 そんな冷たい恋人はあなたの方から振っておやりなさい。 あなたのようにやさしくて素敵な女性にはこの先もっと良い縁がありますよ。 私が保証します」
53 俺のアドバイスを守り、朝な夕なに謝るべき人たちに謝罪をし、神仏にも すがっている玲子の様子が伺えた。 仕事も真面目に続いてる。 俺は玲子から悪夢の話を聞いた日にいろいろアドバイスしたのだが その時にこんなことも彼女に提案してあった。 石の上にも3年という諺があるように修行と思い3年間は我慢をして、 この先3年は独りで慎ましく暮らすこと。 元々今回のことは色恋を拗《こじ》らせた結果だからね、と。一度彼女が悪夢でうなされて起きた時、ちょうどまだ俺が仕事で起きていたのだ が何気に『怖い』と言って俺の側近くにすり寄って来たことがあった。 つくづく彼女は魔性の女だと思ったね。 出会いがこんな形でなければ俺もあの場面で据え膳を食わずにいられたかどうか、はっきり言って自信がない。 もうアラサーの域にかかっている女だがまだまだ十二分に美しさを 保っているからね。 彼女は残りの2年と数か月を果たして大人しく地味に 淡々とやり過ごしていけるのだろうか。 杞憂に終わればと思っていたのだが……。 ◇ ◇ ◇ ◇ 平日の昼下がりに初めて見る顔の来客があった。「井出ですが何か……」 「初めまして、内野と申します。 井出さんは島本さんの身元引受人ということになってらっしゃるので 彼女のことでご相談に上がりました。 どこかでお話を聞いていただけましたらと思います。 あの……突然のことで申し訳ありません」 彼女は玲子が通っている特別養護老人ホームに勤める看護職員であると 自己紹介してきた。 心を落ち着かせ、宥め、私に話をしようとしている姿が痛々しかった。 彼女の様子から俺は何やら胸騒ぎを覚えた。
52 「関係者に謝罪したって言ってたけども本丸のその花さんって人にも ちゃんと謝罪したの?」 「それが、会えなかったんです。 会わせてもらえなかったというほうが正しいかも。 ちらっと精神を病んだと聞いてるので今更私のことなんて 耳に入れたくなかったのかも。 私ってほんとに最低なことをしてるんです。 でも周囲から幾ら非難されても以前は分からなかったの、 分かってなかった。 花さんが実際夢の中で私が感じたような苦しみと悲しみを 体験していたとしたら、私は花さんの心を殺したも同然なんですよね。 夢を見た日は本当に死にたくなる。 私、夢を見るようになってよく分かったんです。 私はもう幸せなんて求めてはいけないって。 何かが私のことをずっと追いかけてきてどんな小さな幸せの芽も 開きそうになると摘み取っていくの」 「君さぁ、これから毎日心の中でもいいし声に出してもいいけど、 その酷いことをして苦しめた花さん、そしてある意味無実なのに 君のせいで有罪にされた匠吾さんだったか、そのふたりに謝ったほうがいいよ。『意地悪と嫉妬であなたたちに酷いことをした私を、充分反省しているので お許し下さい』ってね。 もうそんなことになってるのなら、そういうのしか方法はないと思うね。 夢を見なくなるまで心から謝るんだよ。 そして神仏にも祈り、助けてもらうほかないだろ。 そして時間が過ぎていくのをじっと待つしかないな。 できればこの先もこの島を出ない方がいい。 あの日あの海浜公園でぷっつりと君の痕跡は途絶えたことになってる。 だけどほとぼりが冷めて自宅に帰ったりすればすぐに見つかってしまうだろう。 結婚もしない方がいいだろうな。 そうすれば今あるささやかな暮らしは続けられるかもしれん」 「そうですね。 私、これから毎日心の中でふたりに謝罪しながら生きていきます」
1「牧野さん、私、向阪 匠吾《こうさかしょうご》さん狙っていきまぁ~す」 一緒に社食に向かうこの春準社員で入社して来た島本玲子 が 開けっ広げに私に宣言してきた。 『いや、ちょっとそれは…まずいかも。しかし最近入ってきた人には 分かンないよね~』と心の声。 「水を差すようだけど向阪くんに彼女いる可能性は考えないの?」「彼、独身ですよね?」「ええ、まあ、独身だと思うわ」「じゃあ、もし彼女がいても無問題ですよ。 結婚がゴールだとしたらそこに辿り着くまではマラソンみたいなものだから 一番にゴールした者の勝利ってことで。 私の前に1人2人走ってたって平気ですよ。 ゴールのラインはまだ誰も踏んでませんからね」 「島本さんって積極的なのね~」 「私もう29才、いわゆる崖っぷちっていうやつなので、 大人しくしていたら永遠に独身まっしぐらですもん」『島本さん綺麗だから今までチャンスは幾らもあったと思うんだけど、 高望みし過ぎたとか? 20代で綺麗で積極性があって、なのにどうして今だに独身なのかしら、 と訊いてみたいところだけど、きっとここは踏み込んではいけないところよね』 向阪くんが掛居 花 《かけいはな》ちゃんと仲いいことは周知の事実に なっている。 中には知らない者もいるだろうけれど、ほとんどの者が知っている。 ほぼほぼ公認の仲っていうヤツよ。 29才独身はやはりパートナー狙いで入社してきたようだ。 ◇ ◇ ◇ ◇ 実は彼女の採用時の最終面接にはうちの課の仕事の補佐をお願いするものだから課長、係長そして私と3人が人事課以外からも面接の場に立ち会っていた。 今回の応募者は20代前半の人が大半で20代後半は島本さんひとりだった。 経理経験者は彼女ともうひとり40代既婚の人がひとりだけ。 課長と係長は仕事ができることと見た目で、島本さん即決だった。 私は正直40代の女性とどちらにするか迷った。 結局私も島本さん推しということで彼女に決まったわけだけど、 私ひとりがあの時40代の女性を...
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