貴方の願いを叶えたい

貴方の願いを叶えたい

last updateLast Updated : 2025-04-02
By:  marukoUpdated just now
Language: Japanese
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上位貴族の両親を持つにも関わらず庶子として生まれたティアナ。 早世した父の加護により死ねないティアナ。 幼い頃から精神的に虐げられてきた彼女が幸せを掴むまでの物語。 ※全て作者の妄想の産物です 広い心でお読みください

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貴方の願い  そして生い立ち1

やっと此処まで辿り着いたここで私の魂は安らかに眠れるかしら?魂の安住を求めて歩いて歩いて、時には走って。疲れ果てたけれど漸く⋯⋯漸く。国の最端に位置するこの領内の此処は《《その》》志願者が後を絶たないと聞いていた。ティアナはそろそろとそこへ近づく、下をそっと除くと波飛沫が岸壁に襲いかかっている様に見えた。これなら《《死ねる》》きっと大丈夫。目を閉じ《《そこへ》》飛び込んだ。迷いは一切なかった。だってこれが《《あの人》》の願いだもの。|一時《いっとき》でもティアナを愛してくれたあの人の願い。叶えてあげなければ⋯⋯。頭の天辺に冷たさを感じた気がした時、ザブンという音と共にティアナは意識を失いそして真っ暗になった。☆★☆~生い立ち1~──────────────ティアナは侯爵家の庶子として誕生した。彼女の母はリサリディ・マリソーマリソー侯爵家の女侯爵だ。マリソー侯爵家にはリサリディしか生まれず、彼女は子供の頃から侯爵家の後を継ぐ事が決まっており、厳しい教育を余儀なくされていた。婿養子の候補は3人いた。マリソー家はターニア王国の長く歴史のある忠臣の家であるから王家の覚えもめでたい。リサリディに婿入りしたい者は我先にと釣書を送った。その中から両親は厳選して3名を選んだ。幼い頃より交流を持つと良くないと判断した両親は顔合わせの時期を学園に入学する15歳と定めた。何故なら両親も幼馴染でお互いを兄妹のように接していた為、閨に至るまでに実に5年を要したからだ。当然父親の方には性処理をする為に愛人がいた、しかし父は愛人に子供を作る愚行は侵さなかった。今となっては作っておけば良かったと思ってはいるが後の祭り。まさかリサリディができた後に、自分が病に侵されその後遺症で子種が無くなるなどと思いも依らなかった。病のあとに何度閨を繰り返しても妻にも、そして愛人にも子供が出来なかったのだ。愛人に至ってはリサリディが出来るまで事後に避妊薬を飲ませ続けたからではないかと推察されたので、若い娘を新たに愛人に迎えたが其方にも出来なかった。いや一人出来たのだが産まれてみたら彼の子でないのは一目瞭然の赤毛で黒目の男の子で、愛人の護衛に雇っていた傭兵にそっくりであった。二人とも直ぐに叩き出したが⋯⋯。そういった経緯も有り子供はリサリディのみと...

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貴方の願い  そして生い立ち1
やっと此処まで辿り着いたここで私の魂は安らかに眠れるかしら?魂の安住を求めて歩いて歩いて、時には走って。疲れ果てたけれど漸く⋯⋯漸く。国の最端に位置するこの領内の此処は《《その》》志願者が後を絶たないと聞いていた。ティアナはそろそろとそこへ近づく、下をそっと除くと波飛沫が岸壁に襲いかかっている様に見えた。これなら《《死ねる》》きっと大丈夫。目を閉じ《《そこへ》》飛び込んだ。迷いは一切なかった。だってこれが《《あの人》》の願いだもの。|一時《いっとき》でもティアナを愛してくれたあの人の願い。叶えてあげなければ⋯⋯。頭の天辺に冷たさを感じた気がした時、ザブンという音と共にティアナは意識を失いそして真っ暗になった。☆★☆~生い立ち1~──────────────ティアナは侯爵家の庶子として誕生した。彼女の母はリサリディ・マリソーマリソー侯爵家の女侯爵だ。マリソー侯爵家にはリサリディしか生まれず、彼女は子供の頃から侯爵家の後を継ぐ事が決まっており、厳しい教育を余儀なくされていた。婿養子の候補は3人いた。マリソー家はターニア王国の長く歴史のある忠臣の家であるから王家の覚えもめでたい。リサリディに婿入りしたい者は我先にと釣書を送った。その中から両親は厳選して3名を選んだ。幼い頃より交流を持つと良くないと判断した両親は顔合わせの時期を学園に入学する15歳と定めた。何故なら両親も幼馴染でお互いを兄妹のように接していた為、閨に至るまでに実に5年を要したからだ。当然父親の方には性処理をする為に愛人がいた、しかし父は愛人に子供を作る愚行は侵さなかった。今となっては作っておけば良かったと思ってはいるが後の祭り。まさかリサリディができた後に、自分が病に侵されその後遺症で子種が無くなるなどと思いも依らなかった。病のあとに何度閨を繰り返しても妻にも、そして愛人にも子供が出来なかったのだ。愛人に至ってはリサリディが出来るまで事後に避妊薬を飲ませ続けたからではないかと推察されたので、若い娘を新たに愛人に迎えたが其方にも出来なかった。いや一人出来たのだが産まれてみたら彼の子でないのは一目瞭然の赤毛で黒目の男の子で、愛人の護衛に雇っていた傭兵にそっくりであった。二人とも直ぐに叩き出したが⋯⋯。そういった経緯も有り子供はリサリディのみと
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生い立ち 2
ティアナは物心ついた時から父に嫌われている事が悲しかった。母が自分の顔を悲しそうに見るのも辛かった。弟妹達には父から「近寄るな」と言われ話す事も禁じられた。母は庇ってくれていたが何時しか父の言う事を聞くようになった。その頃から父と母は仲睦まじくなって鴛鴦夫婦と周りから呼ばれるようになっていった。丁度その頃、祖父母からティアナは自分の出生の秘密を教えられる。ティアナの10歳の誕生日だった。齢10歳には苦しい誕生日プレゼント。何故父が自分を嫌っていたのか、母の自分を見る時の悲しそうな瞳。それらの全てを理解した。そして母の心変わりも。母はとうとう死んだティアナの本当の父より今の夫を愛し始めたのだろうと。そうなればティアナの居場所は侯爵家にはない。祖父母からも引き取りたくないと言われた。ティアナは絶望する。この世に産まれて来たのは何のためなのだろう祖父母にも母にもティアナの存在は黒歴史なのだ。そして本当の父の生家である公爵家からも疎まれていた。ティアナが出来た事で本当の父が死んだのだと本当の父の母、ティアナにとっては父方の祖母にあたる人に初めて会った時に罵倒された。そうして居場所のないティアナは12歳でマリソー侯爵家の傘下の子爵家に多額の持参金と共に養子に出された。養子先では本当の子供の様に可愛がってもらえた、やっと安息の地を見つけたと思った矢先に養父母と一緒に行った領地の視察で事故が起き二人は亡くなりティアナだけは《《無傷》》だった。同じ馬車に乗っていて衝撃は一緒の筈だ。現にティアナは痛みを覚えている。体中が痛くて痛くて薄っすらとした記憶の中で血が出ていたのも覚えている。死ぬのだと思った途端意識がなくなり次に気付いたのは運ばれた病院のベットだった。白い天井を見ながら優しい養父母の訃報を聞いた。其れを告げたのは急遽病院に呼ばれた母であるリサリディからだった。◆当初病院に運ばれたティアナは無傷でも血だらけで虫の息だったそうだ。医師達はその異常な状態のティアナに成す術もなく「覚悟を」と子爵家の執事に告げた。そんな折、事故の報せを聞いて駆けつけたリサリディだったが、執事から聞いた話に驚愕した。「一度は心音が止まったように見えたのですが、直ぐに心臓が動き出して⋯生き返った様でした」子爵家の執事は当主夫妻が亡くなり残っ
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婚約打診 2
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