上位貴族の両親を持つにも関わらず庶子として生まれたティアナ。 早世した父の加護により死ねないティアナ。 幼い頃から精神的に虐げられてきた彼女が幸せを掴むまでの物語。 ※全て作者の妄想の産物です 広い心でお読みください
View Moreその日ティアナは庭師に倣い花に水遣りをしていた。暑さに負けないようにとたっぷりと振りまいているとふと耳に誰かの声が届いた。「綺麗だな」周りを見渡したが誰もいない様で不思議に思ったが空耳かとその後は気にしなかった。ロットバリーとの婚姻に向けてティアナも準備を始めようと思った。丁度夏期休暇だから時間はある。ラスリスに頼んで厨房に入らせてもらった。「お嬢様が厨房に入るなんて」「出来るのですか?」「遊び感覚なら迷惑だ」厨房で働く者たちの尤もな声が聞こえたがラスリスが皆を抑える。「ごめんなさい、私が嫁ぐ先は男爵家なのです。ですから何もかもを出来るようにならなければ行けなくて⋯ご迷惑でしょうが教えて頂けませんか?」ティアナの言葉に、並んだ使用人の端にいたメイド長が進言する。「お嬢様それでしたら家庭料理でよろしいのでしょうか?」「えぇとごめんなさい、違いが解らないの」「ここで作られるのはお邸の方の料理ですので大変手の込んだものです。ですが私達が家で作る物は焼くだけとか煮込むだけとか単純なものです。お嬢様が習うのは万が一を考えてという事ですよね」「えぇそうお義父様も言っていたわ」「でしたらお嬢様さえ良かったら料理長ではなく私どもメイドがお教え致します」メイド長のサラに言われてティアナは考えた。ティアナが料理をする事になるのならば、其れは男爵家が貧困に陥る時だ、で有るならば高級な食材は買えない。サラの言う言葉が真理だ。「ありがとう、よろしくお願いします」そしてトラッシュ公爵家の敷地の隣に建てられた使用人の家に案内された。建物は独身用、夫婦用、家族用と3棟建てられておりトラッシュ公爵家の使用人の待遇はとても良いのだろうと思えた。サラの家は夫婦用であった。夫は公爵家の料理人だと教えて貰った。「料理人にとって厨房は神聖な場所らしいんですよ、お嬢様がお遊びでないくらいあの人達も解っているんです。それでもやはり立ち入って欲しくは無かったのかと思います。申し訳ありません、公爵家のお嬢様にとんだ不敬を働いてしまって」「いえいいの、私が考えなしだったの。でも仕事の手を止めさせて⋯サラにも申し訳ないわね」「大丈夫でございます、本来ならお嬢様は命令するだけで良いのに《《頼んで》》下さいました。だから今日からはメイドの皆で交代に教えますね」サラか
「クロードがとてつもない力を持っていたのは生まれた時からだったんだ、吃驚したよ邸が光に包まれたからね」その時のことを思い出してマキシムの目線は|空《くう》を見つめていた。「クロードが生まれても私は養子のままだったよ、夫妻は私を長子として尊重してくれた。だがクロードが居るからね、私の本当の父である王弟にも私は長子だったんだ、しかも一人息子だ。泣く泣くトラッシュ公爵に渡した息子を取り返したかったんだろう、私が12歳の時養子縁組は解消されて私は本当の家に戻ったんだ」マキシムの子供時代の話しは聞いていて辛くなるものでもあった。ティアナも養子に出されているからだ、理由は正反対だが⋯。「だから私とクロードは兄弟のように育ったんだ。クロードは賢い子だったよ、自然がとても好きな子でよく絵を書いていた。私が家に戻って離れても、うちにもよく遊びに来ていた。リサリディを連れてね」「お母様を?」「あぁ私が学園に入った年だからクロードは10歳でリサリディは7歳だった。学園の前で私を待っていたんだよ」ティアナは幼い二人を思い浮かべるが想像がつかない。「クロードとリサリディの件はクロードの反抗のような気がするんだ、それと私に対する気持ちかな」「お義父様の?」「本当の親から離されて育った私が国の都合で親元に返されたのが気に食わなかったんだろうね、あとヒューイの件もあるかな」ティアナは執事を見る。「ヒューイは生まれた時から魔力が無かったから直ぐに養子に出されたんだ。伯爵家にね」国の都合で振り回される子供達、其処に楔を打ち込みたかったのではないかとマキシムは言う。「ヒューイは伯爵家の跡取りとして養子に出されたんだ、それでも公爵は愛情もあったと思うよ、ヒューイの教育全般にかかる費用は公爵家持ちだったからね。でもヒューイの養い親である伯爵家はヒューイを蔑んで育てた。その筆頭がクロードと結婚したミリアだ」「!」「伯爵家はヒューイを引き取る時に条件を出した、クロードとミリアの婚約だ。そして公爵家もそれならばヒューイを後継にしてくれと言った、そういう条件の婚約だったんだよ。それなのにミリアはヒューイを虐めて蔑んでいた、挙げ句の果てにはクロードとミリアの結婚式の当日にヒューイを伯爵家の籍から抜いたんだ」「では⋯」「そうそのせいでヒューイは平民になる所だった。伯爵は秘密裏に籍
「おいヒューイ如何するんだ!ティアナが固まったぞ」「刺激が強すぎたでしょうか?」何食わぬ顔のヒューイ事執事、いや執事ことヒューイはティアナの肩を後ろからトントンと叩いた。耳は聞こえているが顔が固まってしまったティアナはその肩叩きで「はっ」と我に返って瞬きをする。「良かった戻ったか」マキシムの安堵の声にティアナは弱々しく微笑むと立ち上がりヒューイに向かって頭を下げた。「知らない事とはいえ無礼にも執事の方だと思ってしまいました。申し訳ありません」「ティアナ様、執事で何も間違っておりませんよ」そう言ってヒューイは微笑んだ。だがティアナは首を傾げる、それでは何故マキシムは養子になって公爵家を継いでいるのだろう。「ティアナ、クロードの事の前にトラッシュ公爵家の事を話そうか」マキシムはまたもやティアナの思考を読んだように心の中の疑問を教えてくれようとする。少し上目遣いにマキシムを見ると彼は微笑んでいた。「トラッシュ公爵家は魔力で作る家なんだ」そう言ってマキシムは話し始めたが、ふと気付いたようにヒューイに座る様に促した。彼は今度は素直に聞いて一人がけ用のソファに身を沈める。「この家は特殊なんだ、先ずはこの国の魔力、魔法について教えようか」昔からこの大陸全土で魔力は当たり前に存在していた。この国でも貴族は普通に使えていた。だがいつからか解らないが貴族の中で政略結婚を嫌がる風習がこの国で蔓延ってきた。つまりは決まっていた婚約者ではなく他の者と不貞を働き婚約破棄をする風習の事だった。初めは婚約破棄した不貞を働いた者は、後に廃嫡されたり貴族籍を失って平民に落とされたりと罰を与えたりしていたが、ある時からそのまま不貞を働いた者を跡継ぎにしたりしても何も言わなくなった。何故なら王家が王太子の不貞を容認してしまったからだ。王家が許したら貴族は皆右へ倣いだ。何故なら皆幾ら不貞を働いていても己の子供を廃嫡するのは忍びなかったから。子供を甘やかした結果だった。不貞を働いた相手は大体子爵家以下の貴族、中には平民を連れてきて婚姻を結ぶ者も出てきた。そうしていくうちに貴族家の中では魔力を持たない者が生まれてきて、どんどん魔力持ちが減っていった。生活の基盤は魔力石を使用した魔導具が主なこの国では魔力石に魔力を吹き込めない者が増えてくると死活問題だった
ラスリスの薦めでティアナは養父の執務室へ向かった。ノックをすると彼の執事が扉を開け部屋に招き入れてくれる。「どうしたんだい?」マキシム・トラッシュ公爵は執務机に座ったまま顔だけこちらに向けて訊ねた。「あの⋯お話しをしたくて⋯お忙しいのでしたら出直します」「んー何時も忙しいからなぁ。だったら今でも構わないだろう?」マキシムは彼の執事に向けて言っていた。「よろしいですよ、明日頑張って頂きますので」「だって!ティアナ其処にお座り」マキシムに促されティアナはソファに腰を降ろした。手際よく執事がお茶を入れてくれる。オレンジの匂いがするお茶だった、ティアナは飲んだ事がなくて執事の顔を見ると「オレンジティーです」なんの捻りもなかった。一口飲むとオレンジの甘味が口に広がる。「美味しい」「お口に合ってよかったです」執事とティアナの遣り取りの間、まだ書類と格闘していたマキシムが、「おっ!」と言いながらソファに座った。出されたお茶は普通のアールグレイ。「何だ!私も疲れているんだオレンジティーにしろ!」「少し甘い物を控えた方がよろしいでしょう」執事はそう言ってお茶菓子で用意したであろうクッキーやショコラの乗ったお皿を、ティアナの前へすっと移動させてあろうことか監視するようにマキシムの対面であるティアナの後ろに移動した。「何だ!その徹底ぶりは!大体疲れたら甘い物が欲しいだろう、だから口に入れるのだ。仕事をセーブしてくれたらそんな事もない!」「⋯⋯」無言を貫く事に決めたであろう執事を見てマキシムは溜息を付きティアナを見た。「ティアナ⋯将来ティアナに付く執事は私が吟味して優しい奴をつけてやるからな」その遣り取りに気持ちが解れたティアナが微笑むとマキシムが上機嫌で話す。「見たか!此方を見てたからお前には見えなかっただろう、ティアナの笑顔は可愛いな」「その可愛い人を見殺しになされようとされたのは何方ですか」「またその話しを蒸し返すのか!」「ずっと蒸し返します、お迎えが来るまで」「解った!降参だ。ティアナ改めてあの時は申し訳なかった、この通りだ許して欲しい」マキシムが対面にいるティアナに頭を下げて許しを乞う。ティアナはすっかり忘れていたのであの時がどの時かピンと来ていなかった。だが兎に角マキシムの頭を上げさせなければならない。「あ
父親の|魔法念写《写真》がある部屋は邸の奥まった所に位置していた。部屋の中は真ん中にラグが敷かれロッキングチェアが一つ。出窓が一つあり重厚なカーテンが備えられていた。其処には小さな花瓶が存在するが花は飾られていなかった。壁際には一つのソファと小さなチェスト。チェストに少しの本とスケッチブックらしき物が数冊。ロッキングチェアに座ると壁にかけられているその|魔法念写《写真》がよく見える。この|魔法念写《写真》を飾る為に在る部屋なのだとティアナは思った。この部屋はティアナの部屋からほど近い。おそらくこの部屋の近くにティアナの部屋を用意してくれたのだと考えられる。家令の名前はラスリスと教えてもらった。父の侍従だった彼はきっと父と母の事をよく知る人物なのだろう。ティアナは小さな花瓶を手に取り部屋を出た。先程庭で切ってもらった花を活けて部屋に置かれた様子を想像する。満足したその顔には笑みが浮かび側にいたモリナも安堵した。先日男爵家での出来事はモリナにとって衝撃だった。モリナはサリバン公爵家に赴いたティアナに付いては行ったが、話しの内容などは聞いていない。だから帰り際の馬車に乗る前に行き先が男爵家と聞いて不思議に思ったのだった。口数の少ないティアナを心配していたが、男爵家に着き久しぶりに会えた弟のアルトと庭先で話しをしている途中で、ティアナが邸から出てきて驚いた。あまりにも早かったので何かがあった事もすぐに解った。ティアナを追いかけてきたロットバリーとの会話を邪魔しないように、アルトとの会話もそこそこに直ぐに馬車に乗り込んで待っていた。待っていたが馬車の小さな窓から外を伺うことも忘れなかった。そして木の影にマリアンヌが居たのを気付く、マリアンヌの後方に弟のアルトも居た。(あの女の人は誰なんだろう?)ティアナからは何も聞いていないので女の正体はモリナには解らない。だがなんとなく嫌な予感もしていた。そんな事があったから少しティアナの様子を心配していたのだが、花を活けるティアナの微笑みは憂いが無いようだったので安心したのだ。「お嬢様」声をかけてきたのはラスリスだった。「その花瓶は⋯」「お父様の部屋にあった物だけど⋯あっ!持ち出しては駄目だったかしら?」「いえ花を活けたのですね」「えぇお父様にも見えるかしらと思って、お花が
三人で晩餐を囲んで楽しい時を過ごしロットバリーは帰っていった。帰り際、ティアナを抱き締めて公爵に苦言を呈されたが、どこ吹く風で却って力を込めていた。「ティア俺を信じて」ロットバリーの言葉に頬を朱に染め上げたティアナは頷いた。寝支度をしてベッドに入る前にティアナは窓際に立ち外を眺めながら、応接室での遣り取りに思いを馳せる。「少しでも早く婚姻を結びたいです」それがロットバリーの気持ちだった。(嬉しい)養父のトラッシュ公爵にハッキリとそしてキッパリと言い切るロットバリーが頼もしくキラキラと耀いて見えた。だが現実は甘くない。二人の思いにトラッシュ公爵は待ったをかけた。「フム、君の気持ちはよくわかったし解っているつもりだ。だがね現実的に考えて今直ぐ婚姻は出来ない。理由は幾つかあるね」トラッシュ公爵を見つめる二人。「一つはまだティアナが学生という事だ、私の庇護下にいるのに君と婚姻したら君はティアナの学園生活を維持出来るかい?」「其れは⋯」「まぁティアナにはメリーナが預金を残しているからね、其れを使えば問題はないんだが君は其れでいいのかな?妻が自身の金で通う事に抵抗はない?」「あります」「うん、無いって言ったら婚約者失格だったけど良かったよ、解ってくれて」「他にも?あるんですか?」今度はティアナが公爵に問うた。「あるよティアナ、君は貴族の子女としての勉強しかしていない、当然家事など出来ないだろう?」「⋯はい」「今ロットバリーに嫁ぐという事は、家事も行う事も視野に入れて動くべきだ」「⋯⋯」「まだ魔法省の下っ端の彼には君を十分に養うほどの力がないんだ。その基盤が出来ていない、勿論援助は出来るよ。でも其れで二人ともいいのかい?親に援助してもらいながらの結婚生活を望んでいるのかな?スティル男爵にもティアナにもまだ早いだろうと私は思うよ。言っても詮無いことだがメリーナがいたらまた話しは違っていたけどね」公爵は容赦なく若い二人に現実を突きつける。「では私の生活の基盤が出来るまでは認めて貰えないのでしょうか?」「そんなことはない、ティアナが学園を卒業したらまた話しは変わってくるんだ。ティアナは君と婚姻したいだろうからきっと働く事は厭わないだろう?」「はい!働く事に抵抗はないです」ティアナの力強い言葉に公爵は苦笑する。「うん、そうすれ
その日の夜トラッシュ公爵家に訪ったロットバリーの口元にはテープが貼られていた。丁寧に公爵に挨拶をするロットバリーへ向けて彼は訊ねた。「如何したんだ?男前になって」「いえちょっと友人と口論を⋯」「ハハ報告は上がってるよ」その言葉にティアナは驚く、何故なら彼女は何も話していないからだ。何処から漏れたんだろう。「何だティアナは知らなかったのか?公爵家から使用人を三人スティル男爵家に送っているよ」「⋯どうして⋯」「まぁ取り敢えず部屋に行こう。久しぶりに客人を出迎えて緊張したよ」公爵ともなれば王族以外に出迎えなどはしない。ロットバリーの訪いは公爵にとって歓迎するものであったようだ。「本日は訪問の許可を頂きありがとうございます」トラッシュ公爵家の応接室は重厚かつ絢爛な作りと内装であった。其処に置かれた家具も装飾はスッキリとしてはいるが上質な革が張ってあることは一目瞭然であった。その一つに進められて座る前にロットバリーは公爵へ頭を下げて礼を述べた。「娘の婚約者が来るんだ当然歓迎するよ」そう言う公爵は上機嫌だった。まだ婚約者であるから当然ティアナは公爵の横に座る。対面に座って此方を見るロットバリーの口元が痛々しい。「一つは人手不足、もう一つは娘の将来の旦那の健康管理のためだ」公爵が開口一番、話し始めたのは先程のティアナの疑問についてだった。「男爵家は文官貴族だ、ティアナ文官貴族は当主の地位によって大きく変わるんだよ。其れはわかるだろう」「はい」「だから彼は先ず経費の削減をしなければならなかった。其れをするのは致し方ない事だ。先ずは使用人に辞めてもらった」「⋯⋯」「スティル男爵家は他の文官貴族よりも今までは裕福だったからね、メリーナは割と多く雇っていたんだよ、普通の男爵家にあんなに使用人はいない。でも急に人手不足になったら残る使用人も困るだろう、そして残ったのは年配の使用人が多かったしね。だから十分に家が快適になるように考えて手配したんだ。家が上手く回らないと不健康になるからな」トーマスやミリーは残ったがその他数人も残っていた、だが彼らは若かりし頃からのメリーナに付いていた者たちだ。それなりに年も重ねている。「そうなれば其れは婚約者の出番だ、だろうティアナ」「⋯そうですね、私が手配しなければならなかったのに」「おいおいテ
虚ろな目でティアナは《《其処》》を凝視した。ロットバリーの腕に添えられるマリアンヌの手。その場に居た皆が開いた扉を振り返り佇むティアナを見る。「ティア」「⋯⋯」「⋯ティアも招待されていたんだ!良かった!姿がないから」ロットバリーの言葉にティアナは息を呑んだ。ティアナは招待など受けていない。「いや⋯これは⋯その⋯」ロットバリーの友人であるヒラリー子爵家のリッドがティアナに途切れ途切れに話すのを不思議そうにロットバリーは見る。「リッド?」「バリーすまないティアナ嬢は招待していない」「!⋯⋯どういう事だ?」「ロット落ち着いて⋯」「その呼び方は止めてくれと言ったよねマリ」5人ほど居たその場の者は皆がそのロットバリーの言葉に目を瞠った。ティアナは訳が解らなかったが解ることはロットバリーの腕に添えられたマリアンヌの手であった。何時までも其処から目が離せない。その視線に気付いたロットバリーは自分の腕を見て慌ててマリアンヌの手を解く。その様子からティアナはその行為が無意識の物だと解った。「違っティアこれは違うんだ」ロットバリーが必死に弁解を始めようとしたがティアナはゆっくりと首を横に振った。「よく解らないけれど⋯ロットはお休みだったのね」そう言って踵を返し食堂を後にした。暫く呆然としていたロットバリーは「ハッ!」と気付きティアナを追いかけた。後に残ったロットバリーの友人達はお互いに目を合わせながら困惑していた。今日のロットバリーの休みは昨日突然決まったものだった。魔法省の同僚でもあるリッドが急遽計画して、ロットバリーの男爵継承のお祝いをする事にしたのだ。メリーナが亡くなった事で継承式などはしていなかったからだ。昨夜から計画を練りロットバリーにサプライズを仕掛けた。食べ物や飲み物なども持ち込んで簡単なパーティーをしていた所にティアナが入ってきたのだった。この計画を魔法省の休憩室で話している時に偶々通りがかって、参加することになったマリアンヌを気遣いティアナを招待しなかった事がリッドは悔やまれた。本来なら当然婚約者であるティアナは招待するべきだ。極々近い仲間内だけでするならばマリアンヌは仲間に入れるべきではなかった、ティアナを呼ばないのであれば尚更だった。そんな事は解っていたのにリッドはマリアンヌの恋慕に同情してしま
「⋯⋯お慕い?」ティアナの呟きにルルーニアが頷いた。「私も最近になって気づいたの、噂はお姉様が仕事を始めて慣れた頃にはもう上がっていたの」「そんなに前から?」「えぇでもお姉様は笑い飛ばしてたわ、男爵には皆と打ち解ける機会を作ってもらっただけだと言っていたのだけど⋯」その後メリーナが亡くなって暫く落ち込んでいたロットバリーはそれでも仕事を熟さなければならず、そんな彼をマリアンヌは支えて来たと本人が言っているらしい。その姿がただの同僚を超えているようにルルーニアは感じたそうだ。「思い切って聞いてみたの、そうしたらお姉様は男爵の気持ちは解らないけれど自分は好きだと思うとハッキリと答えられて⋯⋯」「⋯⋯」「お姉様は好きだと言っているけれど、でも本当にそうなのかしらって思う気持ちも私にはあるの、だってまだお会いして数ヶ月しか経ってないのよ?」その言葉はティアナには聞こえていたが、その時、自分とロットバリーとの出会いを思い出していた。ティアナこそがロットバリーと会って数日で彼に恋をしたのだから。「マリアンヌ様がお慕いしてると言うならそうなのだと思うわ」ティアナの言葉にルルーニアとミランダは息をのみ頷きながら続く。「辛い時に優しくされて執着してるだけだと思っていたのだけど⋯ティアナがそう言うなら⋯そうなのかしら」だからといってじゃあ如何するのかと思っても三人には如何することもできない。其れはロットバリーとマリアンヌの気持ち次第なのだから。「ティアナごめんなさいお姉様が⋯⋯」「何故ルルーが謝るの?大丈夫、私はロットを信じているもの、マリアンヌ様には申し訳ないけれど⋯」「お姉様にその恋を止めなさいと言ったのだけど、お姉様は聞いてくれなくて⋯」ルルーニアにしてみれば婚約破棄からやっとの思いで立ち直ったマリアンヌの恋心を止める言葉をかけるのが憚られたが、やはり身内であるから姉にも幸せになってほしい、だから婚約者のいる相手に横恋慕するのは止めろと言ったがマリアンヌは聞く耳を持たなかったそうだ。「ルルー」ミランダがルルーニアに声をかける。「ティアナまだ続きがあるの⋯⋯」「?」「お父様がその噂を聞いてお姉様に問いただしているのを私⋯聞いてしまって」サリバン公爵にマリアンヌは叱責されていたそうだ。そんな公爵にマリアンヌが叫んだのが扉の外にい
やっと此処まで辿り着いたここで私の魂は安らかに眠れるかしら?魂の安住を求めて歩いて歩いて、時には走って。疲れ果てたけれど漸く⋯⋯漸く。国の最端に位置するこの領内の此処は《《その》》志願者が後を絶たないと聞いていた。ティアナはそろそろとそこへ近づく、下をそっと除くと波飛沫が岸壁に襲いかかっている様に見えた。これなら《《死ねる》》きっと大丈夫。目を閉じ《《そこへ》》飛び込んだ。迷いは一切なかった。だってこれが《《あの人》》の願いだもの。|一時《いっとき》でもティアナを愛してくれたあの人の願い。叶えてあげなければ⋯⋯。頭の天辺に冷たさを感じた気がした時、ザブンという音と共にティアナは意識を失いそして真っ暗になった。☆★☆~生い立ち1~──────────────ティアナは侯爵家の庶子として誕生した。彼女の母はリサリディ・マリソーマリソー侯爵家の女侯爵だ。マリソー侯爵家にはリサリディしか生まれず、彼女は子供の頃から侯爵家の後を継ぐ事が決まっており、厳しい教育を余儀なくされていた。婿養子の候補は3人いた。マリソー家はターニア王国の長く歴史のある忠臣の家であるから王家の覚えもめでたい。リサリディに婿入りしたい者は我先にと釣書を送った。その中から両親は厳選して3名を選んだ。幼い頃より交流を持つと良くないと判断した両親は顔合わせの時期を学園に入学する15歳と定めた。何故なら両親も幼馴染でお互いを兄妹のように接していた為、閨に至るまでに実に5年を要したからだ。当然父親の方には性処理をする為に愛人がいた、しかし父は愛人に子供を作る愚行は侵さなかった。今となっては作っておけば良かったと思ってはいるが後の祭り。まさかリサリディができた後に、自分が病に侵されその後遺症で子種が無くなるなどと思いも依らなかった。病のあとに何度閨を繰り返しても妻にも、そして愛人にも子供が出来なかったのだ。愛人に至ってはリサリディが出来るまで事後に避妊薬を飲ませ続けたからではないかと推察されたので、若い娘を新たに愛人に迎えたが其方にも出来なかった。いや一人出来たのだが産まれてみたら彼の子でないのは一目瞭然の赤毛で黒目の男の子で、愛人の護衛に雇っていた傭兵にそっくりであった。二人とも直ぐに叩き出したが⋯⋯。そういった経緯も有り子供はリサリディのみと...
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