君が目覚めるまではそばにいさせて

君が目覚めるまではそばにいさせて

last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-31
Oleh:  結城 芙由奈Baru saja diperbarui
Bahasa: Japanese
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大切な存在を失った千尋の前に突然現れた不思議な若者との同居生活。 『彼』は以前から千尋をよく知っている素振りを見せるも、自分には全く心当たりが無い。 子供のように無邪気で純粋な好意を寄せてくる『彼』を、いつしか千尋も意識するようになっていく。 やがて徐々に明かされていく『彼』の秘密。 千尋と『彼』の切ないラブストーリーが始まる——

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1-1 祖父の死

君の明るい笑顔を見るのが大好きだっただけど、人一倍寂しがりやだったね辛い時、悲しい時は我慢しないで泣いてもいいんだよ君が目覚めるまでは側にいるから――**** 桜の木々に囲まれた葬儀場に参列者達が集まっていた。「家の中で倒れている所をお隣の川合さんが発見されたそうよ」「他にご家族はいないの?」「それが千尋ちゃんがまだ小学生だった頃に両親が交通事故で亡くなったから、幸男さんが娘の子供を引き取ったのよ」「父方のご両親は何故ここに来ていないんだろう?」「千尋ちゃんのご両親の結婚に猛反対だったらしくて絶縁状態だったのよ。でもさすがに自分の息子のお葬式には来たけれど、幸男さんと大喧嘩になって大変だったみたいね」「千尋ちゃんも成人して働いているから先方も幸男さんの葬式に来ないのかもな……」葬儀場で近所の人々が会話をしている。青山千尋は、椅子に座って窓から見える美しく咲いた桜の木々を眺めながらぼんやりと聞いていた。昨夜のお通夜には千尋の友人達も大勢駆けつけてきてくれたが、平日の告別式となると彼等の参加は難しい。結局千尋から告別式には顔を出さなくても大丈夫だからと断ったのである。人が少ない会場での会話は全て千尋に筒抜けとなっていた。(そっか……だから向こうのお爺ちゃんやお祖母ちゃんに一度も会った事が無かったんだ……)千尋の両親が事故で亡くなったのは、彼女が小学生の時。修学旅行に行っていた最中の出来事だった。両親の死で独りぼっちになってしまった千尋を引き取ってくれたのが祖父の幸男である。千尋は突然の両親の死を受け入れることが出来ず、二人の葬式にもショックで参列出来なかった。千尋は祖父の遺影を見つめた。そこには笑顔でカメラに写っている祖父の姿があった。専門学校を卒業したお祝いの席で千尋が撮影したものであった。『上手に撮れたなあ。よし、爺ちゃんの葬式の時はこの写真を使ってくれよ』生前の祖父の言葉が頭をよぎった。あの時は、そんな縁起でもないことを言わないでと祖父に怒って言った。だが、たったの1年で現実の出来事になるとは思ってもいなかった。堪えていた涙が出そうになり、千尋はぐっと両手を握りしめたそのとき。「千尋ちゃん」聞きなれた声で呼びかけられ、千尋は振り向いた。「川合さん」声の主は祖父が家の中で倒れているのを発見し、救急車を呼んでくれた近所の...

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1-1 祖父の死
君の明るい笑顔を見るのが大好きだっただけど、人一倍寂しがりやだったね辛い時、悲しい時は我慢しないで泣いてもいいんだよ君が目覚めるまでは側にいるから――**** 桜の木々に囲まれた葬儀場に参列者達が集まっていた。「家の中で倒れている所をお隣の川合さんが発見されたそうよ」「他にご家族はいないの?」「それが千尋ちゃんがまだ小学生だった頃に両親が交通事故で亡くなったから、幸男さんが娘の子供を引き取ったのよ」「父方のご両親は何故ここに来ていないんだろう?」「千尋ちゃんのご両親の結婚に猛反対だったらしくて絶縁状態だったのよ。でもさすがに自分の息子のお葬式には来たけれど、幸男さんと大喧嘩になって大変だったみたいね」「千尋ちゃんも成人して働いているから先方も幸男さんの葬式に来ないのかもな……」葬儀場で近所の人々が会話をしている。青山千尋は、椅子に座って窓から見える美しく咲いた桜の木々を眺めながらぼんやりと聞いていた。昨夜のお通夜には千尋の友人達も大勢駆けつけてきてくれたが、平日の告別式となると彼等の参加は難しい。結局千尋から告別式には顔を出さなくても大丈夫だからと断ったのである。人が少ない会場での会話は全て千尋に筒抜けとなっていた。(そっか……だから向こうのお爺ちゃんやお祖母ちゃんに一度も会った事が無かったんだ……)千尋の両親が事故で亡くなったのは、彼女が小学生の時。修学旅行に行っていた最中の出来事だった。両親の死で独りぼっちになってしまった千尋を引き取ってくれたのが祖父の幸男である。千尋は突然の両親の死を受け入れることが出来ず、二人の葬式にもショックで参列出来なかった。千尋は祖父の遺影を見つめた。そこには笑顔でカメラに写っている祖父の姿があった。専門学校を卒業したお祝いの席で千尋が撮影したものであった。『上手に撮れたなあ。よし、爺ちゃんの葬式の時はこの写真を使ってくれよ』生前の祖父の言葉が頭をよぎった。あの時は、そんな縁起でもないことを言わないでと祖父に怒って言った。だが、たったの1年で現実の出来事になるとは思ってもいなかった。堪えていた涙が出そうになり、千尋はぐっと両手を握りしめたそのとき。「千尋ちゃん」聞きなれた声で呼びかけられ、千尋は振り向いた。「川合さん」声の主は祖父が家の中で倒れているのを発見し、救急車を呼んでくれた近所の
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1-2 祖父の死 2
「美味しい……」ここ数日、余りにも色々な出来事があった為、まともに食事することすら忘れていた。そもそも食欲など無かったが、差し入れのおにぎりは女性の気遣いが感じられ、今の千尋には何よりのご馳走であった。食事を終え、空いたお盆とお茶を給湯室に置きに行こうと席を立った時。「青山さん!」会場に響き渡るような大声で千尋を呼ぶ声がした。「あ……店長!?」花の専門学校を卒業した千尋は自宅周辺の最寄り駅である花屋で働いていた。そこの店長――中島百合が葬儀場に現れたのである。年齢は35歳で細見で長身、ショートカットの髪型の為か年齢以上に若く見える中々の美人。ちなみにまだ独身で、婚活中。「どうしたんですか? 店長。お店が忙しいので参列されなくても大丈夫ですってお話しましたよね?」千尋が働いている花屋『フロリナ』は全国規模の大型チェーン店の花屋である。どのような商品を売るかは、店長が自由に決めることが出来るスタイルを取っている。店長の中島はセンスが良く、フラワーアレンジメントや流行りのハーバリウムそしてブリザードフラワーといった商品の品を多く揃えたことにより、常に客が絶えない人気の店となっていた。更に男性達からは『若くてとびきり可愛い看板娘がいる』と評判の店であったが当の本人、千尋は全くその事実には気が付いていない。そんな人気の花屋をパートの女性を含め、たった3人でまわしているわけである。当然、自分も含め店長まで不在となれば皺寄せは一気にパート女性にのしかかってくる。「大丈夫よ。だって昨夜のお通夜には参加出来なかったんだもの。今日は本社に連絡して臨時休業にさせてもらったのよ。渡辺さんには休んで貰ったから、実は今一緒に来てるんだ。ほら、渡辺さん。こっちこっち」店長が手招きしている方を見ると、パート女性の渡辺真理子が大急ぎで向かってくるのが見えた。背はあまり高く無く、太めの体系の為に喪服のパンツスーツがかなり窮屈そうな様子である。3月末とはいえ額に汗をかき、ハンカチで汗を拭きながらやってきた。年齢は40代前半、夫と高校生・中学生男児二人の子供を持つ女性である。忙しい主婦の身ながら週5日、11時~18時まで働いてくれているので、千尋や店長にとって、とても頼りになる人物だった。「千尋ちゃん!」女性は千尋の側に小走りで駆け寄ると、千尋を力強く抱きしめた。「可
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1-3 祖父の死 2
――その後 葬儀場の職員と49日の法要等の手続きを済ませ、千尋が家に帰ってきたのはすっかり日も暮れていた。祖父と暮らしていた家は築45年の古い木造家屋で平屋建て。全ての部屋が和室であるが、部屋数は2人で住むには十分な数があり、幸男の趣味の家庭菜園が出来る程の広い庭付きの家である。「ただいま」真っ暗になった家の玄関の鍵を開けて、中に入ると白い大きな犬が千尋に飛びついてきた。「ワン!」「ヤマト、ごめんね。すっかり帰りが遅くなって」千尋はヤマトの前にしゃがみ、頭を撫でるとヤマトは嬉しそうに尻尾を振った。「ヤマト……」そのまま黙ってヤマトの頭を撫で続けている。「キュ~ン」するとヤマトが鳴いて千尋を見上げた。その時になって初めて千尋は自分が泣いている事に気が付いたのである。「あ……私、泣いて……」そこからは堰を切ったように後から後から涙があふれきた。「ヤマト……。お爺ちゃん死んじゃった……私独りぼっちになっちゃったよ……。こんな広い家でたった1人で、私これからどうしたらいいの……?」するとヤマトは千尋の顔をペロリと舐めてジ~ッと見つめた。その姿はまるで(大丈夫ですよ。私がいます)と伝えているように見えた。「そうだったね。私にはヤマトがいるものね。独りぼっちじゃなかったんだ……。ありがとう、ヤマト。」千尋はヤマトをきつく抱きしめた。「ヤマト、帰りが遅くなっちゃったからお腹空いてないかな?」今朝家を出る時に1日分の餌と水を用意して出かけたのだが、量が足りたのか千尋は気がかりだった。餌と水を見るとすっかり空になっていたので、すぐに台所に行くとヤマトも後を付いてくる。千尋がドッグフードと水を用意してヤマトの前に置くと、嬉しそうにすぐに餌を食べ始めた。「ごめんね、やっぱりお腹空いていたんだね」ヤマトが餌を食べている様子を見届けると、千尋は風呂に入る準備をした。 部屋着に着替えて居間に入ると餌を食べ終えたヤマトが寝そべっていたが、千尋の気配を感じると起き上がって尻尾を振った。「お風呂が沸く間テレビでも見よっかな」千尋はリモコンに手を伸ばすと、たいして面白くも無い番組を見ていたが内容は少しも頭に入ってこなかった。(お爺ちゃん……)ともすればすぐに頭に浮かんでくるのは無くなった祖父のことばかりである。祖父のことを思い出すと、再び目頭が
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1-4 新しい生活 1
—―午前6時ピピピピ・……大きな目覚まし時計の音が鳴り響き、眠っていた千尋はゆっくり目を開けた。布団から手を伸ばし、目覚まし時計を止める。「う~ん……もう朝か……」目をこすりながら呟く。祖父の49日も無事に済み、あれから半年の月日が流れていた。千尋のベッドのすぐ側にはヤマトが気持ちよさそうに眠っている。ヤマトは祖父が亡くなってからはずっと千尋の側を片時も離れなくなっていた。(私のことが心配でたまらないのかな?)その姿を見てくすりと笑った。事実、ヤマトのお陰で祖父を亡くした寂しさを乗り越えることができたようなものである。恐らくヤマトがいなければ祖父の死から立ち直れなかったかもしれない。ヤマトの寝姿を見て初めて出会った日の記憶が蘇ってくる——****  ヤマトとの出会いは今から4年前に遡る。当時、まだ小さな子犬だったヤマトは段ボール箱に入れられ、空き地に捨てられていた所を偶然通りかかった千尋に拾われたのである。****「キャン! キャン!」「え……? 犬の鳴き声?」千尋の耳に甲高い犬の鳴き声が聞こえて来た。鳴き声が聞こえる方を見ると、空き地に段ボール箱が捨てられている。「……?」恐る恐る段ボール箱に近づき、そっと中を開けてみた。「か……可愛い! まるでぬいぐるみみたい!」真っ白でフワフワの綿毛の子犬にすっかり魅了されてしまった。そっと抱き上げると子犬は尻尾を振り、千尋の顔をペロリと舐めた。「アハハハ……くすぐったい! おチビちゃん、飼い主さんに捨てられてしまったの? 可哀そうに……。ねえ? お腹空いてない? 何か食べさせてあげるね」腕の中に大人しく収まった子犬を見ていると無性に一緒に暮らしたい気持ちが募ってきた。実は以前から千尋は子犬を飼いたいと思っており、祖父にそれとなく話をしていたのだが、あまり良い顔はされていなかった。「お爺ちゃん……許してくれるかなあ?」迷いながらも千尋は子犬を連れて帰宅した。 祖父の幸男は突然千尋が子犬を拾ってきたことに案の定驚いたが、必死の説得が功を成し、家で飼うことを快諾してくれたのである。更には「ヤマト」と名前をつけたのも祖父であった。『どうだ? お前はオスだから男らしい名前を付けてやったぞ!』そして幸雄は嬉しそうに笑ったのだった——****「さて、起きなくちゃ」千尋は大きく伸び
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1-5 新しい生活 2
 千尋はいつも自作のお弁当を職場に持って行くようにしていた。忙しい接客業の仕事はランチに出掛ける時間を取るのが難しい。少しでも昼休みをゆっくり過ごすには持参するのが最も良かったのだ。炊飯器の中はもうご飯が炊けている。千尋にとって朝ご飯に味噌汁は絶対欠かせない。さっそく千尋は朝食の用意に取り掛かった 千尋はいつも自作のお弁当を職場に持って行くようにしていた。忙しい接客業の仕事はランチに出掛ける時間を取るのが難しい。少しでも昼休みをゆっくり過ごすには持参するのが最も良かったのだ。炊飯器の中はもうご飯が炊けている。千尋にとって朝ご飯に味噌汁は絶対欠かせない。さっそく千尋は朝食の用意に取り掛かった千尋の定番の朝のメニューは御飯にお味噌汁、納豆に海苔と至ってシンプルなものである。朝食の準備が整ったら、次はお弁当の準備。御飯を詰めてから前夜のおかずを弁当箱に入れる。仕上げは彩りを添える為にフリルレタスとプチトマト、これらを詰めて完成。お弁当作りも終わった頃にヤマトが起きてきた。「おはよう! ヤマト!」「ウオン!」ヤマトは嬉しそうに吠え、尻尾を振る。「お腹空いたでしょう? 待っていてね。今用意するから」フードボールにドッグフードを入れ、水を用意するとヤマトの前に置いた。そして祖父の仏壇の前に行き、ご飯と味噌汁を供えて、お線香を立てて手を合わせる。台所に戻ると、ヤマトが餌を前に千尋が戻るのを待っていた。「ヤマト、もう食べていいよ」そこで初めてヤマトは餌を食べ始める。その様子を見届けてから千尋も朝食を食べる準備を始めた。8畳のキッチンに置かれた小さな2人用のキッチンテーブルセット。これは祖父が亡くなった後、千尋が購入した家具だ。祖父と二人暮らしの頃は居間で食事をしていたが、一人になってからは食事の時にどうしても祖父を思いだしてしまう為、台所で食事を取る為に通販で購入したのである。「いただきます」手を合わせると、食事を始めた——朝食後、食器を洗い終わった千尋は前日の内に洗って部屋干ししておいた洗濯物の様子を見に行った。「う~ん……。夏の頃は朝にはもう洗濯物乾いていたんだけどな。さすがに10月にもなると無理かな?」洗濯物にはまだ少し湿り気のあ。女の1人暮らしとなると、安易に洗濯物を外に干せなくなってしまったのが今の千尋の悩みだった。「やっ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-28
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1-6 新しい生活 3
祖父が亡くなってからはヤマトが毎日千尋の職場までついてきて、仕事が終わるまでずっと職場に居座るようになっていた。千尋がいくら家に帰るように言ってもヤマトは頑として座り込み、店から動こうとしながったのだ。「いいんじゃない? うちのお店のマスコットとして置いてあげるわよ」店長の言葉についつい甘えてしまい、今日に至っている けれども店長の言葉通り、ヤマトが店に居るようになって客足が伸びたのも事実。『フロリナ』の開店時間は10時。本日は千尋の早番の日なので開店準備をしなくてはならない。9時に店に到着した千尋が最初に行った作業はバケツの水換え。バケツの中の花を取り除き水を捨てて綺麗に洗い、新しい水を入れる。その際、必要があれば切り花延命剤を入れる場合もある。痛んだ花が無いかチェックをし、取り除く。この作業は中々の重労働だが千尋は黙々と作業を行う。次に鉢植えの花の様子を調べ、枯れた葉や花、虫がついていれば取り除く。それらの作業を行いながら腕時計を確認してみると、時刻はそろそろ10時になろうとしていた。「そろそろ10時か……」その時。「ごめーん! 青山さん、遅れちゃった!」店長の中島が慌てて店の裏口から走りこんできた。「大丈夫です、店長。まだ10時になってなっていないのでギリギリセーフです。それにしても珍しいですね。いつもの店長なら余裕を持って来てますよね?」千尋は店のシャッターを開けながら尋ねた。「うん、ちょっといいことがあってね」中島はニコニコしている。「もしかして昨夜は合コンでしたか?」「え? 何故分かったの!?」「そんなの店長の顔を見ればすぐに分かりますよ~」千尋は留守番電話を切り替えた。「また後でお話聞かせて下さいね? 店長」 開店して5分も経たないうちに、お客がパラパラと来店し始めた。鉢植えを買いに来る客、花束の注文客等々……。千尋と店長は手際よく接客している。 慌ただしい時間が流れていたが、10時半を過ぎると一旦客足が途絶えた。「よし、それじゃやりますか」千尋は店内の花を見渡し、色鮮やかな花を次々と抜き取っていく。それを見ていた中島が声をかけてきた。「そういえば今日は山手総合病院の生け込みをする日だったわね」「はい。私、あの病院でお花を生けるのが大好きなんです。リハビリステーションでお爺さんやお婆さん達の喜ぶ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-28
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1-7 ドッグセラピー 1
 それは今から約2月前のこと—— 初めて千尋が生け込みの仕事の依頼先に出掛ける時に、ヤマトは荷台にあっと言う間に飛び移ってしまったのである。いくら荷台から降ろそうとしても、ちっともヤマトは言うことを聞かない。そこで千尋は仕方無く、病院まで連れていくことにしたのだ。(病院に着いても荷台の上に乗せとけばいいよね)けれどそれは甘い考えだった。生け込みの依頼先は「山手総合病院」。現地に到着し、軽トラックから降りた途端にヤマトも荷台から飛び降りてしまったのである。しかもリードを口に咥えて『早く自分を連れていけ』と言わんばかりの勢いで嬉しそうに尻尾を振っている。「う~ん……病院の敷地内にヤマトを繋いでおいても大丈夫かな……?」リードを装着し、キョロキョロ見回していると駐車場の左隅の方に木々が生えている。(あそこに繋いでおけばいいかな?)そこで千尋はヤマトを連れて行くと、リードを手ごろな枝に括り付けた。「それじゃ、いい子にしててね」言い聞かせ、病院へ歩いて行こうとするとキャンキャンと大きな声で鳴き始めるヤマト。「ちょっと、ヤマト! お願いだから吠えないでよ!」慌てて側に駆け寄ると、ヤマトはリードが付いているにも関わらず、必死に前に歩き出そうとする。「だ、駄目だってば! ヤマトは犬なんだから病院に連れていける訳無いでしょ? お願いだから大人しく待っていてよ」必死でヤマトの体を押し戻そうとしても、体の大きいヤマトを千尋の細腕で動かすことは不可能だった。「はあ~。記念すべき初めての日だって言うのに……。このままじゃ約束の時間過ぎちゃうよ。もう仕方ない。電話で連絡してみよう」スマホを取り出すと、仕事を受ける前に聞いていたリハビリステーションの受付に電話をかけた。数回の呼び出し音の後――『はい、リハビリステーション受付です』男性の声が電話口から聞こえてきた。「あの、すみません。私、本日そちらに花の生け込みをさせていただくことになっている『フロリナ』の青山と申します」『ああ……確か今日からお花を飾って下さる方ですね』「はい、実は困った事がありまして」千尋は言葉を濁した。『どうされたんですか?』「私が飼っている犬が、病院までついてきてしまってるんです」『はあ? 犬ですか』「どうしても私から離れないので、病院の中に入れなくて困っているんで
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-29
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1-8 ドッグセラピー 2
 数分後―― 名札を首から下げたポロシャツスタイルの青年が小走りでこちらにやってくるのが見えた。青年はハアハア息をつぎながら千尋の前に来ると声をかけてきた。「あの、『フロリナ』のお店からいらっしゃった青山さんでしょうか?」「はい、そうです。お忙しい所申し訳ございませんでした」「とんでもないです! でもこんなに若い女性だったとは思いませんでした。あ、自己紹介がまだでしたね。俺は里中裕也といいます! ここの病院の理学療法士をしています。23歳、若さと元気だけが取り柄です! よろしくお願いします!」「青山千尋です、こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。まだまだ経験不足ですが、一生懸命頑張ります」元気な里中に、千尋は笑顔で挨拶した。「あ……え~と……それでこの犬ですか? 青山さんについて来たのは」里中は千尋の足元に座っているヤマトを見た。「はい、そうなんです。普段は聞き訳がいいんですけど、どうしても言うことを聞いてくれなくて」「大丈夫! 俺に任せて下さい! 青山さん、実はこの病院のリハビリステーションは中庭に面しているんですよ。リハビリに来られている方々に中庭を楽しんでもらう為に、中庭に出入り口があるんです。そこから入れば病院の中を通らずに行けます。それに青山さんの側を離れないなら、中庭にリードで繋いでおけばいいんじゃないですか? ……と、俺の上司が言ってました」「本当にいいんですか?」「はい、大丈夫ですよ!」歯を見せて笑う里中。「あ……それじゃ私、荷物を取りに行かないと」「俺、荷物持ちますよ。青山さんは犬をお願いします。ところで犬の名前は何て言うんですか?」「ヤマトです」「へえ~ヤマトかあ。何か戦艦ヤマトみたいでカッコいいですね。ちなみにオスですか?」「はい、亡くなった祖父がつけてくれました」千尋はヤマトを連れて里中を自分が運転してきた軽トラックに案内した。「すみません、こちらの荷物になるのですが……。今、台車を出しますね」千尋が選んだ大輪の花や飾り、活性剤等が詰まれている。「あ、俺がやりますよ」里中は注意深く荷物を台車に積みこんだ。「それじゃ、案内しますね」「お願いします」**** 山手総合病院は市内一を誇る大病院で、救急指定病院にもなっている。実は千尋の祖父もこの病院に通院しており、搬送されたときもこの病院で
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-29
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1-9 ドッグセラピー 3
「いい子で待っててね」今回ヤマトは聞き分け良く、木の下に寝そべった。「大丈夫そうじゃないですか?」ヤマトの様子を見て里中が声をかけてきた。「はい、ありがとうございます」里中は目の前のガラス張りのドアを開けると荷台を部屋に入れて千尋を招いた。「さ、どうぞ」「お邪魔いたします」 リハビリステーションは大きな掃き出し窓があり、とても広い部屋であった。スタッフは殆どが男性で、女性の姿は数名だったが全員里中より年上に見えた。ここにいる患者の殆どは老人ばかりで、マッサージや歩行訓練を受けている。「実は俺が一番下っ端なんですよね。毎日先輩たちに駄目だし食らってますよ。でも、お年寄りの人達にマッサージをしてお礼を言って貰えると、ああこの仕事をして良かったなって思うんですよ」その時、年老いた女性が声をかけてきた。「まあ。随分可愛らしい女の子ねえ。裕ちゃんの彼女かい?」「え? あの、私は……」「うわ! 山本さん、何てこと言うんですか! この人はお花屋さんですよ!」里中は慌てて否定する。「あらそうなの? ごめんなさいねえ。勘違いしちゃって」「初めまして、青山千尋です。今日からここのお花を生けに来ました」千尋は女性に挨拶をした。「よろしくね。綺麗なお花楽しみにしてるわ」女性が去ると、不意に背後から声をかけられた。「貴女が青山さんですか?」振り向くと30代半ばと思しき男性が立っている。「あ、主任。そうです。この人が『フロリナ』のお店から来た青山さんです」「初めまして、青山千尋と申します。これからどうぞよろしくお願いいたします」里中に紹介されて、千尋は会釈した。「よろしく、私がここの主任をしている野口です。メールでもお伝えしていましたが受付のカウンターに花の飾りつけをして頂きたいのです。花瓶はこちらで用意してありますので、後はお任せします」「はい、大丈夫です」「ほら、里中。いつまで突っ立ってるんだ? 早く仕事に戻れ。患者が待ってるだろう?」野口は未だに側にいる里中に注意した。「あ、すみません! それじゃ青山さん、失礼します!」「いえ、ありがとうございました。里中さんのお陰で助かりました」「それじゃ、また!」里中が去ると、千尋はヤマトのことを思い出した。(そうだ、ヤマトを連れてきている事を改めて言わなくちゃ)「すみません、実
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-29
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1-10 小さな異変 1
今日は水曜日、彼女に会える日だ。そう思うと自然に顔が緩んでしまう。正に一目惚れだった。あの日、初めて会ったその場で恋に落ちてしまった。長い黒髪、ぱっちりと大きな二重瞼に愛らしい口元。強く抱きしめると折れてしまいそうな小柄で華奢な身体は庇護欲をそそられる。笑顔も眩しくて、何もかもが愛おしい。鈴の鳴るような透き通った声で自分の名前を呼んで欲しい……。****「おい、里中。今朝は何だか楽しそうだな」里中はロッカールームで2年先輩に当たる近藤に突然声をかけられた。「え? 急にどうしたんですか? 先輩」里中は驚いて振り向いた。「お前さっき鼻歌、歌ってたぞ」近藤は呆れたように言った。「え? マジすか?」「何だよー無自覚で歌ってたのか? どうせ、あれだろ? 今日は花屋のあの子が来る日だもんな?」「ななな、なに言ってるんですか! 先輩!」「お前な~バレバレなんだよ。分かりやすいったらないぜ」「ま、まさか……鈍い先輩にもバレているんなら、他の人達にも……」「だ・れ・が・鈍いって」近藤は里中の頭をこずいた。「まあ、あのリハビリステーションにいる人間なら皆気付いてるだろうな、患者さんだって気付いてる人も中にはいるし。里中は千尋ちゃんに片思い中だって」「う……で、でも苗字じゃなくて名前で呼ぶまでには進展したんですよ!」先月、里中はようやく千尋の事を名前で呼ばせて貰える仲になれたのである。「俺はとっくに名前で呼んでたけどなあ……。それに肝心の千尋ちゃんはお前の気持ちに全く気が付いてないみたいだけどな」「ぐ……そ、それは……」「お前なあ、千尋ちゃんの事好きなんだろ? あの様子じゃ、今のところ男の影は見えないようだけど、ぐずぐずしてると他の男に取られてしまうぞ? お前、それでもいいのか?」「え? 彼女を狙ってる男が他にも? まさか……先輩が……?」「ば~か、俺にはちゃんと彼女がいるよ。安心しな」「先輩! 彼女いたんすか?!」「何だよ。いちゃ悪いか? それより早く着替えて来いよ。遅刻するぞ!」近藤はロッカールームを出て行った。気付けばロッカールームに居るのは里中ただ1人だけである。「あ、やべっ! 急がないと!」里中は慌てて着替え始めた。****「それじゃ店長。そろそろ病院に行ってきますね」千尋は花の水やりをしている中島に声
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