永遠の桜の恋物語

永遠の桜の恋物語

last updateLast Updated : 2025-03-27
By:  スナオUpdated just now
Language: Japanese
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 時は大正時代。とある日不思議な笛の音色に導かれた青年、宮森司は、満開の桜の下で天女のような絶世の美女に出逢う。どうやらその美女は桜の精霊らしくて……。  これは桜の精霊と優しい青年が送る、切なくて儚いラブストーリーである。散りゆく桜のような一瞬の恋物語を楽しんでいただけたら幸いである。

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第一話 出逢い

 しとしとと、雨が降っていた。 そんな中、番傘を差して歩く青年がいた。 青年の名は宮森司。とあるお屋敷に下宿しているいわゆる書生である。 スタンドカラーの白い書生シャツの上から茶色の着物を身に着け、紺色の袴を着つけている。 足元は白い足袋に黒い鼻緒の塗りの下駄だった。 白い足袋をからかわれることもあったが、彼は白い足袋を使い続けた。 二枚の歯がカランコロンと小気味よい音を奏でる。 彼の髪は短い黒色をしていて、丸眼鏡をかけた姿はどこにでもいる書生だった。 しかしその瞳は黒曜石のように輝いており、彼の学問に邁進する心を表しているようだった。 ふと彼の耳に、美しい笛の音が聴こえてきた。 その音色はあまりにも美しく、そして儚げだった。 一瞬で虜になってしまった司は、キョロキョロと辺りを見回し、音色の出どころを探した。 すると山に続く石の階段を見つけ、その上から音色が聴こえていることに気付いた。 そして音色に導かれるように、彼は階段を一段飛ばしに上っていったのである。◆◆◆ 階段を駆け上ると、そこには大輪の花を咲かせる一本の桜の木があった。 その桜のあまりの美しさに、司は息を飲んだ。 その間も桜は雨に打たれ、ひらひらとその花びらを散らしていく。 司が再び息をできるようになるころ、桜の木の根元に一人の女性がいることに気が付いた。 まるで天女のような女性だった。 長くつややかな黒髪は腰まで伸び、その肌は透き通るように白い。 その白い肌に薄紅色の着物が映えていた。 そんな天女を、司はただ黙って見ていた。 見とれていた、といってもいい。 天女は司の視線に気づき、吹いていた笛から口を離した。そして彼を見つめる。 司と同じようで違う、吸い込まれるような黒い瞳が彼を捉えたのだ。 次いで天女はにこりと微笑んだ。その微笑みが司の金縛りを解いてくれた。「う、美しい音色でした」 絞りだすように司が言った。「ありがとう。あなたはこの笛の音色を聴くことができるのですね」 笛の音色くらい、誰でも聴けるだろう。司は頭に疑問符を浮かべた。「……? それはもちろん。あまりに綺麗な音色でしたので、聴き入ってしまいました」「この音色を美しく感じたのなら、きっとあなたの心は美しいのでしょうね」「そ、そんなことは……」 天女との会話はどこか不自然な...

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第一話 出逢い
 しとしとと、雨が降っていた。 そんな中、番傘を差して歩く青年がいた。 青年の名は宮森司。とあるお屋敷に下宿しているいわゆる書生である。 スタンドカラーの白い書生シャツの上から茶色の着物を身に着け、紺色の袴を着つけている。 足元は白い足袋に黒い鼻緒の塗りの下駄だった。 白い足袋をからかわれることもあったが、彼は白い足袋を使い続けた。 二枚の歯がカランコロンと小気味よい音を奏でる。 彼の髪は短い黒色をしていて、丸眼鏡をかけた姿はどこにでもいる書生だった。 しかしその瞳は黒曜石のように輝いており、彼の学問に邁進する心を表しているようだった。 ふと彼の耳に、美しい笛の音が聴こえてきた。 その音色はあまりにも美しく、そして儚げだった。 一瞬で虜になってしまった司は、キョロキョロと辺りを見回し、音色の出どころを探した。 すると山に続く石の階段を見つけ、その上から音色が聴こえていることに気付いた。 そして音色に導かれるように、彼は階段を一段飛ばしに上っていったのである。◆◆◆ 階段を駆け上ると、そこには大輪の花を咲かせる一本の桜の木があった。 その桜のあまりの美しさに、司は息を飲んだ。 その間も桜は雨に打たれ、ひらひらとその花びらを散らしていく。 司が再び息をできるようになるころ、桜の木の根元に一人の女性がいることに気が付いた。 まるで天女のような女性だった。 長くつややかな黒髪は腰まで伸び、その肌は透き通るように白い。 その白い肌に薄紅色の着物が映えていた。 そんな天女を、司はただ黙って見ていた。 見とれていた、といってもいい。 天女は司の視線に気づき、吹いていた笛から口を離した。そして彼を見つめる。 司と同じようで違う、吸い込まれるような黒い瞳が彼を捉えたのだ。 次いで天女はにこりと微笑んだ。その微笑みが司の金縛りを解いてくれた。「う、美しい音色でした」 絞りだすように司が言った。「ありがとう。あなたはこの笛の音色を聴くことができるのですね」 笛の音色くらい、誰でも聴けるだろう。司は頭に疑問符を浮かべた。「……? それはもちろん。あまりに綺麗な音色でしたので、聴き入ってしまいました」「この音色を美しく感じたのなら、きっとあなたの心は美しいのでしょうね」「そ、そんなことは……」 天女との会話はどこか不自然な
last updateLast Updated : 2025-03-27
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第二話 儚き日々
 天女のような女性、桜と出逢った次の日、司は胸の高鳴りと共に目を覚ました。 夢の中でも桜に会っていたような気がした。 そう、あの美しくも切ない瞳が彼を射貫き、また金縛りにあってしまいそうだった。 それでも心臓だけはうるさく早鐘を鳴らしていた。 ふと司は思った。昨日の出逢いは現実だったのだろうか、と。 まるで白昼夢を見ていたかのようだった。 それくらい桜という女性は儚げで、とてもこの世のものとは思えなかったのだ。 その日は結局桜のことが気になって勉学にも集中できなかった。 大学で愛について研究している司だったが、この桜への気持ちと胸の高鳴りはどんな偉人の言葉でも説明がつかないように思えた。 そんな大学からの帰り道、司は行きつけの和菓子店に寄った。 桜にもう一度会うのに、手ぶらではいけないと思ったからだ。 ガラスケースの向こう側に並べられた色とりどりの菓子たちの中に、桜を思わせる小さく美しい練り切りがあった。 司は迷わずそれを購入した。 そして桜並木を通って、昨日上った石の階段のある場所に向かった。 果たしてそこに山に上るための階段はあるのだろうかと、一抹の不安を抱えながら。 結局、そこに階段はあった。 昨日のことが夢ではなかった証拠を一つ得て、司は足取りも軽く階段を上って行った。 彼の耳に、昨日と同じ美しい音色が届き、彼の胸を高鳴らせた。 急いで階段を上りきると、そこには美しい桜の大木と天女のような女性がいた。「桜……さん」 司は小さな声で声をかけた。邪魔をしていいものか悩んだからだ。 それでも桜は気づいたようで、笛を吹くのをやめ、瞼を開いた。そして司を認識するとふんわりと、しかし儚げに微笑んだ。「司様。また来てくださったのですね」「ええ。約束しましたから。そうだ。今日はお土産があるんです」 どこまで近づいていいものかと恐る恐る桜に近づくと、司は和菓子店の包みを開いてみせた。「まあ。とてもきれいですね。これをわたくしに?」「はい。この菓子を見たとき、あなたを思い出して……」 そこまで言ってから司は、遠回しに桜が美しいと言ってしまったような気がして、顔を紅くした。「ありがとう。とてもうれしいです」 桜は愛するものを見るような優しい瞳で練り切りを見つめた。「いただいてもよろしいですか?」「ええ。もちろん」 
last updateLast Updated : 2025-03-27
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第三話 切なき別れ
 それからというもの、司は毎日のように桜の下へ通った。 そしていろんなことを話した。 司の通う大学のこと。 おいしい菓子のこと。 遠い異国の地のこと。 司が旅をした街のこと。 どんな話をしても、桜はいつも楽しそうにしてくれた。 それがうれしくて司はいろいろな話をした。 そうしている内に季節は移ろい、桜が散り始めた頃。 その日桜はどこか上の空だった。 司の話は聞いているようだったが、いつものように楽し気でかわいらしい笑みを浮かべてはくれなかった。 それが気になって、司は尋ねた。「その、どうかしましたか? なんだか元気がないようですが?」「いえ、その……」 桜は何かを迷うように言いよどみ、司の目を見ないまま告げた。「司様」「なんですか?」「もうここへは来ないでください」「え? どうして……」「ここへ来ても、もう会えないでしょうから」「なぜ」そう問いかけようとした司の目の前で驚くべきことが起こった。 桜の身体が半透明になり、後ろの景色が透けて見えたのだ。「これは、どういう……」「さようなら。司様。楽しい日々をありがとう」 消えていく桜を捕まえようと、司は腕を伸ばした。しかしその腕はただ虚空を掴んだだけだった……。◆◆◆ 桜が突然消えてしまった次の日。 司は再び桜の大木の下を訪れた。 しかしそこに桜の姿はなく、美しかった桜もすっかり散ってしまっていた。 司の胸がぎゅっと締め付けられた。(もう桜には会えないのだろうか?) 司は痛む自身の胸を左手で強く掴んだ。そして透き通るような青空を見上げた。 まるで何かを誓うように……。◆◆◆ それからも毎日、司は桜の大木の下を訪れた。しかし桜と会うことはできなかった。それでも、それでも毎日通い続けた。 雨の降りしきる梅雨の日も。 太陽の照り付ける夏の日も。 木々を揺らす嵐の日も。 切なさを誘う秋の日も。 雪積もる冬の日も。 そして桜のつぼみが芽吹いた新春の日も。 毎日、毎日通い詰めた。 そんなある日、司の研究が認められる日が来た。研究の内容は「愛の比較研究――日本と西洋の違い」だった。司はそのことを報告するため、桜の大木の下を訪れた。もちろんそこに、桜の姿はなかった。それでも司は報告したかった。「桜さん。ようやく僕の研究が認められました。全
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