松井亜季(まつい あき)は、広告代理店で勤めて六年目。 いつか大きなイベントや会社の広告を自らの手で作りたくて、この会社に就職した。 バリバリの働くキャリアウーマンなんて言えないし、失敗も多い。それでも必死に頑張ってきた。 そんな亜季には苦手な人が居る。それは、この人だ。「おい。何でお前の書類には、いつも誤字があるんだ? これで何度目だ?」「申し訳ありません」 必死で謝る男性社員。部下に叱っているのが、櫻井(さくらい)課長。 背が高くて、細身なのに肩幅が広く、鍛え上がった体。その上に眉間にシワを寄せて、鋭くつり上がった目つき。 周りから恐れられて『鬼課長』というニックネームを付けられているほど。(うわぁ~今日も怖い) 櫻井課長の怒鳴り声で亜季は思わずビクッと肩を震わせた。 すると 同期で友人の玉田美奈子(たまだ みなこ)に話しかけてくる。「ねぇ、相変わらず怖いわよねぇ~鬼課長」「……う、うん。そうだね」 思わず亜季も頷いてしまう。真面目で異常に厳しい。 見た目もあって余計に、そう思われていた。亜季も恐れている1人だったが。 直接こっぴどく叱られたことはないが、仕事のことで何度か注意を受けたことならなる。それでも、かなり怖かったが。「聞く話だと課長って独身らしいわよ? まぁ、あれでは結婚なんて出来ないわよねぇー」 美奈子は、クスッと笑いながらそう言ってきた。(櫻井課長って、独身だったんだ? へぇ~) 失礼ながら納得してしまった。だって、あまりプライベートとか想像ができない。そもそも、どんな女性が好みなのかも知らないし、そこまで興味もない。しかし運命とは何とも皮肉なもの。 まさか、この櫻井課長とお見合いをするなんて夢にも思わなかった。 それは、数日後のことだった。 母が突然、一人暮らしをしているアパートに来たと思ったら、お見合い話を持ち出してきたのだ。「はぁっ? お見合い……私が!?」「そう。習い事で知り合った人の息子さんなんだけど、独身らしくてね。優秀で、いい方らしいから引き受けてきたの」 あっけらかんと明るく話す母に呆れてしまう。亜季は思わず。ため息を吐く。(そんな勝手に引き受けないでよ!?) いくら仕事で恋愛を疎かにしているからって、勝手に相談もなく決めないでほしい。 そうではなくても最近忙しいとい
最終更新日 : 2025-02-20 続きを読む