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鬼課長とのお見合いで
鬼課長とのお見合いで
Author: 愛月花音

第一話・『課長とのお見合い』

Author: 愛月花音
last update Last Updated: 2025-02-20 18:14:17

 松井亜季(まつい あき)は、広告代理店で勤めて六年目。

 いつか大きなイベントや会社の広告を自らの手で作りたくて、この会社に就職した。

 バリバリの働くキャリアウーマンなんて言えないし、失敗も多い。それでも必死に頑張ってきた。

 そんな亜季には苦手な人が居る。それは、この人だ。

「おい。何でお前の書類には、いつも誤字があるんだ? これで何度目だ?」

「申し訳ありません」

 必死で謝る男性社員。部下に叱っているのが、櫻井(さくらい)課長。

 背が高くて、細身なのに肩幅が広く、鍛え上がった体。その上に眉間にシワを寄せて、鋭くつり上がった目つき。

 周りから恐れられて『鬼課長』というニックネームを付けられているほど。

(うわぁ~今日も怖い)

 櫻井課長の怒鳴り声で亜季は思わずビクッと肩を震わせた。

 すると 同期で友人の玉田美奈子(たまだ みなこ)に話しかけてくる。

「ねぇ、相変わらず怖いわよねぇ~鬼課長」

「……う、うん。そうだね」

 思わず亜季も頷いてしまう。真面目で異常に厳しい。

 見た目もあって余計に、そう思われていた。亜季も恐れている1人だったが。

 直接こっぴどく叱られたことはないが、仕事のことで何度か注意を受けたことならなる。それでも、かなり怖かったが。

「聞く話だと課長って独身らしいわよ? まぁ、あれでは結婚なんて出来ないわよねぇー」

 美奈子は、クスッと笑いながらそう言ってきた。

(櫻井課長って、独身だったんだ? へぇ~)

 失礼ながら納得してしまった。だって、あまりプライベートとか想像ができない。

そもそも、どんな女性が好みなのかも知らないし、そこまで興味もない。

しかし運命とは何とも皮肉なもの。

 まさか、この櫻井課長とお見合いをするなんて夢にも思わなかった。

 それは、数日後のことだった。

 母が突然、一人暮らしをしているアパートに来たと思ったら、お見合い話を持ち出してきたのだ。

「はぁっ? お見合い……私が!?」

「そう。習い事で知り合った人の息子さんなんだけど、独身らしくてね。優秀で、いい方らしいから引き受けてきたの」

 あっけらかんと明るく話す母に呆れてしまう。亜季は思わず。ため息を吐く。

(そんな勝手に引き受けないでよ!?)

 いくら仕事で恋愛を疎かにしているからって、勝手に相談もなく決めないでほしい。

 そうではなくても最近忙しいというのに。

「嫌よ……お見合いなんて。私は、まだバリバリに働きたいし。それに結婚するなら恋愛結婚の方がいいわ」

「何を言っているのよ? そう言ってばかりで、もう28じゃない。そんな贅沢なことを言っていたら婚期逃すわよ? それに、この方は有名大学を卒業して、あなたが働いている会社で32歳の若さで課長として出世しているのよ? こんな条件のいい人をあなたが探せるとは、思えないけど」

 母は、くどくどと文句を言ってくる。こうなった母は誰も止められない。

 それよりも気になる言葉が。会社の課長さん?

「私の働いている会社って、相手どんな人なの?」

「あら、興味持つ気になった? お見合い写真もあるのよ~この人なんだけど」

 そう言ってお見合い写真を渡される。まさかと不安に思いながら見ると、その相手にショックを受けた。

 いや、ショックより驚きに近い。だってその相手は、櫻井課長だったからだ!

 スーツ姿でキリッとした表情で写っていた。相変わらず目つきは悪いが。

(えぇっ!? ちょっと……待って。私に櫻井課長とお見合いをしろと言うの?)

 いくらなんでも、むちゃくちゃだ。

 こんな偶然があっていいものだろうか。いや、ありえないだろう。

 容姿がおかしい娘に母親は、

「あら、同じ会社だと言っていたけど、やっぱり知り合い?」と聞いてくる。

「私の上司よ。企画営業部の課長なの」

「あら、丁度いいじゃない。これも何かの縁ね。ぴったりじゃない」

 母親は天然なのか? そんな縁はいらない。

 亜季にとったら罪悪以外は何でもないだろう。下手に断ったりしたら気まずい。

 むしろ生意気だと思われるかもしれない。そうではなくても上司としてでも苦手なのに。

「断って。櫻井課長だと気まずくて仕方がないわよ!」

「そんなのダメよ! 引き受けちゃったんだから。会うだけ会いなさい。悪い条件ではないのに……この子ったら、まったく、もう」

「相手は、上司よ!? 嫌に決まっているじゃない。こんなの」

「もう文句ばかり言わないの。とにかく、お見合いだけでもしなさい。いいわね?」

 母にビシッと言い返されしまう亜季。いくら嫌だと言っても聞いてもらえず結局、会うはめになってしまった。

 こんなの会社の人に知られたくない。知られたら最悪だったねと笑われるだろう。

 あぁどうしたら、このお見合いを辞めることができるのだろうか?

 いっそう向こうから断ってくれたらいいのに。

 亜季は頭を抱えることになってしまった。 

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     亜季たちは植物園を出ると、近くにあった広場で弁当を出した。 この日のために亜季は朝早く起きして作った。 入ってくれるだろうか?「これを君が作ったのか?」「はい。口に合うか分かりませんが良かったら、どうぞ」「ありがとう……美味しそうだ。いただきます!」 早速、櫻井課長は一口食べてくれた。 どうだろうか? 口に合わなかったらどうしよう。「あの……味は、どうでしようか? 不味かったら、すみません」「うむ、美味しい。この卵焼きも、なかなか」「そうですか……良かった」 味を噛みしめながら食べていた。 まだ心臓がドキドキするけど自信作だった卵焼きを褒めてくれた。「これもなかなか。松井は、ちゃんと料理ができるじゃないか」「あ、ありがとうございます。また、今度も作ってきますね!」 嬉しくて、つい亜季は大胆発言を言ってしまう。 ハッと気づく。恥ずかしさで頬が熱くなってしまう。 また作るだなんて……恥ずかしい。「あ、すみません。つい調子を……」「そうか? それは楽しみだな」 そう言って、櫻井課長は静かに笑ってくれた。 ドクンッと櫻井課長の言葉は、いつも高鳴って、心臓に悪い。 思わないところで、また作れるチャンスができてしまった。光栄なことだ。「はい……楽しみにしていて下さい」 亜季は照れながらも、そう伝えた。 何だかいい雰囲気になっていく。 その後。弁当を食べ終わるとパンフレットを見ていた。 次は何処に行こうかと話し合う。 ハーブ園も行きたいけど、珍しい花も見たい。すると櫻井課長が何かに気づいた。「何か花の種まきがあるらしいぞ。記念に種が貰えるらしい」「本当ですか? やってみたいです」「じゃあ、行ってみよう。えっと~場所と時間は。あ、そう離れていないな」 パンフレットを見て、場所を確認してくれた。 種まきなんて二人でやったら、いい思い出になるだろう。 しかも記念に貰えるなんて嬉しい。完成したら大切に育てたいと思った。 そして二人でイベントをやっている場所に向かう。 スタッフに小さな鉢植えと種を貰う。亜季は真剣にやっていると櫻井課長が、「松井。頬に汚れがついている」と言ってきた。「えっ? いやだ……恥ずかしい)。 亜季は慌てて頬を擦る。ちゃんと取れただろうか?「あぁ、余計に汚れる……ちょっと待っていろ」

  • 鬼課長とのお見合いで   第十四話。

     そして待ちに待ったデート当日。 亜季は、アパートのそばで待っていた。車で迎えに来てくれるらしい。 コンパクトミラーを見ながら服装と髪型やメイクの身だしなみチェックをする。 ベージュ色の長袖ニット。グレーのロングスカート。そしてショートブーツ。 植物園に行くのでカジュアルな服装にした。  櫻井課長の隣で歩くなら、ちゃんとした大人の女性に見られたい。 そうしたら櫻井課長が乗った黒色の車が目の前で停まった。 ガチャッとドアが開き「悪い。待たせたな」と言って出てきた。「いえ……大丈夫です。おはようございます」「おはよう。では行くか」 慌てて頭を下げ挨拶をすると、櫻井課長は助手席まで回ってドアを開けてくれた。 紳士的だ。それに服装もカッコいい。 黒色のタートルネックとズボン。ネックレスも付けており、茶色のロングコート。 亜季はお礼を言うと、気恥ずかしそうに助手席に乗り込む。 櫻井課長は運転席に乗り込むと車を走らせた。 チラッと亜季が見ると、黒色のサングラスをかけていた。 サングラスの姿が少しヤクザっぽく見える。内心そう思ったら、何だか笑えてくる。「フフッ……」「うん? 何が可笑しい?」「あ、いえ……何でもありません」 さすがに言うのは、やめておこう。失礼だし。 高速道路に乗り、しばらく走ったあと、近くのサービスエリアで車を停めてトイレ休憩をした。 櫻井課長は、お手洗いと何か飲み物を買って来ると言い、車から降りた。 亜季は大人しく車の中で待っていた。 そうしたら後部座席の隅っこに雑誌が置いてあることに気づく。「何かしら? これは?」 興味本位でシートベルトを外すと手を伸ばして、その雑誌を手に取ってみる。 そしてシートベルトを付け付け直すと、表紙を見てみることに。 雑誌には『デートスポット特集号』と書いてあった。ペラッと、めくると⃝⃝植物園などに付箋が付けてある。 もしかしてこれを見て選んでくれたのだろうか? 違う付箋のを見ると、レストランにも貼ってある。 やっぱり。わざわざ雑誌を買って参考にしたのだろう。 その姿を想像したら、何だか身体の中がポカポカした。キュンとする気持ちが確かにあった。「課長……可愛い」 亜季はそう自然に想うと笑みがこぼれた。 しばらくして櫻井課長が飲み物を持って慌てて戻ってくる。「

  • 鬼課長とのお見合いで   第十三話。

     そして待ちに待ったデート当日。 亜季は、アパートのそばで待っていた。車で迎えに来てくれるらしい。 コンパクトミラーを見ながら服装と髪型やメイクの身だしなみチェックをする。 ベージュ色の長袖ニット。グレーのロングスカート。そしてショートブーツ。 植物園に行くのでカジュアルな服装にした。  櫻井課長の隣で歩くなら、ちゃんとした大人の女性に見られたい。 そうしたら櫻井課長が乗った黒色の車が目の前で停まった。 ガチャッとドアが開き「悪い。待たせたな」と言って出てきた。「いえ……大丈夫です。おはようございます」「おはよう。では行くか」 慌てて頭を下げ挨拶をすると、櫻井課長は助手席まで回ってドアを開けてくれた。 紳士的だ。それに服装もカッコいい。 黒色のタートルネックとズボン。ネックレスも付けており、茶色のロングコート。 亜季はお礼を言うと、気恥ずかしそうに助手席に乗り込む。 櫻井課長は運転席に乗り込むと車を走らせた。 チラッと亜季が見ると、黒色のサングラスをかけていた。 サングラスの姿が少しヤクザっぽく見える。内心そう思ったら、何だか笑えてくる。「フフッ……」「うん? 何が可笑しい?」「あ、いえ……何でもありません」 さすがに言うのは、やめておこう。失礼だし。 高速道路に乗り、しばらく走ったあと、近くのサービスエリアで車を停めてトイレ休憩をした。 櫻井課長は、お手洗いと何か飲み物を買って来ると言い、車から降りた。 亜季は大人しく車の中で待っていた。 そうしたら後部座席の隅っこに雑誌が置いてあることに気づく。「何かしら? これは?」 興味本位でシートベルトを外すと手を伸ばして、その雑誌を手に取ってみる。 そしてシートベルトを付け付け直すと、表紙を見てみることに。 雑誌には『デートスポット特集号』と書いてあった。ペラッと、めくると⃝⃝植物園などに付箋が付けてある。 もしかしてこれを見て選んでくれたのだろうか? 違う付箋のを見ると、レストランにも貼ってある。 やっぱり。わざわざ雑誌を買って参考にしたのだろう。 その姿を想像したら、何だか身体の中がポカポカした。キュンとする気持ちが確かにあった。「課長……可愛い」 亜季はそう自然に想うと笑みがこぼれた。 しばらくして櫻井課長が飲み物を持って慌てて戻ってくる。「

  • 鬼課長とのお見合いで   第十二話。

    「うん? どうした? 松井」「あ、いえ……何だか面白くて。あ、いえ……何でもありません。すみません」 いけない。つい本音が出てしまうところだった。 見ていたことを知られるのも恥ずかしい、本音を聞かれることの方が恥ずかしい。 意味が分からない様子の櫻井課長は軽く首を傾げていた。 慌てて曖昧な返事をするが、逆に不思議に思われたかもしれない。「……そうか? それよりメニュー決まったか?」(あ、そうだった!?) 亜季は慌ててメニュー表を見る。 うっかり何を注文するか考えていなかった。「えっと~私は、このカルボナーラとシーフードサラダにします」「うむ。分かった」 呼び出しボタンを押し一緒に注文をしてくれた。櫻井課長は、和風ハンバーグセットにしていた。 ハンバーグとか意外な好みで可愛らしいと思った。 注文するとお互いに沈黙が続く。そうしたら櫻井課長が、「俺と一緒で退屈にならなかったか? どうも気の利いた台詞が言えないし」と、そう聞いてくる。「そんな退屈だなんて……とても楽しかったですよ。櫻井課長と一緒に映画が観れて」 内容は観ていなくてサッパリだったけど、退屈だなんて思わなかった。 今でも。逆にドキドキしている自分がいる。「それなら、いいのだが」「今度は、もう少し遠出してみるか? 日帰りで行ける範囲で」「えっ? 日帰りで!?」 頬が熱くなってきた。まさかの日帰りのお誘いだった。「まぁ、君が嫌ではなくて、都合のいい時にでも」「いつでも大丈夫です!」 思わず亜季は即答してしまった。 あっと思ったが、凄く行きたいと思った。断る理由もない。「そうか。なら何処か、いいところがないか考えておく」「はい……分かりました」 自分も照れてしまう。何だか不思議な気分で心臓がドキドキと高鳴ってしまう。 この音をバレないようにしなくては……。「あの~それよりも、さっきのトレーニングのことを、もっと知りたいです」 思い切って聞いてみた。 課長は亜季の発言に驚いていたが、色々と話してくれた。 料理が来ても。熱い解説が続く。 夢中で話す姿は怖いってよりも、少し少年に近い。 トレーニングや道具のどれが好きなのか分かるぐらいに教えてくれた。「あ、えっと……つい熱弁をふるってしまった。すまない」「いえ、よく分かりましたし。勉強になりまし

  • 鬼課長とのお見合いで   第十一話。

     モールの中を二人で回る。なんて不思議な感覚だ。 まるで、本物の恋人同士みたいだ。 せっかくだから何をみようかと探していると、櫻井課長が何かを見つけたようだ。 何を見ているのだろうか? 目線の先をたどってみると、スポーツ用品店だった。 なるほど。課長トレーニングが趣味だから興味があるのだろう。「せっかくだからスポーツ用品店でも見ませんか?」「えっ? いや……でも君は、つまらないだろ?」「いえ、どんな商品があるか興味がありますし、平気です」 亜季から誘ってみる。櫻井課長が、どんな商品が好みなのか気になったからだ。 櫻井課長少し遠慮気味だったが、ならと恥ずかしそうに承諾してくれた。 二人でスポーツ用品店の中を見て回ると、櫻井課長は興味津々な感じで新商品の物をチェックし始める。「これは、また新しい商品だな。こっちは、どんな機能が?」 その姿を見ていて、思わず笑みがこぼれる亜季だった。 まるで少年のようだ! 櫻井課長は店員を呼び止めて、新しい商品のことを詳しく聞き始める。 聞き終わると、ハッと気づいたのか亜季を見る櫻井課長。「あ、すまない。つい夢中で……退屈だっただろ?」「フフッ……いえ。意外な一面が見れて楽しかったです」 それは、本当のことだ。新たな櫻井課長の一面を発見する。 スポーツ商品のことになると夢中になる。 そして夢中になる姿は、少年のようで可愛らしい。「そうか? どうも、こういうところに行くと、つい夢中になって周りが見えなくなってしまう。申し訳がない」「フフッ……よく来られるのですか?」「まぁな。新商品が出ると必ずチェックしている。集めるのも好きで」 それは、また興味がある内容だ。 どんな道具があるのだろうか? もっと、もっと櫻井課長のことが知りたい。亜季はそう思った。「その話、もっと聞いてみたいです!」「そうか? あまり面白いものでもないぞ? あ、そろそろ映画が始まる時間だな。そろそろ出て行こうか?」「はい」 楽しみな映画なのに、ちょっと残念な気持ちになる。 もっと見ていたかったなぁ~と思ってしまった。 仕方がないので映画館に戻ることに。入る前にポップコーンと飲み物を買って、上映を場所に入った。 上演が始まると、観ながらチラッと隣で座っている櫻井課長を覗く亜季。 櫻井課長は真剣な表情で映画

  • 鬼課長とのお見合いで   第十話・『課長との初デート』

     亜季と課長は、それからメッセージアプリでやり取りをするように。 話題は、たわいのない出来事だけど。顔が見えないせいか、お互い話が進んでいく。 そこでも櫻井課長の意外な素顔や新しい発見をする。『櫻井課長。今何をしているのですか? 私は今日借りてきたⅮⅤⅮを観ています』『さっきまでジョギングをしていた。汗をかいたからシャワーを浴びていたところだ』 ジョギングとは、いつもこの時間帯で走っているのだろうか?それに何キロを? 気になりメッセージをしてみた。『いつも何キロ走っているのですか?』『大体五キロぐらいだな。多くて十キロ。ジムも行ったりするが』 多くて十キロとは驚きだ。趣味がトレーニングと言っていたけど。 なかなか走れる距離ではないだろう。亜季は思わず感心する。『凄いですね。私は運動音痴なので、そんなに走れません』『そうなのか? 鍛えると運動音痴も改善するかも知れないぞ。今度いいトレーニング道具を貸してやる』『ありがとうございます。機会がありましたらぜひ』 トレーニング道具か…どんなのだろうか? 亜季はハァッ~と深いため息を吐いた。メッセージで、こんなに話せるなら直接もっと話がしたい。 櫻井課長の前だと緊張してしまい上手く話せない。無口な人だし。 亜季は口下手な方だ。そう思いながらスマホを眺めていた。 櫻井課長は、どんな気持ちでメッセージを打っているのだろうか?同じ気持ちならいいのに。と、ⅮⅤⅮを観ずに、ずっとスマホを眺めていた。 そして待ちに待った日曜日。櫻井課長と映画を観ることになったのだが。 初デートと言ってもいいのだろう。 気合いを入れて最近購入した白色のトップスにジャケット。 藍色のコットンスカート。 会社の時と違って服やメイクに気を使った。 ちょっと、気合い入れ過ぎただろうか? そう思いながら待ち合わせ場所の駅に電車に乗って向かう。 目的地の駅に着くと、既に改札口のそばで櫻井課長が待っていた。 いつものスーツ姿と違って私服姿。グレーのシャツに黒色のジャケットとジーンズ。 意外とお洒落な感じだ。「あの……遅れて申し訳ありません」「大丈夫だ。今さっき着いた」 慌てて謝罪をしながら課長のところに行くと、櫻井課長は何故だか驚いた表情をしていた。そして何も言わずに黙り込んでしまう。(あれ……? もし

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