(あんな嬉しそうな顔をするんだ?)
「他にもお薦めのメニューとかあるぞ。今度食べてみるといい」
「はい。ぜひ……」
「じゃあ、今度また……あ、すまない。つい調子に乗ってしまった」
櫻井課長は、ハッとしたのか慌てだした。彼でも調子に乗ることもあるらしい。
亜季は思わずクスッと笑ってしまった。
また櫻井課長の可愛いところを知ってしまったようだ。
「いえ…また誘って下さい」
そのせいか、不思議と何だかいい雰囲気になれた。素直に言うことも出来た。
その後も料理の話をしたりと、会話が少しずつ増えていく。
こういう時に、時間が過ぎるのは早い。あっという間に食べてしまい帰ることに。
「あの……今日は、ごちそうさまでした」
駅のそばで私は、お礼を伝える。。
会計の時に自分の分を払おうとしたが、櫻井課長が全額払ってくれた。
そんなつもりはなかったため申し訳ない気持ちになる。
「いや…こちらこそ。今日は楽しかった…ありがとう」
「いえ…こちらこそ。ありがとうございました。おやすみなさい」
亜季は深々と頭を下げると、お互い別れてホームに移動する。
ハァ~緊張しちゃった。力が抜けてしまう。
こんなに緊張するとは……でも、また新しい櫻井課長が発見できた。
意外と料理を作るのも好きで小料理屋が好き。
今度、また一緒に行ったら新しい課長を発見できるだろうか?
(次…いつ誘ってくれるかな?)
自分から誘ってみたら迷惑だろうか? するとハッと気づく。
いけない。課長の事ばかり考えているではないか!?
何だか胸が締め付けられそうな気持ちになる。不思議な気分だ。
そんな気持ちを抱きながら翌日。
会社で仕事をしながら櫻井課長を見ると相変わらずの姿だった。
黙々と眉間にシワを寄せてパソコンのキーボードを打ち込んでいる。
あれは怒っているのではなくて、集中している姿。
これも新しい発見だ。
今日もお茶を出したら喜んでくれるだろうか?
そう思い席を立った。
給湯室で、お湯を沸かしていると誰かが入ってきた。同じ部署で後輩の澤村梨香(さわむらりか)さんだった。
「お疲れ様です。あれ? それ、課長の湯吞みですか?」
「えぇ、せっかくだから」
そう言いながら湯のみにお茶を注ぎ終わると急須を片付ける。すると、それを見て不思議に思ったのか、亜季に聞いてくる。
「松井先輩ってマメですよねぇ~? 怖くないんですか? 課長のこと」
「確かに怖いわね。 でも、悪い人ではないわ」
亜季も以前は、そう思っていた。ただ真面目で不器用な人ってだけだ。
昨日話してそう感じた。そして意外と照れる姿が可愛い。
「そうですかね?私は、あぁ言う人って何を考えているか分からないから怖くて。それに松井先輩って、課長のことをよく見ているんですね? どうしてですか?」
澤村梨香がそう質問してきた。
ギクッと肩が震える。急にどうしてかと言われると困ってしまう。
「そう? 勤めが長いから何となく分かるのよ」
「ふ~ん。そう言うものですかね? 私には、よく分からないかも」
不思議そうに首を傾げると冷蔵庫から自分の飲み物を取り出して行ってしまう。
行ったのを確認すると亜季は、ハァッ~と深いため息が出てしまった。
バレたかと思った。別に付き合っているわけでもない。
だから変な噂を出すわけにはいかない。気をつけなくては。
それに亜季自身も、まだよく分かっていない。それなのに櫻井課長に迷惑をかけるわけにはいかないし。
(一体どうしたいのだろう? 私は課長のことを)
自分の気持ちに問いかけながら部署に戻った。
そして課長のところに行くと課長のデスクにお茶を置いた。
「失礼します。お茶をどうぞ」
課長は私の方をチラッと見ると「ありがとう」と言ってくれた。
一言だけだったけど凄く嬉しい。それからも亜季は櫻井課長のお茶を淹れるように。
すると数日後のことだった。「松井。悪いが、これを経理課まで届けてくれ」「あ、はい。承知しました!」 突然の頼みに驚くも亜季は引き受ける。書類を受ける。すると付箋が貼ってあったことに気づいた。何気に見てみると、『今夜食事でもどうだ? いいなら、こないだの喫茶店で待っていてくれ』 と、そう書いてあるではないか。二度目の食事のお誘いだった。まさかの出来事に亜季は嬉しくなる。 課長を見ると少し恥ずかしそうに頬を染めながら「頼んだぞ!」と言ってきた。「はい」 亜季は笑顔で返事をすると部署を出る。付箋を剥がしながら、もう一度見た。 自然と笑みがこぼれてしまう。また、同じ小料理屋に連れて行ってくれるのだろうか? 嬉しくて、その付箋をこっそりとポケットの中に入れた。そして、そのまま経理課に行き、受け取った書類を渡した。 仕事が終わると、私はこの前と同じ駅近くにある喫茶店で待つことに。 二度目でも、まだ心臓がドキドキしていた。会社とは、また違う櫻井課長が見える。 今日は、どんな発見があるのだろうか? しばらく待っていると課長が店内に入ってきた。「すまない。また遅くなった。待ったか?」「いえ、さっき来たばかりだから大丈夫です」「……そうか。じゃあ、行こうか」「はい」 謝ってくる櫻井課長に亜季は笑顔を向ける。そして伝票を持ち会計を済ませた。 連れて行かれたのは、美奈子と行ったことがあるイタリアンのお店だった。「女子社員に人気だと聞いたから、来たことはあるか?」「あ、はい。玉田さんと一緒に」「……そうか。俺と一緒では嫌かも知れないけど、今日は我慢してくれ」「いえ……全然構いません」 何だか照れくさいけど嬉しい。 だが店内に入ると、すぐに澤村梨香を見かけてしまう。 (あ、澤村さん達だわ!? どうしよう) 一緒に居る所を見られたら何を言われるか分かったものではない。 噂が好きな人たちだ。課長に迷惑をかけてしまうだろう。「どうした? 松井」「あ、いえ……その」 どうしたらいいか戸惑っていると課長も澤村梨香たちに気づいてしまう。 戸惑う亜季を察したのだろう。「……店を替えるか」「あ、でも……」 櫻井課長は、そう言うと先に店から出てしまった。 どうしよう。このままだと櫻井課長を見られるのが嫌だと勘違いされてし
泣きそうになっている亜季に、櫻井課長は咳払いをしてきた。でも、まだ耳まで赤くなっているのが分かる。照れいるのだろうか?「とにかく、何処かの店に入ろう。えっと……この前の小料理屋でもいいか?」「あ、はい」 亜季は、すぐさま返事をする。そのまま歩いて小料理屋に向かった。 店に着いても何だか鼓動が高鳴って落ち着かない。この前と違うメニューを頼みビールを飲んでいると、櫻井課長の方から話しかけてくれた。「さっきの……あまり男性に言わない方がいい」「えっ? どうしてですか?」 もしかして気に障ったのだろうか? どうしようと亜季は不安になってしまった。「……男が変に勘違いをしてしまうからだ。俺に気があるのかって」「えっ……?」 その言葉に亜季は。また頬が熱くなってしまう。 櫻井課長に気があると想われちゃったのだろうか? だけど亜季は、それが嫌だと思わなかった。それよりも、ドキドキと鳴っている心臓の方がうるさい。「もちろん勘違いだと分かっているが、あまり男性を刺激しない方がいい。トラブルになったりするから。君は、もう少し警戒心を持った方がいい」「……はい。すみませんでした」 ちょっと説教気味に注意をされてしまった。謝るが、今度はズキッと心が痛む。 やっぱり怒らせてしまっただろうか? 勘違いさせられたって。しゅんと亜季は落ち込んでしまう。「あ、すまない。またいつもの癖で説教をしてしまった。 別に君を叱りたいわけではないんだ」「……はい。大丈夫です……すみません」 何だか空気が重くなってしまった。これでは、会社に居る時と変わらない。 そうしたら店長が間に入ってきた。「おいおい、櫻井さん。あまり女性に説教したら嫌われちゃうぞ?」「べ、別にそういうわけでは」「すまないねぇ~櫻井さんは君を想って言っただけだから。他の男性に言い寄られたら自分が嫌だからって」 代わりに謝罪をしてきた。それを聞いて課長は慌てだした。 他の男性に言い寄られたら嫌だから……?「あの……それって本当ですか?」 思わず口から出てしまう。すると、また課長は目線を逸らしてきた。 さらに耳まで真っ赤になっていた。「あ、あぁ…まぁ。 今回は俺だったから良かったが……」「私は櫻井課長だから言ったんです。他の人には言いません」 それだけは勘違いされたくない。
亜季と課長は、それからメッセージアプリでやり取りをするように。 話題は、たわいのない出来事だけど。顔が見えないせいか、お互い話が進んでいく。 そこでも櫻井課長の意外な素顔や新しい発見をする。『櫻井課長。今何をしているのですか? 私は今日借りてきたⅮⅤⅮを観ています』『さっきまでジョギングをしていた。汗をかいたからシャワーを浴びていたところだ』 ジョギングとは、いつもこの時間帯で走っているのだろうか?それに何キロを? 気になりメッセージをしてみた。『いつも何キロ走っているのですか?』『大体五キロぐらいだな。多くて十キロ。ジムも行ったりするが』 多くて十キロとは驚きだ。趣味がトレーニングと言っていたけど。 なかなか走れる距離ではないだろう。亜季は思わず感心する。『凄いですね。私は運動音痴なので、そんなに走れません』『そうなのか? 鍛えると運動音痴も改善するかも知れないぞ。今度いいトレーニング道具を貸してやる』『ありがとうございます。機会がありましたらぜひ』 トレーニング道具か…どんなのだろうか? 亜季はハァッ~と深いため息を吐いた。メッセージで、こんなに話せるなら直接もっと話がしたい。 櫻井課長の前だと緊張してしまい上手く話せない。無口な人だし。 亜季は口下手な方だ。そう思いながらスマホを眺めていた。 櫻井課長は、どんな気持ちでメッセージを打っているのだろうか?同じ気持ちならいいのに。と、ⅮⅤⅮを観ずに、ずっとスマホを眺めていた。 そして待ちに待った日曜日。櫻井課長と映画を観ることになったのだが。 初デートと言ってもいいのだろう。 気合いを入れて最近購入した白色のトップスにジャケット。 藍色のコットンスカート。 会社の時と違って服やメイクに気を使った。 ちょっと、気合い入れ過ぎただろうか? そう思いながら待ち合わせ場所の駅に電車に乗って向かう。 目的地の駅に着くと、既に改札口のそばで櫻井課長が待っていた。 いつものスーツ姿と違って私服姿。グレーのシャツに黒色のジャケットとジーンズ。 意外とお洒落な感じだ。「あの……遅れて申し訳ありません」「大丈夫だ。今さっき着いた」 慌てて謝罪をしながら課長のところに行くと、櫻井課長は何故だか驚いた表情をしていた。そして何も言わずに黙り込んでしまう。(あれ……? もし
モールの中を二人で回る。なんて不思議な感覚だ。 まるで、本物の恋人同士みたいだ。 せっかくだから何をみようかと探していると、櫻井課長が何かを見つけたようだ。 何を見ているのだろうか? 目線の先をたどってみると、スポーツ用品店だった。 なるほど。課長トレーニングが趣味だから興味があるのだろう。「せっかくだからスポーツ用品店でも見ませんか?」「えっ? いや……でも君は、つまらないだろ?」「いえ、どんな商品があるか興味がありますし、平気です」 亜季から誘ってみる。櫻井課長が、どんな商品が好みなのか気になったからだ。 櫻井課長少し遠慮気味だったが、ならと恥ずかしそうに承諾してくれた。 二人でスポーツ用品店の中を見て回ると、櫻井課長は興味津々な感じで新商品の物をチェックし始める。「これは、また新しい商品だな。こっちは、どんな機能が?」 その姿を見ていて、思わず笑みがこぼれる亜季だった。 まるで少年のようだ! 櫻井課長は店員を呼び止めて、新しい商品のことを詳しく聞き始める。 聞き終わると、ハッと気づいたのか亜季を見る櫻井課長。「あ、すまない。つい夢中で……退屈だっただろ?」「フフッ……いえ。意外な一面が見れて楽しかったです」 それは、本当のことだ。新たな櫻井課長の一面を発見する。 スポーツ商品のことになると夢中になる。 そして夢中になる姿は、少年のようで可愛らしい。「そうか? どうも、こういうところに行くと、つい夢中になって周りが見えなくなってしまう。申し訳がない」「フフッ……よく来られるのですか?」「まぁな。新商品が出ると必ずチェックしている。集めるのも好きで」 それは、また興味がある内容だ。 どんな道具があるのだろうか? もっと、もっと櫻井課長のことが知りたい。亜季はそう思った。「その話、もっと聞いてみたいです!」「そうか? あまり面白いものでもないぞ? あ、そろそろ映画が始まる時間だな。そろそろ出て行こうか?」「はい」 楽しみな映画なのに、ちょっと残念な気持ちになる。 もっと見ていたかったなぁ~と思ってしまった。 仕方がないので映画館に戻ることに。入る前にポップコーンと飲み物を買って、上映を場所に入った。 上演が始まると、観ながらチラッと隣で座っている櫻井課長を覗く亜季。 櫻井課長は真剣な表情で映画
「うん? どうした? 松井」「あ、いえ……何だか面白くて。あ、いえ……何でもありません。すみません」 いけない。つい本音が出てしまうところだった。 見ていたことを知られるのも恥ずかしい、本音を聞かれることの方が恥ずかしい。 意味が分からない様子の櫻井課長は軽く首を傾げていた。 慌てて曖昧な返事をするが、逆に不思議に思われたかもしれない。「……そうか? それよりメニュー決まったか?」(あ、そうだった!?) 亜季は慌ててメニュー表を見る。 うっかり何を注文するか考えていなかった。「えっと~私は、このカルボナーラとシーフードサラダにします」「うむ。分かった」 呼び出しボタンを押し一緒に注文をしてくれた。櫻井課長は、和風ハンバーグセットにしていた。 ハンバーグとか意外な好みで可愛らしいと思った。 注文するとお互いに沈黙が続く。そうしたら櫻井課長が、「俺と一緒で退屈にならなかったか? どうも気の利いた台詞が言えないし」と、そう聞いてくる。「そんな退屈だなんて……とても楽しかったですよ。櫻井課長と一緒に映画が観れて」 内容は観ていなくてサッパリだったけど、退屈だなんて思わなかった。 今でも。逆にドキドキしている自分がいる。「それなら、いいのだが」「今度は、もう少し遠出してみるか? 日帰りで行ける範囲で」「えっ? 日帰りで!?」 頬が熱くなってきた。まさかの日帰りのお誘いだった。「まぁ、君が嫌ではなくて、都合のいい時にでも」「いつでも大丈夫です!」 思わず亜季は即答してしまった。 あっと思ったが、凄く行きたいと思った。断る理由もない。「そうか。なら何処か、いいところがないか考えておく」「はい……分かりました」 自分も照れてしまう。何だか不思議な気分で心臓がドキドキと高鳴ってしまう。 この音をバレないようにしなくては……。「あの~それよりも、さっきのトレーニングのことを、もっと知りたいです」 思い切って聞いてみた。 課長は亜季の発言に驚いていたが、色々と話してくれた。 料理が来ても。熱い解説が続く。 夢中で話す姿は怖いってよりも、少し少年に近い。 トレーニングや道具のどれが好きなのか分かるぐらいに教えてくれた。「あ、えっと……つい熱弁をふるってしまった。すまない」「いえ、よく分かりましたし。勉強になりまし
そして待ちに待ったデート当日。 亜季は、アパートのそばで待っていた。車で迎えに来てくれるらしい。 コンパクトミラーを見ながら服装と髪型やメイクの身だしなみチェックをする。 ベージュ色の長袖ニット。グレーのロングスカート。そしてショートブーツ。 植物園に行くのでカジュアルな服装にした。 櫻井課長の隣で歩くなら、ちゃんとした大人の女性に見られたい。 そうしたら櫻井課長が乗った黒色の車が目の前で停まった。 ガチャッとドアが開き「悪い。待たせたな」と言って出てきた。「いえ……大丈夫です。おはようございます」「おはよう。では行くか」 慌てて頭を下げ挨拶をすると、櫻井課長は助手席まで回ってドアを開けてくれた。 紳士的だ。それに服装もカッコいい。 黒色のタートルネックとズボン。ネックレスも付けており、茶色のロングコート。 亜季はお礼を言うと、気恥ずかしそうに助手席に乗り込む。 櫻井課長は運転席に乗り込むと車を走らせた。 チラッと亜季が見ると、黒色のサングラスをかけていた。 サングラスの姿が少しヤクザっぽく見える。内心そう思ったら、何だか笑えてくる。「フフッ……」「うん? 何が可笑しい?」「あ、いえ……何でもありません」 さすがに言うのは、やめておこう。失礼だし。 高速道路に乗り、しばらく走ったあと、近くのサービスエリアで車を停めてトイレ休憩をした。 櫻井課長は、お手洗いと何か飲み物を買って来ると言い、車から降りた。 亜季は大人しく車の中で待っていた。 そうしたら後部座席の隅っこに雑誌が置いてあることに気づく。「何かしら? これは?」 興味本位でシートベルトを外すと手を伸ばして、その雑誌を手に取ってみる。 そしてシートベルトを付け付け直すと、表紙を見てみることに。 雑誌には『デートスポット特集号』と書いてあった。ペラッと、めくると⃝⃝植物園などに付箋が付けてある。 もしかしてこれを見て選んでくれたのだろうか? 違う付箋のを見ると、レストランにも貼ってある。 やっぱり。わざわざ雑誌を買って参考にしたのだろう。 その姿を想像したら、何だか身体の中がポカポカした。キュンとする気持ちが確かにあった。「課長……可愛い」 亜季はそう自然に想うと笑みがこぼれた。 しばらくして櫻井課長が飲み物を持って慌てて戻ってくる。「
そして待ちに待ったデート当日。 亜季は、アパートのそばで待っていた。車で迎えに来てくれるらしい。 コンパクトミラーを見ながら服装と髪型やメイクの身だしなみチェックをする。 ベージュ色の長袖ニット。グレーのロングスカート。そしてショートブーツ。 植物園に行くのでカジュアルな服装にした。 櫻井課長の隣で歩くなら、ちゃんとした大人の女性に見られたい。 そうしたら櫻井課長が乗った黒色の車が目の前で停まった。 ガチャッとドアが開き「悪い。待たせたな」と言って出てきた。「いえ……大丈夫です。おはようございます」「おはよう。では行くか」 慌てて頭を下げ挨拶をすると、櫻井課長は助手席まで回ってドアを開けてくれた。 紳士的だ。それに服装もカッコいい。 黒色のタートルネックとズボン。ネックレスも付けており、茶色のロングコート。 亜季はお礼を言うと、気恥ずかしそうに助手席に乗り込む。 櫻井課長は運転席に乗り込むと車を走らせた。 チラッと亜季が見ると、黒色のサングラスをかけていた。 サングラスの姿が少しヤクザっぽく見える。内心そう思ったら、何だか笑えてくる。「フフッ……」「うん? 何が可笑しい?」「あ、いえ……何でもありません」 さすがに言うのは、やめておこう。失礼だし。 高速道路に乗り、しばらく走ったあと、近くのサービスエリアで車を停めてトイレ休憩をした。 櫻井課長は、お手洗いと何か飲み物を買って来ると言い、車から降りた。 亜季は大人しく車の中で待っていた。 そうしたら後部座席の隅っこに雑誌が置いてあることに気づく。「何かしら? これは?」 興味本位でシートベルトを外すと手を伸ばして、その雑誌を手に取ってみる。 そしてシートベルトを付け付け直すと、表紙を見てみることに。 雑誌には『デートスポット特集号』と書いてあった。ペラッと、めくると⃝⃝植物園などに付箋が付けてある。 もしかしてこれを見て選んでくれたのだろうか? 違う付箋のを見ると、レストランにも貼ってある。 やっぱり。わざわざ雑誌を買って参考にしたのだろう。 その姿を想像したら、何だか身体の中がポカポカした。キュンとする気持ちが確かにあった。「課長……可愛い」 亜季はそう自然に想うと笑みがこぼれた。 しばらくして櫻井課長が飲み物を持って慌てて戻ってくる。「
亜季たちは植物園を出ると、近くにあった広場で弁当を出した。 この日のために亜季は朝早く起きして作った。 入ってくれるだろうか?「これを君が作ったのか?」「はい。口に合うか分かりませんが良かったら、どうぞ」「ありがとう……美味しそうだ。いただきます!」 早速、櫻井課長は一口食べてくれた。 どうだろうか? 口に合わなかったらどうしよう。「あの……味は、どうでしようか? 不味かったら、すみません」「うむ、美味しい。この卵焼きも、なかなか」「そうですか……良かった」 味を噛みしめながら食べていた。 まだ心臓がドキドキするけど自信作だった卵焼きを褒めてくれた。「これもなかなか。松井は、ちゃんと料理ができるじゃないか」「あ、ありがとうございます。また、今度も作ってきますね!」 嬉しくて、つい亜季は大胆発言を言ってしまう。 ハッと気づく。恥ずかしさで頬が熱くなってしまう。 また作るだなんて……恥ずかしい。「あ、すみません。つい調子を……」「そうか? それは楽しみだな」 そう言って、櫻井課長は静かに笑ってくれた。 ドクンッと櫻井課長の言葉は、いつも高鳴って、心臓に悪い。 思わないところで、また作れるチャンスができてしまった。光栄なことだ。「はい……楽しみにしていて下さい」 亜季は照れながらも、そう伝えた。 何だかいい雰囲気になっていく。 その後。弁当を食べ終わるとパンフレットを見ていた。 次は何処に行こうかと話し合う。 ハーブ園も行きたいけど、珍しい花も見たい。すると櫻井課長が何かに気づいた。「何か花の種まきがあるらしいぞ。記念に種が貰えるらしい」「本当ですか? やってみたいです」「じゃあ、行ってみよう。えっと~場所と時間は。あ、そう離れていないな」 パンフレットを見て、場所を確認してくれた。 種まきなんて二人でやったら、いい思い出になるだろう。 しかも記念に貰えるなんて嬉しい。完成したら大切に育てたいと思った。 そして二人でイベントをやっている場所に向かう。 スタッフに小さな鉢植えと種を貰う。亜季は真剣にやっていると櫻井課長が、「松井。頬に汚れがついている」と言ってきた。「えっ? いやだ……恥ずかしい)。 亜季は慌てて頬を擦る。ちゃんと取れただろうか?「あぁ、余計に汚れる……ちょっと待っていろ」
「今日のお前は、よく喋るな。まったく」 櫻井課長は、ため息を吐くと苦笑いしながら、こちらを見てきた。 亜季の心臓はドキッと高鳴ってしまう。「嫌ですか……? こんなお喋りな私は」 ジッと櫻井課長を見つめる。頬と身体は火照って熱い。 それは、酔っているせいか分からないけど。「いや……悪くない。むしろ早く声をかけるべきだったなぁと、今さらながら思う」「そうですよ! でしたら、次は櫻井課長が介抱して下さい」「松井……それ。どういう意味か分かって言っているのか?」「えっ?」 亜季は、きょとんと櫻井課長の方を見る。何をだろうか? 酔っているせいか、今日は大胆な発言が多いと自分でも思う。 しかし、その内容にイマイチ理解はできていない。「何がです?」「それは男から見たら、誘っているようにしか聞こえないぞ。もう少し警戒心を持て」「誘っている? 私が……何で?」 どうも酔っているせいか頭が回らない亜季。 よく分からないので首を傾げる。すると櫻井課長は目線を逸らすと、車から出ようとしてきた。「悪い……やっぱり頭を冷やしてくる」(何で櫻井課長が車から出ようとするの? 嫌だ。行かないほしい) 亜季は必死に腕を引っ張って止める。「ま、待って下さい! 私を置いて、外に出て行かないで下さい」「あ、こら。そんなに引っ張るな!?」 引っ張ったため衝撃で、櫻井課長の胸元に倒れ込む亜季。そのまま抱き締められた状態になってしまった。 お互い見つめ合う。 そうすると自然と唇が近くなり、重なり合ってしまう。 これが櫻井課長との初めてのキスだった。 亜季は目をつぶり、その感触を味わう。櫻井課長も、そのまま何度も角度を変えて唇を重ねてくる。 甘いキスから深いキスになっていく。 ソッと唇を離すと、櫻井課長は照れたように目線を逸らしてきた。「そろそろ帰るか。夜は冷え込む」「……はい」 亜季は小さく頷いた。 その後は自宅まで無事に送ってもらった。 頭がぼんやりとキスのことばかり考えて、あんまり覚えていない。 そして翌朝。 目を覚ました亜季は普通の日常に戻るが、徐々に記憶を取り戻していく。 酔った後のことの重大さを思い出し、亜季は慌てるはめに。「どうしよう。私……昨日、櫻井課長とキスをしちゃった!?」 これって大変なことだ。それこそ、今後の対応次第
「あぁ君が良ければ、また行こう。今度も何かいいところがないか調べておく」「は、はい。よろしくお願いします」 亜季は嬉しそうに頭を下げる。賛成してくれたのが嬉しかった。 すると丁度よく料理が運ばれた。 季節のパスタやシーフードサラダ。そしてグラタンやスープなど。お洒落で豪華な料理が並ぶ。「うわぁ~美味しそう」「これは、豪華だな。早速食べるとしよう。いただきます」 櫻井課長は手を合わせると、スプーンを手に取って、先にスープを飲んだ。 トマトとオニオンのスープだった。 亜季はシーフードサラダの方を食べてみる。新鮮で美味しい。 スープも飲んでみたけど、これも美味しかった。「うむ……美味しいな。さっぱりとしていて」「はい。ワインも飲んでみようかしら?」 亜季は一口飲んでみた。 甘味がるので女性好みの飲みやすいワインだった。美味しい。「これも美味しいですねぇ~」 ついつい調子の乗って、たくさん飲んでしまう。 ご馳走のパスタなども凄く美味しくて、あっという間に全部食べてしまった。 ちょっとほろ酔いで、気分も楽しくなる。 会計は櫻井課長が全額出してくれた。 申し訳なく思いながらも車に乗り込み、路上を走らせた。走っている最中に、外を見ると綺麗な夜景が続いていた。「フフッ、いい眺め。課長~もう少し、この景色を楽しみませんか?」「楽しむって、どうやって?」「何処か景色が一望できる場所に行くんですよ! えっと……確かチラッと見た時に雑誌に載っていたような」 櫻井課長が運転をしながら尋ねてくるので、亜季は勝手にシートベルトを外して、置いた雑誌を手に取って広げ始める。 ほろ酔いのせいか、ちょっと大胆になっていた。「こら、勝手にシートベルトを外すな!? 危ないだろ?」「あ、あった。この場所なら見れますね!」 付箋が貼ってあるレストランのページに、景色が一望できる場所として載っていた。 得意げに櫻井課長に見せる。「確かに。ここから近いな。なら、行ってみるか?」「はい。お願いします」 亜季はニコッと笑顔を見せた。 櫻井課長は、言われるがまま車を走らせて、目的の場所まで行ってくれた。 少し外れに景色が一望できる場所があった。 確かに綺麗だった。もちろんデートスポットのため、あちらこちらでカップルが乗った車が停まっている。 ベン
植物館から出ると車が停めてあった駐車場に向かう。 車の助手席に座るとドアを閉じてからシートベルトをする。 すると運転席に座った櫻井課長が、「良かったな。種が貰えて」と言ってくれた。「はい。家に帰ったら早速まかないと」「そうだ、俺の種もやる。持っていってもいいぞ」「えっ? いいんですか?」「あぁ、俺が育てたら枯らしそうだからな。松井に育ててもらった方が花も喜ぶだろう」 櫻井課長はそう言いながら持っていた鉢植えをくれた。 そしてシートベルトを付けると、鍵を回してエンジンをかけ始める。 櫻井課長の貰ってしまった。 確かに忙しいから、ちゃんと育てられるとは思えない。「じゃあ、咲いたら課長にも見せますね!」「あぁ、楽しみにしている」 櫻井課長は、そう言ってこちらを見てくれた。嬉しい。 ちゃんと咲かせるように育てなくては。 何だか責任重大である。 帰ったら、すぐにベランダに置こう。「もうすぐ着くぞ」 前を見るとイタリアンのお店が見えてきた。 雑誌で見た人気のお店だろう。白色で洋館風の建物が印象的だ。「うわぁ~素敵なお店ですね」「あぁ、パスタが特に美味しいと評判らしいぞ? ピザも窯焼きらしい。オーナーがイタリアで長年修業をしてきたとか」 車を停めながら櫻井課長がそう言ってきた。 人気で、お洒落なお店に櫻井課長と一緒に来ている。そう思っただけでも恥ずかしさと嬉しさがこみ上げてくる。 店内に入ると中もお洒落な造りになっていた。イタリアの絵画が飾られてある。 店員に案内されて、テーブル席に座るとメニュー表を見る。 どれも食べてみたい料理ばかりで迷ってしまう。(あ、このオーナーお勧め・季節のディナーセットがいいかも) 季節のパスタとグラタンなどがセットになっている。グラタンをピザに変更ができるし、デザートも付いている。 これなら、どんなパスタが出るのか楽しみだ。「決まったか?」「はい。私は、このオーナーお勧め・季節のディナーセットを」「じゃあ、俺も同じのにするかな。ワインは、どうする? 俺は運転があるから飲めないが……飲むか?」「いえ……遠慮しておきます」「どうしてだ? 別に俺に気を使わなくてもいいぞ」 少し飲みたいけど、本当に頼んでも大丈夫だろうか? 上司の櫻井課長が飲まないのに。でも薦めているのに、頼まないの
亜季たちは植物園を出ると、近くにあった広場で弁当を出した。 この日のために亜季は朝早く起きして作った。 入ってくれるだろうか?「これを君が作ったのか?」「はい。口に合うか分かりませんが良かったら、どうぞ」「ありがとう……美味しそうだ。いただきます!」 早速、櫻井課長は一口食べてくれた。 どうだろうか? 口に合わなかったらどうしよう。「あの……味は、どうでしようか? 不味かったら、すみません」「うむ、美味しい。この卵焼きも、なかなか」「そうですか……良かった」 味を噛みしめながら食べていた。 まだ心臓がドキドキするけど自信作だった卵焼きを褒めてくれた。「これもなかなか。松井は、ちゃんと料理ができるじゃないか」「あ、ありがとうございます。また、今度も作ってきますね!」 嬉しくて、つい亜季は大胆発言を言ってしまう。 ハッと気づく。恥ずかしさで頬が熱くなってしまう。 また作るだなんて……恥ずかしい。「あ、すみません。つい調子を……」「そうか? それは楽しみだな」 そう言って、櫻井課長は静かに笑ってくれた。 ドクンッと櫻井課長の言葉は、いつも高鳴って、心臓に悪い。 思わないところで、また作れるチャンスができてしまった。光栄なことだ。「はい……楽しみにしていて下さい」 亜季は照れながらも、そう伝えた。 何だかいい雰囲気になっていく。 その後。弁当を食べ終わるとパンフレットを見ていた。 次は何処に行こうかと話し合う。 ハーブ園も行きたいけど、珍しい花も見たい。すると櫻井課長が何かに気づいた。「何か花の種まきがあるらしいぞ。記念に種が貰えるらしい」「本当ですか? やってみたいです」「じゃあ、行ってみよう。えっと~場所と時間は。あ、そう離れていないな」 パンフレットを見て、場所を確認してくれた。 種まきなんて二人でやったら、いい思い出になるだろう。 しかも記念に貰えるなんて嬉しい。完成したら大切に育てたいと思った。 そして二人でイベントをやっている場所に向かう。 スタッフに小さな鉢植えと種を貰う。亜季は真剣にやっていると櫻井課長が、「松井。頬に汚れがついている」と言ってきた。「えっ? いやだ……恥ずかしい)。 亜季は慌てて頬を擦る。ちゃんと取れただろうか?「あぁ、余計に汚れる……ちょっと待っていろ」
そして待ちに待ったデート当日。 亜季は、アパートのそばで待っていた。車で迎えに来てくれるらしい。 コンパクトミラーを見ながら服装と髪型やメイクの身だしなみチェックをする。 ベージュ色の長袖ニット。グレーのロングスカート。そしてショートブーツ。 植物園に行くのでカジュアルな服装にした。 櫻井課長の隣で歩くなら、ちゃんとした大人の女性に見られたい。 そうしたら櫻井課長が乗った黒色の車が目の前で停まった。 ガチャッとドアが開き「悪い。待たせたな」と言って出てきた。「いえ……大丈夫です。おはようございます」「おはよう。では行くか」 慌てて頭を下げ挨拶をすると、櫻井課長は助手席まで回ってドアを開けてくれた。 紳士的だ。それに服装もカッコいい。 黒色のタートルネックとズボン。ネックレスも付けており、茶色のロングコート。 亜季はお礼を言うと、気恥ずかしそうに助手席に乗り込む。 櫻井課長は運転席に乗り込むと車を走らせた。 チラッと亜季が見ると、黒色のサングラスをかけていた。 サングラスの姿が少しヤクザっぽく見える。内心そう思ったら、何だか笑えてくる。「フフッ……」「うん? 何が可笑しい?」「あ、いえ……何でもありません」 さすがに言うのは、やめておこう。失礼だし。 高速道路に乗り、しばらく走ったあと、近くのサービスエリアで車を停めてトイレ休憩をした。 櫻井課長は、お手洗いと何か飲み物を買って来ると言い、車から降りた。 亜季は大人しく車の中で待っていた。 そうしたら後部座席の隅っこに雑誌が置いてあることに気づく。「何かしら? これは?」 興味本位でシートベルトを外すと手を伸ばして、その雑誌を手に取ってみる。 そしてシートベルトを付け付け直すと、表紙を見てみることに。 雑誌には『デートスポット特集号』と書いてあった。ペラッと、めくると⃝⃝植物園などに付箋が付けてある。 もしかしてこれを見て選んでくれたのだろうか? 違う付箋のを見ると、レストランにも貼ってある。 やっぱり。わざわざ雑誌を買って参考にしたのだろう。 その姿を想像したら、何だか身体の中がポカポカした。キュンとする気持ちが確かにあった。「課長……可愛い」 亜季はそう自然に想うと笑みがこぼれた。 しばらくして櫻井課長が飲み物を持って慌てて戻ってくる。「
そして待ちに待ったデート当日。 亜季は、アパートのそばで待っていた。車で迎えに来てくれるらしい。 コンパクトミラーを見ながら服装と髪型やメイクの身だしなみチェックをする。 ベージュ色の長袖ニット。グレーのロングスカート。そしてショートブーツ。 植物園に行くのでカジュアルな服装にした。 櫻井課長の隣で歩くなら、ちゃんとした大人の女性に見られたい。 そうしたら櫻井課長が乗った黒色の車が目の前で停まった。 ガチャッとドアが開き「悪い。待たせたな」と言って出てきた。「いえ……大丈夫です。おはようございます」「おはよう。では行くか」 慌てて頭を下げ挨拶をすると、櫻井課長は助手席まで回ってドアを開けてくれた。 紳士的だ。それに服装もカッコいい。 黒色のタートルネックとズボン。ネックレスも付けており、茶色のロングコート。 亜季はお礼を言うと、気恥ずかしそうに助手席に乗り込む。 櫻井課長は運転席に乗り込むと車を走らせた。 チラッと亜季が見ると、黒色のサングラスをかけていた。 サングラスの姿が少しヤクザっぽく見える。内心そう思ったら、何だか笑えてくる。「フフッ……」「うん? 何が可笑しい?」「あ、いえ……何でもありません」 さすがに言うのは、やめておこう。失礼だし。 高速道路に乗り、しばらく走ったあと、近くのサービスエリアで車を停めてトイレ休憩をした。 櫻井課長は、お手洗いと何か飲み物を買って来ると言い、車から降りた。 亜季は大人しく車の中で待っていた。 そうしたら後部座席の隅っこに雑誌が置いてあることに気づく。「何かしら? これは?」 興味本位でシートベルトを外すと手を伸ばして、その雑誌を手に取ってみる。 そしてシートベルトを付け付け直すと、表紙を見てみることに。 雑誌には『デートスポット特集号』と書いてあった。ペラッと、めくると⃝⃝植物園などに付箋が付けてある。 もしかしてこれを見て選んでくれたのだろうか? 違う付箋のを見ると、レストランにも貼ってある。 やっぱり。わざわざ雑誌を買って参考にしたのだろう。 その姿を想像したら、何だか身体の中がポカポカした。キュンとする気持ちが確かにあった。「課長……可愛い」 亜季はそう自然に想うと笑みがこぼれた。 しばらくして櫻井課長が飲み物を持って慌てて戻ってくる。「
「うん? どうした? 松井」「あ、いえ……何だか面白くて。あ、いえ……何でもありません。すみません」 いけない。つい本音が出てしまうところだった。 見ていたことを知られるのも恥ずかしい、本音を聞かれることの方が恥ずかしい。 意味が分からない様子の櫻井課長は軽く首を傾げていた。 慌てて曖昧な返事をするが、逆に不思議に思われたかもしれない。「……そうか? それよりメニュー決まったか?」(あ、そうだった!?) 亜季は慌ててメニュー表を見る。 うっかり何を注文するか考えていなかった。「えっと~私は、このカルボナーラとシーフードサラダにします」「うむ。分かった」 呼び出しボタンを押し一緒に注文をしてくれた。櫻井課長は、和風ハンバーグセットにしていた。 ハンバーグとか意外な好みで可愛らしいと思った。 注文するとお互いに沈黙が続く。そうしたら櫻井課長が、「俺と一緒で退屈にならなかったか? どうも気の利いた台詞が言えないし」と、そう聞いてくる。「そんな退屈だなんて……とても楽しかったですよ。櫻井課長と一緒に映画が観れて」 内容は観ていなくてサッパリだったけど、退屈だなんて思わなかった。 今でも。逆にドキドキしている自分がいる。「それなら、いいのだが」「今度は、もう少し遠出してみるか? 日帰りで行ける範囲で」「えっ? 日帰りで!?」 頬が熱くなってきた。まさかの日帰りのお誘いだった。「まぁ、君が嫌ではなくて、都合のいい時にでも」「いつでも大丈夫です!」 思わず亜季は即答してしまった。 あっと思ったが、凄く行きたいと思った。断る理由もない。「そうか。なら何処か、いいところがないか考えておく」「はい……分かりました」 自分も照れてしまう。何だか不思議な気分で心臓がドキドキと高鳴ってしまう。 この音をバレないようにしなくては……。「あの~それよりも、さっきのトレーニングのことを、もっと知りたいです」 思い切って聞いてみた。 課長は亜季の発言に驚いていたが、色々と話してくれた。 料理が来ても。熱い解説が続く。 夢中で話す姿は怖いってよりも、少し少年に近い。 トレーニングや道具のどれが好きなのか分かるぐらいに教えてくれた。「あ、えっと……つい熱弁をふるってしまった。すまない」「いえ、よく分かりましたし。勉強になりまし
モールの中を二人で回る。なんて不思議な感覚だ。 まるで、本物の恋人同士みたいだ。 せっかくだから何をみようかと探していると、櫻井課長が何かを見つけたようだ。 何を見ているのだろうか? 目線の先をたどってみると、スポーツ用品店だった。 なるほど。課長トレーニングが趣味だから興味があるのだろう。「せっかくだからスポーツ用品店でも見ませんか?」「えっ? いや……でも君は、つまらないだろ?」「いえ、どんな商品があるか興味がありますし、平気です」 亜季から誘ってみる。櫻井課長が、どんな商品が好みなのか気になったからだ。 櫻井課長少し遠慮気味だったが、ならと恥ずかしそうに承諾してくれた。 二人でスポーツ用品店の中を見て回ると、櫻井課長は興味津々な感じで新商品の物をチェックし始める。「これは、また新しい商品だな。こっちは、どんな機能が?」 その姿を見ていて、思わず笑みがこぼれる亜季だった。 まるで少年のようだ! 櫻井課長は店員を呼び止めて、新しい商品のことを詳しく聞き始める。 聞き終わると、ハッと気づいたのか亜季を見る櫻井課長。「あ、すまない。つい夢中で……退屈だっただろ?」「フフッ……いえ。意外な一面が見れて楽しかったです」 それは、本当のことだ。新たな櫻井課長の一面を発見する。 スポーツ商品のことになると夢中になる。 そして夢中になる姿は、少年のようで可愛らしい。「そうか? どうも、こういうところに行くと、つい夢中になって周りが見えなくなってしまう。申し訳がない」「フフッ……よく来られるのですか?」「まぁな。新商品が出ると必ずチェックしている。集めるのも好きで」 それは、また興味がある内容だ。 どんな道具があるのだろうか? もっと、もっと櫻井課長のことが知りたい。亜季はそう思った。「その話、もっと聞いてみたいです!」「そうか? あまり面白いものでもないぞ? あ、そろそろ映画が始まる時間だな。そろそろ出て行こうか?」「はい」 楽しみな映画なのに、ちょっと残念な気持ちになる。 もっと見ていたかったなぁ~と思ってしまった。 仕方がないので映画館に戻ることに。入る前にポップコーンと飲み物を買って、上映を場所に入った。 上演が始まると、観ながらチラッと隣で座っている櫻井課長を覗く亜季。 櫻井課長は真剣な表情で映画
亜季と課長は、それからメッセージアプリでやり取りをするように。 話題は、たわいのない出来事だけど。顔が見えないせいか、お互い話が進んでいく。 そこでも櫻井課長の意外な素顔や新しい発見をする。『櫻井課長。今何をしているのですか? 私は今日借りてきたⅮⅤⅮを観ています』『さっきまでジョギングをしていた。汗をかいたからシャワーを浴びていたところだ』 ジョギングとは、いつもこの時間帯で走っているのだろうか?それに何キロを? 気になりメッセージをしてみた。『いつも何キロ走っているのですか?』『大体五キロぐらいだな。多くて十キロ。ジムも行ったりするが』 多くて十キロとは驚きだ。趣味がトレーニングと言っていたけど。 なかなか走れる距離ではないだろう。亜季は思わず感心する。『凄いですね。私は運動音痴なので、そんなに走れません』『そうなのか? 鍛えると運動音痴も改善するかも知れないぞ。今度いいトレーニング道具を貸してやる』『ありがとうございます。機会がありましたらぜひ』 トレーニング道具か…どんなのだろうか? 亜季はハァッ~と深いため息を吐いた。メッセージで、こんなに話せるなら直接もっと話がしたい。 櫻井課長の前だと緊張してしまい上手く話せない。無口な人だし。 亜季は口下手な方だ。そう思いながらスマホを眺めていた。 櫻井課長は、どんな気持ちでメッセージを打っているのだろうか?同じ気持ちならいいのに。と、ⅮⅤⅮを観ずに、ずっとスマホを眺めていた。 そして待ちに待った日曜日。櫻井課長と映画を観ることになったのだが。 初デートと言ってもいいのだろう。 気合いを入れて最近購入した白色のトップスにジャケット。 藍色のコットンスカート。 会社の時と違って服やメイクに気を使った。 ちょっと、気合い入れ過ぎただろうか? そう思いながら待ち合わせ場所の駅に電車に乗って向かう。 目的地の駅に着くと、既に改札口のそばで櫻井課長が待っていた。 いつものスーツ姿と違って私服姿。グレーのシャツに黒色のジャケットとジーンズ。 意外とお洒落な感じだ。「あの……遅れて申し訳ありません」「大丈夫だ。今さっき着いた」 慌てて謝罪をしながら課長のところに行くと、櫻井課長は何故だか驚いた表情をしていた。そして何も言わずに黙り込んでしまう。(あれ……? もし