All Chapters of 鬼課長とのお見合いで: Chapter 21 - Chapter 30

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第二十一話。

 「ううん。私が大事な書類の上に、こぼしたのがいけなかったから。櫻井課長は何も悪くないわ」「まぁ…そうだけど。でも亜季とはキスまでした仲なのに」 美奈子は納得いかない様子だった。本当にいい友人で同僚だと思う。 亜季のことを心配してくれる。「上司として正しい判断だと思うわ。私に特別扱いして怒らないとかフェアではないもの」 それは、さすがに上司としてはまずいと思う。 ひいきに繋がってしまうし、周りが納得しないだろう。 櫻井課長も特別扱いはできないと最初から言っていたし。「あんたは、大人ねぇ~私なら怒っちゃうわよ」 美奈子は呆れながら、そう言ってきた。櫻井課長は意味もなく怒る人ではない。 それは理解している。 だから余計に、落ち込んでしまったのだ。「まぁ、気にしないことね。もしかしたら、今頃は反省しているかも知れないし」「……うん。だと……いいけど」 亜季は、ため息を吐く。 美奈子と一緒に部署に戻ることにするが緊張感のまま。もう一度謝りたいが。 しかし電話中だったため、声はかけられない状態だった。 仕方がない。後にするかと思い、自分の席に戻ることに。 チラッとデスクを見ると、自分のスマホがチカチカと光っていた。 仕事中に私用の携帯を使うのはダメなのだが、気になって確かめてみる。 メッセージアプリに着信が2件。1件目は櫻井課長からだった。『さっきは立場とはいえ、言い過ぎた。すまない。今夜でも、お詫びをさせてくれ』 そう書いてあった。 気にしてくれていたようだ。 言い過ぎたって。チラッと櫻井課長の方を見ると、まだ電話中だった。 亜季は嬉しくて心臓が高鳴った。 まさかメッセージをくれるなんて。早速、返事を書いた。『こちらこそ。申し訳ありませんでした。お詫びは、こちらからさせて下さい』 これで、良し。 いつも誘って貰うばかりなので、たまには亜季から誘った。 そう思いながらも送信すると、もう1つのメッセージを覗く。母親からだった。『今日話があるから、あなたのアパートで待っているから。そのまま帰って来て』 そう書いてあった。また、お説教だろうか? お見合いの件が、どうなったかは母親に言っていないからだ。 きっと心配していることだろう。「どうしたの? 亜季」「母親からメッセージ。今日私のアパートに来るって。多分、説
last updateLast Updated : 2025-03-04
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第二十二話。

母に言われると思っていたけど、やっぱり言われたか。家事のことを。 「分かっているわよ。自宅に居る時は、なるべく作るようにしているから」 「ならいいけど……。そんなことよりも、あれから、どうなったのよ? あなたたちの関係は?」 「うっ……」  早速、直球に言われてしまう。 どう反応したらいいか分からず戸惑った。課長とは色々あったばかりだ。 「まぁ…上司だし。毎日会っているわよ」 「会社のことも大事だけど、プライベートのことよ! まさか、断っていないでしょうね!?」  もし断ったりしていたら、うるさかっただろう。今も、うるさいのに。 それこそ顔向けができないとか色々言われそう。 亜季は、ため息を吐きながら座ると手を合わせる。 「いただきます。大丈夫。こないだも一緒に食事をしたばかりだし」 「まぁ、本当なの!? で、どこまで話が進んでいるの? 式の予定はいつ?」  式って……話が飛び過ぎだろう。 いくら、お見合いしたからって、いきなり結婚の話とは。今の時代はデートを重ねた上で決めることも多いのに。 「う~ん。そこそこ。たまに一緒に食事するだけ」  さすがに母親にデートしてキスをしたなんて恥ずかしくて言えない。 しかも、今日なんて叱られたなんて……。 言ったら、何を言われるか分かったものではない。 「はぁっ? それだけ? あんた……学生ではないんだから、せめて将来のことぐらい話し合いなさいよね」 「そんな無茶を言わないでよ…上司なんだから」 「いい年なんだから、それぐらいの強引があってもいいわよ。話を進めないと結婚なんて意識されないわよ!? 特に、あんたの場合は」 「そんなにガツガツとできないわよ。私だって立場があるし」  あんたの場合って。母親ながら酷い。 亜季は母の言葉にショックを受ける。それに櫻井課長だって、立場がある。 そう簡単に決められないだろう。亜季自身も。 「ハァッ~これだと結婚は、いつになるか分かったものではないわね。あんまり曖昧にしていると向こうから断られるわよ?」  母は、さらに酷いことを言ってくる。ズキッと、何だか胸が痛む。 櫻井課長に断られる。確かに、そういうことだって有りえるだろう。 亜季が想ったところで向こうが呆れ、愛想を尽かされたら終わりだ。 縁談も無くなる。言葉が出ない。 「とにかく愛想を尽かされないように頑張りなさい。あんたに、次があるかど
last updateLast Updated : 2025-03-05
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第二十三話。

翌日。昨日のことを考えながら、会社に行く。 そうしたら何やら女子社員が集まって色めいていた。 どうしたのだろう? 何かのイベントでもあったのだろうか? 不思議そうに部署に入ると、先に会社に来ていた美奈子が亜季に気づいた。 そして、ウキウキした表情でこちらに来る。「亜季。おはよう。ねぇ、聞いてよ~今日、異動してきた社員が凄いイケメンらしいわよ!?」(異動してきたイケメン?) その瞬間、昨日のイケメン男性社員のことを思い出した。 そういえば、今日からって言っていたような?「……そうなんだ」 思わず亜季の表情が引きつる。 恥ずかしいところを見られて、逃げてしまったばかり。 できたら二度と会いたくないと思っていた人物だ。「しかも、アメリカの姉妹会社から海外企画営業部に異動したらしいの。期待のエリートで有名大学出身とか。かなりレベル高いらしいわよ?」 美奈子の表情は、かなりウキウキしていた。 亜季は余計に返事に困ってしまう。すでに会ってしまった後だけど。 もう学生のような雰囲気で色めく女性社員たち。 その雰囲気に亜季は一歩下がって見ていた。 前の亜季なら多少なりとも興味を持ったかも知れない。 エリートで、かなりのイケメン。女子なら一度ぐらい興味を持つ人物だろう。 だが今の亜季には、まったく惹きつけられるものが無かった。 頭の中は、課長のことばかり。 課長との今後をどうするかは、母親の言葉が頭の中から離れない。 むしろ、そちらの方が重要だった。「もう……反応が薄いわねぇ~亜季。まぁ、あんたの場合は意中の人が居るから、仕方がないけど」「な、別にそんな訳ではないから」 そう話す美奈子に亜季の頬は熱くなってしまった。 すると、その瞬間だった。大きな怒鳴り声が聞こえてくる。「こら、お前らココは会社だぞ!? 朝から無駄口叩いている前に、さっさと仕事を片付けろ」 出勤してすぐに櫻井課長の怒鳴り声が社内に響いた。一同静まり返る。 そして周りは、いつもの通りに自分らの仕事に戻った。 ただし女子社員は不満そうだったけど……。 (課長……さすがだわ)  一言で全員をまとめるなんて、なかなかできないことだろう。 亜季は、別のことで感心していた。 そして自分もデスクに戻ると、美奈子がこっそりと愚痴ってくる。「も~あんたの彼氏
last updateLast Updated : 2025-03-06
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第二十四話。

「これは、八神さん。こんにちは」 「あ、名前覚えてくれたんだ? 嬉しいなぁ~もしかして、もうお昼休み済んだの?」 「えっ? はい…まぁ」  何故お昼休みのことを気にするのだろうか? 亜季は不思議に思いながら首を傾げると、八神さんは、残念そうな表情をしてきた。 「そっか…残念。せっかくだから昨日のことも踏まえて、一緒にランチを食べながら話を聞きたかったのにな」 (えっ? 何故……それを持ち出すの!?)  忘れていてほしかったのに。しかもこんなところで。 亜季は恥ずかしくていたたまれなくなる。 周りの女性社員たちの冷ややかな目線が怖い。 「す、すみませんでした」  亜季は頭を下げると、慌ててその場から逃げ出してしまった。 美奈子がエレベーターそばまで慌てて追いかけてくれたが。 息を切らしながら立ち止まる亜季。全速力で逃げたためヘトヘトだった。 「もう~亜季ったら急に逃げ出さないでよ!? せっかく、あのイケメンの八神さんと話ができたのに」 「……ごめん。どうしてもいたたまれなくて、」  だって、昨日のことを持ち出すからだ。 亜季にとっては忘れて欲しかった。見た記憶を全部。 なのにバッチリ覚えているし。 「あんた、もしかして昨日のことで何か見られたの? 泣いていたとか言っていたじゃない?」 「うっ……」  ここにも鋭い人が居たようだ。 恥ずかしくて思わず黙り込んでしまう。すると美奈子は察したのか、ため息を吐いてきた。 「図星か……」 「だって、まさか彼が来るなんて思わなかったんだもん。しかも泣き顔なんて…恥ずかしいわ」 「まぁ、確かに。でも、吐いたところを見られるよりはマシでしょ? 気にしないことよ!」  確かに吐いたところを見られるよりマシだけど。しかし例えが嫌過ぎる。 思わず宴会の吐いた時のことを思い出してしまった。 他に、もっといい例えがなかったのだろうか? 「美奈子。例えが、ちょっと」 「あら。私は衝撃的だったけど? フフッ……ほら、エレベーターが来たから乗るわよ。どーせ向こうも興味本位だから、その内に忘れるでしょ? 気にしない、気にしない」  意外と気楽に考える美奈子に亜季は苦笑いをする。 そうだといいのだが。 だけど彼の興味本位は、それで終わらなかった。  仕事が終わり、帰るために廊下を歩いていると、「松井さん」と誰かに呼ばれる。 (あの声は……まさか!?)
last updateLast Updated : 2025-03-06
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第二十五話。

「松井さんって、お酒飲める方?」 「いえ……あまり得意ではないですね」  以前の失敗を繰り返さないようにしたい。 どうもお酒を飲むと気持ちが大胆になってしまう。 もし八神にも、やったら大変なことになってしまうだろう。 「そうなんだ? 俺はワインでも飲もうかなぁ~」  八神は鼻歌を口ずさみながらメニュー表を見ている。 彼は随分と陽気な性格をしている。チャラいと言うか。 「そういえば、あれからどうなったの? 上司と上手くやれている?」 「うっ……」  亜季は驚いて飲んでいたお冷を喉に詰まった。 どうも彼は、それが気になって仕方がないようだ。 気にしなくてもいいのに。 「も、もちろんです。あれから、ちゃんと謝りましたし。課長も分かってくれる方なので。それに、後で言い過ぎたと言って謝って下さいました」 「ふ~ん。それなら良かった」  八神はニコッと微笑んできた。 どうして、そこまで自分のことを気にするのだろうか? 別に面白い内容でもないのに。 「あの~何でそんなに気にするんですか? 私のことを」 「う~ん? 泣いていたからかな?」 「泣いていたからって……そんな興味をひくようなものでは?」 亜季は意味が分からないと首を傾げる。 むしろ、いい年した社会人が泣いているとか自分の中では恥ずかしかったのに。 「だって上司に怒られたからって、泣いていたくせに俺が同情して言ったら、怒ったでしょ? 課長のせいではないって。言い訳もしなかった。そういうところを見て、純粋だなぁ~と思ってさ。君に興味を持ったんだ!」  そう話す彼に心臓が高鳴ってしまった。 まさか、男性にそんな風に見てもらえとは思わなかったので、余計に。 亜季に取ったら恥ずかしいことばかり。 怒ったのだって、課長を悪く言われて嫌だったわけで、純粋とかではない。 「八神さん……誤解をしています。私は自分が原因だから認めたわけで、ただの自業自得なだけです」  褒められるような事は何もしていない。 しかし彼はクスッと微笑んでくる。 「だからいいんだよ。今時の子なら言い訳や逆ギレのオンパレードだよ? 自分の非を素直に認められるなんて凄いよ。今の君のようにね」  その言葉に思わず亜季の心臓がまた高鳴ってしまった。 そんな風に思ってくれていると思うと悪い気はしない。 「……ありがとうございます」 「フフッ、照れている。まぁ気になるのは
last updateLast Updated : 2025-03-07
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第二十六話。

「あ、ごめん、ごめん。はい。お水」  お冷やを渡されて、慌てて飲み込んだ。 ふぅ~危なかった。 いきなり言うから、むせかえって苦しかった。 「それで、話を戻すけど。もしかして好きな人って、その叱られた課長なの?」  まだ諦めずに尋ねてきた。意外としつこい。 聞かないでほしいのに何故聞くてくるのだろうか? 彼の発言に亜季は段々とイライラしてくる。 「そ、そうだったらいけませんか? 私が課長のことを……す、好きになっては」  身体が熱くなりながら言い返した。亜季は真剣に惹かれている。 それを、とやかく言ってほしくなかった。 「いや~悪くないよ。言い方が悪かったかな? ごめん」 「あ、いえ……すみません」  怒鳴った自分が恥ずかしくなる。 どうも櫻井課長に関する内容だとムキになってしまうようだ。しかし、それでも八神は食い下がらなかった。 「その課長とは、付き合えそうなの? それか、既に付き合っているの?」 「まだ付き合っていません」 「じゃあ、まだ俺にもチャンスがあるってことだよね?」  櫻井課長とは付き合っていないけど、いい雰囲気になっていると思っていた。 なのに、何を急に言い出すのだろうか? 八神っていう人は。 「だって、これからガンガンアタックしたら、俺の方を好きになってくれるかも知れないだろ?」  八神は諦めるどころか、絶対に振り向かせるような発言をしてきた。 (……えぇっ!?どうして、そういうことになるの? いやいや。私、言いましたよね?)  その発言に亜季は啞然とする。開いた口が塞がらない。 どうして、そのような考え方になるのだろうか? 「あの…ですから私は課長のことが好きなんですけど」 「うん、今さっき理解した。だから、これからもっとアタックして君に俺のことを好きになってもらえるように頑張るよ! 付き合ってないなら、まだチャンスがあるし」  八神は自信満々に、そう言ってきた。 いや、それよりも、これだと八神は亜季に気があるように取れるのは気のせいだろうか? 「八神さんは、私をどうしたいのですか?」 「どうって…普通に付き合いたいだけだよ? 彼女として興味があるし」  亜季は思わず尋ねてみると、八神はあっさりとそう言ってくる。 思いもよらない告白に驚いてしまった。 まさか告白されるなんて、誰も夢にも思わないだろう。 「さぁ、ご飯を食べよう。温かい内に」  八
last updateLast Updated : 2025-03-07
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第二十七話。

 結局。楽しめたのも分からずに食べ終わってしまった。 八神は誘ったのは自分だから奢るよと言われたが断り、割り勘に。 その方が健全だと思ったからだ。 「あ、あの……それでは、おやすみなさい」  亜季は頭を下げ慌てて帰ろうとする。 こんなところを他の女性社員や櫻井課長には見られたくない。 しかし、その時だった。八神に腕を引っ張られ、そのまま抱き締められてしまう。 (えっ!?)  亜季は唖然とする。 まさか八神に抱き締められるとは思っていなかったので焦る。 必死に逃れようとジタバタする。 だが、力強く抱き締められているため逃げられない。 こんなところを誰かに見られたら、最悪だ。 「離して下さ…んっ」  亜季がそう言う前に唇を塞がられてしまった。 (えっ……?)  何が起きているのか、思考が停止してしまって動けない。 八神は唇をゆっくり離すとニコッと微笑んだ。 「また、会社でね。おやすみ」  そう言うとそのまま立ち去ってしまった。 亜季は硬直したまま、黙ってしばらく立ち尽くしていた。 (八神さんとキスをしちゃったの? 私……)  キスをしちゃうなんて。 課長にどう説明をしたらいのか分からない。 亜季の頭の中が大パニックになってしまう。 櫻井課長には知られたくない。余計な火種を作りかねない。 食事に行ったこともキスしたことも。そうではないと嫌われてしまう。 しかし、黙っていてもチリチリと炎上になろうとしていた。  翌日。会社に行くと女子社員から質問の嵐に合う。 「ねぇ、松井さん。 昨日八神さんに手を引かれて、一緒に帰ったって本当なの?」 「もしかして知り合い!? 羨まし~い。いつの間に付き合っていたの?」  などなど。まさか…こんなに騒ぎになるなんて。 そんなことは思ってもみなかった亜季困惑してしまう。 「えっと~あれは八神さんが強引に」 「えぇっ? まさか、強引に攻められたの!?」 「いや……何と言うか」  どう説明したらいいか分からない。 攻められたと言えば、そうだが……付き合うつもりはない。そもそも向こうから一方的だ。 チラッと美奈子を見ると、彼女も興味津々と聞いていた。 (いやいや助けてよ……)  どうにか言い訳をして話を誤魔化そうとする。 早く終わらせないと櫻井課長が来てしまう。 しかし、その時だった。 「お前ら加減にしろ!? 勤務時間中だぞ」  いつの間にか出
last updateLast Updated : 2025-03-10
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第二十八話。

 そして昼休み。 「亜季。ランチに行こう?」 「う、うん」  結局、返事は未だに届いていない。 チラッと櫻井課長を見ると、まだ仕事中だった。 (仕事中だからだよね……?)  自分に何度も言い聞かせて、席を立とうとした。 その時だった。女子社員がざわめき出した。 亜季は騒いでいる方向を見ると、思わず硬直する。 部署に入ってきたのは、八神冬哉だったからだ。 (どうして八神さんが、ウチらの部署に!?)  そうすると八神は亜季を見つけるなり、にこやかに笑いながら手を振ってくる。 「あ、亜季。今からランチなら俺と一緒に行かない? 昨日の話……まだ途中だったんだよね」  そう言って誘ってきたではないか。 女子社員は全員、亜季の方を向いた。もちろん男性社員も。 (ちょっと、皆の前で何てことを言い出すの!?)  これでは、まるで付き合っているみたいではないか。 あわわと何を言ったらいいか分からない亜季。 すると美奈子は、ポンッと肩を叩いてきた。 「亜季、せっかくだから行っておいでよ? 私のランチは明日でもいいし」 「えぇっ!? 美奈子……そこは気遣わなくていいから」  むしろ止めてほしかったのに。 亜季は慌てて課長の方を見る。既にパソコンのキーボードを打つのをやめて、こちらをジッと見ていた。 (違います。そういう関係とかではないですから)  亜季は心の中で何度も叫ぶが、言葉がつっかえて口には出せなかった。 「亜季? どうしたんだい?」  八神は、何を考えているのか、また呼び捨てになる。 ハッと我に返った亜季は、慌てて八神を部署から連れ出した。 このままで居たら、何を言い出すか分からないからだ。 「や、八神さん。何を言い出すんですか!? 大勢の前で」「何って?普通にランチの誘いをしただけだけど?」  不思議そうに八神は首を傾げる。彼にとったら悪気はないようだが。 いや、それでも問題だ。 イケメンの八神が相手では余計に注目を浴びてしまう。 「そんな大勢の前で言ったら噂になってしまいますよ? あなただって嫌でしょ!?」 「えっ……いいんじゃない? 俺……別にモテたいわけではないし」 「えっ? モテたいわけではないの?」  亜季は驚いて言葉に出てしまった。 八神は苦笑いしながら、こちらを見てくる。 「俺さ~昔から結構周りに、ちやほやされていたから勘違いされやすいけど。意外と恋愛に対しては
last updateLast Updated : 2025-03-10
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第二十九話。

「課長。違うんです。これは……」  亜季は必死に誤解を解こうとする。しかし櫻井課長は、 「松井。社内恋愛するのいいが、もう少し場をわきまえろ」  と、忠告をするだけだった。 ぽかんとする亜季に気にする様子もなく、そのまま立ち去って行く。 何で、そんなことを言うのですか? 「課長。待って下さい!?」  亜季は慌てて追いかけようとするが、八神に止められてしまう。 どうして、こんな時に止めてくるのだろうか。 「ちょっと……離して!?」  「ダメだ。他の男が抱き締めていたのに、何も言わない男が君を好きなわけがないだろ!? 目を覚ませ」  亜季は、その言葉がショックを受ける。 (それは違う……課長は私のことが気になっていたって言っていたもん)  亜季の目尻には涙が溢れてきた。 このままでは本当に嫌われちゃう。 「……ごめん」  八神さん泣いている亜季を抱き締めてくれた。そのまま泣き続けた。  その後。泣き続けたせいで食欲が出ず、体調を崩した。 美奈子に早退にしてもらえるように代わりに頼んでもらう。 自宅に帰りベッドに倒れ込んだ。ハァッ…とため息が漏れる。 八神に好意を持たれたのは驚いた。だけど亜季のとって、本当に好きなのは櫻井課長ただ1人。 それは、今も変わらない。 こんなに好きになるとは思ってもいなかった。 だから余計に辛い。涙が溢れて、しばらく泣いていた。  どれぐらい泣いたのか分からない。涙を拭うと、カバンからスマホを取り出した。 もしかしたら……課長から返事があるかもしれない。 しかし、メッセージアプリでの着信0件。 課長の返事は1件も無かった。もう、メッセージアプすらしたく無いのだろうか? そんなの嫌だ。せめて誤解だけでも解きたい。 このままで終わりたくはない。 亜季は櫻井課長に向けてメッセージを打った。 『お疲れ様です。今日は、早退して申し訳ありませんでした。ですが、どうしても櫻井課長に話したいことがあります。あの小料理屋で待っています。来るまで待っていますので』  そのまま送信した。 何て重たい内容のメッセージなのだろうか。 でも、どうしても早く誤解を解きたかった。 時間を確認すると16時近くになっていた。どうやら泣き疲れて眠ってしまったのだろう。 亜季は、急いでシャワーを浴びて頭を落ち着かせる。  そして時間を見計らって、櫻井課長の連れてきてもらった小料理屋
last updateLast Updated : 2025-03-11
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第三十話。

それから20分後。 櫻井課長が息を切らしながら、お店に入ってきた。 「櫻井課長!?」 「すまない。仕事が立て込んでいて遅くなった。体調は大丈夫なのか?」 「いえ……来てくれてありがとうございます。体調はなんとか。心配お掛けしました」  亜季は深々と頭を下げた。 櫻井課長はそのまま席に座った。メニューを頼み、しばらく沈黙が続いた。 謝らなくてはいけない。 「あの~それでですね。話しと言うのは……」 「もし、断りの話なら俺に気を使わなくてもいい。もともと強制ではないから」 「えっ……?」  亜季は、その言葉にショックを受ける。 これでは、ただの別れの話みたいではないか。 違う。本当のことは、まだ話せていないのに。 「ち、違います。誤解を解きたかっただけです」 「……誤解?」 「私と八神さんの間には何もありません。確かに言い寄られていますが……それは、一方的で。それに私は、すぐに乗り換えるような軽い女ではありませんから」  不思議そうに聞き返す櫻井課長に自分の気持ちを素直にぶつけた。 信じてほしい。そんな軽い女だと思われたくない。 そう思うと、気持ちが自然と溢れてくる。 「私は、課長のことが好きなんです!」  自分でも驚くぐらいの大胆な発言だったと思う。 言った後…ハッとして体が熱くなってしまった。恐る恐る櫻井課長の方を覗き込んでみた。 すると硬直したまま頬を赤くしていた。 言葉にならないようだった。 それを見て、亜季まで恥ずかしくなり、下を向いてしまった。 大胆過ぎて顔が見られない。 パニックになっている亜季に櫻井課長は、 「松井。今の話は、本当なのか?」  と、そう言って尋ねてきた。 まだ疑っているのだろうか? 噓ではないのに。 「嘘で、そんなことは言いません。私は……」 「……悪い、嬉し過ぎて。その~若干、頭の中がパニックを起こしている」 「えっ?」  櫻井課長は顔を必死に隠して、動揺していた。 こんな風に動揺した櫻井課長を見るのは、生まれて初めてだった。 その姿を見て、何だか思わず笑みが溢れてしまう。 「わ、笑うな。これでも必死に落ち着かせているんだぞ」 「すみません。フフッ」  亜季は謝るが櫻井課長の顔を見ると、また口元が緩んでしまう。 若干、亜季の目尻には溢れていた。 それは、悲しさではない嬉しさから出るのだろう。 「おやおや。心配していたが、いい雰囲気になっ
last updateLast Updated : 2025-03-11
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