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第二十九話。

Penulis: 愛月花音
last update Terakhir Diperbarui: 2025-03-11 10:56:07

「課長。違うんです。これは……」  亜季は必死に誤解を解こうとする。しかし櫻井課長は、 「松井。社内恋愛するのいいが、もう少し場をわきまえろ」  と、忠告をするだけだった。 ぽかんとする亜季に気にする様子もなく、そのまま立ち去って行く。 何で、そんなことを言うのですか? 「課長。待って下さい!?」  亜季は慌てて追いかけようとするが、八神に止められてしまう。 どうして、こんな時に止めてくるのだろうか。 「ちょっと……離して!?」  「ダメだ。他の男が抱き締めていたのに、何も言わない男が君を好きなわけがないだろ!? 目を覚ませ」  亜季は、その言葉がショックを受ける。 (それは違う……課長は私のことが気になっていたって言っていたもん)  亜季の目尻には涙が溢れてきた。 このままでは本当に嫌われちゃう。 「……ごめん」  八神さん泣いている亜季を抱き締めてくれた。そのまま泣き続けた。  その後。泣き続けたせいで食欲が出ず、体調を崩した。 美奈子に早退にしてもらえるように代わりに頼んでもらう。 自宅に帰りベッドに倒れ込んだ。ハァッ…とため息が漏れる。 八神に好意を持たれたのは驚いた。だけど亜季のとって、本当に好きなのは櫻井課長ただ1人。 それは、今も変わらない。 こんなに好きになるとは思ってもいなかった。 だから余計に辛い。涙が溢れて、しばらく泣いていた。  どれぐらい泣いたのか分からない。涙を拭うと、カバンからスマホを取り出した。 もしかしたら……課長から返事があるかもしれない。 しかし、メッセージアプリでの着信0件。 課長の返事は1件も無かった。もう、メッセージアプすらしたく無いのだろうか? そんなの嫌だ。せめて誤解だけでも解きたい。 このままで終わりたくはない。 亜季は櫻井課長に向けてメッセージを打った。 『お疲れ様です。今日は、早退して申し訳ありませんでした。ですが、どうしても櫻井課長に話したいことがあります。あの小料理屋で待っています。来るまで待っていますので』  そのまま送信した。 何て重たい内容のメッセージなのだろうか。 でも、どうしても早く誤解を解きたかった。 時間を確認すると16時近くになっていた。どうやら泣き疲れて眠ってしまったのだろう。 亜季は、急いでシャワーを浴びて頭を落ち着かせる。  そして時間を見計らって、櫻井課長の連れてきてもらった小料理屋
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    それから20分後。 櫻井課長が息を切らしながら、お店に入ってきた。 「櫻井課長!?」 「すまない。仕事が立て込んでいて遅くなった。体調は大丈夫なのか?」 「いえ……来てくれてありがとうございます。体調はなんとか。心配お掛けしました」  亜季は深々と頭を下げた。 櫻井課長はそのまま席に座った。メニューを頼み、しばらく沈黙が続いた。 謝らなくてはいけない。 「あの~それでですね。話しと言うのは……」 「もし、断りの話なら俺に気を使わなくてもいい。もともと強制ではないから」 「えっ……?」  亜季は、その言葉にショックを受ける。 これでは、ただの別れの話みたいではないか。 違う。本当のことは、まだ話せていないのに。 「ち、違います。誤解を解きたかっただけです」 「……誤解?」 「私と八神さんの間には何もありません。確かに言い寄られていますが……それは、一方的で。それに私は、すぐに乗り換えるような軽い女ではありませんから」  不思議そうに聞き返す櫻井課長に自分の気持ちを素直にぶつけた。 信じてほしい。そんな軽い女だと思われたくない。 そう思うと、気持ちが自然と溢れてくる。 「私は、課長のことが好きなんです!」  自分でも驚くぐらいの大胆な発言だったと思う。 言った後…ハッとして体が熱くなってしまった。恐る恐る櫻井課長の方を覗き込んでみた。 すると硬直したまま頬を赤くしていた。 言葉にならないようだった。 それを見て、亜季まで恥ずかしくなり、下を向いてしまった。 大胆過ぎて顔が見られない。 パニックになっている亜季に櫻井課長は、 「松井。今の話は、本当なのか?」  と、そう言って尋ねてきた。 まだ疑っているのだろうか? 噓ではないのに。 「嘘で、そんなことは言いません。私は……」 「……悪い、嬉し過ぎて。その~若干、頭の中がパニックを起こしている」 「えっ?」  櫻井課長は顔を必死に隠して、動揺していた。 こんな風に動揺した櫻井課長を見るのは、生まれて初めてだった。 その姿を見て、何だか思わず笑みが溢れてしまう。 「わ、笑うな。これでも必死に落ち着かせているんだぞ」 「すみません。フフッ」  亜季は謝るが櫻井課長の顔を見ると、また口元が緩んでしまう。 若干、亜季の目尻には溢れていた。 それは、悲しさではない嬉しさから出るのだろう。 「おやおや。心配していたが、いい雰囲気になっ

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     心配されるほど大げさなものではないが。 多分、大丈夫だろう。会社に行けるはずだ。 そのことに話をふれてきたので照れてしまっただけだ。「無理しない方がいい。お前は有給休暇が、たくさんあるのだから休め」「ですが……」「そうなったのは俺が原因だ! 気を使わなくてもいい。今日は一日、体をゆっくりと休めていろ」 櫻井課長から意外なことを言われて、亜季は驚いてしまう。 上司から、そう言われたら休まないといけなくなる。 申し訳ない気持ちもあるけど……正直助かった。たしかに有給休暇を消費するのも大切だ。「あの……ありがとうございます」「いや、お礼を言われるようなことは、何もしていない」 少し困った様子で言ってくる櫻井課長に亜季はフフッと苦笑いする。 そして朝食が終わると、櫻井課長は食べたお皿を洗った後、仕事に行く身支度をしていた。 いつもの姿だ。スーツ姿の彼は、よく似合うと思った。「あ、そうだ。これをお前に渡しておく」「これは……?」「家の合い鍵だ。そのまま持っていてくれ。俺は行くけど……自由に出入りしていいから」 まさか櫻井課長自ら、自宅の合い鍵を貰うことができた。 合い鍵を持っていると、まるで本当に恋人同士になれたのだと、実感して嬉しさがこみ上げてくる。(嬉しい) 亜季は、その鍵を大切そうに受け取った。「じゃあ、行ってくる」「行ってらっしゃい」 まるで新婚夫婦みたいな会話だ。 櫻井課課長を見送ると、鼻歌を歌いながらソファーに座った。 まだ体はダルいけど……幸せの痛み。平気だ。 帰るには、まだ辛いため、しばらく横になった後に自宅に帰った。もちろん合い鍵で玄関のドアを使って閉めた後に。 しばらく自宅のベッドで眠ると、スマホからメッセージが届いた。 一件は、美奈子からの心配のメッセージ。もう一件は、櫻井課長からのメッセージだった。『体調は、どうだ? 松井の仕事分は、他に代わってもらったから安心しろ。朝食は、美味しかった。また作ってくれると嬉しい』 嬉しくなるようなメッセージだった。 亜季は布団の中で笑みが止まらない。ゴロゴロと寝返りを打ちながら、ずっとそのメッセージを読んでいた。 せっかく合い鍵も貰ったのだ。今度は夕食でも作りに行こう。 そのためには母親から、もう少し料理を教えてもらわなくては。 でもその前に、明

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    「大丈夫よ! 噂は、あくまでも噂。真実ではない以上は、すぐに皆忘れるわよ?」「……そうかな?」「噓なのは分かっているし。もっと堂々としていた方がいいわよ」 美奈子は、すでにさっきのことは知っていたみたいだ。 しかも変わらずに温かい言葉をくれた。それが亜季にとっては嬉しかった。 亜季は美奈子に寄り添ってもらって、自分のデスクに着く。 その後。櫻井課長が出勤した頃には何も無かったかのように通常に戻っていた。 亜季も気を取り直して、仕事に打ち込む。 美奈子は、そんな亜季に気遣ってか、お茶を代わりに淹れてくれた。「はい。亜季の分」「ありがとう……」 お茶が入ったマグカップを受け取り、一口飲む。 やっと少し気持ちが落ち着いてきた。こんなことで、動揺するなんて情けない。 もっと毅然とした態度でいないと、逆に疑われてしまう。 亜季はそう思い直すのだが、噂を信じている社員は、思ったよりも多かった。 仕事をしていると、ドサッと大量の資料を亜季のデスクに置かれる。「……えっ?」「これだけの資料を全部まとめといてくれる? 松井さん」「あの……これ全部。私1人で、ですか?」 いくら何でも一人でできる量ではない。 それに自分のやっている仕事もあるし、担当の仕事ではない。「できるでしょ? あちらこちらの男性を口説いている暇があるのなら。お願いしますね? こっちは、そんなことができないぐらいに忙しいので」 断ろうとしても一方的に言われて、そのまま行ってしまった。 どう考えても嫌がらだろう。これは……。 亜季は、ただ唖然とした。「何よ……あれ? 感じ悪い上に無茶苦茶よねぇ~亜季。私も手伝うから」「美奈子……ありがとう」 一体、何が起きているのか。亜季は恐怖で体が震える。 だが嫌がらせは、それだけでは終わらなかった。 しばらくしてから亜季がコピーをするためにコピー機を使っていると、「ねぇ、いつまで使っているのよ? 人の迷惑も少しは、考えてよ」「あ、すみません。 すぐに終わらせますので」 慌ててコピーを中断させて、残りを後でやることに。 コピー機から書類を取り出した。すると呆れたようにブツブツと文句を言ってくる。「本当……年だけ、とっているくせに。無駄にトロいんだから」 酷い。そこまで言うことないではないだろう。 お手洗いに行っ

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  • 鬼課長とのお見合いで   第五十四話。

    「それは、気づいていた。お前は真面目だからな。ずっと見ていたから、俺のために身を引いたんだと、すぐに理解した。悪かったな……俺のために我慢させて」 申し訳なさそうに櫻井課長は謝罪をしてきた。 別れの時も彼は理解した上で言ってくれたことは分かった。 だから余計に後悔した。自分の気持ちに、ずっと嘘をついて。それを櫻井課長のせいにしていた。「私は、智和さんに謝ってほしかったわけではありません。私は……それだと、ダメだって気づいたんです!」「……亜季?」「智和さんと別れて……ずっと後悔していました。寂しくて……何かをしていても、あなたのことが頭から離れなくて。だけど、ある人に言われて気づかされました。私は、ずっと智和さんに甘えていたんだと。自分から動かずに……ただ待っていただけ。それだけだとダメなんです。私は智和さんのことが今も好き。そのために、仕事も辞めて追いかけてきました!」 ずっと後悔をしていた。結局、割り切ることはできなかった。 だから青柳から言われた言葉は亜季にとって衝撃的でガツンと心に響いたのだ。 自分に、もう噓はつけない。自分の気持ちに素直になりたい。「私から別れると言っておきながら、勝手なことを言っているのは十分に分かっています! だけど……忘れられないんです。もう一度、私にチャンスを下さい」 亜季は震える体を必死に耐えながらも想いを告げた。しかし、櫻井課長は黙ったままで何も言わない。 やっぱり虫のいい話だと思われているだろうか? 彼の表情を見つめながら亜季は悲しくなっていく。亜季は涙が出そうだった。「悪い……嬉し過ぎて、どうにかなりそうだ」「……えっ?」 すると櫻井課長は、そのまま亜季をギュッと抱き締めてくれた。 亜季は驚いたが、思わず涙がこぼれそうになる。「智和さん……」と震えながら櫻井課長の名を呼んだ。「俺だって、亜季のことを忘れたわけではない。君のことが諦め切れなくて、日本に戻れる時があったら、もう一度と、何度想ったか分からない。それを言うのは、本当は俺の方だ。亜季……結婚してほしい」 櫻井課長は亜季を抱き締めながら、プロポーズをしてくれた。 亜季の目尻には涙が溢れてくる。受け入れてくれた。 変わらずに想っていてくれたのが何より嬉しかった。「……はい」 ギュッと抱き締めながら亜季はプロポーズを受け入れ

  • 鬼課長とのお見合いで   第五十三話。

     それからの亜季の行動は早かった。 一身上の都合で会社を辞めることにした。もちろん迷惑にならないように、仕事の引き継ぎはしっかりとやる。 任された遊園地の担当は、男性の後輩に譲ることにした。彼は目を輝かせて喜んでいた。 念のために必要なアドバイスをいくつか教えておく。 そしてパスポートや飛行機のチケットを取った。 他の人から見たら、せっかくの担当なのにとか、考えなしの無鉄砲な行動をしていると思われるかも知れない。 それでも亜季自身は櫻井課長のところに行くと決めたのだ。 美奈子に話したら、驚いていたが応援してくれた。 そして飛行機でアメリカに旅立つ。 目的地は櫻井課長の現在在籍している姉妹会社。不安がないわけではない。 自分からフッた女を櫻井課長は受け入れてくれるだろうか? 受け入れてくれたとしても初めての環境と、まともに話せない英語。 上手くやれるかも分からない。 (智和さんは、きっと私の気持ちを配慮して、何も言わなかったかしら?) その可能性は高い。任せてくれた時は凄く応援してくれていた。 そんなことも知らずに、勝手に誘ってくれなかったと拗ねていたのだろう。 本当に情けない。今度は間違えないように、ちゃんと話し合いたい。 亜季は飛行機の窓から外の景色を眺めながら、そう思った。(課長……会いたい。それでも私は……もう一度) 飛行機は何時間もかけて、アメリカに向かって飛んで行った。 そして無事にアメリカに到着する。 空港から出ると、亜季は地図と場所を書いたメモをカバンから出して確認する。 会社の場所は、八神から聞いた。 そして詳しく場所を書いた英語のメモ。 彼にお願いをして書いてもらった。 亜季の決心を聞いた八神は協力をしてくれると言ってくれた。 彼には本当に悪いことをしたと思っている。自分の勝手なワガママに。 タクシーの運転手に、そのメモを渡して会社まで行ってもらう。 自分の気持ちを心に秘めながら、タクシーは走り続けた。 そして、しばらくタクシーで走っていると、目的の会社が見えてきた。 櫻井課長が新しく勤めている会社は思った以上に凄く大きかった。 (ココで課長が働いているのね……凄い) タクシー代とチップを払うと、降りて会社の中に入って行く。 受付で櫻井課長の所属している課を尋ねた。しかし下手な英

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    (あ、照れているわ!?) 気づくと少し嬉しくなった。あぁ、やっぱり似ていると。 亜季は心の中でそう思った。雰囲気だけではない。 無愛想の中に、ちゃんと優しさが隠れているところ。笑うと何だか可愛いところまで。 心臓がトクンッと高鳴った。これは、どちらに高鳴ったのだろうか? そしてコーヒーを飲み終わると、帰ることに。 亜季は自分の代金を出すために財布を取り出そうとする。「いい……君の分も俺が払うから」「えっ……でも」「泣かせた上に、金まで払わせていたら男の面目が立たない」 青柳は、そう言うと亜季の分まで支払ってくれた。 泣いたのは自分が原因で彼のせいではない。何だか逆に、申し訳ない気持ちになっていく。 亜季は、お店を出るとお礼を言う。「あの……ご馳走様でした」「いや、こちらこそ悪かったな。じゃあ」 そのまま青柳は、立ち去ろうとする。 すると亜季は「あの……」と思わず彼に声をかけて止めてしまった。 何故、止めたのか亜季自身も分からない。気づいたら呼び止めてしまったからだ。「……何?」 青柳は振り向いてくれた。 止めた理由を何も考えていなかったため、亜季は戸惑ってしまう。 何か言わなくては、余計に気まずい。頭の中が混乱してきた。「よ、良かったらメッセージアプリのⅠDを教えて下さい」「はぁっ?」 青柳は驚いて聞き返してきた。それもそうだろう。 迷惑かけただけではなく、急にこんなことを言ってくるのだから。 亜季は、自分でも何を言い出すんだと思ってしまう。 体中が熱くなってしまう。どうも時々、大胆なことを言う癖がある。 櫻井課長の時もそうだった。焦りなのか、ただの無鉄砲なのか分からないけど。「いえ……何でもありません。今、言ったことは忘れて下さい」 亜季は、火照ってしまった顔を隠すために下を向いた。 馬鹿なことを言ってはダメ。彼は櫻井課長ではないのに。 恥ずかし過ぎて涙が出てくる。「別にいいけど」「えっ……?」 亜季は驚いて思わず頭を上げた。 今、確かにいいって言ったような気がする。聞き間違いではないのなら。 青柳を見ると、黙って亜季を見つめていた。本当に?「泣かれたあげく、落ち込まれると逆に気になってしまう。相談ぐらいなら乗ってやる」「あ、ありがとうございます」 ぶっきらぼうながらも、そう言ってく

  • 鬼課長とのお見合いで   第四十九話。

    「……ありがとうございます」 亜季は、そのハンカチを受け取ると遠慮しながらも涙を拭いた。 しかし、さすがに駅近くの商店街で涙を流しているわけにもいかず、とりあえず亜季と青柳は近くの喫茶店に入ることにした。。 お互いにコーヒーを頼み、沈黙したまま時間だけが過ぎて行く。 黙って泣き止むのを待っていてくれる青柳。彼もまた優しい人なのだろう。 亜季とは、合コンで会ったきりの関係。放って帰ってもいいはずなのに、そばに居てくれた。そのお陰なのか、少し落ち着いてきた。 店員が持ってきたコーヒーにミルクと砂糖を入れて、静かにかき混ぜる。 一口飲むとホッと気持ちが楽になった。「……落ち着いたか?」「はい。お見苦しいところをお見せして、すみませんでした」「また謝っている。 こういう時は、ありがとう……と言うものだ!」 申し訳なさそうに謝罪をすると青柳は、そう言って指摘をしてきた。 亜季は驚いて彼を見る。 彼は、黙ったまま自分のカップに口をつけていた。「えっと……ありがとうございます」 言われた通りお礼を言う。そうすると、こちらをチラッと見て静かに微笑んでくれた。「どういたしまして」と言いながら。 フッと微笑む表情まで櫻井課長に似ているからだろうか? 彼の行動に亜季はドキッと胸が高鳴り動揺する。そして気になってしまう。「あの……青柳さんって、おいくつなんですか?」 急に何を言い出したのか自分でも驚く亜季だった。でも話を続けたくて、思わず声が出てしまったようだ。。 青柳は一瞬目を丸くする。驚いたのだろう。「28だけど?」「えっ……えぇっ!?」 てっきり30代だと思っていた。意外過ぎる年齢に亜季は驚いてしまった。 しかも同い年だったとは。 落ち着いているせいか、またハッキリした顔立ちだからか。「み、見えませんね……28には」「それって、俺が老けていると言いたいのか?」「えっ? いや、そういう意味ではなくて。落ち着いているというか、その……大人っぽいていうか……」 亜季は必死にフォローするつもりが、なかなか上手くフォローができない。 むしろ必死過ぎて、自分でも何を言っているのか分からないぐらいだ。「結局は、老けていると言いたいのか?」「いや……けして、そういう意味では……すみません」 言えば、言うほど墓穴を掘ってしまう。結局

  • 鬼課長とのお見合いで   第四十八話。

    「えっと……雰囲気とか、話し方とか色々。あ、そんなことを言われても不愉快ですよね。すみません」「あんた。謝ってばかりだな」「えっ? 謝ってばかり?」 彼の言葉に驚いてしまった。そんなに謝っているのだろうか?「えっ……そうですか? すみません……あっ」 確かに本当だった。また謝っている。 申し訳ないと思っているせいかも知れないが。なんだか、余計に恥ずかしくなってきた。「……その櫻井課長って人。もしかして、あんたの好きな人か?」 何気ない青柳って人の発言にドキッとした。 返事に困っていると青柳は、「悪い。図星だったか?」と言って、謝ってきた。「いえ……好きな人ってよりも以前付き合っていた人です。残念ながら別れてしまいましたが」 亜季は寂しそうに苦笑いをする。 もう過去になってしまった人なのに、思い出して落ち込む自分が情けない。「ちょっと、そこの二人。何、葬式みたいに辛気くさい雰囲気を出しているのよ? せっかくの合コンなんだから、もう少し話して盛り上がりなさいよ!?」「……そう言われても」 美奈子に叱る亜季は困ってしまう。ガツガツしているわけでもないため、盛り上がれと言われても。 チラッと見ると青柳は気にすることもなく、お酒を飲み始めていたけど。 結局、その後も話が盛り上がる事もなく終わってしまった。 美奈子には呆れられてしまったが、どうしても次の恋愛がしたいと踏み切れなかった。意外と自分は未練が残る性格らしい。 情けないと思うけど、こればかりは、どうしようもない。 それから数日後。 何もないまま、ただ時間が過ぎて行く。窓から外を見ると、青空が広がり天気がいい。課長…元気だろうか? まだ、そう経っていないから変わらないと思うけど、会いたいと思ってしまう。。 別れを切り出したのは、自分のくせに会いたくて堪らない。 涙が溢れそうになりながらも、ただ青空を眺めていた。 夕方。仕事が終わり駅近くを歩いていた。 あの小料理屋には最近は行っていない。 行くと櫻井課長のことを思い出してしまうため遠慮していた。 亜季は一人でトボトボと歩いていると、向こうから見覚えのある人が歩いてきた。(あれ? あの人は……?) 合コンで出会った青柳って人だった。彼も亜季に気づいて立ち止まった。「あれ? あんたは……あの時の」「えっと……あの

  • 鬼課長とのお見合いで   第四十七話。

     お昼休み。喫茶店でランチを食べていたところ。 見かねた美奈子がそう言ってくる。(失恋って。美奈子……その言葉は傷つく) それに合コンって。彼女の突然の発言に驚いてしまった。 行ったこともないのに。「いくら何でも……合コンは、ちょっと」「何を言っているのよ。、もしかしたら新しい出会いだってあるかも知れないじゃない。このまま失恋に浸っているよりも全然いいわよ!」「……美奈子」 失恋に浸る。確かに、このままだといけないと思う。 自分で終わらせた以上は、もう櫻井課長のことは忘れないといけないだろう。「合コンのセッテングなら、私が他の子に頼んであげるから。行くだけ行ってみなさい」 美奈子の強くそう言われてしまった。 そして、やや強引でもあるが亜季は合コンを引き受けることに。 そこに出会いがあるとは思えない。それでも櫻井課長を忘れる、きっかけになるのならと思ったからだ。 3日後。仕事が終わると美奈子に案内されて、お洒落な居酒屋に向かった。 フレンチ料理が多く、若い世代が人気そうなお店だ。 中に入ると、既に数人の男女が集まっていた。「お待たせ~」「美奈子~遅いわよ。ほら、座って座って」 1人の女性がそう言って招き入れてくれた。席に座ると、それぞれ自己紹介とアピールを始める。 美奈子はノリノリでアピールをするが、場慣れしていない亜季は完全に浮いてしまっていたが。 周りが慣れ始めた頃。私は1人の男性に目が行く。彼も慣れていないようだ。 皆と話していることもせずに1人でちびちびと隅で、お酒を飲んでいた。(あ、何だか智和さんに似ている) 怖くて近寄り難い雰囲気で物静かなところとか。顔立ちも似ている。 この彼は眼鏡をかけているが……。 少し寂しそうに見えるのは、自分とも似ている気がする。 亜季は少し彼のことが気になって、チラチラと見ていた。 (やっぱり似ているかも……智和さんに) すると酔った美奈子が亜季に声をかけてきた。「ちょっと、亜季。誰か気になる人でも居た? あ、もしかして、あの人が気になるの?」「えっ!?」 亜季は美奈子の言葉に驚いた。 ただ櫻井課長に似ていたから、少し見ていただけだ。慌てて首を振った。「違う、違う。そんなことないわよ」「いいじゃん。よし、席替えターイム」「ちょっ……美奈子!?」 美奈子

  • 鬼課長とのお見合いで   第四十六話。

     そして私達は別れる。 別れたと言っても会社に行けば、変わらずに上司と部下の関係。普通に顔を合わせるし、必要なら会話だってする。「課長。企画書のことですが。このような感じで、どうでしょうか?」「あぁ、そこに置いておいてくれ。電話の後で見るから」「はい。お願いします」 櫻井課長は電話をしながら、そう言ってきた。 亜季は返事をするとデスクに企画書を置く。自分の席に戻った。 いつもと変わらない櫻井課長の姿だ。 しかし、その姿を見られるのは……あと少しだけ。 部長になる話は引き受けたと別の人から聞いた。これで良かったのだ! これで櫻井課長は何も障害がなく前に進める。 部長として新たなスタートが切れると言うものだ。「ねぇ、あんた本当に後悔していないの? 別れて」 仕事帰りに久しぶりに美奈子と食事をした。いつものイタリアンのお店で。 バスタを食べていると美奈子が心配そうに亜季に尋ねてきた。「……後悔していないと言ったら嘘になるわね」「だったら別れなかったら良かったのに……」「無理よ。そうでもしないと彼は、あの話を断るわ。あの人は優しいから」 今でも胸が痛む。無意識に櫻井課長のことばかり考えてしまうぐらいに。 でも櫻井課長は亜季の気持ちを優先するばかりに、自分の気持ちを犠牲にする。 それだけは、してほしくなかった。「私から見たら……亜季。あんたも十分優しいわよ?」「えっ?」「今時、自分の気持ちを優先して揉めるカップルが多い中で、あんた達は、お互いに譲り合っているじゃない。それって……お互いに優しいからで、相手を想い合っているからよね。本当……お似合いだったと思うわよ。あんた達は」 呆れつつも美奈子は、そう言って励ましてくれた。「ありがとう。本当ね。支え合えるような恋人同士になりたかったな」 だけど別れてしまった自分たちには、もう何もできない。 自宅に着くとスマホを覗き込む。メッセージの着信0件。 あれから櫻井課長とはメッセージをしなくなった。 別れたのだから当たり前だけど……寂しい。 アドレスを消す人。未だに残したり、連絡を取り合う人。亜季は、ずっと消さずに残してある。 もしかしたらメール来るかも……とか、そんなことをつい考えてしまう。 櫻井課長は生真面目で気遣う人だから遠慮して、送って来るわけがないのに。(未練

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