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第7話・レイナの思惑。

Author: 愛月花音
last update Last Updated: 2025-04-04 18:36:47

 翌朝。目を覚ますとレイヴァンの姿はなかった。エルザが眠って、すぐに本殿のお戻りになったのだろう。いつものことだ。

 エルザとすることを済ませると、何もなかったかのようにすぐに戻られる。朝を一緒に迎えたことは、今までなかった。エルザは隣を見ながら、ため息を吐く。

 彼の目的は、やはりエルザを孕ませるためだろう。しかし……。

 自分のおでこを触る。眠りについた時に、おでこにキスをされた感触があった。

 まだ微かに覚えている。そう思うのに気持ちはモヤモヤする。

(あれは……夢?)

 レイヴァンが優しく、おやすみと言ってくれたような気がした。

気のせいかもしれないけど確かに、そう感じた。すると誰かがノックをしてきた。 返事をすると入ってきたのはエルザ専属の侍女のビビアンとルルだった。

「おはようございます、エルザ様。入浴の準備ができております」

「そう。ありがとう」

 エルザは少し照れながらもベッドから降りると、入浴をするためバスローブを羽織った。

 そして入浴にした後は朝食を食べてからアカデミーに向かう。

 馬車から降りると、広い敷地内に入っていく。校舎も立派で豪華な造りになっている。緑も多く、自然が豊かだ。

1人で歩いて行くと、周り生徒達はこちらをチラチラと見て陰口を叩いていた。

きっと昨日のことを、まだ言っているのだろう。いい気はしなかったが、言い返したところで自分が悪者扱いされるだけ。

無視して校舎の中に入り廊下を歩いていると、レイヴァンとレイナが仲睦まし歩いている姿を見かけた。胸がズキッと痛む。

もし、このまま捨てられたら? エルザの頭の中はそればかり考えてしまう。

辛くなり、そのまま背を向けて別の階段から行こうとした、その時だった。ドンッと誰かとぶつかってしまう。勢いで尻餅をついてしまった。

「す、すみません」

 エルザは謝りながら上を見上げると、ぶつかった相手はセインだった。

 セイン・アルセント。エルザとレイヴァンとは同い年で皇帝陛下の弟の嫡男。

 大公爵家の次期跡継ぎであり小大公。レイヴァンとはイトコに当たる関係性だ。

 皇族の血を引いているせいか。セインも白銀で背中まである髪を一つに結んでいる。

 それにレイヴァンほどではないが、かなりの美形で長身。

 騎士の腕も優れており、若くして皇族直系の尊属騎士団の団長でもある。

そのため令嬢達の人気も高く有名
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     急に何を言い出すのかと思えば……何故そんなことに? エルザは啞然とする。そもそも聖女であるレイナを殺そうなんて思うはずがない。「まだ認めない気か? なら、証明してみせよう。刺客を連れてこい」 レイヴァンがそう言うと、騎士達が怪我をしてボロボロになった黒マントを羽織った男を連れてきた。体格のいい男だったが見たこともない男だ。「この男に身に覚えがあるだろう? この刺客が聖女であるレイナの部屋に忍び込み、襲ったそうだ。ギリギリに助けられたが、腕に傷を負った。その傷は自身の治癒能力で治せたからいいものを……これは重罪だぞ」「ち、ちょっと待って下さい。私はそんなことはしておりません。それに、その男も見たこともありません」「白々しい。この男がすべて自白したぞ。エルザの指示で、すべてやったと。その証拠に君が報酬に渡した指輪を持っていた。これは、サファード公爵家が持っている鉱山しか収穫ができない『虹色のダイヤ』だ」 エルザに見せてきたのは紛れもなく『虹色のダイヤ』の指輪だった。(あれは、私の無くした指輪だわ!?) ダイヤはサファード公爵家が持っている鉱山しか収穫ができない。 虹色に輝いて見えるのは、サファード公爵家が持っているマナが入っているからだ。 輝くばかりに美しく貴重な宝石のため、高額で買い取られる。公爵家の中でも身分や財力があるのは能力の他に、こういう理由もあった。 デザインからしてもエルザのものだと間違いないだろう。 最近、指輪がないと侍女達が探していたのに、何故あの男のもとにあるのだろうか?「証拠が出てきて言葉にならないか? では言おう。聖女に対しする数々の愚行。そして殺害未遂。どれも国を脅かす重罪だ。よって、君との婚約を破棄とする。そして国外追放とする」「えっ……?」 レイヴァンの言葉に、エルザの心は粉々に砕いていく。 婚約破棄……しかも国外追放だなんて。「あ、あんまりです。私は、そんな愚かな行為はしておりません」 エルザは必死に違うと訴えかけた。全身が恐怖とショックで震え上がる。 するとレイナはレイヴァンの腕に手を絡ませて、目をウルウルとさせる。「レイヴァン様。それはあまりにも酷いと思いますわ。きっと嫉妬で自分の心を病んでしまったのでしょう。国外追放ではなく幽閉でどうでしょうか? それなら、自分の過ちを反省ができますし、

  • 婚約破棄された悪役令嬢は、聖母になりました!?   第17話。

     最悪な出来事が起きてから数日が過ぎる。卒業パーティーが行われた。その前に、アカデミーの卒業式もあったのだが、それは無事に終わることができた。 エルザは、つわりが酷かったのでパーティーのみ参加することに。 本当はパーティー自体も出席したくない。パートナーが居ない状態で行ったら、周りに何を言われるか分かったものではない。きっと変な噂が立ち嘲笑われるだろう。 しかしエルザはサファード家の公爵令嬢。皇族主催の卒業パーティーなら代表として出席しないとならない。婚約者なら、なおさらだ。 気分が優れない。つわりもだが、気持ち的にも……。ルルとビビアンは支度を手伝ってくれたが、何だか落ち着かない様子でソワソワしている。この前のことがあり、心配しているのかもしれない。主として大丈夫だと言いたいところだが、エルザにはそんなことを言える余裕はなかった。 自分さえも、これからどうなるのか分からない状態だ。お腹の子のこともある。 せめて婚約者として相応しくしなければ……。 必死に自分に言い聞かせながら皇宮に向かった。ダンスホールでは、すでにたくさんの貴族や卒業生徒達で賑わっていた。 しかし、婚約者であるレイヴァンを連れていないエルザに気づくとコソコソと陰口を言ってくる。「まあ、見ました? エルザ様ったら、婚約者なのに一人で来ているわよ」「やはり、あの噂は本当だったのね。レイヴァン様はレイナ様に夢中なのでしょう?」「これだと、婚約者が代わるのも時間の問題よね」 エルザにも聞こえるような声で言ってくる。そんなことは言われなくても……。 すると、周りがざわめき出した。エルザは、その方向を見る。 注目の相手はレイヴァンとレイナだった。 レイヴァンにエスコートされて出席していたが、その姿は恋人同士みたいだ。 しかもレイナの着ているドレスは、この間、エルザがレイヴァンとお芝居の時に着ていたドレスと同じだった。 彼女が着ると、少し幼さが残るが、また違った美しさがある。 何よりも聖女とは思えない色気が漂わしていた。周りだけではなくエルザも思わず息を吞む。「まぁ、なんてお似合いなのかしら。まるで本物の恋人みたいだわ」「なんて美しいのかしら。聖女ってよりも女神様みたいだわ」 周りの令嬢達は、2人を絶賛する。しかしエルザの心は穏やかではない。(いや……それより

  • 婚約破棄された悪役令嬢は、聖母になりました!?   第16話。

    「どうされましたか? エルザ様」「どこかご気分でも悪いのですか? お医者様をお呼びしましょうか?」 ルルとビビアンは心配そうに声をかけてくれる。しかしエルザは溢れる涙を止めることができなかった。(私はどうしたらいいの?) エルザは、その場で泣くことしかできなかった。 しばらく塞ぎ込んでいるとレイヴァンが自らエルザのところまで足を運んでくれた。「目を覚ましたようだな? 気分はどうだ? 話なら医師から聞いている」 恐る恐るレイヴァンの顔を見ると複雑そうに眉にシワを寄せていた。 どう見ても妊娠したことに対しての喜びようではない。まるで本意ではなかったかのような表情だった。もしかして妊娠さえも望んでいない?エルザは顔がこれ以上、見ることができなくなって、すぐに下を向いてしまう。「あ、あの……私、妊娠しました。レイヴァン様の子です」「あぁ……そうだろうな。君は私以外の男に抱かれたことはないからな」「この子は男の子かもしれません。次期の皇太子候補になるでしょう」「……何が言いたい?]「えっ……?」 低く冷たい言葉に思わず顔を上げる。すると、その表情に愕然とした。 レイヴァンは酷く冷たい表情になっていた。エルザはゴクッと恐怖で唾を吞む。「で、ですから……その」 エルザの体がガタガタと震え上がる。少しでも機嫌を損ねると、突き放されると思うような重苦しい雰囲気に。「……そうだ、丁度いい。君に話しておくことがあったのだった。卒業パーティーは悪いが、君のパートナーにはなれそうにない」「えっ……な、何でですか!?」 パートナーにはなれないって……まさか!?「……先約ができてな。話は以上だ」 レイヴァンはそう言うと背中を向けて行こうとする。ま、待って。「もしかして、その先約って、レイナ様ですか!?」 言ったらいけないと思ったのに、咄嗟に口から出てしまった。 そうしたらレイヴァンは動きが止まり、こちらを振り返ってくれた。しかし、その表情は変わらず冷たい。「……だとしたら?」「そ、そんなのおかしいですわ。私は婚約者です。パーティーは……婚約者と同席するのが習わし。それなのに、婚約者でもないレイナ様と出席されるなんて。それに、私のお腹にはあなたの子が……」 本来なら絶対にあってはならないこと。周りの方々にどう説明するだろう? (それに…

  • 婚約破棄された悪役令嬢は、聖母になりました!?   第15話。

     あまりにも衝撃の一言にエルザが持っていたフォークを地面に落としてしまった。 どういうことだろうか? 聞き間違い? レイナは、パートナーにレイヴァンが誘ってくれたと言っていたが、婚約者はエルザだ。パートナーが婚約者以外と行くなんて。「まあ、レイヴァン様はレイナ様をパートナーに選ぶなんて素敵だわ。2人はお似合いだと、ずっと思っていましたの」「皇太子のレイヴァン様と聖女のレイナ様。まるで絵に描いたような美男美女ですわ」しかし他の令嬢達は大盛り上がり。するとレイナは少し困ったような表情をする。「でも私は迷いましたの。レイヴァン様とエルザ様とは婚約者だし、申し訳なくて」「何を言っているのですの。レイナ様は聖女様なのだから、エルザ様が譲るべきです」「そうですわ。相手は悪役令嬢と悪名高いお方。レイヴァン様がレイナ様を選ぶのも当然のことですわ」 そう言いながらエルザが居るのも関わらずクスクスと笑っていた。 すでに私は蚊帳の外にされていた。まるで最初から相手にされていなかったかのような言い分で。 エルザは頭が真っ白になる。これは、どういうことだろうか? 手がガタガタと震えてくる。胃が余計にムカムカして気持ちが悪い。「この様子だと、婚約者がレイナ様になるのも時間の問題ではないかしら?」「そうね……レイヴァン様も、そのつもりでパートナーを選んじゃなくて?」 エルザは我慢ができなくて思わず立ち上がる。 そして、その場を後にする。バタバタと走り、人気のない場所まで向かう。「ぐっ……ゴホッゴホッ」 エルザは、あまりの気持ちが悪さに、そのまま吐いてしまう。 吐いても、まだ気持ち悪さは変わらない。むしろ余計に胃がムカムカする。「エルザ様!? どうなさったのですか?」 一緒に来て待機していた護衛騎士のライリーが慌てて、こちらにきてくれた。「……大丈夫……ちょっと気持ちが……」「エルザ様!?」 必死に平気なふりをしようとするがあまりの気持ち悪さに、倒れてしまう。 次に目を覚ました時は『ホワイトキャッスル』にある自分の寝室だった。ベッドで眠っていた。(さっきのお茶会は夢?……それもそうよね。あんなの、ありえないことだわ。レイヴァン様がレイナ様にパーティーのパートナーに誘うだなんて。私という婚約者が居るのに) 起き上がろうとすると、ルルとビビアン

  • 婚約破棄された悪役令嬢は、聖母になりました!?   第14話・ご懐妊。

     それから3ヶ月が経った頃。もうすぐ魔導育成アカデミーの卒業式が迫っていた。18歳になれば、成人だと認められる年。大体の生徒は卒業後に自分に向いたところに選ばれたり、就職する。今年はエルザ達の番だ。 そしてレイヴァンは、卒業後は皇太子としての教育を終わらせ、公務を中心になる。そこで未来の皇帝としての引き継ぎをして即位するのが流れだ。 そうなるとエルザも婚約者としてではなく皇妃として嫁ぐのが決まりとなっている。 しかし、そんな時にジュリアナ伯爵令嬢からお茶会の招待状が届いた。 エルザは、そのお茶会に違和感を覚えた。何故自分にも送ってきたのだろうか? ジュリアナ伯爵令嬢は、レイナに対して崇拝している1人である。つまり、エルザに対して、あまりいい印象がない。「どうしますか? お断り致しましょうか?」 侍女のルルが心配そうにエルザにそう言ってきた。何が目的か分からない。 しかし最後のところに、こんなことが書かれていた。『聖女であるレイナ様から大切な報告があるそうです。是非ともエルザ様に来て頂けると幸いです』と……。(レイナ様から大切な報告? それは何かしら?)ここまで言われると出席しない訳にはいかないだろう。それこそ何を言われるか分かったものではない。「……いいわ。出席すると伝えて」「分かりました。それより大丈夫ですか? 何だか顔色が悪いようですが?」「大丈夫よ。ちょっと胃がムカムカするだけで、すぐに良くなるわ」 最近、体調が優れない。もしかして風邪でもひいたのかもしれない。 大切な時期だから気をつけないと……。 レイヴァンにでも移してしまったら大変なことだ。「そういえば……レイヴァン様は?」「公務の方で忙しいみたいですね。最近は、こちらにもお見えになっておりませんし、多忙なのでしょう」「……そう」 ルルの言っている通り、最近はこちらに来ることはなかった。卒業に公務のこともあるから、忙しいと思っていたので気にしないようにしていたが。(何だろう……何だか嫌な予感がするわ。気のせいだといいのだけど) しかし、その嫌な予感は当たる事となった。 数日後。ジュリアナ伯爵令嬢のお茶会に出席する。ジュリアナ伯爵令嬢の屋敷に行くと庭園に華やかに飾りづけしたテーブルが設置してあった。テーブルにはたくさんのケーキやクッキーなどデザートが並べて

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