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世界を騙した男①

last update Last Updated: 2025-01-22 13:39:45

バスに揺られること15分。

隣には黒髪でショート、整った顔で誰もが見惚れる姉、紫音がいる。

「緊張するなー自分が壇上に立つわけじゃないけどテレビとかも来るんでしょ?カナタは緊張してる?」

落ち着きがない様子で僕の顔を覗き込んでくる。

実際緊張してない訳がない。

著名な科学者や研究者も来るし、テレビも来る。

もちろん取材とかもされるだろうし生中継もされるって話も聞いてる。

「もちろん緊張してるよ。流石に全世界に向けて話すんだから緊張しない訳がないよ」

天才だろうが、僕は一介の大学生。

今までテレビなんて出たことないし、著名な人達とも顔を合わせたことがない。

ここまで大げさになるなんて、著名人の言葉は重いんだなと実感する。

今日の朝もテレビで、[異世界は存在する!?そもそも行くことが出来るのか!?][科学者の五木さんが理論上可能と大胆発言!]なんてテロップが流れて芸能人が騒いでたな。

誰だよ五木さんって。

「姉さんも覚悟しといた方がいいよ。僕の身内ってだけで取材されるだろうから」

「ええー!?聞いてないよそんなの!」

「考えたら思いつく事じゃないか、一介の学生が世界に向けて発言するのに姉さんには何にも聞いて来ない訳がない」

記者も僕の素性やプライベートではどういった生活をしているのか、なんて所まで知ろうとしてくるだろうし、一番身近な姉に聞くのは当たり前だろう。

「次は、国際大会議場前〜」

目的地を読み上げる運転手。窓に顔を向けると白く大きな3階建ての建物が見えてきた。

バスを降りるとどこを見てもテレビカメラや取材陣で溢れている。

僕を見つけた1人の記者が駆け寄ってきた。

「彼方さん御本人ですね?」

顔はもう出回ってるから知ってるくせに、と思いつつも真面目な顔で答える。

「はい、本人です」

その一連のやり取りを見ていた他の記者やテレビカメラも寄ってくる。

「すみません、時間が押してるので取材はまた後でお願いします」

断りを入れて、人をかき分けつつ会場へと足を運ぶ。

「私を置いてくなーカナター!」

残念、姉は取材陣に囲まれてしまったようだ。

僕の代わりに適当に答えてくれ、申し訳ない。

と、心にも思っていないが軽く両手でゴメンの合図を送って先に会場入りをした。

――――――

五木隆は若くして先進科学分野で実績を残した著名人である。

反重力装置の開発に成功し、宇宙探査に大きく貢献した第一人者でもあり全世界でも認められた人物でもある。

次の課題として、タイムスリップ。時空に関することだがまだ何もきっかけが掴めず燻っていた所に彼方という人物が現れた。

異次元空間へのアクセスなんて、馬鹿げた事をと思ったが論文を見た限り理にかなっていた。

彼と協力すればタイムスリップも可能にできるかもしれない、それほどまでに彼に期待していた。

そんな彼が質疑応答のカンペを用意していた時、待合室の部屋がノックされた。

「彼方です、五木さんの部屋でお間違いないでしょうか?」

若い男の声だ。彼が期待する人物が到着したようだ。

「そうだよ、どうぞ入って」

開いた扉から顔を覗かせた彼はひどく緊張しているようで固い表情になっている。

「そんなに緊張することはないよ、私も有名になったとはいえ一科学者には変わりないのだから」

「は、初めまして城ケ崎彼方と申します。本日はよろしくお願いします」

「五木隆です。こちらこそ今日はよろしくお願いしますね」

発表の場ではあるが、ある程度質疑応答の流れはカンペがありそれに従って進めていくだけだ。

ただ実際に彼の考えは分からない為、どんな内容で詳細を詰めているのか今すぐに話を聞かせてもらいたいが、それは後の楽しみにとっておこうと胸の内にしまう。

「とりあえず質疑応答の流れはこの紙に書いてあるから一通り目を通しておいてくれるかな?」

そう言いながら五木は彼方に3枚ほどの紙を手渡した。

「なるほど……これに沿って進めていくんですね」

「そうそう、できるだけアドリブはないようにしてるけど、私以外の者からの質問はその流れに沿わないだろうからある程度は即興でも答えれるように考えていてくれれば助かるかな」

彼方にとっては今日の発表で、立証実験を行うための出資額や場所の提供が決まる。

「もうすぐ時間だね。壇上のほうに移動しておこうか」

二人で会場に足を向ける。

全世界を騙してみせる。そう意気込んで歩く彼方の手には、手汗でくしゃくしゃになった3枚の紙が握られていた。

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    声が震えていたのがおかしかったのかアレンさんは横で笑っている。「フフッ、そんなに畏まらなくても良い。余は皇帝であるが1人の人間でもある。アレンは余の友人であり恩人でもある。そんな彼を救ってくれた君には感謝しかない」 「あ、ありがとうございます」 「それで君のその眼帯はもしかして隠す為の物かな?」 「えっと……」皇帝の勘は鋭いようだ。 すぐに僕の赤眼に気づいたらしい。 禁忌を侵した者は国に置いてはおけない、なんて言われるのだろうか。「ふっ、そこまで気張らなくていい。おおよその事は想像できている。彼らの為に禁忌を侵したのだろう?」 「その、僕の無知が招いた結果です……」 「彼らに変わって余からも礼をさせてほしい」 「もうアレンさんからもお礼はしていただきました!なので大丈夫です!!」 「余からの礼を断ることも無礼に当たるのだよ。何も言わず受け取るといい」 「ありがとうございます……」 受け取った袋はかなりの重さがある。 恐らく金貨がたくさん入っているのだろう。「それとカナタ、この国にいる間君は何処に滞在するか決めているのか?」 「いえ、まだ何も……」 「あーそれは心配しなくていいよ、ボクらの宿り木に来たらいいからね」 「ふむ……それなら安心か。この世界の常識を知らずに彷徨くのは流石に危険だからな」 「ああ、その当たりも説明しておくよオルランド」皇帝はわざわざ僕の為に滞在場所を提供するつもりだったそうだが、気が知れた仲間と共にいるほうが気楽だろうとのことで 僕らは城を後にし、宿り木へと向かった。「カナタ、これからはカナタって呼ばせてもらうよ、いちいち君付けするのも面倒だしね」 「構いませんよ、そっちのほうが戦闘時だと素早く指示を受けられますし」 アレンさんから呼び捨てにされると、黄金の旅団員として認められた気がして嬉しかった。宿り木の一室を与えられ荷物を置き僕は食堂へと向かう。

  • もしもあの日に戻れたのなら   異世界アルカディア⑨

    馬車を降りると、辺りは豪華で綺麗な雰囲気になっている。 噴水や光り輝くオブジェが高級感を感じさせる。 衛兵がそこかしこに待機しており、メイドや執事もチラホラと見える。 初めての光景にキョロキョロと視線を泳がせていると、一人の執事の恰好をした男が近づいてきた。 既にハビリス伯爵から伝書鳩が飛んでいたのだろう。 驚愕することなくアレンさんへと話しかけてきた。「お久しぶりでございます、アレン様」 「あ!久しぶりだなぁ元気にしてたかい?ガラン爺」 「それはこちらの台詞で御座いますよ。貴方がたが消えてから8年も経っていますから」 優しそうな微笑みを浮かべる執事はガラン爺と呼ばれているらしい。 肉弾戦なら無類の強さを誇る為、武器を持ち込むことが出来ない謁見の間での護衛を兼ねているそうだ。「では皆様、積もる話もありますでしょうが、こちらに武器を預けて頂き私に着いてきて下さい」 各々、武器を預かり棚に置きガラン爺に着いていく。 豪華絢爛という言葉が似合いそうな装飾が施されたどでかい扉の前で僕ら一同は立ち止まる。「ここから先は謁見の間でございます。アレン様は何度も足を運んで頂いておりますが他の方は初めてが多いでしょう。皇帝陛下は気さくなお方です。あまり固くならないように」僕もそんな国のトップなんて会ったこともなく、緊張で顔が強張っているのだろうか。 そんなことより謁見のマナーなんて簡単にしか教えて貰っていないのだが大丈夫なのか……ゆっくりと扉が開く。 全員同時に足を踏み入れる。 アレンさんだけは慣れているのか、1人スタスタと笑顔で入っていく。 レイさんからすれば冷や汗ものだろう。皇帝陛下から一定の距離で全員立ち止まる。 「余が」 「オルランドー!久しぶりだなぁ!あれ、老けた?」 あろうことかアレンさんは皇帝陛下の言葉を遮り手を挙げ声をかけた。周りがザワつく、かと思えば皆笑顔だ。 不思議に思

  • もしもあの日に戻れたのなら   異世界アルカディア⑧

    馬車に乗り、窓の外を流れていく景色は街の風景から次第に草原へと変わる。街の外に出ると、途端にど田舎の風景になるのは、この世界ならではだろう。窓の外を見ていると、アレンさんから話しかけられた。「さっきロアン伯爵と何か話していたようだけど、何かあったのかい?」「この眼帯が御礼の品だと言われました。それと魔導具だとも」「あ!そうだった!!ロアン伯爵から伝えられていたんだった、ごめんごめん」アレンさんは苦笑いしながら、眼帯の説明をしてくれた。この眼帯に魔力を流すと自分の目のように視界を得ることが出来る代物だそうだ。もちろんそんな魔導具は珍しい物で、この世界では金貨100枚はするらしい。そういえば、昨日アカリに教えてもらっていた。銅貨1枚が1000円、銀貨1枚が1万円、金貨1枚が10万円、白金貨1枚が100万円と同等の価値があると言っていたな。なら、この眼帯は1000万円の物なのか。お、恐ろしい……僕の目に着いている装着物が1000万円……歩く宝石じゃないか……それともう1つ貰った物。亜空間袋だ。これも最低容量とは聞いたが、そもそも亜空間袋自体金貨数枚はする代物だそうだ。そんなものをポンっとくれる伯爵の懐の広さに感謝しかない。暫く流れていく風景を見ていると、遠くの方に人工物が見えてきた。「あ、カナタくん!もうすぐ着くよ!」「あれが……この国の中心部……」近づくにつれて、城塞都市ハビリスの数倍はあると思われる巨大な壁が見えてくる。帝都エリュシオン。エリュシオン帝国の心臓部。立派な城壁に囲まれた敷地面積はおよそ東京二つ分の大きさらしい。人口2000万人がひしめく箱庭だ。門を抜け中央の皇帝陛下のいる城へ向かっている

  • もしもあの日に戻れたのなら   異世界アルカディア⑦

    「それにしてもこんな物まで貰ってよかったんだろうか」実はレーザーライフルを隠す為に、亜空間袋と呼ばれる物を入れておく袋を貰ったのだが、それがなかなかに凄い。中は亜空間魔法により拡張されているようで、一人暮らしのワンルーム程度の容量がある。物を取り出すときも、それを思い浮かべながら手を突っ込むと取り出せる。科学では説明がつかない、流石魔法具といったところか。「いいと思う。それ亜空間袋の中で一番小さい容量だし安い」これで一番小さいだと?「一番大きい容量の物だと、山すら入るから」「異世界アルカディア……凄まじいな……」アカリと何気ない会話をしつつ、夜はふけていった。――――――朝起きて朝食をすませた後外に出た。僕の目の前には、巨大な馬車が用意されている。バスほどの大きさがあるだろうか?10人乗っても余裕があるというでかさ。伯爵が用意してくれた馬車は、小さいバスくらいはある大きなもの。馬も見たことがないほどの大きさだ。少しファンタジックな馬だな、角は生えてるし眼つきがそれはもう恐ろしい。「さあ、みんな乗り込んで」アレンさんに促され団員達はゾロゾロと馬車に乗り込んでいく。僕は呆けて馬車を眺めていると後ろから声が掛けられた。「カナタくんだったかな?」振り返るとロアン伯爵が立っていた。「はい、どうしましたか?」「いやなに、君の境遇はアレン様から聞かせて貰ったよ。この世界を代表してお礼を言わせてほしい。無事に連れ帰ってくれてありがとう」ロアン伯爵は90度のお辞儀をし僕に礼をしてきた。「いえ頭を上げてください!全員で帰ってこられればよかったのですが、半分以上も僕の為に亡くなってしまって……」「君が責任を感じることはない。彼らは皆冒険者。守りたい者を守りきって命を落とすのは誇れる事なんだ」

  • もしもあの日に戻れたのなら   異世界アルカディア⑥

    「そんなことより、その赤眼を何とかした方がいい。伯爵に眼帯でも用意させるから待ってて」「伯爵にそんなこと頼んでもいいのか?」「いいよ、あの伯爵はかなり変わってる人だから」変わってる?別に普通に気さくなおじさん、って雰囲気だったが。「ここ、城塞都市ハビリスは一番魔族領に近い。だからカナタのその赤眼についても何も言ってこなかった。色んな人が出入りする都市だから」本来なら僕の赤眼は何処に行っても奇異な目で見られるし、レーザーライフルも珍しく、目につくらしいがロアン伯爵は様々な人と触れ合う機会が多く、僕にも何も言ってこなかったそうだ。慣れてしまっているのだろう、風変わりな者たちを見るのが。 ロアン伯爵に用意してもらった黒い眼帯を着ける。鏡の前で自分を見ると、似合わなすぎて笑ってしまった。「カッコよくなった」アカリに褒められると少し照れる。今まで眼帯なんて着けたことなかったから違和感しかない。見ようによってはかの有名な武将に見えなくもない。 少しすると、ドアがノックされた。「カナタくん、いるかい?」アレンさんが来たようだ。返事をすると、部屋に入ってくる。「いいね、眼帯よく似合ってるよ」「ありがとうございます。でも距離感が掴みにくいですね」「まあ慣れるまでは仕方ない。それで、馬車の準備は出来たから明日には出発するよ。それまではゆっくりしていて」それだけ伝えるとまた部屋を出て行った。「アカリは外に出なくていいのか?」「うん。カナタと一緒にいる」久しぶりにこの世界を見て回れるというのに、部屋にいるらしい。アカリは元の世界に居たときより、よく喋るようになった。理由を聞くと恥ずかしそうに答えてくれた。どうやら自分の世界に僕がいることが、嬉しいらしい。この世界の事は私が教える、と胸を張ってドヤ顔を見せる。可愛いやつだ。年相応な振る舞いをしてくれると僕も嬉しく

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