「なるほど……大体は理解したけどそれで僕に何をして欲しいんだ?」「俺達は元の世界に帰りたい、が繋がった瞬間魔族が流れ込んでくる恐れがある」まあそうだろうな、元の世界に帰りたい気持ちはわかる。だから今日僕の家に来たってわけか。「繋がったら帰してあげれるよ。駄目だなんて言うと思ったのか?」「いや、一応全ての権利は生み出したカナタにあるんだしさ断られたらどうしようとは考えていたんだぜ?」「それで、懸念があるんだろ?繋がった瞬間に魔族が流れ込んでくるってやつ」繋がった瞬間魔族が流れ込んできたら、軍では対処できないだろう。さっき見たような魔法が存在するなら現代の武器は通用しないはずだ。「そこで、俺達が守るって訳よ!俺達なら魔族に対抗できるしな」確かに春斗に協力してもらえば何かあってもなんとかなりそうだが、春斗の仲間はどうするんだろうか。「春斗以外にどれほどの仲間がこっちの世界に来たんだ?」「思ってたより多いぜ?20人がこっちに来ている」多いな。数人だと思っていたが討伐に出たくらいだからそれくらいにはなるか。「ちなみに巻き込まれたのは味方だけじゃなくて敵もなんだろ?」「そうだ、それが厄介なんだよ。一応こっちで暗躍しつつ討伐はしてるんだがな、まだ数体生き残ってる」それは危険だな……立証実験の際に妨害してくるなら危なすぎる。味方が多いとはいえ、敵の戦闘能力も馬鹿には出来ないはずだ。「てことは実験の時に妨害してくるってことだな?」「そう、それが俺達の一番の懸念なんだよ……もちろん俺はカナタを最優先で守るつもりではいるが敵にはかなりの強敵がいるんだ……」「仲間の方が数が多いのにその敵とやらのほうが強いのか?」「強い。対抗できるやつが一人だけいるんだけどな、こっちの世界に飛ばされてるはずなんだがまだどこにいるか所在を掴めていないんだ」そうか、20人全てを把握できている訳では無いのか。「まだ実験まで半年はある、探しきれないか?僕も伝手を使う」「無理だぜ。なにより名前も見た目も変えてるはずだからな、まずどうやって探すつもりだ?」魔法……厄介すぎるな。こんな時にまで力を発揮しなくていい。「とにかく一度仲間に会ってほしい、みんなカナタに会いたがっているんだ」「分かった。いつ何処で会うかは春斗に任せるよ」「よし!任せとけ!また連絡するぜ
一ノ瀬漣から貰った名刺に連絡すると3コールで電話に出た。暇なのだろうか?「誰だ、この番号を知っているということはプライベート用の名刺を渡した者だ、カナタか?」なんだ?プライベート用って。プライベート用の名刺なんて初めて聞いたぞ。「一ノ瀬漣さんですか?カナタです」「やはりそうか。それで?この番号に掛けてきた理由は?」淡々としているなこの人は。でも聞かないことには始まらない。「異世界の事で聞きたいことがあります」「……………………分かった。明日の12時にレーベでいいか?」レーベって駅前にある喫茶店の事かな。えらくお洒落な所を選ぶんだなこの人。「分かりました」「一人で来いよ」それだけ言うと電話が切れた。一人で来いとはどういうことだろうか。やっぱり誰にも気づかれず僕を始末するつもりか?春斗に伝えたほうがいいかも知れないな。携帯で春斗の番号を探す。春斗(元気バカ)なんて酷い名前なんだ。付けた僕が言うのもなんだが神風春斗に直しておこう。これから長い付き合いになりそうだしな。「もしもし、どうしたカナタ」「春斗ちょっと相談がある」「なに!?相談だと!待ってろ家に行く!」何を勘違いしたか分からないが、僕に何かあったと思ったのだろう。すぐに電話は切れたが、とりあえず家で待っておいたらいいか。しばらくするとインターホンが鳴る。「カナター!来たぜー!!!」速いな、電話してから10分しか経ってないぞ?魔法か?魔法の力なのか?そんなの僕も使いたいじゃないか!扉を開けると満面の笑みを浮かべて立っていた。「相談だって?何でも聞いてこい!」僕から相談なんてしたことがなかったから相当嬉しかったらしい。リビングに上がってもらいお茶を出す。「それで?何が聞きたいんだ?」「まずはこれを見てくれ」一ノ瀬漣から貰った名刺をテーブルに置くと怪訝そうな顔を浮かべる。「なんだこれ?ん?少し魔力を感じるな。これどこで手に入れたんだ?」「一ノ瀬漣って人がいるんだけど……」漣との遭遇、その後会話した内容を細かく伝える。「なるほどな、確かにこれは異世界絡みだ。俺に相談して正解かもしれんな」「やっぱり?とりあえず明日会うんだけど一人で来いって言われててどうしたらいいか相談したかったんだ」「一人で来いってのが怖いところだな。実際漣ってや
翌日、12時前に駅についた僕は辺りを見回したがどこにも漣の姿は見当たらない。もちろん春斗とその仲間も何処にいるか分からないが何処かに隠れてはいるのだろう。レーベに到着し、中に入るとまだ来ていないようで先にテーブルへ案内された。「すみません、ミルクティーを一つ」「畏まりました」店員と一言二言やり取りし窓の外を眺める。やはり見当たらないな春斗は、魔法の力だなこれは。カランコロンと店のドアが開く音がして、そちらに顔を向けると見知った顔が見えた。一ノ瀬漣が来たようだ。服装がスーツでビジネスマンの風貌をしているな。「すまない待たせたな」「いえ僕もさっき来たところです」社交辞令を交わし漣が席についた。「それで、異世界の話とはなんだ」直球で聞いてきたな。気になっていたようでソワソワしてるようにも見える。「では率直に聞きます。一ノ瀬漣さんあなたは異世界から飛ばされて来ましたね?」その瞬間当たりが凍りついたように音がなくなった。「え?」無意識に口から出た言葉はそれだけ。それ以上に今の状況が理解できない。周りの人が、時計が、音が、止まっている。マズい!核心をつき過ぎたようだ。直ぐに逃げる準備を行おうとするが足が動かない。「逃げることは出来ないぞ」漣がこちらを見定めるようにまっすぐ見つめてくる。「悪いが結界を張らせて貰った。この世界では元の世界に比べるといくらか力が落ちてしまうようだが私にとってはこれくらいは造作もない事だ」時を止める結界なのか?これが造作もない?想定していた以上に漣は強者のようだ。「言葉は発せられるはずだ。お前は魔族の仲間か?」「ち、違います……」絞り出すように声を出す。漣は僕のことを魔族の仲間と思っていたみたいだ。元の世界に帰るために魔族が僕を利用していたと考えているのだろう。「僕は春斗の仲間です……」そう言うと漣は、怪訝な顔を浮かべる。「なんだと?なぜハルトの名前を知っている」僕が答えようとした瞬間。ガラスが割れるような音が響き、薄い板を破るような激しい音と共に春斗が飛び込んできた。「カナタぁぁぁぁ!!」春斗の声だ!いつもならうるさかった大声が今はただただ頼もしい。「春斗!!!ここだ!!!」僕も力の限り叫び自らの場所を伝える。「放て!!ファイアストーム!!」「ま!待て!こんな
「ハルトにフェリス、異世界の仲間にこんなとこで会えるとは思わなかった」漣は味方だったようで、一安心したがさっきの一触即発の状況を見ていればそんな呑気なことを言ってられない。「レオン!お前なんで連絡がつかなくなってんだ!てか一ノ瀬漣ってなんだよ!レオンからレンに変えたってことか!?」「す、すまない。私にとってはここが異世界。携帯の使い方もよく分からず飛ばされた当初は皆を探すより先にこの世界に順応しようと努力していたんだ」漣はこの世界の道具に疎いようで、機械という物自体異世界には存在しないらしい。春斗はすぐに順応したみたいだが、個人差があるみたいだった。「それよりも剣聖が見つかってよかったわ。アタシたちだけじゃ正直あれに勝つのは無理だしね」「確かにな、レオンじゃなかったら俺らも何人か死ぬレベルだしな」何か僕のよく分からない話が飛び交っている為、会話に入っていくのが難しい。「ただまあこれで20人全員見つかった訳だ。これなら異世界に帰るゲートが出来ても安心だな」「そうね、まだ完成した訳じゃないからカナタくんは絶対に守りきらないといけないけど」そうだ、僕を守ってくれ。さっきみたいな戦いが敵と遭遇したら起こるんだろう?すぐに死んでしまうよ僕は。「敵は何人生き残っている?私はこっちに来て3体は始末したが」「じゃああと5体だな。意外と少ないな!」全然嬉しくないぞ。あんな戦いができて尚且悪意を持っている奴があと5体もいるんだろ。「あの、すみません一つ聞いていいですか」恐る恐る会話に入ろうと声をかけると漣が真っ先に反応した。「本当にすまないことをした。君が異世界人にとっての救世主とは知らずに怪我を負わせるところだった」「いえ、それはもういいんですけど……剣聖とか火炎魔人?とかってなんですか?」
話題は尽きなかったが、喫茶店でずっと話しておくわけにもいかず1時間もすれば解散となった。「カナタくん、今度また会うけどこれ持っててくれる?」フェリスから白い宝石をいれた袋を手渡される。「なんですかこれ?」「これね、一度だけ命の危険が迫ったときに氷の膜が自分を守ってくれるの。貴方には死んでもらっては困るからね。これで少しでも時間を稼いで私達に連絡を頂戴」これは素晴らしい。女性から物を貰うことすら嬉しいが、何より自分の命を魔法という脅威から守ることのできる唯一の道具だ。「ありがとうございます!!めちゃめちゃ嬉しいです!!」「そ、そう?よかったわ」はにかんだ笑顔を時たま見せてくるのはわざとか?可愛過ぎるじゃないか。それは置いといて、漣は春斗達と連絡を取り合えるようにしたみたいだ。僕にとっては一つ肩の荷が降りた気分だ。電車を降りて帰路に着く際、嫌な悪寒を感じた。周りを見渡しても誰もいない。でも確かに視線を感じたんだが、気のせいだろうか。「ただいまー」「おかえりー!!」元気ない声が帰ってきた。今日は姉さんが帰ってくるのが早いみたいだ。「どこに行ってたのカナタ?」どこと言われてもなんて答えたらいいのか。「レーベっていう喫茶店だよ」「一人で?」今日はやけに突っ込んでくるな。さては姉さん、暇だな?僕を相手にして暇潰そうって考えか。「一人だよ。たまには一人でのんびりミルクティーを嗜みたくてね」「私も行きたかったなー、今度連れてってよ!」「いいよ、雰囲気がすごくお洒落だっから姉さんも気に入ると思うよ」他愛もない会話をしているが、頭の片隅には先程の戦
2044年1月1日卒業が近くなり実験に関わるのももうじきだ。そういえば春斗から連絡がないが、学校が休みのせいで会うこともほとんどない。一度連絡してみようか。……………………4コール鳴らしても出ない。待っていると「はい、フェリスです」あれ?春斗じゃないのか?「あの、この番号って春斗で合ってますよね」「あ、カナタくん!ごめんねちょっと問題があってね」春斗に問題?何かあったのか。「とりあえずカナタくん、今から会えるかな?」フェリスさんからのお誘いだが、あまり嬉しくはないな。春斗に何があったのか気が気でならない。「分かりました、駅前のレーベに行ったらいいですか?」「そうね!そこに今から来てくれる?」すぐに外行きの格好に着替えて、玄関を出た。また駅までの道のりで悪寒がしたが気にしていられない。何か視線のようなものは感じるが、どこから見られているかは分からない。気の所為と思おう、正直命を狙われる立場にある以上気にした方がいいのだろうが今は春斗のことが気がかりだ。喫茶店レーベに入ると既にフェリスさんは着いていたようで、一番奥の席から手を降っている。「すみません、お待たせしてしまって」「いいわよ、アタシもさっき来たとこだしね」白い髪に白いコートか、白がよく似合う人だ。「それで春斗なんですが、何かあったのですか?」「実はね……」フェリスさんから聞いた内容は驚くべき内容だった。少し前に敵である魔族と出会ってしまったようで、その場で戦闘になったらしい。
「この先に工場があって、その近くのゲストハウスみたいな家を数軒借りてみんなで住んでるのよ」「20人皆でってなると楽しそうでいいですね」「そうかしら?アタシ達の世界では割りとシェアすることが当たり前よ」冒険者ってなると、やっぱり漫画やアニメのように行く先々が変わるし住むところも変わるようで、シェアハウスに住むことが一般的なようだ。「伏せて!」突然フェリスさんが叫ぶと同時に僕の足に蹴りを入れてきて強制的に伏せさせられた。「いたぁ!」伏せる前に僕の頭があった位置にナイフが飛んでくる。危ない……フェリスさんの蹴りに感謝だな。「不味いわね、カナタくん狙われてるわ。拠点はすぐ近くだから増援がくるまで2分。守り切ってみせるわ!」「氷の絶壁!」そんな言葉と共に僕らの目の前に巨大な氷の壁がせり立った。「誰かは知らないけどアタシがいるタイミングで襲いかかってくるなんて命知らずにも程があるわね!」頼もしい、なんて頼もしい台詞なんだ。フェリスさんには絶対逆らわないでおこう。数秒沈黙が訪れたが、少し離れたところから声が聞こえてきた。「なるほど……氷の女王でしたか。これは相手が悪かったかもしれませんねぇ」飄々とした態度で高身長な男が歩いてくる。「あなたは何者?魔族のオーラを纏っているから敵には違いないでしょうけどね」「御名答!」長身の男が拍手をしながら近づいてくるが、フェリスさんは両手から冷気を纏ったレイピアを出現させる。「お初にお目にかかります、ワタクシは高位魔族が1人四天王ゾラ・マクダインと申します。ゾラと呼んでいただいて結構」「黒翼の|剣《つるぎ》か、厄介な相手ね……カナタくん、絶対にその氷の壁から外には出ないでね」出ろと言われても出ませんよ、と言わんばかりに僕は首を縦に振る。「ゾラ、あんたのトップはどこにいるの?」「リンドール様ですか?あの御方はまだ表舞台には出てきませんよ。少なくとも異世界へのゲートが完成するまでは、ね」こちらを品定めするような目付きで凝視してくる。恐ろしすぎて腰が抜けそうだ。「アンタの相手はアタシよ!」地面を強く蹴りゾラに向かって駆け出すフェリス。それを見たゾラも何かしら唱えたと思ったら右手が化け物のような腕に変化した。「異世界へのゲートが完成するまでは手を出すなと言われていますが、少しくらい味見させて
――――何分経っただろうか。フェリスとゾラは激戦を繰り広げている。時たま激しい剣戟の音が聞こえてくるから見えない速度で戦っているんだろうな。「やるねぇ、フェリスちゃん。四天王を相手に善戦してるよ」「あのゾラってやつは強いんですか?」「強いよ。少なくとも本気出されたらフェリスちゃんじゃ勝てないね」フェリスも氷の女王とか二つ名がなかったか?たしか異世界では強者に二つ名を付けるって聞いたけど、そんな彼女でも勝てない相手なのかヤツは。「ま、僕なら勝てるけどね。せっかくフェリスちゃんがカナタくんに良いところ見せようと頑張ってるのに横取りはできないしねー」そうなの?フェリスさんそうなんですか?僕にとっては早くそいつを片付けてほしいんですが……。というかこのアレンって人はフェリスさんより強いのかよ。見た目だけなら弱そうなんだけどな。「あ、もうすぐ終わるみたいだよ」アレンがそういうと同時に音が鳴り止んだ。フェリスさんは所々血を流しているがゾラは無傷のようだ。「フェリスさん!大丈夫ですか!」「こいつ!本気で戦えよ!手を抜きやがって!」だめだ、フェリスさんが戦ってるときは声をかけてはいけないな。口調が荒ぶっておられる。「あなたを相手に本気で戦ってしまうと後ろの方が出てこられてしまいますからねぇ」ゾラにそう言われるとフェリスさんが振り向く。「ア、アレン団長!見てたなら助けてくださいよ!」団長?おいおいこの人団長かよ。めっちゃ偉い人じゃん……。「いやーフェリスちゃんがカナタくんに良いところ見せようと思って頑張ってたからさ、手を出しにくくって」笑いながらフェリスさんに話しかける。「な!べ、別にそんな気持ちで戦ってませんよ!!」フェリスさんの顔がみるみるうちに赤くなる。図星だったようだな、聞かなかったことにしておこう。そんな会話をしている間も黙ってこちらを見つめる四天王ゾラ。何言わないから余計に怖い。「そろそろここらでお暇させて頂きましょうか」ゾラは大きな翼を広げると一気に羽ばたき空へと消えていく。「あ!まてこらぁ!まだ決着はついてねぇぞ!!」フェリスさんは相変わらず戦闘の熱が抜けきってなかったようで、レイピアを振り回しながら空に向かって叫んでいた。「とりあえず終わったみたいだしボクらの拠点に行こうかカナタくん」「はい
ダンジョンの攻略は冒険者の仕事だ。稀に出てくる宝石や価値の高い魔導具などが彼らの生活を支えている。当然収穫のない日もあるそうで、そんな日はツいていなかったとヤケ酒を煽るそうだ。「セル達がお金を稼いでくれる間にボクらはある人の所に行こうか」「ある人というのは?」「着いてからのお楽しみさ」アレンさんはそう言って不敵に笑う。誰かを紹介してくれるみたいだが一体どんな人なのだろうか。僕とアカリはアレンさんに連れられ宿り木から出ようとすると、レオンハルトさんがガチガチに装備を固め立っていた。「お待たせレオンハルト。さて、行こうか」「ふぅ……気が重いが、仕方ない」レオンハルトさんは陰鬱な表情で嫌そうに顔を背けた。これから会う人というのは誰なんだ。剣聖がそこまで装備を固め、嫌がる人物とは一体……。「カナタは心配しなくていい」「いや、そうは言われてもな……」剣聖の顔が強張っているんだぞ。会うなり剣をぶん回すような人だったらどうしようか。街を練り歩く事十分。ある大きな屋敷の前に到着するとアレンさんが門番に向かって手を挙げた。「やあ、彼女はいるかな?」「え?アレン様?は、はいおりますが……」「じゃあ入れて貰えるかな?」「も、もちろんです!……それよりもアレン様は死んだと噂が」「ああ、噂は所詮噂ってやつさ」門番は驚いた顔でアレンさんをまじまじと見つめていた。それを当人は適当に躱し、敷地内へと入った。僕な
朝は小鳥のさえずりで目を覚ました。 とても気持ちのいい寝起きに僕は伸びをする。 久しぶりにゆっくりと眠れた気がするな。一階に降りると既に何人かの旅団員が席について朝食を摂っていた。「おはようカナタ」 「おはようございますアレンさん」 僕はその中でアレンさんを見つけると彼と同じテーブルについた。ここ宿り木では食事処も完備されていて毎日朝昼晩と望めばタダで食事ができるよう料理人を雇っているそうだ。僕が席に着くとウェイターの一人が僕の所に朝食を持ってくる。 美味しそうな匂いにお腹が鳴った。「今日は忙しいからね。よく食べて体力をつけておいた方が良い」 「はい、そうします」 朝食はパンと目玉焼きにスープがついている。 とても食欲をそそる匂いだ。僕はパンを一口頬張ると、あまりの美味しさに二口三口と立て続けにパンに齧りついてしまった。「ハハッどうだい?ここの食事はなかなかのものだろう?」 「はい!美味しすぎます!」 日本の食事も当然美味しいが異世界の食事も捨てたもんじゃない。 いや、これならもしかするとこっちの世界の食事の方が美味しい説が出てきたぞ。僕が朝食を採っているとフェリスさんも起きたようで二階から降りてきた。「おはよー……」 「相変わらず寝起きが悪いねフェリス」 初めて見たフェリスさんの姿に僕も驚いた。 いつもは綺麗な格好で髪も整え服もしっかり着こなしていたが、今はパジャマなのかダルっとした着こなしになっていた。「あー……フェリス、カナタ君もいるよ?」 「え?」 アレンさんが僕の名前を口にするとフェリスさんは固まった。 しばらくして顔が赤くなり走って二階へと戻って行った。 人様に見せるような恰好ではないと恥ずかしくなったのだろうか。「いやぁカナタも罪な男だ」 「え?」 「ああ、いや気にしないで。こっちの話さ」 何の話だろうか。 まあ気にしないでというのなら気にしないけど。
宴会も終わりに近づくと酔い潰れたのか何人かがグッタリと机に突っ伏していた。「貴方がカナタさんですね?私はリリー・アイズと申します」見慣れない人が近付いてくると挨拶をしてきた。白い髪で目つきは鋭くレイさんを彷彿とさせる女性だった。「えっと……初めましてカナタです」「私はあそこで酔い潰れているバカと同じクラン、"破滅の灯火"の副団長をしています」リリーさんはセルさんを指差しそう言う。副団長って肩書きがつく人はみんなクールな女性なのだろうか。リリーさんも知的な雰囲気が漂っていて、とても美しい女性だ。「改めて感謝を。アレン団長は人類にとって失うわけにいかない人材でした。この世界では王と名のつく二つ名を持つ冒険者はたったの三人しかいません。殲滅王アレン、不敗の王テスタロッサ、魔導王クロウリー。魔神の軍勢に対抗できるのは彼らの力あってこそ。だから改めてお礼を申し上げます」「何度も言いますが僕だけの力ではありません。日本でも協力者がいたからこそ異世界ゲートは完成させる事ができました」「そうでしたか……ではその方々にも感謝申し上げます」リリーさんは何度も頭を下げていた。そこまで畏まられても対応に困ってしまう。そんな僕の様子を見てたのかアカリがスッと寄ってきた。「リリー、カナタは疲れてるからもう休ませてもいい?」「ああ、すみませんでした。お時間を取らせてしまって」どうやらアカリはそろそろ部屋に戻ってもいいと気遣ってくれたようだ。「いえいえ。またこの世界ではお世話になることもあると思いますのでその際はよろしくお願いします」「もちろんです。我々"破滅の灯火"は貴方の力になると誓いましょう」リリーさんとの会話を終えるとアカ
「おい!アレン!!お前らが帰ってきたお祝いも兼ねて皆で騒ごうぜ?」いきなり大きな声が聞こえたせいで皆の視線はそちらに向く。大柄で背丈を超える巨大な剣を担いだその男は、ズンズンとこちらに向かって歩いてきた。見たことがない顔だがアレンさん達の知り合いだろうか?「久しぶりだね、セル。それに僕がいない間宿り木の管理をしてくれてありがとう」「おう!!お前がいなくなってからは俺が一時的にここの管理者やってたからな!!!」黄金の旅団の精鋭が魔神討伐の旅に出た後は、ここ宿り木のトップを任せていた方らしい。「見たことねぇ顔だが、あんた誰だ?」そんなセルと呼ばれた男が僕のほうを見下ろしてくる。威圧感が半端じゃないが、今まで魔物を見てきた僕はここで気おくれはしない。「初めまして、城ケ崎彼方です」「彼のことはご飯を食べながら話すよ、とにかく座って」「おお、俺も腹が減ってたしな」アレンさんにそう促され、自己紹介もそこそこにみな席に着いた。「じゃあ気を取り直して」カンパーイ!!各々近くにいた人とカップを打ち付ける音が聞こえてくる。僕も手が届く範囲で乾杯し、果実酒を口に運ぶ。日本で飲んだことがある果実酒より、果物の風味が強く口触りはとても良い。「それで8年も何処にいたんだアレン」セルと呼ばれた男は気になって仕方がないのだろう。食べるのもそこそこにアレンさんへと話しかける。 「魔神討伐の旅に出た後――」アレンさんは今まであった事を細かく話していた。聞いているセルさんは黙って頷き、時には怒り、悲しんだりして表情豊かだった。「なるほどな&h
声が震えていたのがおかしかったのかアレンさんは横で笑っている。「フフッ、そんなに畏まらなくても良い。余は皇帝であるが1人の人間でもある。アレンは余の友人であり恩人でもある。そんな彼を救ってくれた君には感謝しかない」 「あ、ありがとうございます」 「それで君のその眼帯はもしかして隠す為の物かな?」 「えっと……」皇帝の勘は鋭いようだ。 すぐに僕の赤眼に気づいたらしい。 禁忌を侵した者は国に置いてはおけない、なんて言われるのだろうか。「ふっ、そこまで気張らなくていい。おおよその事は想像できている。彼らの為に禁忌を侵したのだろう?」 「その、僕の無知が招いた結果です……」 「彼らに変わって余からも礼をさせてほしい」 「もうアレンさんからもお礼はしていただきました!なので大丈夫です!!」 「余からの礼を断ることも無礼に当たるのだよ。何も言わず受け取るといい」 「ありがとうございます……」 受け取った袋はかなりの重さがある。 恐らく金貨がたくさん入っているのだろう。「それとカナタ、この国にいる間君は何処に滞在するか決めているのか?」 「いえ、まだ何も……」 「あーそれは心配しなくていいよ、ボクらの宿り木に来たらいいからね」 「ふむ……それなら安心か。この世界の常識を知らずに彷徨くのは流石に危険だからな」 「ああ、その当たりも説明しておくよオルランド」皇帝はわざわざ僕の為に滞在場所を提供するつもりだったそうだが、気が知れた仲間と共にいるほうが気楽だろうとのことで 僕らは城を後にし、宿り木へと向かった。「カナタ、これからはカナタって呼ばせてもらうよ、いちいち君付けするのも面倒だしね」 「構いませんよ、そっちのほうが戦闘時だと素早く指示を受けられますし」 アレンさんから呼び捨てにされると、黄金の旅団員として認められた気がして嬉しかった。宿り木の一室を与えられ荷物を置き僕は食堂へと向かう。
馬車を降りると、辺りは豪華で綺麗な雰囲気になっている。 噴水や光り輝くオブジェが高級感を感じさせる。 衛兵がそこかしこに待機しており、メイドや執事もチラホラと見える。 初めての光景にキョロキョロと視線を泳がせていると、一人の執事の恰好をした男が近づいてきた。 既にハビリス伯爵から伝書鳩が飛んでいたのだろう。 驚愕することなくアレンさんへと話しかけてきた。「お久しぶりでございます、アレン様」 「あ!久しぶりだなぁ元気にしてたかい?ガラン爺」 「それはこちらの台詞で御座いますよ。貴方がたが消えてから8年も経っていますから」 優しそうな微笑みを浮かべる執事はガラン爺と呼ばれているらしい。 肉弾戦なら無類の強さを誇る為、武器を持ち込むことが出来ない謁見の間での護衛を兼ねているそうだ。「では皆様、積もる話もありますでしょうが、こちらに武器を預けて頂き私に着いてきて下さい」 各々、武器を預かり棚に置きガラン爺に着いていく。 豪華絢爛という言葉が似合いそうな装飾が施されたどでかい扉の前で僕ら一同は立ち止まる。「ここから先は謁見の間でございます。アレン様は何度も足を運んで頂いておりますが他の方は初めてが多いでしょう。皇帝陛下は気さくなお方です。あまり固くならないように」僕もそんな国のトップなんて会ったこともなく、緊張で顔が強張っているのだろうか。 そんなことより謁見のマナーなんて簡単にしか教えて貰っていないのだが大丈夫なのか……ゆっくりと扉が開く。 全員同時に足を踏み入れる。 アレンさんだけは慣れているのか、1人スタスタと笑顔で入っていく。 レイさんからすれば冷や汗ものだろう。皇帝陛下から一定の距離で全員立ち止まる。 「余が」 「オルランドー!久しぶりだなぁ!あれ、老けた?」 あろうことかアレンさんは皇帝陛下の言葉を遮り手を挙げ声をかけた。周りがザワつく、かと思えば皆笑顔だ。 不思議に思
馬車に乗り、窓の外を流れていく景色は街の風景から次第に草原へと変わる。街の外に出ると、途端にど田舎の風景になるのは、この世界ならではだろう。窓の外を見ていると、アレンさんから話しかけられた。「さっきロアン伯爵と何か話していたようだけど、何かあったのかい?」「この眼帯が御礼の品だと言われました。それと魔導具だとも」「あ!そうだった!!ロアン伯爵から伝えられていたんだった、ごめんごめん」アレンさんは苦笑いしながら、眼帯の説明をしてくれた。この眼帯に魔力を流すと自分の目のように視界を得ることが出来る代物だそうだ。もちろんそんな魔導具は珍しい物で、この世界では金貨100枚はするらしい。そういえば、昨日アカリに教えてもらっていた。銅貨1枚が1000円、銀貨1枚が1万円、金貨1枚が10万円、白金貨1枚が100万円と同等の価値があると言っていたな。なら、この眼帯は1000万円の物なのか。お、恐ろしい……僕の目に着いている装着物が1000万円……歩く宝石じゃないか……それともう1つ貰った物。亜空間袋だ。これも最低容量とは聞いたが、そもそも亜空間袋自体金貨数枚はする代物だそうだ。そんなものをポンっとくれる伯爵の懐の広さに感謝しかない。暫く流れていく風景を見ていると、遠くの方に人工物が見えてきた。「あ、カナタくん!もうすぐ着くよ!」「あれが……この国の中心部……」近づくにつれて、城塞都市ハビリスの数倍はあると思われる巨大な壁が見えてくる。帝都エリュシオン。エリュシオン帝国の心臓部。立派な城壁に囲まれた敷地面積はおよそ東京二つ分の大きさらしい。人口2000万人がひしめく箱庭だ。門を抜け中央の皇帝陛下のいる城へ向かっている
「それにしてもこんな物まで貰ってよかったんだろうか」実はレーザーライフルを隠す為に、亜空間袋と呼ばれる物を入れておく袋を貰ったのだが、それがなかなかに凄い。中は亜空間魔法により拡張されているようで、一人暮らしのワンルーム程度の容量がある。物を取り出すときも、それを思い浮かべながら手を突っ込むと取り出せる。科学では説明がつかない、流石魔法具といったところか。「いいと思う。それ亜空間袋の中で一番小さい容量だし安い」これで一番小さいだと?「一番大きい容量の物だと、山すら入るから」「異世界アルカディア……凄まじいな……」アカリと何気ない会話をしつつ、夜はふけていった。――――――朝起きて朝食をすませた後外に出た。僕の目の前には、巨大な馬車が用意されている。バスほどの大きさがあるだろうか?10人乗っても余裕があるというでかさ。伯爵が用意してくれた馬車は、小さいバスくらいはある大きなもの。馬も見たことがないほどの大きさだ。少しファンタジックな馬だな、角は生えてるし眼つきがそれはもう恐ろしい。「さあ、みんな乗り込んで」アレンさんに促され団員達はゾロゾロと馬車に乗り込んでいく。僕は呆けて馬車を眺めていると後ろから声が掛けられた。「カナタくんだったかな?」振り返るとロアン伯爵が立っていた。「はい、どうしましたか?」「いやなに、君の境遇はアレン様から聞かせて貰ったよ。この世界を代表してお礼を言わせてほしい。無事に連れ帰ってくれてありがとう」ロアン伯爵は90度のお辞儀をし僕に礼をしてきた。「いえ頭を上げてください!全員で帰ってこられればよかったのですが、半分以上も僕の為に亡くなってしまって……」「君が責任を感じることはない。彼らは皆冒険者。守りたい者を守りきって命を落とすのは誇れる事なんだ」
「そんなことより、その赤眼を何とかした方がいい。伯爵に眼帯でも用意させるから待ってて」「伯爵にそんなこと頼んでもいいのか?」「いいよ、あの伯爵はかなり変わってる人だから」変わってる?別に普通に気さくなおじさん、って雰囲気だったが。「ここ、城塞都市ハビリスは一番魔族領に近い。だからカナタのその赤眼についても何も言ってこなかった。色んな人が出入りする都市だから」本来なら僕の赤眼は何処に行っても奇異な目で見られるし、レーザーライフルも珍しく、目につくらしいがロアン伯爵は様々な人と触れ合う機会が多く、僕にも何も言ってこなかったそうだ。慣れてしまっているのだろう、風変わりな者たちを見るのが。 ロアン伯爵に用意してもらった黒い眼帯を着ける。鏡の前で自分を見ると、似合わなすぎて笑ってしまった。「カッコよくなった」アカリに褒められると少し照れる。今まで眼帯なんて着けたことなかったから違和感しかない。見ようによってはかの有名な武将に見えなくもない。 少しすると、ドアがノックされた。「カナタくん、いるかい?」アレンさんが来たようだ。返事をすると、部屋に入ってくる。「いいね、眼帯よく似合ってるよ」「ありがとうございます。でも距離感が掴みにくいですね」「まあ慣れるまでは仕方ない。それで、馬車の準備は出来たから明日には出発するよ。それまではゆっくりしていて」それだけ伝えるとまた部屋を出て行った。「アカリは外に出なくていいのか?」「うん。カナタと一緒にいる」久しぶりにこの世界を見て回れるというのに、部屋にいるらしい。アカリは元の世界に居たときより、よく喋るようになった。理由を聞くと恥ずかしそうに答えてくれた。どうやら自分の世界に僕がいることが、嬉しいらしい。この世界の事は私が教える、と胸を張ってドヤ顔を見せる。可愛いやつだ。年相応な振る舞いをしてくれると僕も嬉しく