Chapter: 隠れていた存在④翌日、12時前に駅についた僕は辺りを見回したがどこにも漣の姿は見当たらない。もちろん春斗とその仲間も何処にいるか分からないが何処かに隠れてはいるのだろう。レーベに到着し、中に入るとまだ来ていないようで先にテーブルへ案内された。「すみません、ミルクティーを一つ」「畏まりました」店員と一言二言やり取りし窓の外を眺める。やはり見当たらないな春斗は、魔法の力だなこれは。カランコロンと店のドアが開く音がして、そちらに顔を向けると見知った顔が見えた。一ノ瀬漣が来たようだ。服装がスーツでビジネスマンの風貌をしているな。「すまない待たせたな」「いえ僕もさっき来たところです」社交辞令を交わし漣が席についた。「それで、異世界の話とはなんだ」直球で聞いてきたな。気になっていたようでソワソワしてるようにも見える。「では率直に聞きます。一ノ瀬漣さんあなたは異世界から飛ばされて来ましたね?」その瞬間当たりが凍りついたように音がなくなった。「え?」無意識に口から出た言葉はそれだけ。それ以上に今の状況が理解できない。周りの人が、時計が、音が、止まっている。マズい!核心をつき過ぎたようだ。直ぐに逃げる準備を行おうとするが足が動かない。「逃げることは出来ないぞ」漣がこちらを見定めるようにまっすぐ見つめてくる。「悪いが結界を張らせて貰った。この世界では元の世界に比べるといくらか力が落ちてしまうようだが私にとってはこれくらいは造作もない事だ」時を止める結界なのか?これが造作もない?想定していた以上に漣は強者のようだ。「言葉は発せられるはずだ。お前は魔族の仲間か?」「ち、違います……」絞り出すように声を出す。漣は僕のことを魔族の仲間と思っていたみたいだ。元の世界に帰るために魔族が僕を利用していたと考えているのだろう。「僕は春斗の仲間です……」そう言うと漣は、怪訝な顔を浮かべる。「なんだと?なぜハルトの名前を知っている」僕が答えようとした瞬間。ガラスが割れるような音が響き、薄い板を破るような激しい音と共に春斗が飛び込んできた。「カナタぁぁぁぁ!!」春斗の声だ!いつもならうるさかった大声が今はただただ頼もしい。「春斗!!!ここだ!!!」僕も力の限り叫び自らの場所を伝える。「放て!!ファイアストーム!!」「ま!待て!こんな
最終更新日: 2025-01-22
Chapter: 隠れていた存在③一ノ瀬漣から貰った名刺に連絡すると3コールで電話に出た。暇なのだろうか?「誰だ、この番号を知っているということはプライベート用の名刺を渡した者だ、カナタか?」なんだ?プライベート用って。プライベート用の名刺なんて初めて聞いたぞ。「一ノ瀬漣さんですか?カナタです」「やはりそうか。それで?この番号に掛けてきた理由は?」淡々としているなこの人は。でも聞かないことには始まらない。「異世界の事で聞きたいことがあります」「……………………分かった。明日の12時にレーベでいいか?」レーベって駅前にある喫茶店の事かな。えらくお洒落な所を選ぶんだなこの人。「分かりました」「一人で来いよ」それだけ言うと電話が切れた。一人で来いとはどういうことだろうか。やっぱり誰にも気づかれず僕を始末するつもりか?春斗に伝えたほうがいいかも知れないな。携帯で春斗の番号を探す。春斗(元気バカ)なんて酷い名前なんだ。付けた僕が言うのもなんだが神風春斗に直しておこう。これから長い付き合いになりそうだしな。「もしもし、どうしたカナタ」「春斗ちょっと相談がある」「なに!?相談だと!待ってろ家に行く!」何を勘違いしたか分からないが、僕に何かあったと思ったのだろう。すぐに電話は切れたが、とりあえず家で待っておいたらいいか。しばらくするとインターホンが鳴る。「カナター!来たぜー!!!」速いな、電話してから10分しか経ってないぞ?魔法か?魔法の力なのか?そんなの僕も使いたいじゃないか!扉を開けると満面の笑みを浮かべて立っていた。「相談だって?何でも聞いてこい!」僕から相談なんてしたことがなかったから相当嬉しかったらしい。リビングに上がってもらいお茶を出す。「それで?何が聞きたいんだ?」「まずはこれを見てくれ」一ノ瀬漣から貰った名刺をテーブルに置くと怪訝そうな顔を浮かべる。「なんだこれ?ん?少し魔力を感じるな。これどこで手に入れたんだ?」「一ノ瀬漣って人がいるんだけど……」漣との遭遇、その後会話した内容を細かく伝える。「なるほどな、確かにこれは異世界絡みだ。俺に相談して正解かもしれんな」「やっぱり?とりあえず明日会うんだけど一人で来いって言われててどうしたらいいか相談したかったんだ」「一人で来いってのが怖いところだな。実際漣ってや
最終更新日: 2025-01-22
Chapter: 隠れていた存在②「なるほど……大体は理解したけどそれで僕に何をして欲しいんだ?」「俺達は元の世界に帰りたい、が繋がった瞬間魔族が流れ込んでくる恐れがある」まあそうだろうな、元の世界に帰りたい気持ちはわかる。だから今日僕の家に来たってわけか。「繋がったら帰してあげれるよ。駄目だなんて言うと思ったのか?」「いや、一応全ての権利は生み出したカナタにあるんだしさ断られたらどうしようとは考えていたんだぜ?」「それで、懸念があるんだろ?繋がった瞬間に魔族が流れ込んでくるってやつ」繋がった瞬間魔族が流れ込んできたら、軍では対処できないだろう。さっき見たような魔法が存在するなら現代の武器は通用しないはずだ。「そこで、俺達が守るって訳よ!俺達なら魔族に対抗できるしな」確かに春斗に協力してもらえば何かあってもなんとかなりそうだが、春斗の仲間はどうするんだろうか。「春斗以外にどれほどの仲間がこっちの世界に来たんだ?」「思ってたより多いぜ?20人がこっちに来ている」多いな。数人だと思っていたが討伐に出たくらいだからそれくらいにはなるか。「ちなみに巻き込まれたのは味方だけじゃなくて敵もなんだろ?」「そうだ、それが厄介なんだよ。一応こっちで暗躍しつつ討伐はしてるんだがな、まだ数体生き残ってる」それは危険だな……立証実験の際に妨害してくるなら危なすぎる。味方が多いとはいえ、敵の戦闘能力も馬鹿には出来ないはずだ。「てことは実験の時に妨害してくるってことだな?」「そう、それが俺達の一番の懸念なんだよ……もちろん俺はカナタを最優先で守るつもりではいるが敵にはかなりの強敵がいるんだ……」「仲間の方が数が多いのにその敵とやらのほうが強いのか?」「強い。対抗できるやつが一人だけいるんだけどな、こっちの世界に飛ばされてるはずなんだがまだどこにいるか所在を掴めていないんだ」そうか、20人全てを把握できている訳では無いのか。「まだ実験まで半年はある、探しきれないか?僕も伝手を使う」「無理だぜ。なにより名前も見た目も変えてるはずだからな、まずどうやって探すつもりだ?」魔法……厄介すぎるな。こんな時にまで力を発揮しなくていい。「とにかく一度仲間に会ってほしい、みんなカナタに会いたがっているんだ」「分かった。いつ何処で会うかは春斗に任せるよ」「よし!任せとけ!また連絡するぜ
最終更新日: 2025-01-22
Chapter: 隠れていた存在①「それでさ、異世界なんちゃらってやつなんだけど」おもむろに春斗が口を開く。「異世界へのアクセス方法のことか?」「そう、それなんだけどさ実際行けそうなのか?」なぜこんなことを聞くのだろう、と考えたが春斗の事だ。異世界に行きたい!とかそんな気持ちで聞いてきたのだろうと思い僕は答える。「行けるよ。理論上だけど僕の理論は完璧に出来ているし五木さんのお墨付きだぞ」「そうか。ならさ、もし異世界と繋がったとして向こうから何か得体の知れない者がやって来るとかないのか?」確かにそうだ。もし異世界に繋がったとしても向こうが平和的に接してくるとは限らない。だがもちろんそれも織り込み済みで考えている。「いや、実際は繋がってみないと分からないけど、念の為に実験時には軍の人に待機してもらうつもりだよ」そうは言ったが、先日一ノ瀬漣という男から言われた言葉が頭をよぎる。――後悔することになるぞ。それが気がかりだが、軍で対応できないのならばそもそも侵略されて地球が滅ぶ前に人類は滅ぼされる事になる。「軍か。勝てるのか?もし化け物が出てきたらどうするよ?」「勝てる勝てないじゃない、やるしかないんだ」僕の強気な発言に春斗も戸惑いを見せる。「やるしかないって……まあお前が怪我したりはやめてくれよ?俺が泣くぞ」春斗……ほんとに良いやつだな。僕の為に泣いてくれるのか。「ありがとう、でも大丈夫だよ。念には念を入れて繋がったとしてもすぐに閉じることができるような機構を組み込むつもりなんだ」そんな会話のやり取りをしていると、春斗の携帯が鳴る。「おっと、すまん!ちょっと電話してくるわ!」「ここで電話してもいいけど」言い終わる前にリビングを出ていく春斗。いつもならその場で悪い!って言いながらも電話に出るんだけどな。また途切れ途切れで聞こえてくる。「ああ……るみたいだ、どう……打ち明け……」打ち上げ?バイトの飲み会でもあるのか?「いや……対応……しっかり……でも……危険……る」なにやら不穏な会話のようだな、盗み聞きはここまでにしておこう。台所に食器を持っていき洗っていると突然背後から声を掛けられた。「ごめんな、ちょっと真面目な話いいか?」春斗の表情は固い、なにやら大事な話のようだ。食器を洗うのもそこそこにリビングで春斗と向き合う。「実はな、俺は異世界
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Chapter: 世界を騙した男⑤「ではこれで今日の講義は終わります」そう教授が告げると同時にまばらに席を立ちだす人や、そのまま談笑している人達がいる。「で?今日はどうするよ。家遊びに行っていいか?」「ああ、別に構わないよ」「よっしゃ!久しぶりにカナタの飯が食えるな!」お前もか。そんなに楽しみにされると腕によりをかけて作ってしまうじゃないか。「紫音さんも今日は家にいるのか?」「いや、姉さんは今日仕事で帰りが遅いってさ」多分これは二人でゲーム三昧できるかどうかの確認だな。姉さんがいると混ぜろってうるさいから。入ってきてもいいんだけど姉さんはびっくりするほどゲームが弱い。接待プレイになってしまう為純粋にゲームが楽しめないのだ。「よし!二人でゲームしようぜ!」「そんな事だろうと思ったよ」やっぱり春斗の考えていた事はゲームだったみたいだ。「まあ、ついでにカナタに聞きたいこともあったしさ」不意に真面目な顔でそう呟いた春斗は少し寂しそうな表情をしていた。「お邪魔しまーす!」元気な声を張り上げる春斗。家には誰もいないが真面目な性格なのだろう。「ただいま」僕も春斗に習って無人の家に挨拶をする。「で、いきなりだが腹が減ったな!!楽しみにしてるぜカナタの料理!」本能に忠実な奴め。仕方ない、ここは腕によりをかけて料理を振る舞ってやろうじゃないか。「じゃあリビングで寛いでてくれ。和食好きだろ?」「めっちゃ和食好き!俺も手伝うぜ!」いや手伝う気持ちは嬉しいが、やめてもらおう。料理は僕の趣味の一つなんだ。邪魔になる。「いやいいよ、テレビでも見て暇をつぶしておいてくれ」そう言いつつ僕は台所に向かう。とりあえずメニューは肉じゃが、鶏肉の照り焼き、魚の煮付けってとこかな。早速料理に取り掛かるが、ふとリビングの方に意識を向けると春斗が誰かと電話しているようだ。「いや……まだ……い、聞いて……る」所々しか聞こえないが、何やら真面目な会話らしい。春斗にしては珍しく声のトーンが低いから恐らくバイト先とかと連絡でもしているのだろうと僕は気にしないことにした。「お、出来た出来た」つい独り言を呟きつつリビングに料理を持っていく。「うわー!めっちゃ美味しそうな匂いに見た目!もう食べなくても美味いって分かるな!!」そりゃそうだ、なにせ僕が本気で作ったのだから。「「い
最終更新日: 2025-01-22
Chapter: 世界を騙した男④発表会から3日後五木さんから連絡があった。スポンサーが複数ついたため満足できる実験ができるとの事だ。それと立証実験にはもう少し人員がいるとの事で身近に優秀な人がいれば声を掛けてくれと伝えられた為僕の思いつく優秀な人材、茜さんに連絡を取った。「3日ぶりね彼方君、それにしても急用って何?」「実は五木さんからこんな事を言われまして」メールで来ていた内容をそのまま伝えると食い気味に返答してきた。「参加する!!!当たり前でしょ!科学者の権威とも言われている五木さんの研究所で働けるなんてお金出してでも参加したいっていうに決まってるじゃない」五木さんって思っているより凄い人なんだな……優しい人当たりのいいお兄さんって感じだから凄みが感じられなかったが。とにかくこれで1人人員確保できた。半年後に卒業とはいえ、他に今からでもしておくことはないだろうか。茜さんと別れた後そんな事を考えながら駅に向かって歩いていると、一人の男性が近づいてきた。あの人は発表の場で睨んでた人じゃないか?まさか僕が一人になるのを狙ってたのか?僕はできるだけ平静を保ちながら男性からの言葉を待った。「君が彼方だな、あれは君が全て考えた内容なのか?」「……いきなりですね、あなたは発表会の時にいましたよね。素性の分からない方にお答えする義理はありませんよ」男性は少し、申し訳なさそうにしながらも答えた。「すまない、私は一ノ瀬 漣《レン》と名乗っている」名乗っている?変な言い回しをする人だな……「こういうものだ」名刺を渡してきたが、どうやらどこかの研究所に所属している人みたいだな。「なるほど、さっきの返答ですが内容は僕が全て考え出した理論になります」そう言うと漣は苦虫を嚙み潰したような顔で答えた。「あまりよろしく無い事をしてくれたものだ。これ以上は危険すぎる身を引くんだ」「理解ができませんね。何がどのように危険なのか具体的に教えてもらえますか?」「異世界と繋がるのは危険なんだ。こちらの世界の技術では魔物に太刀打ちできないぞ」まるで実際に見たことがあるような口ぶりだな。この人は一体何者なんだ?話せば話すほど謎が深まってくる。「あなたはなぜ異世界を見てきたかのような話し方を?」そう言うと漣はハッとした顔で僕の顔を見つめた。「君が知るにはまだ早い、だが後悔すること
最終更新日: 2025-01-22