「ここが拠点ですか」眼の前には大きな一軒家が二軒並び立つ。4階建てか?それにしてもお屋敷レベルのデカさがあるな。20人も住んでいるのだからこれくらい大きくないとシェアハウスは無理か。「さ、遠慮しないで入って入って」アレンさんに背中を押されながら拠点の扉を開くと男女複数人が出迎えてくれた。「いらっしゃーい!!」「あー!やっと来たー!」「フェリス血だらけじゃねぇか!」各所からいろんな声が掛けられる中アレンさんが前に出て皆を静かにさせてくれた。「まあまあお出迎えはこれくらいにして、とりあえず中に入ってもらうよ」アレンさんの手招きで建物の奥へと足を進める。「アタシは傷の手当てしてからそっちに行くから団長と先に行っててね」そうだ、傷を負ったフェリスさんは手当てがいる。確か回復魔法を使える人が居るって言ってたな。僕は相槌を打ちアレンさんに着いていった。リビングというか一番大きな部屋に案内されると開口一番アレンさんが声を張り上げる。「さあみんなお待ちかねカナタくんだ!」いきなり僕を皆に紹介してくれたのはいいが、簡単すぎないか?一応自分で挨拶はしておこう。「初めまして城ヶ崎彼方と申します。皆さんは異世界から飛ばされたと聞きました。僕の知識が皆さんの助けになれるよう精一杯協力させて頂きます」そう言うと1人の男が声を張り上げる。「固いぜカナタ!ハルトとは友達なんだろ?ならオレとも友達だぜ!!」体育会系と思われる見た目と言動からして、僕と真逆のタイプと思われる。「オレの名前はゼン・トランセル!ゼンでいいぜ!!」「よろしくお願いしますゼンさん」「だからかてーのよ!タメ語で行こうぜ!それに22だろ?カナタ。オレも22なんだぜ?」なんと、その見た目で同い歳だと?分かるわけないだろう、どう見ても歳上じゃないか。ただここは流れに乗っておこう。仲良くなっておいて損はない。「よろしく頼むよゼン」
「さ、みんな挨拶は終わったかな?せっかくだしお寿司でも頼もうか」「ピザもー!」誰だ、欲望に忠実な奴は。僕だってどちらも食べたい。そういえばお昼御飯は食べてなかったからお腹が空いているな。「カナタくんも遠慮しないで食べてくれよ」「ありがとうございます」皆が各々喋りつつ席に着いていく中、漣が近付いてきた。「カナタくん、久しぶりだな」「漣さんもここに住んでいたんですね」「ああ、あれから皆と一緒にいるほうが何かと都合がいいと言われてな。私もここに住むことにしたんだ」漣さんは機械音痴だからな。皆と一緒にいないとまた連絡がつかないなんて事になったらとても厄介な事になる。何より貴重な剣聖という戦力でもある。「そういえば、アレン団長と漣さんってどっちが強いんですか?」「ふむ、よく聞かれる事でもあるがそうだな……恐らく本気で戦えば私が負けるだろう」ええ!?アレンさんあんな成りして漣さんより強いのか!?「アレン団長はあれでも殲滅王なんて呼ばれているのよ」僕と漣さんの会話を聞いていたのか、レイさんが追加の説明をしてくれた。「アレン団長はここにいるメンバー、いや異世界でも最強と呼ばれる3人の英雄がいるんだけれど、その内の1人だから多分誰も勝てないわ」あんな見た目だけどね。と少しディスられつつも戦闘能力は誰もが認めるほどらしい。殲滅王と呼ばれるくらいだからな、多分とんでもない魔法とか使うんだろうな。「お寿司が届いたよー」気の抜けたアレンさんの声で皆が玄関まで取りに行く。僕も手伝おうと席を立とうとしたがレイさんに止められた。「貴方はお客様よ、ここに居なさい」そう言われると何も言えず、ハイと返事をして座ったまま準備が出来るまでレイさんと雑談することにした。「そういえば聞いてみたいことがあったんですが」「なにかしら?私でわかる範囲で答えさせてもらうわよ」「僕も魔法って使えるようになりますか?」
昼食後、アレンさんと廃工場に来た。こんな所があったことすら知らなかったくらいだ、誰も寄り付かないというのも本当なんだろう。それなりに大きい敷地、周りから隠れられる程大きな建物。「さあ、カナタくん!まずはファイアーボールを覚えてみようか!」アレンさんと向き合う形で訓練を行うらしい。「片手を突き出して掌をボクに向けてみて」言われた通りに左手を突きだす。「まずは魔力ってのを感じないといけないね。左手の掌に集中してみて。目を瞑って力を蓄えるように意識しながら」目を瞑り魔力というよく分からない力を感じる為意識を左手の掌に向ける。すると何かが掌に纏わりつくような感覚があり、違和感を覚えた。「アレンさん、何か左手に言葉で表せないような違和感があります」「そう!それだよ!それを感じなければ魔力適性がないから覚えることは出来なかったんだけどまずは第1段階クリアおめでとう!」嬉しそうに目を細めて、僕を称えてくれる。「次はその感覚を忘れないようもう一度やってみて」再度、左手に意識を向けると何かが纏わりつくような感覚になった。「今だよ、火をイメージしてみて」火?熱い、揺らめく炎、なんとなく自分が思い付く限りのイメージを思い描く。「火が球になっていくイメージを」そうか、ファイアーボールだから火の玉か。火の玉が掌から生み出されてくるようなイメージを思い描く。「その火の玉が掌から勢いよく外側に向かって飛んでいくイメージを」よくマンガとかで見る光景ってやつだな。言われた通り頭の中でイメージしてみた。「よし!そのイメージを保ったままファイアーボールと叫んでみよう!」「ファイアーボール!!」すると掌からアレンさんに向けて轟音と共に勢いよくボーリング大の火の玉が飛んでいく。無から有を生み出す初めての試み。こんな心躍る瞬間があったとは。勢いよく飛んだ火の玉はアレンさんの結界に阻まれて弾けたが、今この瞬間僕が魔法を使ったことに変わりはない。沈黙して自分の左手を
「すごい!!ここまでの練度で魔法行使ができるなんて、これは教えがいがあるぞー」攻撃を受けたにも関わらずとても嬉しそうな表情を浮かべるアレンさん。僕にも変化はあった。それは疲労感。全力疾走した後に起こる脱力感と足に力が入らない疲労感が一気に襲いかかってくる。「おっとっと」まっすぐ立つことも容易ではないほどに疲れた……これはなんなんだろうか。「それは、魔力枯渇だね。慣れない魔法を一気に使ったもんだから体内の魔力が無くなっただけさ」少し休めば治るらしいが、これは結構しんどいぞ。魔法を使うときは考えて使わないといけないな。「安心していいよ、魔法を使えば使うほど魔力は増えるから訓練すればその疲労感もなくなってくるからね」そんなアレンさんの助言も途中から耳に入らなくなっていき、次第に目の前が真っ暗になるようにして、僕は意識を手放した。意識がなくなる直前にアレンさんの独り言が聞こえてくる。「これは、レイに怒られるかもしれないなぁ……」――――――目を覚ますと、見慣れない天井。ベットに寝かされているようだが、ここは拠点内の部屋なのだろうか。多分アレンさんが運んでくれたのだろう。身体を起こしリビングへと足を向けるが、何やら話し声が聞こえてきた。「何を考えているんですか!団長!カナタくんにもしもの事があったら私達は一生帰ることができないんですよ!」「ご、ごめん……思った以上に飲み込みが早いから中級魔法まで教えちゃったら出来ちゃったんだよ」「たった1日で中級魔法まで覚えるなんてカナタすげぇじゃねぇか。これは負けてられねぇな!」誰が何を話しているか口調で分かるな。レイさんに怒られるアレンさんと、意味の分からない勝ち負けにこだわるゼンってところか。リビングの扉を開けると室内にいた全員が一斉に僕に目線を向ける。「すみません、倒れてしまったようで……
「初めまして、よろしくカナタ」 「これからよろしくお願いします、アカリさん」 声も幼いな。 絶対歳下だなこの子は。 「カナタ、私に敬語はいらない。素早く正確に言葉を伝えるには敬語は不適切」 えらく淡々としているんだな。 確かに護衛なら手短に用件は伝えて動いてもらわないといけないし、理にかなっている。「わかった、これからよろしく」 そういうと片手を差し出してきた。 握手しろってことなのかな、一応この子なりの挨拶なのだろう。 「カナタくん、この子はここにいるメンバーで3番目に強いわ。だから護衛には適任だと思ったの」 え!剣聖より強いのか!? 「あ、もちろん剣聖は除いてね。黄金の旅団は剣聖以外が団員なの。剣聖に関しては協力者って立場ね」 「カナタ、私の二つ名は神速。誰の目にも止まらない攻撃が得意」 なにそれカッコいい。 神速だって?絶対速いじゃないか、音速を超えるのかな。 「カッコいい二つ名だね。その二つ名ってやつは誰が決めるんだ?」 「勝手に周りがそう呼ぶ」 なるほど、周囲が勝手に決めたものが定着して二つ名となるのか。 僕ならなんて二つ名が付くだろうか。そんなことを考えているとアカリが鼻で笑う。 「カナタに二つ名をつけるとしたら地味天才」 地味なのか……やっぱり地味な見た目してるんだな僕は。 「こら!アカリ!思ってても口に出したらだめでしょ!!」 フェリスさん、貴方のその言葉がもはや一番傷つくんです。 「とりあえずカナタくん!!」 一際大きな声でアレンさんが叫ぶ。何事かと皆が振り向くと真面目な顔で僕に話しかけてくる。 「カナタくん、君は想像を超えた逸材かもしれない。君がもしもボクらと共に異世界に行くというのならボクが面倒を見よう」 周りがザワつく。 殲滅王がそんなこと言うなんて初めてじゃないか? 団長の真面目な顔久しぶりに見た。 逸材を独り占めなんてずるいぞ団長。 などと皆が口々に喋り出す。異世界に行く、か。 ど
「すみません、長々とお世話になりました」 実は2日泊まってしまったのだが、思いの外居心地が良くてそのまま居座りそうな空気になっていた為一度家に帰ることにした。 姉さんもずっと連絡してきてるし、寂しいんだろうな。 「カナタくん、これから3日おきにここに来るといいよ。その時に魔法を教えてあげよう」 「ありがとうございます。次に会うまでには中級魔法をマスターしておきます!」 程々にね、と笑いかけてくる皆。 僕は今までこんなに居心地のいい時間を過ごしたことはない。 姉さんといるときはもちろん居心地のいい時間だが、それとはまた違う良さがある。 皆に別れを告げて帰路に着くが、当たり前のように僕の横を歩くアカリ。 そうだった、護衛だった。 姉さんにはなんて説明しようか……。 「ただいまー」 姉さんの仕事に履いていく靴はあるが、玄関の扉を開けると人の気配がない。 姉さんはまだ帰ってきてないみたいだ。 間違えて違う靴を履いていったのかな。 「アカリはずっと僕に張り付いているのか?」 「トイレとお風呂は別行動」 そうだよな、それを確認しておきたかったんだ。 もし風呂やトイレにも付いてこられると落ち着かないしこんな女の子に見られるなんて恥ずかしすぎる。 「カナタ、1つ聞きたい」 「なんだ、改まって」 「紫音はどこ?」 姉の名前も知っているのか。 流石に護衛というだけあって僕に関する情報は一通り頭に入れてるみたいだ。 「姉さんは多分まだ帰ってこないよ、仕事じゃないかな」 「じゃあこのスーツは何?」 リビングに脱ぎ捨てられクシャクシャになったスーツ。 玄関にはいつも仕事に履いていく靴。 どういうことだ?確かにおかしい。 それに今は18時過ぎ、いつもなら帰ってきててもおかしくない時間だ。 アカリは黙り込んだまま、俯いている。 「アカリ?」 「紫音が攫われたかも」おいおい、流石にその冗談は笑えないぞ。 たった一人の血縁関係なんだ、姉さ
「全力で防御して」は?待て待て、こっちはまだ習いたての魔法しかないんだぞ。全力で防御しても紙切れのような脆さしかない結界になんの意味があるのか。それでも一応アカリの言葉に従い、自身の周りに半径30センチ程度の防御結界を作った。「魔族が来る」刹那、突風が吹き荒れ辺りは嵐の中に入ったかのような暴風雨に包まれる。防御を推奨したのはこのためか。とにかくずぶ濡れになることだけは避けられたようだ。「チッ、もう追手が来たのかよ」聞くに堪えない酒ヤケしたかのようなガラガラ声。これは魔族の声か。「神速絶技、抜刀」アカリの呟きが耳に入ったときには、周囲に晴れ間が広がっていた。「私の動きが速すぎて歩くだけでこんな程度の風、散らせる」アカリから説明が入ったが、今はそれどころではない。雨が上がり突風が止んだせいで、直線20m程離れた所に異形が立っているのが見えてしまった。魔族とはこういうものだ、と言わんばかりの見た目。赤黒い身体に岩肌のような手足。顔をトカゲと人間を混ぜたかのような、目を伏せたくなる醜さだ。「やるじゃねぇかネーチャン」異形から発せられた言葉はアカリに向けられているようで、僕のことは眼中にない素振りだ。「ああ、自己紹介してやるよ」そう言って構えを解いた異形が名乗る。「オレの名前はグリード。破壊の王とはオレのことだ」レイさんから教えてもらった四天王の名前、確かグリードって奴も居た気がする。てことは、アカリには荷が重いんじゃないか?「安心してカナタ。私は既に四天王の一体を討伐している」僕にはアカリの戦闘能力すら化け物に感じた。あの異形と僕と同じくらいの身長の女の子が同等?なんて馬鹿げた世界なんだ、異世界ってやつは。それより問わないといけない事がある。「紫音姉さんはどこだ!」あまり声を荒げる事がない僕だが、今日くらいはいいだろう。早く姉さんの無事を確認しないと、いつまで経っても気が
刹那の攻防により、辺りの道路は鋭利な刃物で引っ掻いたような傷、崩れる石垣、半壊した住宅。 見るも無惨な光景に変わりゆく。 動きが速すぎて目では捉えられないが、時折聞こえる剣戟の音が激しい戦闘を物語っている。 「神速絶技、死線月花」 「ドミネートブラストォ!」 お互い技の撃ち合いをしているような声も聞こえてくる。 アレンさんに連絡をしておいたほうがいいか? いやアカリが僕の為に戦ってくれているんだ。 水を差すような真似はやめよう。 「しぶといね、これで終わり」 「オメーこそなかなかやるじゃないか!」 お互い足を止めたようで僕にもやっと姿が見えたが、アカリはほぼ無傷でグリードは所々に血が滲んでいる。 四天王の1人を討伐したことがあるっていうのは、本当のようだ。 しかしアカリは瞑想のような仕草で深く呼吸をする。 一拍置いて目を開きグリードに問いかけた。「構えたほうがいい、これで四天王の1人は死んだから」 「なんだと?」 グリードも流石に不味いと感じたのか先程の余裕は感じられず力を溜めているような表情をしている。 「神速絶技、一閃」 刀がゆっくりと鞘から抜かれ刀身が顕わになる。 もう一度ゆっくり納刀する。 「終わった、カナタ」 いや、まだ眼の前にグリードが突っ立っているけども。 ………… ………… …………ボトリ。重たい水袋を落としたような音が聞こえそちらに目を向けると、グリードが呻き声を上げた。 「ううぐぅぅああ!」 足元には分厚い腕が落ちており、肩を見るとその先がない。 斬ったのか?さっきのゆっくりした抜刀で。 「クソが!!」 捨て台詞を吐き捨て、痛みを堪えながらグリードは黒い靄に包まれて消えていった。「終わったって言った」 そうは言うが僕にはただゆっくり刀を抜いてまた戻しただけに見えたがなにをしたんだ。 「見えなかっただけ、あいつの身体が異常に硬かったから同じ動作を数十回行った」
帝都大図書館は帝国内でも最大級の大きさらしく見上げるほどの高さがあった。日本でも国立図書館はあるがそれを遥かに凌駕する建物の大きさだ。さぞかし蔵書の数は多いのだろうと僕は胸を弾ませた。中に入るとこれまた巨大な棚に本がギッシリと詰められていて何処を見ればいいのか悩んでしまう程だった。「さてと、この中から目的の本を見つけるのは至難の業だ。というわけで司書の所に行こうか」図書館には司書がおり、特殊な魔法を習得しているらしい。なんでも求める本が何処にあるか分かるという司書としての職業でなければ役に立たない魔法だそうだ。「ああ、君。ここに神域に関する事が書かれた本はあるかな?」「はい、少々お待ち下さい」司書は頭の上に魔法陣を浮かべると目を瞑る。しばらく待つと司書の目が開き手元の紙に本のタイトルと場所を記してくれた。「こちら神域について書かれた本は全部で三冊となります」これだけ膨大な数の本があったたったの三冊。それだけに神域は謎に包まれているという事だ。紙に記された場所で本を取るとその場で数ページ捲る。悲しい事に僕は文字が読めない。代わりにアレンさんに読んでもらうと、少し難しい表情になった。「うーん……抽象的な事しか書かれていないね。他の二冊も探してみよう」どうやら満足いく内容ではなかったらしい。目的の本を探すのもなかなか大変だ。何処を見渡しても本の壁。場所は紙に記載してくれているとはいえ、その場所にも何冊もの本が並べられている。やがて見つけた二冊目もやはりアレンさん曰くあまり必要としない情報しか載っていなかったらしい。
魔導具を物色していると時間が溶けていく。あれもこれも欲しくなるしどういった効果があるのか気になってくる。また一つよさげな物を見つけ僕は手に取った。腰に巻き付けるチェーンのようで、少し柄が悪くなるかなと思いつつ自分の腰に当ててみる。……かっこいいじゃないか。男はいくつになっても中二心は忘れない生き物だ。僕も例に漏れずチェーンとか好きである。「……ダサい」「えっ?」アカリは一言だけ伝えるとまた口を閉ざした。え、これダサいかな……。腰にチェーンとか普通にありかなと思ったんだけど。「お、カナタ似合ってるよ。いいじゃないかそれ」アレンさんは分かってくれたらしく、僕を見て嬉しそうに笑顔を浮かべてくれた。やはり男は分かるもんなんだ。このチェーンの良さが。「ダサい」「そんな事はないよアカリ。ほら、見てみなよこの重厚感。ずっしりとくる重みがまたかっこよさを際立たせているじゃないか」「邪魔なだけ」「銀色に輝いているのもよくないかい?」「反射して敵に場所がバレる」「長いのも魅力――」「走ってると絶対足に絡まる」ダメだ、僕とアレンさんが何を言ってもアカリには刺さらなかったらしい。仕方ない、別の魔導具を探すかと僕はチェーンを棚に戻した。と、思ったらすぐ傍にまたかっこいい魔導具を見つけた。銀色の指輪だ。それも普通の指輪じゃない。指全体を覆うようなフィンガーアームのような形をしている。僕が手に取ろうとすると、その手はアカリによって弾かれた。「それもダサい」僕は肩をがっくり落とし、また別の魔導具を物色する。結局、短剣型が一番使いやすいとの事で、僕が選んだのはガードリングと炎の短剣だった。お会計はいくらくらいになるんだろうかと、支払いの時に耳を澄ませていると金貨という単語
ギルドを出ると今度は魔道具の売られている店へと行くことになった。最低限身を守る魔導具はあった方がいいだろうとはアレンさんの意見だ。魔導具と聞けば魔法を気軽に扱える道具という認識がある。ただ結構高価なイメージもあるが、買えるだろうか。「お金は心配しなくていいよ。一応これでも大きなクランのマスターやってるからさ。貯蓄は結構あるんだよ」それなら安心か。しかしどれもこれも買ってもらうというのは気が引ける。魔導具店に到着し、店内へと入ると僕は目を輝かせてしまった。棚には所狭しと置かれた魔導具の数々。魔導書だって何冊も並べられておりワクワク感が増してくる。「カナタ、身を守る物と攻撃手段を選ぶといい」「二つともあった方がいいってこと?一応レーザーライフルはあるけど」「それだけじゃ心許ない」アカリにそう言われるとそんな気もしてきた。レーザーライフルは威力こそ十分だが、ソーラー発電でのエネルギーチャージが必要だからあまり連続して使う事はできない。「カナタ、まずは身を守る為の魔導具を探そう」アレンさんと棚の物色を始めると、どれもこれも効果が分からず僕は首を傾げるばかりだった。見た目はただの指輪でも何らかの効果を持つであろう宝石の嵌った物やネックレスなどもある。腕輪タイプだったら邪魔にならなそうだし、見た目もお洒落だ。いいなと思った魔導具を手に取り見ているとアレンさんが話しかけて来た。「お、それがいいのかい?」「効果は分からないんですが、見た目がいいなと思いまして」「丁度いい。それにするかい?その腕輪はシールドを張る事のできる魔導具さ」運がいい。僕のいいなと思った腕輪が防御系の物だったなんて。「これがいいです」「よし、じゃあ次は攻撃用を探そう」価格を見てないけど大丈夫なのかな。後でコソッとアカリに聞いておこう。攻撃用の魔導具といっても種類は豊富にある。杖型や指輪型、剣型などもありど
アレンさんのいうアテというのが何か分からなかったが、僕の知らない付き合いなどもあるのだろうと無理やり自分を納得させた。「じゃあ金貨五十枚で依頼を出すぞ。まあ、まずは魔神が今いる場所を特定する必要があるからな。占星術師に依頼を出してからになるが」「ああ、それで構わないよ。その間にカナタに教えておく事も多いだろうからさ」教えておく事ってなんだろうか。もう結構この世界の事は学んだつもりだけどな。「それでカナタ。その眼帯の下は赤眼だったな。あまり他のやつに見せるなよ」「はい。アレンさんからも忠告されています」「ならいいが。禁忌に触れた者は悪魔に身を落としたなどとのたまって襲いかかってくる輩もいるからな」それは怖いな。こちらから眼帯を捲らない限りバレることはないだろうけど気をつけておこう。VIPルームを出ると受付嬢であるカレンさんが近づいてきた。「アレンさん、そちらの男性は冒険者登録をされますか?」「よく分かったね」「まあこの辺りでは見たこともない方でしたので」一目見ただけで冒険者か否か分かるものなのか。ギルドの受付嬢って凄い目利きをしてるんだな。「ではこちらへどうぞ」カレンさんの案内に着いていくと受付へと通された。「アレンさんのお知り合いなのは存じておりますが、冒険者登録したばかりですとランクは一番下のC級となります」「はい、大丈夫です」「それでは登録表に必要事項の記入をお願いいたします」おっと、これは不味いぞ。僕はこの世界の文字が書けない。なぜしゃべれてるかは謎だが、多分魔法的な何らかの力が働いているのだと無理やり納得している。しかし文字だけは勉強しなければ書けやしない。「カナタ、私が代わりに書く」「ありがとう。助かるよ」僕が受付で困った表情を浮かべているとアカリはすぐに察したのか代わりに記入してくれることになった。「カナタさん、と仰いましたよね?カナタさんはどこからか来られたのでしょうか?」
「久しぶりーガイアス。元気だった?」「元気も何もお前ら"黄金の旅団"が行方不明になったととんでもない騒ぎだったんだぞ」体格のいい男は苦言を零しながらもアレンさんが無事に帰ってきたことを喜んでいるようだった。「一体何があったんだ」「話すと長いよ」「そこの見たこともない男といい……全員こっちに来い」僕ら三人はギルドの二階へと案内され、ある部屋へと通された。VIP扱いのようで僕は少し緊張していた。長いソファーに腰を下ろすと目の前にギルド長が座る。「まずは無事の帰還を祝おう。よく戻ってきてくれた」「その辺りも詳しく説明がいるかい?」「当たり前だ!」アレンさんはやれやれと肩を竦め説明をし始める。ギルド長はその話をしっかりと聞き、最後に長い溜め息をついた。「はぁぁぁ……よくそれで無事に戻ってこれたものだ。そこの、カナタだったか?よくアレン達をこっちの世界に戻してくれた。礼を言う」「いえ、みなさんの力あっての結果ですから」「ふん。謙遜するタイプか。俺は嫌いじゃないぞ」ギルド長のお眼鏡には叶った受け答えだったようだ。「俺はこの帝都冒険者ギルドの長をやってるガイアスってもんだ。今後も何かと関わる機会が多いだろうからな、覚えておいてくれ」「はい、こちらこそよろしくお願いします」ギルド長と懇意にしておけば今後何かあっても手を貸してくれるだろう。僕はガイアスさんと握手を交わした。「それで魔神だったな……ギルドで高位冒険者は雇えるが魔神にどれだけ対抗できるかは分からんぞ」「まあボクの仲間が何人もやられたからね。普通の冒険者だと歯が立たないだろうから最低でもS級以上の手を借りたい」道中で教えて貰ったが、冒険者にはランクが存在する。アレンさんのような王の名を冠する冒険者は英雄級、アカリやレイさんのような冒険者はSS級。二つ名を持っているのはS級以上だそうだが、その中
テスタロッサさんとの顔合わせも終わると今度は冒険者ギルドへと赴く事になった。正直少しだけ楽しみにしている場所でもある。アレンさんがギルドの扉を開けると中には沢山の冒険者がいた。依頼票を見ている者やテーブルで談笑する者、中には受付嬢を口説いている人もいる。そんな冒険者達がアレンさんを見て一斉に静まり返った。「やあ、みんな。久しぶりだね」アレンさんは呑気にそう声を掛けるが誰も反応しない。いや、正確には反応しているのだが、全員が全員口を開けて呆けた顔をしていた。「ア、アレンさん……生きていたと噂にはなっていましたが……」「ん?ああもしかしてオルランドが触れ回ってるのかな」受付嬢が驚きを通り越して恐ろしいものでもみたかのような顔で声を発する。国王陛下を呼び捨てなど不敬にも程があるがアレンさんだから許されているだけだ。聞いているこっちは冷や汗ものだが、アレンさんは気にする様子がない。「よくご無事で……おかえりなさいませ」「ただいま」アレンさんがそう言うとギルド内は喝采に包まれた。冒険者でも上位に君臨するアレンさんの人気は凄まじいようで、ワラワラと集まってきた。誰しもが笑顔を浮かべアレンさんやアカリに声を掛けているが、僕には誰も話し掛けはしない。見たこともない奴がいるな、くらいは思っているかもしれないが、先にアレンさんの無事を祝っているようだった。「道を開けてもらえるかな?ギルドに報告しなければならない事があってね」そう言うとみんな離れて道を開けていく。それに倣って僕も着いていくとやはり若干の注目を浴びた。眼帯を着けているの
僕らはテスタロッサさんの案内で客間へと通された。ちなみにレオンハルトさんも傷だらけで戻ってきて今ではスンとしている。さっき吹き飛ばされたのが嘘みたいだ。「さあ聞かせて貰おうかアレン。八年もの間どこにいたのか、それとどうしてカナタが禁忌を犯しているのか」「何処から話そうかな――」アレンさんは今までの事を全部話した。別の世界にいた事、僕が異世界ゲートを作りだしこの世界に帰ってこれた事、何人もの犠牲者が出た事。そして僕が赤眼になってしまった事。テスタロッサさんは無言で聞き終えると、小さく溜息をつく。「要約すればお前達はただの一般人に過ぎなかった彼に道を踏み外させた、という事だな?」「まあ、そうだね。カナタには悪い事をしたと思っているよ」「そこまでして魔神を取り逃すとは……殲滅王が聞いて呆れる」テスタロッサさんは明らかに落胆したような様子だった。それだけアレンさんの事は高く評価していたのだろう。「カナタは悪くない。私が悪い」「そうでもないだろ。僕だって何にも分からないくせに禁忌の魔法に手を出しちゃったんだ。自業自得だ」アカリは庇ってくれているようだったが、僕は分からないままに魔法を使ってしまった自分が悪いと思っている。「過去の事を悔やんでも仕方あるまい。それならばその力、有用な使い方をすればいい」「ダメ、カナタには魔法は使わせない」「禁忌の魔法使いとなればいずれ四人目の王の名を手にする事が出来るかもしれんぞ?」二つ名が欲しいとは思わないな。ただこの力が元の世界の時間を戻すきっかけになるなら、迷う事無く使うと思う。「まあいい、それと世界樹だったか?そんなもの私も伝承でしか知らん」「そうかぁ、テスタロッサも分からないとなるとやっぱり神域に行かないとダメかな」「あそこは人間が簡単に立ち入れるところではない。神族と矛を交えるつもりか?」テスタロッサさんが言うには、神域と呼ばれる場所に住む神族は人間を遥かに超える力を持つそうだ。
「紹介しようカナタ。彼女はテスタロッサ――」「待て、そこから先は私が言う」アレンさんが目の前の綺麗な女性を紹介しようとすると、その女性は手で制しズイッと僕に顔を近付けてきた。「お前……赤眼だな?」眼帯をしているはずなのに一発でバレた。これは不味いと僕が半歩後ろに下がるとテスタロッサさんは口角を上げる。「クククッ……強さの為に禁忌を犯したか。名は何という」「城ヶ崎、彼方、です」「そうか、カナタだな。覚えたぞ」どういう訳か気に入られたらしく、テスタロッサさんはウンウンと頷いていた。それにしても近くで見ると顔立ちは整っているし、ハリウッドの女優と見間違えそうだ。「それで?私に何の用だアレン。八年も音沙汰が無かったくせにいきなり現れて禁忌に触れた者を連れてくるとは」「いやぁ、それがね。魔神の討伐失敗したって伝えに来たのさ」「……なに?」おっと、いきなり空気が凍ったぞ。アレンさんの言葉にテスタロッサさんが片眉を上げた。「それはどういう事だ。お前がいるから私はこの国を守る事に徹した。逃したというのか?あれだけの戦力を引き連れておいて」「まあ……そうなるね。だから君に手を貸して欲しくて来たんだ」なるほど、それが理由だったのか。でも明らかにテスタロッサさんの機嫌が悪くなっているのはなんでなんだろう。「王の名を持ちながら奴を逃しただと!?」「想像していた以上に厄介でね。君の力を借りたい」「貸す貸さんの問題ではないだろう……魔神を放置すればいずれ世界が滅ぶ。剣聖もあのざまだと……チッ、鍛え直しが必要だな」あ、そういえば吹き飛ばされていったレオンハルトさんはどこに行ったんだ?なかなか戻って来ないけど。「それで、このカナタは有用だということか?」「まあ少なくともそこらの魔法使い
ダンジョンの攻略は冒険者の仕事だ。稀に出てくる宝石や価値の高い魔導具などが彼らの生活を支えている。当然収穫のない日もあるそうで、そんな日はツいていなかったとヤケ酒を煽るそうだ。「セル達がお金を稼いでくれる間にボクらはある人の所に行こうか」「ある人というのは?」「着いてからのお楽しみさ」アレンさんはそう言って不敵に笑う。誰かを紹介してくれるみたいだが一体どんな人なのだろうか。僕とアカリはアレンさんに連れられ宿り木から出ようとすると、レオンハルトさんがガチガチに装備を固め立っていた。「お待たせレオンハルト。さて、行こうか」「ふぅ……気が重いが、仕方ない」レオンハルトさんは陰鬱な表情で嫌そうに顔を背けた。これから会う人というのは誰なんだ。剣聖がそこまで装備を固め、嫌がる人物とは一体……。「カナタは心配しなくていい」「いや、そうは言われてもな……」剣聖の顔が強張っているんだぞ。会うなり剣をぶん回すような人だったらどうしようか。街を練り歩く事十分。ある大きな屋敷の前に到着するとアレンさんが門番に向かって手を挙げた。「やあ、彼女はいるかな?」「え?アレン様?は、はいおりますが……」「じゃあ入れて貰えるかな?」「も、もちろんです!……それよりもアレン様は死んだと噂が」「ああ、噂は所詮噂ってやつさ」門番は驚いた顔でアレンさんをまじまじと見つめていた。それを当人は適当に躱し、敷地内へと入った。僕な