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長い旅路⑥

last update Last Updated: 2025-04-26 17:00:15

神獣といえば神のしもべという印象が強い。

僕らみたいな人間が敵う相手ではないのではないだろうか。

神族と同等の可能性だってある。

何故こんなにもみんな冷静なのか。

「あの、僕はどうしたらいいですか?」

「馬車を降りたらワタクシの側を離れないように」

「はい」

僕は言われた通り馬車を降りるとソフィアさんのすぐ真後ろにいく。

神獣とやらが一体どんな見た目をしているのか興味があった。

神々しい見た目なのだろうか。

「さぁ来るよ。クロウリー」

「分かっておるわい。イージス!」

クロウリーさんが両手を掲げると青白い結界が僕らを包みこんだ。

その一秒後、何処からともなく轟音を響かせながら雷光が飛来した。

耳を劈く音に僕は咄嗟に耳を塞いだ。

どうしてこの人達は今の音を聞いて平然としているんだ!

「な、何が起きたんですか!」

「神獣からの挨拶ね」

「挨拶!?」

もうわけがわからない。

結界がなかったら黒焦げどころか骨まで灰になっていてもおかしくはない攻撃だった。

「ハハッ神獣からすればこの程度挨拶みたいなものさ」

「そ、そうなんですか?」

アレンさんはケラケラと笑っているが僕は全然笑えなかった。

クロウリーさんがいなかったら死んでたよ。

「雷神獣ギガドラ、こんな所でどうしたんだい?」

アレンさんが何もいない虚空に話し掛けると、突如雷雲が空を覆いまたも稲妻が落ちた。

地面は抉れ煙がもうもうと立ち昇る。

視界が晴れるとそこには雷を身に纏った虎がいた。

どう見ても巨大な虎だ。

見た目も色も。

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    Last Updated : 2025-04-27
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    Last Updated : 2025-04-27
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