刹那の攻防により、辺りの道路は鋭利な刃物で引っ掻いたような傷、崩れる石垣、半壊した住宅。
見るも無惨な光景に変わりゆく。 動きが速すぎて目では捉えられないが、時折聞こえる剣戟の音が激しい戦闘を物語っている。 「神速絶技、死線月花」 「ドミネートブラストォ!」 お互い技の撃ち合いをしているような声も聞こえてくる。 アレンさんに連絡をしておいたほうがいいか? いやアカリが僕の為に戦ってくれているんだ。 水を差すような真似はやめよう。 「しぶといね、これで終わり」 「オメーこそなかなかやるじゃないか!」 お互い足を止めたようで僕にもやっと姿が見えたが、アカリはほぼ無傷でグリードは所々に血が滲んでいる。 四天王の1人を討伐したことがあるっていうのは、本当のようだ。 しかしアカリは瞑想のような仕草で深く呼吸をする。 一拍置いて目を開きグリードに問いかけた。「構えたほうがいい、これで四天王の1人は死んだから」
「なんだと?」 グリードも流石に不味いと感じたのか先程の余裕は感じられず力を溜めているような表情をしている。 「神速絶技、一閃」 刀がゆっくりと鞘から抜かれ刀身が顕わになる。 もう一度ゆっくり納刀する。 「終わった、カナタ」 いや、まだ眼の前にグリードが突っ立っているけども。 ………… ………… …………ボトリ。重たい水袋を落としたような音が聞こえそちらに目を向けると、グリードが呻き声を上げた。
「ううぐぅぅああ!」 足元には分厚い腕が落ちており、肩を見るとその先がない。 斬ったのか?さっきのゆっくりした抜刀で。 「クソが!!」 捨て台詞を吐き捨て、痛みを堪えながらグリードは黒い靄に包まれて消えていった。「終わったって言った」
そうは言うが僕にはただゆっくり刀を抜いてまた戻しただけに見えたがなにをしたんだ。 「見えなかっただけ、あいつの身体が異常に硬かったから同じ動作を数十回行った」僕とアカリも帰路に着く為2人徒歩で夕焼けに染まる住宅街を歩く。「そういえば気になったんだけど、閑静な住宅街とはいえ人はいるだろ?なんで誰も出てこなかったんだ?」流石に人気が少ないとはいえ、住宅がある以上そこに住む人達は少なからず居る。なのに、あれだけ大騒ぎしていたのにも関わらず誰も出てこなかった。「魔族が人払いの結界を張っていたから」僕の問いかけにアカリは淡々と答えた。「でも魔族って凶悪な存在なんだろ?人払いの結界を使うなんて変な話だな」聞いてる話だと魔族は人を襲い、殺す。それなのに人払いをする意味が分からない。「魔族はこっちの世界では目立ちたくない。目立てばこっちの世界の武力とぶつかる事になる」「魔族は強いんだから軍なんて役に立たないだろ」「もちろん魔族が勝つ、けど消耗はする。そこに私達と出会ったら消耗した魔族は討伐される危険性がある」なるほど、魔族も考えて行動をするみたいだ。いくら強くても生物である以上は疲労も溜まるし魔力も体力も消耗する。無敵なんて言葉は生ある者には似合わない言葉だな。「じゃあこの世界の武力を総力戦でぶつければリンドールって魔神も簡単に倒せるんじゃないか?」「カナタ、魔神は次元が違う。私達では逆立ちしても勝てないし、魔族にすら勝てない武力はあっても邪魔になるだけ」酷い言われようだが確かにその通りだ。アカリみたいな強者であっても勝てないと言われる魔神は相当な強さを誇るんだろう。僕には想像できないが。また2人無言で歩き続ける。「そういえば、アカリはなんで護衛を引き受けたんだ?」上からの命令とはいえ、自由がほとんどなくなってしまう護衛は正直いってなんのうまみもない。「なんとなく」まあそんな答えが返ってくる気はしてたよ。聞いただけ無駄だった。「カナタはなん
2044年1月9日雪が降り、所々に数cm積もる。吐く息は白く、冬を実感させる寒さだ。今日は異世界から飛ばされて来た春斗達の住処、通称宿り木に行く理由ができた。なんと遂に春斗が退院したのだ。1週間前、アカリから聞かされた時は今直ぐにでも向かおうとしたが、まだ安静にしないといけない状態らしくもう少ししてからと待ったをかけられてしまった。面会すら出来ない状態だと聞いたときは、背筋が凍る思いだったが割と元気になっているとのことだ。友達に会える、それだけで足取りは軽い。宿り木のインターホンを鳴らすとフェリスさんが出迎えてくれた。綺麗な人だからちょっと緊張するのは内緒だ。「待ってたわ、ハルトは中にいるからどうぞ」アカリと共に玄関をくぐると、なにやら楽しそうな会話が聞こえてくる。「もうすぐカナタくんが来るから待ってろって」「いや!今直ぐにでも会いたい!!俺から会いに行く!!」どうやら春斗も僕に会いたかったらしい。扉を開ける前から春斗の声が僕のところにまで聞こえてきた。リビングの扉を開け、僕は開口一番に春斗へと声をかけた。「退院おめでとう!久しぶりに会えたな」「カナタ!来てくれたか!!」溢れんばかりの笑顔で僕を出迎えてくれた。もうだいぶ快復したようで、入院していたとは思えないほどに元気が溢れている。「心配したんだぞ、大怪我を負ったって聞いて」「いやー思ったより強くてな」豪快に笑い飛ばすが、入院するほどの大怪我を負っても治ったら笑い話にするのは異世界特有の文化なのだろうか。皆を見ても笑っているし、死と隣り合わせの世界ではこれが普通なのだろうなと納得する事にした。「てことは僕の護衛に復帰するってことか?」「いや、それがな……アカリの方が適任だってことで俺は外された」寂しそう
アレン・トーマスは生まれた時から魔法の才に恵まれていた。10歳で既に冒険者として名を馳せ、16歳の時には彼の名前を知らぬ者が居ないほどに。しかし常に彼は独りだった。ソロでのダンジョン攻略、護衛任務、魔族討伐の旅、いつどこであっても1人だった。もちろん彼も何度かパーティに誘われ複数人で動いていたこともある。だが、彼は突出した強さのせいで魔族討伐では仲間とうまく連携が取れず、護衛任務では戦力差がありすぎて気を使う動きしかできず、結局ソロでしかまともに活動はできなかった。いつしか、ソロで1度も敗北を経験したことがない、魔物を狩るときは肉片1つ残さない彼を周囲は殲滅王と呼ぶようになった。そんな時、1つのパーティが彼に声を掛ける。レイ・ストークスを筆頭に4人で構成されたパーティだ。レイはアレンの圧倒的強さに惚れ込み自分のパーティへと誘ったが、アレンも今までソロで活動することが殆どだった為首を縦に振らなかった。それでもレイは何度も手を差し伸べる。ほとんど毎日のようにアレンの所へ押しかけては、パーティへ誘う。そんな日々が半年も続き、ついにアレンが折れた。1度だけなら……とパーティへ一時的に加入し魔物討伐任務を請け負う。1度だけのつもりが案外気楽でいられる空気感で、なによりレイや他のメンバーもかなり腕が立つようだ。いつの間にか、パーティーと行動することが当たり前になってきてアレンが思いの外接しやすい存在だと認知されだすと、パーティー加入希望者が出てきた。人数も15人を超えるかと思われる頃レイからある提案がされる。「アレンさん、私達で旅団を作りませんか?」旅団。それは魔族の討伐を目的とする精鋭集団を指す。「是非アレンさんに団長を努めて欲しいんです」旅団を作ることに異論はないが、団長となると話は別だ。「ボクには人を率いる才能はないよ」丁
宿り木の自室で雲一つない空を眺めながら、アレンはふと懐かしい記憶を思い出していた。この科学の発展した魔法のない世界に来て、既に数年は経っている。いつからか数えなくなりこの世界で生きる覚悟を決めかけていたその時にあのニュースを見た。[異世界へと渡る方法]最初は目を疑ったが、調べていくうちに城ヶ崎彼方という男が編み出した技術らしい、ということが分かった。まずは本人とコンタクトを取らないとと思っていたが意外にもその男は身近に居た。ハルトの学校に居るというではないか。警戒されないように探ってくるよう伝えたその数日後には協力を取り付けてきた。友人と言われるまで絆を深めていたハルトには感謝しかない。それからの日々は激動でしかなかった。魔族の襲撃やハルトの負傷。それにカナタに魔法を教えることにまでなってしまった。うまくいけば、あと数ヶ月で元の世界に帰ることになるが少し寂しさもある。なにせここで数年過ごした為、第二の故郷とでも言えなくはないくらいには愛着が湧いていたからだ。「カナタくん、君もボクらと共に来てくれないかな」想像していた以上の好青年であり、アレンは彼方を気に入り出来ることなら共に異世界へ行きたいと考えながら、空を見上げ一人呟いた。――――――「ただいまー」「おかえりー!!」夕方になり帰路に付くと姉さんが出迎えてくれた。久しぶりに今までの日常に戻った感じがするが、今までと違うのは僕の隣に1人の女の子がいるってことだ。「今日少し聞きたいことがあるから、後でカナタの部屋に行く」アカリがいつもと変わらない無表情で僕に話し掛けてくる。「お風呂上がったらでいい?」「それでいい」いつもと違うのは1つだけ。何か決意したような目をしている、何を聞いて来るのか少し身構えてしまう。晩御飯は冷蔵庫にある有り合わせで作り風呂も入った。後はアカリを待つだけだが、なかなか来ない。もしかして話があるって言ったことを忘れたのか?と考えていると扉を叩
2044年2月28日卒業も後1ヶ月に迫り、世間も卒業シーズンで慌ただしく動いている。先日五木さんからも連絡があり、実験の準備は完全に整った、1度研究所に来てほしいとの事だった。僕の理論が形になってきたと思うと、高揚感に包まれる。足取りも軽く、研究所の自動扉をくぐると既に五木さんが待っており、出迎える為わざわざロビーへ降りてきてくれてたようだ。「お久しぶりです、五木さん」「というよりかはまずは明けましておめでとう、かな?」笑いながらそう話すが、確かに今年になって初めてお会いすることになってしまった事を申し訳なく思い僕はすぐに返答する。「すみません!なかなか研究所へ来ることができなくて」「いやいや、いいよいいよ。君はまだ大学生なんだから学生生活を謳歌しないと」まあでも卒業したらガッツリ参加してもらうよ、と優しく微笑みかけてくれる。女性だったら惚れているなこれは。五木さんの案内に従って、研究所の奥へと進む。見たこともない機材や薬品が所狭しと並ぶ部屋が幾つもある。少し歩くと一際大きな観音扉の前へと辿り着いた。「さあ、ここが彼方君の理論を形にした機械が置かれている部屋だよ」仰々しい扉を脇にあるスイッチで開閉する。大きな石を引き摺るようなズッシリとした音が響きゆっくりと観音扉が開いていく。完全に開ききり中を見渡すと、まるでスタジアムのような広さで真ん中にドでかいドーナツ型の機械がそびえ立っている。「もしかしてあれが?」「そう、あれが異次元空間へと繋がる機械だ。通称異世界ゲート」8メートルはあるだろうか。巨大なドーナツのように真ん中がくり抜かれた物体が縦に置かれており、周囲には五木さんの開発した反重力装置が4つ並ぶ。まるで土星の輪っかのような、そんな印象を描く機械だ。「想像してたより大きいですね」現代の科学の粋を集めて作られた通称異世界ゲート。異世界へ行くことがより現実味を帯びてきたようだ。「もちろんまだ稼働はさせてないよ、立証実験の時が初めて稼働され
「いらっしゃいませー!」私、紫音はアパレルショップで元気よく挨拶をする。売上至上主義のこの店は、ノルマが高く設定されているので店員同士での客の取り合いは日常である。私はここに勤めて2年目でそれなりの数字を出せる店員だ。弟が学生なので紫音の働きが生活を左右する。嫌なことは多々あるが辞めるわけにいかない。しかし、最近弟が隠し事をしている気がするのはなぜだろうか。いきなり女の子を連れてくるし、いつもなら晩御飯は一緒に食べるのに最近はたまに外食しているようだ。昔はもっと姉さん姉さんと引っ付いてきて来ていたのに最近ではめっきりなくなってしまった。それが凄く寂しく思えるのと同時に弟が大人になっていく成長を感じられて嬉しくもある。それに今は世界が注目する人物でもあり、歴史に偉業を残すことになりそうで鼻が高い。異世界へ行けるようになったら、世界中から人が押し寄せるだろうし誰もが彼方を褒め称える。嫉妬や妬みを買うこともあるだろう。それでも私はいつまでも味方でいる、どんなことがあっても。それが姉として唯一の出来ることだ。――――――五木さんと研究所で別れ、家に帰ると珍しく姉さんが料理をしている。なにかいい事でもあったのか、鼻歌も微かに聞こえてくる。「ただいま、姉さん。珍しいね料理してるなんて」「ふふーん、たまにはお姉ちゃんらしいことしようかなーなんてね!」何かとは言わなかったがいい事はあったのかもしれないな。深くは聞かずに席に着く。「いい匂いがしてきた」アカリが鼻を膨らませ台所から漂ってくる匂いを堪能していると、料理が運ばれてくる。「見なさい!この素晴らしい出来栄えを!」自慢気に胸を張って出てきた料理は玉子焼き。確かに料理は料理だが思っていたのと違う。もちろん姉さんが気を悪くするようなことは言わないが、もっと凄いのを期待していたせいで残念感が大きい。「味は……美味しい!」滅多に料理なんてしないのに、美味しい
2044年3月3日今日は1日雨が降るらしい。窓に打ちつける大粒の雨音がひっきりなしに鳴り続ける。雨の日は勉強の時間だ。雨音をBGMに勉強をすると捗る、気がするのは僕だけだろうか。集中していたせいか、ふと時計を見ると既に14時。姉さんは仕事で家にいないしアカリも珍しく用事があると言って宿り木に戻った為、久しぶりの独りきり。そういえば、春斗から音沙汰がないが何をしているのだろう。携帯に手を伸ばしかけて、思い留まる。今連絡して春斗が暇だった場合、雨であろうと遊びに誘ってくるのが目に見えたからだ。雨の日は外に出たくはない。やっぱり勉強をするに限るな。また参考書に目線を落とし、勉強に戻る。黙々と参考書を読み進めているとふとあの夢の事が気になってきた。人類が滅びる悪夢……本当にそんなことが起きるのだろうか。魔法で悪夢を見せる?何のために?アカリが溢した魔法というワード。それが気掛かりだが、今は考えて仕方が無いか。日に日に募る不安は拭いきれず、研究書類に再度視線を落とした。――――――「貴様らなんのつもりだ?」漆黒の闇に包まれる部屋で、玉座の肘掛けに片肘を突き偉そうに深く座るリンドール。実際偉いことには違いないが、目線の先には膝を付き頭を垂れる4体の魔族。ゾラは冷や汗が止まらぬほどの重圧を感じるが、部下の不始末が原因の為、黙って次の言葉を待つ。「俺は再三警告したはずだ、今はカナタに手を出すなと。それがなんだ?不意討ちを狙って襲撃はするわ、身内を攫って護衛に返り討ちにされるわ、なんのつもりだ?」ゾラの不意討ち、グリードの負傷、それがリンドールの|命《めい》に逆らったことは明確だった。「なんの理由もなく手を出すなと言ったわけではない、計画に支障が出るから手を出すなと言ったのだ!!バカ共が!」怒号が飛び、4体の魔族は冷や汗が止まらない。流石に何も言わず時間が過ぎていくだけでは、リンドールの怒りは収まらないだろう。
2044年3月15日。今日は学校で卒業式がある。式典まで時間があるので、校内を1人歩く。アカリは部外者になる為、姿を隠し何処かから僕を見守っているそうだ。春斗は食堂に居ると言っていたが、それなりに人がいるせいで何処にいるか見当もつかない。フラフラと視線を彷徨わせて探していると肩を叩かれた。「やっと見つけたぜカナタ!」春斗も僕を探していたようで、先に見つけてくれたみたいだ。「いやー卒業式なんて感慨深いな!」何も考えていなさそうな春斗の口からそんな感想が出てきた事に驚いたが、何気に僕も4年間の思い出を振り返る。「そういえば、式が終わったあとどうするんだ?」何も考えていなかったな、まあでも世間は打ち上げみたいな事でもするんだろうか?「何も考えていなかったけど、宿り木で卒業祝いするとか楽しそうだなって」「おー!今それを言おうとしてたんだよ!団長とかもお祝いしたいって言ってくれてたしさ、そんなら式終わったら宿り木行くか!」式が終わってからの予定がたったの数分で決まってしまったが、まあいいだろう。そろそろ時間だ、僕らは式の会場へと足を進めた。――――――卒業式は淡々と進んでいく。これといった大きなイベント事もなく終わった。呆気なく終わってしまったが、こんなものなのだろう。これから他の同級生は自分の人生を歩んでいく。僕も研究所への就職が決まっているし、各々自分で敷いたレールの上を走っていくのだろう。「さあ!行こうぜカナタ!」大学の校舎を出てすぐに駆け出そうとする春斗を抑え込むのが大変なほど興奮している。「そんな急がなくてもいいよ、歩いて行こう」何度も言うが僕は体力がない。宿り木まで走って行くなんて正気の沙汰じゃない。しばらく歩いていると、ふと春斗が声を掛けてきた。「そういえばカナタ、彼女いるか?」何だ急に、男同士で恋バナと洒落込むつもりか?「いや、残念ながらいないな」
出発を明日に備えみんな自室でしっかりと睡眠を取る。皇女殿下も何故か宿り木に泊まっているそうだが、皇女なのにあまりに自由過ぎないだろうか。明日から皇女殿下に守られながら旅をすると思うとなかなか寝付けなかった。皆が寝静まった頃、僕は喉が渇き一階へと降りた。一階にはラウンジがあり、ちょっとした軽食なら自分で作る事もできる。置かれてあるパンを一つとりジャムを塗る。水を一杯汲むと席に着いた。誰もいないラウンジだが、たまには一人でこうやってゆっくりするのも悪くない。「ん……誰かいるのかしら?」ふと背後から声が掛かり振り向くと皇女殿下が寝巻き姿で立っていた。僕はすぐに立ち上がり頭を下げる。「し、失礼しました。気付かなかったもので……」「いや気にしなくていいわ。ああ、カナタね。何してるのこんな時間に」「なかなか寝付けなくて……ちょっと小腹でも満たそうかなと」「あらそう。ならワタクシもご一緒しようかしら」皇女殿下と一緒のテーブルにつくなんて勘弁してくれ!ゆっくりしようと思っていたのに……。皇女殿下は僕と同じようにバケットの中のパンを一つ掴むと水を汲み僕の目の前の席に座った。「こうして顔を合わせて食事を摂るのは初めてね。カナタの事色々聞いてもいいかしら?」「え、ああはい。僕が答えられる事ならなんでも」「そう。じゃあ貴方のいた世界はどんな所だったの?」「日本っていう国だったんですけどこの世界とは違って魔法が存在しない国でして――」その後皇女殿下と話は弾み夜も深まっていった。
パーティ―メンバーが決まると早速旅程の調整が始まった。クロウリーさんの住処となる山まで馬車で三日。そこから徒歩で山を登り頂上付近に建てられている住処までおよそ二日。計五日の旅になる。準備はしっかり行わないと後で痛い目を食らうのは自分達だ。フェリスさんを交えての会議が始まると、真っ先に皇女殿下が手を挙げた。「アレンがいるなら戦力は申し分ないでしょう。ただ、カナタがどれだけ戦えるのか知っておきたいのだけど」「あー、それなんだけどカナタは戦力に入れてはいないよ」「どうしてかしら?眼帯まで着けて歴戦の冒険者感が溢れているのに?」それを言われると恥ずかしい。僕は見た目だけは歴戦の冒険者かもしれないが実態は一般人と差異がない。赤眼のせいで魔法は中級魔法までしか使えないし、実戦経験も希薄だ。「カナタは弱い」「あら、そんなハッキリと言ってしまうのアカリ」「だって本当の事だから」アカリが心に刺さる言葉を発言すると皇女殿下は僕に憐みの目を向けてきた。やめてくれ、凄く傷つくから。「貴方……それほどまでに弱いのかしら」「まあ……はい、そうです、ね」「よくそれで今まで生きてこられたわね」日本では本来戦闘力なんて重視されないんだから仕方がないだろう。この世界では魔物が跋扈しているから理解できるけどそれを僕に当てはめるのは間違っている。「じゃあ主な戦闘はワタクシ含めて四人ね」「いやいやいや、ソフィアも守られる対象だけど?」「なぜかしら?ワタクシが戦える事くらいアレンは知っているでしょ」「ソフィアは皇女、だから守られる対象」「アカリも知
皇女様がなぜここに!?僕は驚きのあまり固まってしまった。そんな僕などお構いなしに皇女様はアレンさんの机に手を置くとニヤッと笑う。「ワタクシもそのパーティーに参加します」「いやいやいや!皇女様を連れまわしたら流石にオルランドに怒られるよ!」アレンさんがかなり気を遣っている。皇帝陛下にすらタメ口なのになぜ目の前の皇女様にはタジタジなのかが気になった。「この国に帰ってきて一度も挨拶しに来なかったのは誰だったかしら?」「そ、それについては申し訳ない……。ほら、ボクも帰って来たばかりだったしさ、そこにいるカナタの案内もかねて各所を回っていたんだよ」「カナタ?」アレンさんはあろう事か僕に振って来た。皇女様と会話なんて何話したらいいんだ。「えっと……カナタと申します」「あら?新顔ですわね。新しいクランメンバーかしら?」「そ、そんなところかと」「ふ~ん」皇女様はジッと僕を見つめる。やがて興味が薄れたのか目を逸らすとまたアレンさんの方へと向き直った。「それで?彼とワタクシに挨拶がなかったのとどんな関係があるのかしら?」「カナタはこの世界の人間じゃないんだよ」「今何と?」「だからこの世界の人間じゃないんだ。ボクらが無事この世界に帰って来れたのもカナタあってこそだよ」アレンさんがそう言うとまた皇女様は僕の方を見た。今度は上から下まで舐めまわすように見てくる。「ワタクシはソフィア・エリュシオン第一皇女、貴方の名は?」さっき言ったけどもっかい言えってことかな。「城ケ崎彼方と申します」「カナタですわね。別世界から来たというのは本当なの?」「はい。日本という国から来ました」「ニホン……聞いた事がないわね。どうしてこの世界に来たのかしら?」「僕のいた世界を元に戻すため、です」「いまいち意味が分からないわ。アレン、説明して
「さっきのは……」彼方達が図書館から去ると同時に一人の女性が興味深そうに彼らを見ていた。「殲滅王に神速……もう一人の男は見たことなかったけれど、"黄金の旅団"ね。こんな所になんの用だったのかしらね?」女性は読んでいた本を棚に仕舞うと司書の所まで向かう。「ねえ、司書さん。さっきの人達って何の本を探してたのかしら?」「先程と申しますと……アレンさんの事でしょうか?」「そうそう。アレン達が何探してたのかなって。もしあれだったら手伝おうと思って」「ええと……確か神域についてだったと思います」「神域……分かったわありがとう」それだけ聞くと女性はアレン達の後を追うように図書館を出て行った。「あれ?さっきの人ってもしかして……」司書は先程話し掛けてきた人物を知っていた。誰もが知っている女性。直接会話してしまったと司書は喜びに打ち震えていた。誰にも聞こえない声量で司書は彼女の名前を零す。「ソフィア第一皇女様……」――――――宿り木に戻った僕達はまずパーティーメンバーの選出から始まった。アレンさんとアカリ、そして僕ではあまりに貧弱すぎる。というのも僕が殆ど役に立たないからだ。戦闘要員として数えられない為、後二人は必要になるとの事だった。「さてと、誰を連れて行こうかな」クランマスターの部屋で僕らはメンバーを選ぶ。名前と能力が書かれた紙を手渡され僕も一応目を通す。フェリスさんは入れたほうがいいだろう。数日の旅になるなら多少気心しれた人を入れたほうが僕としても楽だ。「フェリスさんはどうですか?」「ああ、そうだね。彼女なら戦闘力も問題ないし……それにカナタもいるから入れた方が良いね」
帝都大図書館は帝国内でも最大級の大きさらしく見上げるほどの高さがあった。日本でも国立図書館はあるがそれを遥かに凌駕する建物の大きさだ。さぞかし蔵書の数は多いのだろうと僕は胸を弾ませた。中に入るとこれまた巨大な棚に本がギッシリと詰められていて何処を見ればいいのか悩んでしまう程だった。「さてと、この中から目的の本を見つけるのは至難の業だ。というわけで司書の所に行こうか」図書館には司書がおり、特殊な魔法を習得しているらしい。なんでも求める本が何処にあるか分かるという司書としての職業でなければ役に立たない魔法だそうだ。「ああ、君。ここに神域に関する事が書かれた本はあるかな?」「はい、少々お待ち下さい」司書は頭の上に魔法陣を浮かべると目を瞑る。しばらく待つと司書の目が開き手元の紙に本のタイトルと場所を記してくれた。「こちら神域について書かれた本は全部で三冊となります」これだけ膨大な数の本があったたったの三冊。それだけに神域は謎に包まれているという事だ。紙に記された場所で本を取るとその場で数ページ捲る。悲しい事に僕は文字が読めない。代わりにアレンさんに読んでもらうと、少し難しい表情になった。「うーん……抽象的な事しか書かれていないね。他の二冊も探してみよう」どうやら満足いく内容ではなかったらしい。目的の本を探すのもなかなか大変だ。何処を見渡しても本の壁。場所は紙に記載してくれているとはいえ、その場所にも何冊もの本が並べられている。やがて見つけた二冊目もやはりアレンさん曰くあまり必要としない情報しか載っていなかったらしい。
魔導具を物色していると時間が溶けていく。あれもこれも欲しくなるしどういった効果があるのか気になってくる。また一つよさげな物を見つけ僕は手に取った。腰に巻き付けるチェーンのようで、少し柄が悪くなるかなと思いつつ自分の腰に当ててみる。……かっこいいじゃないか。男はいくつになっても中二心は忘れない生き物だ。僕も例に漏れずチェーンとか好きである。「……ダサい」「えっ?」アカリは一言だけ伝えるとまた口を閉ざした。え、これダサいかな……。腰にチェーンとか普通にありかなと思ったんだけど。「お、カナタ似合ってるよ。いいじゃないかそれ」アレンさんは分かってくれたらしく、僕を見て嬉しそうに笑顔を浮かべてくれた。やはり男は分かるもんなんだ。このチェーンの良さが。「ダサい」「そんな事はないよアカリ。ほら、見てみなよこの重厚感。ずっしりとくる重みがまたかっこよさを際立たせているじゃないか」「邪魔なだけ」「銀色に輝いているのもよくないかい?」「反射して敵に場所がバレる」「長いのも魅力――」「走ってると絶対足に絡まる」ダメだ、僕とアレンさんが何を言ってもアカリには刺さらなかったらしい。仕方ない、別の魔導具を探すかと僕はチェーンを棚に戻した。と、思ったらすぐ傍にまたかっこいい魔導具を見つけた。銀色の指輪だ。それも普通の指輪じゃない。指全体を覆うようなフィンガーアームのような形をしている。僕が手に取ろうとすると、その手はアカリによって弾かれた。「それもダサい」僕は肩をがっくり落とし、また別の魔導具を物色する。結局、短剣型が一番使いやすいとの事で、僕が選んだのはガードリングと炎の短剣だった。お会計はいくらくらいになるんだろうかと、支払いの時に耳を澄ませていると金貨という単語
ギルドを出ると今度は魔道具の売られている店へと行くことになった。最低限身を守る魔導具はあった方がいいだろうとはアレンさんの意見だ。魔導具と聞けば魔法を気軽に扱える道具という認識がある。ただ結構高価なイメージもあるが、買えるだろうか。「お金は心配しなくていいよ。一応これでも大きなクランのマスターやってるからさ。貯蓄は結構あるんだよ」それなら安心か。しかしどれもこれも買ってもらうというのは気が引ける。魔導具店に到着し、店内へと入ると僕は目を輝かせてしまった。棚には所狭しと置かれた魔導具の数々。魔導書だって何冊も並べられておりワクワク感が増してくる。「カナタ、身を守る物と攻撃手段を選ぶといい」「二つともあった方がいいってこと?一応レーザーライフルはあるけど」「それだけじゃ心許ない」アカリにそう言われるとそんな気もしてきた。レーザーライフルは威力こそ十分だが、ソーラー発電でのエネルギーチャージが必要だからあまり連続して使う事はできない。「カナタ、まずは身を守る為の魔導具を探そう」アレンさんと棚の物色を始めると、どれもこれも効果が分からず僕は首を傾げるばかりだった。見た目はただの指輪でも何らかの効果を持つであろう宝石の嵌った物やネックレスなどもある。腕輪タイプだったら邪魔にならなそうだし、見た目もお洒落だ。いいなと思った魔導具を手に取り見ているとアレンさんが話しかけて来た。「お、それがいいのかい?」「効果は分からないんですが、見た目がいいなと思いまして」「丁度いい。それにするかい?その腕輪はシールドを張る事のできる魔導具さ」運がいい。僕のいいなと思った腕輪が防御系の物だったなんて。「これがいいです」「よし、じゃあ次は攻撃用を探そう」価格を見てないけど大丈夫なのかな。後でコソッとアカリに聞いておこう。攻撃用の魔導具といっても種類は豊富にある。杖型や指輪型、剣型などもありど
アレンさんのいうアテというのが何か分からなかったが、僕の知らない付き合いなどもあるのだろうと無理やり自分を納得させた。「じゃあ金貨五十枚で依頼を出すぞ。まあ、まずは魔神が今いる場所を特定する必要があるからな。占星術師に依頼を出してからになるが」「ああ、それで構わないよ。その間にカナタに教えておく事も多いだろうからさ」教えておく事ってなんだろうか。もう結構この世界の事は学んだつもりだけどな。「それでカナタ。その眼帯の下は赤眼だったな。あまり他のやつに見せるなよ」「はい。アレンさんからも忠告されています」「ならいいが。禁忌に触れた者は悪魔に身を落としたなどとのたまって襲いかかってくる輩もいるからな」それは怖いな。こちらから眼帯を捲らない限りバレることはないだろうけど気をつけておこう。VIPルームを出ると受付嬢であるカレンさんが近づいてきた。「アレンさん、そちらの男性は冒険者登録をされますか?」「よく分かったね」「まあこの辺りでは見たこともない方でしたので」一目見ただけで冒険者か否か分かるものなのか。ギルドの受付嬢って凄い目利きをしてるんだな。「ではこちらへどうぞ」カレンさんの案内に着いていくと受付へと通された。「アレンさんのお知り合いなのは存じておりますが、冒険者登録したばかりですとランクは一番下のC級となります」「はい、大丈夫です」「それでは登録表に必要事項の記入をお願いいたします」おっと、これは不味いぞ。僕はこの世界の文字が書けない。なぜしゃべれてるかは謎だが、多分魔法的な何らかの力が働いているのだと無理やり納得している。しかし文字だけは勉強しなければ書けやしない。「カナタ、私が代わりに書く」「ありがとう。助かるよ」僕が受付で困った表情を浮かべているとアカリはすぐに察したのか代わりに記入してくれることになった。「カナタさん、と仰いましたよね?カナタさんはどこからか来られたのでしょうか?」
「久しぶりーガイアス。元気だった?」「元気も何もお前ら"黄金の旅団"が行方不明になったととんでもない騒ぎだったんだぞ」体格のいい男は苦言を零しながらもアレンさんが無事に帰ってきたことを喜んでいるようだった。「一体何があったんだ」「話すと長いよ」「そこの見たこともない男といい……全員こっちに来い」僕ら三人はギルドの二階へと案内され、ある部屋へと通された。VIP扱いのようで僕は少し緊張していた。長いソファーに腰を下ろすと目の前にギルド長が座る。「まずは無事の帰還を祝おう。よく戻ってきてくれた」「その辺りも詳しく説明がいるかい?」「当たり前だ!」アレンさんはやれやれと肩を竦め説明をし始める。ギルド長はその話をしっかりと聞き、最後に長い溜め息をついた。「はぁぁぁ……よくそれで無事に戻ってこれたものだ。そこの、カナタだったか?よくアレン達をこっちの世界に戻してくれた。礼を言う」「いえ、みなさんの力あっての結果ですから」「ふん。謙遜するタイプか。俺は嫌いじゃないぞ」ギルド長のお眼鏡には叶った受け答えだったようだ。「俺はこの帝都冒険者ギルドの長をやってるガイアスってもんだ。今後も何かと関わる機会が多いだろうからな、覚えておいてくれ」「はい、こちらこそよろしくお願いします」ギルド長と懇意にしておけば今後何かあっても手を貸してくれるだろう。僕はガイアスさんと握手を交わした。「それで魔神だったな……ギルドで高位冒険者は雇えるが魔神にどれだけ対抗できるかは分からんぞ」「まあボクの仲間が何人もやられたからね。普通の冒険者だと歯が立たないだろうから最低でもS級以上の手を借りたい」道中で教えて貰ったが、冒険者にはランクが存在する。アレンさんのような王の名を冠する冒険者は英雄級、アカリやレイさんのような冒険者はSS級。二つ名を持っているのはS級以上だそうだが、その中