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それぞれの想い⑦

last update Last Updated: 2025-02-06 17:00:20

2044年3月15日。

今日は学校で卒業式がある。

式典まで時間があるので、校内を1人歩く。

アカリは部外者になる為、姿を隠し何処かから僕を見守っているそうだ。

春斗は食堂に居ると言っていたが、それなりに人がいるせいで何処にいるか見当もつかない。

フラフラと視線を彷徨わせて探していると肩を叩かれた。

「やっと見つけたぜカナタ!」

春斗も僕を探していたようで、先に見つけてくれたみたいだ。

「いやー卒業式なんて感慨深いな!」

何も考えていなさそうな春斗の口からそんな感想が出てきた事に驚いたが、何気に僕も4年間の思い出を振り返る。

「そういえば、式が終わったあとどうするんだ?」

何も考えていなかったな、まあでも世間は打ち上げみたいな事でもするんだろうか?

「何も考えていなかったけど、宿り木で卒業祝いするとか楽しそうだなって」

「おー!今それを言おうとしてたんだよ!団長とかもお祝いしたいって言ってくれてたしさ、そんなら式終わったら宿り木行くか!」

式が終わってからの予定がたったの数分で決まってしまったが、まあいいだろう。

そろそろ時間だ、僕らは式の会場へと足を進めた。

――――――

卒業式は淡々と進んでいく。

これといった大きなイベント事もなく終わった。

呆気なく終わってしまったが、こんなものなのだろう。

これから他の同級生は自分の人生を歩んでいく。

僕も研究所への就職が決まっているし、各々自分で敷いたレールの上を走っていくのだろう。

「さあ!行こうぜカナタ!」

大学の校舎を出てすぐに駆け出そうとする春斗を抑え込むのが大変なほど興奮している。

「そんな急がなくてもいいよ、歩いて行こう」

何度も言うが僕は体力がない。

宿り木まで走って行くなんて正気の沙汰じゃない。

しばらく歩いていると、ふと春斗が声を掛けてきた。

「そういえばカナタ、彼女いるか?」

何だ急に、男同士で恋バナと洒落込むつもりか?

「いや、残念ながらいないな」
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    「さて、ついたぞい」クロウリーさんに促され全員が馬車を降りると何の変哲もないただの山道だった。ここに神域の結界があると言われても信じられない。「ここかい?」「うむ。アレン、そこから先には進むでないぞ」アレンさんも把握できていないようで、クロウリーさんに忠告され足を止めていた。「さて、やるぞ!全員準備はよいか?」アレンさんも臨戦態勢を取り、フェリスさんもアカリも各々武器を手に構えた。ソフィアさんも剣を抜くと僕も守るように前に立つ。僕も念の為ライフルを構えておいた。「さて、ではやるぞ。開け異界の扉よ!アザ―ワールド!」クロウリーさんが両手を広げると紫色の魔力の渦が集まり始め空間に亀裂が入った。何もない空間に亀裂が入るのは目を疑いたくなる光景だ。亀裂は徐々に広がっていき、やがて人一人入れる程度の隙間ができた。「ここからは強引にいくぞ!」クロウリーさんは開いた亀裂に両手を突っ込み一気に外側へと広げていく。二人が並んで入れるくらいの大きさまで広がると、神域と思われる光景が視界に飛び込んできた。カラフルな蝶が飛び交い、のどかな草原が広がる美しい光景だった。白い樹が各所で生えていて、見た事もない光景に僕らはアッと驚く。「凄い……これが神域なのね」フェリスさんも構えた剣を下ろすと目の前の光景に意識を奪われていた。「なんて美しいのかしら」ソフィアさんも視界いっぱいに広がる見た事もない光景に言葉を失っていた。かくいう僕も美しい景色に目を奪われていたが、クロウリーさんの一声で意識を取り戻した。「来るぞ!全員構えよ!」草原の遥か向こうから猛スピードでこちらへと迫りくる白い翼の人間。あれが神族なのだと気づくのにそう時間はかからなかった。手には背丈を超える程の長い槍を持っている。殺意が凄そうだ。「頼んだぞアレン!」「任せておいてよ、クリエイトゴーレム!」

  • もしもあの日に戻れたのなら   長い旅路⑧

    長旅も九日が経つと流石に慣れてきた。今更ながら思ったが、女性連中の風呂はどうしているのだろう。アレンさんやクロウリーさん、そして僕らは男だからまあ我慢すればいい。といっても毎日寝る前に濡れた布で身体くらいは拭いているが、女性はそれだけで満足はできないはずだ。「アカリ、風呂ってどうしてんの?」「?お風呂なんてどこにもないけど」「いや、それは分かってるけど。もしかして僕らと同じで濡れた布で身体を拭くだけ?」「そうだけど」驚いた。こっちの世界の女性は案外その辺り気にしないらしい。清潔感という面だけ見ればやはり日本の圧勝のようだ。「身体を拭いただけでさっぱりできる?」「うん」冒険者だからだろうか。しかしソフィアさんはそういうわけにはいかないだろう。そこで僕は彼女に聞いてみる事にした。「ソフィアさん、この旅の間はお風呂に入れていないと思いますけど大丈夫ですか?」「何の事かしら?それは当然でしょう。ああ、もしかして気にしないのかという事?」「そうです。皇女様なのにその辺り大丈夫なのかなと思いまして」「気にしないわね。どうせ外にいれば汚れるのだからいちいちお風呂で身体を清めても意味がないわ」まあそれはそうかもしれないが皇女様であろうお方がそれでいいのかと思ってしまう。姫様って綺麗好きなイメージがあったのに。「流石に臭いには気を付けているわよ、ほら」ソフィアさんが手を広げバタバタすると、ふんわりと花の香りが漂ってきた。香水かな、なんとも心が洗われる匂いだ。「香水は乙女の嗜みね。これがあるから多少身体が汚れていてもきにならないのよ。貴方の世界では違ったのかしら?」「そうですね……人によると思いますが、一日に二度お風呂に入らないと気が済まない女性もいましたよ」僕の姉である。綺麗好きがいきすぎて毎日朝と夜にお風呂に入っていた。僕がその話をするとソフィアさんは顔を顰める。

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