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それぞれの想い⑥

last update Last Updated: 2025-02-05 18:00:59

2044年3月3日

今日は1日雨が降るらしい。

窓に打ちつける大粒の雨音がひっきりなしに鳴り続ける。

雨の日は勉強の時間だ。

雨音をBGMに勉強をすると捗る、気がするのは僕だけだろうか。

集中していたせいか、ふと時計を見ると既に14時。

姉さんは仕事で家にいないしアカリも珍しく用事があると言って宿り木に戻った為、久しぶりの独りきり。

そういえば、春斗から音沙汰がないが何をしているのだろう。

携帯に手を伸ばしかけて、思い留まる。

今連絡して春斗が暇だった場合、雨であろうと遊びに誘ってくるのが目に見えたからだ。

雨の日は外に出たくはない。

やっぱり勉強をするに限るな。

また参考書に目線を落とし、勉強に戻る。

黙々と参考書を読み進めているとふとあの夢の事が気になってきた。

人類が滅びる悪夢……本当にそんなことが起きるのだろうか。

魔法で悪夢を見せる?何のために?アカリが溢した魔法というワード。

それが気掛かりだが、今は考えて仕方が無いか。

日に日に募る不安は拭いきれず、研究書類に再度視線を落とした。

――――――

「貴様らなんのつもりだ?」

漆黒の闇に包まれる部屋で、玉座の肘掛けに片肘を突き偉そうに深く座るリンドール。

実際偉いことには違いないが、目線の先には膝を付き頭を垂れる4体の魔族。

ゾラは冷や汗が止まらぬほどの重圧を感じるが、部下の不始末が原因の為、黙って次の言葉を待つ。

「俺は再三警告したはずだ、今はカナタに手を出すなと。それがなんだ?不意討ちを狙って襲撃はするわ、身内を攫って護衛に返り討ちにされるわ、なんのつもりだ?」

ゾラの不意討ち、グリードの負傷、それがリンドールの|命《めい》に逆らったことは明確だった。

「なんの理由もなく手を出すなと言ったわけではない、計画に支障が出るから手を出すなと言ったのだ!!バカ共が!」

怒号が飛び、4体の魔族は冷や汗が止まらない。

流石に何も言わず時間が過ぎていくだけでは、リンドールの怒りは収まらないだろう。
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    テスタロッサさんとの顔合わせも終わると今度は冒険者ギルドへと赴く事になった。正直少しだけ楽しみにしている場所でもある。アレンさんがギルドの扉を開けると中には沢山の冒険者がいた。依頼票を見ている者やテーブルで談笑する者、中には受付嬢を口説いている人もいる。そんな冒険者達がアレンさんを見て一斉に静まり返った。「やあ、みんな。久しぶりだね」アレンさんは呑気にそう声を掛けるが誰も反応しない。いや、正確には反応しているのだが、全員が全員口を開けて呆けた顔をしていた。「ア、アレンさん……生きていたと噂にはなっていましたが……」「ん?ああもしかしてオルランドが触れ回ってるのかな」受付嬢が驚きを通り越して恐ろしいものでもみたかのような顔で声を発する。国王陛下を呼び捨てなど不敬にも程があるがアレンさんだから許されているだけだ。聞いているこっちは冷や汗ものだが、アレンさんは気にする様子がない。「よくご無事で……おかえりなさいませ」「ただいま」アレンさんがそう言うとギルド内は喝采に包まれた。冒険者でも上位に君臨するアレンさんの人気は凄まじいようで、ワラワラと集まってきた。誰しもが笑顔を浮かべアレンさんやアカリに声を掛けているが、僕には誰も話し掛けはしない。見たこともない奴がいるな、くらいは思っているかもしれないが、先にアレンさんの無事を祝っているようだった。「道を開けてもらえるかな?ギルドに報告しなければならない事があってね」そう言うとみんな離れて道を開けていく。それに倣って僕も着いていくとやはり若干の注目を浴びた。眼帯を着けているの

  • もしもあの日に戻れたのなら   宿り木の仲間達⑥

    僕らはテスタロッサさんの案内で客間へと通された。ちなみにレオンハルトさんも傷だらけで戻ってきて今ではスンとしている。さっき吹き飛ばされたのが嘘みたいだ。「さあ聞かせて貰おうかアレン。八年もの間どこにいたのか、それとどうしてカナタが禁忌を犯しているのか」「何処から話そうかな――」アレンさんは今までの事を全部話した。別の世界にいた事、僕が異世界ゲートを作りだしこの世界に帰ってこれた事、何人もの犠牲者が出た事。そして僕が赤眼になってしまった事。テスタロッサさんは無言で聞き終えると、小さく溜息をつく。「要約すればお前達はただの一般人に過ぎなかった彼に道を踏み外させた、という事だな?」「まあ、そうだね。カナタには悪い事をしたと思っているよ」「そこまでして魔神を取り逃すとは……殲滅王が聞いて呆れる」テスタロッサさんは明らかに落胆したような様子だった。それだけアレンさんの事は高く評価していたのだろう。「カナタは悪くない。私が悪い」「そうでもないだろ。僕だって何にも分からないくせに禁忌の魔法に手を出しちゃったんだ。自業自得だ」アカリは庇ってくれているようだったが、僕は分からないままに魔法を使ってしまった自分が悪いと思っている。「過去の事を悔やんでも仕方あるまい。それならばその力、有用な使い方をすればいい」「ダメ、カナタには魔法は使わせない」「禁忌の魔法使いとなればいずれ四人目の王の名を手にする事が出来るかもしれんぞ?」二つ名が欲しいとは思わないな。ただこの力が元の世界の時間を戻すきっかけになるなら、迷う事無く使うと思う。「まあいい、それと世界樹だったか?そんなもの私も伝承でしか知らん」「そうかぁ、テスタロッサも分からないとなるとやっぱり神域に行かないとダメかな」「あそこは人間が簡単に立ち入れるところではない。神族と矛を交えるつもりか?」テスタロッサさんが言うには、神域と呼ばれる場所に住む神族は人間を遥かに超える力を持つそうだ。

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