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忍び寄る悪意⑧

last update Last Updated: 2025-01-30 18:30:08

「初めまして、よろしくカナタ」

「これからよろしくお願いします、アカリさん」

声も幼いな。

絶対歳下だなこの子は。

「カナタ、私に敬語はいらない。素早く正確に言葉を伝えるには敬語は不適切」

えらく淡々としているんだな。

確かに護衛なら手短に用件は伝えて動いてもらわないといけないし、理にかなっている。

「わかった、これからよろしく」

そういうと片手を差し出してきた。

握手しろってことなのかな、一応この子なりの挨拶なのだろう。

「カナタくん、この子はここにいるメンバーで3番目に強いわ。だから護衛には適任だと思ったの」

え!剣聖より強いのか!?

「あ、もちろん剣聖は除いてね。黄金の旅団は剣聖以外が団員なの。剣聖に関しては協力者って立場ね」

「カナタ、私の二つ名は神速。誰の目にも止まらない攻撃が得意」

なにそれカッコいい。

神速だって?絶対速いじゃないか、音速を超えるのかな。

「カッコいい二つ名だね。その二つ名ってやつは誰が決めるんだ?」

「勝手に周りがそう呼ぶ」

なるほど、周囲が勝手に決めたものが定着して二つ名となるのか。

僕ならなんて二つ名が付くだろうか。そんなことを考えているとアカリが鼻で笑う。

「カナタに二つ名をつけるとしたら地味天才」

地味なのか……やっぱり地味な見た目してるんだな僕は。

「こら!アカリ!思ってても口に出したらだめでしょ!!」

フェリスさん、貴方のその言葉がもはや一番傷つくんです。

「とりあえずカナタくん!!」

一際大きな声でアレンさんが叫ぶ。

何事かと皆が振り向くと真面目な顔で僕に話しかけてくる。

「カナタくん、君は想像を超えた逸材かもしれない。君がもしもボクらと共に異世界に行くというのならボクが面倒を見よう」

周りがザワつく。

殲滅王がそんなこと言うなんて初めてじゃないか?

団長の真面目な顔久しぶりに見た。

逸材を独り占めなんてずるいぞ団長。

などと皆が口々に喋り出す。

異世界に行く、か。

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    テスタロッサさんとの顔合わせも終わると今度は冒険者ギルドへと赴く事になった。正直少しだけ楽しみにしている場所でもある。アレンさんがギルドの扉を開けると中には沢山の冒険者がいた。依頼票を見ている者やテーブルで談笑する者、中には受付嬢を口説いている人もいる。そんな冒険者達がアレンさんを見て一斉に静まり返った。「やあ、みんな。久しぶりだね」アレンさんは呑気にそう声を掛けるが誰も反応しない。いや、正確には反応しているのだが、全員が全員口を開けて呆けた顔をしていた。「ア、アレンさん……生きていたと噂にはなっていましたが……」「ん?ああもしかしてオルランドが触れ回ってるのかな」受付嬢が驚きを通り越して恐ろしいものでもみたかのような顔で声を発する。国王陛下を呼び捨てなど不敬にも程があるがアレンさんだから許されているだけだ。聞いているこっちは冷や汗ものだが、アレンさんは気にする様子がない。「よくご無事で……おかえりなさいませ」「ただいま」アレンさんがそう言うとギルド内は喝采に包まれた。冒険者でも上位に君臨するアレンさんの人気は凄まじいようで、ワラワラと集まってきた。誰しもが笑顔を浮かべアレンさんやアカリに声を掛けているが、僕には誰も話し掛けはしない。見たこともない奴がいるな、くらいは思っているかもしれないが、先にアレンさんの無事を祝っているようだった。「道を開けてもらえるかな?ギルドに報告しなければならない事があってね」そう言うとみんな離れて道を開けていく。それに倣って僕も着いていくとやはり若干の注目を浴びた。眼帯を着けているの

  • もしもあの日に戻れたのなら   宿り木の仲間達⑥

    僕らはテスタロッサさんの案内で客間へと通された。ちなみにレオンハルトさんも傷だらけで戻ってきて今ではスンとしている。さっき吹き飛ばされたのが嘘みたいだ。「さあ聞かせて貰おうかアレン。八年もの間どこにいたのか、それとどうしてカナタが禁忌を犯しているのか」「何処から話そうかな――」アレンさんは今までの事を全部話した。別の世界にいた事、僕が異世界ゲートを作りだしこの世界に帰ってこれた事、何人もの犠牲者が出た事。そして僕が赤眼になってしまった事。テスタロッサさんは無言で聞き終えると、小さく溜息をつく。「要約すればお前達はただの一般人に過ぎなかった彼に道を踏み外させた、という事だな?」「まあ、そうだね。カナタには悪い事をしたと思っているよ」「そこまでして魔神を取り逃すとは……殲滅王が聞いて呆れる」テスタロッサさんは明らかに落胆したような様子だった。それだけアレンさんの事は高く評価していたのだろう。「カナタは悪くない。私が悪い」「そうでもないだろ。僕だって何にも分からないくせに禁忌の魔法に手を出しちゃったんだ。自業自得だ」アカリは庇ってくれているようだったが、僕は分からないままに魔法を使ってしまった自分が悪いと思っている。「過去の事を悔やんでも仕方あるまい。それならばその力、有用な使い方をすればいい」「ダメ、カナタには魔法は使わせない」「禁忌の魔法使いとなればいずれ四人目の王の名を手にする事が出来るかもしれんぞ?」二つ名が欲しいとは思わないな。ただこの力が元の世界の時間を戻すきっかけになるなら、迷う事無く使うと思う。「まあいい、それと世界樹だったか?そんなもの私も伝承でしか知らん」「そうかぁ、テスタロッサも分からないとなるとやっぱり神域に行かないとダメかな」「あそこは人間が簡単に立ち入れるところではない。神族と矛を交えるつもりか?」テスタロッサさんが言うには、神域と呼ばれる場所に住む神族は人間を遥かに超える力を持つそうだ。

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