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忍び寄る悪意④

last update Last Updated: 2025-01-27 18:00:48

「ここが拠点ですか」

眼の前には大きな一軒家が二軒並び立つ。

4階建てか?それにしてもお屋敷レベルのデカさがあるな。

20人も住んでいるのだからこれくらい大きくないとシェアハウスは無理か。

「さ、遠慮しないで入って入って」

アレンさんに背中を押されながら拠点の扉を開くと男女複数人が出迎えてくれた。

「いらっしゃーい!!」

「あー!やっと来たー!」

「フェリス血だらけじゃねぇか!」

各所からいろんな声が掛けられる中アレンさんが前に出て皆を静かにさせてくれた。

「まあまあお出迎えはこれくらいにして、とりあえず中に入ってもらうよ」

アレンさんの手招きで建物の奥へと足を進める。

「アタシは傷の手当てしてからそっちに行くから団長と先に行っててね」

そうだ、傷を負ったフェリスさんは手当てがいる。

確か回復魔法を使える人が居るって言ってたな。

僕は相槌を打ちアレンさんに着いていった。

リビングというか一番大きな部屋に案内されると開口一番アレンさんが声を張り上げる。

「さあみんなお待ちかねカナタくんだ!」

いきなり僕を皆に紹介してくれたのはいいが、簡単すぎないか?

一応自分で挨拶はしておこう。

「初めまして城ヶ崎彼方と申します。皆さんは異世界から飛ばされたと聞きました。僕の知識が皆さんの助けになれるよう精一杯協力させて頂きます」

そう言うと1人の男が声を張り上げる。

「固いぜカナタ!ハルトとは友達なんだろ?ならオレとも友達だぜ!!」

体育会系と思われる見た目と言動からして、僕と真逆のタイプと思われる。

「オレの名前はゼン・トランセル!ゼンでいいぜ!!」

「よろしくお願いしますゼンさん」

「だからかてーのよ!タメ語で行こうぜ!それに22だろ?カナタ。オレも22なんだぜ?」

なんと、その見た目で同い歳だと?

分かるわけないだろう、どう見ても歳上じゃないか。

ただここは流れに乗っておこう。

仲良くなっておいて損はない。

「よろしく頼むよゼン」

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    帝都を出て早五日。危なげなく今のところは安全に移動する事ができていた。風景も徐々に草原から木々が生い茂る山道へと変化している。山を越えるとは聞いていたが、想像していたより斜面はきつくなく緩やかに馬車は登って行く。神域の結界は目に見えないとの事だが、それでどうやって判断するのか。答えは簡単だ。神域に入ろうとするとどうしてかいつの間にか同じ場所に戻ってしまうそうだ。永遠に神域へと足を踏み入れる事は叶わない。普通の人なら神域の結界に阻まれているなど理解するのもできないらしい。そこでクロウリーさんの出番だ。結界の境目を見つけ出す特殊な魔法で位置を特定するらしく、原理は分からないがとにかく絶対に見つける事が可能だそうだ。結界の境目を見つけたら次にこじ開ける作業へと入る。そこからはアレンさんの出番だ。神族に感知されてしまうと当然大挙して押し寄せる。それが一体なのか十体なのかは分からないが、クロウリーさんが結界を破壊するまでアレンさんが抑えなければならない。その間、僕は後方待機だ。まあ何の役にも立たないから、前に出ても仕方がない。結界を破ったタイミングで恐らく既にアレンさんと神族の戦闘は始まっている。そこでやっと僕の出番がくる。アカリやフェリスさん、ソフィアさんに守られながら前に出て神族との交渉に移るというわけだ。交渉が上手くいかなかったら……その時に考えるしかないだろう。「どうしたのカナタ君。浮かない顔ね」フェリスさんが僕の顔を覗き込んでくる。考え事をしていたせいで、真顔で窓の外を見ていてしまっていた。「いえ、何となくプ

  • もしもあの日に戻れたのなら   長い旅路④

    夜が明けるとテントを畳み、馬車へと乗り込む。昨日クロウリーさんに教えてもらった邪法を試してみたい所だが、アレンさん達にバレないように使うにはなかなか難しい。できればぶっつけ本番は避けたい所だし、どこかタイミングを見測らって試すしかない。「どこか上の空のようだけどどうしたんだい?」「いえ、平和な時間だなと思いまして」アレンさんが僕の様子を不審に思ったのか問い掛けてきた。僕は適当に返しておいたがバレたのかとドキッとした。また長い馬車に揺られる事数時間。「クロウリー、神族と本気でやり合ったら勝てそうだったかい?」アレンさんの言葉に僕は噴き出した。まさかとは思うが神族を倒そうと思っているのだろうか。「うーむ、そうじゃな……一対一ならば勝てるじゃろうて。ただ、二人を相手にするのは些か厳しいぞ」「なるほど……じゃあとりあえず二人までならどうにかなりそうだね」アレンさんは万が一の事を考えて、二人で神族を抑え込むつもりのようだ。二人までといったのはこっち側の戦力で圧倒的なのが二人だけだからだろう。フェリスさんとアカリも十分強者の部類だが、アレンさんとクロウリーさんに比べれば数段落ちる。ソフィアさんも”黄金の旅団”より劣るという話だし、僕は言わずもがなだ。「ちょっとアレン。神族とやり合うなんて馬鹿げた話は止めて頂戴」「ん?いやいや、もしもの場合さ。流石にボクだって神族とやり合うのは骨が折れるからさ」勝てない、と言わないのはやはり自身の表れか。事実アレンさんに勝てるような人は数える程しかいないだろうし。そもそも神族って名前が付いているくらいだし、神の如し力を持っているのでは?人間の身で勝てる相手なんだろうか。全然神族の強さが想像できないな……。「もしも、ね。じゃあもしも神族が三人以上で襲ってきたらどうするつもり?」「その時はフェリス

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