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隠れていた存在⑥

last update 最終更新日: 2025-01-23 12:15:53

話題は尽きなかったが、喫茶店でずっと話しておくわけにもいかず1時間もすれば解散となった。

「カナタくん、今度また会うけどこれ持っててくれる?」

フェリスから白い宝石をいれた袋を手渡される。

「なんですかこれ?」

「これね、一度だけ命の危険が迫ったときに氷の膜が自分を守ってくれるの。貴方には死んでもらっては困るからね。これで少しでも時間を稼いで私達に連絡を頂戴」

これは素晴らしい。

女性から物を貰うことすら嬉しいが、何より自分の命を魔法という脅威から守ることのできる唯一の道具だ。

「ありがとうございます!!めちゃめちゃ嬉しいです!!」

「そ、そう?よかったわ」

はにかんだ笑顔を時たま見せてくるのはわざとか?可愛過ぎるじゃないか。

それは置いといて、漣は春斗達と連絡を取り合えるようにしたみたいだ。

僕にとっては一つ肩の荷が降りた気分だ。

電車を降りて帰路に着く際、嫌な悪寒を感じた。

周りを見渡しても誰もいない。

でも確かに視線を感じたんだが、気のせいだろうか。

「ただいまー」

「おかえりー!!」

元気ない声が帰ってきた。

今日は姉さんが帰ってくるのが早いみたいだ。

「どこに行ってたのカナタ?」

どこと言われてもなんて答えたらいいのか。

「レーベっていう喫茶店だよ」

「一人で?」

今日はやけに突っ込んでくるな。

さては姉さん、暇だな?僕を相手にして暇潰そうって考えか。

「一人だよ。たまには一人でのんびりミルクティーを嗜みたくてね」

「私も行きたかったなー、今度連れてってよ!」

「いいよ、雰囲気がすごくお洒落だっから姉さんも気に入ると思うよ」

他愛もない会話をしているが、頭の片隅には先程の戦

ロックされたチャプター
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    意を決して、外に出ようとすると屋根の上からスピーカーから発せられる声が聞こえてくる。ヘリコプターの音も同時に大きくなってきた。「住人の皆さん、家からは決して出ないでください!繰り返します!家からは決して出ないでください!」軍の人だろうか?どうやらヘリコプターで空から注意喚起しているみたいであった。なぜ家から出ることを拒むのか分からず紫音は玄関先で耳を澄ましていると徐々に外が騒がしくなってきた。「おい!なんか化け物出たらしいぞ!」「さっきの中継本物か!?」「人が死んでたじゃない!あれCGじゃないの?」近所の人達の話し声がする。やはり皆あの中継を見ていたようだ。するとまた空から声が聞こえてきた。「家から出ないで下さい!危険です!テロの危険性がある為家からは出ないで下さい!」テロだって?あんなものテロなんかじゃ説明がつかないではないか。あの化け物は本当に異世界とやらからやって来てしまったのでは……そんな思いもつゆ知らず、空からはずっと注意喚起の声が聞こえ続ける。次第に口調も荒くなってきている。「繰り返す!家からは出るな!これは訓練ではない!!鍵を閉めカーテンを閉じろ!!繰り返す!!――」言われた通りに行動し、リビングでどうするか悩んでいると今度は小さく叫び声まで聞こえてきた。「う……!出た…………逃げ……!!」遠いのか聞こえづらい。しかし、逃げ、と聞こえた気もする。怖くなり包丁を握りしめ縮こまり、何事もないよう祈り目を瞑る。次第に声は数軒隣辺りから聞こえてきだした。「いやぁぁ!!!」「な、なんだよこいつ!!」「化け物!!誰か!!誰か助けて!!」あの中継で見た異形の化け物が瞼の裏に焼き付いている。もしやあれがこの近くにも現れたのか。包丁を握る手は

  • もしもあの日に戻れたのなら   滅びゆく世界で①

    彼方の晴れ舞台を見るために紫音は自宅のテレビで中継を見ていた。「あー!出てるー!すごいすごい!」自分の事のように喜びながら、画面を注視する。生中継も終盤に差し掛かる頃何やらおかしな雰囲気になってきた。異世界ゲートが起動し一人の男が入っていってから戻ってこないのだ。会場はざわついているようで、舞台上にいる彼方も何やら動揺しているように見える。嫌な予感がする……彼方は大丈夫と言っていたが、数十分も戻ってこないなんて流石に予定通りではなさそうだ。紫音の手は汗で濡れ、テレビから一瞬たりとも目を離せなくなってきた。最初の説明をぼんやりと聞いていたが、確か10分しか稼働させることはできなかったのではないのか?不安は募り、今にもその場に行きたい衝動に駆られた。そして事件は起こる。血塗れの男がゲートから出てきたのだ。明らかに台本通りではない、もしこれが台本通りならば顰蹙《ひんしゅく》ものだ。彼方も不安そうな表情で狼狽えている。その後画面は乱れだしたが、撮影者の意地なのか映像は続く。見たこともない異形の化け物がゲートから出てきた。「なんなんだよあれ!」「これドッキリか?」撮影者たちの声も入っているが、紫音も同じ気持ちで画面を見続ける。ドッキリであってくれと。しかしその願いは叶わなかった。ゲートから出てきた異形の化け物は観覧席へと降り立ち、人々を襲い始めたではないか。カメラを投げ捨てたらしく、酷く画面は揺れ運良く地面に落ちたのか上手く舞台が映る形で撮影され続けている。「彼方……大丈夫って言ったじゃない……」悲壮な声も虚しく、異形が人々を襲い続ける映像はつづいていく。見てられずテレビを切ろうとしたが、舞台上に見たこともない男が現れた。「この世界はお前のお陰で滅びの道を歩むだろう。この世界に存在する全ての人類よ、我に従え!さすれば痛みな

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