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世界を騙した男④

last update 最終更新日: 2025-01-22 13:40:03

発表会から3日後五木さんから連絡があった。

スポンサーが複数ついたため満足できる実験ができるとの事だ。

それと立証実験にはもう少し人員がいるとの事で身近に優秀な人がいれば声を掛けてくれと伝えられた為僕の思いつく優秀な人材、茜さんに連絡を取った。

「3日ぶりね彼方君、それにしても急用って何?」

「実は五木さんからこんな事を言われまして」

メールで来ていた内容をそのまま伝えると食い気味に返答してきた。

「参加する!!!当たり前でしょ!科学者の権威とも言われている五木さんの研究所で働けるなんてお金出してでも参加したいっていうに決まってるじゃない」

五木さんって思っているより凄い人なんだな……

優しい人当たりのいいお兄さんって感じだから凄みが感じられなかったが。

とにかくこれで1人人員確保できた。

半年後に卒業とはいえ、他に今からでもしておくことはないだろうか。

茜さんと別れた後そんな事を考えながら駅に向かって歩いていると、一人の男性が近づいてきた。

あの人は発表の場で睨んでた人じゃないか?

まさか僕が一人になるのを狙ってたのか?

僕はできるだけ平静を保ちながら男性からの言葉を待った。

「君が彼方だな、あれは君が全て考えた内容なのか?」

「……いきなりですね、あなたは発表会の時にいましたよね。素性の分からない方にお答えする義理はありませんよ」

男性は少し、申し訳なさそうにしながらも答えた。

「すまない、私は一ノ瀬 漣《レン》と名乗っている」

名乗っている?変な言い回しをする人だな……

「こういうものだ」

名刺を渡してきたが、どうやらどこかの研究所に所属している人みたいだな。

「なるほど、さっきの返答ですが内容は僕が全て考え出した理論になります」

そう言うと漣は苦虫を嚙み潰したような顔で答えた。

「あまりよろしく無い事をしてくれたものだ。これ以上は危険すぎる身を引くんだ」

「理解ができませんね。何がどのように危険なのか具体的に教えてもらえますか?」

「異世界と繋がるのは危険なんだ。こちらの世界の技術では魔物に太刀打ちできないぞ」

まるで実際に見たことがあるような口ぶりだな。

この人は一体何者なんだ?

話せば話すほど謎が深まってくる。

「あなたはなぜ異世界を見てきたかのような話し方を?」

そう言うと漣はハッとした顔で僕の顔を見つめた。

「君が知るにはまだ早い、だが後悔することになるぞ」

漣は捨て台詞のように吐き捨てて立ち去っていった。

五木さんには伝えておいたほうがいいかもしれない……妨害してきそうな雰囲気があったし。

それにしても発表会以来、ひっきりなしに取材陣が声を掛けてくる。

大学の校内でも噂になっているようで、僕を見つけるとヒソヒソ話をしだす人が多い。

気にせず講義のため教室に向かっていると、後ろから肩を叩かれた。

「よぉ!カナタ!いや、今じゃ時の人ってやつだな!ハハハ!」

大声で笑いながら声を掛けてきたのは僕の数少ない友人の一人、神風春斗。

入学式で同じ学科の為知り合いそのまま友達にまでなっていた。

イケメンで誰からも好かれているのになぜか僕によく声を掛けてくる。

「なんだ春斗か。後ろの子たちは放っておいていいのか?」

人気がある為、常に春斗の周りには人がいる。今も6人ほどでいたのにいきなり春斗が僕に話しかけて来たせいで他の人たちが困っているようだ。

「ああなんだそんなことか。ごめーん!カナタと一緒に行くわ!」

笑いながら後ろにいる人達に断りをいれてすぐにこちらに顔を向ける。

「テレビで見たぜー!すげぇなカナタ!あの五木って人すげー人なんだろ!」

「話してみると普通の人だったよ」

「いやいや!しかも美人なアナウンサーとかに声かけられてたじゃん!モテ期か!?」

元気な奴だな。

春斗はいつも笑っていてこちらも楽しくなってくる。

だからこそ人気があるのだろう。

たわいもない話をしつつ教室に入ると、いきなり声を掛けられた。

「彼方君だよね!」「テレビ見たよ!」「全然内容理解出来なかったけど、なんかすごいな!」

複数の人に囲まれ喋りかけられるが誰も話したことない人達ばかりだ。

困っていると春斗が前に出た。

「はいはーい、カナタが困ってるからそこまでー!席に着け席に!」

周囲の人を押しのけて僕を空いてるとこに座らせた。

離れたところから春斗ずるいぞ!独り占めすんな!って声が凄い聞こえるけどいいのか?

「ごめんありがとう。正直誰も知らない人達ばかりだったから助かったよ」

「いいってことよ!気にすんな!俺とお前の仲だろー!」

こういうところが好きなところだ。

僕には真似できないな、できる事ならずっと友達でいたいものだ。

教授が教室に入ってくると静かになり、そのまま講義が始まった。

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    「それでさ、異世界なんちゃらってやつなんだけど」おもむろに春斗が口を開く。「異世界へのアクセス方法のことか?」「そう、それなんだけどさ実際行けそうなのか?」なぜこんなことを聞くのだろう、と考えたが春斗の事だ。異世界に行きたい!とかそんな気持ちで聞いてきたのだろうと思い僕は答える。「行けるよ。理論上だけど僕の理論は完璧に出来ているし五木さんのお墨付きだぞ」「そうか。ならさ、もし異世界と繋がったとして向こうから何か得体の知れない者がやって来るとかないのか?」確かにそうだ。もし異世界に繋がったとしても向こうが平和的に接してくるとは限らない。だがもちろんそれも織り込み済みで考えている。「いや、実際は繋がってみないと分からないけど、念の為に実験時には軍の人に待機してもらうつもりだよ」そうは言ったが、先日一ノ瀬漣という男から言われた言葉が頭をよぎる。――後悔することになるぞ。それが気がかりだが、軍で対応できないのならばそもそも侵略されて地球が滅ぶ前に人類は滅ぼされる事になる。「軍か。勝てるのか?もし化け物が出てきたらどうするよ?」「勝てる勝てないじゃない、やるしかないんだ」僕の強気な発言に春斗も戸惑いを見せる。「やるしかないって……まあお前が怪我したりはやめてくれよ?俺が泣くぞ」春斗……ほんとに良いやつだな。僕の為に泣いてくれるのか。「ありがとう、でも大丈夫だよ。念には念を入れて繋がったとしてもすぐに閉じることができるような機構を組み込むつもりなんだ」そんな会話のやり取りをしていると、春斗の携帯が鳴る。「おっと、すまん!ちょっと電話してくるわ!」「ここで電話してもいいけど」言い終わる前にリビングを出ていく春斗。いつもならその場で悪い!って言いながらも電話に出るんだけどな。また途切れ途切れで聞こえてくる。「ああ……るみたいだ、どう……打ち明け……」打ち上げ?バイトの飲み会でもあるのか?「いや……対応……しっかり……でも……危険……る」なにやら不穏な会話のようだな、盗み聞きはここまでにしておこう。台所に食器を持っていき洗っていると突然背後から声を掛けられた。「ごめんな、ちょっと真面目な話いいか?」春斗の表情は固い、なにやら大事な話のようだ。食器を洗うのもそこそこにリビングで春斗と向き合う。「実はな、俺は異世界

  • もしもあの日に戻れたのなら   世界を騙した男⑤

    「ではこれで今日の講義は終わります」そう教授が告げると同時にまばらに席を立ちだす人や、そのまま談笑している人達がいる。「で?今日はどうするよ。家遊びに行っていいか?」「ああ、別に構わないよ」「よっしゃ!久しぶりにカナタの飯が食えるな!」お前もか。そんなに楽しみにされると腕によりをかけて作ってしまうじゃないか。「紫音さんも今日は家にいるのか?」「いや、姉さんは今日仕事で帰りが遅いってさ」多分これは二人でゲーム三昧できるかどうかの確認だな。姉さんがいると混ぜろってうるさいから。入ってきてもいいんだけど姉さんはびっくりするほどゲームが弱い。接待プレイになってしまう為純粋にゲームが楽しめないのだ。「よし!二人でゲームしようぜ!」「そんな事だろうと思ったよ」やっぱり春斗の考えていた事はゲームだったみたいだ。「まあ、ついでにカナタに聞きたいこともあったしさ」不意に真面目な顔でそう呟いた春斗は少し寂しそうな表情をしていた。「お邪魔しまーす!」元気な声を張り上げる春斗。家には誰もいないが真面目な性格なのだろう。「ただいま」僕も春斗に習って無人の家に挨拶をする。「で、いきなりだが腹が減ったな!!楽しみにしてるぜカナタの料理!」本能に忠実な奴め。仕方ない、ここは腕によりをかけて料理を振る舞ってやろうじゃないか。「じゃあリビングで寛いでてくれ。和食好きだろ?」「めっちゃ和食好き!俺も手伝うぜ!」いや手伝う気持ちは嬉しいが、やめてもらおう。料理は僕の趣味の一つなんだ。邪魔になる。「いやいいよ、テレビでも見て暇をつぶしておいてくれ」そう言いつつ僕は台所に向かう。とりあえずメニューは肉じゃが、鶏肉の照り焼き、魚の煮付けってとこかな。早速料理に取り掛かるが、ふとリビングの方に意識を向けると春斗が誰かと電話しているようだ。「いや……まだ……い、聞いて……る」所々しか聞こえないが、何やら真面目な会話らしい。春斗にしては珍しく声のトーンが低いから恐らくバイト先とかと連絡でもしているのだろうと僕は気にしないことにした。「お、出来た出来た」つい独り言を呟きつつリビングに料理を持っていく。「うわー!めっちゃ美味しそうな匂いに見た目!もう食べなくても美味いって分かるな!!」そりゃそうだ、なにせ僕が本気で作ったのだから。「「い

  • もしもあの日に戻れたのなら   世界を騙した男④

    発表会から3日後五木さんから連絡があった。スポンサーが複数ついたため満足できる実験ができるとの事だ。それと立証実験にはもう少し人員がいるとの事で身近に優秀な人がいれば声を掛けてくれと伝えられた為僕の思いつく優秀な人材、茜さんに連絡を取った。「3日ぶりね彼方君、それにしても急用って何?」「実は五木さんからこんな事を言われまして」メールで来ていた内容をそのまま伝えると食い気味に返答してきた。「参加する!!!当たり前でしょ!科学者の権威とも言われている五木さんの研究所で働けるなんてお金出してでも参加したいっていうに決まってるじゃない」五木さんって思っているより凄い人なんだな……優しい人当たりのいいお兄さんって感じだから凄みが感じられなかったが。とにかくこれで1人人員確保できた。半年後に卒業とはいえ、他に今からでもしておくことはないだろうか。茜さんと別れた後そんな事を考えながら駅に向かって歩いていると、一人の男性が近づいてきた。あの人は発表の場で睨んでた人じゃないか?まさか僕が一人になるのを狙ってたのか?僕はできるだけ平静を保ちながら男性からの言葉を待った。「君が彼方だな、あれは君が全て考えた内容なのか?」「……いきなりですね、あなたは発表会の時にいましたよね。素性の分からない方にお答えする義理はありませんよ」男性は少し、申し訳なさそうにしながらも答えた。「すまない、私は一ノ瀬 漣《レン》と名乗っている」名乗っている?変な言い回しをする人だな……「こういうものだ」名刺を渡してきたが、どうやらどこかの研究所に所属している人みたいだな。「なるほど、さっきの返答ですが内容は僕が全て考え出した理論になります」そう言うと漣は苦虫を嚙み潰したような顔で答えた。「あまりよろしく無い事をしてくれたものだ。これ以上は危険すぎる身を引くんだ」「理解ができませんね。何がどのように危険なのか具体的に教えてもらえますか?」「異世界と繋がるのは危険なんだ。こちらの世界の技術では魔物に太刀打ちできないぞ」まるで実際に見たことがあるような口ぶりだな。この人は一体何者なんだ?話せば話すほど謎が深まってくる。「あなたはなぜ異世界を見てきたかのような話し方を?」そう言うと漣はハッとした顔で僕の顔を見つめた。「君が知るにはまだ早い、だが後悔すること

  • もしもあの日に戻れたのなら   世界を騙した男③

    五木にスポットライトが当たると皆が静かになった。静まったことを確認し、マイクを握る。「皆様本日はお集まりいただきありがとうございます。ご存じでしょうがまずは自己紹介をさせて頂きます。半重力装置でお馴染みの科学者、五木隆です。私の右手にいるのは今回の主役、城ケ崎彼方さんです。ではご本人から一言挨拶を頂きましょう」そう言って五木さんは僕にマイクを渡してきた。覚悟を決めるんだ。世界を救わなければならない、でも決して知られるわけにはいかない。震える手でマイクを握りしめ、カラカラに乾いた喉から声を出す。「初めまして、ご紹介に預かりました城ケ崎彼方と申します。本日は異次元へのアクセスを理論上可能とした為皆様に分かりやすくご説明していこうと思います」その言葉だけで精一杯だ。手汗も凄いし声も震える。そのまま五木さんにマイクを返すと小声で、リラックスリラックスと微笑みながら声を掛けてくれた。「では今回どうやって異次元世界へと行くのか、そもそも本当に異次元へ渡る方法など存在するのか、質問は無限にあるでしょうがしばしの間静粛に聞いていただこうと思います」ここからは五木さん主体で、話は進んでいく。僕はプロジェクターに表示された内容の詳細を説明しそれに対して五木さんから質問される。それが約2時間にも及び、僕もだいぶ慣れてきたのか言葉が詰まらず出てきてスラスラと答えていく。余裕が出てきたのだろう、会場内に姉の姿を見つけた。手を振っているが振り返せる訳ないだろうこんな衆人環視の中で……隣にいるのは茜さんか。あの人もやっぱり来ていたのか。事前に取り決められていた流れももうじき終盤に差し掛かる。その時ふと右端に腕を組みこちらを睨んでいる黒髪長髪の男性が目に映った。あんな人見たことがないが、睨んでいるってことは僕の発表に対して何か思うところでもあるのだろう、そう思い目線を外す。「ではこれより質疑応答の時間に移りたいと思います。挙手して当てられたら発言お願いいたします」五木さんがこちらに目線を合わせてきたが、今からが大変だからだろう。僕も目線で大丈夫と返した。「そちらの、スーツにショートカットで眼鏡の女性。どうぞ」まさかいきなり茜さんが指されるとは思わず少し驚いていると僕に目を向け少し微笑んだ。いや違うなあれはニヤッとした顔だ、あの人は僕の困ることを

  • もしもあの日に戻れたのなら   世界を騙した男②

    「何処にいるんだろうカナタは」ひとり呟くのは姉の紫音。取材陣にもみくちゃにされて、やっと抜け出したと思ったら弟がどこに行ったかわからず会場内を彷徨っていた。周りは自分より年上の人達ばかり。何処にいても聞こえてくるのは弟の話。「まだ学生だろ、彼方って子は」「いや、学生だなんて馬鹿に出来ないぞ。あの五木隆が目を付けて今回の場を設けたくらいだからな」「大体異次元へのアクセスなんて人類にはまだ早いんじゃないのか?」彼方の発表内容に対して、賛否両論ありそうな声があちらこちらから聞こえてきて、つい言い返しそうになる。「みんな分かってないなーうちの弟は天才なんですからね!」プリプリしながらも周囲を見渡し弟を探すが一向に見つからない。そのうち適当な席にでも座るかと、空いてる場所を探していると眼鏡をかけた一人の女性が前から手を振って近づいてきた。「紫音ちゃん!やっと見つけたわ!」「あれ!?茜さん!」紫音に声を掛けてきたのは、斎藤茜。光が丘科学大学のOBで今は地球工学の研究者として働いている。弟に誘われ大学の文化祭に行ったときに初めて知り合い、気があったからなのかプライベートでも遊ぶほどの仲でもある。「そりゃあ来るでしょうよ、大学の後輩がこんな大きな舞台に出るんだから!」彼方ともそれなりに付き合いがあり、私達姉弟からしたら保護者みたいな立場の人だ。「でも彼方が何処に行ったか分からないんですよ……」「彼方君は多分舞台裏にいるわよ?今日の主役なんだから」「あ!そうか。そりゃ探しても見つからない訳だ」肩を竦めて苦笑いをする紫音。会場には所狭しと人が詰め掛けている。紫音と茜は空いてる席を探しつつ、会場内を彷徨いた。中にはテレビで見た事のあるアナウンサーなども視界に入り、それだけ注目を浴びているのだと再認識する。「あ!ほら!壇上に出てきたわよ!そこの席にでも座りましょ」そんなやり取りをしているとやっと壇上に彼方が現れたようだ。隣には五木って人が立っている。大きな拍手と共に壇上にスポットライトが当たる。「さあ、彼方君が唱えた異世界へのアクセス方法とやらを聞かせてもらいましょうか」品定めするような眼つきで茜は壇上に目線をやった。――――――眼前に広がる無数のカメラや人の目線。これから僕が全世界に向けて異次元への行き方を提唱するんだ。

  • もしもあの日に戻れたのなら   世界を騙した男①

    バスに揺られること15分。隣には黒髪でショート、整った顔で誰もが見惚れる姉、紫音がいる。「緊張するなー自分が壇上に立つわけじゃないけどテレビとかも来るんでしょ?カナタは緊張してる?」落ち着きがない様子で僕の顔を覗き込んでくる。実際緊張してない訳がない。著名な科学者や研究者も来るし、テレビも来る。もちろん取材とかもされるだろうし生中継もされるって話も聞いてる。「もちろん緊張してるよ。流石に全世界に向けて話すんだから緊張しない訳がないよ」天才だろうが、僕は一介の大学生。今までテレビなんて出たことないし、著名な人達とも顔を合わせたことがない。ここまで大げさになるなんて、著名人の言葉は重いんだなと実感する。今日の朝もテレビで、[異世界は存在する!?そもそも行くことが出来るのか!?][科学者の五木さんが理論上可能と大胆発言!]なんてテロップが流れて芸能人が騒いでたな。誰だよ五木さんって。「姉さんも覚悟しといた方がいいよ。僕の身内ってだけで取材されるだろうから」「ええー!?聞いてないよそんなの!」「考えたら思いつく事じゃないか、一介の学生が世界に向けて発言するのに姉さんには何にも聞いて来ない訳がない」記者も僕の素性やプライベートではどういった生活をしているのか、なんて所まで知ろうとしてくるだろうし、一番身近な姉に聞くのは当たり前だろう。「次は、国際大会議場前〜」目的地を読み上げる運転手。窓に顔を向けると白く大きな3階建ての建物が見えてきた。バスを降りるとどこを見てもテレビカメラや取材陣で溢れている。僕を見つけた1人の記者が駆け寄ってきた。「彼方さん御本人ですね?」顔はもう出回ってるから知ってるくせに、と思いつつも真面目な顔で答える。「はい、本人です」その一連のやり取りを見ていた他の記者やテレビカメラも寄ってくる。「すみません、時間が押してるので取材はまた後でお願いします」断りを入れて、人をかき分けつつ会場へと足を運ぶ。「私を置いてくなーカナター!」残念、姉は取材陣に囲まれてしまったようだ。僕の代わりに適当に答えてくれ、申し訳ない。と、心にも思っていないが軽く両手でゴメンの合図を送って先に会場入りをした。――――――五木隆は若くして先進科学分野で実績を残した著名人である。反重力装置の開発に成功し、宇宙探査に大きく

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