発表会から3日後五木さんから連絡があった。
スポンサーが複数ついたため満足できる実験ができるとの事だ。
それと立証実験にはもう少し人員がいるとの事で身近に優秀な人がいれば声を掛けてくれと伝えられた為僕の思いつく優秀な人材、茜さんに連絡を取った。
「3日ぶりね彼方君、それにしても急用って何?」
「実は五木さんからこんな事を言われまして」
メールで来ていた内容をそのまま伝えると食い気味に返答してきた。
「参加する!!!当たり前でしょ!科学者の権威とも言われている五木さんの研究所で働けるなんてお金出してでも参加したいっていうに決まってるじゃない」
五木さんって思っているより凄い人なんだな……
優しい人当たりのいいお兄さんって感じだから凄みが感じられなかったが。
とにかくこれで1人人員確保できた。
半年後に卒業とはいえ、他に今からでもしておくことはないだろうか。
茜さんと別れた後そんな事を考えながら駅に向かって歩いていると、一人の男性が近づいてきた。
あの人は発表の場で睨んでた人じゃないか?
まさか僕が一人になるのを狙ってたのか?
僕はできるだけ平静を保ちながら男性からの言葉を待った。
「君が彼方だな、あれは君が全て考えた内容なのか?」
「……いきなりですね、あなたは発表会の時にいましたよね。素性の分からない方にお答えする義理はありませんよ」
男性は少し、申し訳なさそうにしながらも答えた。
「すまない、私は一ノ瀬 漣《レン》と名乗っている」
名乗っている?変な言い回しをする人だな……
「こういうものだ」
名刺を渡してきたが、どうやらどこかの研究所に所属している人みたいだな。
「なるほど、さっきの返答ですが内容は僕が全て考え出した理論になります」
そう言うと漣は苦虫を嚙み潰したような顔で答えた。
「あまりよろしく無い事をしてくれたものだ。これ以上は危険すぎる身を引くんだ」
「理解ができませんね。何がどのように危険なのか具体的に教えてもらえますか?」
「異世界と繋がるのは危険なんだ。こちらの世界の技術では魔物に太刀打ちできないぞ」
まるで実際に見たことがあるような口ぶりだな。
この人は一体何者なんだ?
話せば話すほど謎が深まってくる。
「あなたはなぜ異世界を見てきたかのような話し方を?」
そう言うと漣はハッとした顔で僕の顔を見つめた。
「君が知るにはまだ早い、だが後悔することになるぞ」
漣は捨て台詞のように吐き捨てて立ち去っていった。
五木さんには伝えておいたほうがいいかもしれない……妨害してきそうな雰囲気があったし。
それにしても発表会以来、ひっきりなしに取材陣が声を掛けてくる。
大学の校内でも噂になっているようで、僕を見つけるとヒソヒソ話をしだす人が多い。
気にせず講義のため教室に向かっていると、後ろから肩を叩かれた。
「よぉ!カナタ!いや、今じゃ時の人ってやつだな!ハハハ!」
大声で笑いながら声を掛けてきたのは僕の数少ない友人の一人、神風春斗。
入学式で同じ学科の為知り合いそのまま友達にまでなっていた。
イケメンで誰からも好かれているのになぜか僕によく声を掛けてくる。
「なんだ春斗か。後ろの子たちは放っておいていいのか?」
人気がある為、常に春斗の周りには人がいる。今も6人ほどでいたのにいきなり春斗が僕に話しかけて来たせいで他の人たちが困っているようだ。
「ああなんだそんなことか。ごめーん!カナタと一緒に行くわ!」
笑いながら後ろにいる人達に断りをいれてすぐにこちらに顔を向ける。
「テレビで見たぜー!すげぇなカナタ!あの五木って人すげー人なんだろ!」
「話してみると普通の人だったよ」
「いやいや!しかも美人なアナウンサーとかに声かけられてたじゃん!モテ期か!?」
元気な奴だな。
春斗はいつも笑っていてこちらも楽しくなってくる。
だからこそ人気があるのだろう。
たわいもない話をしつつ教室に入ると、いきなり声を掛けられた。
「彼方君だよね!」「テレビ見たよ!」「全然内容理解出来なかったけど、なんかすごいな!」
複数の人に囲まれ喋りかけられるが誰も話したことない人達ばかりだ。
困っていると春斗が前に出た。
「はいはーい、カナタが困ってるからそこまでー!席に着け席に!」
周囲の人を押しのけて僕を空いてるとこに座らせた。
離れたところから春斗ずるいぞ!独り占めすんな!って声が凄い聞こえるけどいいのか?
「ごめんありがとう。正直誰も知らない人達ばかりだったから助かったよ」
「いいってことよ!気にすんな!俺とお前の仲だろー!」
こういうところが好きなところだ。
僕には真似できないな、できる事ならずっと友達でいたいものだ。
教授が教室に入ってくると静かになり、そのまま講義が始まった。
「ではこれで今日の講義は終わります」そう教授が告げると同時にまばらに席を立ちだす人や、そのまま談笑している人達がいる。「で?今日はどうするよ。家遊びに行っていいか?」「ああ、別に構わないよ」「よっしゃ!久しぶりにカナタの飯が食えるな!」お前もか。そんなに楽しみにされると腕によりをかけて作ってしまうじゃないか。「紫音さんも今日は家にいるのか?」「いや、姉さんは今日仕事で帰りが遅いってさ」多分これは二人でゲーム三昧できるかどうかの確認だな。姉さんがいると混ぜろってうるさいから。入ってきてもいいんだけど姉さんはびっくりするほどゲームが弱い。接待プレイになってしまう為純粋にゲームが楽しめないのだ。「よし!二人でゲームしようぜ!」「そんな事だろうと思ったよ」やっぱり春斗の考えていた事はゲームだったみたいだ。「まあ、ついでにカナタに聞きたいこともあったしさ」不意に真面目な顔でそう呟いた春斗は少し寂しそうな表情をしていた。「お邪魔しまーす!」元気な声を張り上げる春斗。家には誰もいないが真面目な性格なのだろう。「ただいま」僕も春斗に習って無人の家に挨拶をする。「で、いきなりだが腹が減ったな!!楽しみにしてるぜカナタの料理!」本能に忠実な奴め。仕方ない、ここは腕によりをかけて料理を振る舞ってやろうじゃないか。「じゃあリビングで寛いでてくれ。和食好きだろ?」「めっちゃ和食好き!俺も手伝うぜ!」いや手伝う気持ちは嬉しいが、やめてもらおう。料理は僕の趣味の一つなんだ。邪魔になる。「いやいいよ、テレビでも見て暇をつぶしておいてくれ」そう言いつつ僕は台所に向かう。とりあえずメニューは肉じゃが、鶏肉の照り焼き、魚の煮付けってとこかな。早速料理に取り掛かるが、ふとリビングの方に意識を向けると春斗が誰かと電話しているようだ。「いや……まだ……い、聞いて……る」所々しか聞こえないが、何やら真面目な会話らしい。春斗にしては珍しく声のトーンが低いから恐らくバイト先とかと連絡でもしているのだろうと僕は気にしないことにした。「お、出来た出来た」つい独り言を呟きつつリビングに料理を持っていく。「うわー!めっちゃ美味しそうな匂いに見た目!もう食べなくても美味いって分かるな!!」そりゃそうだ、なにせ僕が本気で作ったのだから。「「い
「それでさ、異世界なんちゃらってやつなんだけど」おもむろに春斗が口を開く。「異世界へのアクセス方法のことか?」「そう、それなんだけどさ実際行けそうなのか?」なぜこんなことを聞くのだろう、と考えたが春斗の事だ。異世界に行きたい!とかそんな気持ちで聞いてきたのだろうと思い僕は答える。「行けるよ。理論上だけど僕の理論は完璧に出来ているし五木さんのお墨付きだぞ」「そうか。ならさ、もし異世界と繋がったとして向こうから何か得体の知れない者がやって来るとかないのか?」確かにそうだ。もし異世界に繋がったとしても向こうが平和的に接してくるとは限らない。だがもちろんそれも織り込み済みで考えている。「いや、実際は繋がってみないと分からないけど、念の為に実験時には軍の人に待機してもらうつもりだよ」そうは言ったが、先日一ノ瀬漣という男から言われた言葉が頭をよぎる。――後悔することになるぞ。それが気がかりだが、軍で対応できないのならばそもそも侵略されて地球が滅ぶ前に人類は滅ぼされる事になる。「軍か。勝てるのか?もし化け物が出てきたらどうするよ?」「勝てる勝てないじゃない、やるしかないんだ」僕の強気な発言に春斗も戸惑いを見せる。「やるしかないって……まあお前が怪我したりはやめてくれよ?俺が泣くぞ」春斗……ほんとに良いやつだな。僕の為に泣いてくれるのか。「ありがとう、でも大丈夫だよ。念には念を入れて繋がったとしてもすぐに閉じることができるような機構を組み込むつもりなんだ」そんな会話のやり取りをしていると、春斗の携帯が鳴る。「おっと、すまん!ちょっと電話してくるわ!」「ここで電話してもいいけど」言い終わる前にリビングを出ていく春斗。いつもならその場で悪い!って言いながらも電話に出るんだけどな。また途切れ途切れで聞こえてくる。「ああ……るみたいだ、どう……打ち明け……」打ち上げ?バイトの飲み会でもあるのか?「いや……対応……しっかり……でも……危険……る」なにやら不穏な会話のようだな、盗み聞きはここまでにしておこう。台所に食器を持っていき洗っていると突然背後から声を掛けられた。「ごめんな、ちょっと真面目な話いいか?」春斗の表情は固い、なにやら大事な話のようだ。食器を洗うのもそこそこにリビングで春斗と向き合う。「実はな、俺は異世界
「なるほど……大体は理解したけどそれで僕に何をして欲しいんだ?」「俺達は元の世界に帰りたい、が繋がった瞬間魔族が流れ込んでくる恐れがある」まあそうだろうな、元の世界に帰りたい気持ちはわかる。だから今日僕の家に来たってわけか。「繋がったら帰してあげれるよ。駄目だなんて言うと思ったのか?」「いや、一応全ての権利は生み出したカナタにあるんだしさ断られたらどうしようとは考えていたんだぜ?」「それで、懸念があるんだろ?繋がった瞬間に魔族が流れ込んでくるってやつ」繋がった瞬間魔族が流れ込んできたら、軍では対処できないだろう。さっき見たような魔法が存在するなら現代の武器は通用しないはずだ。「そこで、俺達が守るって訳よ!俺達なら魔族に対抗できるしな」確かに春斗に協力してもらえば何かあってもなんとかなりそうだが、春斗の仲間はどうするんだろうか。「春斗以外にどれほどの仲間がこっちの世界に来たんだ?」「思ってたより多いぜ?20人がこっちに来ている」多いな。数人だと思っていたが討伐に出たくらいだからそれくらいにはなるか。「ちなみに巻き込まれたのは味方だけじゃなくて敵もなんだろ?」「そうだ、それが厄介なんだよ。一応こっちで暗躍しつつ討伐はしてるんだがな、まだ数体生き残ってる」それは危険だな……立証実験の際に妨害してくるなら危なすぎる。味方が多いとはいえ、敵の戦闘能力も馬鹿には出来ないはずだ。「てことは実験の時に妨害してくるってことだな?」「そう、それが俺達の一番の懸念なんだよ……もちろん俺はカナタを最優先で守るつもりではいるが敵にはかなりの強敵がいるんだ……」「仲間の方が数が多いのにその敵とやらのほうが強いのか?」「強い。対抗できるやつが一人だけいるんだけどな、こっちの世界に飛ばされてるはずなんだがまだどこにいるか所在を掴めていないんだ」そうか、20人全てを把握できている訳では無いのか。「まだ実験まで半年はある、探しきれないか?僕も伝手を使う」「無理だぜ。なにより名前も見た目も変えてるはずだからな、まずどうやって探すつもりだ?」魔法……厄介すぎるな。こんな時にまで力を発揮しなくていい。「とにかく一度仲間に会ってほしい、みんなカナタに会いたがっているんだ」「分かった。いつ何処で会うかは春斗に任せるよ」「よし!任せとけ!また連絡するぜ
一ノ瀬漣から貰った名刺に連絡すると3コールで電話に出た。暇なのだろうか?「誰だ、この番号を知っているということはプライベート用の名刺を渡した者だ、カナタか?」なんだ?プライベート用って。プライベート用の名刺なんて初めて聞いたぞ。「一ノ瀬漣さんですか?カナタです」「やはりそうか。それで?この番号に掛けてきた理由は?」淡々としているなこの人は。でも聞かないことには始まらない。「異世界の事で聞きたいことがあります」「……………………分かった。明日の12時にレーベでいいか?」レーベって駅前にある喫茶店の事かな。えらくお洒落な所を選ぶんだなこの人。「分かりました」「一人で来いよ」それだけ言うと電話が切れた。一人で来いとはどういうことだろうか。やっぱり誰にも気づかれず僕を始末するつもりか?春斗に伝えたほうがいいかも知れないな。携帯で春斗の番号を探す。春斗(元気バカ)なんて酷い名前なんだ。付けた僕が言うのもなんだが神風春斗に直しておこう。これから長い付き合いになりそうだしな。「もしもし、どうしたカナタ」「春斗ちょっと相談がある」「なに!?相談だと!待ってろ家に行く!」何を勘違いしたか分からないが、僕に何かあったと思ったのだろう。すぐに電話は切れたが、とりあえず家で待っておいたらいいか。しばらくするとインターホンが鳴る。「カナター!来たぜー!!!」速いな、電話してから10分しか経ってないぞ?魔法か?魔法の力なのか?そんなの僕も使いたいじゃないか!扉を開けると満面の笑みを浮かべて立っていた。「相談だって?何でも聞いてこい!」僕から相談なんてしたことがなかったから相当嬉しかったらしい。リビングに上がってもらいお茶を出す。「それで?何が聞きたいんだ?」「まずはこれを見てくれ」一ノ瀬漣から貰った名刺をテーブルに置くと怪訝そうな顔を浮かべる。「なんだこれ?ん?少し魔力を感じるな。これどこで手に入れたんだ?」「一ノ瀬漣って人がいるんだけど……」漣との遭遇、その後会話した内容を細かく伝える。「なるほどな、確かにこれは異世界絡みだ。俺に相談して正解かもしれんな」「やっぱり?とりあえず明日会うんだけど一人で来いって言われててどうしたらいいか相談したかったんだ」「一人で来いってのが怖いところだな。実際漣ってや
翌日、12時前に駅についた僕は辺りを見回したがどこにも漣の姿は見当たらない。もちろん春斗とその仲間も何処にいるか分からないが何処かに隠れてはいるのだろう。レーベに到着し、中に入るとまだ来ていないようで先にテーブルへ案内された。「すみません、ミルクティーを一つ」「畏まりました」店員と一言二言やり取りし窓の外を眺める。やはり見当たらないな春斗は、魔法の力だなこれは。カランコロンと店のドアが開く音がして、そちらに顔を向けると見知った顔が見えた。一ノ瀬漣が来たようだ。服装がスーツでビジネスマンの風貌をしているな。「すまない待たせたな」「いえ僕もさっき来たところです」社交辞令を交わし漣が席についた。「それで、異世界の話とはなんだ」直球で聞いてきたな。気になっていたようでソワソワしてるようにも見える。「では率直に聞きます。一ノ瀬漣さんあなたは異世界から飛ばされて来ましたね?」その瞬間当たりが凍りついたように音がなくなった。「え?」無意識に口から出た言葉はそれだけ。それ以上に今の状況が理解できない。周りの人が、時計が、音が、止まっている。マズい!核心をつき過ぎたようだ。直ぐに逃げる準備を行おうとするが足が動かない。「逃げることは出来ないぞ」漣がこちらを見定めるようにまっすぐ見つめてくる。「悪いが結界を張らせて貰った。この世界では元の世界に比べるといくらか力が落ちてしまうようだが私にとってはこれくらいは造作もない事だ」時を止める結界なのか?これが造作もない?想定していた以上に漣は強者のようだ。「言葉は発せられるはずだ。お前は魔族の仲間か?」「ち、違います……」絞り出すように声を出す。漣は僕のことを魔族の仲間と思っていたみたいだ。元の世界に帰るために魔族が僕を利用していたと考えているのだろう。「僕は春斗の仲間です……」そう言うと漣は、怪訝な顔を浮かべる。「なんだと?なぜハルトの名前を知っている」僕が答えようとした瞬間。ガラスが割れるような音が響き、薄い板を破るような激しい音と共に春斗が飛び込んできた。「カナタぁぁぁぁ!!」春斗の声だ!いつもならうるさかった大声が今はただただ頼もしい。「春斗!!!ここだ!!!」僕も力の限り叫び自らの場所を伝える。「放て!!ファイアストーム!!」「ま!待て!こんな
「ハルトにフェリス、異世界の仲間にこんなとこで会えるとは思わなかった」漣は味方だったようで、一安心したがさっきの一触即発の状況を見ていればそんな呑気なことを言ってられない。「レオン!お前なんで連絡がつかなくなってんだ!てか一ノ瀬漣ってなんだよ!レオンからレンに変えたってことか!?」「す、すまない。私にとってはここが異世界。携帯の使い方もよく分からず飛ばされた当初は皆を探すより先にこの世界に順応しようと努力していたんだ」漣はこの世界の道具に疎いようで、機械という物自体異世界には存在しないらしい。春斗はすぐに順応したみたいだが、個人差があるみたいだった。「それよりも剣聖が見つかってよかったわ。アタシたちだけじゃ正直あれに勝つのは無理だしね」「確かにな、レオンじゃなかったら俺らも何人か死ぬレベルだしな」何か僕のよく分からない話が飛び交っている為、会話に入っていくのが難しい。「ただまあこれで20人全員見つかった訳だ。これなら異世界に帰るゲートが出来ても安心だな」「そうね、まだ完成した訳じゃないからカナタくんは絶対に守りきらないといけないけど」そうだ、僕を守ってくれ。さっきみたいな戦いが敵と遭遇したら起こるんだろう?すぐに死んでしまうよ僕は。「敵は何人生き残っている?私はこっちに来て3体は始末したが」「じゃああと5体だな。意外と少ないな!」全然嬉しくないぞ。あんな戦いができて尚且悪意を持っている奴があと5体もいるんだろ。「あの、すみません一つ聞いていいですか」恐る恐る会話に入ろうと声をかけると漣が真っ先に反応した。「本当にすまないことをした。君が異世界人にとっての救世主とは知らずに怪我を負わせるところだった」「いえ、それはもういいんですけど……剣聖とか火炎魔人?とかってなんですか?」
話題は尽きなかったが、喫茶店でずっと話しておくわけにもいかず1時間もすれば解散となった。「カナタくん、今度また会うけどこれ持っててくれる?」フェリスから白い宝石をいれた袋を手渡される。「なんですかこれ?」「これね、一度だけ命の危険が迫ったときに氷の膜が自分を守ってくれるの。貴方には死んでもらっては困るからね。これで少しでも時間を稼いで私達に連絡を頂戴」これは素晴らしい。女性から物を貰うことすら嬉しいが、何より自分の命を魔法という脅威から守ることのできる唯一の道具だ。「ありがとうございます!!めちゃめちゃ嬉しいです!!」「そ、そう?よかったわ」はにかんだ笑顔を時たま見せてくるのはわざとか?可愛過ぎるじゃないか。それは置いといて、漣は春斗達と連絡を取り合えるようにしたみたいだ。僕にとっては一つ肩の荷が降りた気分だ。電車を降りて帰路に着く際、嫌な悪寒を感じた。周りを見渡しても誰もいない。でも確かに視線を感じたんだが、気のせいだろうか。「ただいまー」「おかえりー!!」元気ない声が帰ってきた。今日は姉さんが帰ってくるのが早いみたいだ。「どこに行ってたのカナタ?」どこと言われてもなんて答えたらいいのか。「レーベっていう喫茶店だよ」「一人で?」今日はやけに突っ込んでくるな。さては姉さん、暇だな?僕を相手にして暇潰そうって考えか。「一人だよ。たまには一人でのんびりミルクティーを嗜みたくてね」「私も行きたかったなー、今度連れてってよ!」「いいよ、雰囲気がすごくお洒落だっから姉さんも気に入ると思うよ」他愛もない会話をしているが、頭の片隅には先程の戦
2044年1月1日卒業が近くなり実験に関わるのももうじきだ。そういえば春斗から連絡がないが、学校が休みのせいで会うこともほとんどない。一度連絡してみようか。……………………4コール鳴らしても出ない。待っていると「はい、フェリスです」あれ?春斗じゃないのか?「あの、この番号って春斗で合ってますよね」「あ、カナタくん!ごめんねちょっと問題があってね」春斗に問題?何かあったのか。「とりあえずカナタくん、今から会えるかな?」フェリスさんからのお誘いだが、あまり嬉しくはないな。春斗に何があったのか気が気でならない。「分かりました、駅前のレーベに行ったらいいですか?」「そうね!そこに今から来てくれる?」すぐに外行きの格好に着替えて、玄関を出た。また駅までの道のりで悪寒がしたが気にしていられない。何か視線のようなものは感じるが、どこから見られているかは分からない。気の所為と思おう、正直命を狙われる立場にある以上気にした方がいいのだろうが今は春斗のことが気がかりだ。喫茶店レーベに入ると既にフェリスさんは着いていたようで、一番奥の席から手を降っている。「すみません、お待たせしてしまって」「いいわよ、アタシもさっき来たとこだしね」白い髪に白いコートか、白がよく似合う人だ。「それで春斗なんですが、何かあったのですか?」「実はね……」フェリスさんから聞いた内容は驚くべき内容だった。少し前に敵である魔族と出会ってしまったようで、その場で戦闘になったらしい。
あの事件から一ヶ月。僕とアカリはある計画を進める為、瓦礫と化した街を歩いていた。魔法には無限の可能性がある。科学では辿り着けない未知の事象まで起こせてしまう。それに気付いた僕はある一つの仮説を思いつく。”時を戻す魔法”普通に考えれば、何を馬鹿なことをと言われるだろうが僕には魔法という未知の力がある。アレンさんからも言われていたが、僕には才能があるとのことだ。もしかすると時を戻すことも出来るのではないか……そう考えてしまった。アカリは、貴方のしたい事を止めるようなことはしない、と言ってくれた。だから僕達はアレンさん達と合流することを後に回し、目的の場所へと向かっている。「ここからは絶対に私から離れないで」目的地となる場所。それは終わりの始まり、異世界ゲートのある研究所だ。もちろん周りには魔族や魔物が蔓延っている。簡単にいけるとは思わないが、アカリいわく一瞬近づくだけならなんとかなるとのこと。魔族達に見つからないよう腰を落とし少しずつ異世界ゲートへと近付いて行く。奇跡的に異世界ゲートが見えるところまで見つからず近づくことができた。「カナタ、最後にもう一度だけ確認しておく」アカリがいつもより真剣な表情で僕を見つめる。「チャンスは一度だけ。異世界ゲートの側まで一瞬で近寄り私が結界を発動する。自慢じゃないけど私の結界だともって十秒。その時間で貴方は異世界ゲートに送り込んでいる魔神の魔力を使って魔法を発動」「ああ、失敗は許されない。」「正直……危険すぎる。時間に干渉するのは神の所業。人の身でその魔法は何が起こるか分からない。本当にいいの?」「構わない。元の世界に戻せるのなら僕の命なんてどうなってもいい」「そう……」一瞬悲しそうな顔を見せるがすぐにいつもの無表情に戻るアカリ。「ここまで協力してくれてありがとう。僕に何かあったら姉さんをよろ
――異世界ゲート対策会議室。日本の首脳陣達は頭を抱え今起こっている問題をどうするべきか、話し合っている。「佐藤首相、まずはこちらをご覧下さい」そう言って会議の進行を務めるテロ対策委員会のトップはスクリーン映像を映し出す。そこには見たこともない異形の生物が人々を襲っていた。中継で見た映像と同じく、人の形をした化け物もいる。「もういい、止めてくれ」吐き気を催す凄惨な光景に首相は映像から目を逸らす。「これが今日本で起きているテロです」「テロだと?こんなものがテロと言えるのか!!あれはなんなんだ!!見たこともない化け物ではないか!私の部下だって何人もやられたんだぞ!」机を叩き大声で叫ぶのは日本軍元帥、一条武。軍も総動員したが、戦果は得られず無駄に人員を失う事となってしまったせいか、落ち着いてはいられないようであった。「一条、少し落ち着きたまえ」「しかし首相、あれはもう我々の手には負えません」数十人の小隊が魔物一匹倒せれば御の字。それほどまでに戦力差がある。「まず、呼び方は統一しましょう。映像で超能力のような彼らが呼んでいた通り魔物、魔族と」「そもそも彼らは何者だ?魔物と魔族とやらに対抗できる力を持っていたが……」彼らとはアレン達の事を言っている。中継では彼らが主導となり、反撃していたように見えていた。「もう日本だけの話ではない。アメリカや中国、世界各国で同じような悲劇が起きている」首相の表情は厳しく、同じように会議に参加している者の全ては苦々しい顔をしていた。「これは人類と異世界からやって来たと思われる魔物や魔族との生存競争だ。世界各国に伝えろ、地球防衛軍を設立し奴らを根絶やしにすると」元帥は既に動いていたのか、補足を説明しだした。「アメリカとは既に協力体制に入っている。もはやこれまでのように国家機密などとは言ってられん。人類全ての武力をもって制圧する」「あの異世界ゲートを創り出した城ヶ崎彼方という男はいかがしますか?
朽ちた机に割れた窓、積もった埃に散乱した食器類。明らかに人が立ち入っていない様子の部屋を見る限り1度もここへは来ていないようだった。「今夜はここで一夜を明かす。リサは外の警戒を、セラは家全体に結界を展開、ガイラは寝床の用意を。剣聖はそのまま紫音さんに付いていてあげてね」「ああ、そのつもりだ」各々準備に入り、手持ち無沙汰になってしまった紫音は携帯で何度も彼方に連絡をするが返事はない。日も落ち、静かな夜が来る。セラ達は3人で女性同士の会話を楽しんでいるようだ。リサは相変わらず相槌を打つくらいしかしてないようだが。ガイラは外の警戒中。アレンは剣聖と二人で向かい合っている。「あの後どうやって逃げたんだい?」「魔物が抜け出していた壁の隙間から外に出て逃げたんだがな……」「数日間はウロウロしてたんだろ?どうだった?街の様子は」「あまりいいとは言えないな……何処も戦争中のような悲惨な光景だ」魔物と魔族が溢れ出たせいで、世界は破滅へと近づいているようであった。「この国だけじゃないみたいだぞ、騒動は」「あーボクも携帯で確認したよ。世界中に散らばったみたいだからね魔物が」もはやこの世界は平和、という時代は終わったのかもしれない。「とりあえず直近の目標は、カナタくん達と合流。その後反撃にでるつもりだ」「しかし……この戦力では心許ない……」「ふふふ、秘策があるのさ。異世界ゲートまでたどり着いたらレイを元の世界に戻させる」「どういうことだ?」剣聖はまだ理解が出来ていないようで、訝しげな顔をする。「連れて来ればいいのさ、戦力を」「なんだと?」「レイには雷神ゼノンを連れてきてもらう」「魔族をこちらに呼ぶのであれば同じことをすればいい……そう言う事か」「3人の英雄、そのうち
探索に出て1時間。リサがいきなり立ち止まった。こんな時は大体魔物が近くにいる。気配に敏感なリサは真っ先に気づいたようだ。「リサ?もしかして魔物かい?」リサは無言で前方を指差す。前方の見えないくらいの距離に何かがいるようだと他の三人も警戒する。全員が臨戦態勢に入り、ゆっくり音を立てないよう進む。次第にシルエットが見えてきたが、2人いるようだ。1人は背の高い男らしき人物。その横には女のようなシルエットが見える。顔が見える所まで近付くと、向こうから声をかけてきた。「おい!アレンか!」聞き覚えのある声。「剣聖か!?」アレン達が走り寄ると剣聖とその横に1人の女性がいる。「ん?彼女は誰だい?」「ああ、この子は紫音。カナタくんのお姉さんだ」まさか彼方より姉が先に見つけられるとは思わなかったが、基地に戻ればいい報告ができるとアレン達の顔は綻んだ。「そうか、保護してくれていたんだね」「あの……初めまして。紫音と言います」「初めまして、ボクはアレン。カナタくんの師匠ってとこかな?」握手と必要最低限の挨拶だけ交わす。「紫音さん。まず最初に言っておくよ、カナタくんはボクらもまだ出会えていない」それを聞いた紫音はとても悲しそうな顔をする。「でも心配しなくてもいい。こうやって探索に出ているのもカナタくんを見つけるためなんだ」「ありがとうございます……!」涙を流しながら礼をする紫音だが、実際はアレン達と一緒に居てくれることを期待していた。「とりあえず一緒に来てくれるかな、カナタくんの護衛に付けていたアカリには落ち合う場所を伝えてある。今はそこを目指しているんだ」こうして4人から6人での行動となったが、剣聖が入ったおかげでより一層安全性は増した。紫音は守らなければならないが、それを加味しても有り余る戦力だ。「ここからは後5キ
「団長、アカリちゃんとカナタさん無事ですかね……?」小さく幼い声でアレンに問い掛けたのは団員の1人、セラ・マクレーン。アカリと同じく20歳という若さで二つ名を得た、黄金の旅団に相応しいメンバーである。「そうだね、二人共無事だと思うよ。何しろあの神速が護衛なんだから。友達ならもっと信じてあげよう」アレンは優しく微笑み返し、セラも頷く。セラにとっては唯一の同い歳。最年少の団員は他にもいるが、いつ何処へ行くにも一緒だったアカリの事が心配でならないのだろう。不安そうな顔を見せるが、アレンが頭を撫でてあげると照れた表情を見せてすぐに怒った表情になった。「もー!私ももう20歳なんですよ!団長は子供扱いしすぎです!」「ははは、ごめんよ。妹みたいな存在だからねセラは」身長も低く、礼儀も正しい。それに可愛らしいキャラであり、団員からは可愛がられていた。そんな彼女ももちろん黄金の旅団にいる以上は、かなり上位の能力を持つ。絶対防御。彼女の幼い見た目からは想像がつかない二つ名だが、力は本物だった。彼女の防御結界は誰にも破られない。これはアレンにも適用する。殲滅王と呼ばれる彼ですら一度も破れたことが無いほどの防御力を誇る彼女は次第に絶対防御と呼ばれるようになった。しかし、そんな彼女にも欠点はある。戦闘能力が低いことだ。防御に特化している為、攻撃手段は乏しい。もちろん一般人相手なら簡単に勝てるだろうが、魔法を使える能力者との戦闘では勝てない程度の戦闘能力。今回の探索メンバーに入れたのは、圧倒的な防御力を活かした支援をしてもらう為。それにアレンは彼女がアカリの唯一の友達だと知っていたので、今回の探索に参加してもらった。「旦那、俺も探索メンバーに入れてもらって感謝します」そう言って横から声を掛けてくるのは、ゼンの兄貴分だったガイラ・ビクトール。轟龍の二つ名を持つ力こそ全て、の戦い方を好む男だ。
それから二人で歩きながら今までの話を教えてくれた。魔法に異世界、彼方が中心となり彼らを帰すために協力していたこと、彼らの使う魔法を彼方も使えるようになったこと。半信半疑な話ではあったが、現状信じざるを得ない光景を目にしている為すぐに飲み込めた。「じゃああれは事故……というよりその魔神って人が起こした計画的犯行ってことですか?」「そうなるな。カナタくんは魔神の思うように操られたと言ってもいいだろう。彼は被害者に過ぎない」世間では諸悪の根源とも言われているが気にしないでいいと、優しく寄り添うように語ってくれた。「しかし……多分彼は今罪悪感に押し潰されているだろう……」「実際にあのゲートを作ってしまった本人ですもんね」「だからこそ姉である君が寄り添う必要がある。彼の心の支えとなってやってくれ。もしも君が拒絶すれば彼は確実に我々と共に異世界へ着いてくるぞ」「分かりました。ありがとうございます」異世界には興味がある紫音だったがあんな化け物が闊歩しているなら行きたくはないなと思っていた。ただし、彼方が行くと言うのなら嫌々ながらも着いていくつもりであった。「そう言えば漣さんって、そのなんていうか……強い人なんですか?」とても抽象的な言い方に漣も戸惑いながら答えてくれる。「強い人……というのが良く分からないが今この世界にいる仲間の中で私は二番目に強い」想像以上の強さに紫音は驚いた。彷徨っていたところにこの人と出会えて運が良かったかもしれないと自身の幸運さに感謝した。そんなどうでもいいような話をしながら歩いていると、ふと漣の足が止まった。
紫音は絶句した。視界に広がるのは燃えた家屋、そこかしこに倒れている人や血溜まり。目を覆いたくなるほどに凄惨な光景。紫音はゆっくりと足を進め、目的も決めず彷徨い出した。どこを見ても倒れた人だらけ。ピクリとも動かないそれは、生きてはいないだろう。当てもなく歩き続けていると、前方から人らしきシルエットが近付いて来た。やっと生きている人に会える喜びからか、警戒もせず紫音も近付いて行く。「ん?なぜこんな所にまだ人間がいるんだ」言葉を発したそれは人でない何か。言葉は分かるし見た目も人間。違うのは背中に翼が生えていることと頭から角が2本出ていることだ。「…………!!」驚きからか、紫音は口をパクパクさせて声が出ない。「まだ生きている者がいたとは……仕方ないオレが処理しておくか」ゆっくり近づいてくる。死を覚悟し目を瞑っていると、いつまで経っても側に来た気配がない。紫音が恐る恐る目を開けると人型の異形は既に事切れていた。魔族が紫音の元まで来ることは出来なかった。首が胴体と離れ地面に倒れ込んでいる。紫音は何が起きたか分からず、倒れ込んだ魔族を見て呆然とする。「こんな所で何をしている」不意に声をかけられ紫音が顔を上げると、そこには中継で見た男が剣を片手に立っていた。「あ、貴方は……」舞台の上で春斗を殺した男と対峙していた金髪の男だった。紫音は瞬時に考えた。あの場に居たということは彼方の行方を知っている可能性がある。「あの!彼方を知りませんか!」名前も知らない金髪の男に問う。すると男は困ったような表情で答えた。「すまない……私も分からないんだ。それに仲間も何処に行ったか分からず探しているところだ」「そう…&hellip
意を決して、外に出ようとすると屋根の上からスピーカーから発せられる声が聞こえてくる。ヘリコプターの音も同時に大きくなってきた。「住人の皆さん、家からは決して出ないでください!繰り返します!家からは決して出ないでください!」軍の人だろうか?どうやらヘリコプターで空から注意喚起しているみたいであった。なぜ家から出ることを拒むのか分からず紫音は玄関先で耳を澄ましていると徐々に外が騒がしくなってきた。「おい!なんか化け物出たらしいぞ!」「さっきの中継本物か!?」「人が死んでたじゃない!あれCGじゃないの?」近所の人達の話し声がする。やはり皆あの中継を見ていたようだ。するとまた空から声が聞こえてきた。「家から出ないで下さい!危険です!テロの危険性がある為家からは出ないで下さい!」テロだって?あんなものテロなんかじゃ説明がつかないではないか。あの化け物は本当に異世界とやらからやって来てしまったのでは……そんな思いもつゆ知らず、空からはずっと注意喚起の声が聞こえ続ける。次第に口調も荒くなってきている。「繰り返す!家からは出るな!これは訓練ではない!!鍵を閉めカーテンを閉じろ!!繰り返す!!――」言われた通りに行動し、リビングでどうするか悩んでいると今度は小さく叫び声まで聞こえてきた。「う……!出た…………逃げ……!!」遠いのか聞こえづらい。しかし、逃げ、と聞こえた気もする。怖くなり包丁を握りしめ縮こまり、何事もないよう祈り目を瞑る。次第に声は数軒隣辺りから聞こえてきだした。「いやぁぁ!!!」「な、なんだよこいつ!!」「化け物!!誰か!!誰か助けて!!」あの中継で見た異形の化け物が瞼の裏に焼き付いている。もしやあれがこの近くにも現れたのか。包丁を握る手は
彼方の晴れ舞台を見るために紫音は自宅のテレビで中継を見ていた。「あー!出てるー!すごいすごい!」自分の事のように喜びながら、画面を注視する。生中継も終盤に差し掛かる頃何やらおかしな雰囲気になってきた。異世界ゲートが起動し一人の男が入っていってから戻ってこないのだ。会場はざわついているようで、舞台上にいる彼方も何やら動揺しているように見える。嫌な予感がする……彼方は大丈夫と言っていたが、数十分も戻ってこないなんて流石に予定通りではなさそうだ。紫音の手は汗で濡れ、テレビから一瞬たりとも目を離せなくなってきた。最初の説明をぼんやりと聞いていたが、確か10分しか稼働させることはできなかったのではないのか?不安は募り、今にもその場に行きたい衝動に駆られた。そして事件は起こる。血塗れの男がゲートから出てきたのだ。明らかに台本通りではない、もしこれが台本通りならば顰蹙《ひんしゅく》ものだ。彼方も不安そうな表情で狼狽えている。その後画面は乱れだしたが、撮影者の意地なのか映像は続く。見たこともない異形の化け物がゲートから出てきた。「なんなんだよあれ!」「これドッキリか?」撮影者たちの声も入っているが、紫音も同じ気持ちで画面を見続ける。ドッキリであってくれと。しかしその願いは叶わなかった。ゲートから出てきた異形の化け物は観覧席へと降り立ち、人々を襲い始めたではないか。カメラを投げ捨てたらしく、酷く画面は揺れ運良く地面に落ちたのか上手く舞台が映る形で撮影され続けている。「彼方……大丈夫って言ったじゃない……」悲壮な声も虚しく、異形が人々を襲い続ける映像はつづいていく。見てられずテレビを切ろうとしたが、舞台上に見たこともない男が現れた。「この世界はお前のお陰で滅びの道を歩むだろう。この世界に存在する全ての人類よ、我に従え!さすれば痛みな