Share

異世界アルカディア⑧

Penulis: プリン伯爵
last update Terakhir Diperbarui: 2025-03-27 17:00:29

馬車に乗り、窓の外を流れていく景色は街の風景から次第に草原へと変わる。

街の外に出ると、途端にど田舎の風景になるのは、この世界ならではだろう。

窓の外を見ていると、アレンさんから話しかけられた。

「さっきロアン伯爵と何か話していたようだけど、何かあったのかい?」

「この眼帯が御礼の品だと言われました。それと魔導具だとも」

「あ!そうだった!!ロアン伯爵から伝えられていたんだった、ごめんごめん」

アレンさんは苦笑いしながら、眼帯の説明をしてくれた。

この眼帯に魔力を流すと自分の目のように視界を得ることが出来る代物だそうだ。

もちろんそんな魔導具は珍しい物で、この世界では金貨100枚はするらしい。

そういえば、昨日アカリに教えてもらっていた。

銅貨1枚が1000円、銀貨1枚が1万円、金貨1枚が10万円、白金貨1枚が100万円と同等の価値があると言っていたな。

なら、この眼帯は1000万円の物なのか。

お、恐ろしい……

僕の目に着いている装着物が1000万円……

歩く宝石じゃないか……

それともう1つ貰った物。

亜空間袋だ。

これも最低容量とは聞いたが、そもそも亜空間袋自体金貨数枚はする代物だそうだ。

そんなものをポンっとくれる伯爵の懐の広さに感謝しかない。

暫く流れていく風景を見ていると、遠くの方に人工物が見えてきた。

「あ、カナタくん!もうすぐ着くよ!」

「あれが……この国の中心部……」

近づくにつれて、城塞都市ハビリスの数倍はあると思われる巨大な壁が見えてくる。

帝都エリュシオン。

エリュシオン帝国の心臓部。

立派な城壁に囲まれた敷地面積はおよそ東京二つ分の大きさらしい。

人口2000万人がひしめく箱庭だ。

門を抜け中央の皇帝陛下のいる城へ向かっている

Lanjutkan membaca buku ini secara gratis
Pindai kode untuk mengunduh Aplikasi
Bab Terkunci

Bab terkait

  • もしもあの日に戻れたのなら   異世界アルカディア⑨

    馬車を降りると、辺りは豪華で綺麗な雰囲気になっている。 噴水や光り輝くオブジェが高級感を感じさせる。 衛兵がそこかしこに待機しており、メイドや執事もチラホラと見える。 初めての光景にキョロキョロと視線を泳がせていると、一人の執事の恰好をした男が近づいてきた。 既にハビリス伯爵から伝書鳩が飛んでいたのだろう。 驚愕することなくアレンさんへと話しかけてきた。「お久しぶりでございます、アレン様」 「あ!久しぶりだなぁ元気にしてたかい?ガラン爺」 「それはこちらの台詞で御座いますよ。貴方がたが消えてから8年も経っていますから」 優しそうな微笑みを浮かべる執事はガラン爺と呼ばれているらしい。 肉弾戦なら無類の強さを誇る為、武器を持ち込むことが出来ない謁見の間での護衛を兼ねているそうだ。「では皆様、積もる話もありますでしょうが、こちらに武器を預けて頂き私に着いてきて下さい」 各々、武器を預かり棚に置きガラン爺に着いていく。 豪華絢爛という言葉が似合いそうな装飾が施されたどでかい扉の前で僕ら一同は立ち止まる。「ここから先は謁見の間でございます。アレン様は何度も足を運んで頂いておりますが他の方は初めてが多いでしょう。皇帝陛下は気さくなお方です。あまり固くならないように」僕もそんな国のトップなんて会ったこともなく、緊張で顔が強張っているのだろうか。 そんなことより謁見のマナーなんて簡単にしか教えて貰っていないのだが大丈夫なのか……ゆっくりと扉が開く。 全員同時に足を踏み入れる。 アレンさんだけは慣れているのか、1人スタスタと笑顔で入っていく。 レイさんからすれば冷や汗ものだろう。皇帝陛下から一定の距離で全員立ち止まる。 「余が」 「オルランドー!久しぶりだなぁ!あれ、老けた?」 あろうことかアレンさんは皇帝陛下の言葉を遮り手を挙げ声をかけた。周りがザワつく、かと思えば皆笑顔だ。 不思議に思

    Terakhir Diperbarui : 2025-03-27
  • もしもあの日に戻れたのなら   異世界アルカディア⑩

    声が震えていたのがおかしかったのかアレンさんは横で笑っている。「フフッ、そんなに畏まらなくても良い。余は皇帝であるが1人の人間でもある。アレンは余の友人であり恩人でもある。そんな彼を救ってくれた君には感謝しかない」 「あ、ありがとうございます」 「それで君のその眼帯はもしかして隠す為の物かな?」 「えっと……」皇帝の勘は鋭いようだ。 すぐに僕の赤眼に気づいたらしい。 禁忌を侵した者は国に置いてはおけない、なんて言われるのだろうか。「ふっ、そこまで気張らなくていい。おおよその事は想像できている。彼らの為に禁忌を侵したのだろう?」 「その、僕の無知が招いた結果です……」 「彼らに変わって余からも礼をさせてほしい」 「もうアレンさんからもお礼はしていただきました!なので大丈夫です!!」 「余からの礼を断ることも無礼に当たるのだよ。何も言わず受け取るといい」 「ありがとうございます……」 受け取った袋はかなりの重さがある。 恐らく金貨がたくさん入っているのだろう。「それとカナタ、この国にいる間君は何処に滞在するか決めているのか?」 「いえ、まだ何も……」 「あーそれは心配しなくていいよ、ボクらの宿り木に来たらいいからね」 「ふむ……それなら安心か。この世界の常識を知らずに彷徨くのは流石に危険だからな」 「ああ、その当たりも説明しておくよオルランド」皇帝はわざわざ僕の為に滞在場所を提供するつもりだったそうだが、気が知れた仲間と共にいるほうが気楽だろうとのことで 僕らは城を後にし、宿り木へと向かった。「カナタ、これからはカナタって呼ばせてもらうよ、いちいち君付けするのも面倒だしね」 「構いませんよ、そっちのほうが戦闘時だと素早く指示を受けられますし」 アレンさんから呼び捨てにされると、黄金の旅団員として認められた気がして嬉しかった。宿り木の一室を与えられ荷物を置き僕は食堂へと向かう。

    Terakhir Diperbarui : 2025-03-27
  • もしもあの日に戻れたのなら   宿り木の仲間達①

    「おい!アレン!!お前らが帰ってきたお祝いも兼ねて皆で騒ごうぜ?」いきなり大きな声が聞こえたせいで皆の視線はそちらに向く。大柄で背丈を超える巨大な剣を担いだその男は、ズンズンとこちらに向かって歩いてきた。見たことがない顔だがアレンさん達の知り合いだろうか?「久しぶりだね、セル。それに僕がいない間宿り木の管理をしてくれてありがとう」「おう!!お前がいなくなってからは俺が一時的にここの管理者やってたからな!!!」黄金の旅団の精鋭が魔神討伐の旅に出た後は、ここ宿り木のトップを任せていた方らしい。「見たことねぇ顔だが、あんた誰だ?」そんなセルと呼ばれた男が僕のほうを見下ろしてくる。威圧感が半端じゃないが、今まで魔物を見てきた僕はここで気おくれはしない。「初めまして、城ケ崎彼方です」「彼のことはご飯を食べながら話すよ、とにかく座って」「おお、俺も腹が減ってたしな」アレンさんにそう促され、自己紹介もそこそこにみな席に着いた。「じゃあ気を取り直して」カンパーイ!!各々近くにいた人とカップを打ち付ける音が聞こえてくる。僕も手が届く範囲で乾杯し、果実酒を口に運ぶ。日本で飲んだことがある果実酒より、果物の風味が強く口触りはとても良い。「それで8年も何処にいたんだアレン」セルと呼ばれた男は気になって仕方がないのだろう。食べるのもそこそこにアレンさんへと話しかける。 「魔神討伐の旅に出た後――」アレンさんは今まであった事を細かく話していた。聞いているセルさんは黙って頷き、時には怒り、悲しんだりして表情豊かだった。「なるほどな&h

    Terakhir Diperbarui : 2025-03-28
  • もしもあの日に戻れたのなら   宿り木の仲間達②

    宴会も終わりに近づくと酔い潰れたのか何人かがグッタリと机に突っ伏していた。「貴方がカナタさんですね?私はリリー・アイズと申します」見慣れない人が近付いてくると挨拶をしてきた。白い髪で目つきは鋭くレイさんを彷彿とさせる女性だった。「えっと……初めましてカナタです」「私はあそこで酔い潰れているバカと同じクラン、"破滅の灯火"の副団長をしています」リリーさんはセルさんを指差しそう言う。副団長って肩書きがつく人はみんなクールな女性なのだろうか。リリーさんも知的な雰囲気が漂っていて、とても美しい女性だ。「改めて感謝を。アレン団長は人類にとって失うわけにいかない人材でした。この世界では王と名のつく二つ名を持つ冒険者はたったの三人しかいません。殲滅王アレン、不敗の王テスタロッサ、魔導王クロウリー。魔神の軍勢に対抗できるのは彼らの力あってこそ。だから改めてお礼を申し上げます」「何度も言いますが僕だけの力ではありません。日本でも協力者がいたからこそ異世界ゲートは完成させる事ができました」「そうでしたか……ではその方々にも感謝申し上げます」リリーさんは何度も頭を下げていた。そこまで畏まられても対応に困ってしまう。そんな僕の様子を見てたのかアカリがスッと寄ってきた。「リリー、カナタは疲れてるからもう休ませてもいい?」「ああ、すみませんでした。お時間を取らせてしまって」どうやらアカリはそろそろ部屋に戻ってもいいと気遣ってくれたようだ。「いえいえ。またこの世界ではお世話になることもあると思いますのでその際はよろしくお願いします」「もちろんです。我々"破滅の灯火"は貴方の力になると誓いましょう」リリーさんとの会話を終えるとアカ

    Terakhir Diperbarui : 2025-03-28
  • もしもあの日に戻れたのなら   宿り木の仲間達③

    朝は小鳥のさえずりで目を覚ました。 とても気持ちのいい寝起きに僕は伸びをする。 久しぶりにゆっくりと眠れた気がするな。一階に降りると既に何人かの旅団員が席について朝食を摂っていた。「おはようカナタ」 「おはようございますアレンさん」 僕はその中でアレンさんを見つけると彼と同じテーブルについた。ここ宿り木では食事処も完備されていて毎日朝昼晩と望めばタダで食事ができるよう料理人を雇っているそうだ。僕が席に着くとウェイターの一人が僕の所に朝食を持ってくる。 美味しそうな匂いにお腹が鳴った。「今日は忙しいからね。よく食べて体力をつけておいた方が良い」 「はい、そうします」 朝食はパンと目玉焼きにスープがついている。 とても食欲をそそる匂いだ。僕はパンを一口頬張ると、あまりの美味しさに二口三口と立て続けにパンに齧りついてしまった。「ハハッどうだい?ここの食事はなかなかのものだろう?」 「はい!美味しすぎます!」 日本の食事も当然美味しいが異世界の食事も捨てたもんじゃない。 いや、これならもしかするとこっちの世界の食事の方が美味しい説が出てきたぞ。僕が朝食を採っているとフェリスさんも起きたようで二階から降りてきた。「おはよー……」 「相変わらず寝起きが悪いねフェリス」 初めて見たフェリスさんの姿に僕も驚いた。 いつもは綺麗な格好で髪も整え服もしっかり着こなしていたが、今はパジャマなのかダルっとした着こなしになっていた。「あー……フェリス、カナタ君もいるよ?」 「え?」 アレンさんが僕の名前を口にするとフェリスさんは固まった。 しばらくして顔が赤くなり走って二階へと戻って行った。 人様に見せるような恰好ではないと恥ずかしくなったのだろうか。「いやぁカナタも罪な男だ」 「え?」 「ああ、いや気にしないで。こっちの話さ」 何の話だろうか。 まあ気にしないでというのなら気にしないけど。

    Terakhir Diperbarui : 2025-03-28
  • もしもあの日に戻れたのなら   宿り木の仲間達④

    ダンジョンの攻略は冒険者の仕事だ。稀に出てくる宝石や価値の高い魔導具などが彼らの生活を支えている。当然収穫のない日もあるそうで、そんな日はツいていなかったとヤケ酒を煽るそうだ。「セル達がお金を稼いでくれる間にボクらはある人の所に行こうか」「ある人というのは?」「着いてからのお楽しみさ」アレンさんはそう言って不敵に笑う。誰かを紹介してくれるみたいだが一体どんな人なのだろうか。僕とアカリはアレンさんに連れられ宿り木から出ようとすると、レオンハルトさんがガチガチに装備を固め立っていた。「お待たせレオンハルト。さて、行こうか」「ふぅ……気が重いが、仕方ない」レオンハルトさんは陰鬱な表情で嫌そうに顔を背けた。これから会う人というのは誰なんだ。剣聖がそこまで装備を固め、嫌がる人物とは一体……。「カナタは心配しなくていい」「いや、そうは言われてもな……」剣聖の顔が強張っているんだぞ。会うなり剣をぶん回すような人だったらどうしようか。街を練り歩く事十分。ある大きな屋敷の前に到着するとアレンさんが門番に向かって手を挙げた。「やあ、彼女はいるかな?」「え?アレン様?は、はいおりますが……」「じゃあ入れて貰えるかな?」「も、もちろんです!……それよりもアレン様は死んだと噂が」「ああ、噂は所詮噂ってやつさ」門番は驚いた顔でアレンさんをまじまじと見つめていた。それを当人は適当に躱し、敷地内へと入った。僕な

    Terakhir Diperbarui : 2025-03-29
  • もしもあの日に戻れたのなら   宿り木の仲間達⑤

    「紹介しようカナタ。彼女はテスタロッサ――」「待て、そこから先は私が言う」アレンさんが目の前の綺麗な女性を紹介しようとすると、その女性は手で制しズイッと僕に顔を近付けてきた。「お前……赤眼だな?」眼帯をしているはずなのに一発でバレた。これは不味いと僕が半歩後ろに下がるとテスタロッサさんは口角を上げる。「クククッ……強さの為に禁忌を犯したか。名は何という」「城ヶ崎、彼方、です」「そうか、カナタだな。覚えたぞ」どういう訳か気に入られたらしく、テスタロッサさんはウンウンと頷いていた。それにしても近くで見ると顔立ちは整っているし、ハリウッドの女優と見間違えそうだ。「それで?私に何の用だアレン。八年も音沙汰が無かったくせにいきなり現れて禁忌に触れた者を連れてくるとは」「いやぁ、それがね。魔神の討伐失敗したって伝えに来たのさ」「……なに?」おっと、いきなり空気が凍ったぞ。アレンさんの言葉にテスタロッサさんが片眉を上げた。「それはどういう事だ。お前がいるから私はこの国を守る事に徹した。逃したというのか?あれだけの戦力を引き連れておいて」「まあ……そうなるね。だから君に手を貸して欲しくて来たんだ」なるほど、それが理由だったのか。でも明らかにテスタロッサさんの機嫌が悪くなっているのはなんでなんだろう。「王の名を持ちながら奴を逃しただと!?」「想像していた以上に厄介でね。君の力を借りたい」「貸す貸さんの問題ではないだろう……魔神を放置すればいずれ世界が滅ぶ。剣聖もあのざまだと……チッ、鍛え直しが必要だな」あ、そういえば吹き飛ばされていったレオンハルトさんはどこに行ったんだ?なかなか戻って来ないけど。「それで、このカナタは有用だということか?」「まあ少なくともそこらの魔法使い

    Terakhir Diperbarui : 2025-03-29
  • もしもあの日に戻れたのなら   宿り木の仲間達⑥

    僕らはテスタロッサさんの案内で客間へと通された。ちなみにレオンハルトさんも傷だらけで戻ってきて今ではスンとしている。さっき吹き飛ばされたのが嘘みたいだ。「さあ聞かせて貰おうかアレン。八年もの間どこにいたのか、それとどうしてカナタが禁忌を犯しているのか」「何処から話そうかな――」アレンさんは今までの事を全部話した。別の世界にいた事、僕が異世界ゲートを作りだしこの世界に帰ってこれた事、何人もの犠牲者が出た事。そして僕が赤眼になってしまった事。テスタロッサさんは無言で聞き終えると、小さく溜息をつく。「要約すればお前達はただの一般人に過ぎなかった彼に道を踏み外させた、という事だな?」「まあ、そうだね。カナタには悪い事をしたと思っているよ」「そこまでして魔神を取り逃すとは……殲滅王が聞いて呆れる」テスタロッサさんは明らかに落胆したような様子だった。それだけアレンさんの事は高く評価していたのだろう。「カナタは悪くない。私が悪い」「そうでもないだろ。僕だって何にも分からないくせに禁忌の魔法に手を出しちゃったんだ。自業自得だ」アカリは庇ってくれているようだったが、僕は分からないままに魔法を使ってしまった自分が悪いと思っている。「過去の事を悔やんでも仕方あるまい。それならばその力、有用な使い方をすればいい」「ダメ、カナタには魔法は使わせない」「禁忌の魔法使いとなればいずれ四人目の王の名を手にする事が出来るかもしれんぞ?」二つ名が欲しいとは思わないな。ただこの力が元の世界の時間を戻すきっかけになるなら、迷う事無く使うと思う。「まあいい、それと世界樹だったか?そんなもの私も伝承でしか知らん」「そうかぁ、テスタロッサも分からないとなるとやっぱり神域に行かないとダメかな」「あそこは人間が簡単に立ち入れるところではない。神族と矛を交えるつもりか?」テスタロッサさんが言うには、神域と呼ばれる場所に住む神族は人間を遥かに超える力を持つそうだ。

    Terakhir Diperbarui : 2025-03-29

Bab terbaru

  • もしもあの日に戻れたのなら   図書館にて①

    帝都大図書館は帝国内でも最大級の大きさらしく見上げるほどの高さがあった。日本でも国立図書館はあるがそれを遥かに凌駕する建物の大きさだ。さぞかし蔵書の数は多いのだろうと僕は胸を弾ませた。中に入るとこれまた巨大な棚に本がギッシリと詰められていて何処を見ればいいのか悩んでしまう程だった。「さてと、この中から目的の本を見つけるのは至難の業だ。というわけで司書の所に行こうか」図書館には司書がおり、特殊な魔法を習得しているらしい。なんでも求める本が何処にあるか分かるという司書としての職業でなければ役に立たない魔法だそうだ。「ああ、君。ここに神域に関する事が書かれた本はあるかな?」「はい、少々お待ち下さい」司書は頭の上に魔法陣を浮かべると目を瞑る。しばらく待つと司書の目が開き手元の紙に本のタイトルと場所を記してくれた。「こちら神域について書かれた本は全部で三冊となります」これだけ膨大な数の本があったたったの三冊。それだけに神域は謎に包まれているという事だ。紙に記された場所で本を取るとその場で数ページ捲る。悲しい事に僕は文字が読めない。代わりにアレンさんに読んでもらうと、少し難しい表情になった。「うーん……抽象的な事しか書かれていないね。他の二冊も探してみよう」どうやら満足いく内容ではなかったらしい。目的の本を探すのもなかなか大変だ。何処を見渡しても本の壁。場所は紙に記載してくれているとはいえ、その場所にも何冊もの本が並べられている。やがて見つけた二冊目もやはりアレンさん曰くあまり必要としない情報しか載っていなかったらしい。

  • もしもあの日に戻れたのなら   冒険者ギルド④

    魔導具を物色していると時間が溶けていく。あれもこれも欲しくなるしどういった効果があるのか気になってくる。また一つよさげな物を見つけ僕は手に取った。腰に巻き付けるチェーンのようで、少し柄が悪くなるかなと思いつつ自分の腰に当ててみる。……かっこいいじゃないか。男はいくつになっても中二心は忘れない生き物だ。僕も例に漏れずチェーンとか好きである。「……ダサい」「えっ?」アカリは一言だけ伝えるとまた口を閉ざした。え、これダサいかな……。腰にチェーンとか普通にありかなと思ったんだけど。「お、カナタ似合ってるよ。いいじゃないかそれ」アレンさんは分かってくれたらしく、僕を見て嬉しそうに笑顔を浮かべてくれた。やはり男は分かるもんなんだ。このチェーンの良さが。「ダサい」「そんな事はないよアカリ。ほら、見てみなよこの重厚感。ずっしりとくる重みがまたかっこよさを際立たせているじゃないか」「邪魔なだけ」「銀色に輝いているのもよくないかい?」「反射して敵に場所がバレる」「長いのも魅力――」「走ってると絶対足に絡まる」ダメだ、僕とアレンさんが何を言ってもアカリには刺さらなかったらしい。仕方ない、別の魔導具を探すかと僕はチェーンを棚に戻した。と、思ったらすぐ傍にまたかっこいい魔導具を見つけた。銀色の指輪だ。それも普通の指輪じゃない。指全体を覆うようなフィンガーアームのような形をしている。僕が手に取ろうとすると、その手はアカリによって弾かれた。「それもダサい」僕は肩をがっくり落とし、また別の魔導具を物色する。結局、短剣型が一番使いやすいとの事で、僕が選んだのはガードリングと炎の短剣だった。お会計はいくらくらいになるんだろうかと、支払いの時に耳を澄ませていると金貨という単語

  • もしもあの日に戻れたのなら   冒険者ギルド③

    ギルドを出ると今度は魔道具の売られている店へと行くことになった。最低限身を守る魔導具はあった方がいいだろうとはアレンさんの意見だ。魔導具と聞けば魔法を気軽に扱える道具という認識がある。ただ結構高価なイメージもあるが、買えるだろうか。「お金は心配しなくていいよ。一応これでも大きなクランのマスターやってるからさ。貯蓄は結構あるんだよ」それなら安心か。しかしどれもこれも買ってもらうというのは気が引ける。魔導具店に到着し、店内へと入ると僕は目を輝かせてしまった。棚には所狭しと置かれた魔導具の数々。魔導書だって何冊も並べられておりワクワク感が増してくる。「カナタ、身を守る物と攻撃手段を選ぶといい」「二つともあった方がいいってこと?一応レーザーライフルはあるけど」「それだけじゃ心許ない」アカリにそう言われるとそんな気もしてきた。レーザーライフルは威力こそ十分だが、ソーラー発電でのエネルギーチャージが必要だからあまり連続して使う事はできない。「カナタ、まずは身を守る為の魔導具を探そう」アレンさんと棚の物色を始めると、どれもこれも効果が分からず僕は首を傾げるばかりだった。見た目はただの指輪でも何らかの効果を持つであろう宝石の嵌った物やネックレスなどもある。腕輪タイプだったら邪魔にならなそうだし、見た目もお洒落だ。いいなと思った魔導具を手に取り見ているとアレンさんが話しかけて来た。「お、それがいいのかい?」「効果は分からないんですが、見た目がいいなと思いまして」「丁度いい。それにするかい?その腕輪はシールドを張る事のできる魔導具さ」運がいい。僕のいいなと思った腕輪が防御系の物だったなんて。「これがいいです」「よし、じゃあ次は攻撃用を探そう」価格を見てないけど大丈夫なのかな。後でコソッとアカリに聞いておこう。攻撃用の魔導具といっても種類は豊富にある。杖型や指輪型、剣型などもありど

  • もしもあの日に戻れたのなら   冒険者ギルド②

    アレンさんのいうアテというのが何か分からなかったが、僕の知らない付き合いなどもあるのだろうと無理やり自分を納得させた。「じゃあ金貨五十枚で依頼を出すぞ。まあ、まずは魔神が今いる場所を特定する必要があるからな。占星術師に依頼を出してからになるが」「ああ、それで構わないよ。その間にカナタに教えておく事も多いだろうからさ」教えておく事ってなんだろうか。もう結構この世界の事は学んだつもりだけどな。「それでカナタ。その眼帯の下は赤眼だったな。あまり他のやつに見せるなよ」「はい。アレンさんからも忠告されています」「ならいいが。禁忌に触れた者は悪魔に身を落としたなどとのたまって襲いかかってくる輩もいるからな」それは怖いな。こちらから眼帯を捲らない限りバレることはないだろうけど気をつけておこう。VIPルームを出ると受付嬢であるカレンさんが近づいてきた。「アレンさん、そちらの男性は冒険者登録をされますか?」「よく分かったね」「まあこの辺りでは見たこともない方でしたので」一目見ただけで冒険者か否か分かるものなのか。ギルドの受付嬢って凄い目利きをしてるんだな。「ではこちらへどうぞ」カレンさんの案内に着いていくと受付へと通された。「アレンさんのお知り合いなのは存じておりますが、冒険者登録したばかりですとランクは一番下のC級となります」「はい、大丈夫です」「それでは登録表に必要事項の記入をお願いいたします」おっと、これは不味いぞ。僕はこの世界の文字が書けない。なぜしゃべれてるかは謎だが、多分魔法的な何らかの力が働いているのだと無理やり納得している。しかし文字だけは勉強しなければ書けやしない。「カナタ、私が代わりに書く」「ありがとう。助かるよ」僕が受付で困った表情を浮かべているとアカリはすぐに察したのか代わりに記入してくれることになった。「カナタさん、と仰いましたよね?カナタさんはどこからか来られたのでしょうか?」

  • もしもあの日に戻れたのなら   冒険者ギルド①

    「久しぶりーガイアス。元気だった?」「元気も何もお前ら"黄金の旅団"が行方不明になったととんでもない騒ぎだったんだぞ」体格のいい男は苦言を零しながらもアレンさんが無事に帰ってきたことを喜んでいるようだった。「一体何があったんだ」「話すと長いよ」「そこの見たこともない男といい……全員こっちに来い」僕ら三人はギルドの二階へと案内され、ある部屋へと通された。VIP扱いのようで僕は少し緊張していた。長いソファーに腰を下ろすと目の前にギルド長が座る。「まずは無事の帰還を祝おう。よく戻ってきてくれた」「その辺りも詳しく説明がいるかい?」「当たり前だ!」アレンさんはやれやれと肩を竦め説明をし始める。ギルド長はその話をしっかりと聞き、最後に長い溜め息をついた。「はぁぁぁ……よくそれで無事に戻ってこれたものだ。そこの、カナタだったか?よくアレン達をこっちの世界に戻してくれた。礼を言う」「いえ、みなさんの力あっての結果ですから」「ふん。謙遜するタイプか。俺は嫌いじゃないぞ」ギルド長のお眼鏡には叶った受け答えだったようだ。「俺はこの帝都冒険者ギルドの長をやってるガイアスってもんだ。今後も何かと関わる機会が多いだろうからな、覚えておいてくれ」「はい、こちらこそよろしくお願いします」ギルド長と懇意にしておけば今後何かあっても手を貸してくれるだろう。僕はガイアスさんと握手を交わした。「それで魔神だったな……ギルドで高位冒険者は雇えるが魔神にどれだけ対抗できるかは分からんぞ」「まあボクの仲間が何人もやられたからね。普通の冒険者だと歯が立たないだろうから最低でもS級以上の手を借りたい」道中で教えて貰ったが、冒険者にはランクが存在する。アレンさんのような王の名を冠する冒険者は英雄級、アカリやレイさんのような冒険者はSS級。二つ名を持っているのはS級以上だそうだが、その中

  • もしもあの日に戻れたのなら   宿り木の仲間達⑦

    テスタロッサさんとの顔合わせも終わると今度は冒険者ギルドへと赴く事になった。正直少しだけ楽しみにしている場所でもある。アレンさんがギルドの扉を開けると中には沢山の冒険者がいた。依頼票を見ている者やテーブルで談笑する者、中には受付嬢を口説いている人もいる。そんな冒険者達がアレンさんを見て一斉に静まり返った。「やあ、みんな。久しぶりだね」アレンさんは呑気にそう声を掛けるが誰も反応しない。いや、正確には反応しているのだが、全員が全員口を開けて呆けた顔をしていた。「ア、アレンさん……生きていたと噂にはなっていましたが……」「ん?ああもしかしてオルランドが触れ回ってるのかな」受付嬢が驚きを通り越して恐ろしいものでもみたかのような顔で声を発する。国王陛下を呼び捨てなど不敬にも程があるがアレンさんだから許されているだけだ。聞いているこっちは冷や汗ものだが、アレンさんは気にする様子がない。「よくご無事で……おかえりなさいませ」「ただいま」アレンさんがそう言うとギルド内は喝采に包まれた。冒険者でも上位に君臨するアレンさんの人気は凄まじいようで、ワラワラと集まってきた。誰しもが笑顔を浮かべアレンさんやアカリに声を掛けているが、僕には誰も話し掛けはしない。見たこともない奴がいるな、くらいは思っているかもしれないが、先にアレンさんの無事を祝っているようだった。「道を開けてもらえるかな?ギルドに報告しなければならない事があってね」そう言うとみんな離れて道を開けていく。それに倣って僕も着いていくとやはり若干の注目を浴びた。眼帯を着けているの

  • もしもあの日に戻れたのなら   宿り木の仲間達⑥

    僕らはテスタロッサさんの案内で客間へと通された。ちなみにレオンハルトさんも傷だらけで戻ってきて今ではスンとしている。さっき吹き飛ばされたのが嘘みたいだ。「さあ聞かせて貰おうかアレン。八年もの間どこにいたのか、それとどうしてカナタが禁忌を犯しているのか」「何処から話そうかな――」アレンさんは今までの事を全部話した。別の世界にいた事、僕が異世界ゲートを作りだしこの世界に帰ってこれた事、何人もの犠牲者が出た事。そして僕が赤眼になってしまった事。テスタロッサさんは無言で聞き終えると、小さく溜息をつく。「要約すればお前達はただの一般人に過ぎなかった彼に道を踏み外させた、という事だな?」「まあ、そうだね。カナタには悪い事をしたと思っているよ」「そこまでして魔神を取り逃すとは……殲滅王が聞いて呆れる」テスタロッサさんは明らかに落胆したような様子だった。それだけアレンさんの事は高く評価していたのだろう。「カナタは悪くない。私が悪い」「そうでもないだろ。僕だって何にも分からないくせに禁忌の魔法に手を出しちゃったんだ。自業自得だ」アカリは庇ってくれているようだったが、僕は分からないままに魔法を使ってしまった自分が悪いと思っている。「過去の事を悔やんでも仕方あるまい。それならばその力、有用な使い方をすればいい」「ダメ、カナタには魔法は使わせない」「禁忌の魔法使いとなればいずれ四人目の王の名を手にする事が出来るかもしれんぞ?」二つ名が欲しいとは思わないな。ただこの力が元の世界の時間を戻すきっかけになるなら、迷う事無く使うと思う。「まあいい、それと世界樹だったか?そんなもの私も伝承でしか知らん」「そうかぁ、テスタロッサも分からないとなるとやっぱり神域に行かないとダメかな」「あそこは人間が簡単に立ち入れるところではない。神族と矛を交えるつもりか?」テスタロッサさんが言うには、神域と呼ばれる場所に住む神族は人間を遥かに超える力を持つそうだ。

  • もしもあの日に戻れたのなら   宿り木の仲間達⑤

    「紹介しようカナタ。彼女はテスタロッサ――」「待て、そこから先は私が言う」アレンさんが目の前の綺麗な女性を紹介しようとすると、その女性は手で制しズイッと僕に顔を近付けてきた。「お前……赤眼だな?」眼帯をしているはずなのに一発でバレた。これは不味いと僕が半歩後ろに下がるとテスタロッサさんは口角を上げる。「クククッ……強さの為に禁忌を犯したか。名は何という」「城ヶ崎、彼方、です」「そうか、カナタだな。覚えたぞ」どういう訳か気に入られたらしく、テスタロッサさんはウンウンと頷いていた。それにしても近くで見ると顔立ちは整っているし、ハリウッドの女優と見間違えそうだ。「それで?私に何の用だアレン。八年も音沙汰が無かったくせにいきなり現れて禁忌に触れた者を連れてくるとは」「いやぁ、それがね。魔神の討伐失敗したって伝えに来たのさ」「……なに?」おっと、いきなり空気が凍ったぞ。アレンさんの言葉にテスタロッサさんが片眉を上げた。「それはどういう事だ。お前がいるから私はこの国を守る事に徹した。逃したというのか?あれだけの戦力を引き連れておいて」「まあ……そうなるね。だから君に手を貸して欲しくて来たんだ」なるほど、それが理由だったのか。でも明らかにテスタロッサさんの機嫌が悪くなっているのはなんでなんだろう。「王の名を持ちながら奴を逃しただと!?」「想像していた以上に厄介でね。君の力を借りたい」「貸す貸さんの問題ではないだろう……魔神を放置すればいずれ世界が滅ぶ。剣聖もあのざまだと……チッ、鍛え直しが必要だな」あ、そういえば吹き飛ばされていったレオンハルトさんはどこに行ったんだ?なかなか戻って来ないけど。「それで、このカナタは有用だということか?」「まあ少なくともそこらの魔法使い

  • もしもあの日に戻れたのなら   宿り木の仲間達④

    ダンジョンの攻略は冒険者の仕事だ。稀に出てくる宝石や価値の高い魔導具などが彼らの生活を支えている。当然収穫のない日もあるそうで、そんな日はツいていなかったとヤケ酒を煽るそうだ。「セル達がお金を稼いでくれる間にボクらはある人の所に行こうか」「ある人というのは?」「着いてからのお楽しみさ」アレンさんはそう言って不敵に笑う。誰かを紹介してくれるみたいだが一体どんな人なのだろうか。僕とアカリはアレンさんに連れられ宿り木から出ようとすると、レオンハルトさんがガチガチに装備を固め立っていた。「お待たせレオンハルト。さて、行こうか」「ふぅ……気が重いが、仕方ない」レオンハルトさんは陰鬱な表情で嫌そうに顔を背けた。これから会う人というのは誰なんだ。剣聖がそこまで装備を固め、嫌がる人物とは一体……。「カナタは心配しなくていい」「いや、そうは言われてもな……」剣聖の顔が強張っているんだぞ。会うなり剣をぶん回すような人だったらどうしようか。街を練り歩く事十分。ある大きな屋敷の前に到着するとアレンさんが門番に向かって手を挙げた。「やあ、彼女はいるかな?」「え?アレン様?は、はいおりますが……」「じゃあ入れて貰えるかな?」「も、もちろんです!……それよりもアレン様は死んだと噂が」「ああ、噂は所詮噂ってやつさ」門番は驚いた顔でアレンさんをまじまじと見つめていた。それを当人は適当に躱し、敷地内へと入った。僕な

Jelajahi dan baca novel bagus secara gratis
Akses gratis ke berbagai novel bagus di aplikasi GoodNovel. Unduh buku yang kamu suka dan baca di mana saja & kapan saja.
Baca buku gratis di Aplikasi
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status