愛を見失った第三側妃の憂鬱

愛を見失った第三側妃の憂鬱

last updateLast Updated : 2025-01-24
By:  月山 歩Completed
Language: Japanese
goodnovel12goodnovel
10
1 rating. 1 review
8Chapters
1.3Kviews
Read
Add to library

Share:  

Report
Overview
Catalog
Scan code to read on App

Synopsis

憂鬱

ハッピーエンド

貴族

王族

第三側妃のマリアナは王との間に子を授かり懐妊中である。私だけを愛すると言っていたけれど、懐妊がわかると王は一切寝室を訪れなくなってしまった。代わりに他の二人の妃のところに行っているそうだ。世継ぎにすら興味を示さないなんて。もう私への愛などどこにもないのね。

View More

Latest chapter

Free Preview

1.見向きもされない私

 スタンレー王国のフレデリク王には現在三人の側妃がいる。 いずれも政治的な意味合いで迎えられ、周辺諸国との友好関係を築くための役割を果たしている。 その中の第三側妃マリアナは、今まさに懐妊したばかりだった。 まだ、初期の段階だから、周囲へは伏せているけれど、フレデリク様がこの知らせを聞いて喜んでくれることを期待していた。「フレデリク王はきっと喜んでくれますよ。何しろ初めての御子をマリアナ様は、懐妊したのですから。」「そうよね。何てフレデリク様は言ってくれるかしら?」「それは、いらしてからのお楽しみですね。」 私は侍女のメイベルと一緒に、フレデリク様が、私の寝室に来てくれる日を心待ちにしていた。 けれども、侍医からフレデリク様へ、もう懐妊の知らせが届いているはずなのに、私にその事実を告げられたあの日から、彼は一度も寝室に足を運んでくれなくなった。 まだ、懐妊していることを、公に発表をする時期ではないけれど、彼と一緒にこの喜びを分かち合えると思っていた。「おかしいわ。フレデリク様は、私のところにいらっしゃれないほど、お忙しいのかしら?」「…マリアナ様。このことはいずれ耳に入ってしまうと思うので、お伝えします。」「うん。」 メイベルは意を決したように、顔を固くし話し始める。「フレデリク王は、数日おきにアデラ妃とラモーナ妃の寝室を訪れているそうです。だから、忙し過ぎてこちらに来れないわけではないと思われます。」「えっ、そんな…。」 私は驚きとともに、深い悲しみに包まれ、言葉を失う。 私がフレデリク様の側妃に迎えられてから、彼が他の妃たちのもとに行くことは一度もなかった。 それが、私が懐妊した途端に、フレデリク様は二人のところに通い始めているなんて。 私が懐妊したことで、フレデリク様にとって私は、もうどうでもいい存在になったのだろうか? それとも、実は私を世継ぎ欲しさだけで、求めていたの? 幸せの絶頂から、突然、深い絶望の底につき落とされた気がした。 私はなんて愚かだったんだろう…。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー二年前、スタンレー王国からフレデリク王が、視察のためにコーネル王国に来ると聞いて、王宮は大騒ぎになっていた。 何しろ、スタンレー王国は広大な上に栄えていて、マリアナのいるコーネル王国など、比べ物になら...

Interesting books of the same period

Comments

user avatar
Molay
いい話でした。読みやすいです。
2025-02-14 13:56:00
0
8 Chapters
1.見向きもされない私
 スタンレー王国のフレデリク王には現在三人の側妃がいる。 いずれも政治的な意味合いで迎えられ、周辺諸国との友好関係を築くための役割を果たしている。 その中の第三側妃マリアナは、今まさに懐妊したばかりだった。 まだ、初期の段階だから、周囲へは伏せているけれど、フレデリク様がこの知らせを聞いて喜んでくれることを期待していた。「フレデリク王はきっと喜んでくれますよ。何しろ初めての御子をマリアナ様は、懐妊したのですから。」「そうよね。何てフレデリク様は言ってくれるかしら?」「それは、いらしてからのお楽しみですね。」 私は侍女のメイベルと一緒に、フレデリク様が、私の寝室に来てくれる日を心待ちにしていた。 けれども、侍医からフレデリク様へ、もう懐妊の知らせが届いているはずなのに、私にその事実を告げられたあの日から、彼は一度も寝室に足を運んでくれなくなった。 まだ、懐妊していることを、公に発表をする時期ではないけれど、彼と一緒にこの喜びを分かち合えると思っていた。「おかしいわ。フレデリク様は、私のところにいらっしゃれないほど、お忙しいのかしら?」「…マリアナ様。このことはいずれ耳に入ってしまうと思うので、お伝えします。」「うん。」 メイベルは意を決したように、顔を固くし話し始める。「フレデリク王は、数日おきにアデラ妃とラモーナ妃の寝室を訪れているそうです。だから、忙し過ぎてこちらに来れないわけではないと思われます。」「えっ、そんな…。」 私は驚きとともに、深い悲しみに包まれ、言葉を失う。 私がフレデリク様の側妃に迎えられてから、彼が他の妃たちのもとに行くことは一度もなかった。 それが、私が懐妊した途端に、フレデリク様は二人のところに通い始めているなんて。 私が懐妊したことで、フレデリク様にとって私は、もうどうでもいい存在になったのだろうか? それとも、実は私を世継ぎ欲しさだけで、求めていたの? 幸せの絶頂から、突然、深い絶望の底につき落とされた気がした。 私はなんて愚かだったんだろう…。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー二年前、スタンレー王国からフレデリク王が、視察のためにコーネル王国に来ると聞いて、王宮は大騒ぎになっていた。 何しろ、スタンレー王国は広大な上に栄えていて、マリアナのいるコーネル王国など、比べ物になら
last updateLast Updated : 2025-01-24
Read more
2.宴
「マリアナ様、今日は南の王国から、遊学中のロアルド王子が立ち寄るそうで、後ほど歓迎の晩餐会が開かれるそうです。気分転換に出席されては、いかがですか?マリアナ様は、最近ではこの居室に閉じこもってばかりですし。それに、晩餐会では、フレデリク王ともお話できるかもしれませんよ。」 メイベルは、塞ぎ気味の私を心配して、何とか気落ちしている状態から、回復させようと提案してくれている。「そうなの?最近は体調が思わしくないし、気分が沈んでいて、ずっと部屋に閉じこもってしまっていたわね。晩餐会には参加しようかしら。」「はい、それがよろしいかと思います。出席の返事をしておきますね。」「よろしくね。」 私が晩餐会に出ると返事をしたことで、メイベルは早速着ていくドレスなどを準備し始める。 私はフレデリク様が寝室に来てくださらないので、彼と顔を合わせることなく、いくにちも過ごして来た。 大きな王国を治めるフレデリク様は、日々忙しく、昼間は側近や大臣に囲まれているため、私が割り込んで話すことはできないだろうと思い、夜、寝室で彼を待つ日々が続いていたから。 彼が寝室に来てくれなければ、私達にお話する時間などない。 私はフレデリク様と話せる機会があるかもと期待して、晩餐会に出席した。「あら、最近見かけない方がいらしたわね。」 第一側妃のアデラ妃が、会場に足を運んだ私に声をかける。その声に、歓談中の皆の視線が私に集まる。「皆様、ご機嫌よう。」 私は注目されても、何食わぬ顔で部屋を見渡す。フレデリク様と目を合わせようとするが、彼だけはこちらを見てくれはしない。 彼と話したくて、怠い身体を奮い立たせ、ドレスを着たり、髪を整えてもらったりしてここまで来たのに、彼に見てもらえなければ、私の努力は意味を持たない。 今日の晩餐会は、大きなテーブルを皆で囲むスタイルのお食事のようで、案内されたのは、フレデリク様から最も遠い席だった。 フレデリク様の両脇には、先に側妃になったアデラ妃とラモーナ妃がすでに着席しており、その周りに大臣達も並んでいる。 私が彼と話そうとしても、数人越しに大声を出さなければならず、これでは彼と会話ができないと、諦めざるを得ない。 それでも私は妃の一人であるから、遊学中のロアルド王子の隣に座ることになった。「マリアナ妃様、初めまして。今宵、一緒にお食
last updateLast Updated : 2025-01-24
Read more
3.アデラ妃
「あら、ご機嫌よう。」 夕暮れ時、日課の散歩中に庭園に差し掛かると、アデラ妃が待ち伏せするように、侍女達を引き連れて立っていた。 アデラ妃は背が高く、吊り目の女性で、原色のドレスを好み、派手な印象をあたえる方である。「こんにちは、アデラ妃様。」「最近、フレデリク様が夜おいでになって、私をいつまでも寝させてくれないの。お肌に良くなくて、困ったものだわ。」 アデラ妃は、自慢気に話す。 そのことを伝えたくて、わざわざ私を待ち伏せしたのね。「そうですか?それは大変ですね。」「ちょっと、マリアナ妃、あなた最近ではフレデリク様に全く構われなくなったそうね。一体何をやらかしたの?」「さぁ、私にもよくわかりません。むしろ私の方が聞きたいくらいです。」「ほんの少し前までは、あちこちでこれ見よがしに仲良くして、見せつけていたじゃない。これで少しは、私の気持ちがわかったかしら?」「アデラ妃様は政略結婚だから、私とフレデリク様が仲良くしていても気になさらないと思っておりました。もし、私の行動で気を悪くされていたなら、申し訳ありません。」「ふん、今更なんなのよ。同じ側妃と言う立場で、私がそれを見て、なんとも思わないと本当に思っていたの?鈍感女。」「すみません、本当にそうですね。」 私はようやく、私に対するアデラ妃の思いを理解した。 フレデリク様は「二人の妃は共に政略結婚だから、それぞれ好きなことをして過ごしており、私は全く気にすることはない。」と言っていた。 フレデリク様のおっしゃっていたこととは、どうやら違うのね。 だとしたら、ラモーナ妃もフレデリク様を慕い、私に嫌悪感を抱いているのだろうか?「伺いたいのですが、ラモーナ妃様も同じようにお考えだったのでしょうか?」「ラモーナ妃のことなんて、知らないわ。」 そう言って、私にするのと同じぐらい眉間に皺を寄せ、腕を組んで私を見下ろす。「ラモーナ妃と仲が良いとばかり思っていたのですが。」「そんなわけないでしょ。私達はフレデリク様を巡るライバルなのよ。表面上、仕方なく話しているだけだわ。」「そうですか。」 私は結婚してから、一年近くここで過ごしているのに、アデラ妃の本音や妃同士の関係について、一切気がつかなかった。 本当に私はフレデリク様と結婚して、浮かれていただけの、どうしようもない女なのだ。「
last updateLast Updated : 2025-01-24
Read more
4.溢れる贈り物
「マリアナ様、このクローゼットがいっぱいで、扉が閉まりません。収まりきらないドレスを、少し処分してもいいですか?」 私の居室で、溢れかえるドレスや宝石類などを眺めながら、困り顔のメイベルに提案されている。「そうね、でも、せったくいただいたのに、処分してしまうのはもったいないわ。せめて、教会などに寄付したらどうかしら?」「マリアナ様、素晴らしいお考えですが、寄付されたとしても、マリアナ様のドレスを着て行くほどの場所もないし、もらった方が持て余してしまうかと思います。 リメイクするなら、まだ何とか活用できるかもしれませんが。」「そうなのね。寄付するのも、うまくいかないものね。そもそもどうして、私のドレスが急に増えたのかしら?」 今までドレスはきちんとクローゼットに収まっていたはずなのに。「実は、お伝えしていませんでしたが、ドレスが増えたのではなく、減らなくなったのです。以前は洗濯に出すと、ほぼ綺麗な形では戻って来なかったのに、今では戻ってきています。」「なるほど、そうだったのね。」「誰の仕業かわかりませんが、ズタボロにされたドレスをあまりマリアナ様に見せないようにしていましたから、実感がなかったかと思いますが。」 メイベルは洗濯に出したのに、何故か破れたり、汚れて返ってくるドレスを、マリアナの目に入る前に処分していた。 それほどまでに、私はこの王宮の中で嫌われていたのね。そのことも今まで全然気がつかなかった。 私はここの侍女や使用人達とほとんど話したことはないけれど、笑みを交わして挨拶していたから、これほど嫌われているとは思っていなかった。「そうだったの?メイベルに気を使わせてしまったわ。」「私はいいんです。」「それにしても、いつから嫌がらせが終わったの?」「これもまた、お伝え辛いのですが、フレデリク王がこちらにいらっしゃらなくなってからです。」「なるほど。もう彼が私のところに来ないから、私に対する妬みがなくなったということなのね。」「はい、おそらく。」「嫌がらせしていた方の見当はついているの?」「直接手を下しているのは、侍女達ですが、そこに妃様方の指示があったかどうかまではわかりません。」「なるほどね。どちらにせよ、もう嫌がらせを受けなくなったのは良かったわ。ただやっぱり、多すぎるドレスは贅沢すぎるから、クローゼットにも入り
last updateLast Updated : 2025-01-24
Read more
5.ラモーナ妃
「あら、やだ、フレデリク様に見捨てられると、急に太るんですね。私も気をつけようっと。」 食堂で一人で食事をしていると、第二妃のラモーナ妃が現れ、私の食事を見て体型を侮辱する。 ラモーナ妃に話しかけられたのも、これまた初めてだ。 ラモーナ妃はニコニコと笑っており、一見人の良さそうな人に思える。 けれども、彼女の言葉は、棘が酷いとメイベルに教えられていた。「お腹が空いているだけです。」 実際、最近は吐き気が治ったせいか、食欲が増している。 二人分だから、普通のことなのかもしれないけれど、食堂で食べる方が料理人が私の食欲に合わせて、量を調節してくれるので、部屋で食べるより満足感を得られる。「あなたが、豚のようになってしまえば、フレデリク様を取り戻せないかもですよ~。」「何故、ラモーナ妃が私を心配してくれるのですか?」「心配しているのではないわ。バカにしているつもりです。」 ラモーナ妃は、はっきりと酷いことを言うが、笑みは崩れない。「そうですか?ラモーナ妃も私が嫌いでしたか?」「そうですね~、後から来て、調子に乗っているところとか気にいらないですね。」「私が来る以前は、フレデリク様はどうしていたのですか?今のように、二人の寝室を行ったり来たりしていたのですか?」「はい、そうです。ある意味、それはそれで公平な方だと思っていたんですよ。ふふ。」「では、私が二人のバランスを崩してしまったということですね。私が来てからは、フレデリク様はラモーナ妃の寝室に行っていなかったですよね?」「そうなんです。あなたのせいで、寂しかったです。」「ならばフレデリク様を横取りしたみたいな形になってすみません。私、政略結婚だから、ラモーナ妃は気にしないと聞いていたんです。 あなたは、私がこちらに来たとしても、フレデリク様との夜を三人で分けるべきと考えていたのですね。」「そうなります。」「私はそれをとても受け入れられません。私は私だけを愛してくれる人でなければ、一緒にはいられない。だから、私はその輪には一生入らないと思います。」「え~、それならそれでいいですけど。生意気なやつってことで。好きなだけ食べて豚になればいいで~す。」 この方、なんだか笑顔と言葉が乖離していて怖い。ある意味、アデラ妃より苦手かもしれない。 でも、もう私にはフレデリク様との未来な
last updateLast Updated : 2025-01-24
Read more
6.コーネル王国へ
「マリアナ様、至急、荷物をまとめよ。とのことです。」「えっ、何ですって?」 朝ゆっくりと寝ていたら、メイベルによって起こされた。「裏門に馬車が待っているから、誰にも見つからないように、王宮を離れ、コーネル王国に向かうように。とのことです。」「えっ、何故?」「理由はわかりません。でも、フレデリク王からの指示だそうです。急ぎましょう。」 私はメイベルに連れられて、隠すように置かれていた馬車に乗り、王宮を後にした。 急いでいたため、荷物は最低限だし、私は懐妊中だから、馬車の歩みは非常にゆっくりだ。 前後左右に馬に騎乗した護衛が、五十人ぐらいも馬車を取り囲んでいる。 この大規模な護衛は一体どうして? 馬車の前で私を待っていてくれて、その後一緒に馬車に乗り、私達を案内してくれた男性がいる。 今までフレデリク様がお忍びのように昼寝中にやって来た時、見張りをしてくれていたゲレオンと言う男だった。「ゲレオン卿、どうしてこんなにも護衛がつくのかしら?まるで軍隊の移動だわ。」「フレデリク王が、マリアナ妃をお守りしたいと思ったかったからです。」「そうなの?また、フレデリク様はわけのわからないことを始めたのね。」「わけのわからない?」「そうでしょ。これほどの数をつけなくても、もう私は無理にでも王宮に戻ろうとしないから、大丈夫なのに。私をコーネル王国に送り返しているんだから、離縁するのでしょ?」「まさか、フレデリク王がそんなことをするはずがないじゃないですか。なるほど、彼の嘆きもわかる気がします。」「えっ、あなたまでフレデリク様の味方なの?」「僕はフレデリク王の忠実な家臣です。」「そうよね。」 そう言って、今までの柔和な顔つきから、一瞬で抜け目のない男性の顔へと変化させたゲレオン卿を見る。 もし、私がそれほど大事だと言うのならば、彼はフレデリク様にとってとても信頼のおける方なのだろう。 でなければ、フレデリク様が私にこれほどの護衛をつけてまで、彼に託したりはしない。「僕の立場では何も言えませんが、フレデリク王はあなたを大切に思っていると、僕は思います。この一隊を見てください。この隊はすべてあなた一人を守るためにいます。 決してあなたが王宮に戻ろうとするのを、阻止するためではないのです。阻止するためなら、こんなに隊が必要なわけがありません。な
last updateLast Updated : 2025-01-24
Read more
7.出産
 マリアナがコーネル王国に戻ってから、しばらくの月日が流れていた。 スタンレー王国の護衛達の仮設宿舎もでき、元々穏やかなコーネル王国では、私を狙う者などいるはずもなく、ただ静かに時が流れている。 私はお父様の執務室で、お父様と仕事をしているゲレオン卿を訪ねた。「ゲレオン卿、少しお時間いただいてもよろしいかしら?フレデリク様からの連絡がまだ来ていないのでしょう? ここの国は安全だから、私を狙おうとする者など現れないわ。だから、せめて少しでも護衛達をスタンレー王国に帰らせてあげることはできないかしら?もう随分長いことこちらにいるし、家族が恋しい者もいるかもしれないわ。」「そうですね。そろそろ、交代要員を手配しますね。」「ちょっと待って。そこまでせずに、護衛を減らすだけでいいと思うの。」「それは絶対に無理です。マリアナ妃に何かあってからでは遅いのです。」 「私は大丈夫だと思うのだけど。」「あらゆる想定を考えてのこの人数です。ですから、もうこの話は終わりです。フレデリク王の指示を違えることはありません。」「わかったわ。」 私はゲレオン卿を説得するのを諦めた。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーそんなある日、もう臨月に差し掛かった私は、ついに陣痛が始まった。 痛むお腹を抱え、もういよいよ子が産まれそうになった時に、何故かフレデリク様の姿が頭に浮かび、彼にそばにいて欲しいと願った。 彼は私を捨て、もしかしたら、命を落とすかもしれないこんな時に、そばにいてくれない人なのに。 この胸が押しつぶされそうな寂しさが湧き上がるのは、何故なのだろう? もちろん、彼がそばにいたとしても、出産時は男性は扉の向こうで待つことになる。 だから、やっぱり一人なのだけど。 それでも、もしもこのまま命を落とすとしたら、せめて最後にフレデリク様の笑顔を見たいと思うのだ。 私を捨て、妃二人に囲まれている人なのに、やっぱり私はフレデリク様が好きなのね。 普段はあんな男なんていない方がいいと、理性が私の心を守ってくれているのに、痛みと不安で抑えていた感情が露わになるのを止められない。 この事実がつらくて、涙が溢れそうになる。 私は心の奥底では、フレデリク様が恋しい。 もう諦めるべきなのに、種火のように燻る想いが消えないのだ。 どうして、この想いはなくならな
last updateLast Updated : 2025-01-24
Read more
8.スタンレー王国へ
 セレスの首が座る頃、フレデリク様が迎えに来た。 やっぱりスタンレー王国へ戻らないといけないのね、憂鬱だわ。「マリアナ、手を。」「ありがとうございます。」 フレデリク様は上機嫌で、馬車にエスコートしてくれた。 フレデリク様と結婚しようと、ここからスタンレー王国へ旅立ったのが、遠い昔のように感じる。 あの頃は、愛に包まれていて、フレデリク様に大切にしてもらえると疑わなかった。 だから、心が弾んでいた。 でも今は、逆に不安が募るばかり。 なるべく、目立たないように、セレスと二人、王宮の片隅で静かに生きていこう。 そうすれば、二人の妃達から嫌がらせを受けずに済むかもしれない。 個性豊かなあの妃達と共に、フレデリク様に仕えるなんて、考えるだけ気が滅入る。「浮かない顔をしているな。」「…。」 もうスタンレー王国に戻りたくないと、皆の前で言って、ここでいらない怒りは買いたくない。 二人は静かに馬車に乗り込んだ。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 二日後、馬車はスタンレー王国の王宮にたどり着いた。 王宮内に入ってみると、まだ新しい木の香りが漂い、以前住んでいたのとは異なる部屋の造りになっている。「おいで、ここがセレスの部屋だよ。そして向かえがマリアナの居室で、奥が寝室さ。」 フレデリク様に案内された部屋は、セレス用の子供部屋と、新しく作られた明るい私の部屋だ。「フレデリク様、お部屋を新しくしてくれたのですか?ありがとうございます。セレスの部屋まで。」「気分を一新しようと思ってね。マリアナの寝室からは、私達二人の寝室に繋がっているんだ。そして、その先に私の寝室がある。」「えっ。」 新しい部屋に喜んだ次の瞬間、私の笑顔は固まった。 私は今までフレデリク様の寝室には、行ったことがない。 いつも、彼が私の寝室に来ていたのだ。 私とフレデリク様の寝室がこんなに近ければ、彼が二人の妃の寝室に行く時は、物音で気づいてしまうかもしれない。 今ちょうど二人の元へ行っていると思いながら、夜を一人で過ごさないといけないの? どうして、こんなにもフレデリク様は残酷になれるの?そんなの女として辛すぎる。「…どうして私達の寝室をこんなに近くにしたんですか?」「むしろ今までが距離があり過ぎたんだ。これからは、もっと自由に行き来できるよう
last updateLast Updated : 2025-01-24
Read more
Scan code to read on App
DMCA.com Protection Status