スタンレー王国のフレデリク王には現在三人の側妃がいる。 いずれも政治的な意味合いで迎えられ、周辺諸国との友好関係を築くための役割を果たしている。 その中の第三側妃マリアナは、今まさに懐妊したばかりだった。 まだ、初期の段階だから、周囲へは伏せているけれど、フレデリク様がこの知らせを聞いて喜んでくれることを期待していた。「フレデリク王はきっと喜んでくれますよ。何しろ初めての御子をマリアナ様は、懐妊したのですから。」「そうよね。何てフレデリク様は言ってくれるかしら?」「それは、いらしてからのお楽しみですね。」 私は侍女のメイベルと一緒に、フレデリク様が、私の寝室に来てくれる日を心待ちにしていた。 けれども、侍医からフレデリク様へ、もう懐妊の知らせが届いているはずなのに、私にその事実を告げられたあの日から、彼は一度も寝室に足を運んでくれなくなった。 まだ、懐妊していることを、公に発表をする時期ではないけれど、彼と一緒にこの喜びを分かち合えると思っていた。「おかしいわ。フレデリク様は、私のところにいらっしゃれないほど、お忙しいのかしら?」「…マリアナ様。このことはいずれ耳に入ってしまうと思うので、お伝えします。」「うん。」 メイベルは意を決したように、顔を固くし話し始める。「フレデリク王は、数日おきにアデラ妃とラモーナ妃の寝室を訪れているそうです。だから、忙し過ぎてこちらに来れないわけではないと思われます。」「えっ、そんな…。」 私は驚きとともに、深い悲しみに包まれ、言葉を失う。 私がフレデリク様の側妃に迎えられてから、彼が他の妃たちのもとに行くことは一度もなかった。 それが、私が懐妊した途端に、フレデリク様は二人のところに通い始めているなんて。 私が懐妊したことで、フレデリク様にとって私は、もうどうでもいい存在になったのだろうか? それとも、実は私を世継ぎ欲しさだけで、求めていたの? 幸せの絶頂から、突然、深い絶望の底につき落とされた気がした。 私はなんて愚かだったんだろう…。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー二年前、スタンレー王国からフレデリク王が、視察のためにコーネル王国に来ると聞いて、王宮は大騒ぎになっていた。 何しろ、スタンレー王国は広大な上に栄えていて、マリアナのいるコーネル王国など、比べ物になら
最終更新日 : 2025-01-24 続きを読む