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第9話

Penulis: またり鈴春
last update Terakhir Diperbarui: 2025-03-01 23:27:43

「答えろよ萌々。キス初めてだったのか?」

「……言いませんっ」

食べ終わったお皿を洗おうと、キッチンへ向かう。勢い余って、たくさんの食器を一気に持ってしまった。あぁ私、すごく動揺している。初めてのキスだったって絶対にバレないようにしないと――そう気を引き締めた時だった。グイッと私の肩を皇羽さんが掴む。

「危ないですよ皇羽さん、食器が」

落ちちゃう――と最後まで言えなかった。だって皇羽さんにまた唇を奪われてしまったから。いや正確には、奪われそうになったから。だけど皇羽さんは私の顔に限りなく近寄ったかと思いきや、キスする一歩手前で止まった。私は「ひゃ」と声を上げ、思わず目を瞑る。皇羽さんの重たいため息が、私の震えるまつ毛にぶつかった。

「はぁ~萌々さ、もうちょっと警戒しろよ」

「さ、最大限にしています……っ」

「嘘つけ。迫られて目を閉じているようじゃ隙だらけだぞ。本当に奪われたくなかったら、俺の頬を叩いてでも阻止しろ。絶対に気を許すな」

「〝本当に奪う〟?」

意味が分からなくて首を傾げる。すると皇羽さんは気まずそうに私から視線を外し「未遂だ」とむくれた。

「朝、チャラ男の前でしたキスは未遂だ。キスのフリをしたんだよ」

「え!でも柔らかい感触がありましたよ?」

「それは俺の指」

「えぇ、もう〜。そうだったんですね」

私が持っていた大量のお皿は、いつの間にか皇羽さんの手へ移動していた。いつの間に持ってくれたんだろう。でもこれ幸いにと、ヘナヘナとその場に座り込む。私のファーストキスが無事だと分かって気が抜けちゃった。

でも良かった。本当のキスじゃなくて良かった。だってファーストキスは大切にしたいから。女の子にとってファーストキスはやっぱり特別だもん。

「は〜良かったぁ……」

安堵の息をつくと、上から「気に食わないな」と皇羽さん。見上げると、皇羽さんの眉根にシワが寄っている。どうやら不機嫌らしい。

「そんなに俺とのキスが嫌なのか?」

「そりゃそうですよ。会って間もない人とキスなんて絶対に嫌です。それに〝ファーストキスは好きな人としたい〟って女の子なら思いますもん」

「つまり萌々は、俺の事が好きじゃないと」

「どうしたら今日会ったばかりの皇羽さんを好きになれるんですか?」

「〝今日会ったばかり〟か。フン、俺も知らないな」

「はぁ?」

もうヤダ。この人は一体なんだろう?何に対して
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  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第37話

    「今日からウチのクラスに転校してきた麗有(うらあり)皇羽(こう)だ。皆、仲良くするように~」「……え?」学校に到着し、一時間目が始まる前。珍しく担任が教室に来たと思ったら、驚くことに後ろに皇羽さんが控えていた。思いがけない光景に、開いた口が閉まらない。反対に皇羽さんは、私の姿を捉えると目を細めて笑った。もちろんイケメン皇羽さんがそんなことをすれば、クラスの女子が黙っているわけはなく。皇羽さんの微笑後、間髪入れずに黄色い悲鳴が教室に轟く。「キャー!カッコいい~!」 「 Ign:s のレオじゃん!違うけど、レオそっくりじゃん!」 「レオー!こっち向いて―!」 「キャー!レオくーん!!」あまりのそっくりさんに、女子達は阿鼻叫喚。むせび泣いて手を合わせる子もいれば、「写真撮っていいですか?」と担任がいるにもかかわらず堂々とスマホを取り出す子もいた。一方の担任は「また〝コレ〟だよ。職員室の二の舞だな」とポツリと零す。どうやら Ign:s のレオは幅広い年齢の女性を虜にしているようだ。「皆~さっきも言ったように、この子はレオじゃなくて皇羽だからな。わざと間違えないように」釘を刺した担任の言葉をしっかりと聞いたにも関わらず、クラスの女子たちは声を揃えて「レオ―!」と名前を呼ぶ。まるでコンサート会場だ。一方の皇羽さんは私から目を逸らした後。スンとすました顔で自己紹介をした。「麗有皇羽です。よろしく」なんてそっけない挨拶。皆からの心象が悪くなりそうだ。……あぁそうか。皇羽さんはレオと間違われることに辟易しているから、わざと間違えて「レオ」と呼ぶ女子達が気に入らないんだ。皇羽さんの気持ちは分からなくもないけど、いかんせんレオそっくりさんなのだ。どこをどう見てもレオな皇羽さんが、女子たちに何の反応もせずに無表情のまま自分の席に座るのはいかがなものだろうか。皇羽さんの印象が悪い=レオへの風評被害になるのでは?心配していると、教室から「ほぅ」といくつもの感嘆の声が漏れる。何かというと、女子達が目をハートにして「クールなレオも素敵」、「俺様な言葉で罵られたい」とあらぬ願望を抱いていた。女子達のめげないガッツに、心の中で拍手を送る。同時に、イケメンは何をしても絵になるのだと悔しくなった。あとは……皇羽さんが〝たくさんの女子に見られる〟というのが何となく引っかか

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第36話

    「萌々、昨日自分が何をされたか分かってないのかよ」「な、なにって……」なにって、なに⁉それ以上は聞くのが怖かったため、グッと言葉を飲みこむ。すると皇羽さんが「それよりも」と自分のお腹を労わるようにさすった。「お前の寝相はどうなってんだよ。回し蹴りを食らって気絶するかと思ったぞ」再び寝相の話をするなんて、よほど痛かったんだ。でも私が悪いわけじゃない。皇羽さんにだって落ち度はある!「横で私が寝ているのに、逃げなかった皇羽さんが悪いです。何をモサッとしていたんですか?」 「! ……なんでもない」静かになった皇羽さんを見るに、昨日なにかを書いていたことは秘密にしたいらしい。あの時の私はほとんど眠っていたから、何を書いていたかまでは見えなかったんだよね。本当は根掘り葉掘り聞きたいけど、皇羽さんの右手首が気になる。昨日張った湿布が、半分以上とれかけているからだ。「皇羽さん、ちょっと右手かしてください。湿布を貼り替えます」「……ん」大きなたくましい腕が、ズイと私に向かって伸びて来る。湿布をはがす時、ゴツゴツした指に触れると皇羽さんがピクリと反応した。「小学生じゃあるまいし」なんて思ったけど、耳をほんのり赤く染める皇羽さんを見ると私まで意識してしまう。だんだんと指が汗ばんで来た。いけない、また流されそうになっている!邪念を祓うため、近くにあった油性ペンを手に取る。そして貼り直した湿布に、楽しく落書きをした。といっても私は猫しか描けない。「出来ましたよ」「ん、さんきゅ」どうやら猫に気付かなかったらしい皇羽さんは、持っていたシャツに袖を通す。高校指定のシャツかな?私の学校の物とよく似ている。チラリと時計を見ると、現在七時半。よし、なんとか間に合いそう!自分の準備をしながら、ふと疑問に思ったことを皇羽さんに聞いてみた。「皇羽さんは何時の電車に乗るんですか?調べたところ、私の学校と皇羽さんの学校は近いみたいです。駅も一つしか違いません。日によっては一緒に行ける日がありそうですよ!」いい案だと思ったけど、皇羽さんは「あ~」とシャツのボタンを留めながら唸る。何か不都合があるのかな?何に悩んでいるんだろう?気になって皇羽さんの言葉の続きを待っていると、「いいのか?学校に遅れるぞ?」 「本当に話題を逸らすのが下手ですね……」どうやら私に知られたくない

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第35話

    一方、画面の中にいるIgn:s のメンバーも、思いもよらないレオの発言に興味津々。矢継ぎ早に質問を投げかける。『へーどんな猫?ってか住み着いてるって(笑)』 『レオの家に行くぐらいだから、すごく品のある猫とか?』『普通の猫だよ。ただ少し気性が荒くてね。何回ひっかかれそうになったか』 『じゃあ追い出すの〜?』レオは少し考えた後。意味深な笑みを浮かべてニコリと笑う。『追い出さない。むしろずっと住み着いていてほしいな。どうにかして気に入られたいんだよね。俺、あの猫が気に入っちゃったんだ』「……」その時、私の頭に手を置く皇羽さんの手がピクリと反応する。そればかりか「チッ」と舌打ちをし、〝さっきいじめた〟私の首にスルリと指を這わせた。「勝手につまみ食いしやがって。なにが“気に入った”だ。俺が見つけたんだ。気に入られたかったら、全力でこいつを手懐けてみろよ」「こいつ」なんて言葉が悪いなぁ――そんなことを思っていたら、皇羽さんの手に力が入る。え、まさか「こいつ」って私のこと?……まさかね。考えすぎか。皇羽さんが私を襲わないと分かって安心したからか、本格的に眠くなってきた。するとテレビを消した皇羽さんが私の髪に触れる。まるで赤ちゃんを撫でるように、何度も私の髪に手を通した。規則的な動きから来る安心感で、眠さが倍増だ。サラサラと髪が順番に滑り落ちていく。その度に良い匂いが二人を包み込んだ。「やわらかい髪だな。それに俺と同じ匂いがする」シャンプーもボディソープも洗濯洗剤も。全て一緒で同じ匂い。一緒に住んでいるから当たり前なんだけど、それが妙にくすぐったい。この前会ったばかりなのに、すごく仲良しみたいじゃん。「はぁ、たまらないな……」皇羽さんの熱っぽい吐息を聞いて、夢見心地だった意識が少しだけ覚醒する。なんだか雲行きが怪しいような……。重たいまぶたを僅かに開けると、皇羽さんは堪えきれない笑みを隠そうともせず口に弧を描いていた。不敵な笑み丸出しだ。「アイツへのお返しは、ココだけじゃ足らないよな?」トントンとノックするような手つきで、再び私の首を触る。顔をのぞきこまれたから、急いで目を瞑った。そんな私を見て皇羽さんは「起きないなら好都合だな」とおでこにキスを落とした後。自室から、紙とペンを持って来る。手首を痛めた右手に代わり、左手でペンを走らせる。そ

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第34話

    それにしても、こうなった皇羽さんは「テコでも動かない」って何となく分かる。皇羽さんの部屋の秘密を知りたいけど、どうやら彼の口は堅そうだ。仕方ないからため息を一つ吐いて、キッチンから雑炊を運ぶ。用意が整った後、私も皇羽さんの隣へ座った。「萌々の手料理……うわ、やばい」まるで熱い物を食べた時のように、頬を紅潮させ雑炊を見つめる皇羽さん。適当に野菜を入れて雑炊の素を入れただけの料理に、そこまで有難みを覚えられると逆に肩身が狭くなる。「いただきます」「ど、どうぞ」そう言えば薄味にし過ぎたかも。鶏肉、かたくなりすぎてないかな?自分の料理がいざ他人の口に入ると思ったら、妙に緊張してしまう。だけど皇羽さんはそんな私の緊張ごと食べるように、大きな口を開けて勢いよく雑炊を胃に落としていく。「……っ」ドキドキ。私の手料理を食べる皇羽さんが直視できなくて俯く。すると床に並んだ私たちの足が目に入った。身長だけにとどまらず、私たちは足の大きさもけっこう違うらしい。皇羽さんの足って巨人みたいだ。いったい何センチあるんだろう。「ん、うまっ」「! 味、薄くないですか?」「ちょうど良くてすごく美味い。あったまるわ、ありがとうな萌々」「い、いえっ」どうやら「すごく美味い」はお世辞じゃないらしく、皇羽さんはパクパクと食べてくれた。一口が大きいなぁ、なんて思っていると「おかわりある?」と自らソファを立つ。「ありますよ」と答える前に、そそくさとキッチンへ向かうものだから思わず笑ってしまった。せっかちだなぁ。だけど、それほど私の雑炊を食べたいと思ってくれるのは嬉しい。今まで自分が料理を作って自分が食べるだけだったからなぁ。誰かに食べてもらえるって、こんなに嬉しいことなんだ。「そういや昨日から何も食べてなかったな」「ちょっと、冗談はよしてくださいよ」私ははっきり見ましたよ。コンビニで買った唐揚げとグミを、皇羽さんがキレイに完食したのを!言い返そうとしたけど、熱で記憶が曖昧なのかもしれない。本人が覚えていないことを蒸し返しても仕方ないよね。全て風邪が悪いってことにしておこう。「しかし本当に熱って怖いですね。記憶障害が起きるなんて……ふぁ〜」「あくび?寝てないのか?」ソファの背もたれに寄りかかり目を擦る私を見て、皇羽さんはキョトン顔。私を見ながらも雑炊を食べる手を止めな

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第33話

     ◇翌朝。皇羽さんは九時に寝室から出てきて「良く寝た」と大きなあくびをする。ちょうどキッチンに立っていた私は、すっかり顔色が良くなった皇羽さんをジーッと見つめた。体調は良さそうだ。熱も引いたかな?そのまま「腹減ったー」と皇羽さんがやって来た。たった一人増えただけなのに、皇羽さんのガタイが良いばかりに広いキッチンが一気に狭く感じる。「皇羽さんおはようございます。調子はどうですか?」 「ん、もう全快」昨日は倒れるほど調子を崩していたのに今は元気なんて。それはそれでバケモノだ。ひょっとして無理しているとか?昨日だって、熱があるのに不必要に外出を繰り返した皇羽さんのことだ。今日もどこか出かけたいからと、体調の悪さを隠している可能性は充分にある。「体調、本当に良いんですか?」「ほんと」「ウソじゃなくて?」「いくら萌々に心配かけたくないからって、ウソはつかないぞ」「……そうですか」なんと言っていいか分からなかったから、そこで話を区切る。念のため顔色を見ると、確かに血色が良い。よかった、元気そうだ。昨日の〝赤いのか青いのか〟みたいなマーブル色じゃなくてホッと息をつく。「あ、ちょっと失礼しますね?」「! ……ん」手を伸ばしておでこに触れる。触る直前、なぜか皇羽さんが嬉しそうにまぶたを閉じた。なんだか飼い主に気を許した猫みたい。ちょっと可愛く見えちゃって、彼に触れる指先が脱力した。……あぁダメダメ。私まで気を許しそうになっちゃった。ペシリと、皇羽さんのオデコを軽く叩いた後。「大丈夫ですね」と距離をとる。無意味に一発食らった皇羽さんは、さっきの幸せそうな顔とは打って変わって渋い顔だ。心の中で「ごめんなさい」と謝る。「触った感じは平熱ですね。でも一応は体温計で測らせてください。あと夕方は体温が上がりやすいので、その時にもう一度測りますよ」 「えらく詳しいな?」「自分の体調は自分で管理しないといけなかったので、自然と覚えたんですよ」 「……」私にとっての日常を語ると、皇羽さんは固まってしまった。隠しとけばよかったかな?でも本当のことだし……。母親は、家に帰って来ない日が多々あった。私が病気をしている日も然りだ。最初こそ自分が優先されないことにショックを受けたけど、慣れてしまった今は何も思わない。それに手探りで覚えた渡世術は、こうしてちゃんと役に立

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