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第13話

last update Huling Na-update: 2025-03-05 10:05:18

皇羽さんの衝撃的な爆弾発言に、レジのスタッフさんも近くにいたお客さんも動きを止めた。皆が皆、両目をハートにして皇羽さんを見つめている。「あんなにイイ男に抱かれるなら本望よ」と血迷った声さえ聞こえる。

「さ、先に外へ出ます!」

恥ずかしさに耐えられず、クルリと向きを変える。その際に皇羽さんとスタッフさんの会話が聞こえた気がしたけど、聞かなかったことにしてダッシュで外へ飛び出した。

その時の会話が、どんなものだったかというと……

「愛されてますねぇ彼女さん」

「でしょ?可愛いアイツ見られるのは俺の特権だからね」

「はぁ~いい男ですねぇ。でも、あなたどこかで」

「おっと、じゃあね」

私を追いかけるため、ショッピングバッグを持ってお店を後にする皇羽さん。スタッフのお姉さんは名残惜しそうに「ありがとうございました」とお辞儀をした。

一方。先にお店を出た私は、お店から遠い場所に設置された無人のベンチに座っていた。皇羽さんと一緒に行動すると疲れるから、ちょっと休憩。

「人前であんな恥ずかしい事を言うなんて。皇羽さんどうかしてるよ……」

本人がいないのをいいことに悪口を言いまくる。といっても今まで皇羽さんからされてきた事を思えば、少々の悪口を言ってもきっとバチは当たらない。

「だいたい下着屋さんに入るのもダメだし勝手に選ぶのもダメだよ。全部私の好みだったけどさ」

「へぇ好みならいいじゃん。何に怒ってんだよ」

「わ⁉」

振り向くと、ベンチの後ろに皇羽さんが立っていた。かけ直したサングラスから漂う、どこぞのVIPオーラ。加えて体格も顔もいいから困りものだ。本当にアイドルじゃないの?むしろアイドルじゃないとおかしいよ。……いや、皇羽さんが本当にアイドルだったら困るけどさ。

「萌々?もーも?」

皇羽さんは後ろから、不満そうに私の顔を覗き込む。……むぅ。下着屋から離れた場所にいた私をすぐに見つけるなんて。皇羽さんには、私を見つけるセンサーでもついているのかな?彼の急な登場に、ビックリして言葉が出ない。

「なにビックリしているんだよ。まさか俺から逃げられると思ったのか?甘いな萌々」

「逃げられるとは思っていないです。それよりも何よりも、下着屋さんでの皇羽さんの言動が恥ずかしかったんです!」

必死に訴えるも皇羽さんは興味なさげに「ふーん」と言うだけで、自分が悪いと思っていないみたい。「もう」と
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  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第14話

    私の指が食べられた瞬間。皇羽さんの舌の感触にビックリして、思わず「あ」と声を上げてしまう。その声が上ずってしまい、妙になまめかしくなった。いやらしい声を皇羽さんに聞かれるのが恥ずかしくて慌てて口を押さえる。今の声、皇羽さんに聞かれた?聞かれなかった?どっち……!?不安を覚えながら、皇羽さんへ顔を向ける。すると彼は無表情で私を見つめていた。もっとニヤニヤしているかと思ったのに意外だ。少し見直しちゃった。そう思った直後「はぁ~」と皇羽さんがため息を吐く。サングラス越しに黒い瞳がギラついて見えるのは、気のせいだろうか。「お前って奴は本当に。マジでどうなってんだよ」 「〝 どう〟とは?私は別にどうもなっていないですよ?」「いや、なってる。現に、場所を選ばず俺を〝その気〟にさせてるだろ」 「勝手になってるだけじゃないですか……」そうか。さっき皇羽さんが無表情だったのは、頭から「その気」を追い払っていたんだ。せっかく皇羽さんを見直したのに、まさか〝 私の声で興奮した頭〟を冷やしていたなんて。「大体あれだけナンパされている人が、たかだか女子高生の色っぽい声を聞いただけで反応するなんて」呆れながら言うと、皇羽さんは頭を横へ振りながら「違う」と否定した。「女子高生の声なんて聞いても何も思わない。俺は、萌々の声だからこそ…………」「私の声だからこそ?」「……思い出させるな」大きな手で顔を覆った皇羽さんを、恐る恐る覗き見る。するといつもの強気な雰囲気ではない、耳を赤くした皇羽さんが視界に写った。眉間にシワを寄せている……いや、あれは困った顔かな?皇羽さんの意外な一面に、思わずプッと吹き出しちゃう。「ともかく、あんな声を聞いただけで顔を赤くするなんて。皇羽さんって意外にウブなんですね」 「おい萌々。今日の夜は覚えていろよ?」下着のショップバッグを左右へ動かしながら、真顔に戻った皇羽さんが脅してくる。もちろん私は高速で「すみません」と謝った。◇その後。私たちは朝食を食べるために、ゆったりした曲が流れるイタリアンのお店に入った。「それで?なんで萌々は Ign:s が嫌いなんだよ」 「えぇ……」今それ言う?運ばれてきたパスタに手をつけようとした瞬間、そんな話題を振るなんてあんまりだ。私はギュッと口をへの字に曲げる。「今する話じゃありません」 「じ

    Huling Na-update : 2025-03-06
  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第15話

    「正確にはIgn:s のデビュー曲が嫌いなんです」 「デビュー曲?」「『Wish&』です」 「嫌いな割にはよく知ってるな」「友達が Ign:s を大好きなだけです」 「ふーん」大盛りパスタを注文した私とは反対に、皇羽さんはコーヒーだけ頼んだ。運ばれてくると、サングラスを外して長い足をキレイに組む。カップを持ち上げている姿はどこぞのモデルで、まるで撮影中みたいだ。「一つ聞きたいんだが」サングラスをとっているから、皇羽さんとバッチリ視線がぶつかる。私を探るように、漆黒の瞳がこちらへ向いた。「デビュー曲が嫌いな理由は?歌い方かダンスか、それとも歌詞が嫌いなのか?」 「歌詞が嫌いです」 「……マジ?」今まで一番驚いた顔で、皇羽さんは私を見た。なにやら衝撃を受けたらしく固まってしまう。試しに顔の前で「おーい」と手を振っても、何の反応もない。気にせずパスタを何口か食べていると、やっと皇羽さんは正気に戻ったらしい。まるで息を止めていたように「はぁ~」と長いため息を吐いた後、何を言うでもなく窓の外へ顔を向けた。それきり黙ってしまったから、私は気にせず続きを話す。「歌詞に出てくる女の子が、私とよく似ているんです。お金がなくて苦労している所とか」皇羽さんはチラリと瞳だけ寄こす。顔は窓へ向いたままだけど話は気になるらしく、「それで」といつもより低い声で続きを促した。「私と似ている女の子……なんですけど、その女の子は王子様みたいな人と出会って人生大逆転。今までの苦労がウソみたいに、誰よりも幸せになっちゃうんです」 「つまり〝自分と同じ境遇でありながら最後には幸せになる奴が許せない〟って事か」少し攻撃的な言葉に、思わずムッとする。皇羽さんって「ここぞ」という時にイジワルだ。私が隠したい本音を、わざわざ引っ張り出してくるんだもん。「……誰もそこまで言っていませんよ」への字になった自分の口へパスタを運ぶ。あれ?おかしいな。さっきまで美味しかったのに、今じゃ全く味がしないや。まるで素パスタを食べているみたい。「もう。皇羽さんのせいですよ。嫌な話をしたせいで気分が下がっちゃいました」 「……」一方的に怒る私を見ても、皇羽さんはいつになく静かだった。さすがに家での口ケンカを外で再現する気はないらしい。周りのお客さんの迷惑にならないよう、急いで私も口を閉じ

    Huling Na-update : 2025-03-07
  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第16話

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    Huling Na-update : 2025-03-08
  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第17話

    「よく作詞家の名前を覚えていましたね?皇羽さんは Ign:s のファンなんですか?」 「そんなわけないだろ。むしろレオと間違われて嫌気がさしてるっての」「じゃあどうしてmomosukeのことを知っていたんですか?」 「……たまたまテレビで見て知っただけだ。珍しい名前だしな」珍しいと言われたらそれまでだけど、本当にそれだけ?質問したかったけど、外を見る皇羽さんの横顔が強張っているから聞きにくい。……意図が読めない表情をするのはやめてほしいな。「もしかして何か隠している?」って疑っちゃうよ。ただでさえ Ign:s のレオと瓜二つなんだから、怪しい言動は控えてよね。「あの、皇羽さん」気にしないようすればするほど気になるから、やっばり「何か隠しています?」って聞こうとした。だけど視線を下げた時、皇羽さんと一緒に回った数々のショップバッグが目に入る。久しぶりの買い物はとても面白くて、楽しかった。下着屋さんではひと悶着あったけど、それでも今日は本当に楽しかったんだ。火事で何もかもを失いぽっかり空いた心を皇羽さんと一緒に埋めていく、そんな日だった。今日は心がずっと温かい。「なんだよ萌々」「……いえ、何でもありません」今日が楽しかったから、深く質問するのはやめよう。水をさすことはしたくないし、〝きっと皇羽さんは何も隠していない〟って今なら信じられるから。私は残りのパスタを、一気にフォークに巻き付ける。そしてにっこりと笑って見せた。「パスタがとても美味しいです。皇羽さんも一口どうですか?」 「食わせてくれんの?」パカッと口を開けた皇羽さんが、笑いながら私を見る。今更だけど、家にいる時とは違う雰囲気が(悔しいほど)カッコイイ。いや家にいる時もカッコイイけど、ビシッと私服を着こなしている分〝さらに〟だ。頭上にぶらさがる照明も、いい塩梅に彼を照らしている。「〝あーん〟なんてしませんよ?恥ずかしいじゃないですか」「恥ずかしい?萌々がしてくれるなら大歓迎だけどな」そんな調子のいいことを言う、一般人とは程遠いイケメンの皇羽さん。私を見る眼差しが優しい。というか妙にソワソワして色めき立って見えるのは気のせい?「なぁ萌々」 「ん?」「夜の下着、さっき買った中のどれにする?想像すると楽しみで何にも手につかねー」 「……」それが原因で、お昼時だというのにコ

    Huling Na-update : 2025-03-09
  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第18話

    その後。いつもの雰囲気に戻った私たちはパスタを食べ終え、あいも変わらず口喧嘩しながら家へ帰った。口喧嘩の内容はというと……。「どうして皇羽さんはヘンタイ発言しか出来ないんですか!」 「逆に、どうしてその発想に至らないのか不思議だな」事の発端はこうだ。ショッピングから帰宅後、皇羽さんに用事があったけど姿がなかったため彼の部屋をノックした。でも返事がないから「寝ているのかな?」と思い、静かにドアを開けようとしたのだ。だけど私の背後から、ニュッと骨ばった手が伸びる。『待て。そこはダメだ』 『わ!』どうやら自室ではなく寝室にいたらしい皇羽さんが、まるで狩りをする獣のごとく光の速さで駆け寄った。そして頑なに自室への入室を拒否したのだ。そんなことをされたら〝部屋の中に何があるのか〟気になって仕方がない。だから「部屋に入ってみたい」とド直球に〝お願い〟してみた。だけど皇羽さんは「ダメだ」の一点張り。それでも引き下がらない私に、皇羽さんはとある約束を(半ば強制的に)とりつけた。『俺との生活で約束してほしいことは一つだけ。絶対に俺の部屋に入らない事、いいな?』 『もし破ったら?』『俺の目の前で、今日買った下着を順番につけてもらう』 『ヘンタイ!!』そうして冒頭の口喧嘩へ繋がる、というわけだ。でも侮れないのが、皇羽さんは「やると言ったらやる男」だということ。もし私が皇羽さんの部屋に入ったら、確実に生着替えをさせられる。だから絶対に入らない!でも、どうして入ったらダメなんだろう。ここまでして私から自室を遠ざけるなんて、中に〝とびきりヤバい物〟があるに違いない。それって何だろう。気になる。腕を組んでうなる私。そんな私を見た皇羽さんはとびきり大きなため息を吐きながら、買い込んだショップバッグを床へ置く。次におもむろにシャツを脱ぎ始め、たくましい腕に引っ掛けた。「ギャ!いきなり何ですか!」「汗かいたんだよ。風呂に行ってくる」「まだ夕方ですよ?」「いい。それより早くスッキリしたいんだ」すれ違いざま、皇羽さんが持つシャツから香水の匂いがする。皇羽さんも香水をつけるらしく、玄関にいくつか瓶が置いてあった。今日ショッピングに行く前、興味本位で嗅いだらいい匂いだったからよく覚えている。「だけど、さっき匂ったのは違う香りだよね?」きっとショッピング中、ナンパされ

    Huling Na-update : 2025-03-10
  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第19話

    きっと重かっただろうな。それでも顔色一つ変えずに、私がお店を気にしたら「入るか」といろいろ寄ってくれたんだよね。遠くにあるお店が気になった時も、すかさず「行くぞ萌々」って。私のどんな仕草も見逃さない皇羽さん。裏を返せば、それだけ私のことをたくさん見ているのかな?気にしているってこと?それは居候の身としては有難い。だけど「過保護すぎない?」とも思ったり。いや絶対に過保護だ。だって……「このショップバッグの数が物語っているよね。明らかに買い過ぎだよ」いち、に、さん……すごい。十を超えている。というか二十までいきそうだ。でも考えてみれば妥当だ。だって回ったショップのほとんどで買い物をしたのだから。遠慮する私に、皇羽さんがどんどん買う物を運んで来たんだ。「萌々はこっちが似合う」とか「これ必要だろ」って。あれこれ口を出されすぎて、まるで皇羽さんの買い物に行ったみたいだったよ。やっぱり皇羽さんは過保護だ。「でも全部のお金を出してもらっちゃった……アルバイトして絶対に返さないと!」意気込んだけど足が疲れたから、少しだけソファへダイブする。三キロくらい体重が減ったかも?って思うほど、すごい運動量だった。「ふー」と息を吐きながら目をつむる。すると頭の中に、一日一緒にいた皇羽さんの顔が浮かんだ。過保護の皇羽さん。だからといって侮れない皇羽さん。パスタのお店で私がトイレへ行く時、あの質問をされた時はビックリした。――一年前、この辺りで何か買った?――例えば〝ドキドキするもの〟みたいなあれは一体どういう意味だったんだろう。「心当たりがない」と完璧に言えないから返答に困った。だから「知りません」とあいまいに返したけど、あれで良かったかな。でも「だよな」とアッサリ引き下がった皇羽さんを見るに、深く考えずに質問したことだったかな?「皇羽さんが優しいのは分かったけど、それでも〝まだまだよく分からない人〟なんだよね」どういう理由があって私を部屋へ置くのか。どうしてここまで尽くしてくれるのか。何か考えがあるのか、それとも全くないのか。「むしろヘンタイな考えしか頭になかったりして」チラリと下着屋さんのショップバッグを見る。今日の夜から着るわけだけど、まさか「見せろ」とは言わないよね?あぁ、まさか自分の身を二十四時間ずっと気にする日が来るとは……。皇羽さんって基本はいい人なんだ

    Huling Na-update : 2025-03-11
  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第20話

    迷いながらもようやく辿り着いたのは、太い柱さえも炭になり黒焦げと化した私のアパート。屋根も壁面も無くなり、柱しか残っていない。想像したよりもヒドイ惨状に生唾を飲む。ここへ踏み込む勇気を、急いで心の中で練り始めた。「どうか見つかりますように」幸いにも私の部屋は少しだけ原型が残ってる。一階の一番端。震える足に鞭を打ち、黄色の規制線をくぐる。そして私の部屋があっただろう場所へ近づいた。砂利と炭を踏み潰しながら、まだ煙たい空気の中やっとのことで辿り着く。「ここが私の部屋……」もう全て燃えているかもしれない。だけど捨てきれない希望を抱いて、近くにあった木の棒で黒い炭をよけていく。もしかして埋もれているかもしれない。そう思い、ガリガリと音を鳴らしながら掘り進める。「うぅ、けっこう力がいるなぁ……」同じ作業の繰り返しで手がしびれてきた。木の棒を握ったままの形で、指が固まっている。それでも諦めず何度も掘った。誰かに見つかると怒られるから、夕日の明かりだけを頼りにして。だけど掘れど掘れど収穫ゼロ。やっぱり何も出て来ない。虚しい時間だけが過ぎていく。使い過ぎた手が限界を訴えるように、か弱く震え始めた。「は〜ちょっと休憩。うわ!手も服も真っ黒!どうしよう。これ皇羽さんの服なのに……」勢いで行動したことが裏目に出た。火事現場へ行くなんて汚れるに決まっているのに〝自分の服に着替える〟って考えに至らなかった。 はー、私ったら何をやっているんだか。やるせないため息が出る。「探し物は見つからないし服は汚れるし。勝手にアパートを出たこともいけなかったよね。まだ皇羽さんはお風呂中かな?帰ったらきちんと謝ろう」自分の無力さに悲しくなる。ピュウと心に北風が吹き込んだみたいだ。寒くて寂しくて、ちょっぴり泣いてしまいそう。ズズッと鼻を鳴らした、その時だった。「萌々!!」 「……え?」遠くで私を呼ぶ声が聞こえる。炭の中から立ち上がって遠くを見ると、一人の男性が私に向かって走ってきていた。あの声と姿、間違いない。皇羽さんだ!「萌々!」 「皇羽さん、どうして……」皇羽さんは「立ち入り禁止」のテープを軽々と飛び越えて私の所へ来た。ガッと私の両腕を握り、物凄い剣幕で睨んでくる。「どうした、何があった!」 「な、何も……」「何もないのに、こんな焼け跡に来るわけないだろ!」あまりの

    Huling Na-update : 2025-03-12
  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第21話

    「ちょっと、苦しいです!」 「俺に何も言わず、一人でこんな所へ来た罰だ」「罰って……」 「うるさい。人の気も知らないで……。いいから、お前は黙ってこうされていろ」顔を上げると、ギュッとかたく目をつむる皇羽さんの顔が見えた。長いまつ毛が少し震えている。もしかして寂しかったのかな?それとも「何か事件に巻き込まれたかも」って怖かった?私が思っているよりも、皇羽さんに心配かけちゃったのかもしれない。小さな声で「ごめんなさい」と呟くと、私を抱きしめる皇羽さんの力がフッと緩む。するとさっきよりも隙間なく二人の体が密着した。大きな体に抱きしめられると安心する。まるで自分の心も体も全て、包み込んでくれる気がするからだ。〝私を必要としてくれる人がいる〟って思えるからだ。「……」ぶっきらぼうで口が悪くて、そして強引。私の言う事は聞かないくせに、自分のいう事は何が何でも聞かせようとする。そんなとんでもない人が私の同居人なんて「前途多難」だと思っていた。だけど……――萌々!!さっき焼け焦げたアパートから私を見つけて駆け寄った皇羽さんが、本当の王子様に見えた。絶望の淵に立たされた私を救いに来た〝運命の人〟だって……あぁ違う。そうじゃなくて。ダメだ、いま色んな感情が混ざっている。……そう。ただ私は、迎えに来てくれたことが嬉しかった。私を心配して探しに来てくれたことが嬉しかったんだ。これからの生活「前途多難だけじゃないかも?」って思えて、皇羽さんとの生活が楽しみになったんだよ。でもこんなことを本人に言ったら、有頂天になった皇羽さんがますます過保護になりそうだからやめておく。今だって過保護だよ。もう私は子供じゃないから、こんなに心配しなくて良いのに。だけど……少し見たかったな。〝私がいない〟と知った時の皇羽さんの慌てっぷりは、どんなものだったんだろう。想像すると、不謹慎だけどニヤニヤしちゃう。その時、抱きしめ合う皇羽さんの異変に気付いた。「なんだか皇羽さん震えていませんか?」ふと意識を戻すと、尋常ではない震え方で皇羽さんが揺れている。抱きしめられているから私も一緒に揺れ始めた。バイブみたいな振動がずっと続いている!慌てて体を離すと、顔面蒼白の皇羽さんが半眼で虚無を見つめている。「なんか寒ぃんだけど……」 「そう言えば皇羽さん、ついさっきまでお風呂に入っていました

    Huling Na-update : 2025-03-13

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  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第41話

    私に伸ばし掛けた手を皇羽さんは引っ込めた。「萌々……」と、悲しそうな声色と共に。ズルい。どうして皇羽さんが悲しそうなの。傷ついた顔をするの。騙されたのは私で、利用されていたのも私だよ?「今日はもう寝ます。明日から新しい家を探しますね」「!出て行くって事かよ……」皇羽さんが顔を歪めたのが分かる。見なくても分かる。あなたの声色だけで大体の気持ちが分かる……ううん。分かっている、はずだったの。でも違った。私はあなたのことを何も分かってはいなかった。あなたがレオだと見破れなかった。でも、それでよかったんだ。所せん私たちは友達にもなっていない浅い関係。お別れなんて痛くもかゆくもないでしょう?だからバイバイです。私がこれ以上、皇羽さんの温もりを知ってしまう前に――「私が Ign:s 嫌いって知っているでしょう?これまで通りなんて無理ですよ」「……~っ、チッ」荒々しい皇羽さんの舌打ちが聞こえ、両頬を掴まれる。いつもより強い力で上を向かされた。「萌々だって、俺のこと分かっていないくせに……っ」「皇羽さん……?」すごく真剣で、これまでにない真っすぐな瞳が悲しそうに揺れている。そうかと思えばいきなり私を抱き上げ、移動を始めた。いくら「降ろして!」と声を上げようが全てスルー。見上げると、どうやら怒っているらしい。皇羽さんの口がへの字に曲がっている。連れて行かれた先は寝室。柔らかいキングサイズのベッドに勢いよく降ろされる。「きゃっ!」「……俺が、」倒れ込んだ私に、皇羽さんが覆いかぶさった。慈しむように、私の両頬に再び手を添える。「俺がどんな気持ちでレオをやってるか、少しも知らないくせに」「……へ?」「俺が……なんでもない」そう言って口を閉ざした皇羽さん。何か言葉を飲んでいるように見えたのは気のせいだろうか。「それにな、俺だって傷ついたよ。Ign:s が嫌い、デビュー曲が嫌いって言いやがって……。だけどな、そんな事を言われても俺はお前が好きなんだ。ずっと変わらず好きなんだよ」「⁉」皇羽さん、今なんて言った?ジワジワと目に涙がたまっていく。どうして涙が出るのか分からない。だけど皇羽さんの言葉に、確かに胸を打たれた私がいる。まるで「誰かに必要とされる」この瞬間を、ずっと待ちわびていたように。「~っ」「こっち向いて、萌々」私の涙が零れる前に、

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第40話

    衝撃の展開を迎えた後。これ以上見て居られなくてテレビを消す。完全に伸びてしまったラーメンを何とか胃に納め、ただソファに座っていた。「力が入らないな……」皇羽さんはアイドルだったという事実が、私を抜け殻にしていく。それに「裏切られた」こともショックだ。「皇羽さんと一緒に住んだら楽しい毎日になりそうだなって、そう思い始めてきていたのに」もちろん勝手に転校してきたり、あらぬ設定を付加されたのは予想外だったけど。だけど「いってらっしゃい」と言ってくれたり、一緒にご飯を食べたり。そんな何気ない日常が温かくで、好きだった。「……」これからどうしようか。皇羽さんがアイドルである以上、私が一番に嫌っている Ign:s である以上、もうココにはいられない。アパートを探さないと。だけど未成年に貸してくれるかな?そう考えていた時だった。ガチャと玄関から音がする。時計を見ると夜の九時を過ぎていた。そうか、皇羽さんが帰ってきたんだ。「萌々ー?寝ているのか?」皇羽さんは、いつもと同じように帰って来た。いつもと同じように鍵を玄関へ置き、コートをかけ、足音を響かせ廊下を歩く。何もかもがいつもと同じ。たった一つ違うのは、私が「皇羽さん=レオ」と知ってしまったこと。「わ!なんだよ、ここにいたのか。〝おかえり〟くらい言ってくれよ」「……」リビングに入るや否や、膝を抱えて小さくなる私を見つける。そんな私から何かを察したのか、皇羽さんは「萌々?」と不思議そうに近寄った。「どうした、腹でも痛いのか?」「……」この人は、さっきまでテレビに出て歌って踊り、何人ものファンを魅了してきた。それほどスゴイ人って分からないくらい、今の皇羽さんは〝いつもの皇羽さん〟だった。レオを悟らせない完璧な演技。皇羽さんは、レオの存在を隠すのが上手すぎる。「おい、本当にどうしたんだよ。ご飯は食べたのか?まだなら何か買って来るけど?」「……」一言も喋らず表情さえも崩さない私を見て、いよいよ皇羽さんは焦ったらしい。私の傍をグルグルと周り、額に手をあて熱を確かめる。いつものように優しい手つき。だけど全然、嬉しくない。いつもの皇羽さんなのに、頭の中でレオがちらつく。さっき見たアイドルが頭から離れない。いくら皇羽さんが「日常」を装ったって、もうどうしたって私の中で皇羽さんはレオなのだ。私が嫌いなアイド

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第39話

    「テレビで Ign:s を見ない日はないよね。どれだけ多忙なんだろう」テレビだけじゃない。SNSを初めとする動画にも引っ張りだこだ。それにコラボキャンペーンとかいって、企業とコラボなんぞしているのを今朝の電車広告で見た。「クウちゃんが言うには〝レオは私たちと同い年〟なんだっけ?」私なんて学校が終わったら疲れてもぬけの殻になっているのに、レオはこうやって朝から晩まで仕事をしているんだもんね。素直にスゴイや。「 Ign:s の事は嫌いだけど、尊敬してる所はるんだよね」っていうか今日の私が疲れている理由って、皇羽さんの噓八百の設定のせいだよね?皇羽さん激似のレオを見ると、学校でのことを思い出してカチンとくる。あらぬ設定のせいで学校で引っ張りだこになった私の苦労。皇羽さんが帰宅次第、たんまりと聞かせてやるんだから!「お腹もすいたし、晩ご飯を食べながら見るとしますか。本当は消したいけど親友のクウちゃんのためだ、我慢して見るぞ……!」簡単に即席ラーメンを作る。カップにお湯を注いで三分待つ間、テレビではおなじみトークショーが繰り広げられていた。メンバー皆がにこやかに受け答えしている。だけど、その中でもひときわ輝いているのがレオだ。思わず目を瞑りたくなりそうなほどキラキラした笑顔で、楽しそうに司会者と話している。「今日は何を聞かれるんだろう」呑気に考えていると、三分のタイマーが鳴る。リビングへ移動し、どんぶりの中で泳ぐ麺を箸で掴んだ。昨日は雑炊、今日はラーメン。ご飯作りは明日から頑張るつもり。するとタイムリーに、テレビの中でもご飯の話で盛り上がる。『レオくんは昨日の夜、何を食べたの?』 『昨日は雑炊!めちゃくちゃ美味しかったです!』ピタリ掴み上げた麺が、重力に従いカップの中へ戻って行く。だって今、レオは何て言った?「雑炊?」そう言えば昨日、皇羽さんが食べた晩ご飯も雑炊だ。まさかねとか、偶然だよねとか。それらの言葉を強引に頭へ流し込む。そう。偶然に違いないんだ。皇羽さん、私は信じていますからね。あなたががレオじゃないってことを。「それに雑炊なんて家でよく作る料理じゃん」箸から滑り落ちた麺を拾う。「フーフー」と息を吹きかけ湯気を飛ばした。その時、自分の中に湧いた「最悪の予想」も一緒に吹き飛ばす。私の体から、冷や汗なのかただの汗なのか分からない物が、

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第38話

    もしも大事なことだったらいけないし、今すぐ確認した方がいいよね?机の下、不慣れな手つきでメールを確認する。えぇっと、なになに。『ということだから俺は帰る。後はよろしく。居眠りせずにノートとっとけよ。帰ってから写させてもらうからな』「は?」なに、このパシリのような文面。いや「ような」じゃなくて、絶対にパシリだ。そうか。私が在学する高校に、わざわざ皇羽さんが転校してきた理由がやっと分かった――便利だからだ。私がいれば、自分が授業に出なくていいからだ。ようは使い勝手がいいんだ。……なんだ。私は体のいいコマにすぎないのか。それなのに私ったら、さっき「私のそばにいたいから転校してきたのかな?」なんて。己惚れたことを言っちゃった。恥ずかしい。本人に話す前で本当に良かった。……と言っても、胸に開いた僅かな隙間から冷たい風が吹いて止まない。しっかり着込んで来たはずなのに、寒い。頭の後ろでキュッとしばられた髪が、なんだかズキズキと疼いて痛い。触ると、今朝皇羽さんがプレゼントしてくれたばかりのリボンに触れた。そのリボンさえも冷たく感じてしまうのは、どうしてだろう。「……ってダメダメ。元気を出すんだ、萌々」ここで落ち込んだら、皇羽さんの思いのツボだ。「もしかして俺のこと好きになった?」って、ドヤ顔する皇羽さんが脳裏をかすめる。好きになんか、なっていない。ときめいてなんかいない。私の心は奪われていないもん。カチッと電源ボタンを押して、完全にスマホを切る。今日くらいスルーしても怒られないよね?皇羽さんにはやられっぱなしだから、これくらいの反撃は可愛い方だ。それよりも何よりも。口にしがたいこの恨み、どう晴らしてくれようかな。「今日の夜、しっかり覚えといてくださいね。皇羽さん……っ」復讐に闘志を燃やす私を見て、隣の席の男子が「ヒッ」と短い悲鳴を上げた。 ◇それからは本当に大変だった。休み時間と放課後、驚くことに授業中までも。ちょっとした隙間時間があれば、女子たちに皇羽さんのことを聞かれた。本人がいないなら親戚の私に聞いちゃえ!ということだ。だけど親戚でも何でもない私からしたら、とんでもない話だ。迷惑千万!まさか私が学校で女子に追われる日が来るなんて!なんとか女子の目をかいくぐり、やっとこさ逃げながら。ようやくマンションに到着する。迂回を繰り返したおかげで現在は

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第37話

    「今日からウチのクラスに転校してきた麗有(うらあり)皇羽(こう)だ。皆、仲良くするように~」「……え?」学校に到着し、一時間目が始まる前。珍しく担任が教室に来たと思ったら、驚くことに後ろに皇羽さんが控えていた。思いがけない光景に、開いた口が閉まらない。反対に皇羽さんは、私の姿を捉えると目を細めて笑った。もちろんイケメン皇羽さんがそんなことをすれば、クラスの女子が黙っているわけはなく。皇羽さんの微笑後、間髪入れずに黄色い悲鳴が教室に轟く。「キャー!カッコいい~!」 「 Ign:s のレオじゃん!違うけど、レオそっくりじゃん!」 「レオー!こっち向いて―!」 「キャー!レオくーん!!」あまりのそっくりさんに、女子達は阿鼻叫喚。むせび泣いて手を合わせる子もいれば、「写真撮っていいですか?」と担任がいるにもかかわらず堂々とスマホを取り出す子もいた。一方の担任は「また〝コレ〟だよ。職員室の二の舞だな」とポツリと零す。どうやら Ign:s のレオは幅広い年齢の女性を虜にしているようだ。「皆~さっきも言ったように、この子はレオじゃなくて皇羽だからな。わざと間違えないように」釘を刺した担任の言葉をしっかりと聞いたにも関わらず、クラスの女子たちは声を揃えて「レオ―!」と名前を呼ぶ。まるでコンサート会場だ。一方の皇羽さんは私から目を逸らした後。スンとすました顔で自己紹介をした。「麗有皇羽です。よろしく」なんてそっけない挨拶。皆からの心象が悪くなりそうだ。……あぁそうか。皇羽さんはレオと間違われることに辟易しているから、わざと間違えて「レオ」と呼ぶ女子達が気に入らないんだ。皇羽さんの気持ちは分からなくもないけど、いかんせんレオそっくりさんなのだ。どこをどう見てもレオな皇羽さんが、女子たちに何の反応もせずに無表情のまま自分の席に座るのはいかがなものだろうか。皇羽さんの印象が悪い=レオへの風評被害になるのでは?心配していると、教室から「ほぅ」といくつもの感嘆の声が漏れる。何かというと、女子達が目をハートにして「クールなレオも素敵」、「俺様な言葉で罵られたい」とあらぬ願望を抱いていた。女子達のめげないガッツに、心の中で拍手を送る。同時に、イケメンは何をしても絵になるのだと悔しくなった。あとは……皇羽さんが〝たくさんの女子に見られる〟というのが何となく引っかか

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第36話

    「萌々、昨日自分が何をされたか分かってないのかよ」「な、なにって……」なにって、なに⁉それ以上は聞くのが怖かったため、グッと言葉を飲みこむ。すると皇羽さんが「それよりも」と自分のお腹を労わるようにさすった。「お前の寝相はどうなってんだよ。回し蹴りを食らって気絶するかと思ったぞ」再び寝相の話をするなんて、よほど痛かったんだ。でも私が悪いわけじゃない。皇羽さんにだって落ち度はある!「横で私が寝ているのに、逃げなかった皇羽さんが悪いです。何をモサッとしていたんですか?」 「! ……なんでもない」静かになった皇羽さんを見るに、昨日なにかを書いていたことは秘密にしたいらしい。あの時の私はほとんど眠っていたから、何を書いていたかまでは見えなかったんだよね。本当は根掘り葉掘り聞きたいけど、皇羽さんの右手首が気になる。昨日張った湿布が、半分以上とれかけているからだ。「皇羽さん、ちょっと右手かしてください。湿布を貼り替えます」「……ん」大きなたくましい腕が、ズイと私に向かって伸びて来る。湿布をはがす時、ゴツゴツした指に触れると皇羽さんがピクリと反応した。「小学生じゃあるまいし」なんて思ったけど、耳をほんのり赤く染める皇羽さんを見ると私まで意識してしまう。だんだんと指が汗ばんで来た。いけない、また流されそうになっている!邪念を祓うため、近くにあった油性ペンを手に取る。そして貼り直した湿布に、楽しく落書きをした。といっても私は猫しか描けない。「出来ましたよ」「ん、さんきゅ」どうやら猫に気付かなかったらしい皇羽さんは、持っていたシャツに袖を通す。高校指定のシャツかな?私の学校の物とよく似ている。チラリと時計を見ると、現在七時半。よし、なんとか間に合いそう!自分の準備をしながら、ふと疑問に思ったことを皇羽さんに聞いてみた。「皇羽さんは何時の電車に乗るんですか?調べたところ、私の学校と皇羽さんの学校は近いみたいです。駅も一つしか違いません。日によっては一緒に行ける日がありそうですよ!」いい案だと思ったけど、皇羽さんは「あ~」とシャツのボタンを留めながら唸る。何か不都合があるのかな?何に悩んでいるんだろう?気になって皇羽さんの言葉の続きを待っていると、「いいのか?学校に遅れるぞ?」 「本当に話題を逸らすのが下手ですね……」どうやら私に知られたくない

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第35話

    一方、画面の中にいるIgn:s のメンバーも、思いもよらないレオの発言に興味津々。矢継ぎ早に質問を投げかける。『へーどんな猫?ってか住み着いてるって(笑)』 『レオの家に行くぐらいだから、すごく品のある猫とか?』『普通の猫だよ。ただ少し気性が荒くてね。何回ひっかかれそうになったか』 『じゃあ追い出すの〜?』レオは少し考えた後。意味深な笑みを浮かべてニコリと笑う。『追い出さない。むしろずっと住み着いていてほしいな。どうにかして気に入られたいんだよね。俺、あの猫が気に入っちゃったんだ』「……」その時、私の頭に手を置く皇羽さんの手がピクリと反応する。そればかりか「チッ」と舌打ちをし、〝さっきいじめた〟私の首にスルリと指を這わせた。「勝手につまみ食いしやがって。なにが“気に入った”だ。俺が見つけたんだ。気に入られたかったら、全力でこいつを手懐けてみろよ」「こいつ」なんて言葉が悪いなぁ――そんなことを思っていたら、皇羽さんの手に力が入る。え、まさか「こいつ」って私のこと?……まさかね。考えすぎか。皇羽さんが私を襲わないと分かって安心したからか、本格的に眠くなってきた。するとテレビを消した皇羽さんが私の髪に触れる。まるで赤ちゃんを撫でるように、何度も私の髪に手を通した。規則的な動きから来る安心感で、眠さが倍増だ。サラサラと髪が順番に滑り落ちていく。その度に良い匂いが二人を包み込んだ。「やわらかい髪だな。それに俺と同じ匂いがする」シャンプーもボディソープも洗濯洗剤も。全て一緒で同じ匂い。一緒に住んでいるから当たり前なんだけど、それが妙にくすぐったい。この前会ったばかりなのに、すごく仲良しみたいじゃん。「はぁ、たまらないな……」皇羽さんの熱っぽい吐息を聞いて、夢見心地だった意識が少しだけ覚醒する。なんだか雲行きが怪しいような……。重たいまぶたを僅かに開けると、皇羽さんは堪えきれない笑みを隠そうともせず口に弧を描いていた。不敵な笑み丸出しだ。「アイツへのお返しは、ココだけじゃ足らないよな?」トントンとノックするような手つきで、再び私の首を触る。顔をのぞきこまれたから、急いで目を瞑った。そんな私を見て皇羽さんは「起きないなら好都合だな」とおでこにキスを落とした後。自室から、紙とペンを持って来る。手首を痛めた右手に代わり、左手でペンを走らせる。そ

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第34話

    それにしても、こうなった皇羽さんは「テコでも動かない」って何となく分かる。皇羽さんの部屋の秘密を知りたいけど、どうやら彼の口は堅そうだ。仕方ないからため息を一つ吐いて、キッチンから雑炊を運ぶ。用意が整った後、私も皇羽さんの隣へ座った。「萌々の手料理……うわ、やばい」まるで熱い物を食べた時のように、頬を紅潮させ雑炊を見つめる皇羽さん。適当に野菜を入れて雑炊の素を入れただけの料理に、そこまで有難みを覚えられると逆に肩身が狭くなる。「いただきます」「ど、どうぞ」そう言えば薄味にし過ぎたかも。鶏肉、かたくなりすぎてないかな?自分の料理がいざ他人の口に入ると思ったら、妙に緊張してしまう。だけど皇羽さんはそんな私の緊張ごと食べるように、大きな口を開けて勢いよく雑炊を胃に落としていく。「……っ」ドキドキ。私の手料理を食べる皇羽さんが直視できなくて俯く。すると床に並んだ私たちの足が目に入った。身長だけにとどまらず、私たちは足の大きさもけっこう違うらしい。皇羽さんの足って巨人みたいだ。いったい何センチあるんだろう。「ん、うまっ」「! 味、薄くないですか?」「ちょうど良くてすごく美味い。あったまるわ、ありがとうな萌々」「い、いえっ」どうやら「すごく美味い」はお世辞じゃないらしく、皇羽さんはパクパクと食べてくれた。一口が大きいなぁ、なんて思っていると「おかわりある?」と自らソファを立つ。「ありますよ」と答える前に、そそくさとキッチンへ向かうものだから思わず笑ってしまった。せっかちだなぁ。だけど、それほど私の雑炊を食べたいと思ってくれるのは嬉しい。今まで自分が料理を作って自分が食べるだけだったからなぁ。誰かに食べてもらえるって、こんなに嬉しいことなんだ。「そういや昨日から何も食べてなかったな」「ちょっと、冗談はよしてくださいよ」私ははっきり見ましたよ。コンビニで買った唐揚げとグミを、皇羽さんがキレイに完食したのを!言い返そうとしたけど、熱で記憶が曖昧なのかもしれない。本人が覚えていないことを蒸し返しても仕方ないよね。全て風邪が悪いってことにしておこう。「しかし本当に熱って怖いですね。記憶障害が起きるなんて……ふぁ〜」「あくび?寝てないのか?」ソファの背もたれに寄りかかり目を擦る私を見て、皇羽さんはキョトン顔。私を見ながらも雑炊を食べる手を止めな

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第33話

     ◇翌朝。皇羽さんは九時に寝室から出てきて「良く寝た」と大きなあくびをする。ちょうどキッチンに立っていた私は、すっかり顔色が良くなった皇羽さんをジーッと見つめた。体調は良さそうだ。熱も引いたかな?そのまま「腹減ったー」と皇羽さんがやって来た。たった一人増えただけなのに、皇羽さんのガタイが良いばかりに広いキッチンが一気に狭く感じる。「皇羽さんおはようございます。調子はどうですか?」 「ん、もう全快」昨日は倒れるほど調子を崩していたのに今は元気なんて。それはそれでバケモノだ。ひょっとして無理しているとか?昨日だって、熱があるのに不必要に外出を繰り返した皇羽さんのことだ。今日もどこか出かけたいからと、体調の悪さを隠している可能性は充分にある。「体調、本当に良いんですか?」「ほんと」「ウソじゃなくて?」「いくら萌々に心配かけたくないからって、ウソはつかないぞ」「……そうですか」なんと言っていいか分からなかったから、そこで話を区切る。念のため顔色を見ると、確かに血色が良い。よかった、元気そうだ。昨日の〝赤いのか青いのか〟みたいなマーブル色じゃなくてホッと息をつく。「あ、ちょっと失礼しますね?」「! ……ん」手を伸ばしておでこに触れる。触る直前、なぜか皇羽さんが嬉しそうにまぶたを閉じた。なんだか飼い主に気を許した猫みたい。ちょっと可愛く見えちゃって、彼に触れる指先が脱力した。……あぁダメダメ。私まで気を許しそうになっちゃった。ペシリと、皇羽さんのオデコを軽く叩いた後。「大丈夫ですね」と距離をとる。無意味に一発食らった皇羽さんは、さっきの幸せそうな顔とは打って変わって渋い顔だ。心の中で「ごめんなさい」と謝る。「触った感じは平熱ですね。でも一応は体温計で測らせてください。あと夕方は体温が上がりやすいので、その時にもう一度測りますよ」 「えらく詳しいな?」「自分の体調は自分で管理しないといけなかったので、自然と覚えたんですよ」 「……」私にとっての日常を語ると、皇羽さんは固まってしまった。隠しとけばよかったかな?でも本当のことだし……。母親は、家に帰って来ない日が多々あった。私が病気をしている日も然りだ。最初こそ自分が優先されないことにショックを受けたけど、慣れてしまった今は何も思わない。それに手探りで覚えた渡世術は、こうしてちゃんと役に立

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