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第17話

last update Huling Na-update: 2025-03-09 21:14:13

「よく作詞家の名前を覚えていましたね?皇羽さんは Ign:s のファンなんですか?」

「そんなわけないだろ。むしろレオと間違われて嫌気がさしてるっての」

「じゃあどうしてmomosukeのことを知っていたんですか?」

「……たまたまテレビで見て知っただけだ。珍しい名前だしな」

珍しいと言われたらそれまでだけど、本当にそれだけ?質問したかったけど、外を見る皇羽さんの横顔が強張っているから聞きにくい。

……意図が読めない表情をするのはやめてほしいな。「もしかして何か隠している?」って疑っちゃうよ。ただでさえ Ign:s のレオと瓜二つなんだから、怪しい言動は控えてよね。

「あの、皇羽さん」

気にしないようすればするほど気になるから、やっばり「何か隠しています?」って聞こうとした。だけど視線を下げた時、皇羽さんと一緒に回った数々のショップバッグが目に入る。

久しぶりの買い物はとても面白くて、楽しかった。下着屋さんではひと悶着あったけど、それでも今日は本当に楽しかったんだ。火事で何もかもを失いぽっかり空いた心を皇羽さんと一緒に埋めていく、そんな日だった。今日は心がずっと温かい。

「なんだよ萌々」

「……いえ、何でもありません」

今日が楽しかったから、深く質問するのはやめよう。水をさすことはしたくないし、〝きっと皇羽さんは何も隠していない〟って今なら信じられるから。

私は残りのパスタを、一気にフォークに巻き付ける。そしてにっこりと笑って見せた。

「パスタがとても美味しいです。皇羽さんも一口どうですか?」

「食わせてくれんの?」

パカッと口を開けた皇羽さんが、笑いながら私を見る。今更だけど、家にいる時とは違う雰囲気が(悔しいほど)カッコイイ。いや家にいる時もカッコイイけど、ビシッと私服を着こなしている分〝さらに〟だ。頭上にぶらさがる照明も、いい塩梅に彼を照らしている。

「〝あーん〟なんてしませんよ?恥ずかしいじゃないですか」

「恥ずかしい?萌々がしてくれるなら大歓迎だけどな」

そんな調子のいいことを言う、一般人とは程遠いイケメンの皇羽さん。私を見る眼差しが優しい。というか妙にソワソワして色めき立って見えるのは気のせい?

「なぁ萌々」

「ん?」

「夜の下着、さっき買った中のどれにする?想像すると楽しみで何にも手につかねー」

「……」

それが原因で、お昼時だというのにコ
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    その後。いつもの雰囲気に戻った私たちはパスタを食べ終え、あいも変わらず口喧嘩しながら家へ帰った。口喧嘩の内容はというと……。「どうして皇羽さんはヘンタイ発言しか出来ないんですか!」 「逆に、どうしてその発想に至らないのか不思議だな」事の発端はこうだ。ショッピングから帰宅後、皇羽さんに用事があったけど姿がなかったため彼の部屋をノックした。でも返事がないから「寝ているのかな?」と思い、静かにドアを開けようとしたのだ。だけど私の背後から、ニュッと骨ばった手が伸びる。『待て。そこはダメだ』 『わ!』どうやら自室ではなく寝室にいたらしい皇羽さんが、まるで狩りをする獣のごとく光の速さで駆け寄った。そして頑なに自室への入室を拒否したのだ。そんなことをされたら〝部屋の中に何があるのか〟気になって仕方がない。だから「部屋に入ってみたい」とド直球に〝お願い〟してみた。だけど皇羽さんは「ダメだ」の一点張り。それでも引き下がらない私に、皇羽さんはとある約束を(半ば強制的に)とりつけた。『俺との生活で約束してほしいことは一つだけ。絶対に俺の部屋に入らない事、いいな?』 『もし破ったら?』『俺の目の前で、今日買った下着を順番につけてもらう』 『ヘンタイ!!』そうして冒頭の口喧嘩へ繋がる、というわけだ。でも侮れないのが、皇羽さんは「やると言ったらやる男」だということ。もし私が皇羽さんの部屋に入ったら、確実に生着替えをさせられる。だから絶対に入らない!でも、どうして入ったらダメなんだろう。ここまでして私から自室を遠ざけるなんて、中に〝とびきりヤバい物〟があるに違いない。それって何だろう。気になる。腕を組んでうなる私。そんな私を見た皇羽さんはとびきり大きなため息を吐きながら、買い込んだショップバッグを床へ置く。次におもむろにシャツを脱ぎ始め、たくましい腕に引っ掛けた。「ギャ!いきなり何ですか!」「汗かいたんだよ。風呂に行ってくる」「まだ夕方ですよ?」「いい。それより早くスッキリしたいんだ」すれ違いざま、皇羽さんが持つシャツから香水の匂いがする。皇羽さんも香水をつけるらしく、玄関にいくつか瓶が置いてあった。今日ショッピングに行く前、興味本位で嗅いだらいい匂いだったからよく覚えている。「だけど、さっき匂ったのは違う香りだよね?」きっとショッピング中、ナンパされ

    Huling Na-update : 2025-03-10
  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第19話

    きっと重かっただろうな。それでも顔色一つ変えずに、私がお店を気にしたら「入るか」といろいろ寄ってくれたんだよね。遠くにあるお店が気になった時も、すかさず「行くぞ萌々」って。私のどんな仕草も見逃さない皇羽さん。裏を返せば、それだけ私のことをたくさん見ているのかな?気にしているってこと?それは居候の身としては有難い。だけど「過保護すぎない?」とも思ったり。いや絶対に過保護だ。だって……「このショップバッグの数が物語っているよね。明らかに買い過ぎだよ」いち、に、さん……すごい。十を超えている。というか二十までいきそうだ。でも考えてみれば妥当だ。だって回ったショップのほとんどで買い物をしたのだから。遠慮する私に、皇羽さんがどんどん買う物を運んで来たんだ。「萌々はこっちが似合う」とか「これ必要だろ」って。あれこれ口を出されすぎて、まるで皇羽さんの買い物に行ったみたいだったよ。やっぱり皇羽さんは過保護だ。「でも全部のお金を出してもらっちゃった……アルバイトして絶対に返さないと!」意気込んだけど足が疲れたから、少しだけソファへダイブする。三キロくらい体重が減ったかも?って思うほど、すごい運動量だった。「ふー」と息を吐きながら目をつむる。すると頭の中に、一日一緒にいた皇羽さんの顔が浮かんだ。過保護の皇羽さん。だからといって侮れない皇羽さん。パスタのお店で私がトイレへ行く時、あの質問をされた時はビックリした。――一年前、この辺りで何か買った?――例えば〝ドキドキするもの〟みたいなあれは一体どういう意味だったんだろう。「心当たりがない」と完璧に言えないから返答に困った。だから「知りません」とあいまいに返したけど、あれで良かったかな。でも「だよな」とアッサリ引き下がった皇羽さんを見るに、深く考えずに質問したことだったかな?「皇羽さんが優しいのは分かったけど、それでも〝まだまだよく分からない人〟なんだよね」どういう理由があって私を部屋へ置くのか。どうしてここまで尽くしてくれるのか。何か考えがあるのか、それとも全くないのか。「むしろヘンタイな考えしか頭になかったりして」チラリと下着屋さんのショップバッグを見る。今日の夜から着るわけだけど、まさか「見せろ」とは言わないよね?あぁ、まさか自分の身を二十四時間ずっと気にする日が来るとは……。皇羽さんって基本はいい人なんだ

    Huling Na-update : 2025-03-11
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    Huling Na-update : 2025-03-12
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    Huling Na-update : 2025-03-13
  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第22話

    *皇羽side* 萌々と買い物から帰ってすぐ、ナンパしてきた奴らの香水の匂いが気になったからシャワーへ向かう。どれほど香水をまけば、あの距離で俺に匂いが移るんだよ。もし萌々が匂いをかいだら、変な誤解をされるだろうが。やや乱暴に服を洗濯機の上に置き、バスルームへ入る。熱いほどの温度で、頭からシャワーをかけた。「それにしても……」さっき萌々が俺の部屋へ入ろうとした。それだけはダメだと急いで制止したが、強く言いすぎたか?萌々の顔が若干くもったのが気になる。だけど、悪い萌々。あの部屋だけは見せてやれねーんだ。「はぁ……ん?」萌々へ申し訳なく思っていると、何やら音が聞こえた。急いでシャワーを止めて耳を澄ませる。すると聞こえてきたのは廊下を走る音。続いて、玄関ドアの開閉音。もしかしなくてもドアを開けたのは萌々だよな?なにか荷物が来たのか?俺、何かネットで買い物したっけ?「いや、宅配だとしてもマズイだろ」もしも配達員が萌々を見たら、絶対に惚れるに決まっている。そこで萌々が目をつけられたらどうする?なにか危ないことに巻き込まれたら――「まだ途中だけど出るか」体を流しただけだが、四の五の言ってられない。風呂はいつでも入ればいい。萌々の身の安全を一番に考えろ。「萌々!」バスルームを出て、バスタオル一枚を腰に巻き付ける。すぐに捜索を開始するも、リビングに萌々の姿はなかった。じゃあ玄関?ぬれた足で廊下を走り、玄関へ到着する。だけど姿はない。届いた荷物があるわけでもない。ということは配達は来てないのか。「萌々……?」痛いくらいに心臓がドクドクと音を立てる。海が時化(しけ)た時みたいだ。強風で海が荒れる時化、まさに今の俺と瓜二つ。「おい萌々、萌々!」姿が見えない時間が長ければ長い程、不安で声が大きくなる。早く萌々の顔を見て安心したいのに、ちっとも姿が見えやしない。寝室やキッチンも、さっき忠告したばかりだから入らないとは思うが一応俺の部屋も探した。だけどやっぱりいなかった。「そうだ、靴は……⁉」再び玄関へ戻って確認すると、萌々の靴だけがキレイになくなっている。ということは俺の部屋から出て行ったんだ。萌々は自ら俺から離れたんだ。「うそだろ、なんでだよ。萌々……」信じられない事実に頭は真っ白、その場に立ち尽くす。そんな俺に喝をいれるように、玄関に置いたままだ

    Huling Na-update : 2025-03-14
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    Huling Na-update : 2025-03-15
  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第24話

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    Huling Na-update : 2025-03-16
  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第25話

    どうして二つずつあるのか――不思議に思っていると、玄関に置いた時計が目に入る。もう七時半なの⁉急いで学校の支度をしないと!朝ごはんを食べている時間はあるかな?と冷蔵庫を漁る。幸いにも昨日買ったパンがあったから急いで口へ詰め込んだ。再び時計を確認。ひぇ十分後には家を出なきゃ!「そういえば……」さっき皇羽さんは「体温計と薬を買って来る」って言った。でもこんなに朝早く開店するお店ってあるの?まだ七時だよ?それに皇羽さんはまだ?いくらなんでも遅い気がする。「……まさか!」どこかで倒れているかも。さっきフラフラだったし!「もう皇羽さんってば手がかかるんだから!」昨日勝手にマンションを出た自分を棚に上げて、皇羽さんに文句を言う。でも本当、学校に行くどころの騒ぎじゃないよ。もしも倒れているなら助けなきゃ!とりあえず制服とコートに着替え、皇羽さんを探索するため玄関へ急ぐ。「待っていてくださいね皇羽さん!」靴を履いてヤル気いっぱいで立ち上がった、その時。ガチャ玄関の扉が開く。皇羽さんが帰って来たんだ!履いたばかりの靴を脱ぎ、再び玄関へ上がる。「皇羽さんおかえりなさい!遅いから心配しました。今から探しに行こうとしていたんですよ?どうでしたか。体温計と風邪薬はありましたか?」「え?」「ん?」「えぇ……?」目の前には、全部の髪が隠れるくらい深くニット帽をかぶった皇羽さん。なぜか両目を開いて私を凝視している。あ、私が制服を着ているからかな?皇羽さんの前で初めて着るもんね。だけど皇羽さんに違和感を覚える。例えば帽子。いま皇羽さんがつけているニット帽を初めて見る。それにさっき出かける時は、いつもの帽子を被ってなかった?あと皇羽さんの表情がいつもと違う気がする。獰猛な野獣のオーラから、可愛い小動物へ変わっているというか。この人、本当に皇羽さんだよね?一瞬だけ警戒したけど、顔を見れば一目瞭然。こんなにカッコイイ人は、皇羽さん以外いない。外の風に当たってスッキリしたのかな?赤い顔じゃなくて、いつもの顔色に戻っている。「ちょっと熱も下がったんじゃないですか?さっきより楽な表情になっていますし」「……」「皇羽さん?」「わ!そうか俺か……。ごめん何?」え?〝ごめん〟⁉信じられなくて耳を疑う。だって皇羽さんが私に謝ったよ⁉〝あの皇羽さんが〟だよ⁉さっき覚

    Huling Na-update : 2025-03-17

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  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第40話

    衝撃の展開を迎えた後。これ以上見て居られなくてテレビを消す。完全に伸びてしまったラーメンを何とか胃に納め、ただソファに座っていた。「力が入らないな……」皇羽さんはアイドルだったという事実が、私を抜け殻にしていく。それに「裏切られた」こともショックだ。「皇羽さんと一緒に住んだら楽しい毎日になりそうだなって、そう思い始めてきていたのに」もちろん勝手に転校してきたり、あらぬ設定を付加されたのは予想外だったけど。だけど「いってらっしゃい」と言ってくれたり、一緒にご飯を食べたり。そんな何気ない日常が温かくで、好きだった。「……」これからどうしようか。皇羽さんがアイドルである以上、私が一番に嫌っている Ign:s である以上、もうココにはいられない。アパートを探さないと。だけど未成年に貸してくれるかな?そう考えていた時だった。ガチャと玄関から音がする。時計を見ると夜の九時を過ぎていた。そうか、皇羽さんが帰ってきたんだ。「萌々ー?寝ているのか?」皇羽さんは、いつもと同じように帰って来た。いつもと同じように鍵を玄関へ置き、コートをかけ、足音を響かせ廊下を歩く。何もかもがいつもと同じ。たった一つ違うのは、私が「皇羽さん=レオ」と知ってしまったこと。「わ!なんだよ、ここにいたのか。〝おかえり〟くらい言ってくれよ」「……」リビングに入るや否や、膝を抱えて小さくなる私を見つける。そんな私から何かを察したのか、皇羽さんは「萌々?」と不思議そうに近寄った。「どうした、腹でも痛いのか?」「……」この人は、さっきまでテレビに出て歌って踊り、何人ものファンを魅了してきた。それほどスゴイ人って分からないくらい、今の皇羽さんは〝いつもの皇羽さん〟だった。レオを悟らせない完璧な演技。皇羽さんは、レオの存在を隠すのが上手すぎる。「おい、本当にどうしたんだよ。ご飯は食べたのか?まだなら何か買って来るけど?」「……」一言も喋らず表情さえも崩さない私を見て、いよいよ皇羽さんは焦ったらしい。私の傍をグルグルと周り、額に手をあて熱を確かめる。いつものように優しい手つき。だけど全然、嬉しくない。いつもの皇羽さんなのに、頭の中でレオがちらつく。さっき見たアイドルが頭から離れない。いくら皇羽さんが「日常」を装ったって、もうどうしたって私の中で皇羽さんはレオなのだ。私が嫌いなアイド

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第39話

    「テレビで Ign:s を見ない日はないよね。どれだけ多忙なんだろう」テレビだけじゃない。SNSを初めとする動画にも引っ張りだこだ。それにコラボキャンペーンとかいって、企業とコラボなんぞしているのを今朝の電車広告で見た。「クウちゃんが言うには〝レオは私たちと同い年〟なんだっけ?」私なんて学校が終わったら疲れてもぬけの殻になっているのに、レオはこうやって朝から晩まで仕事をしているんだもんね。素直にスゴイや。「 Ign:s の事は嫌いだけど、尊敬してる所はるんだよね」っていうか今日の私が疲れている理由って、皇羽さんの噓八百の設定のせいだよね?皇羽さん激似のレオを見ると、学校でのことを思い出してカチンとくる。あらぬ設定のせいで学校で引っ張りだこになった私の苦労。皇羽さんが帰宅次第、たんまりと聞かせてやるんだから!「お腹もすいたし、晩ご飯を食べながら見るとしますか。本当は消したいけど親友のクウちゃんのためだ、我慢して見るぞ……!」簡単に即席ラーメンを作る。カップにお湯を注いで三分待つ間、テレビではおなじみトークショーが繰り広げられていた。メンバー皆がにこやかに受け答えしている。だけど、その中でもひときわ輝いているのがレオだ。思わず目を瞑りたくなりそうなほどキラキラした笑顔で、楽しそうに司会者と話している。「今日は何を聞かれるんだろう」呑気に考えていると、三分のタイマーが鳴る。リビングへ移動し、どんぶりの中で泳ぐ麺を箸で掴んだ。昨日は雑炊、今日はラーメン。ご飯作りは明日から頑張るつもり。するとタイムリーに、テレビの中でもご飯の話で盛り上がる。『レオくんは昨日の夜、何を食べたの?』 『昨日は雑炊!めちゃくちゃ美味しかったです!』ピタリ掴み上げた麺が、重力に従いカップの中へ戻って行く。だって今、レオは何て言った?「雑炊?」そう言えば昨日、皇羽さんが食べた晩ご飯も雑炊だ。まさかねとか、偶然だよねとか。それらの言葉を強引に頭へ流し込む。そう。偶然に違いないんだ。皇羽さん、私は信じていますからね。あなたががレオじゃないってことを。「それに雑炊なんて家でよく作る料理じゃん」箸から滑り落ちた麺を拾う。「フーフー」と息を吹きかけ湯気を飛ばした。その時、自分の中に湧いた「最悪の予想」も一緒に吹き飛ばす。私の体から、冷や汗なのかただの汗なのか分からない物が、

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第38話

    もしも大事なことだったらいけないし、今すぐ確認した方がいいよね?机の下、不慣れな手つきでメールを確認する。えぇっと、なになに。『ということだから俺は帰る。後はよろしく。居眠りせずにノートとっとけよ。帰ってから写させてもらうからな』「は?」なに、このパシリのような文面。いや「ような」じゃなくて、絶対にパシリだ。そうか。私が在学する高校に、わざわざ皇羽さんが転校してきた理由がやっと分かった――便利だからだ。私がいれば、自分が授業に出なくていいからだ。ようは使い勝手がいいんだ。……なんだ。私は体のいいコマにすぎないのか。それなのに私ったら、さっき「私のそばにいたいから転校してきたのかな?」なんて。己惚れたことを言っちゃった。恥ずかしい。本人に話す前で本当に良かった。……と言っても、胸に開いた僅かな隙間から冷たい風が吹いて止まない。しっかり着込んで来たはずなのに、寒い。頭の後ろでキュッとしばられた髪が、なんだかズキズキと疼いて痛い。触ると、今朝皇羽さんがプレゼントしてくれたばかりのリボンに触れた。そのリボンさえも冷たく感じてしまうのは、どうしてだろう。「……ってダメダメ。元気を出すんだ、萌々」ここで落ち込んだら、皇羽さんの思いのツボだ。「もしかして俺のこと好きになった?」って、ドヤ顔する皇羽さんが脳裏をかすめる。好きになんか、なっていない。ときめいてなんかいない。私の心は奪われていないもん。カチッと電源ボタンを押して、完全にスマホを切る。今日くらいスルーしても怒られないよね?皇羽さんにはやられっぱなしだから、これくらいの反撃は可愛い方だ。それよりも何よりも。口にしがたいこの恨み、どう晴らしてくれようかな。「今日の夜、しっかり覚えといてくださいね。皇羽さん……っ」復讐に闘志を燃やす私を見て、隣の席の男子が「ヒッ」と短い悲鳴を上げた。 ◇それからは本当に大変だった。休み時間と放課後、驚くことに授業中までも。ちょっとした隙間時間があれば、女子たちに皇羽さんのことを聞かれた。本人がいないなら親戚の私に聞いちゃえ!ということだ。だけど親戚でも何でもない私からしたら、とんでもない話だ。迷惑千万!まさか私が学校で女子に追われる日が来るなんて!なんとか女子の目をかいくぐり、やっとこさ逃げながら。ようやくマンションに到着する。迂回を繰り返したおかげで現在は

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第37話

    「今日からウチのクラスに転校してきた麗有(うらあり)皇羽(こう)だ。皆、仲良くするように~」「……え?」学校に到着し、一時間目が始まる前。珍しく担任が教室に来たと思ったら、驚くことに後ろに皇羽さんが控えていた。思いがけない光景に、開いた口が閉まらない。反対に皇羽さんは、私の姿を捉えると目を細めて笑った。もちろんイケメン皇羽さんがそんなことをすれば、クラスの女子が黙っているわけはなく。皇羽さんの微笑後、間髪入れずに黄色い悲鳴が教室に轟く。「キャー!カッコいい~!」 「 Ign:s のレオじゃん!違うけど、レオそっくりじゃん!」 「レオー!こっち向いて―!」 「キャー!レオくーん!!」あまりのそっくりさんに、女子達は阿鼻叫喚。むせび泣いて手を合わせる子もいれば、「写真撮っていいですか?」と担任がいるにもかかわらず堂々とスマホを取り出す子もいた。一方の担任は「また〝コレ〟だよ。職員室の二の舞だな」とポツリと零す。どうやら Ign:s のレオは幅広い年齢の女性を虜にしているようだ。「皆~さっきも言ったように、この子はレオじゃなくて皇羽だからな。わざと間違えないように」釘を刺した担任の言葉をしっかりと聞いたにも関わらず、クラスの女子たちは声を揃えて「レオ―!」と名前を呼ぶ。まるでコンサート会場だ。一方の皇羽さんは私から目を逸らした後。スンとすました顔で自己紹介をした。「麗有皇羽です。よろしく」なんてそっけない挨拶。皆からの心象が悪くなりそうだ。……あぁそうか。皇羽さんはレオと間違われることに辟易しているから、わざと間違えて「レオ」と呼ぶ女子達が気に入らないんだ。皇羽さんの気持ちは分からなくもないけど、いかんせんレオそっくりさんなのだ。どこをどう見てもレオな皇羽さんが、女子たちに何の反応もせずに無表情のまま自分の席に座るのはいかがなものだろうか。皇羽さんの印象が悪い=レオへの風評被害になるのでは?心配していると、教室から「ほぅ」といくつもの感嘆の声が漏れる。何かというと、女子達が目をハートにして「クールなレオも素敵」、「俺様な言葉で罵られたい」とあらぬ願望を抱いていた。女子達のめげないガッツに、心の中で拍手を送る。同時に、イケメンは何をしても絵になるのだと悔しくなった。あとは……皇羽さんが〝たくさんの女子に見られる〟というのが何となく引っかか

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第36話

    「萌々、昨日自分が何をされたか分かってないのかよ」「な、なにって……」なにって、なに⁉それ以上は聞くのが怖かったため、グッと言葉を飲みこむ。すると皇羽さんが「それよりも」と自分のお腹を労わるようにさすった。「お前の寝相はどうなってんだよ。回し蹴りを食らって気絶するかと思ったぞ」再び寝相の話をするなんて、よほど痛かったんだ。でも私が悪いわけじゃない。皇羽さんにだって落ち度はある!「横で私が寝ているのに、逃げなかった皇羽さんが悪いです。何をモサッとしていたんですか?」 「! ……なんでもない」静かになった皇羽さんを見るに、昨日なにかを書いていたことは秘密にしたいらしい。あの時の私はほとんど眠っていたから、何を書いていたかまでは見えなかったんだよね。本当は根掘り葉掘り聞きたいけど、皇羽さんの右手首が気になる。昨日張った湿布が、半分以上とれかけているからだ。「皇羽さん、ちょっと右手かしてください。湿布を貼り替えます」「……ん」大きなたくましい腕が、ズイと私に向かって伸びて来る。湿布をはがす時、ゴツゴツした指に触れると皇羽さんがピクリと反応した。「小学生じゃあるまいし」なんて思ったけど、耳をほんのり赤く染める皇羽さんを見ると私まで意識してしまう。だんだんと指が汗ばんで来た。いけない、また流されそうになっている!邪念を祓うため、近くにあった油性ペンを手に取る。そして貼り直した湿布に、楽しく落書きをした。といっても私は猫しか描けない。「出来ましたよ」「ん、さんきゅ」どうやら猫に気付かなかったらしい皇羽さんは、持っていたシャツに袖を通す。高校指定のシャツかな?私の学校の物とよく似ている。チラリと時計を見ると、現在七時半。よし、なんとか間に合いそう!自分の準備をしながら、ふと疑問に思ったことを皇羽さんに聞いてみた。「皇羽さんは何時の電車に乗るんですか?調べたところ、私の学校と皇羽さんの学校は近いみたいです。駅も一つしか違いません。日によっては一緒に行ける日がありそうですよ!」いい案だと思ったけど、皇羽さんは「あ~」とシャツのボタンを留めながら唸る。何か不都合があるのかな?何に悩んでいるんだろう?気になって皇羽さんの言葉の続きを待っていると、「いいのか?学校に遅れるぞ?」 「本当に話題を逸らすのが下手ですね……」どうやら私に知られたくない

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第35話

    一方、画面の中にいるIgn:s のメンバーも、思いもよらないレオの発言に興味津々。矢継ぎ早に質問を投げかける。『へーどんな猫?ってか住み着いてるって(笑)』 『レオの家に行くぐらいだから、すごく品のある猫とか?』『普通の猫だよ。ただ少し気性が荒くてね。何回ひっかかれそうになったか』 『じゃあ追い出すの〜?』レオは少し考えた後。意味深な笑みを浮かべてニコリと笑う。『追い出さない。むしろずっと住み着いていてほしいな。どうにかして気に入られたいんだよね。俺、あの猫が気に入っちゃったんだ』「……」その時、私の頭に手を置く皇羽さんの手がピクリと反応する。そればかりか「チッ」と舌打ちをし、〝さっきいじめた〟私の首にスルリと指を這わせた。「勝手につまみ食いしやがって。なにが“気に入った”だ。俺が見つけたんだ。気に入られたかったら、全力でこいつを手懐けてみろよ」「こいつ」なんて言葉が悪いなぁ――そんなことを思っていたら、皇羽さんの手に力が入る。え、まさか「こいつ」って私のこと?……まさかね。考えすぎか。皇羽さんが私を襲わないと分かって安心したからか、本格的に眠くなってきた。するとテレビを消した皇羽さんが私の髪に触れる。まるで赤ちゃんを撫でるように、何度も私の髪に手を通した。規則的な動きから来る安心感で、眠さが倍増だ。サラサラと髪が順番に滑り落ちていく。その度に良い匂いが二人を包み込んだ。「やわらかい髪だな。それに俺と同じ匂いがする」シャンプーもボディソープも洗濯洗剤も。全て一緒で同じ匂い。一緒に住んでいるから当たり前なんだけど、それが妙にくすぐったい。この前会ったばかりなのに、すごく仲良しみたいじゃん。「はぁ、たまらないな……」皇羽さんの熱っぽい吐息を聞いて、夢見心地だった意識が少しだけ覚醒する。なんだか雲行きが怪しいような……。重たいまぶたを僅かに開けると、皇羽さんは堪えきれない笑みを隠そうともせず口に弧を描いていた。不敵な笑み丸出しだ。「アイツへのお返しは、ココだけじゃ足らないよな?」トントンとノックするような手つきで、再び私の首を触る。顔をのぞきこまれたから、急いで目を瞑った。そんな私を見て皇羽さんは「起きないなら好都合だな」とおでこにキスを落とした後。自室から、紙とペンを持って来る。手首を痛めた右手に代わり、左手でペンを走らせる。そ

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第34話

    それにしても、こうなった皇羽さんは「テコでも動かない」って何となく分かる。皇羽さんの部屋の秘密を知りたいけど、どうやら彼の口は堅そうだ。仕方ないからため息を一つ吐いて、キッチンから雑炊を運ぶ。用意が整った後、私も皇羽さんの隣へ座った。「萌々の手料理……うわ、やばい」まるで熱い物を食べた時のように、頬を紅潮させ雑炊を見つめる皇羽さん。適当に野菜を入れて雑炊の素を入れただけの料理に、そこまで有難みを覚えられると逆に肩身が狭くなる。「いただきます」「ど、どうぞ」そう言えば薄味にし過ぎたかも。鶏肉、かたくなりすぎてないかな?自分の料理がいざ他人の口に入ると思ったら、妙に緊張してしまう。だけど皇羽さんはそんな私の緊張ごと食べるように、大きな口を開けて勢いよく雑炊を胃に落としていく。「……っ」ドキドキ。私の手料理を食べる皇羽さんが直視できなくて俯く。すると床に並んだ私たちの足が目に入った。身長だけにとどまらず、私たちは足の大きさもけっこう違うらしい。皇羽さんの足って巨人みたいだ。いったい何センチあるんだろう。「ん、うまっ」「! 味、薄くないですか?」「ちょうど良くてすごく美味い。あったまるわ、ありがとうな萌々」「い、いえっ」どうやら「すごく美味い」はお世辞じゃないらしく、皇羽さんはパクパクと食べてくれた。一口が大きいなぁ、なんて思っていると「おかわりある?」と自らソファを立つ。「ありますよ」と答える前に、そそくさとキッチンへ向かうものだから思わず笑ってしまった。せっかちだなぁ。だけど、それほど私の雑炊を食べたいと思ってくれるのは嬉しい。今まで自分が料理を作って自分が食べるだけだったからなぁ。誰かに食べてもらえるって、こんなに嬉しいことなんだ。「そういや昨日から何も食べてなかったな」「ちょっと、冗談はよしてくださいよ」私ははっきり見ましたよ。コンビニで買った唐揚げとグミを、皇羽さんがキレイに完食したのを!言い返そうとしたけど、熱で記憶が曖昧なのかもしれない。本人が覚えていないことを蒸し返しても仕方ないよね。全て風邪が悪いってことにしておこう。「しかし本当に熱って怖いですね。記憶障害が起きるなんて……ふぁ〜」「あくび?寝てないのか?」ソファの背もたれに寄りかかり目を擦る私を見て、皇羽さんはキョトン顔。私を見ながらも雑炊を食べる手を止めな

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第33話

     ◇翌朝。皇羽さんは九時に寝室から出てきて「良く寝た」と大きなあくびをする。ちょうどキッチンに立っていた私は、すっかり顔色が良くなった皇羽さんをジーッと見つめた。体調は良さそうだ。熱も引いたかな?そのまま「腹減ったー」と皇羽さんがやって来た。たった一人増えただけなのに、皇羽さんのガタイが良いばかりに広いキッチンが一気に狭く感じる。「皇羽さんおはようございます。調子はどうですか?」 「ん、もう全快」昨日は倒れるほど調子を崩していたのに今は元気なんて。それはそれでバケモノだ。ひょっとして無理しているとか?昨日だって、熱があるのに不必要に外出を繰り返した皇羽さんのことだ。今日もどこか出かけたいからと、体調の悪さを隠している可能性は充分にある。「体調、本当に良いんですか?」「ほんと」「ウソじゃなくて?」「いくら萌々に心配かけたくないからって、ウソはつかないぞ」「……そうですか」なんと言っていいか分からなかったから、そこで話を区切る。念のため顔色を見ると、確かに血色が良い。よかった、元気そうだ。昨日の〝赤いのか青いのか〟みたいなマーブル色じゃなくてホッと息をつく。「あ、ちょっと失礼しますね?」「! ……ん」手を伸ばしておでこに触れる。触る直前、なぜか皇羽さんが嬉しそうにまぶたを閉じた。なんだか飼い主に気を許した猫みたい。ちょっと可愛く見えちゃって、彼に触れる指先が脱力した。……あぁダメダメ。私まで気を許しそうになっちゃった。ペシリと、皇羽さんのオデコを軽く叩いた後。「大丈夫ですね」と距離をとる。無意味に一発食らった皇羽さんは、さっきの幸せそうな顔とは打って変わって渋い顔だ。心の中で「ごめんなさい」と謝る。「触った感じは平熱ですね。でも一応は体温計で測らせてください。あと夕方は体温が上がりやすいので、その時にもう一度測りますよ」 「えらく詳しいな?」「自分の体調は自分で管理しないといけなかったので、自然と覚えたんですよ」 「……」私にとっての日常を語ると、皇羽さんは固まってしまった。隠しとけばよかったかな?でも本当のことだし……。母親は、家に帰って来ない日が多々あった。私が病気をしている日も然りだ。最初こそ自分が優先されないことにショックを受けたけど、慣れてしまった今は何も思わない。それに手探りで覚えた渡世術は、こうしてちゃんと役に立

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