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第078話

「わかった。おばあちゃんが理恵の一言を聞いただけで、わざわざ二千万円も払って紗月を俺の側から追い出そうとしたのは、心配してのことだと理解しておく」

「でも」

「おばあちゃん、よく聞いてください。理恵と婚約を解消するつもりだ。紗月がいなくても、二千万円を受け取って去ったとしても、この決定に影響はないぞ」

「だから、無駄な金は使わないで」

そう言って、涼介は立ち上がり、背を向けて歩き出した。

「涼介!」

佐藤夫人は怒りを抑えられず、テーブルの上の茶碗を彼に向かって投げつけた。

「ガシャッ」という音とともに、茶碗は涼介の足元で割れ、お茶がズボンの裾を濡らした。

彼は歩みを止めたが、振り返らなかった。

佐藤夫人は歯を食いしばりながら、「あんた、一体どうしたいの?」と怒鳴った。

「昔、家族全員の反対を押し切って桜井紗月を嫁に迎えたのに、結局彼女は2、3年も子供を産まず、事故で死んだ」

「彼女が死んだ後、家族が紹介した女性はことごとく断って、妹の理恵を婚約者にして、もう5年も経ったのに」

「今さら婚約解消だなんて!」

「次は6年後に結婚するつもり?」

「おばあちゃんはただ、ひ孫を抱きたいだけなのよ、そんなに難しいことなの?」

涼介は淡々と彼女を一瞥し、「ひ孫を抱きたいなら、その願いは叶うよ」

「理恵との婚約は絶対に解消するから、無駄な努力はしないで」

そう言って、彼は大股で歩き去った。

夫人はその場で呆然として怒りに震えた。

ひ孫を抱ける?

どこで叶うのよ!

桜井紗月が亡くなってからこの6年、涼介は一人の女性にも触れたことがなかった。理恵は婚約者を名乗り続けても、涼介のベッドにすら近づけなかった!

こんな状況で、どうやってひ孫を抱けるのよ?

そんなことを考えると、夫人はさらに腹立たしくなった。

隣にいた執事が鏡を差し出して、「お怒りになると、老けやすくなりますよ」と諌めた。

夫人は鏡を見つめ、首にかかっているネックレスに目が留まった。

これは、理恵があのメイドを追い出すために贈ってくれたものだった。

結局、何も解決できず、涼介に警告されたばかりだった!

そんなことを思い出すと、さらに気分が沈んだ。

その後、午前中ずっと不機嫌だった。

昼寝をして少し気分が晴れたが、起きた途端に使用人がドアをノックして知らせた。「夫人、桜
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