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第086話

悠太は事情を聞かず、透也を抱え上げると、そのまま全速力で階段を駆け上がった。

悠太は若くて体力に自信のあるボディガードだ。数分後、透也をしっかり抱えたまま九階に到着した。

九階に着いた瞬間、透也の電話が鳴った。「兄貴、見張るように言った部屋が......火事になった」

「ドアの前に見張りがたくさんいて、俺一人じゃ太刀打ちできそうにないさ。でも、もう消防に通報したよ。次はどうする?」

透也は一瞬、目の前が真っ暗になった。

火災は恐ろしかった。

ドアは見張りに守られ、中では火事が発生していた。今、涼介を探して間に合うだろうか?

透也は決意を固め、病室に向かって全速力で走りながら爽太に命じた。「写真を撮って、ビデオを回して!ドアの前の見張りの顔をすべて記録しておけ!」

今日、何があろうと、あの人たちに代償を払わせるつもりだった!

病室の中。

夫人はベッドの上で涼介に食い下がっていた。「涼介、理由を言わなければ、帰さないよ」

「おばあちゃん、涼介を責めないでください。私のせいなんです......」

理恵は涙を流しながら座っており、ハンカチで涙を拭いていた。

その目には得意げな光が浮かんでいた。

もうすぐ、あっちの火は燃え広がっているはず。

彼女と夫人が涼介を引き留めてさえいれば、ただ十分を経てば、あちらの紗月とあかりはもう息絶えているだろう。

30分も経てば、火葬さえも省ける!

彼女は考えれば考えるほど得意げになり、涙も一層強く溢れ出た。「私には佐藤家の嫁になる資格がありませんわ......」

その涙を見て、涼介の心には何とも言えない苛立ちが芽生えていた。

理恵が紗月に敵意を持って、追い出そうとしていることは理解できた。

だが、これにあまりにも執着しすぎていた。

そして、夫人まで何度も利用した。

ただのメイドに過ぎないのに、そこまでしなければならないのか?

「涼介!」

夫人が涼介を一瞥し、「理恵はこんなに泣いているのに、ハンカチぐらい渡してあげなさいよ」

「婚約を解消するつもりでも、ハンカチを渡すくらいはいいだろう?」

夫人にこう言われ、涼介は黙るしかなかった。

仕方なく、眉をひそめつつハンカチを差し出した。

だが、理恵がそれを受け取る前に、外から騒音が聞こえた。

「バンッ!」と病室のドアが激しく蹴られた。

透也が
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