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第090話

紗月は微笑みながら、看護師に支えられてベッドに戻り、集中治療室を出た。

「そうですね」

看護師はため息をつきながら言った。「佐藤さんが前妻に一途だったって話、最初は嘘かと思ってたんですよ」

「だって、前妻が亡くなってすぐに、その妹と婚約したなんて、どう考えても深い愛情があるとは思えませんよね」

「でも今になって思うと、彼、本当に奥さんを愛してたんですね」

紗月はベッドに寄りかかり、看護師の話を聞きながら、唇の端に冷笑を浮かべた。

たぶん、これが涼介が望んでいた結果だろう。

皆が彼を、桜井紗月を愛してやまない男だと思い込むように。

嘘を何度も繰り返せば、自分でもその嘘に浸ってしまうものだ。

彼は口を開けば、「桜井紗月のことは口に出すな」「彼女を傷つけるな」と言った」

しかし、一番彼女を傷つけたのは、まさに涼介だった。

目を閉じてため息をつき、紗月は頭を上げた。「私、どのくらい昏睡してたの?」

「二日間ですよ」

「最近、誰かお見舞いに来たか?」

「ええ、来ましたよ」

看護師は輸液の調整をしながら答えた。「男の子が一人、お義母さんと一緒に来ましたよ」

そう言いながら、看護師は微笑んで紗月を見た。「あの男の子、すごく可愛かったですよ」

「娘がいたら、絶対あの子に嫁がせたいですね!」

紗月は微笑んだ。「他には?」

「小さな女の子が、ひいおばあさまと一緒に来てましたよ」

看護師は注射針を紗月の腕に差し込んだ。紗月は眉をひそめた。

「その女の子......ひいおばあさまと一緒に?」

「そうですよ」

「そのおばあさま、少し厳しそうに見えましたけど、その子には優しくて、宝物みたいに大事にしてました」

紗月の視界が一瞬暗くなった。

看護師が言っているおばあさまは、佐藤夫人以外に誰がいるだろう?

つまり......

あかりの存在を、佐藤夫人はもう知ってしまったということだ。

そうなれば、佐藤家の他の人々もすぐに知るだろう。

計画が終わったとしても、あかりを連れて行くことはもう難しくなるかもしれない......

紗月が絶望に襲われている時、廊下から小さな女の子の不満げな声が聞こえてきた。「どうしてパパとおばさんを別の病室に分けなきゃいけないの?」

「パパとおばさん、同じ部屋にいてほしいのに!二人一緒に見ちゃダメなの?」

その後
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