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第088話

紗月がこうして優しい、そして彼女を心配する涼介を見られるのは、夢の中だけだった。

彼女は一方的に、何年も何年も愛してきた。しかし、涼介は一度もその愛に応えてくれたことはなかった。

けれど、この夢の中では、彼女は涼介の焦りと深い愛情をはっきりと感じることができた。

「お前は大丈夫だ」

朦朧とした意識の中で、彼の低くて深い声が何度もその言葉を繰り返していた。

彼女は苦笑いを浮かべた。

もし、この夢がずっと続いてくれたら、目覚めなくてもいいのに......

......

紗月が再び目を覚ましたのは、次の日の朝だった。

目を開ける前に、鼻に消毒液の匂いが強く漂ってきた。

彼女は眉をしかめ、やっとのことで目を開け、意識をはっきりさせようとした。

ここは病院だ。

正確に言えば、集中治療室だった。

病室には彼女以外にもう一人がいた。

彼は酸素マスクをつけて、隣のベッドに静かに横たわっていた。

その深い瞳を固く閉じており、鋭い眉に長いまつ毛が印象的だった。

朝の光が窓から差し込み、厳しい顔つきがわずかに柔らかく見えた。

涼介が......

「紗月さん、目が覚めましたね」

入ってきた看護師が驚いた様子で言った。「動かないでくださいね、今すぐ先生を呼んできます!」

「待って」

紗月は眉をひそめ、涼介を指さして聞いた。「彼はどうしたの?」

「ご主人は昨日、火災現場の外で誰かと揉めて、お腹を刺されたんです。それでも火の中に飛び込んで、あなたを抱えて病院まで運んできました」

「出血多量で、傷口が感染し、一酸化炭素中毒になって、今も昏睡状態です」 看護師はため息をついた。

「あなたは目を覚ましましたが、彼の方がずっと状態が悪いんですよ」

「いつ目覚めるかはまだわかりません」

その言葉に、紗月の胸が少し締め付けられるようだった。

なぜ......

彼女は振り向いて、ベッドに横たわるその涼介を見た。

どうして彼は救おうとしたのだろう?

6年前、紗月は涼介の妻だった。しかし、涼介と理恵の愛を妨げたために、涼介に冷酷にも死刑を宣告された。

そして6年後、涼介の家のメイドで、理恵に復讐されていた。それでも彼は火の中に飛び込んで紗月を救った。

今の彼女はそんなに大切なのか、それとも6年前の彼女がそれほど無価値だったのか?

紗月は目を閉じ、心
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