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第077話

「今はまだその時じゃない」

涼介は静かにため息をついた。「あかりはまだ紗月を離すことができない。メイドを変える話は、徐々に進めるべきだ」

白石は涼介の顔を見つめ、眉をひそめた。

あかりだけでなく、今や涼介自身も紗月から離れられないのではないかと思った。

奥様がいなくなってから、この6年間、涼介のそばに女性はいなかった。

もし奥様がまだ生きていなければ、白石は紗月が良い選択肢だと思ったかもしれなかった。

少なくとも、あかりは紗月を気に入っていて、涼介も彼女を嫌っていなかった。

だが今は......

白石は深く息を吸い、ついに我慢できずに口を開いた。「佐藤さん、奥様を探し出さなければなりませんよ」

涼介は顔を上げ、皮肉げな笑みを浮かべて彼を見つめた。「俺に指図してるのか?」

その冷たい視線に、白石は思わず身震いした。

「ああ、もう退勤の時間だね」

そう言うと、白石は急いで部屋を出て行った。

書斎のドアが再び閉じられた。

涼介は再びパソコン画面の写真に目をやり、深いため息をついた。

娘を送り返して姿を消したまま。

桜井紗月、お前は今どこにいる?

元気にしているのか?あの時、なぜ突然姿を消し、事故に遭ったのか?

......

「涼介、どうして急に会いに来たの?」

翌朝、佐藤家の居間で、涼介の前に座っている佐藤夫人がにこやかに彼を見つめて言った。「誰かから何か聞かされたのかしら?」

「もちろんだ」

涼介は淡々と笑いながら、上着のポケットから二千万円の小切手を取り出し、テーブルに置いた。「おばあちゃんは豪気だな」

夫人は小切手を一瞥すると、顔が青ざめた。

涼介が紗月について話に来たことに気づいていたが、紗月が直接小切手を彼に渡すとは思っていなかった。

彼女は苦笑し、「あのね、涼介の近くにいる人だから......」と口にした。

「俺の側にいるただのメイドに、そんな大金は必要ないぞ」

涼介は冷静に彼女を見つめ、冷たい声で言った。「紗月はただのメイドだ。それ以上の存在じゃない。俺にとっても、おばあちゃんにとっても、そこまで重要ではないだろう」

そう言いながら、涼介は小切手を夫人に押し返した。「おばあちゃんの小遣いが余っているなら、慈善活動にでも使ったらどうだ?」

「二度とこんなことをしないでくれ。俺の目を盗んでこういうことをす
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