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第049話

「そうですよ」

白石は頷きながら続けた。「桜井さんと一緒に何年も過ごされましたが、彼女に服を買ったことは一度もありませんでした。でも今日は、わざわざ紗月に服を2着選んで贈られました。

これまで、逆らう者は誰もいなかったし、別荘で佐藤さんに歯向かうメイドは全員解雇されました。

でも、紗月は何度も佐藤さんに逆らったのに、佐藤さんは怒らず、彼女を解雇することもありませんでした。

それから......」

「もういい」

涼介は冷たく唇を引き絞り、白石の言葉を遮った。「これからは、彼女との距離に気をつけるさ」

そう言い終えると、彼は目を閉じ、革張りのシートにもたれかかった。「白石、

これはお前が、私のそばに仕えてきた中で、初めての失敗だぞ。

今回は見逃してやるが、次はないぞ」

白石はほっとして嬉しそうに、「それで、追及はしないんですか?」と尋ねた。

白石が指しているのは、理恵のことだった。

涼介の唇には冷たい笑みが浮かんだ。「俺には俺なりの考えがあるさ」

観覧車での件に関する報告はまだ出ていなかった。今のところ、あかりが観覧車で遭遇した出来事に理恵が関与しているかどうか、断定できなかった。

だが、今日の件をそのまま放っておくわけにはいかなかった。

「でも......」

白石が何か言おうとした瞬間、涼介が鋭い目を開けた。

車内の空気が一気に冷たくなった。

白石は黙り込み、静かにエンジンをかけた。

......

理恵のマンションから青湾別荘に戻ってきた紗月は、ずっと気分が沈んでいた。

それにあかりでも気づいた。

「おばさん、デザート作って!

デザートを食べたら元気になるんだよ!」

リビングでぬいぐるみを抱えたあかりは、澄んだ瞳で紗月の顔を見つめ、控えめな声でお願いした。

紗月は小さくため息をつき、優しくあかりの頭を撫でた。「今、作りに行くね」

そう言ってキッチンに向かい、デザート作りに取りかかった。

忙しくしていれば、気持ちも紛れるはず。

あかりはソファに伏せながら、紗月の様子を見つつ、二人の兄にメッセージを送った。

あかり:「ママ、元気ないよ。誰かママを怒らせたの?」

透也:「たぶん、響也兄ちゃんじゃないかな」

あかり:「なんで?」

透也:「だって、彼が前、サクラ仕事をやって、ママのことを悪く言ったからだよ!」

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