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第057話

紗月は温かいお茶を持って書斎の扉をノックしたとき、涼介は椅子に座って電話をかけていた。

彼女が入ってくると、涼介は冷ややかな視線を向け、そのまま電話の向こうの社員を叱り続けた。

「何年も仕事をしているのに、上司と部下の関係を教える必要があるのか?

機嫌が悪いからといって、俺がその感情に気を遣わないといけないのか?

次に同じことをしたら、解雇になると思え!」

その声を聞きながら、紗月は冷笑した。

表向きは部下を叱っているが、実は紗月に聞かせるために言っているのだ。

今夜だけで、すでに三度目の飲み物の注文だ。

コーヒーからお茶まで、本当にこれほどまでに飲む必要があるとは思えなかった。

唯一の理由は、最近冷たく無視していたことが、涼介のプライドを傷つけたからだろう。

涼介は常に他人に仰ぎ見られる存在だった。

そんな彼が無視されることは耐えられないのだ。

それは紗月を気にしているわけではなく、涼介の生まれ持った誇りが刺激されただけだ。

お茶を置いて、紗月はさっと踵を返し、部屋を出ようとした。

「待て」

ドアノブに手をかけた瞬間、背後から涼介の冷たい声が響いた。

彼女は動きを止めた。

「疲れたよ」

涼介は椅子に背筋を伸ばし、「肩を揉んでくれ」

紗月は振り返らずに答えた。「佐藤さん、私はあかりの専属のメイドだわ。佐藤さんのではないよ。

契約を交わしたときに、佐藤さんははっきり言ったはずだった。この家ではあかりの世話だけをすればいいと。

今夜、佐藤さんにコーヒーやお茶を淹れたのは、サービスでやったことだわ。それに甘えてはいけないよ」

涼介はその一言で言葉を失った。

確かに契約時に、その条件を強調していた。

当時、紗月が何か企んでいるのではないかと警戒していたため、その条項を設けていたのだ。

だからこのような条項は、彼女自身が何者であるかを思い出させるためのものなのだ。

しかし、いざ何かしてもらいたいと思った時、彼女がその契約を持ち出すとは思わなかった。

甘えてるだって?

「おやすみなさい」

紗月は涼介の反応を気にせず、ドアノブを回して部屋を出ていった。

書斎の扉が閉まった。

紗月が去っていく方向をじっと見つめ、閉まったドアを睨みつけて、彼はますます苛立った。

仕事に集中しようとしたが、彼女が言った「甘えてる」という言
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