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第060話

「これからあかりを寝かしつけるわ」

そう言うと、紗月はしゃがんであかりを抱き上げ、涼介を押しのけるようにして歩き出し、別荘へと向かった。

涼介はその場に立ち止まり、眉をひそめたまま、彼女の消えていく後ろ姿をじっと見つめていた。

そして、別荘のドアが閉まるまで、視線を外さなかった。

ドアが完全に閉じられた後も、彼の目には深い陰りが残っていた。

しばらくして、涼介は携帯を取り出し、白石に電話をかけた。「車を用意してくれ」

電話の向こうからは、まだ寝ぼけている白石の声が聞こえてきた。「佐藤さん、もうこんな時間ですよ。どこに行くんですか?」

「会社だ」

白石は驚き、しばらく言葉が出なかった。「今日の仕事はすでに別荘に持ち帰ってるじゃないですか。それなのに、どうしてまた会社へ?」

「後悔したんだ」

涼介の声は冷ややかだった。「なにか文句でもあるのか?」

白石が文句を言えるはずもなかった。

そして、すぐに彼女のベッドから飛び起き、急いで青湾別荘へ向かった。書斎に山積みになっていた書類を車に運び、涼介を会社へ送り届けた。

車の後部座席に座り、車窓を流れる夜景を眺めながら、涼介は眉をひそめた。

なぜか、頭に浮かぶのは紗月の顔ばかり。

その美しさ、そしてさっき、彼がキスをしそうになった時の驚きと怒りが忘れられなかった。

涼介は眉をさらに深くひそめた。

自分がどうしてこんな気持ちになるのか分からなかった。

愛しているのは、桜井紗月という女性のはず。彼の心は、ずっと彼女に捧げてきた。

それなのに、どうして紗月が親しげに電話をしているのを聞いて、怒りがこみ上げてきたのか。

その時の幸せそうな紗月の様子に、理性を失うほど興奮してしまったのか。

どうしたんだ?

他の男と同じように心変わりをするのか......

そんな考えが頭をよぎるたびに、涼介はきつく眉を寄せた。

そんなはずはなかった。

絶対にありえなかった。

彼が桜井を思い続けてきたのは、この5年間ずっとだ。

5年間、理恵を除いても、彼の周りには数えきれないほど美しい女性が現れ、消えていった。

たしかに紗月も美しい。だが、同じように美しい女性はこれまで何人も見てきた。

それでも、どうして紗月だけが、こうした衝動を抱かせるのだろうか。

考えを巡らせるうちに、車はいつの間にか佐藤グルー
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