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第063話

「夕食の時は何ともなかったのに」

中央病院のロビーで、あかりは紗月の手を握りながら、不安げに遠くを見つめていた。「どうして急にお腹の調子が悪くなっちゃったの?」

「たぶん、後から何か他のものを飲んだり食べたりしたんじゃないかしら」紗月は淡々と答えた。

その目は病院の入口に向けられ、眉をひそめた。

涼介が胃を悪くするなんて、どうして?

涼介の胃腸はいつも強く、外で頻繁に飲み会に行っても、胃痛などしたことがなかったはずだ。

たった6年の間で、胃痛が持病になるなんて......

理恵は、彼の世話をどうしていたのかしら?

そんなことを考えていた時、黒いマセラティが病院の正面に止まった。

「パパだ!」

あかりはすぐに紗月の手を離し、小さな足で急いで車の方へ駆け寄っていった。

あかりの焦る姿を見て、紗月の胸に一抹の違和感が広がった。

しばらくしてから、彼女も足を踏み出し、早足で向かった。

白石は運転席から素早く降りて、後部座席のドアを開けながら叫んだ。「紗月さん、手伝って!」

紗月は唇を結び、余計なことを考える暇もなく、白石と一緒に左右から涼介の腕を支え、車から引き出した。

激しい腹痛に涼介の精悍な顔が歪んでいた。

だが、それでも彼は弱々しく車内に声をかけた。「透也、あかりを頼む」

透也。

涼介の口から出たその名前を聞いた瞬間。

紗月の全身が固まった。

彼女は反射的に車内を覗き込んだ。

すると、デニムのオーバーオールに黄色いシャツを着た少年が体を縮め、怯えた様子で紗月に向かって「こんにちは......」と挨拶した。

紗月は思わず息を呑んだ。

もうこんな時間だというのに。

透也はなぜ寝ていない? しかも、どうして涼介と一緒にいるの?

彼女は透也を鋭く睨みつけた後、あかりに目を向けた。「車に戻って、このお兄ちゃんと『じっくり』お話ししてきなさい」

あかりも透也を見つけて、その顔に驚きの色を浮かべた。

「お兄ちゃん、こんにちは」

透也:「......」

涼介が痛みで立っていられなくなりそうな様子を見て、紗月はそれどころではなくなり、白石から車の鍵を奪い、透也に投げ渡してからあかりを車に乗せ、ドアを閉めた。

「いい子にして、ここから動かないで。聞いてるわね?」

その口調は、他人の子供に対するものとは思えないほど厳しかった。

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