共有

第058話

「こんなに長い間会えなくて、もちろん寂しかったよ。一番別れたくないのはあなたなんだから。

もちろん愛してるに決まってるでしょ?何を考えてるの?

もう、わかったから。次会うとき、あなただけのクッキーを作ってあげるから、それでどう?

うん、あなただけのためにね。他の人にはあげないから」

......

涼介は眉をぐっと寄せた。

紗月の声は夜風に乗って、どこか親密で曖昧な響きが混ざっていた。

誰に電話をかけているのか?

相手は男だろうか?

どうりで、最近この女が自分に対して冷たいわけだ。話しかけてもそっけなく、まともに口もきかない。

まさか、新しい相手を見つけたのか?

ずっと自分を狙っていた女が、急に別の男に目を向けたのなら、本来なら喜ぶべきことだろう。

だが、涼介の胸中には全く喜びがなかった。

それどころか、腹立たしさが湧いてきた。

どれくらい時間が経っただろうか。紗月はようやく電話を切った。

彼女は深いため息をついた。

透也のことだ、普段は自力で生活して、料理できない杏奈の世話までしているのに。

電話では「寂しい」と言いながら、クッキーを作ってほしいとせがんできた。

紗月はしばらく慰めてからようやく電話を終えた。

電話をしまって顔を上げた瞬間、彼女の視線は遠くに佇む高くてしっかりとしたシルエットを捉えた。

夜の暗闇の中、明かりがほとんどなかった。

しかし、そのシルエットだけで涼介だと確信できた。

涼介のことなら何もかも知り尽くしていた。

だが、その姿を見たところで、紗月は無視を決め込んだ。

涼介が立っているのは、別荘と庭を繋ぐ通路のところだ。

紗月は彼に関わりたくなかったが、子供部屋に戻るには涼介の横を通らなければならなかった。

彼女はため息をつき、その場をやり過ごそうと涼介を無視して歩き出した。

しかし、涼介のすぐ横を通り過ぎた瞬間、彼は長い腕を伸ばして紗月の手首をしっかりと掴んだ。

次の瞬間、涼介は彼女を石柱と自分の間に押し込んだ。

「さっきの電話、誰だ?」

冷たく凍りつくような目で紗月を見下ろしながら、彼は首を軽く締め上げるように掴んだ。

「佐藤さん」

紗月は冷ややかな笑みを浮かべ、彼より少しだけ見上げて言った。「誰と電話をしようが、佐藤さんには関係ないでしょ?」

「関係ない?」

涼介の眉がわずか
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status