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第056話

紗月は苦笑して首を振り、頭に浮かんだ雑念を追い払った。

涼介が孤独だなんてあり得なかった。

ずっと孤独だったのは、彼女自身だ。

紗月は気持ちを切り替え、あかりのためにお粥を作り続けた。

ふと、金属製のコンロに映った自分の顔に目が留まった。

今の紗月は、顔立ちが整っていて、完璧で欠点が見つからないほど美しかった。

しかし、以前のような幸せはもう感じられなかった。

......

それから数日間、紗月はできる限り涼介の前に姿を現さないようにしていた。

ひとつには、先日の出来事のせいで、涼介に対して無理に熱心な態度を見せることができなかったからだ。

もうひとつは、涼介がすでに彼女と桜井紗月の関係に疑念を抱き始めているため、できるだけ自分の存在を意識させたくなかったからだ。

そうしているうちに、別荘の誰もが紗月が意図的に涼介を避けていることに気づいた。

長年ここで働いている使用人たちは、紗月に対して忠告を始めた。

「紗月、あんたはメイドだってことを忘れちゃいけないよ。佐藤さんに尽くすのが仕事なんだから、いつまでもそんな顔をしてちゃダメだよ

そんな態度じゃ、クビになるのがオチだよ。ここで長年働いてるけど、佐藤さんに顔色をうかがわせるメイドなんて見たことないよ

あかりをあんたしか世話できないと思わないほうがいい......」

......

紗月は、これらの忠告の中に涼介の差し金があるかどうかは分からなかったが、何を言われても変わるつもりはなかった。

あかりは紗月の様子がいつもと違うことに気づき、透也に相談した。

透也の答えはシンプルだった。

「きっと、この前の件でママは渋々気づいたんだよ。あのクズ男と女の関係は簡単に壊せないってね。だから、気持ちが抵抗しちゃって、自暴自棄になってるんじゃない?

大丈夫さ。時間が経てば、また元に戻るよ。女性の気持ちなんて、すぐに変わるものだからさ」

しかし、透也の予想に反して、紗月のその状態は一週間も続いた。

その一週間、彼女は毎日、涼介をまるで空気のように扱った。

必要な会話以外、涼介に対して一言も余計なことを話そうとしなかった。

その従順でそっけない態度が、逆に涼介を苛立たせた。

書斎で書類に目を通している彼の脳裏に浮かぶのは、無表情な紗月の顔ばかり。

一文字も頭に入らなかった。

最近、紗
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